● 登校拒否問題への対応について 平成4年9月24日 文初中330


平四、九、二四 文初中三三〇 
各都道府県教育委員会教育長、各都道府県知事、
附属学校を置く各国立大学長、国立久里浜養護学校長あて
文部省初等中等教育局長通知

    登校拒否問題への対応について

 児童生徒の登校拒否問題への対応につきましては、関係者において特段の努力が払われているところですが、依然として登校拒否児童生徒の数は増加傾向にあり、憂慮される事態となっております。
 文部省としても、これまで、登校拒否児童生徒の全国的な状況の把握に努め、指導資料の作成や教員研修の実施など各種の施策を講じてきたところですが、上記のような状況にかんがみ、平成元年七月に有識者による「学校不適応対策調査研究協力者会議」を発足させ、登校拒否問題への対応に閑する基本的な在り方について広く総合的・専門的な観点から検討を願い、本年三月一三日に 「登校拒否(不登校)問題について」の報告を取りまとめていただいたところです。
 文部省としては、この報告の趣旨を踏まえ、今後さらに施策の充実に取り組むこととしておりますが、貴職におかれても、左記により登校拒否問題に対する取組の充実に一層努められるようお願いします。なお、都道府県教育委員会にあっては、管下の市町村教育委員会に対して、都道府県知事及び国立大学長にあっては、管下の学校に対して、この趣旨を徹底されるよう願います。

          記

一 登校拒否問題に対応する上での基本的な視点
 @ 登校拒否はどの児童生徒にも起こりうるものであるという視点に立ってこの問題をとらえていく必要があること。
 A いじめや学業の不振、教職員に対する不信感など学校生活上の問題が起因して登校拒否になってしまう場合がしばしばみられるので、学校や教職員一人一人の努力が極めて重要であること。
 B 学校、家庭、関係機関、本人の努力等によって、登校拒否の問題はかなりの部分を改善ないし解決することができること。
 C 児童生徒の自立を促し、学校生活への適応を図るために多様な方法を検討する必要があること。
 D 児童生徒の好ましい変化は、たとえ小さなことであってもこれを自立のプロセスとしてありのままに受け止め、積極的に評価すること。

二 学校における取組の充実
(一) 学校は、児童生徒にとって自己の存在感を実感でき精神的に安心していることのできる場所−「心の居場所」−としての役割を果たすことが求められること。
(二) 学校は、登校拒否の予防的対応を図るために、児童生徒一人一人の個性を尊重し、児童生徒の立場に立って人間味のある温かい指導が行えるよう指導の在り方や指導体制について絶えず検討を加え、次のような取組を行う必要があること。
 @ 個に応じた指導に努めるなど指導方法、指導体制について、工夫、改善に努めること。
 A 児童生徒の自主性、主体性を育みながら、一人一人がたくましく生きていくことのできる力を養っていくこと。
 B 児童生徒が適切に集団生活に適応する力を身に付けることができるように、学級活動等を工夫すること。
 C 主体的な進路選択能力を育成するため、発達段階に応じた適切な進路指導を行うこと。
 D 児童生徒の立場に立った教育相談を充実すること。
 E 開かれた学校という観点に立って、家庭や地域社会との協力関係を築いていくこと。
(三) 学校においては、全教職員が登校拒否問題についてあらかじめ十分に理解し、認識を深め、個々の問題の対応に当たって一致協力して取り組むとともに、校内研修等を通じて教職員の意識の啓発と指導力の向上に努めること。また、登校拒否児童生徒への具体的な指導に当たっては、次の点に留意する必要があること。
 @ 登校拒否となる何らかの前兆や症状を見逃さないよう常日頃から児童生徒の様子や変化をみていくことが大切であり、変化に気付いた時は、速やかに適切な対応をとること。
 A 登校拒否が長期に及ぶなど、学校が指導・援助の手を差し伸べることがもはや困難と思われる状態になる場合もあるが、このような状態に陥りそうな場合には、適切な時期をとらえて、教育センター等の専門機関に相談して適切な対応をとる必要があること。その際、保護者に対し、専門的観点から適切な対応をすることの必要性を助言し、十分な理解を得ることが大切であること。
 B 登校拒否児童生徒が登校してきた場合には、温かい雰囲気のもとに自然な形で迎え入れられるよう配慮するとともに、徐々に学校生活への適応力を高めていくような指導上の工夫を行うこと。

三 教育委員会における取組の充実
 都道府県及び市町村の教育委員会は、自ら登校拒否問題に対する認識を深めるとともに、それぞれの立場から積極的に施策を展開し、学校における取組が効果的に行われるよう支援する必要があること。その際、次に例示するような方策を含め、多様な方策が検討される必要があること。
 @ 登校拒否問題への適切かつきめ細かな対応を行うため、それぞれの地域の状況に応じ、登校拒否についてのより的確な実態把握に努めること。
 A 登校拒否児童生徒の指導の中核となる生徒指導担当者等に対して、登校拒否問題についての専門的・実践的研修を積極的に実施するなど教員研修の効果的な実施に努めること。
 B 学校における指導体制を充実させるため、必要に応じた学校への教員の加配、教育相談等の研修講座を通じての専門的力量をもった教員の育成等の施策を講ずること。
 C 教育センタ一等の教育相談機関の整備や施設・設備、スタッフの充実等を図ること。
 D 学校以外の場所に登校拒否の児童生徒を集め、その学校生活への復帰を支援するため様々な指導・援助を行う「適応指導教室」について、その設置を推進するとともに、指導員や施設設備等の充実に努めること。
 E 社会教育施設を利用して行われる登校拒否児童生徒の適応指導のための自然体験活動等の事業の推進を図ること。その際、施設と学校等との連携に配慮すること。
 F 保護者に対するカウンセリングの実施、保護者同士の懇談会の開催、家庭向けの啓発資料の作成などの保護者への啓発・支援の取組を行うこと。また、すべての家庭に対して登校拒否への関心を高めるよう啓発を行うこと。

四 関係機関等との連携
(一) 学校においては、教育センター、児童相談所等の関係機関と日頃から連携を図っておくことが大切であること。特に登校拒否の程度が進み学校の指導の限界を超えると思われる場合には、速やかに相談・指導を行う専門の関係機関に協力を求めることも必要であること。
(二) 相談・指導を行う関係機関としては、適応指導教室、教育センター、児童相談所などの公的機関が適切であるが、公的な指導の機会が得られないあるいは公的機関に通うことも困難な場合で本人や保護者の希望もあり適切と判断される場合は、民間の相談・指導施設も考慮されてよいこと。
 ただし、民間施設での相談・指導を考慮する場合、その性格や活動内容は多種多様であるので学校や教育委員会はその施設の実態を十分把握した上で、本人にとって真に適切かどうか判断する必要があること。
(三) 学校は当該児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている間の状況を十分フォローアップすることが大切であり、可能な限りその指導状況を把握するなど、相談・指導を他の公的機関等に任せきりにすることのないよう留意すること。
(四) 義務教育諸学校の登校拒否児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについては、別記によるものとすること。


別紀
    登校拒否児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の指導要録上の出欠の取扱いについて

一 趣旨
 登校拒否児童生徒の中には、学校外の施設において相談・指導を受け、学校復帰への懸命の努力を続けている者もおり、このような児童生徒の努力を学校として評価し支援するため、我が国の義務教育制度を前提としつつ、一定の要件を満たす場合に、これら施設において相談・指導を受けた日数を指導要録上出席扱いとすることができることとする。
二 出席扱いの要件
 登校拒否児童生徒が学校外の施設において相談・指導を受けるとき、左記の要件を満たすとともに、当該施設への通所又は入所が学校への復帰を前提とし、かつ、登校拒否児童生徒の自立を助けるうえで有効・適切であると判断される場合に、校長は指導要録上出席扱いとすることができる。
(一) 保護者と学校との間に十分な連携・協力関係が保たれていること。
(二) 当該施設は、教育委員会等が設置する適応指導教室等の公的機関とするが、公的機関での指導の機会が得られないあるいは公的機関に通うことが困難な場合で本人や保護者の希望もあり適切と判断される場合は、民間の相談・指導施設も考慮されてよいこと。
 ただし、民間施設における相談・指導が個々の児童生徒にとって適切であるかどうかについては、校長が、設置者である教育委員会と十分な連携をとって判断するものとすること。このため、学校及び教育委員会においては、学校不適応対策調査研究協力者会議報告(平成四年三月一三日)に別記として掲げられている「民間施設についてのガイドライン(試案)」を参考として、前記判断を行う際の何らかの目安を設けておくことが望ましいこと。
(三) 当該施設に通所又は入所して相談・指導を受ける場合を前提とすること。

三 指導要録の様式等について
 前記の取扱いに伴い、平成三年三月二〇日付け文初小第一二四号「小学校児童指導要録、中学校生徒指導要録並びに盲学校、聾学校及び養護学校の小学部児童指導要録及び中学部生徒指導要録の改訂について」で示した指導要録の様式等について、それぞれ別紙のように改めることとする。

別紙
    小学校児童指導要録、中学校生徒指導要録並びに盲学校、聾学校及び養護学校の小学部児童指導要録及び中学部生徒指導要録の様式等について

 平成三年三月二〇日付け文初小第一二四号「小学校児童指導要録、中学校生徒指導要録並びに盲学校、聾学校及び養護学校の小学部児童指導要録及び中学部生徒指導要録の改訂について」の別紙第一から別紙第五までのU記入上の注意のうち〔出欠の記録〕について、それぞれ次のように改める。
(一) 五のなお書きを次のように改める。
 「なお、学校の教育活動の一環として、児童が運動や文化などにかかわる行事等に参加した場合及び登校拒否の児童が学校外の施設において相談・指導を受け、そのことが当該児童の学校復帰のために適切であると校長が認める場合には、出席扱いとすることができること。」
(二) 七に次のなお書きを加える。
 「なお、登校拒否の児童が学校外の施設において相談・指導を受け、そのことが当該児童の学校復帰のために適切であると校長が認める場合には、「出席日数」の内数として出席扱いとした日数及び児童が通所又は入所した適応指導教室等の施設名を記入すること。」
(三) なお、前記(一)及び(二)中「児童」とあるのは、別紙第二及び別紙第四にあっては「生徒」と、別紙第五にあっては「児童又は生徒」とする。






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