● いじめの問題に関する指導の徹底について 昭和60年10月25日 文初中244



昭六〇、一〇、二五 文初中二四四 
各都道府県教育委員会教育長あて 
文部省初等中等教育局長通知

     いじめの問題に関する指導の徹底について

 児童生徒のいじめの問題については、昭和六〇年六月二九日付け文初中第二〇一号をもって既に指導の充実をお願いし、各教育委員会、学校においては、特段の努力が払われているところであります。
 しかしながら、最近においても、いじめにより生徒が自殺するなどの不幸な事件が発生するなど、事態は依然として深刻な状況が続いており、今日、大きな社会問題となっています。
 このため、いじめの問題の解決のため、学校、家庭、社会が一体となって総がかりの取組を強化することが、緊急に要請されており、臨時教育審議会においてもこの問題を取り上げ、先に会長談話を発表し、対策の充実を求めています。(別添一参照)
 特に、学校における認識と対応の甘さが事件を深刻化させたと考えられる事例が見られるところから、すべての学校が、いじめが学校生活に起因して発生していることを真剣に受けとめ、取組の充実を図る必要があります。
 ついては、貴教育委員会においては、前記通知の趣旨の徹底を図るため、改めて、貴管下の教育委員会及び各学校における取組の状況について総点検を行い、その実態を把握し、取組の一層の充実を図られるようお願いします。なお、別添二の「いじめの問題に関する指導の状況に関するチェックポイント」は、前記通知別添の「児童生徒の問題行動に関する検討会議緊急提言−いじめの問題解決のためのアピール−」の趣旨を踏まえ、いじめの問題に関する指導の充実のための具体的点検項目を示したものであり、上記の総点検の際の参考として活用願います。
 また、文部省としても、最近におけるいじめの実態及び指導状況等について把握する必要がありますので、別添三の「いじめの問題に関する指導状況等に関する調査実施要領」により、調査の上、当局中学校課長あて、御提出願います。
 おって、最近における各種の調査結果等によれば、特に下記の諸点について格段の措置を講ずることが必要と考えられますので、御配慮願います。

     記

一 学校においては、校長を中心に全教師が一致協力して、いじめの実態の早期発見に努め、いじめの根絶に向けて取り組む体制を整えるとともに、父母や児童生徒の悩みや要請を積極的に受け止めることのできるよう、校内の教育相談体制を整備充実すること。
二 教育委員会においては、いじめの問題が生じている学校の実態把捉に努め、その解決に至るまで重点的に指導、援助を行うとともに、学校からの相談はもとより、父母からの相談も直接受け止めることのできるような教育相談体制を整備充実し、併せて関係者にその周知を図るよう努めること。
三 教育委員会や学校は、PTAや各地域の関係団体等とともにいじめの問題について協議する機会を幅広く設け、いじめの問題への取組の重要性の認識を広めるとともに、関係諸機関との連携・協力体制を整え、いじめの根絶に向けて地域ぐるみの対策を進めること。
四 都道府県教育委員会においては、管下の教育相談機関の活動状況を十分把握するとともに、これらの機関に対する指導、助言、援助の役割を果たす体制を整備すること。

別添一
  「いじめ」の問題に関する臨時教育審議会会長談話
                   昭和六〇年一〇月二三日
 本審議会は、発足以来、近年における「いじめ」、校内暴力、青少年非行などの教育荒廃の現象について、憂慮すべき事態として検討を続けてきた。
 すでに第一次答申においても、その要因・背景として、受験競争の過熱や、児童生徒の多様な能力、適性等に対応し得ない学校教育の制度やその運用の画一性、硬直性あるいは閉鎖的な学校の在り方等の問題があることを指摘した。
 本審議会としては、これらの問題について、さらに基本答申に向けて総合的に検討を加える課題として取り組んでいるが、昨今の「いじめ」の問題については、児童生徒の自殺や心理的障害にまで至らせるような痛ましい事例が発生するなど、教育問題としても社会問題としてももはや看過できないものと考え、緊急に総会において審議を行った。
 その結果、基本的には個性重視の原則に立ってこれまでの教育の在り方を見直すとともに、子どもをめぐる社会全体の教育環境の改革が必要であると考える。
 同時に、当面の対策として、現在、学校現場はもとより各方面の関係者が真剣な努力を続けていることは評価されるが、特に次の諸点が重要である。
一 各省庁をはじめ関係諸機関がそれぞれの必要な施策を進め、さらに相互の連携を強化し総合的に対策を推進すること。
二 学校において、教師間の人間関係に相互に配慮し、校長、教員が一致協力してこの問題に真剣に取り組むこと。また、子どもの多様な個性の配慮に欠ける教育に陥ることを戒めるとともに、いやしくも教員自らの暴力の行使等は厳に慎むこと。
三 家庭においては、過保護、過干渉、放任に陥ることなく、その役割を自覚するとともに、地域、学校との連携を強めること。
四 地域における多様な相談の窓口が有機的に機能し、父母や子どもが心安く相談できる体制を確立すること。
五 学校の教育条件、家庭や地域等子どもの生活の場など教育環境の人間化に努めること。
 以上は、いわゆる対症的応急の措置でもあるが、この問題は、根本において現代社会にみられる心の荒廃が子どもの成長過程において生じていることと深くかかわっているものであり、青少年の健全育成の観点に立ったテレビ・週刊誌等マスコミの自粛・自重を含め事態の解決のための社会全体の取り組みや協力が必要である。
 臨時教育審議会としては、現在見られる教育荒廃の病理現象に対し、その背後にある要因を掘り下げ、教育改革のための総合的、基本的考え方を示すという本審議会の使命と責任を痛感しており、この「いじめ」の問題についてもそのような立場に立って引き続き特別の関心を持って審議を深めていきたい。


別添二

 いじめの問題に関する指導の状況に関するチェックポイント
<趣旨>
 このチェックポイントは、最近における児童生徒間のいじめの問題の深刻な状況にかんがみ、昭和五八年三月一〇日付け文初中第一六六号別添の「生徒指導に取組むための学校運営上の点検項目」及び昭和六〇年六月二九日付け文初中第二〇一号別添の「児童生徒の問題行動に関する検討会議緊急提言−いじめの問題の解決のためのアピール−」の趣旨を踏まえ、いじめの問題に関する学校及び教育委員会の指導の充実のために、学校及び教育委員会の指導状況について具体的に点検すべき項目を参考例として示したものである。
<チェックポイント>
T 学校
  (指導体制)
(一) いじめの問題の重大性を全教師が認識し、校長を中心に一致協力体制を確立して実践に当たっているか。
(二) いじめの態様や特質、原因・背景、具体的な指導上の留意点などについて職員会議などの場で取り上げ、教師間の共通理解を図っているか。
(三) 教師は、日常の教育活動を通じ、教師と児童生徒、児童生徒間の好ましい人間関係の育成に努めているか。また、児童生徒の生活実態のきめ細かい把握に努めているか。
(四) いじめについて訴えなどがあったときは、学校は、問題を軽視することなく、的確に対応しているか。
  (教育相談)
(五) 校内に児童生徒の悩みや要望を積極的に受け止めることができるような教育相談の体制が整備されているか。また、それは、適切に機能しているか。
(六) 学校における教育相談について、保護者にも十分理解され、保護者の悩みに応えることができる体制になっているか。
(七) 教育相談では、悩みをもつ児童生徒に対してその解消が図られるまで継続的な事後指導が適切に行われているか。
(八) 教育相談の実施に当たっては、必要に応じた教育センターなどの専門機関との連携が図られているか。
 (教育活動)
(九) 学校全体として、校長をはじめ各教師がそれぞれの指導場面においてのいじめの問題に関する指導の機会を設け、積極的に指導を行うよう努めているか。
(一〇) 道徳や学級指導・ホームルームの時間にいじめにかかわる問題を取り上げ、指導が行われているか。
(一一) 学級会活動や児童生徒会活動などにおいて、いじめの問題とのかかわりで適切な指導助言が行われているか。
(一二) 児童生徒に幅広い生活体験を積ませたり、社会性のかん養や豊かな情操を培う活動の積極的な推進を図っているか。
(一三) 体罰禁止の趣旨は、全教師に徹底しているか。教師による体罰が行われていることはないか。
  (家庭・地域との連携)
(一四) 学校は、PTAや地域の関係団体等とともにいじめの問題について協議する機会を設け、いじめの根絶に向けて地域ぐるみの対策を進めているか。
(一五)学校は、家庭に対して、いじめの問題の重要性の認識を広めるとともに、家庭訪問や学校通信などを通じて家庭との緊密な連携協力を図っているか。
(一六) いじめの問題解決のため、学校は必要に応じ、教育センター、児童相談所、警察等の地域の関係機関と連携協力を行っているか。

U 教育委員会
 (指導体制)
(一) 教育委員会は、管下の学校等に対し、いじめの問題に関する教育委員会の指導の方針などを明らかにし、積極的な指導を行っているか。
(二) 教育委員会は、管下の学校におけるいじめの問題について、学校訪問や調査の実施などを通じて実態の的確な把握に努めているか。
(三) いじめの問題について指導上困難な課題を抱える学校に対して、指導主事や教育センターの専門家の派遣などによる重点的な指導、助言、援助を行っているか。
 (教育相談)
(四) 教育委員会に学校からの相談はもとより、父母からの相談も直接受けとめることのできるような教育相談体制が整備されているか。また、それは、利用しやすいものとするため、相談担当者に適切な人材を配置するなど運用に配慮がなされ、適切に機能しているか。
(五) 教育委員会は、教育相談の利用について関係者に広く周知を図っているか。
(六) 教育委員会は、教育相談の内容に応じ、学校とも連絡・協力して指導に当たるなど、継続的な事後指導を適切に行っているか。
(七) 教育相談の実施に当たっては、必要に応じて、医療機関などの専門機関との連携が図られているか。
(八) いじめによる悩みをもつ児童生徒の小・中学校の学校指定の変更の取扱いについて、適切な対応がなされているか。
  (教員研修)
(九) 教育委員会として、いじめの問題に留意した教員の研修を積極的に実施しているか。
(一〇) いじめの問題に関する指導の充実のための教師用手引書などを作成・配布しているか。
  (家庭・地域との連携)
(一一) 教育委員会は、学校とPTA、地域の関係団体等とがいじめの問題について協議する機会を設け、いじめの根絶に向けて地域ぐるみの対策を推進しているか。
(一二) 教育委員会は、いじめの問題への取組の重要性の認識を広め、家庭や地域の取組を推進するための啓発・広報活動を積極的に行っているか。
(一三) 教育委員会は、いじめの問題の解決のために、関係部局・機関と適切な連携協力を図っているか。

 別添三 いじめの問題に関する指導状況等に関する調査実施要領 (略)


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