● セクシャル・ハラスメント・ガイドライン 平成20年3月31日 大阪府教育委員会

--------------------------------------------------------------------------------


セクシャル・ハラスメント・ガイドライン(平成20年度3月改訂)

    教職員による児童・生徒に対する
    セクシュアル・ハラスメント防止のために
    〜 未然防止・子どもの立場にたった適切な対応の指針 〜

大阪府教育委員会
平成20年3月31日


 平成9年6月の「改正男女雇用機会均等法」(注1)を受けて、大阪府教育委員会では、平成11年3月に「教職員による児童・生徒に対するセクシュアル・ハラスメント防止のために」を作成し、基本的な考え方とともに、学校における防止のあり方を示し、未然防止と問題の解決に努めてきた。
 大阪府においては、平成14年4月1日施行の「男女共同参画推進条例」により、セクシュアル・ハラスメント防止のための取組を進め、被害を受けた者に対し必要な支援を行うこととした。
 さらに、大阪府教育委員会では、各市町村教育委員会とも連携し、すべての学校に相談窓口を設置するとともに、防止のための研修を実施し、平成16年度からは第三者の支援を受けて救済・対応する『被害者救済システム』を運用し、適切な対応と未然防止に努めてきた。
 しかしながら、いまだに、教職員による児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメントが起こっている状況にある。
 このような状況を受け、教職員による児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメント未然防止のための校内体制や、子どもの立場にたった適切な対応のあり方等を充実させるため、平成11年度に示した「教職員による児童・生徒に対するセクシュアル・ハラスメント防止のために」を改訂することとした。
(注1)平成11年4月施行、平成19年4月改正


1 基本的な考え方


 学校における教職員による児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメントは、許されない人権侵害事象である。
 教職員による児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメントとは、教職員が児童生徒を不快にさせる「性的な言動」(注2)を行うことをいい、学業を遂行する上で学習意欲の低下や喪失を招くなど、その児童生徒に不利益を与え、就学環境を著しく悪化させるものである。
 教職員による児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメントは、大人と子ども、指導する側と指導される側という力関係が存在するため、受け入れないことが困難な状況にあり、被害が表面化しにくい。児童生徒の心を傷つけ、その後の成長に避けがたい影響を与えるものであり、個人の尊厳や人権を侵害するものである。
 さらに、児童生徒、保護者のみならず社会全体の学校教育に対する信頼を失わせることになる。
 よってセクシュアル・ハラスメントが起こった場合には、処分を含め、厳正な処置が講じられている。
 すべての教職員が、セクシュアル・ハラスメントは許されない行為であることを理解し、教育委員会と学校全体で防止に努めなければならない。

(注2)「性的な言動」について
 性的な関心や欲求に基づく言動をさし、性により役割を分担すべきとする意識に基づく言動も含まれる。例えば、執拗に視線を浴びせる行為、性的発言、身体への不必要な接触、性的な暴行、性による役割分担の強要等がこれにあたる。

 セクシュアル・ハラスメントになり得る言動は、態様によって、(1)性的な内容の発言に関するもの、(2)性的な行動に関するものに類型化できる。さらに、それぞれの類型には、性的な関心、欲求に起因する事例や性により差別しようとする意識に起因する事例、あるいは、それらが複合している事例が見られる。
 また、教職員による児童生徒へのセクシュアル・ハラスメントの中には、自らの行為がセクシュアル・ハラスメントであることにさえ気づいていない事例も見受けられる。この背景には、児童生徒の人権に対する認識が不十分であることや、性差別意識や固定的な性による役割分担意識等、人権意識の希薄さがある。
 この問題に対する理解を深めるためには、何がセクシュアル・ハラスメントになり得るのか、十分に認識する必要があり、具体的事例についての実践的な研修を重ねることが重要である。

(1)性的な内容の発言でのセクシュアル・ハラスメントの事例
・生理を理由に授業等を休む児童生徒に対し、月経周期等を必要以上に質問する。
・ちかんに遭った児童生徒に対し、「短いスカートをはいていたからだ」と被害者にも責任があるような言い方をする。
・容姿や体形などを話題にしたり、揶揄するように言う。
<性による役割の決めつけ等によるもの>
・掃除を怠けていた女子に対し「女子のくせにきちんとしなさい」と言って叱る。
・泣いている男子に対し「男子のくせに泣くな」と言う。
・外見、行動、言葉遣いに対して「女みたい」「男みたい」とからかう。

(2)性的な行動でのセクシュアル・ハラスメントの事例
・指導の際、必要がないのに髪、肩や背中に触れる。
・水泳等の指導で、必要以上にじろじろと見つめ、児童生徒に不快感を与える。
・児童生徒の携帯電話などに、執拗なメールを送る。
・自宅や密室等で児童生徒と二人きりになる。
・児童をひざの上に抱っこしたり、必要以上に身体接触をする。
・ヌードなどの不適切な写真が掲載された雑誌等を学校に持ち込み、児童生徒に見せる。
<性による役割の決めつけ等によるもの>
・女子であるということで、お茶くみや掃除などを強要する。

*「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成16年7月16日施行)」の観点にも留意すること


2 防止について


 セクシュアル・ハラスメントを受けた子どもの心の痛みや深い悩みについて、一人ひとりの教職員が、自らの問題として受け止める感性を身につけ、人権意識を高めることは、児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメントを防止するために最も必要なことである。そして、学校においては、教職員の共通理解を図るため、研修の場を設定するとともに、相手に不快感を与えるような言動に対し、互いに指摘し合える人間関係を構築するよう、日常的に職場環境を整備することが大切である。

<防止にあたっての基本的な観点>
・性に関する言動の受け止め方には個人間や男女間、その人物の立場等により違いがあり、セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては、相手の判断が重要になるため、「親しさの表現」、「励まし」等が動機であっても、相手を不快にさせる場合があることを理解する。
・セクシュアル・ハラスメントであるかどうかは、児童生徒がどう受け止めるかによるが、その際、明確な意思表示が返ってこない場合も多いことを理解する。
・日常生活のあらゆる場面において、児童生徒を一人の人格をもつ個人であるとして対応しているか、固定的な性による役割分担意識がないかどうか、自ら点検する。
・障がいのある児童生徒の指導や介助の方法等に十分留意する。

(1)防止のための校内体制の整備
・未然防止に向け、学校全体としての取組みを推進する校内組織を整備・充実する。
・設置した校内組織において、教職員研修計画及び指導計画等を立案する。
・相談窓口を設置するとともに、男女複数の相談窓口担当者を決め、児童生徒、保護者へさまざまな機会を通じて周知する。

(2)教職員研修
・定期的な研修を行い、教職員の共通理解を深めていく。
・「教職員による児童・生徒に対するセクシュアル・ハラスメントを防止するために、Qa集(平成15年3月)」などを活用する。
・専門的な見識を有する者などを講師として招き、日常的な教育活動を点検し、自らの意識や行動の問題点に気づくことができる研修を行う。

(3)児童生徒に対する教育
・「小・中学校及び府立学校における男女平等教育事例集(平成15年7月)」などを活用し、「子どもの権利」に関わる教育、男女平等教育、性教育等を計画的に実施する。
・「こどもエンパワメント支援指導事例集(平成19年3月改訂)」も活用し、ロールプレイ等、参加体験型の手法を取り入れ、児童生徒自身に、何がセクシュアル・ハラスメントであるかを正しく認識させ、明確に拒否の意思表示ができる力等を育成する。
・校内の相談窓口や「すこやか教育相談」の活用について具体的に周知し、ひとりで抱え込まずに相談することの大切さを伝える。


3 事象が起こった場合の学校の対応について


 学校は、セクシュアル・ハラスメントを受けた児童生徒の立場にたって、被害児童生徒の救済と心のケアを最優先に対応をする。
 被害児童生徒の人権に十分配慮し、校長のリーダーシップのもと、速やかに、組織的な対応を行うとともに、教育委員会に事象について報告し、厳正に対応する。
 また、府教育委員会が運用する『被害者救済システム』の個別事象対応チーム(弁護士、臨床心理士等)の支援を検討する。

(1)相談にあたっての留意事項
・相談は複数で対応し、少なくとも1名は相談者と同性の担当者があたる。
・相談担当者や相談を受けた教職員は、相談者にとって最も適切な解決方法を早期に見出そうとする姿勢を保持する。
・相談に用いる部屋はプライバシーを守ることができるよう配慮し、相談者がゆったりした気持ちで話せる雰囲気を作る。
・相談者の立場にたち、その主張を十分に聴く。
・事実確認は、本人、保護者の意向を踏まえて行う。
・事実関係を的確に把握し、その内容を相談者に確認するとともに必ず記録する。
・同じことを繰り返し聞かない等、相談者の心理的負担を軽くするよう配慮する。
・相談者と相談の対象となっている者を、同席させて話を聞くことのないよう留意する。

(2)被害児童生徒への対応とケア
・被害児童生徒と加害者とされる教職員を分離する。
・被害児童生徒から信頼を得ている教職員(同性が望ましい)がケアにあたる。
・被害児童生徒の状況によって、適切な個別の支援体制をつくる。必要に応じて、専門家からの指導・助言を求める。
・聞き取りによる苦痛や風評、マスコミ報道などによる二次被害を受けることのないよう、最大限の配慮をする。

(3)保護者への対応
・学校の基本姿勢を伝え、誠意ある対応を行う。
・専門家と連携して保護者のケアを行う。

(4)加害者とされる教職員への対応と指導
・被害児童生徒の心の痛みを十分理解できるよう、指導を行う。
・校長は教育委員会と連携し、加害者とされる教職員から事情聴取するとともに、必要に応じ第三者からも情報を収集するなど、問題事象の客観的な把握に努める。
・自らの行為への反省を促し、再発防止について考えさせる。

(5)校内の他の教職員等について
・被害児童生徒の立場にたって最優先に対応することを徹底する。
・情報管理を徹底し、二次被害を防止する。
・被害児童生徒と保護者に十分配慮した問題解決への共通認識を持ち、一致して指導にあたる。

(6)教訓化と再発防止
・事象の要因や背景を分析することにより学校の課題を明らかにする。
・教育委員会と連携して、再発防止に向けて校内研修等の具体的な取組を推進する。
・必要に応じて、保護者等に対して、学校としての再発防止策を説明する。


4 教育委員会の対応


・教職員による児童生徒に対するセクシュアル・ハラスメントの相談窓口である府教育センターの「すこやか教育相談」及び、被害者救済システムの民間連携相談機関である「子ども家庭相談室(子ども情報研究センター)」を児童生徒及び保護者へ周知する。
・学校の相談窓口担当者の資質の向上、未然防止及び男女平等教育の観点での研修を定期的に実施する。
・校長からの報告や「すこやか教育相談」、「民間連携相談機関」からの連絡により、事実関係の把握、被害者の救済、加害者への指導等、問題事象に関わるすべての内容について掌握に努めるとともに、関係各課と当該校の校長と連携を図り、問題の解決にあたる。
・事象の対応にあたり、必要な場合には、「被害者救済システム」の専門家の支援を受けて、子どもの立場にたった対応を行う。
・市町村教育委員会ならびに関係部局と連携を図り、問題解決にあたる。


5 関係資料


・「セクシュアル・ハラスメント防止のために」―障害のある児童・生徒の指導や介助方法における留意点―(平成12年7月通知)

・「児童生徒に対する性的暴力を防止するために」(平成13年12月通知)

・「教職員によるセクシュアル・ハラスメント、体罰等の根絶に向けた緊急対策について」(平成14年7月通知)

・「教職員による児童・生徒に対するセクシュアル・ハラスメントを防止するために Qa集」(http://www.pref.osaka.jp/kyoisityoson/shochu/seitosidou/sekuharaqa.html)(平成15年3月)

・「小・中学校及び府立学校における男女平等教育指導事例集」(http://www.pref.osaka.jp/kyoisityoson/shochu/seitosidou/danjyo.html)(平成15年7月)

・児童生徒等健康診断の実施におけるセクシュアル・ハラスメント等の防止について(平成16年3月改訂)

・児童生徒のための「被害者救済システム」(http://www.pref.osaka.jp/kyoisityoson/shochu/seitosidou/qsystem.html)(平成16年4月)

・教職員による児童生徒へのセクシュアル・ハラスメントを防止するためのリーフレット
 生徒向け(http://www.pref.osaka.jp/kyoisityoson/shochu/seitosidou/Jsh18.doc)
 児童向け(http://www.pref.osaka.jp/kyoisityoson/shochu/seitosidou/Rjh18.doc)(平成18年4月)

・「こどもエンパワメント支援指導事例集」(平成19年3月改訂)






Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会