● 子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画 平成14年8月9日 文部科学省告示第163号



文部科学省告示第百六十三号


    子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画


 子どもの読書活動の推進に関する法律(平成十三年法律第百五十四号)第八条第一項の規定に基づき、子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画(平成十四年八月二日閣議決定)が定められたので、同条第二項の規定に基づき、公表する。

          記

平成十四年八月九日

目次
第1章 はじめに
第2章 基本的方針
1 子どもが読書に親しむ機会の提供と諸条件の整備・充実
2 家庭、地域、学校を通じた社会全体での取組の推進
3 子どもの読書活動に関する理解と関心の普及
第3章 子どもの読書活動の推進のための方策
1 家庭、地域、学校における子どもの読書活動の推進
(1) 家庭・地域における子どもの読書活動の推進
ア 家庭における子どもの読書活動の推進
@ 子どもの読書活動の推進における家庭の役割
A 家庭教育に関する学習機会等を通じた読書活動への理解の促進
イ 図書館における子どもの読書活動の推進
@ 子どもの読書活動の推進における図書館の役割
A 図書館における子どもの読書活動の推進のための取組
ウ 児童館における子どもの読書活動の推進
エ 民間団体の活動に対する支援
@ 子どもの読書活動の推進における民間団体の活動の役割
A 民間団体の活動に対する支援
(2) 学校等における子どもの読書活動の推進
ア 子どもの読書活動の推進における学校の役割
イ 児童生徒の読書習慣の確立・読書指導の充実
ウ 家庭・地域との連携による読書活動の推進
エ 学校関係者の意識高揚
オ 障害のある子どもの読書活動の推進
カ 幼稚園や保育所における子どもの読書活動の推進
2 子どもの読書活動を推進するための施設、設備その他の諸条件の整備・充実
(1) 地域における子どもの読書環境の整備
(2) 公立図書館の整備・充実
ア 図書資料の整備
イ 設備等の整備・充実
@ 移動図書館車の整備
A 図書館の情報化
B 児童室等の整備
ウ 司書の研修等の充実
@ 司書の養成と適切な配置
A 司書の研修の充実
エ 障害のある子どもの読書活動を推進するための諸条件の整備・充実
(3) 学校図書館等の整備・充実
ア 子どもの読書活動の推進における学校図書館の役割
イ 学校図書館の図書資料、施設、設備その他の諸条件の整備・充実
@ 学校図書館図書整備5か年計画
A 学校図書館施設・設備の整備・充実
B 学校図書館の情報化
C 学校図書館の活用を充実していくための人的配置の推進
i 司書教諭の配置
ii 学校図書館担当事務職員の配置
iii 教職員間の連携
iv 外部人材による学校図書館活動の支援
D 学校図書館の開放
ウ 幼稚園や保育所における図書スペースの確保と選書の工夫
3 図書館間協力等の推進
(1) 図書館間等の連携・協力
(2) 図書館と大学図書館の連携・協力
(3) 図書館・学校図書館と「国際子ども図書館」との連携・協力
4 啓発広報等
(1) 啓発広報の推進
ア 「子ども読書の日」を中心とした全国的な啓発広報の推進
イ 各種情報の収集・提供
(2) 優れた取組の奨励
(3) 優良な図書の普及
第4章 方策の効果的な推進に必要な事項
1 推進体制等
(1) 推進体制
(2) 地域における子どもの読書活動推進体制の整備
(3) 地方公共団体間の連携・協力体制の整備
(4) 民間団体間の連携・協力の促進に対する支援
2 財政上の措置



第1章 はじめに

 今日、テレビ、ビデオ、インターネット等の様々な情報メディアの発達・普及や子どもの生活環境の変化、さらには幼児期からの読書習慣の未形成などにより、子どもの「読書離れ」が指摘されている。
 平成13年5月に行われた調査によれば、児童生徒の1か月の平均読書冊数は、小学校で6.2冊、中学校で2.1冊、高等学校で1.1冊、1か月に1冊も本を読まなかった児童生徒の割合は、小学校で10.5%、中学校で43.7%、高等学校で67.0%となっている。また、平成12年に行われた経済協力開発機構(OECD)生徒の学習到達度調査によれば、「趣味としての読書をしない」と答えた生徒は、OECD平均では31.7%であるが、日本では55%となっており、「どうしても読まなければならないときしか、本を読まない」と答えた生徒は、OECD平均では12.6%であるが、日本では22%となっている。
 読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊なものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことができないものであり、社会全体でその推進を図っていくことは極めて重要である。
 平成11年8月には、読書の持つ計り知れない価値を認識して、子どもの読書活動を国を挙げて支援するため、平成12年を「子ども読書年」とする旨の衆参両院の決議がなされ、また、平成12年1月には国立国会図書館の支部図書館として「国際子ども図書館」が設立され、同年5月に開館した。さらに、同年12月に出された「教育改革国民会議報告書」では、「読み、書き、話すなど言葉の教育」を重視すべきことが提言された。このような中で、子どもの読書活動の推進のための取組を進めていくため、平成13年11月、議員立法により法案が国会に提出され、同年12月に「子どもの読書活動の推進に関する法律」として公布・施行された。
 この法律は、子どもの読書活動の推進に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、国が「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」を策定・公表すること、地方公共団体が「子どもの読書活動の推進に関する施策についての計画」を策定・公表すること、4月23日を「子ども読書の日」とすること等を定めることにより、施策の総合的かつ計画的な推進を図るものである。
 本計画は、同法第8条第1項の規定に基づき、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において、自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備を推進することを基本理念として、施策の総合的かつ計画的な推進を図るため定めるものである。
 なお、本計画は、おおむね5年間にわたる施策の基本的方向と具体的な方策を明らかにするものである。

第2章 基本的方針

1 子どもが読書に親しむ機会の提供と諸条件の整備・充実

 子どもが自主的に読書を行うようになるためには、乳幼児期から読書に親しむような環境作りに配慮することが必要である。
 家庭、地域、学校においては、子どもが積極的に読書活動を行う意欲を高め、進んで読書を行う態度を養い、生涯にわたる読書習慣を身に付けることができるよう、子どもの発達段階に応じて、子ども自身が読書の楽しさを知るきっかけを作り、その読書活動を広げ、読書体験を深めることが肝要である。そして、子どもが興味を持ち、感動する本等を身近に整えることが重要である。
 このような観点から、国は、子どもの自主的な読書活動の推進に資するため、子どもが読書に親しむ機会の提供に努めるとともに、施設、設備その他の諸条件の整備・充実に努める。

2 家庭、地域、学校を通じた社会全体での取組の推進

 子どもの自主的な読書活動を推進するためには、家庭、地域、学校を通じた社会全体での取組が必要である。それぞれがまずその担うべき役割を果たして子どもが読書に親しむ機会の充実を図ることはもとより、子どもの読書活動に携わる学校、図書館などの関係機関、民間団体、事業者等が緊密に連携し、相互に協力を図りつつ、取組を推進していくことが肝要である。
 このような観点から、国は、家庭、地域、学校それぞれが相互に連携・協力して子どもの自主的な読書活動の推進を図るような取組の推進とともに、必要な体制の整備に努める。

3 子どもの読書活動に関する理解と関心の普及

 子どもの自主的な読書活動を推進するためには、子どもの読書活動の意義や重要性について、国民の間に広く理解と関心を深める必要がある。
 子どもは、大人から民話などの話を聞いたり、読書する大人の姿などに触発されたりして、読書意欲を高めていく。子どもを取り巻く大人を含めて読書活動を推進する気運を高めるとともに、特に、保護者、教員、保育士等が読書活動に理解と関心を持つことが子どもに自主的な読書態度や読書習慣を身に付けさせる上で重要である。
 このような観点から、国は、子どもの自主的な読書活動を推進する社会的気運の醸成を図るため、読書活動の意義や重要性について広く普及・啓発を図るよう努める。


第3章 子どもの読書活動の推進のための方策

1 家庭、地域、学校における子どもの読書活動の推進

(1) 家庭・地域における子どもの読書活動の推進

ア 家庭における子どもの読書活動の推進

@ 子どもの読書活動の推進における家庭の役割

 子どもの読書習慣は日常の生活を通じて形成されるものであり、読書が生活の中に位置付けられ継続して行われるよう親が配慮していくことが肝要である。
 家庭においては、読み聞かせをしたり、子どもと一緒に本を読むなど工夫して子どもが読書と出会うきっかけを作るとともに、「読書の時間」を設けるなどして子どもに読書の習慣付けを図ったり、読書を通じて子どもが感じたことや考えたことなどを話し合うことなどにより、読書に対する興味や関心を引き出すように子どもに働き掛けることが望まれる。

A 家庭教育に関する学習機会等を通じた読書活動への理解の促進

i 図書館における親等を対象とした講座はもちろん、市町村が実施する、妊娠期、乳幼児期、思春期等子どもの発達段階に応じた家庭教育に関する講座や、子育て支援の一環として公民館等において行う、読み聞かせなどの親子が触れ合う機会の提供を通じ、読み聞かせや読書の重要性についての理解の促進を図る。

ii 乳幼児や小学生等を持つ親に配布する「家庭教育手帳」や「家庭教育ノート」を通じて、家庭における読み聞かせや、子どもが読書の時間を持つよう家庭で習慣付けることの重要性についての理解の促進を図る。

イ 図書館における子どもの読書活動の推進

@ 子どもの読書活動の推進における図書館の役割

 図書館(図書館法(昭和25年法律第118号)第2条第1項に規定する図書館をいう。以下同じ。)は、子どもにとっては、自分の読みたい本を豊富な図書の中から自由に選択し、読書の楽しみを知ることのできる場所であり、また保護者にとっては、自分の子どもに与えたい本を選択したり、子どもの読書について相談することのできる場所である。
 また、図書館は、読み聞かせやお話し会の実施、子どもに薦めたい図書の展示会の開催、保護者を対象とした読み聞かせや本の選び方・与え方の指導等、子どもの読書活動を推進する上で重要な役割を果たしている。
 さらに、子どもの読書活動を推進する団体・グループへの支援や図書館の諸活動を支援するボランティアに対して、必要な知識・技術を習得するための学習の機会の提供等も行っている。

A 図書館における子どもの読書活動の推進のための取組

i 公立図書館(図書館法第2条第2項に規定する公立図書館をいう。以下同じ。)において、「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年文部科学省告示第132号)に基づき、

○ 子どもに対するサービスの充実に資するため、必要なスペースを確保するとともに、児童図書の収集・提供、子どもの読書活動を推進するための読み聞かせ等の実施に努めること

○ 地域に在留する外国人の子ども等に対するサービスの充実に資するため、外国語資料の収集・提供、利用案内やレファレンス・サービス(利用者の問い合わせに応じたり、参考資料を提供したりする業務)等に努めること

○ 子どもに対する新たな図書館サービスを展開していくため、必要な知識・技能等を有する者のボランティアとしての参加を一層促進すること

○ 希望者に活動の場等に関する情報の提供やボランティアの養成のための研修の実施など諸条件の整備に努めること

などの取組が一層推進されるよう促していく。

ii 公立図書館を中心に、地域の読書活動推進団体、グループ、青少年団体等の関係団体、保健所・保健センター、保育所等の関係機関と連携した取組の促進を通じて、公立図書館の行う子どもの読書活動を推進する取組の充実に努める。

ウ 児童館における子どもの読書活動の推進

 児童館は、子どもに健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操を豊かにすることを目的とした施設である。児童館の図書室では、絵本等の児童図書を活用した様々な活動が行われている。中でも保護者や地域のボランティアによる読み聞かせやお話し会などの活動は、図書館における諸活動と同様、子どもが読書に親しむ契機となっている。このため、これらの活動が一層推進されるよう促していく。

エ 民間団体の活動に対する支援

@ 子どもの読書活動の推進における民間団体の活動の役割

 民間団体は、子どもの読書活動の推進に関する理解や関心を広めるとともに、子どもが読書に親しむ様々な機会を提供するなど、子どもの自主的な読書活動を推進することに大きく寄与している。例えば、全国レベルでは、読書週間等のキャンペーン、全国各地を訪問して行う読み聞かせ、フォーラムの開催、読書指導員の養成等が行われ、地域レベルでは、約5,000の自発的に組織するグループにより、草の根的に文庫活動、読み聞かせ等が行われている。

A 民間団体の活動に対する支援

 子どもの読書活動の推進を図る民間団体の活動をより充実させるとともに、民間団体がネットワークを構築して実施する情報交流や合同研修などの促進を図るため、「子どもゆめ基金」による助成を行うなど、これら民間団体の活動を支援していく。
 また、地方公共団体においては、子どもの読書活動を推進する活動で公共性が高いと認められるものについては、活動の場の確保のため、域内の公民館等の公共施設の利用に便宜を図るなど、奨励方策を講じることが期待される。

(2) 学校等における子どもの読書活動の推進

ア 子どもの読書活動の推進における学校の役割

 学校においては、従来から国語などの各教科等における学習活動を通じて、読書活動が行われてきており、子どもの読書習慣を形成していく上で大きな役割を担っている。
 例えば、学習指導要領においては、小・中学校の国語科で、児童生徒の発達段階に応じて、「楽しんで読書しようとする態度を育てる」ことや「読書に親しみものの見方や考え方を広げようとする態度を育てる」ことなどを目標としている。
 また、各教科、特別活動、総合的な学習の時間を通じて、児童生徒の調べ学習など多様な学習活動を展開していくために、「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童・生徒の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実する」こととしている。

イ 児童生徒の読書習慣の確立・読書指導の充実

 小・中・高等学校の各学校段階において、児童生徒の読書に親しむ態度を育成し、読書習慣を身に付けさせることが大切である。このため、既に8,000校を超える学校で実践されている「朝の読書」や読み聞かせなどの取組を一層普及させる。また、学校において推薦図書コーナーを設けたり、卒業までに一定量の読書を推奨するなど各学校が目標を設定することにより、学校や家庭における読書習慣を確立するよう促していく。
 また、児童生徒の自主的な読書活動の一層の推進を図るため、読書指導に関する研究協議や先進的な取組例の紹介などにより、教職員の指導力の向上、学校図書館を活用した指導の充実に努める。
 海外の日本人学校においても、児童生徒が豊かな読書活動を体験できるよう、図書の整備や読書活動の実践事例の紹介など児童生徒の自主的な読書活動に資する取組を推進していく。

ウ 家庭・地域との連携による読書活動の推進

 子どもの読書活動を支援していくため、学校が家庭・地域と連携して子どもの「生きる力」をはぐくむ読書活動を推進する取組を促進するとともに、各地域で参考となるような事例の紹介・普及を図り、地域が一体となった子どもの読書活動の一層の推進を図っていく。

エ 学校関係者の意識高揚

 子どもの読書活動に資する取組を推進していくため、学校図書館の活用方策や読書活動の促進方策について、先進的な取組に関する情報交換や研究協議などを行うことにより、司書教諭をはじめとする学校関係者の意識の高揚を図っていく。

オ 障害のある子どもの読書活動の推進

 障害のある子どもが豊かな読書活動を体験できるよう、盲学校、聾学校及び養護学校における障害のある子どもの読書活動支援について、障害の状態に応じた選書や環境の工夫、視聴覚機器の活用等の優れた実践事例の紹介等により推進を図る。また、盲学校点字情報ネットワークの活用などにより、各盲学校で作成した点字図書や全国の点字図書館等の点字データの相互利用を促進する。

カ 幼稚園や保育所における子どもの読書活動の推進

@ 幼児期に読書の楽しさと出会うため、幼稚園や保育所において、幼稚園教育要領及び保育所保育指針に示されているように、幼児が絵本や物語などに親しむ活動を積極的に行うよう、教員及び保育士の理解を促進する。あわせて、幼稚園・保育所で行っている未就園児を対象とした子育て支援活動の中でも、読み聞かせ等を推進する。

A 幼児期において子どもが絵本等の楽しさと出会う上で、読み聞かせ等を行うことも重要であることから、幼稚園、保育所等において、保護者等に対し、読み聞かせ等の大切さや意義を広く普及する。

B 異年齢交流において、小学生・中学生が幼稚園・保育所の幼児に読み聞かせを行うなど、子どもが絵本等に触れる機会が多様になるよう工夫する。

2 子どもの読書活動を推進するための施設、設備その他の諸条件の整備・充実

(1) 地域における子どもの読書環境の整備

 子どもの読書活動を推進するためには、身近なところに読書のできる環境を整備していくことが重要である。

ア 図書館は、子どもが、学校外で、本と出会い読書を楽しむことのできる場所であり、地域における子どもの読書活動推進の中核的な役割を果たすことが期待されている。公立図書館を設置する市町村の割合は、市(区)で96.5%、町村で36.1%となっている(平成11年度文部科学省社会教育調査)。したがって、公立図書館が未設置の市町村については、その設置について積極的な検討が行われることが望まれる。
 「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」においては、市町村は、住民に対して適切な図書館サービスを行うことができるよう、公立図書館の設置に努めることや、都道府県は、図書館未設置の町村が多く存在することも踏まえ、町村立図書館の設置及び運営に対する助言等を計画的に行うことなどが示されている。
 そこで、都道府県が未設置市町村に対して計画的に行う助言等を通じて、公立図書館が果たす役割の重要性についての認識を深めるとともに、図書館設置の気運を醸成し、その整備を促していく。

イ また、既に公立図書館の整備が行われている市町村に対しても、地域の実情に応じて、分館や移動図書館車の整備、公民館図書室や各種施設の図書コーナーの整備、学校図書館の開放などを促すことにより、地域における読書環境の整備に努める。

ウ さらに、子どもの読書環境を整備する上で、都道府県立図書館、市町村立図書館、学校図書館その他関係機関との間のネットワークを構築し、図書の貸借をはじめとする連携・協力や情報交換などを行うことが重要であり、その積極的な推進を促していく。

(2) 公立図書館の整備・充実

公立図書館が地域における子どもの読書活動を推進する上で積極的な役割を果たせるよう、以下のような取組を推進する。

ア 図書資料の整備

 子どもの読書活動を推進していくためには、公立図書館に豊富で多様な図書資料を整備していくことが必要である。
 公立図書館の図書等資料の整備については、地方交付税により措置されており、各地方公共団体において、計画的な整備が図られるよう努める。

イ 設備等の整備・充実

@ 移動図書館車の整備

 移動図書館車によるサービスは、図書館から遠距離にある地域に居住する子どもの読書活動の推進に大変有効であり、図書館の重要な活動の一つであることから、公立図書館における移動図書館車の整備を推進する。

A 図書館の情報化

 地域住民に対する児童図書の蔵書・貸出し情報やお話し会の開催など子どもの読書活動の機会に関する情報等の提供は、子どもの読書活動を推進していく上で重要な役割を果たす。利用者が利用できるコンピュータの設置状況は、都道府県立図書館で77.0%、市町村立図書館で46.4%となっている。また、インターネット接続コンピュータの利用者への開放状況は、都道府県立図書館で59.0%、市町村立図書館で24.6%となっている(いずれも平成13年5月文部科学省調べ)。
 このため、インターネット等で検索できる情報検索システムの公立図書館への導入及び利用者用コンピュータの設置など図書館の情報化を推進する。

B 児童室等の整備

 図書館の中で児童室を置いているのは、60.6%である(平成11年度文部科学省社会教育調査)。「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」に基づき、児童室や児童コーナーなど子どもが読書を行うために必要なスペースの確保等を促していく。

ウ 司書の研修等の充実

@ 司書の養成と適切な配置

 司書は、児童図書をはじめとする図書館資料の選択・収集・提供、利用者に対する読書相談、子どもの読書活動に対する指導など、子どもの読書活動を推進する上で極めて重要な役割を果たす。
 このため、その養成を進めるとともに、司書の重要性についての地方公共団体の認識を深め、司書の適切な配置を促していく。

A 司書の研修の充実

 公立図書館には、児童図書や児童文学に関する広範な知識と子どもの発達段階に応じた図書の選択に関する知識、及び子どもの読書指導に関する知識と技術を有する司書の配置が望まれる。
 このため、司書がこれらの専門的知識・技術を習得することができるよう、研修の充実を図っていく。

エ 障害のある子どもの読書活動を推進するための諸条件の整備・充実

 障害のある子どもが自主的に読書活動を行える環境を整備することは極めて重要である。図書館等においては、例えば視覚に障害のある利用者に対して、点字刊行物及び視覚障害者用の録音物の貸出し並びに閲覧業務を行っており、録音図書を所有する公立図書館は約20%、点字図書等を所有する公立図書館は約30%となっている(平成11年度文部科学省社会教育調査)。
 こうした中で、障害のある子どもについても、施設整備面での配慮、及び点字資料、録音資料、手話や字幕入りの映像資料等の充実に努め、貸出し及び閲覧業務の実施や図書館利用の際の介助、対面朗読等を推進するよう促すとともに、「点字図書」及び「声の図書」の増刷・普及に協力する点訳・朗読奉仕員の養成を行うことなどを通じて、視覚に障害のある子どもの読書活動の推進のための条件の整備・充実に努める。

(3) 学校図書館等の整備・充実

ア 子どもの読書活動の推進における学校図書館の役割

 学校図書館は、児童生徒の自由な読書活動や読書指導の場として、さらには想像力を培い学習に対する興味・関心等を呼び起こし豊かな心を育む読書センターとしての機能と、児童生徒の自発的、主体的な学習活動を支援し、教育課程の展開に寄与する学習情報センターとしての機能を果たし、学校教育の中核的な役割を担うことが期待されている。特に、学校教育においては、児童生徒が自ら考え、主体的に判断し、行動できる資質や能力などの「生きる力」を育むことが求められており、学校図書館には、様々な学習活動を支援する機能を果たしていくことが求められる。

イ 学校図書館の図書資料、施設、設備その他の諸条件の整備・充実

@ 学校図書館図書整備5か年計画

 子どもの豊かな読書経験の機会を充実していくためには、子どもの知的活動を増進し、多様な興味・関心にこたえる魅力的な図書資料を整備・充実させていくことが必要である。また、各教科、特別活動、総合的な学習の時間において多様な教育活動を展開していくために、学校図書館を充実していくことが求められている。
 このことを踏まえ、平成14年度からの5年間で公立義務教育諸学校の学校図書館図書資料を約4千万冊整備することを目指し、新たに、「学校図書館図書整備5か年計画」を策定したところであり、平成14年度から平成18年度までの5年間で、毎年約130億円、総額で約650億円の地方交付税措置が講じられることとされている。今後、この計画に沿って、各地方公共団体において、学校図書館図書資料の計画的な整備が図られるよう努める。
 また、私立学校についても、図書資料の整備が促進されるよう支援を図っていく。

A 学校図書館施設・設備の整備・充実

 学校図書館施設については、読書スペースの整備が進められるよう、余裕教室等を学校図書館に改修する際に国庫補助を行っているほか、校舎の新増改築の際の国庫補助基準面積の改定を行うなど所要の措置を講じている。
 今後、各学校における多様な読書活動の推進が図られるよう、学校図書館の施設や環境についてのモデル的な事例を紹介するとともに、各学級における読書活動を視野に入れた環境整備等を促していく。

B 学校図書館の情報化

 学校図書館にコンピュータを整備し、他校の学校図書館や図書館等とオンライン化することにより、自校の学校図書館のみならず、地域全体での蔵書の共同利用や各種資料の検索、多様な興味・関心にこたえる蔵書の整備等が可能となる。
 学校図書館にコンピュータを整備している公立学校は23.6%であり、そのうちLAN(校内情報通信網)に接続している学校図書館は19.1%となっている(平成13年3月文部科学省調べ)。
 学習指導に用いる公立学校の教育用コンピュータの整備については、従来より、地方交付税措置による整備が進められており、学校図書館等への効果的な配置を進める。また、学校図書館、コンピュータ教室、普通教室、特別教室等を校内LANで接続し、学校内のどこにあっても学校内外の様々な情報資源にアクセスできる環境の整備に努める。
 学校のインターネット接続については、児童生徒の調べ学習などの活動を展開していく上で大きな効果があることから、従来より、地方交付税措置等による整備が進められており、引き続き整備を促進する。
 また、学校図書館の蔵書情報のデータベース化、他校の学校図書館等とネットワーク接続を図ることにより、児童生徒のみならず家庭や地域住民全体での蔵書の共同利用や各種資料の検索などが可能となる。このため、他校の学校図書館や図書館などと連携して、蔵書等の共同利用化や必要な図書の学校を越えた相互利用の促進・普及等を図る。

C 学校図書館の活用を充実していくための人的配置の推進

 学校図書館の運営に当たっては、校長のリーダーシップの下、司書教諭が中心となり、教員、事務職員やボランティアが連携・協力して運営し、それぞれの立場から、学校図書館の機能の充実を図っていくことが重要である。

i 司書教諭の配置

 司書教諭は、学校図書館資料の選択・収集・提供や子どもの読書活動に対する指導等を行うなど、学校図書館の運営・活用について中心的な役割を担うものであることから、その配置の促進を図ることが必要である。
 学校図書館法(昭和28年法律第185号)第5条及び附則第2項の規定により、平成15年度以降、12学級以上の学校(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、盲学校、聾学校及び養護学校)に、司書教諭を必ず配置しなければならないこととされている。
 そこで、引き続き、司書教諭養成講習を実施し、発令の促進を図る。
 また、司書教諭が学校図書館の運営に十分な役割を果たすことができるよう、教職員の協力体制の確立や校務分掌上の配慮などの工夫を促すとともに、司書教諭の職務内容についての指導資料を新たに作成し、司書教諭の役割等について理解を図る。

ii 学校図書館担当事務職員の配置

 学校図書館を担当する事務職員は、司書教諭と連携・協力して、学校図書館に関する諸事務の処理に当たっている。今後、学校図書館の活用を更に充実するため、各地方公共団体における事務職員の配置の取組を紹介して、学校図書館の諸事務に当たる職員の配置を促していく。

iii 教職員間の連携

 学校教育において、各教科等を通じて学校図書館を活用した学習活動や、日々の読書指導の充実を図っていくためには、司書教諭のみならず、すべての教職員が連携して子どもの学習活動・読書活動を推進していくことが重要である。
 このため、各学校における校内研修や研究会などを通じた教職員間の連携や理解を促していく。

iv 外部人材による学校図書館活動の支援

 学校図書館で、保護者や地域住民によりボランティア活動が行われている学校は16.3%となっている(平成11年度間文部科学省調べ)。多様な経験を有する地域の社会人やボランティアの協力を得ていくことにより、児童生徒の読書に親しむ態度の育成や読書活動の推進に資する様々な活動を推進していくことが可能となる。
 このため、児童生徒に対する読み聞かせや本への興味を引き出すよう工夫を凝らして紹介を行う「ブックトーク」活動、学校図書館に関する広報活動、図書データベースの作成などの活動について、地域のボランティア、非常勤職員等の人材が十分に活動できるよう支援していく。

D 学校図書館の開放

 地域住民に学校図書館を開放している学校は8.9%である(平成11年度間文部科学省調べ)。学校週5日制の実施に当たっては、地域に開かれた学校作りを推進するため、学校の施設を積極的に開放していくことが求められている。このため、休業日においても、地域のボランティア等の協力を得ながら、各地域において適切に学校図書館の開放が進むよう促していく。

ウ 幼稚園や保育所における図書スペースの確保と選書の工夫

 幼稚園や保育所においても、子どもが絵本等に親しむ機会を確保する観点から、安心して図書に触れることができるようなスペースの確保に努めるとともに、保護者、ボランティア等と連携・協力するなどして、図書の整備を図るよう促していく。
 また、図書館等の協力を得て、発達段階に応じた図書を選定することへの配慮も促していく。

3 図書館間協力等の推進

(1) 図書館間等の連携・協力

ア 子どもの読書活動を一層推進していくためには、図書館と学校図書館とが連携・協力を行うことが重要である。
 このため、図書館の図書の学校図書館への団体貸出しや図書館職員が学校を訪問し、あるいは児童生徒が図書館を訪問して、読み聞かせを行うなどの取組を促していく。

イ また、図書館間での連携・協力を進めるため、児童図書等資料の相互貸借や複数の図書館で協力して行うレファレンスサービスの実施等の取組を促していく。

ウ さらに、

○ 公民館図書室や保育所、児童館等に対して図書の団体貸出しやお話し会などを実施する

○ 保健所・保健センターで実施される健診の際に司書が絵本の選び方や読み聞かせの方法について保護者に指導する

○ 司書、保健所・保健センターの保健師、地域のボランティア等が連携・協力して、乳幼児への読み聞かせの方法等を説明しながら保護者に絵本等を手渡す活動(いわゆるブックスタート活動)を実施するなど、図書館と様々な機関との連携・協力の推進を促していく。

(2) 図書館と大学図書館の連携・協力

 大学図書館の図書資料の図書館への貸出しなど、図書館と大学図書館の連携・協力の推進を促していく。

(3) 図書館・学校図書館と「国際子ども図書館」との連携・協力

 国立国会図書館の支部図書館として設置されている「国際子ども図書館」では、納本制度による児童図書の収集・保存、関連資料の収集・保存を行っており、いわゆる保存図書館としての役割を持っている。
 さらに、従来行われていた公立図書館や大学図書館に対する支援に加えて、学校図書館に対する支援も行うこととしており、図書や展示品の貸出しはもとより、電子図書館による児童図書に係る各種情報の提供、全国の図書館間における情報交換の場の提供等において全館種を対象とした図書館協力が想定されている。図書館・学校図書館には、「国際子ども図書館」との連携・協力の推進を促していく。

4 啓発広報等

(1) 啓発広報の推進

ア 「子ども読書の日」を中心とした全国的な啓発広報の推進

 「子ども読書の日」(4月23日)は、国民の間に広く子どもの読書活動についての関心と理解を深めるとともに、子どもが積極的に読書活動を行う意欲を高めるために設けられたものである。
 そこで、「子ども読書の日」の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めるとともに、地方公共団体、学校、図書館、子どもの読書活動の推進に取り組む民間団体等との連携を図りながら、ポスター、リーフレット等の作成・配布などにより、全国的な啓発広報を推進する。

イ 各種情報の収集・提供

 子どもの読書活動の実態や各地方公共団体、学校、図書館、民間団体等における様々な取組などに関する情報を収集する。そして、子どもの読書活動に関する情報に対して、多くの人々が容易に接し、活用することができるよう、インターネット上の文部科学省のホームページに子どもの読書活動の推進に関する専用のページを設けて関連情報を掲載するとともに、これを関係機関・団体等のホームページにリンクさせて情報を広く提供するなど、啓発広報を推進する。
 また、地方公共団体や民間団体においても、このような各種情報の提供を幅広く行うことが期待される。

(2) 優れた取組の奨励

 子どもの読書活動の推進に関し、優れた取組等を行っている者を表彰又は顕彰することにより、関係者の取組の意欲を更に高め、活動内容の充実を図るとともに、広く国民の間に子どもの読書活動についての関心と理解を深める。

ア 子どもの読書活動を推進するため、子どもが読書に興味を持つような活動、関係者の資質向上のための活動、関係する機関や団体間の連携等において特色ある優れた実践を行っている学校、図書館、民間団体及び個人に対し表彰を行うことにより、その取組の奨励を図る。

イ 児童図書の作り手の創作意欲を高め、児童図書の質的・量的充実を図るため、児童文学の分野において優れた業績を挙げた者を顕彰し、その創作活動の奨励と振興を図る。

(3) 優良な図書の普及

 児童福祉法第8条第7項の規定により、社会保障審議会では、福祉文化分科会を設け、児童の福祉に資する出版物を児童福祉文化財として推薦を行っている。
 このような優良な図書は、地域における子どもの読書活動の推進を図る上で有効である。図書館、児童福祉施設、視聴覚ライブラリー等にリストを配布することで、優良な図書を家庭・地域に周知・普及していく。


第4章 方策の効果的な推進に必要な事項

1 推進体制等

(1) 推進体制

 本計画の推進に当たっては、関係府省間相互の密接な連携を図るとともに、関係機関、地方公共団体、民間団体等との連携を更に深め、方策の効果的な推進を図る。

(2) 地域における子どもの読書活動推進体制の整備

 地方公共団体において、連携・協力の具体的な方策についての検討、関係者間の情報交換等を行うため、学校、図書館、教育委員会、民間団体等の関係者からなる総合的な推進体制が整備されるよう支援していく。

(3) 地方公共団体間の連携・協力体制の整備

 地方公共団体間における各種情報の交換等を促進するため、地方公共団体間において、都道府県・市町村それぞれの役割に応じ、相互の連携・協力体制の整備が推進されるよう促していく。
 特に、市町村は、身近な地方公共団体として、その役割は重要であることから、市町村相互の連携・協力体制の整備を積極的に推進することが期待される。

(4) 民間団体間の連携・協力の促進に対する支援

 民間団体が主体性を持ちつつ、相互に連携・協力を図ることは、それぞれの団体の活動内容を充実させるとともに、全体として子どもの読書活動の一層の推進に資することとなる。そこで、民間団体間の連携・協力の促進を図るため、その体制の整備の推進を支援していく。

2 財政上の措置

(1) 国は、本計画に掲げられた各種施策を実施するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努める。

(2) 国は、地方公共団体が地域の実情に応じて自主的に実施する子どもの読書活動の推進に関する施策のための費用について、必要な財政上の措置を講ずるよう努める。





Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会