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TITLE:  新勤評反対訴訟について
AUTHOR: 宮本  茂
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第233号(2008年4月)
WORDS:  全40字×120行


新勤評反対訴訟について


宮 本   茂


  標記のテ−マについて2月9日の例会で「新勤評反対訴訟」の事務局の宮本茂氏を招き話をしてもらった。当日の報告に3月30日に開かれた訴訟団主催の集会の内容を若干加味して、当会事務局で文章化した。内容に誤りや表現の不適切なところがあればひとえに当会事務局の責任であることをおことわりしておく。本テ−マについてはニュ−ス207号与田徹「大阪府の評価・育成システムについて」、227号大阪府「教職員評価・育成システム」についての大阪弁護士会意見書、228号「大阪(高槻)における評価・育成システム」も参照されたい。


 1.大阪府の「評価・育成システム」と大阪教組の立場


  大阪府の教員の人事考課制度である「評価・育成システム」は周知のようについに本年度から給与に反映される事になった。大阪教組ニュース2005年9月22日号外はこの評価・育成システムについて、給与に反映させることについて決して認めることはできないとしているが、制度自体については大阪教組と府教委が相当の論議をしてスタートしたものであるとして、自己申告票の提出率が9割を超えるという実績も大阪教組の力だと肯定的に評価しているのである。

  東京都ではいちはやく1999年7月に都教委の内部機関として「教員等人事考課制度導入に関する検討委員会」が発足し、12月には報告書が出された。その内容に沿って都教委は「東京都立学校の人事考課に関する規則」が決定され、2000年の4月に施行された。この制度は教員が年度はじめに自己申告書に年度の達成目標を記入し、それにより管理職が年度末にSABCDの5段階の業績評価を行いその結果を処遇に反映するというものであった。都教委はこの制度について都高教との協議を一方的に拒否して強行した。これはILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」114項の「給与決定を目的とするいかなる勤務評定制度も関係教職員の団体との事前協議およびその承認なくして採用され、適用されないものとする」に明白に抵触している。大阪教組としては東京のように一方的に評価制度を強行実施される事はなんとかして避けたいと考えたようである。この2000年には大阪府でも「教職員の資質向上に関する検討委員会」が発足し教職員の評価制度について検討を始めたが、大阪教組代表もこの委員会に参加し、かなり主導的な役割を果たしている。大阪教組はこの間組合員に対し「評価制度等に関する教職員の総合意識調査」というアンケート調査を行い、また「教職員評価制度研究会」を設置し教職員組合としても評価制度について検討していた。2002年7月には府教委の検討委員会の最終報告が出され、評価制度の試行実施案も示された。この1カ月前に大阪教組の「評価制度研究会」は総合意識調査の最終報告書を出し、「かつての勤評には強く反対してきたが、今回はそのような対応はとれないし、とるべきでもない」と明記し、また「業績評価」と「能力評価」を分離している点で東京の制度よりも優れているなどと府教委案を持ち上げている。この制度では自己申告票の提出率がキーポイントになるが、当時の大阪教組の委員長は自己申告票をもう一方の大手組合である大教組側が出させると思うかという問い対して「大教組もついてくる」と明言していた。実際にその後の流れもそのようになり大教組側が組織的に不提出運動を組むこともなかった。

  大阪教組はこのような立場をとったが、府議会の動きは大阪教組の思惑を超えてさらに進んだ。自民党よりも先に公明党の議員が2004年の10月の府議会で教育長に「評価結果の給与への反映を早急に実施せよという趣旨の質問を行い、2006年度には給与への反映ができるよう取り組みをすすめたいとの答弁を引き出している。この流れに自民党の府議も追随した。府教委は公明党議員らの方向に行こうとし、とりのこされた大阪教組は話が違うという感じで、2004年の12月に新居書記長のインタビュー記事が毎日新聞に載る。その内容は評価システムはとんでもないものだし、まして給与に反映することは絶対にダメだというようなものであった。最初に見た大阪教組ニュース号外が強く給与反映に反対しているのは、ここまで府教委といっしょにこのシステムを作って来た大阪教組としては、公明党との協議で作成された「給与反映への基本的考え方」については認めるわけにはいかないというのがホンネなのである。この後の2005年の12月20日の「給与構造の見直しについて」では再び大阪教組が相手になっており、結局3年単位でローテーションを行なって格差が広がりすぎないようにすることをもって実質は妥結している。それで、大阪教組ニュースの言うように全国の教職員から大きな評価を受けるようなシステムになっているかと言うと、残念ながらそうではない。苦情処理機関に組合が関与することについては認められていないし、格差に配慮といっても勤勉手当は対象外なのである。さらに大阪のシステムは自己申告票を出さないものに対しては東京よりも厳しく、最初の年は3号だけ昇給するがそれ以後は一切昇給なしという極端な形をとっている。大阪教組も申告票不提出者については能力評価で昇給を行なえと要求したが、府教委はこれを蹴って不提出者は「総合評価なし」となるとしている。


 2.自己申告票不提出運動への動き


  話は前に戻るが、2002年の7月に検討委員会の最終報告が出され、それから2週間もしないうちに試行実施の素案が出ている。7月22日に高教組の分会代表者会議が開かれ、この段階で一般組合員にも評価育成システムの問題が見えてくるのである。大阪教組が評価育成システムに関与していた事はまだこの段階では知らなかったのであるが、高教組執行部はきっと反対運動をしないだろうと考えて、23日に高教組の反対派が7人集まって有志の会を開いた。その時に方針がきちっとまとまったわけではないが、高教組に臨時大会を開かせ申告票不提出の方針を出させること等を話し合った。高教組は1割に満たない組織ではあるが、組織として不提出運動に取り組めば評価システムをつぶすことができると考えたのである。しかし1カ月後に再び有志の会を開いたが、集まったのはわずか3人だけであった。とにかくやるだけやろうということになって、11月11日から臨時大会要求の署名活動を始めた。臨時大会開催には5分の1以上の署名が必要であるが、なんとか署名を集めきり12月14日に高教組臨時大会が開催させる事ができた。この臨時大会では申告票不提出の方針は105人中の37人で否決されてしまった。しかし、ある分会から出た「自己申告票不提出者に最大の支援を行なう」という修正案を本部が受け入れた上で「自己申告票について統一的な対応はとらない」という本部原案が105人中の59人でかろうじて可決された。執行部も票読みをしてこの修正案を受け入れなければ、本部原案すら通らないと考えたのだろう。結局、自己申告票について高教組は統一的な対応はとらないが、不提出者には最大の支援を行なうという方針が確定したのである。


 3.「新勤評反対訴訟」の経過


  さて、2006年の5月の段階ではもうすでに大阪教組は上記のように給与反映についても妥結していたが、この年の高教組の定期大会では「自己申告票未提出の組合員を集め、意見交換の場を設ける」「未提出者の不利益に対して、法的措置をも含めた対抗措置を検討する」という修正案が過去最高の40%以上の支持を得る。私(宮本)としては、この支持をふまえて組合を軸にした戦いを組んでいこうと考えたが、仲間のI氏は裁判闘争の方針を打ち出した。私は正直言ってあまり乗り気でなかったが、I氏の決意は固くついに裁判をする事になった。原告が2ケタも集まるのかと考えていたが、高教組の組合員を中心に呼び掛けたのだが、なんと高教組から24名義務制の大阪教組から5名の原告団への参加があった。計29名の原告を得て10月に訴訟団結成総会を行い、11月に第1次提訴を行なった。ここに新勤評反対裁判闘争が始まったわけである。2007年の3月16日には大阪府下の5万の教職員に向けて直接リーフレットを発送した。高教組との関係は保ちながら、全教職員に裁判への参加・支持を訴えたのである。その結果新たに組織を越えて未組合員も含め58人の原告が参加し、5月に第2次提訴を行なった。12月には9名で第3次提訴を行っており、教育合同の方の裁判と合わせて150名の原告と千名の申告票不提出者を数えている。私は本裁判の詳細は解説できる立場にはないが、裁判は2008年2月19日までに8回の審理が開かれており、次回の第9回法廷は5月8日の予定である。請求の趣旨は、当初「自己申告票の提出義務の不存在の確認と自己申告票の不提出を不利益に評価されない事等の確認の2点だけだったが、これだけだと却下されてしまう可能性が強いので、既に不利益を受けている勤勉手当分について未払い分の金銭と慰謝料の請求を付け加えている。この裁判の中で、校長に府教委が報告させた評価システムの実施状況に関する調査を情報公開させたが、その内容を見れば現場の校長が本当に困っていることは明白である。またこの間、裁判官の方が「業績評価がなければ総合評価はできないのか」「不提出者の業績評価を最低で評価せず白紙にするのはなぜか」「能力評価80点、業績評価を0点でも平均は40点になるのに、なぜ平均ゼロになるのか、業績をマイナス点とするのか」と府教委側に質したが、府教委は答えられなかった。これほどまでに、大阪教組と対立してまで府教委が不提出者に苛酷にあたるのは、実は府教委の強さではなく不安の現れだと思う。したがって、私としては悲壮な覚悟の150名の原告の負担に頼るのではなく、心ある人が高教組でも府高教でもいいので1年だけ申告票を出さないという方針を組織として出させる、そういう世論を形成できればこのシステムをつぶす事は可能だと考えている。今回の5月の定期大会が山場になると思っている。

(大阪では通常、日教組系の組織を「高教組」「大阪教組」と略称し、全教系組織を「府高教」「大教組」と略称している。「教育合同」は独立系の組織である。)







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