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TITLE:  学校内規における成績規定
AUTHOR: 朝倉 達夫
SOURCE: 大阪高法研ニュース 第148号(1994年11月)
WORDS:  全40字×107行

 

学校内規における成績規定

 

朝 倉 達 夫 

 

  今年5月に日本教育法学会において「成績の評価・進級・卒業の基準と手続き」というテーマで報告させていただいた。これは私にとって身にあまる役割であった。期待に十分応えられたか不安であるが、全国高法研の成果を活用させていただき、現場教員の立場からの「学校現場の教育法問題」を提起できたのではないかと思う。

  さて、その際にも報告したことであるが、今や社会問題ともなっている中途退学の原因に、成績規定が生み出す原級留置きがあるとすれば、その規定を見直し、精査する必要がある。

  大阪府の高校は生徒数の急減といわれながらも、40人学級、最大36学級という不十分な教育環境と、1学区20数校という大学区、単独選抜による輪切り選別が依然として行われている状況である。その中で不本意入学や学習意欲を喪失した生徒が、不登校や中途退学に追い込まれているのである。しかも中途退学の原因として教務内規である成績規定で、しかも適格者主義に基づき切り捨てられているとすれば大きな問題である。

 

1.「成績規定」のどこが問題か

  たとえば、@1科目でも欠点科目があると進級できない規定。A1科目でも欠課時数が規定を超えると進級できない規定。B教科・科目の履修認定時数が厳しい(欠課時数の基準を4分の3以上とする等)規定。C欠点基準が高い(44点以下を欠点とする等)規定。D生徒指導措置と教務措置が混同されている規定(カンニング等にの不正行為があると他のすべての教科の考査点を0点とする、遅刻3回で欠席1日とする等)等々の規定はよく見受けるものである。

  しかし、その中でも特に1科目でも欠点科目があると、進級、卒業を認めないというような、「全部履修・全部修得」の要求は、生徒の能力の多様性や、教師の指導力の問題からも疑問を感じる。理解が遅い生徒、不得手科目を持つ生徒が上位学年に進級したうえで、学習、追認定の機会が与えられることが必要である。このような規定が生みだした原級留置き者が中途退学に流されていくとするならば、規定をつくり、運用している教師集団の責任は重い。

 

2.学校現場はどう対応しているか

  しかしながら、このような問題のある成績規定は幸いなことに、それほど忠実には適用されていない。皮肉にもそれが救いであるといえよう。現場では、規定が作り出す原級留置き、中途退学を減らすために、さまざまな工夫がこらされている。たとえば、@規定の弾力的運用(規定上は1科目でも欠点があれば進級できない場合でも、授業に熱心に取り組んでいると教師が認めた場合は進級を認める。少しくらいの時数オーバーは進級を認めていく等々) A教科および科目担当者の配慮(例えば規定どおりの成績を出すと原級留置きが予測される場合、教科の成績会議や、科目の担当者が配慮した点数を出す等) B特別措置(身体に障害を持つ等明らかにハンディを持つ生徒には別室受験や規定を緩和適用する、留年を重ねている生徒に対し過去の成績、出席を勘案して進級・卒業させる等) C欠点者補充授業と追認定考査の実施(考査前に特別の補充授業をしたり、本考査とほぼ同一の追忍考査問題を出題したり、4月と9月の2回も追認定の機会をつくる等) D教科担当者会議、三者懇談会、欠点者特別課題(学期毎、あるいは学年末、各学年の教科担当者が一堂に会して、欠点を多く持つ生徒の具体名を挙げ、進級が危ぶまれる者の対策を講じる。また、保護者と生徒と担任が教科担当者会議を受けて、奮起を促したり、生徒に危機的状況を認識させる。さらに長期休暇時には特別課題を与え、教科の成績会議における特別配慮の資料にする等)・・・というように、問題のある規定には触れないで、原級留置きを極力抑える努力が行われている。しかしこのような実態と遊離した規定を塗布するだけの弾力的運用や特別措置は、規定をますます有名無実化し、結果的に教師の評価権を損なうことになる。もっともDについては当然おこなわれるべき配慮である。

 

3.望ましい成績規定とは

  一端決まった成績規定は、例外を認めず厳格に適用することが、法的安定性からも要請されるという論もある。しかし生徒のための成績規定という観点に立てば、成績規定の一定の弾力的運用は一概に否定すべきではない。だからといって成績規定はどんなものでもいいということにはならない。規定の内容を生徒も知って、学習の目安や励みにするため、また教師の反省材料にするためにも、下記のようなことがらは考慮されなければならない。@成績規定が本当に個々の生徒の能力向上のために規定されているか。A教師の評価権が確保されているか。B適格者主義に基づく一律主義に陥っていないか。C生徒指導措置との混同がなく、内規として抑制的に、あくまでも基準として運用できるようになっているか。D対外的評価につながるものについては、生徒本人が不利にならないように配慮されているか。E履修と修得の区別が明確にされているか。F履修要件と修得要件が適正に定められているか。

  望ましいという観点からは、本当に成文法としての規定が必要か、規定の存在そのものが教師の評価権を侵害するものではないか等の議論もある。成績、評定が対外表示され、教師集団として行われる以上、規定内容について常に議論、確認していくということを前提に「成績規定」は必要と思う。

 

4.望ましい成績規定案

  「望ましい成績規定」の具体的中身についてはすでに「大阪高法研ニュース」とともにお届けしているので参照願いたい。この案は現任校で最近起こった規定改正の経過を踏まえ、かつ機会があれば改正の提起をすることを念頭においているので、現規定を基本的には下敷きにしている。従って急激な変更は抵抗が大きいとの配慮から、思い切った理想案とまではいっていない。どの学校の「規程」もその学校生徒状況と歴史が反映されている。

ここでは新設校で学力的には平均あるいはそれより低いとされている学校の「望ましい規定」という前提で見ていただきたい。

  第一に留意したことは、規定の精神、あり方を教師集団が確認しあい、条文に明記する必要を提起したことである。校内規定といえども、憲法、教育基本法の精神のもとに定められるべきとした点である。また、教師の評価の基準であるとともに生徒のためのものであると位置づけた点である。

  第二に留意したことは、原級留置きを、学校の指導措置ではなく、「原則として原級において再履修することができる」と表現することによって、生徒の立場からの権利と位置づけたことである。

  第三に留意したことは、単位認定という対外表示や身分に関わる学校決定に関して、聴聞の機会の保障や、不服申し立ての権利を明示したことである。

  その他の事項については前項の「望ましい規定とは」に明らかにしたことがらをできるだけ実現できる方向で表現した。また、成績規定は、特に「伝統校」と称する古い学校においては、成績会議の積み重ねや、確認事項の文章化されたものにすぎないものが多い。形も不揃いで、整合性のとれていないものもある。規定として必要最小限の事項を配列するなど、形式面でも工夫してみた。会員各位のご教示、感想をお聞かせいただきたい。

 

 例会の討議から

  今回は事前にレジメをお届けしたこともあり、鶴保会員からは貴重な資料(成績規定)を提供していただいた。また、松岡会員からは「望ましい成績規定 松岡試案」を当日報告いただいた。紙面の関係で掲載できないが、「成績規定」を教育法制の中でとらえ、しかも生徒の立場にも立った規定という意味でも傾聴すべき試案が提起された。

討議の中で、高校問題の核心ともなっている「中退問題」と関わって、報告で否定的にいわれている「適格者主義」が本当に問題があるのか、「希望者全員入学」という教職員組合などの考え方でいいのか等の意見もだされた。現場では「あるべき高校像」と生徒の実態とのずれに、実践的にも精神的にも問題を投げかけている。

  「望ましい成績規定」についても、様々な角度から批判検討いただいた。聴聞、不服申し立て権については概ね肯定いただいたが、「聴聞」は本来事前に行われるべきものであるところから、実践的にどうなるのかといった貴重な教示をいただいた。

 

 


 

望ましい成績規定(案)

1994.10.29

 

第1章 成績規定の目的

第1条(目的) この規定は憲法、教育基本法の精神に基づき、主権者である生徒個人の成長発達、とりわけ学習能力をより伸長させるための指標となるものであること。したがってその時々における生徒個人の学習到達度の表現であり、教授者の反省材料でもある。

第2章 成績評価

第2条(定期考査) 成績は100点満点で評価する。中間考査または期末考査のいずれか、または両方を欠く者、または停学期間中の者は次のとおりとする。その際、学年平均点を考慮する。

(1) 公欠、忌引、出席停止、病気等本人の責任によらない場合は、他の考査成績を基準にその8〜10割の見込み点をつけることができる。その際、教科会議の承認を必要とする。
(2) 停学期間と定期考査期間が重なった場合は、当該生徒は定期考査を別室で受験することができる。
(3) 定期考査中、カンニング等不正行為のあった時は、当該考査を0点とする。

第3条(学期成績) 成績は100点満点で表記する。このとき下記の点に配慮しなければならない。

(1) 同一科目の履修総人数の平均点が概ね60点となるようにする。
(2) 定期考査、小テスト、作品制作、レポート、実技等できるだけ多くの資料に基づき算定する。
(3) いずれかの学期成績を欠く者の成績は、その学期に最も近い学期成績を基準に前条(1)に準じて算定する。

第4条(学年成績) 学年成績は各学期成績の平均で示し、これに基づいて5段階評定を行う。3学年については必要に応じて仮評定を行う。なお5段階評定は下記基準に基づき各教科会議において評定する。

    評定5・・・80〜100点 → 10%以上
      4・・・65〜79点  → 30%以上
      3・・・45〜64点  → 40%以上
      2・・・40〜44点
      1・・・ 0〜39点

2 3学年の仮評定においては39点以下の者、成績の出ない者の5段階評定値を「2」とする。
3 次の場合には評定を「1」とする。
  ア 欠課時数が計画された授業時数の1/3を越える場合
  イ すべての学期成績を欠く場合

第3章 単位修得の認定

第5条(単位修得の認定) 学年成績の評定が「2」以上の者は所定の単位を認定する

第6条(単位修得の不認定) 学年成績の評定が「1」の者は所定の単位の修得を認定しない。

第7条(分割履修の単位修得の認定) 1科目を2個学年にわたって分割履修する場合は各学年毎に認定する。

第4章 進級・卒業

第8条(進級) 進級に関する事項は進級判定会議において審議し、下記条件を充たす者は進級を認める。

(1) 第1学年にあっては当該学年で履修する科目のうち、単位不認定の科目が4科目未満、かつ不認定科目の総単位数が11単位未満であること。
(2) 第2学年にあっては当該学年で履修する科目のうち、単位不認定である科目の数と前年度以前に履修した科目のうち、単位不認定となっている科目の数との合計が、4科目未満かつ不認定科目の総単位数が11単位未満であること。
(3) 出席すべき日数の2/3以上出席したと認められること。
(4) 各教科・科目において、出席すべき時数の2/3以上出席したと認められること。

第9条(原級留置き) 前条の進級条件を欠く者は原則として原級において再履修することができる。原級で再履修する者は当該学年で履修する教科・科目をすべて再履修するが、すでに修得を認められた教科・科目がある場合は、どちらか良い方の評定の認定を受けることができる。

第10条(卒業) 卒業に関する事項は卒業判定会議において審議し、下記条件を充たす者は卒業を認める。

(1) 第1学年、第2学年、第3学年において履修する教科・科目のうち、修得単位数の合計が80単位以上であること。
(2) 第3学年において、出席すべき日数の2/3以上出席したと認められること。
(3) 各教科・科目において、出席すべき時数の2/3以上出席したと認められること。
2 前項 (1)(2)(3)のいずれかを欠く者は原級に留まり、再履修することができる。この場合、原級において全教科・科目を再履修するが、すでに修得を認められた教科・科目がある場合は、どちらか良い方の評定の認定を受けることができる。
3 卒業を認められた者に対して卒業証書を授与する。

第5章 単位修得の追認定

第11条(追認定考査) 次の条件を充たす者は追認定考査を受けることができる。

(1) 第1学年、第2学年にあっては単位不認定の科目を有し、かつ進級を認められた者。
(2) 第3学年にあっては卒業資格を有する者に限り、卒業判定会議後追認定考査を実施し、全教科・科目の修得の機会を保障する。
2 追認定考査の結果、要求水準に到達できたと成績会議で判定を受けた者は、単位修得が認められる。

第6章 単位認定についての不服申し立て

第12条(不服申し立て) 生徒・保護者は成績判定会議・卒業判定会議の結果に疑問、不服がある場合は、所定の手続きを経て聴聞の機会または異議を申し立てることができる。

第13条(聴聞および追認定) 聴聞、異議を受けて調査、当該会議で審議の結果、認定が適当と判断される場合は追認定を追認定することができる。



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