● 文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程の制定について 平成11年3月30日 文人審115

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                                文人審第115号
                                平成11年3月30日
      総務審議官
      官房三課長
     文教施設部長
        各局長
     各国立学校長
 各大学共同利用機関長  殿
 大学入試センター所長
    学位授与機構長
国立学校財務センター長
 文部省各施設等機関長
     日本学士院長

                            文部省大臣官房人事課長
                            田中壮一郎

                            文部省高等教育局長
                            佐々木正峰


 文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程の制定について(通知)


 文部省において、別添のとおり「文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等について」が定められ、平成11年4月1日より実施されることになりました。ついては、各機関におかれても、下記事項に留意の上、遺漏のないようお取り扱いいただき、セクシュアル・ハラスメントの防止等に積極的に取り組んでいただくようお願いします。

                    記

第2条関係
1 「職員」とは、教員、事務職員、技術職員、非常勤職員、委託契約職員等をいう。
2 「学生等」とは、児童、生徒、学生、聴講生、研究生等、国立学校等において修学する者をいう。
3 「関係者」とは、学生等の保護者、関係業者等の職務上の関係を有する者(職員及び学生等を除く。)をいう。
4 「性的な言動」とは、性的な関心や欲求に基づく言動をいい、性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動も含み、職場の内外を問わない。
5 「セクシュアル・ハラスメントのため職員の就労上の又は学生等の修学上の環境が害されること」とは、セクシュアル・ハラスメントを受けることにより、職務に専念することができなくなる程度に就労上の環境が不快なものになること又は学業に専念することができなくなる程度に修学上の環境が不快なものになることをいう。
6 「セクシュアル・ハラスメントへの対応」とは、就労上又は修学上の地位を利用した交際又は性的な関係の強要等に対する拒否、抗議、苦情の申出等の行為をいう。
7 「不利益」には次のようなものを含む。
一 昇任、配置換等の任用上の取扱いや昇格、昇給、勤勉手当等の給与上の取扱い等に関する不利益
二 進学、進級、成績評価及び教育研究上の指導を受ける際の取扱いにおける不利益
三 誹謗中傷を受けることその他事実上の不利益

第3条関係
 第3条の指針は、別紙1のとおりとする。

第4条関係
 「職員を監督する地位にある者」には、他の職員を事実上監督していると認められる地位にある者を含む。(例:係長、教頭、看護婦長又はこれらと相当の職以上の職にある者。)

第5条関係
 「国立学校等」には、大学共同利用機関、大学入試センター、学位授与機構、国立学校財務センター、文部省施設等機関、日本学士院を含む。
なお、第5条に関連して、国立学校等の長は、セクシュアル・ハラスメントの防止等のため、当該国立学校等の学生等に対しても、必要に応じ、啓発活動を実施するなど、学生等の心身の発達段階等を考慮し、適切な配慮をするものとする。

第6条関係
1「苦情相談」には、セクシュアル・ハラスメントによる被害を受けた本人からのものに限らず、次のようなものも含まれる。
一 他の者がセクシュアル・ハラスメントをされているのを見て不快に感じる職員からの苦情の申出
二 他の者からセクシャル・ハラスメントをしている旨の指摘を受けた職員からの相談
三 部下等からセクシュアル・ハラスメントに関する相談を受けた監督者からの相談
2 苦情相談には複数の職員で対応するとともに、苦情相談を行う者と同性の相談を受ける職員が同席できるような体制を整備するものとする。
3 相談員等の中には、部局長あるいは人事担当課長相当職以上の職員を含む。
なお、第6条に関連して、学生等又は学生等の保護者から、職員のセクシュアル・ハラスメントについて苦情相談がなされた場合においても、適切に対応することができるよう、苦情相談に当たって、学生等の心身の発達段階等を考慮し、必要に応じ、その体制を整備するなど、適切な配慮をするものとする。

第7条関係
1 第7条第1項の指針は、別紙2のとおりとする。



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○文部省訓令第四号
文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関し、次のように定める。
平成十一年三月三十日
                            文部大臣 有馬 朗人


 文部省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程


(目的)
第一条 この規程は、セクシュアル・ハラスメントの防止及び排除のための措置並びにセクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合に適切に対応するための措置(以下「セクシュアル・ハラスメントの防止等」という。)に関し、必要な事項を定めることにより、文部省における人事行政の公正の確保、職員の利益の保護及び職員の職務能率の発揮を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この規程において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 セクシュアル・ハラスメント 職員が他の職員、学生等及び関係者を不快にさせる性的な言動並びに学生等及び関係者が職員を不快にさせる性的な言動
二 セクシャル・ハラスメントに起因する問題 セクシャル・ハラスメントのため職員の就労上又は学生等の修学上の環境が害されること及びセクシュアル・ハラスメントへの対応に起因して職員が就労上の又は学生等が修学上の不利益を受けること
(職員の責務)
第三条 職員は、この規程及び文部省大臣官房人事課長が定める指針に従い、セクシャル・ハラスメントをしないように注意しなければならない。
(監督者の責務)
第四条 職員を監督する地位にある者(以下「監督者」という。)は、次の各号に掲げる事項に注意してセクシュアル・ハラスメントの防止及び排除に努めるとともに、セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合には迅速かつ適切に対処しなければならない。
一 日常の執務を通じた指導等により、セクシュアル・ハラスメントに関し、職員の注意を喚起し、セクシュアル・ハラスメントに関する認識を深めさせること
二 職員の言動に十分な注意を払うことにより、セクシュアル・ハラスメント又はセクシュアル・ハラスメントに起因する問題が職場に生じることがないよう配慮すること
(国立学校等の長の責務)
第五条 国立学校等の長は、当該国立学校等の職員に対し、この規程の周知徹底を図らなければならない。
2 国立学校等の長は、セクシュアル・ハラスメントの防止等のため、当該国立学校等の職員に対し、パンフレットの配布、ポスターの提示、意識調査等により啓発活動を行うよう努めるものとする。
3 国立学校等の長は、セクシュアル・ハラスメントの防止等を図るため、当該国立学校等に所属する職員に対し、必要な研修を実施するものとする。
4 国立学校等の長は、新たに職員となった者に対してセクシュアル・ハラスメントに関する基本的な事項について理解させるため、及び新たに監督者となった職員に対してセクシュアル・ハラスメントの防止等に関しその求められる役割について理解させるため、研修を実施しなければならない。
(苦情相談への対応)
第六条 セクシュアル・ハラスメントに関する苦情の申出及び相談(以下「苦情相談」という。)が職員からなされた場合に対応するため、文部本省内部部局及び各国立学校等に苦情相談を受ける職員又は苦情相談に対応する委員会等(以下「相談員等」という。)を設ける等必要な措置を講じるものとする。
2 文部本省内部部局に総括相談員及び相談員を置く。
一 総括相談員は、文部省大臣官房人事課長をもって充てる。
二 相談員は、文部省大臣官房人事課長の指名する者をもって充てる。
三 相談員は、文部本省内部部局職員からの苦情相談に対応するとともに、各国立学校等における相談員等と密接な連携を図り、必要に応じて助言等を行う。
四 前三号の他、文部本省内部部局における苦情相談に関して必要な事項は、文部省大臣官房人事課長が別に定める。
3 各国立学校等においては、それぞれの長の定めるところにより相談員等を置き、相談を受ける日時及び場所を職員に対して明示しなければならない。
(相談員等の責務)
第七条 相談員等は、苦情相談に係る問題の事実関係の確認及び当該苦情相談に係る当事者に対する指導・助言等により、当該問題を適切かつ迅速に解決するよう努めなければならない。この場合において、相談員等は、文部省大臣官房人事課長が苦情相談への対応について定める指針に十分留意しなければならない。
2 相談員等は、苦情相談への対応に当たっては、関係者のプライバシーや名誉その他の人権を尊重するとともに、知り得た秘密を他に漏らしてはならない。
(人事院への苦情相談)
第八条 職員は、相談員等に対して苦情相談を行うほか、人事院に対して苦情相談を行うことができる。
(不利益取扱いの禁止)
第九条 国立学校等の長、監督者その他の職員は、セクシュアル・ハラスメントに対する苦情の申出、当該苦情に係る調査への協力その他セクシュアル・ハラスメントに関して正当な対応をした職員又は学生等に対し、そのことをもって不利益な取扱いをしてはならない。
附 則
この訓令は、平成十一年四月一日から実施する。


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(別紙1)


 セクシュアル・ハラスメントの防止等のために文部省職員が認識すべき事項についての指針


第1 セクシュアル・ハラスメントを行わないために職員が認識すべき事項

 1 意識の重要性
 セクシュアル・ハラスメントをしないようにするために、職員は他の職員、学生等及び関係者と接するに当たり次の事項の重要性について十分認識しなければならない。
(1) お互いの人格を尊重しあうこと
(2) お互いが大切なパートナーであるという意識を持つこと
(3) 相手を性的な関心の対象としてのみ見る意識をなくすこと
(4) 異性を劣った性として見る意識をなくすこと

 2 基本的な心構え
 職員は、セクシュアル・ハラスメントに関する次の事項について十分認識しなければならない。
(1) 性に関する言動に対する受け止め方には個人間や男女間、その人物の立場等により差があり、セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては、相手の判断が重要であること。
 具体的には、次の点について注意する必要がある。
 @ 親しさを表すつもりの言動であったとしても、本人の意図とは関係なく相手を不快にさせてしまう場合があること
 A 不快に感じるか否かには個人差があること
 B この程度のことは相手も許容するだろうという勝手な憶測をしないこと
 C 相手との良好な人間関係ができていると勝手な思い込みをしないこと

(2) 相手が拒否し、又は嫌がっていることが分かった場合には、同じ言動を決して繰り返さないこと。

(3) セクシュアル・ハラスメントであるか否かについて、相手からいつも意思表示があるとは限らないこと。
 セクシュアル・ハラスメントを受けた者が、上司、指導教官等との人間関係を考え、拒否することができないなど、相手からいつも明確な意思表示があるとは限らず、拒否の意思表明ができないことも少なくないが、それを同意・合意と勘違いしてはならない。

(4) 勤務時間内又は職場内におけるセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。
 例えば、職場の人間関係がそのまま持続する歓迎会、ゼミナールの酒席等の場において、職員が他の職員、学生等にセクシュアル・ハラスメントを行うことについても同様に注意しなければならない。

 3 セクシュアル・ハラスメントになり得る言動
 セクシュアル・ハラスメントになり得る言動として、例えば、次のようなものがある。(1) 職場内外で起きやすいもの
@ 性的な内容の発言関係
 ○性的な関心、欲求に基づくもの
  ・スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること
  ・聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと
  ・体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」、「もう更年期か」などと言うこと
  ・性的な経験や性生活について質問すること
  ・性的な風評を流したり、性的なからかいの対象とすること
 ○性別により差別しようという意識等に基づくもの
  ・「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」、「女性は職場の花でありさえすればいい」、「女は学問などしなくても良い」などと発言すること
  ・成人に対して、「男の子」、「女の子」、「僕、坊や、お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること

A 性的な行動関係
 ○性的な関心、欲求に基づくもの
  ・ヌードポスター等を職場に貼ること
  ・雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり、読んだりすること
  ・職場のパソコンのディスプレイに猥褻な画像を表示すること
  ・身体を執拗に眺め回すこと
  ・食事やデートにしつこく誘うこと
  ・性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙、Eメールを送りつけること
  ・身体に不必要に接触すること
  ・不必要な個人指導を行うこと
  ・浴室や更衣室等をのぞき見すること
 ○性別により差別しようとする意識等に基づくもの
  ・女性であるというだけでお茶くみ、掃除、私用等を強要すること
  ・女性であるというだけの理由で仕事や研究上の実績等を不当に低く評価すること

(2) 主に職場外において起こるもの
 ○ 性的な関心、欲求に基づくもの
  ・性的な関係を強要すること
  ・職場やゼミナールの旅行の宴会の際に浴衣に着替えることを強要すること
  ・出張への同行を強要したり、出張先で不必要に自室に呼ぶこと
  ・自宅までの送迎を強要すること
  ・住居等まで付け回すこと
 ○ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
  ・カラオケでのデュエットを強要すること
  ・酒席で、上司、指導教官等のそばに座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること

 4 懲戒処分
 セクシュアル・ハラスメントの態様等によっては信用失墜行為、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行等に該当して、懲戒処分に付されることがあることを十分認識すること。


第2 就労上又は修学上の適正な環境を確保するために認識すべき事項

 就労上又は修学上の環境は、職員、学生等及び関係者の協力の下に形成される部分が大きいことから、セクシュアル・ハラスメントにより就労上又は修学上の環境が害されることを防ぐため、職員は、次の事項について積極的に意を用いるように努めなければならない。
1 セクシュアル・ハラスメントについて問題提起をする職員、学生等及び関係者をいわゆるトラブルメーカーと見たり、セクシュアル・ハラスメントに関する問題を当事者間の個人的な問題として片づけないこと。
 ミーティングを活用することなどにより解決することができる問題については、問題提起を契機として、就労上又は修学上の適正な環境の確保のために皆で取り組むことを日頃から心がけることが必要である。

2 セクシュアル・ハラスメントに関する問題の加害者や被害者を出さないようにするために、周囲に対する気配りをし、必要な行動をとること。
具体的には、次の事項について十分留意して必要な行動をとる必要がある。
(1) セクシュアル・ハラスメントが見受けられる場合は、注意を促すこと。
 セクシュアル・ハラスメントを契機として、就労上又は修学上の環境に重大な悪影響が生じたりしないうちに、機会をとらえて注意を促すなどの対応をとることが必要である。

(2) 被害を受けていることを見聞きした場合には、声をかけて相談に乗ること。
被害者は「恥ずかしい」、「トラブルメーカーとのレッテルを貼られたくない」、「仕返しが怖い」などの考えから、他の人に対する相談をためらうことがある。被害を深刻にしないように、気が付いたことがあれば、声をかけて気軽に相談に乗ることが大切である。

3 職場においてセクシュアル・ハラスメントがある場合には、第三者として、気持ちよく就労や修学ができる環境づくりをするために上司等に相談するなどの方法をとることをためらわないこと。


第3 セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じた場合において職員に望まれる事項

 1 基本的な心構え
 職員は、セクシュアル・ハラスメントを受けた場合にその被害を深刻にしないために、次の事項について認識しておくことが望まれる。
(1) 一人で我慢しているだけでは、問題は解決しないこと。
 セクシュアル・ハラスメントを無視したり、受け流したりしているだけでは、必ずしも状況は改善されないということをまず認識することが大切である。

(2) セクシュアル・ハラスメントに対する行動をためらわないこと。
「トラブルメーカーというレッテルを貼られたくない」、「恥ずかしい」などと考えがちだが、被害を深刻なものにしない、他に被害者をつくらない、さらにはセクシュアル・ハラスメントをなくすことは自分だけの問題ではなく就労上又は修学上の適正な環境の形成に重要であるとの考えに立って、勇気を出して行動することが求められる。

 2 セクシュアル・ハラスメントの被害を受けたと思うときに望まれる対応
 職員はセクシュアル・ハラスメントを受けた場合、次のような行動をとるよう努めることが望まれる。

(1) 嫌なことは相手に対して明確に意思表示をすること。
 セクシュアル・ハラスメントに対しては毅然とした態度をとること、すなわち、はっきりと自分の意思を相手に伝えることが重要である。しかし、背景に上下関係等が存在する場合には直接相手に言いにくい場合が考えられ、そうした場合には手紙等の手段をとるという方法もある。

(2) 信頼できる人に相談すること。
 まず、同僚や友人等身近な信頼できる人に相談することが大切である。そこで解決することが困難な場合には、内部又は外部の相談機関に相談する方法を考える。なお、相談するに当たっては、セクシュアル・ハラスメントが発生した日時・内容等について記録したり、第三者の証言を得ておくことが望ましい。


第4 学生等への指導

 国立学校等における学生等が対象となるセクシュアル・ハラスメントの防止等のためには、学生等が本指針の趣旨を理解するよう努める必要があるが、その際、学生等の心身の発達段階等を考慮し、実情に応じた適切な指導を行い、必要かつ適正な教育活動が確保されるよう、適切な配慮が望まれる。
なお、学生等の間のセクシュアル・ハラスメントについてもその防止等に努める必要がある。



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(別紙2)


 セクシュアル・ハラスメントに関する苦情相談に対応するに当たり留意すべき事項についての指針


第1 基本的な心構え

 職員からの苦情相談に対応するに当たっては、相談員等は次の事項に留意する必要がある。
(1) 被害者を含む当事者にとって適切かつ効果的な対応は何かという視点を常に持つこと。
(2) 事態を悪化させないために、迅速な対応を心がけること。
(3) 関係者のプライバシーや名誉その他の人権を尊重するとともに、知り得た秘密を厳守すること。

第2 苦情相談の事務の進め方

 1 苦情相談を受ける際の体制等
(1) 苦情相談を受ける際には、原則として2人の職員で対応すること。
(2) 苦情相談を受けるに当たっては、同性の職員が同席するよう努めること。
(3) 相談を受ける職員は、苦情相談に適切に対応するために、相互に連携し、協力すること。
(4) 実際に苦情相談を受けるに当たっては、その内容を相談を受ける職員以外の者に見聞きされないよう周りから遮断した場所で行うこと。

 2 相談者から事実関係等を聴取するに当たり留意すべき事項
 苦情相談を行う職員(以下「相談者」という。)から事実関係等を聴取するに当たっては、次の事項に留意する必要がある。
(1) 相談者の求めるものを把握すること。
 将来の言動の抑止等、今後も発生が見込まれる言動への対応を求めるものであるか、又は喪失した利益の回復、謝罪要求等過去にあった言動に対する対応を求めるものであるかについて把握すること。

(2) どの程度の時間的な余裕があるかについて把握すること。
 相談者の心身の状態等を鑑み、苦情相談への対応に当たりどの程度の時間的な余裕があるのかを把握する。

(3) 相談者の主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聞くこと。
 特に相談者が被害者の場合、セクシュアル・ハラスメントを受けた心理的な影響から必ずしも理路整然と話すとは限らない。むしろ脱線することも十分想定されるが、事実関係を把握することは極めて重要であるので、忍耐強く聴くよう努める。

(4) 事実関係については、次の事項を把握すること。なお、これらの事実を確認する場合、相談者が主張する内容については、当事者のみが知り得るものか、又は他に目撃者がいるのかを把握すること。
 @ 当事者(被害者及び加害者とされる者)間の関係。
 A 問題とされる言動が、いつ、どこで、どのように行われたか。
 B 相談者は、加害者とされる者に対してどのような対応をとったか。
 C 監督者等に対する相談を行っているか。

(5) 聴取した事実関係等を相談者に確認すること。
聞き間違えの修正並びに聞き漏らした事項及び言い忘れた事項の補充ができるので、聴取事項を書面で示したり、復唱するなどして相談者に確認する。

(6) 聴取した事実関係については、必ず記録にしてとっておくこと。

 3 加害者とされる職員からの事実関係等の聴取
(1) 原則として、加害者とされる職員から事実関係等を聴取する必要がある。ただし、セクシュアル・ハラスメントが職場内で行われ比較的軽微なものであり、対応に時間的な余裕がある場合などは、監督者の観察、指導による対応が適当な場合も考えられるので、その都度適切な方法を選択して対応する。
(2) 加害者とされる職員から事実関係等を聴取する場合には、加害者とされる職員に対して十分な弁明の機会を与える。
(3) 加害者とされる職員から事実関係等を聴取するに当たっては、その主張に真摯に耳を傾け丁寧に話を聞くなど、相談者から事実関係等を聴取する際の留意事項を参考にし、適切に対応する。

 4 第三者からの事実関係等の聴取
 職場内で行われたとされるセクシュアル・ハラスメントについて当事者間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合などは、第三者から事実関係等を聴取することも必要である。
この場合、相談者から事実関係等を聴取する際の留意事項を参考にし、適切に対応する。
 5 相談者に対する説明
 苦情相談に関し、具体的にとられた対応については、相談者に誠実に説明する。


第3 問題処理のための具体的な対応例

 相談員が、苦情相談に対応するに当たっては、セクシュアル・ハラスメントに関して相当程度の知識を持ち、個々の事例に即して柔軟に対応することが基本となることは言うまでもないが、具体的には、事例に応じて次のような対処が方策として考えられる。

 1 セクシュアル・ハラスメントを受けたとする職員からの苦情相談
(1) 職員の監督者等に対し、加害者とされる職員に指導するよう要請する。
 例えば、職場内で行われるセクシュアル・ハラスメントのうち、その対応に時間的な余裕があると判断されるものについては、職場の監督者等に状況を観察するよう要請し、加害者とされる職員の言動のうち問題があると認められるものを適宜注意させる。

(2) 加害者に対して直接注意する。
 例えば、性的なからかいの対象にするなどの行為を頻繁に行うことが問題にされている場合において、加害者とされる者は親しみの表現として発言等を行っており、それがセクシュアル・ハラスメントであるとの意識がない場合には、相談員が加害者とされる者に対し、その行動がセクシュアル・ハラスメントに該当することを直接注意する。

(3) 被害者に対して指導、助言をする。
 例えば、職場の同僚から好意を抱かれ食事やデートにしつこく誘われるが、相談者がそれを苦痛に感じている場合については、相談者自身が相手の職員に対して明確に意思表示するよう助言する。

(4) 当事者間のあっせんを行う。
 例えば、被害者がセクシュアル・ハラスメントを行った加害者に謝罪を求めている場合において、加害者も自らの言動について反省しているときには、被害者の要求を加害者に伝え、加害者に対し謝罪を促すようあっせんする。

(5) 人事上必要な措置を講じるため、人事当局等との連携をとる。
 例1:例えば、セクシュアルハラスメントの内容がかなり深刻な場合で被害者と加害者とを同じ職場で勤務させることが適当でないと判断される場合などには、人事当局との十分な連携の元に当事者の人事異動等の措置をとることも必要となる。

 2 セクシュアル・ハラスメントとの指摘を受けたが納得がいかない旨の相談
 例えば、昼休みに自席で週刊誌のグラビアのヌード写真を周辺の目に触れるように眺めていたところ、隣に座っている同僚の女性職員から、他の職員の目に触れるのはセクシュアル・ハラスメントであるとの指摘を受けたが、納得がいかない旨の相談があった場合には、相談者に対し、周囲の職員が不快に感じる以上はセクシュアル・ハラスメントに当たる旨注意喚起をする。

 3 第三者からの苦情相談
 例1:例えば、同僚の女性職員がその上司から性的なからかいを日常的に繰り返し受けているのを見て不快に思う職員から相談があった場合には、同僚の女性職員及びその上司から事情を聞き、その事実がセクシュアル・ハラスメントであると認められる場合には、その上司に対して監督者を通じ、又は相談員が直接に注意を促す。
例2:例えば、非常勤職員に執拗につきまとったり、その身体に不必要に触る職員がいるが、非常勤職員である本人は、立場が弱いため苦情を申し出ることをしないような場合について第三者から相談があったときには、本人から事情を聴き、事実が認められる場合には、本人の意向を踏まえた上で、監督者を通じ、又は相談員が直接に加害者とされる職員から事情を聴き、注意する。


第4 学生等又は学生等の保護者に係る苦情相談について

 学生等又は学生等の保護者に係る苦情相談への対応については、上記事項に留意するとともに、当該学生等の心身の発達段階等を十分に考慮する必要がある。


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