● 高等学校における帰国子女の編入学の機会の拡大等について 昭和63年10月8日 文初高第280号



文初高第二八〇号 昭和六三年一〇月八日
各都道府県教育委員会・各都道府県知事・附属学校を置く各国立大学長あて
文部省初等中等教育局長・教育助成局長通知


    高等学校における帰国子女の編入学の機会の拡大等について


 帰国子女に対する高等学校教育の機会の確保については、昭和五九年七月二〇日付け文初高第二八三号「公立高等学校の入学者選抜について」、昭和六一年六月一三日付け文教地第一二五号「臨時教育審議会「教育改革に関する第二次答申」について」及び昭和六二年五月八日付け文初高第一九〇号「臨時教育審議会「教育改革に関する第三次答申」について」において配慮方をお願いし、貴職におかれても、入学者選抜における配慮等について積極的に取り組まれていることと思いますが、編入学については必ずしも円滑に行われていない等の指摘がなされております。
 ついては、我が国の国際化の進展に伴って、近年、帰国子女が増加し、高等学校への編入学の機会の拡大等が求められていることにかんがみ、このたび、所要の省令改正(「学校教育法施行規則の一部改正について」(昭和六三年一〇月八日付け文初高第七二号文部事務次官通達)参照)を行うほか、国内における保護者の転勤に伴う転入学と同様に左記事項によることとしたいので、高等学校への編入学の取扱い等について、それぞれの実情に応じ、可能な限り配慮されるようお願いします。
 なお、このことに関し、去る六月一四日付けで総務庁長官から文部大臣宛に別添写のとおり改善意見の通知がありましたので申し添えます。

          記

一 編入学試験の実施回数の増について

 外国においては学年の始期・終期が我が国と異なる場合が多く、また、外国からの保護者の転勤も年間を通じてみられることから、編入学試験の実施回数について、各学年を通じ、可能な限り多くすることが望ましいこと。

二 編入学者のための特別定員枠の設定について

 帰国子女については、保護者の転勤というやむを得ない事情が多いことにかんがみ、その編入学希望に可能な限り応じられるよう、例えば、これらの者に係る編入学許可の特別定員枠を設定するなど、適切な配慮を行うことが望ましいこと。

三 編入学試験の受験手続きの簡素化・弾力化について

 帰国子女に係る編入学試験の受験手続きについては、保護者の転勤というやむを得ない事情があることが多いことに照らし、可能な限り弾力的に取り扱うことが望ましく、例えば、提出書類は必要最小限とし、願書提出期限についても特段の配慮をすることが望ましいこと。

四 編入学試験にかかわる情報の提供について

 都道府県立及び市町村立の高等学校については都道府県教育委員会が、私立高等学校については都道府県知事が、それぞれ、これらの学校における編入学試験に関する基本的な事項(募集時期、募集定員、試験時期、試験科目、必要書類等)についての情報を十分に把握し、編入学希望者等からの照会に対し的確に対応できるようにするとともに、適宜、マスコミ等に情報を提供する等により関係者に対する広報に努めること。
 なお、公・私立高等学校の編入学試験の実施予定等に関する情報は、可能な限り一箇所(例えば、都道府県や同教育委員会の広報担当課等)に集中するなど、編入学希望者等の照会に応じ得る体制を整備することが望ましいこと。

五 帰国子女教育の充実について

 帰国子女の受入れ校に在外教育施設経験教員等海外経験教員を重点的に配置するとともに、帰国子女教育については、単に国内教育への適応を進めるというだけでなく、海外で身に付けた能力・適性を伸ばし、更に帰国子女との相互啓発を通じて帰国子女以外の他の生徒の国際理解を深めるように配慮すること。


別添

総監第一七九号
昭和六三年六月一四日
文部大臣殿
総務庁長官

留学生の受入対策、帰国子女教育等に関する行政監察の結果(勧告)

 この度、留学生の受入対策、帰国子女教育等に関する行政を監察した結果、別紙のとおり貴省所管事項について改善する必要の認められるものがありますので勧告します。
 なお、これについては、別添の留学生の受入対策、帰国子女教育等に関する行政監察結果報告書を参照の上適切な改善措置を講じ、その結果を昭和六三年九月一六日までに御回答ください。


別添

 留学生の受入対策、帰国子女教育等に関する行政監察結果に基づく勧告(抄)

昭和六三年六月
総務庁

二 帰国子女教育等の見直し

(一) 帰国子女の円滑な受入れ等

 我が国の経済・文化等の国際化に伴い、海外在留邦人及びその子女が急速に増加しており、帰国子女数も昭和五一年度に約五、〇〇〇人であつたものが、昭和六一年度には一万人を超えている。
 これらの帰国子女は、当庁のアンケート調査結果からみると、ほとんどの者が帰国に当たつて不安を持つており(一、二五九人中一、一七二人、九三・一パーセント)、また、帰国後日本の教育を受けるに当たつて困つたことが「ある」としている者も多い(一、二五九人中八八七人、七〇・五パーセント)。
 帰国子女は我が国と異なつた文化・社会の下で長期間生活し、また、我が国と異なつた教育制度、教育課程、教育方針の下で教育を受けた者も多いことから、我が国の教育への円滑な受入れや、これらの子女が海外で身に付けた特性の保持・伸長に最大限の配慮をすることが求められている。
 このため、国際化の進展に対応し、帰国子女の受入体制の一層の充実が緊要となつているが、今回、帰国子女の高等学校への入学・編入学等の状況をみると、次のような問題がある。

ア 高等学校への入学・編入学機会の拡大

 高等学校に入学できる者は、学校教育法第四七条の規定に基づき「中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者又は監督庁の定めるところにより、これと同等以上の学力があると認められた者」とされている。
 このうち、同等以上の学力があると認められた者とは、@外国において学校教育における九年の課程を修了した者、A文部大臣が指定した在外教育施設(日本人学校)の当該教育課程を修了した者等とされている。
 また、高等学校に編入学できる者については、学校教育法施行規則(昭和二二年文部省令第一一号)第六〇条において、「第二学年以上に入学を許可される者は、相当年齢に達し、前各学年の課程を修了した者と同等以上の学力があると認められた者とする」とされている。
 我が国の海外在住の中学生相当年齢(一三〜一五歳)の過半数(五三パーセント)は、現地校(所在国の法律に基づき設立された学校であつて、所在国の教育方針・カリキュラムに沿つて教育を行うものをいう。以下同じ。)又は国際学校(主として、所在国に在留する外国人子女を対象とし、特定の国又は独自の教育方針・カリキュラムに沿つて教育を行う施設で日本人学校以外のものをいう。以下同じ。)に就学しているが、これらの学校の多くは、九月始業、六月終業となつているのに対して、我が国の学校では、四月始業、三月終業となつている。
 このため、現地校及び国際学校の生徒の場合、我が国の高等学校への円滑な入学・編入学が困難となつている面がある一方、中学校までは、いつでも年齢相当の学年に編入学することが可能であることから、中学三年時に子供だけ又は母子のみで帰国し、日本の中学校に編入学してその学校の卒業資格で高等学校に入学する者が多くみられる(中学三年で帰国した者の四四・二パーセント)。
 しかし、日本の高等学校に入学・編入学することが困難であること等を理由に、卒業を待たずに家族と離れて帰国することは、帰国する生徒本人の教育への影響や家族の経済的負担が大きいなどの問題がある。
 このような状況から、帰国子女の高等学校への入学・編入学の円滑化が求められている。
 調査対象一四都道府県教育委員会の中には、第一学年の四月入学のほか、帰国子女の高等学校への入学・編入学の円滑化を図るため、

@ 随時編入学を認めているもの(三道府県教育委員会)、
A 各学期の始めに認めているもの(三都府県教育委員会)、
B 一月を除き各学期の始めに認めているもの(一県教育委員会)
がある一方、教育課程が異なることや学力判定が困難であること等を理由として、
C 四月編入学しか認めていないもの(六県教育委員会)、
D 編入学を全く認めていないもの(一県教育委員会)
がみられる。

イ 帰国子女教育の充実

 文部省は、帰国子女の円滑な受入れ等を図るため、国立大学附属学校に昭和四〇年度から帰国子女教育学級(一二校、定員六七五人)を、昭和五一年度から普通学級への混合受入方式による学級(九校、定員三五七人)をそれぞれ設けている。
 また、昭和四二年度から公私立学校の中から帰国子女教育研究協力校(八六校、実員三、八一一人)を指定するとともに、最近における帰国子女数の増加に対応し、地域ぐるみで帰国子女の受入れ等を推進する体制を整備することとし、昭和五八年度から帰国子女教育受入推進地域(一二地域六四〇校、実員五、三六〇人)を指定する等の措置を講じてきている。
 経済・文化等の国際化の進展に伴つて帰国子女数の増加、在留国の多様化、在留期間の長期化等が更に進むことになると見込まれることから、帰国子女教育研究協力校等における研究成果の活用等により、帰国子女教育の一層の充実を図ることが期待されている。
 しかし、帰国子女教育については、当庁のアンケート調査結果からみると、帰国子女教育を不十分とするものもあり(一、二五九人中二五一人、一九・九パーセント)、特に一般校において不十分とするものの割合が高く(帰国子女教育研究協力校:四〇九人中六三人、一五・四パーセント。一般校:二九五人中八一人、二七・五パーセント)、その内容は、「国際理解教育や帰国子女への配慮が不十分」、「個性尊重の教育を要望」等となつている。
 また、在外教育施設(日本人学校等)に派遣された教員で帰国する者の数は毎年約三〇〇人と多数に上つており、これらの教員は現在帰国子女となつている児童・生徒の教育に従事していた者であることから、その海外で得た知識・経験・国際的な視野や見識が帰国子女教育等の場で有効に活用されることが期待されているが、これらの海外経験教員の帰国子女教育等への活用は不十分である(昭和六〇年度に帰国した海外経験教員で帰国子女教育に従事している者一七六人中一一人、六・三パーセント)。
 したがつて、文部省は、都道府県に対し、帰国子女の我が国の学校への円滑な受入れ等を図るため、次の改善措置を講ずるよう指導する必要がある。

@ 帰国子女の我が国の高等学校への円滑な受入れが行われるよう各学年を通じた九月・一月編入学の実施等、高等学校の入学・編入学機会の拡大を図ること。
A 帰国子女の受入校に海外経験教員を重点的に配置するとともに、帰国子女が海外で身に付けた長所の保持・伸長に一層配慮した教育を実施する等の方策を講ずること。




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