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TITLE:  PTA会計目的外支出裁判を考える
AUTHOR: 松浦 米子
SOURCE: 大阪高法研ニュース 第119号(1992年6月)
WORDS:  全40字×112行

 

PTA会計目的外支出裁判を考える

 

松 浦 米 子 

 

  この事例は、決算総会で正確な支出報告がなされず、会費の多くが会の目的外に支出され、帳簿の処理上も問題があることを知った会員3名が、当時の会計担当と会長にたいし、目的外に支出された金額を会に返還することを求め大阪簡易裁判所に提訴したものである。2年半の間、数回にわたる証人尋問を経た後、裁判所は原告適格なしとして訴えを却下している。原告はこれを不服とし、訴訟内容を一部追加変更して地裁に控訴したがこれも原判決が支持されて棄却され、現在上告中である。

 

1.PTA会計支出の実態

  小学校でのPTA会計係として、その支出のありかたを問題にしある程度改善を経験してきた原告の一人は、かねてより「中学校はもっとひどい」という噂を聞き、子どもが中学校に入学したことで、中学校PTA会員となり会計に立候補したが実現せず、他の原告2名とともに決算報告書を確認するために、会則にもとづき会計帳簿等を閲覧する中で、PTA会費の多くがPTAの目的外に支出されている実態を知った。5回にわたる閲覧で、不当支出を克明に書き出し、伝票・領収証をコピーすることができた。これをもとに、会長や会計、事実上金銭の支出手続きを行っている教頭および校長にたいして、再三質問し是正を申し入れたが、実効はなかった。

(1) 目的外支出の内容

  総会で承認された予算費目を無視しての流用をはじめ、公費あるいは校長の私費で賄うべきものの肩代わり、過剰な飲食・接待などが目的外支出として挙げられている。

(例)@実際に行われていない事務機の修理代10万円が成人教育委員会費から流用

  A学校行事である転入校長の着任式に、前任校へ出迎えのタクシー代 9,350円、

清酒・鯛・海老など、前任校・PTAへの手土産や記念品代など計 71,670円を需要費 から支出。

  B進路調査費として、教員の寿司代45,000円、タクシー代162,000円、タバコ券

  48,000円、飲食代など約300,000円の支出

  CPTA連絡費から校長の購読新聞代、図書購入費、他校の記念誌代、市議・校医へ  のお礼、警察へのお礼、校長会・教頭会の会費・接待費、校舎建築時の地鎮祭費用等

  D学級委員会費、地域委員会費もほとんどが飲食代に支出

 支出合計約200万円のうち、150万円が不当な支出とされている

(2) 支出の背景

  PTA会費の使途は、その地域性と無関係ではない。このPTAも古くからの居住地にあり、学校と地域の結び付きが強く、手土産を持参して自分たちの学校に校長を貰い受けに行くという意識で、前任校へ迎えに出向くことが慣習になっている。PTA会費による学校後援費の解消の声も届かず、「子どもがお世話になっている学校・先生のために、PTA会費を使うことは美徳」と考えられている地域である(会長証言より)。従ってPTA会費を学校のために支出することや、校長・教頭が実際上会費を自由にできることにたいしても歴代の役員たちは疑問を抱かずにきているのである。

 

2.裁判について

(1) 争点

 1988年9月12日、原告らは、上記@およびAについて、@は修理の事実がないことAはPTA行事に関係ない費用であり、合計 171,670円は違法・不当な支出である。この支出によりPTAは損害を被ったので、当時の会計責任者である会計・会長は会に返還せよ。PTAが返還請求をなすべきところ請求をしないため、共有者の保存行為(民法252条但書)により請求する、と大阪簡裁へ提訴。

  10月16日、被告らは、「PTAは権利能力なき社団であるから、個々の構成員を越えた単一性を有するので、共有とは無縁の存在。会則に代表訴訟の規定がないから当事者適格はない。また、権利能力なき社団の資産は総有であり構成員にその持分がない。252条但書は本件如き代表訴訟を予定したものではない」と反論。

(2) 経過

  11月22日原告側、24日被告側、1989年1月23日原告側の書面を交わし、原告側からはPTA規約、予算書、目的外支出の支出決裁書および領収書を資料として提出。

  2月27日、原告側の申請により成人教育委員長の証人尋問が行われた。委員長は、「成人教育委員会は社会見学、成人講座、映画観賞の企画に15万円支出したが、それ以外の支出については決済していない。期末に予算が余ったので、会長より事務機修理に流用してくれとたのまれて流用した。支出手続きには関与していない」と証言。

  4月12日、原告本人の尋問。「会計の不当支出発見から提訴までの経過。小学校PTAでPTA預金口座の名義を校長から会計に変えさせるなどの改善の経験。中学校PTAで会計に立候補したが、歴代会長OB・校長・教頭から圧力をかけられたこと。会計の支出に関する書類を閲覧して、領収書など手続き上の不備や目的外支出を確認したこと。修理の事実がないのに、事務機修理費として会計年度期限の3月31日付で10万円が支出されていることに関して、校長にたずねたところ「備品の修理費は公費が出ているので、PTAから支出することは悪いことだが、これはコピー機のトナー代だ」と答えたこと。会長はすべて慣例であることを理由に認めている」など、PTAの実態が証言された。

  6月14日、被告会長に尋問。会長の任務、予算にもとづく支出手続き、学校の備品の使用代を成人教育委員会費からの流用について、校長の着任になぜ祝品や手土産がいるのかなどについて尋問があった。会長は、地域の慣習として、礼儀として校長をもらい受けに行く役割をPTAが担っていることを証言。会長は支出の詳細については関与していないことなどが明らかになった。

  10月6日 PTA臨時総会開催。出席者に被告側の弁護士が作成した訴訟の争点を比較した資料が配布され、支出の是非についてアンケートがとられた。その結果、事務機修理費支出については、正当105、不当10、白票12、校長離着任費については、正当99、不当11、白票16であった。原告らは欠席した。

  11月5日、会長に対する反対尋問。原告らの支出追及の行動の強引さが強調され、校長着任式についても殆どのPTAでやっていると証言。事務機修理費はトナーの交換費である、会計の記帳、帳簿の管理はPTA事務員が行っている、などを証言。

  11月5日、原告は教頭を証人申請したが採用されず。

  12月4日、会長の第3回証人尋問。

  1991年2月13日原告側は訴えの根拠に民法423条を加え、損害金を会または原告らに支払うことを求めて、訴えの追加的選択的変更を申し立てた。

  3月、原告に訴えの適格なしとして却下の判決。

  5月13日控訴。10月25日、原判決支持で棄却。12月27日上告、現在に至る。

3.PTA内部問題解決にあたって

(1) 提訴の問題点

 確かに、任意団体の内部問題は自主的に解決することが原則であり、みだりに司法の介入を許してはならないことはいうまでもないが、この事例もPTA会費の使途の問題に触れることなく、門前払いされてしまった。原告自身も後に言っているが、「虚偽の決算報告による総会承認は無効」の主張で提訴できなかったのか。あるいは、市議への贈与、校舎建設に関わる支出、進路調査費として教員への多額のタクシー代など公的なものへの支出を問題にすべきではなかったか。(私の子どもの場合、県外の受験高校の体験入学に進路指導担当教師が日曜日に付き添ってくれたが、日当・交通費が公費で支給されるとしてむしろタクシー代をこちらが負担してもらった経験がある)

(2) 会員の理解を得る運動が不可欠

  反対尋問の中でも被告側弁護士から強調されたように、校長、会長等への追及の方法が強引であったり、会員や地域住民への通知の方法が一方的ではなかったか。一般会員の共感を得る努力が充分なされたか。裁判中に、被告側が臨時総会と称して会員を招集し、出席者だけに支出の当否を問うアンケートを行い、その結果が判決にも影響を与えていることからも、少数者の横暴の印象がなかったとは言えないのではないか。

  会計の基本的手続きに照らしても、使途の内容から言っても、この事例の支出に問題は多い。裁判では棄却されたものの、問題を単位PTAの外へ持出したことが、PTAの共通問題として、一般にPTA会計の実権を握っている学校管理職やそれを黙認しているPTA役員にとって改善のきっかけになれば幸いである。

 

 

 



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