◆202006KHK249A1L0625M
TITLE:  注目の教育裁判例(2020年暫定版)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 2020年6月1日
WORDS:  全40字×625行


注目の教育裁判例(2020年暫定版)



羽 山 健 一



  ここでは、公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から、先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。

判例タイムズ 1466号−
判例時報   2424号−
労働判例   1211号−
裁判所web   2019.12.25−



  1. 岐阜県立高校女子駅伝部いじめ事件 ―― 顧問による不適切な言動
    岐阜地裁 平成31年3月29日判決

  2. 佐賀県立高校教員うつ病事件 ―― 学校だよりに病気休暇を公表
    佐賀地裁 平成31年4月26日判決

  3. 大阪府立高校教諭停職処分・指導改善研修命令事件 ―― 研修期間中のパワハラ
    大阪地裁 令和元年5月27日判決

  4. 若狭町立中学校新任教諭自殺事件 ―― 教員の過労自殺と校長の責任
    福井地裁 令和元年7月10日判決

  5. 福知山市立中学校いじめ事件 ―― いじめと統合失調症との因果関係
    京都地裁 令和元年7月18日判決





◆岐阜県立高校女子駅伝部いじめ事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】岐阜地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第140号
【年月日】平成31年3月29日
【結 果】一部認容
【経 過】
【出 典】ウエストロー・ジャパン 2019WLJPCA03296010


事案の概要:

本件は、被告(岐阜県)の設置する県立高等学校の1年生であった原告が、(1)本件高校の女子駅伝部の顧問教員が原告に対し不適切な指導を行ったこと、他の女子駅伝部の部員に対する指導を怠って原告に対するいじめを放置する等したこと及び、(2)本件高校の校長が女子駅伝部の顧問教員に対する指導を怠ったこと、原告に対するいじめの調査を十分に行わなかったことを主張し、これらによって原告が女子駅伝部の部活動に参加することができなくなり、本件高校の転校を余儀なくされる等して精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、慰謝料等の支払いを求める事案である。判決は、顧問教員の指導の一部に行き過ぎがあったことを認め、県に約30万円の支払いを命じた。


認定事実:

原告は中学生時代に県代表に選ばれる実績をもち、駅伝に実績のある本件高校を志願して、平成27年4月に、本件高校に入学し、女子駅伝部に入部した。

E顧問は、平成27年8月29日、部員のIから、チーム内で原告の言動により辛い思いをいている生徒や困っている生徒が多くいるという話を聞いたため、部員全体に対して注意をした。

E顧問は、9月1日、部員全員に対し、一人ひとりの個人面談を行ったところ、原告以外の15人の部員全員から、原告の周りのことを考えない発言、言動についての話があった。具体的には、怪我で走れず腹筋運動等を行っていた部員が、原告から「家でやれ」と言われたこと、原告が良い成績を出した生徒に関し「気に入らない、むかつく、うざい、潰してやる」と言ったこと、1年生の部員に対し「顔がきたない。」と述べたこと等の話であった。他方で、原告は「いじめられているということは何もない」と述べていた。

E顧問は、面談が終わった後、原告を再度呼び出して、原告に対し、他の部員の話にあった原告の言動について確認したところ、原告は、いずれも「覚えていない」、「知らない」と答えた。そこでE顧問は原告に対し、「何様のつもりだ」、「父親が警察だからといって俺をなめるな」、「謝罪しないなら俺は辞める」と述べた上で、他の部員に対して謝罪することを求めた(本件個別指導)。これを受けて原告は、自分の不適切な言動を認めることはなかったが、他の部員全員に対し、迷惑をかけたことについて謝罪した。E顧問は同日、原告及び原告の父母に対し、原告を1か月間、部の活動に参加させない旨を伝えた(本件部活動停止措置)。

原告の父らは、学校生活の環境改善を求める書面を作成し、9月9日、校長室に赴き、校長に対し本件部活動停止措置について抗議した。これを受けて、校長はE顧問に対し、原告の指導方法を元に戻すよう勧告した。E顧問は、9月11日、原告を部活動に復帰させた。この日、原告のいない部室内において、部員らが「なんでおるの」「X]「調子こいとるなぁ、あいつ、死ねばいいのに」などと話した。原告はこの会話を録音していた。

9月22日、部活動の最中に、1年生部員のバッグに入れていたカロリーメイトがなくなる事件があり、後にそれが原告のかばんの中に入っているのが見つかった。原告の母は、他の部員による原告への集団いじめが行われていると考え、E顧問に対して、原告のかばんの中のカロリーメイトは誰かに入れられたものであり、このようないじめは許されない旨伝えた(カロリーメイト事件)。

原告の父らは9月28日、校長室を訪れ、原告の環境が改善されていないことを抗議し、原告が転校を希望している旨伝えた。E顧問及び生徒指導部の職員は、部員に対し聞き取り調査や記述式の調査を行ったが、カロリーメイトが原告のかばんに入っていた経緯を特定することはできず、また、原告に対するいじめの事実も認められなかった。

原告は9月26日を最後に部活動に参加しなくなり、12月には欠席が多くなり、平成28年1月8日以降は全日欠席した。原告はL高等学校の入学試験に合格し、2月13日付けで、本件高校に退学届けを提出した。


判決の要旨:

(1)本件個別指導について
E顧問の言動は、大きな声で、感情的に問い詰めるようになされたものであり、本件個別指導の中で、原告に不適切な言動があったことを決め付け、それを認めない原告に対し、その父親の職業を持ち出して罵倒し、謝罪を強要するなどした指導の内容は行きすぎであり、社会通念に照らし、許された限度を超えた違法なものといえる。

(2)本件部活動停止措置について、
本件部活動停止措置は、原告による不適切な言動があったとされた中で、原告がそれを認めなかったことから、原告に反省を促すためになされたものであったと考えられる。E顧問としてはより慎重に確認した上で対応すべきであったこと、(部活動停止の)以前に、原告に対し不適切な言動についての指導がされていないこと、原告にとって非常に厳しいものであることを踏まえると、本件部活動停止措置は、原告に対する教育的配慮を欠いた重い措置であると認められ、違法なものといえる。

(3)カロリーメイト事件に関するE顧問の責任について
カロリーメイト事件が、部員の一部による嫌がらせであるとしても、E顧問がこのような事件の発生を認識し、それに対する指導ができたとは認められないから、E顧問に注意義務違反があるとはいえない。

(4)いじめ調査等に関する校長の責任について
いじめに関する調査は、関係者からの聞き取りが中心となるところ、校長は、E顧問及びF顧問、生徒指導部の教員をして、部員に対する聞き取り等を行わせた上、専門家である第三者委員の参加するいじめ防止対策委員会を開催し、原告をめぐるいじめに関する調査、御論を行い、相応の調査を行ったものといえる。


コメント:

部員がE顧問に報告した原告の不適切な言動について、原告自身はその言動を一切認めていない。判決は、その報告のすべてが虚偽であるということはできないとしながらも、原告にいかなる不適切な言動があったかを確定することはできていない。また、カロリーメイト事件についても、判決は、具体的に誰が何の目的をもって行ったかは明らかでないとしている。もはや裁判に至っても、物事の真相は不明なままである。このことは、いじめ事件における、事実確認、真相究明の困難さを物語っている。学校の教員が行う聞き取り調査や事実確認についても、たとえそれが事件直後に行われるものであったとしても、同様に困難をともなう作業であるといえよう。







◆佐賀県立高校教員うつ病事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】佐賀地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第257号
【年月日】平成31年4月26日
【結 果】一部認容
【経 過】二審福岡高裁令和元年11月27日判決(棄却)
【出 典】ウエストロー・ジャパン2019WLJPCA04266003


事案の概要:

本件は、佐賀県の県立高等学校の教員である原告が、被告(佐賀県)に対し、(1)長距離・長時間の通勤及び過重な職務により、不眠症及び自律神経失調症並びに不安神経症となり、その後、うつ病及び適応障害となったとして、安全配慮義務違反に基づき、損害金の支払を求めるとともに、(2)学校だよりに原告の病気休暇が公表され、ウェブサイト上でも閲覧可能になったことにより、プライバシーを侵害されたとして、慰謝料等の支払を求める事案である。判決は、過重労働は認めず請求を棄却し、プライバシー侵害については県に10万円の支払いを命じた。


認定事実:

平成16年度から平成18年度のX3高校勤務時、原告の通勤距離は片道約61.8km、通勤時間は、自家用車で約1時間30分〜2時間であった。原告は、平成18年12月、医院を受診し、突然右目から涙が出続けたと話すとともに、通勤時間が長い、時間外勤務が多い、布団に入っても眠れないなどと不安感を訴え、不眠症、自律神経失調症と診断された。原告は、たびたびX1高校への異動を希望したが、なかなか実現しなかった。

平成19年度から平成21年度のX2高校勤務時、原告の通勤距離は片道約34.8km、通勤時間は約1時間であった。原告は、平成19年4月にうつ状態、平成20年4月には不眠症、不安症と診断された。

平成22年度から平成24年度のX1高校勤務時、原告の通勤距離は片道約16kmであった。原告は、平成23年1月にうつ病と診断を受けたことから、同年2月1日から5月1日まで病気休暇を取得し、続いて、同年5月2日から平成25年1月27日まで病気休職となった。同月28日に復職した。

X1高校では「X1だより」を作成し生徒に配布しているところ、平成23年4月号の「X1だより」の転出者欄において、原告について「病気休暇」と記載した。「X1だより」は、平成24年8月、同校のウェブサイトに掲載され、平成25年1月に削除された。


判決の要旨:

(1)安全配慮義務違反について
通勤は職務に従事するための準備行為であり、通勤時間中は上司の監督下にあるわけではない。通勤による心理的負荷を、職務による心理的負荷として考慮することはできない。原告の職務内容が精神障害を発病させるほどに過重であったとは認められない。

地方公共団体の職員に対する安全配慮義務は、地方公共団体が支配・管理する場面における義務であるところ、通勤がこれに含まれるとはいえない。転任先における職務に従事するため、どこに居住し、どのような手段で通勤するかは、個人のライフスタイルの問題であって、職員が自ら自由に決すべき事柄である。原告は、子育てに関する妻の負担の増加を避けるとともに、家族は一緒に住まなくてはいけないと考えて単身赴任をしなかったというのであるから、自らの判断で通勤の負担を解消・軽減しなかったというほかなく、被告において、これを解消・軽減する義務を負うとは認められない。

(2)プライバシー侵害について
本件掲載は、原告が病気休暇を取得していることを不特定多数人に明らかにする行為であるところ、個人の健康状態、心身の状況、病歴等に関する情報は、通常は他人に知られたくない情報である。したがって、本人の同意を得ることなく、これをみだりに公表することは許されない。

原告が病気休暇であることが記載されたのは、「X1だより」の転出者欄であるところ、原告は、このとき転出者ではなかったから、掲載の必要性も認められない。また、広範囲の人が閲覧可能なウェブサイトにこれを掲載する必要性も認められない。

本件掲載により、原告の病気休暇が公表されたものの、病気の詳細は明らかにされていない。「X1だより」の配布先は当時の生徒であり、ウェブサイトに掲載されたのは5か月弱である。学校のウェブサイトを閲覧する者の多くは、生徒、保護者、教職員などの学校関係者であるのが通常である。これらの事情を踏まえると原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は、10万円と認める。


コメント:

一審判決に対し、原告は長距離通勤や長時間勤務を軽減しなかった、学校の安全配慮義務違反が認められなかったことを不服として控訴し、また県は、教職員の病気休暇を学校だよりに載せることは、社会的に受任される範囲を超えているとは言えないとして控訴した。控訴審判決は、「教職員の人事情報は一定の範囲の生徒、保護者に対して開示すべき必要性があることは否定できない」としたものの、「少なくとも本件は必要性を認めるに足りない」とし、また、学校の安全配慮義務違反は認められないとして、一審判決を支持し、双方の控訴を棄却した。







◆大阪府立高校教諭停職処分・指導改善研修命令事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】大阪地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第8399号
【年月日】令和元年5月27日
【結 果】一部認容・一部棄却
【経 過】
【出 典】ウエストロー・ジャパン 2019WLJPCA05278002


事案の概要:

本件は、大阪府立高等学校の教諭であった原告が、(1)同校校長の原告に対する成績評価、大阪府教育委員会(府教委)の原告に対する停職処分及び指導改善研修命令等について、いずれも裁量権を逸脱又は濫用する違法なものであったこと、(2)研修担当者らが、研修期間中、原告に対して違法なパワー・ハラスメント行為を行ったことを理由として、これらの各行為によって被った経済的損害、精神的損害等の賠償金の支払を求める事案である。判決は、研修中の室長の一部発言に違法性が認められるとして、大阪府に6万円の支払いを命じるとともに、その余の請求を棄却した。


認定事実:

(1)大阪府立学校の教員に対する評価は業績評価及び能力評価並びにそれらの結果に基づく総合評価で行っている。各評価は、最上位評価のSS、S、A、B、最下位評価のCという5段階に区分されている。原告に対する、平成23年度から平成25年度の総合評価は、いずれもB評価であった。

(2)喫煙を理由に2度の停学処分を受けていた生徒Eが、再び喫煙をしたことが発覚したところ、原告は、平成26年1月24日、午後11時頃にEの自宅を訪問した上で、Eの左頬を平手で1回叩き、胸ぐらを両手でつかんで数回ゆさぶり、「何を考えてんねん」、「俺がどれだけお前のことを考えているのか分かっているのか」などと泣いて叫んだ。その後、原告は、Eの母親と共に、翌25日午前3時頃まで説経を続けた。

府教委は平成26年7月18日、原告に対して1か月の停職処分を行った。処分理由は生徒Eに対して体罰を行ったこと、E宅において深夜3時まで説経を行ったこと、校長から指導を受けていたにもかかわらず、生徒に対し粗暴な言葉で応対し大声で恫喝することがあったこと等とされている。

(3)府教委は平成26年8月28日、原告に対し、教特法25条の2第1項に基づき、「指導が不適切である」として指導改善研修命令を命じた。研修計画書によれば、この研修は第1段階として、体罰による被害者の心情を理解し、体罰事象を引き起こした原因について内省を深めることなどを目標として、授業演習、自己研修課題発表、事例研究、アンガーマネジメントなどを行う。第2段階として、学習指導や生徒指導の課題を認識し、基本的な指導方法を身に付けることなどを目標とした授業演習、事例研究、プレゼンテーションを行うこととしていた。この研修は3度にわたり延長され、結局平成28年3月31日まで続けられた。

(4)この研修は、大阪府教育センターで行われ、研修を担当したのは、同センター学校経営研究室の室長、主任指導主事、資質向上指導員などであった。原告は、研修期間中の担当者らの発言について、研修目的にまったく関係のないもの、無理な回答を強いるもの、独自の見解を執拗に押し付けるもの、単に怒りの感情をぶつけるもの、殊更原告を非難し侮辱するもの、原告の教員としての尊厳を傷つけ、多大な苦痛を与えるものなどが含まれており、これらはパワハラ等の不法行為に当たると主張した。


判決の要旨:

(1)教員評価について
原告は、授業アンケートの結果、高い評価を得ていたことをもって本件評価の違法を主張するが、授業アンケートの内容は、授業を受けた生徒らの受け止め方を回答したものであって、専門的な指導技術等を問うものではない。校長は、授業アンケートの結果を一切考慮しなかったというのではなく、授業アンケートの結果を踏まえて、自ら授業観察を行った上で、原告の授業力に対する評価を行ったと認められる。したがって、校長の評価は裁量を逸脱したものとはいえない。

(2)停職処分について
原告の生徒Eに対する行為は、身体に対する侵害を内容とするものであること、同行為がたとえEに対して生活態度を改めるよう自覚させるという目的を達成するためのものであったしても、これを用いるべき必要性は認められないことに鑑みれば、学校教育法11条にいう「体罰」該当する。本件停職処分は、大阪府の「職員の懲戒に関する条例」における標準的な懲戒処分の種類の中で、選択可能な幅の中から選択されたものであり、懲戒権者が懲戒権を逸脱したものとはいえない。

(3)研修命令・延長命令について
本件評価及び本件停職処分は適法であり、原告に対し、必要な研修を受けるよう命じること自体は、何ら違法ではない。府教委は、研修の結果、原告について指導力改善に課題があることを指摘しており、本件延長命令はいずれも、裁量権を逸脱したものではない。

(4)研修期間中の原告に対する発言について
G室長は、平成28年2月10日、原告との面談中、原告の発言内容や態度が引き金となり、声を荒げ、「謝るなり何なり何かしてくれよ。俺ちょっと今一瞬プチッときたで」などと述べて、原告に対し謝罪を求める内容の言動を行った。

G室長が、原告に対し、声を荒げて発言をするという必要性があったとはいえず、その発言内容についても適切さを欠いていると認められること、G室長は、同研修を差配し、原告に対し指導する立場にあったことを総合的に勘案すると、同言動は、教育的手段であるか否かにかかわらず、相当性を欠いており、国賠法上違法である。そのほかの点については、違法と評価することはできない。G室長の同言動による原告の慰謝料は、5万円をもって相当であると認められる。


コメント:

本件事例のように、指導改善研修の場面では、研修を受ける者は、不安定な立場に置かれ、不安な心理状態に陥るため、パワハラをめぐる紛争が起こりやすいといえる。原告の場合も、学校現場から隔離され、研修期間が複数回延長され、いつ研修が終わるか予想できない状況が続き、自尊心が傷つけられ精神的に大きなストレスを受けている。

原告は研修担当者による次のような言動がパワハラに当たると主張している。(a)課題を見つけるためには「自分の今までの全てを捨てる覚悟」が必要。(b)「生まれ変わるつもりで考えなあかん」、(c)原告が「E君の家庭訪問に行ったのは、何とかしたいからです」と言ったのに対し、担当者は「ほんまに思っている人は、即答はしない、深く考えていないということや」と述べた。(d)「幼いね、幼い大人が教師をしているって感じ」、(e)「正しいことは言うけども評論家になっている」、(f)「先生の意見は行き当たりばったりや」。原告はこうした多くの言動を人格攻撃や侮辱であると受け止め、パワハラに当たると主張したが、裁判所は、前述の判決の要旨(4)の1件を除いて、そのほとんどの言動を研修目的に沿った適法なものであるとした。

研修中のパワハラが争われた事例として、鹿児島地裁平成26年3月12日判決がある。これは、市立中学校の教諭が研修期間中に自殺したのは校長らによるパワーハラスメントなどにより精神障害を増悪等させたためであるとして損害賠償を求めた事案である。同事件の判決は、校長や教育委員会らが行った行為と教諭の精神疾患の憎悪および自殺との間の相当因果関係を肯定し、校長らの安全配慮義務違反を認めた。

パワーハラスメント防止を企業に義務付ける労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止法)が2020年6月に施行される。同法は公務員に対して直接に適用されるものではないが、公立学校教員に対しても、相談体制の整備等が進められると考えられる。







◆若狭町立中学校新任教諭自殺事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】福井地裁判決
【事件番号】平成29年(ワ)第37号
【年月日】令和元年7月10日
【結 果】一部認容
【経 過】
【出 典】ウエストロー・ジャパン2019WLJPCA07106001


事案の概要:

本件中学校教員として勤務していた亡Cの父である原告が、亡Cは中学校における長時間労働等の過重な業務により何らかの精神疾患を発症して正常な判断ができない状態で自殺するに至ったのであり、中学校の校長には、安全配慮義務を怠って、業務の量を適切に調整するなどの勤務時間を軽減する措置や新任教員への配慮をしなかった過失があると主張して、本件中学校の設置主体である被告町と、同中学校の校長の費用負担者である被告県に対して、1億0131万3430円等の連帯支払を求めた事案。本件自殺の公務起因性については、既に公務災害と認定されていたので、本件では校長の安全配慮義務違反の有無が争われた。判決は、校長の安全配慮義務違反を認め、約6500万円の賠償を命じた。


認定事実:

亡Cは平成26年4月1日から正規教員として勤務したが、同年10月7日に自殺した。この間、亡Cは、所定勤務時間外に、4月は158時間、5月は128時間、6月は157時間、7月は119時間、8月は53時間、9月は169時間、10月は32時間の間、本件学校に在校していたか、校外の部活動に従事していた(分以下省略)。

亡Cは、学級担任、社会科・体育の授業、交通安全指導係、野球部の副顧問を担当していた。担任学級では、道徳や総合の授業、朝の読書指導、給食指導、清掃指導等を担当した。亡Cの担当する授業時間は週18時間程度であった。亡Cには、教職1年目として初任者研修が義務付けられていた。初任者研修のうち、校外研修は年間14日間以上、校内研修は年間180時間以上実施するとされていた。

本件校長は、4月分のセキュリティ記録を見た際、亡Cに長時間残っている理由を確認したところ、授業の準備をしていると回答されたことから、仕事の優先順位を決めて退校時間を早くするように求めていた。加えて、校長は、亡Cに関する初任者研修について指導者からの報告を受けていたところ、5月以降、教師主導の一問一答式の授業から生徒中心の「学び合い」の授業への転換をたびたび指導されているが十分な実現に至っていないことや、その日その日で、いっぱいいっぱいなのが伝わることなどが報告されていた。
校長は、長時間にわたり亡Cが在校していたことを認識し、亡Cに対する定期面談などで早く帰宅するよう指導は行っていたものの、亡Cの業務内容を変更することはなかった。

亡Cは日記をつけていたが、その中には「授業の準備が追いつかず、時間もなく、眠るのが怖い。」、「余裕のない自分に涙が止まらなかった。これからも、自分がやっていけるのかわからなくなった。」「にしても息つく暇もないこの日々はいつ終わる?」などと記載されていた。


判決の要旨:

(1)校長の安全配慮義務違反について
地方公共団体が設置する中学校の校長は自己の監督する教員が、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)を負う。

明示的な勤務命令はないが、業務内容や亡Cの経験年数からすれば、亡Cは、これらの事務を所定勤務時間外に行わざるを得なかったものと認められ、自主的に従事していたとはいえないから、事実上、本件校長の指揮監督下において行っていたものと認められる。明示的な勤務命令がなかったことは、校長の安全配慮義務に消長をきたすことはない。

本件校長は、遅くとも9月までには、亡Cの所定勤務時間外の業務が、亡Cの心身の健康状態を悪化させ得るものであったことを認識可能であったと認められる。それにもかかわらず、校長は、亡Cに対し、早期帰宅を促す等の口頭指導をするにとどまり、業務内容変更などの措置をとらなかったのであるから、校長は、亡Cに対する安全配慮義務の履行を怠ったものといわざるを得ない。

(2)校長の安全配慮義務違反と亡Cの死亡との間の相当因果関係について
亡Cは業務の過重性に起因する何らかの精神疾患を発症し、これにより自殺に至ったことが認められ、業務の過重性は校長の安全配慮義務違反によりもたらされたものであるから、同義務違反と亡Cの死亡との間に相当因果関係が認められる。

(3)過失相殺について
被告らは、亡Cが、メンタルヘルスの相談を利用していなかったこと等を指摘し、過失相殺をすべきであると主張するが、被告らが設けていたメンタルヘルス対策制度は、一般的なものにとどまる上、亡Cの勤務状況に鑑みれば、本人からの積極的な利用が期待できたともいえないから、同制度を利用しなかったことに過失があるとは認められない。


コメント:

本判決は、校長の責任について、教員が所定勤務時間外にも勤務を行わざるを得ない労働状況にあり、校長がこうした状況を認識していながら、人手を増やしたり、仕事を減らすことなく、ただ単に「要領よく仕事を済ませて早く帰りなさい」と言うだけでは、安全配慮義務を果たしたことにならないという判断を示した点で注目される。

一般に公立学校の教員は、「公立の義務教育諸学校等の教員職員の給与等に関する特別措置法」(「給特法」)の適用を受けるため、次のとおり、時間外労働、休日労働および割増賃金につき、一般の労働者とは異なる制度が適用されている。
(1)教員には給料月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給する。
(2)教員には時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しない。
(3)教員には原則として時間外勤務をさせないものとし、させる場合は、政令に定める4つの業務に従事する場合に限る(「超勤4項目」)。

このうち、「原則として時間外勤務をさせない」という仕組みは機能せず、反対に、「時間外勤務手当を支給しない」という規定は厳守されて、その結果、教員に無定量の勤務が強いられることとなった。つまり、教員にいくら実質的な時間外勤務をさせても、法令上の「時間外勤務」とは認めない扱いにして、時間外勤務手当を支払わない運用が続けられてきた。しだいに、教員や管理職の間で、勤務時間そのものについての関心が薄れ、時間外勤務の制限に歯止めがかからなくなったといえる。

本判決において、所定の勤務時間を超える勤務を「時間外勤務」と呼ばず、「所定勤務時間外の在校時間」などと呼んでいる箇所がある。この「在校時間」という文言は、文部科学省の策定した「勤務時間の上限に関するガイドライン」(2019年1月25日)に記載されたものである。同ガイドラインによると、教員が校内に在校している時間及び、校外での職務に従事する時間を合算したものを「在校等時間」と定義している。この「在校等時間」には休憩時間以外に、教員の自主的・自発的な自己研鑽の時間が含まれているため、同ガイドラインにおいては、「在校等時間」の量は、勤務時間の量とは一致しないと考えられている。

時間外勤務をめぐる判例には、教員が校内に在校していても「明示又は黙示の勤務命令に基づかず、教員が自主的に事務等に従事した時間」は勤務時間とは認められないという旨の判示があり(最高裁第三小法廷平成23年7月12日判決)、同ガイドラインはこの判示に沿ったものである。

しかしながら、休憩時間を除く在校時間はすべて勤務時間であり、教員は学校で仕事ではないことを自主的に行っているわけではない。「在校等時間」という文言は、「教員は職場で仕事以外のことに時間を費やしている」という誤解を生む不適切な言葉であり、こうした特殊な文言を使用するべきではない。

また、教員の行う業務の大半は職員会議で確認されている。その職員会議は校長が主宰するものであるから(学校教育法施行規則48条)、教員の行う業務の大半は、校長の実質的な勤務命令に基づいて行なわれていると考えられる。

したがって、休憩時間を除く在校時間はすべて勤務時間と捉えられるものであり、通常の用法に従い「勤務時間」ないし「労働時間」という文言を使用して議論をすすめるべきであろう。

本事例のような悲劇を繰り返さないためには、何よりもまず、上記の給特法の枠組を改廃するべきであろう。教員の勤務時間を正確に計測し、所定の時間を超える部分については正当な時間外勤務手当を支給するという当然の仕組みを歪めて、給特法の常軌を逸した運用をそのままにしてきたことが、無定量の時間外勤務を生み出してきたと考えられる。







◆福知山市立中学校いじめ事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】京都地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第1684号
【年月日】令和元年7月18日
【結 果】一部認容
【経 過】
【出 典】裁判所ウェブサイト


事案の概要:

本件は、原告が、同級生らから、誹謗中傷される、清掃時間中わざと原告の机だけを運ばなかったりする、消しゴムのかすやシャープペンシルの芯を投げ付けられるなどのいじめを受け、これらによって精神的苦痛を受けるとともに統合失調症を発症したと主張して、同級生ら4人に対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求権として、また、原告が通学していた中学校の教諭らが前記いじめに関して防止義務等を怠ったと主張して、被告市に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権として、約9千万円の連帯支払を請求する事案である。判決は、同級生ら4人に計約29万円の支払いを命じ、市への請求は棄却した。


認定事実:

原告は小学校5年生から6年生にかけて、教室で他の生徒と一緒に授業を受けることができず、職員室や空き教室で、周囲をパーテーションで区切った状態で個別指導を受けるようになった。平成24年、原告が中学2年時、原告は、ふだん教室にいるとき、自分の席に座り、顔はずっとうつむいた状態であることが多かった。同じクラスの者と会話を楽しむようなことはなく、また、人と視線を合わせようとせず、話しかけないでほしいという雰囲気があった。

平成24年6月から10月までの間に、同級生Cは、少なくとも10回以上にわたり、原告の後ろ髪あたりに向かって、わざと消しゴムのかすを投げ付けた。同じ時期、清掃時間中に、同級生Cらを含む11名の生徒は、原告に自分の机を運ばれるのを嫌がり、また、原告の机を運ぶのを嫌がって放置するなどしていた。同年9月、同級生Dは、体育祭の大縄飛びの練習中、原告が大縄の上に転倒した際に故意に大縄を引っ張り、それが原告の足に強く当たった。

同年10月、原告は、中学校から無断で外出することがあり、11月以降、サポート教室を中心に学校生活を送るようになった。平成25年1月、原告は母親と一緒でなければ教室に入れなくなり、母親の付き添いのもと授業を受けていたが、1月下旬には中学校への登校ができなくなり、3年生に進級してからも不登校のままであった。

平成25年9月、原告は、誰かに見られているような気がするという注察妄想や、悪口が聞こえるといった幻聴があることから病院の精神科を受診したところ、統合失調症と診断された。平成26年7月から9月にかけて、原告は幻覚妄想状態との病名で閉鎖病棟に入院した。


判決の要旨:

(1)同級生によるいじめの違法性について
同級生Cらによる消しゴムかすの投げ付け行為は、それ自体は軽微な行為ではあるものの、机運び拒否行為と並行して、原告を標的とし、長期間にわたり、繰り返し行っているという事情を考慮すると、原告に対し多大な精神的苦痛を与えるものといえるから、違法な行為として不法行為に当たる。同級生Dによる大縄を引っ掛ける行為は、単発的な出来事であるものの、原告の身体を直接的に攻撃するものであること等を考慮すると、同様に不法行為に当たる。

(2)教諭の注意義務違反について
本件中学校の教諭らは、原告に対するいじめ行為を認識してから、比較的速やかに対応を開始しており、また、謝罪の機会を設けるなどし、原告に対するいじめは終息したことが認められるから、教諭らについて、いじめについての防止義務違反及び調査義務違反を認めることはできない。さらに教諭らは、原告がサポート教室を利用できるようにしたほか、授業中に原告のそばに教員1名を配置した上、原告の母の付添いも相当な範囲で認めるなど、原告の学習環境に配慮した措置を執っていたというべきであるから、学習環境整備義務を怠ったとはいえない。

(3)いじめ行為と統合失調症発症との相当因果関係について
いじめ行為が終息してから、原告に統合失調症の具体的な症状が表れるまで半年以上の期間があることに加え、同級生Cらから受けたいじめ行為の程度や、原告の他者との関わり方が小学5年生時から中学2年生時まで大きくは変わっていないことを併せ考慮すると、いじめ行為が原告の精神に重大な影響を及ぼすものであったとは認めることができない。したがって、統合失調症の病態につき、同級生Cらによるいじめ行為と原告の統合失調症発症との間に相当因果関係を認めることはできない。


コメント:

本件は、軽微で単発的ないじめ行為であっても、違法な不法行為に当たる場合があるという事例判断を示したものとして意義があると考えられる。

原告は、本件係争中の2018年2月、当時の学校日誌を裁判の証拠にするため、福知山市教育委員会に情報公開請求を行った。しかし、公開期限の4月14日を過ぎても開示されず、その後、5年の保存期間満了を理由に、4月2日時点で廃棄されたことを知らされた。そこで、原告は知る権利を侵害されたとして、同市に損害賠償を求め京都地裁に提訴した(京都新聞2018年11月6日)。





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