◆ H08.03.29 大阪地裁判決 平成4年(ワ)第5768号 大阪市立鯰江中学校日の丸掲揚反対教員処分事件(損害賠償請求事件) 判示事項: 一 文部大臣が、中学校の教科事項を定める権限に基づき教育内容等について基準を定めた本件学習指導要領の基準は、教育における機会均等の確保と一定の全国的水準の維持という目的上、必要かつ合理的と認められる大網的基準にとどめられるべきところ、「入学式や卒業式などにおいて、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導する」旨の「国旗掲揚条項」(文部省告示第二五号)は、右大網的基準を逸脱せず法的効力を有するとされた例 二 現在においては、日の丸を日本国国旗とする慣行と国民的確信がすでに形成され、一種の慣習法となっているとされた例 三 国家や地方公共団体が、教師に対し、日の丸を掲揚する卒業式等に出席し、式典の事務運営の義務を課しても、教師に内心の世界観等の告白を強制するものでないかぎり、思想及び良心の自由の侵害に当たらないとされた例 判決要旨: 市立中学校の卒業式及び入学式に校長が日の丸を掲揚しようとしたことに反対し,卒業式の式典中にマイクで「壇上の日の丸に抗議します。」等と発言し,入学式の式典に「入学式に『日の丸』はいりません!」と記載したプレートを着用して参列したこと等を理由として教育長が同校教員に対してした訓告処分につき,前記日の丸掲揚行為は,前記校長,ひいては市がなすべき適法な事務というべきところ,当該事務を妨害するために正当な理由がなく前記教員が行った前記各行為は,法令等に従い,かつ上司の命令に忠実に従う義務に違反し,また,著しく職務専念義務に違反するものであるから,同行為に対して訓告処分が行われたことは,裁量権を逸脱したものとはいえないとして,適法とした事例     主   文 一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。     事実及び理由 第一 請求 一 被告大阪市は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成四年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 二 被告池本克己は、被告大阪市と連帯して、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成四年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要  本件は、大阪市立鯰江中学校(以下「鯰江中学校」という。)の教員であり、日の丸掲揚に反対の思想を有している原告が、(一)同校の校長である被告池本克己(以下「被告池本」という。)が、権限がないのに、同校の卒業式の式典の壇上、及び、入学式の式典場内に、日の丸を掲揚したため、日の丸を掲揚した右各式典への出席を余儀なくされて、思想及び良心の自由を侵害され、(二)原告が、右卒業式において、壇の下で、卒業証書授与のため卒業生の名前を呼び上げる際に、日の丸が掲揚されたことに対し抗議の発言をしたことと、及び、右入学式に、日の丸に対する抗議のプレートを着用したことを理由に、大阪市教育委員会教育長福岡康司(以下「教育長」という。)が、原告に対し、文書訓告の制裁を課したため、原告の思想及び良心の自由の権利が侵害されたとして、被告池本に対しては、民法七〇九条に基づき、被告大阪市に対しては、国賠法一条に基づき、慰謝料の支払を求めた事案である。 一 争いのない事実 1 原告は、鯰江中学校の教員であり、被告池本は、平成元年四月一日、鯰江中学校の校長として赴任し、平成五年三月三一日まで、同校の校長であった。  鯰江中学校の教職員数は約三一日であり、うち約二〇名が大阪市教職員組合、大阪市立学校園教職員組合、大阪市学校職員労働組合、大阪教育合同労働組合(以下「教育合同」という。)の四組合のいずれかに加盟し、平成四年三月当時、鯰江中学校内の教職員で教育合同に所属しているのは、原告のみであった。  なお。教育合同は、平成元年一一月二三日、教育に関係する労働者を主として結成された、大阪府内の公立学校の職員も構成員としているいわゆる混合の労働組合である。 2 文部大臣は、平成元年三月一五日、中学校学習指導要領の改訂を告示し(文部省告示第二五号)、その第四章第三の6において、従来、「国旗を掲揚し、国家(ママ)を斉唱するのが望ましい。」と定められていたのを、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国家を斉唱するよう指導するものとする。」旨改訂した(以下、右「国旗を掲揚する」との条項を、「国旗掲揚条項」という。)。  右告示の施行期日は、平成四年四月一日であったが、平成元年三月二七日付け文部省告示第三三号により、平成二年四月一日から平成四年三月三一日までの間、右規定を含めて、「特別活動の指導に当たっては、新中学校学習指導要領第四章の規定によるものとする。」との移行措置が定められた。 3 被告池本は、平成四年三月一二日、鯰江中学校の平成四年度の卒業式の際、校舎屋上及び式場の壇上に日の丸を掲揚した。  原告は、卒業証書授与の際、原告が担当する三年四組の生徒の氏名を、壇の下でマイクで読み上げる役割を担当していたが、卒業証書の授与が三年四組の番になった際、マイクで、「壇上の日の丸に抗議します。卒業式に日の丸はいりません。」と発言した。 4 さらに、被告池本は、平成四年四月二日、入学式の際、校舎屋上及び式場内に、日の丸を掲揚した。  これに対し、原告は、「入学式に『日の丸』はいりません!」と記載された縦約七センチメートル、横約一〇センチメートルの大きさのプレート(〈証拠略〉)を胸に着用して、入学式に出席し、教職員席に座った。 5 教育長は、平成四年五月一六日、原告に対し、次のとおり記載された文書を送付し、文書訓告をした(以下「本件文書訓告」という。)。「 あなたは、平成四年三月一二日の卒業式において、卒業証書授与の際、卒業生の氏名を読み上げる前に、『壇上の日の丸に抗議します。」と発言し、教頭が『やめなさい。』と制止したにもかかわらず、引き続き『卒業式に日の丸はいりません。』と発言した。  平成四年四月二日の入学式においても、あなたは、『入学式に日の丸はいりません。』と書いた縦約六センチメートル、横約七センチメートルのプレートを胸に着け、入学式終了後の打ち合せにおいても胸に着けたままであった。  上記のあなたの発言は、いずれも、学習指導要領に従って校長が指示した卒業式の進行を妨げるものであり、これらの発言は職務専念義務に違反することはもとより、教育公務員たるにふさわしくない非行であると言わざるを得ない。  また、入学式におけるプレートの着用も、公務員に課せられている職務専念義務に違反している。  よって、厳に訓告する。今後は、勤務時間中については、職務に専念し、入学式及び卒業式の式典において、その進行を妨げる言動をとることはないようにされたい。」 二 原告の主張 1 (被告両名に対する主張1被告池本の日の丸掲揚行為の違法性)  校長である被告池本には、入学式及び卒業式に日の丸を掲揚する権限はなかった。  (一) 学習指導要領には法的効力がない。  およそ、国家が、学校教育内容に干渉することは、教師の、教育の自由や子どもの学習権を侵害し、教育基本法一〇条で排除される「不当な支配」になるところ、日の丸は忠君愛国思想の象徴であって、学校儀式において日の丸の掲揚を法的に義務づけるのは、国家が、生徒に特定の観念を教授するように教師に強制することを意味し、学校教育の内容に干渉することになるから、このような義務を定めた国旗掲揚条項には法的効力がない。  また、国旗掲揚条項は、憲法と教育基本法が定めた個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期し、普遍的で個性豊かな文化の創造をめざす教育の基本目的に反し、かつ、教師による創造的、弾力的な教育を妨げるものであるから、法的効力がない。  (二) 国旗掲揚条項に法的効力があるとしても、入学式及び卒業式に国旗を掲揚することは、学校運営の基本的重要事項で、職員会議で審議すべきものであるところ、本件では、実際に審議して掲揚しないことに決定しているのであるから、校長は、職員会議の決定に従う義務がある。しかるに、被告池本は、職員会議の反対の決定を無視して日の丸を掲揚したものであり、被告池本の行為は、権限に基づくものでない。  (三) 日の丸は、国旗掲揚条項に定める「国旗」ではない。日の丸を国旗とする法律はないし、そのような慣習法も成立してない。したがって、日の丸を掲揚する法的根拠がないから、被告池本が日の丸を掲揚するのは、権限に基づかないものである。  (四) 日の丸が掲揚された卒業式等に出席を強制するのは違憲である。  日の丸は、歴史的にみて、忠君愛国思想の象徴であり、現在においても、「日本人としての自覚」、「愛国心」、「学校、社会、国家などの集団への所属感」を伝達する象徴になっているところ、憲法において保障された思想及び良心の自由は、そのような思想を伝達する手段として日の丸が掲揚された行事への出席を強制されない自由を含み(バーネット判決参照)、かつ、教員である原告にとって、入学式、卒業式に出席しないと、法律上又は事実上の不利益が避けられないから、右式典に参加しない自由はない。したがって、被告池本が、右各式典において日の丸を掲揚したことは、原告に、特定の思想を伝達する場への出席を強要し、原告の思想及び良心の自由を侵害したものである。 2 (本件文書訓告の違法性)  本件文書訓告は、次のとおり、措置事由がなく、また、裁量権を濫用してなされた違法なものである。  (一) 原告が、卒業式で、「壇上の日の丸に抗議します。」と発言した後、「卒業式に日の丸はいりません。」と発言する前に、教頭が「やめなさい。」と発言した事実はないから、原告は、職務上の命令に反していない。  (二) 大阪市教育委員会の本件文書訓告の措置は、従来の運用に照らして、不公平、恣意的なものであって、裁量権の濫用であり、違法である。  (三) 大阪市教育委員会は、原告が所属する教育合同を敵視し、その組合の弱体化を図るために、教育合同の方針で本件各行為を行った原告に対し、文書訓告を行ったものであって、本件文書訓告は、団結権を侵害する違法なものである。  また、原告の各行為は、組合の指示に従った「職員団体のためにした行為」で、右組合の団結権実現のための「正当な行為」であり、かつ、文書訓告は、「不利益な処分」に該当するから、本件文書訓告は、地方公務員法五六条に違反する。  さらに、大阪市教育委員会及び被告池本は、教育合同の団結権を認めず、組合敵視の一環として本件文書訓告を行ったのであって、これは組合弱体化をもたらす行為であり、「不当労働行為」(労働組合法七条)に該当する。 3 (損害及び被告らの責任)  (一) 原告は、被告池本の日の丸掲揚行為及び教育長の本件文書訓告の制裁により、思想及び良心の自由が侵害され、右各行為により、それぞれ一〇〇万円、合計二〇〇万円を下らない精神的損害を被ったところ、教育長の文書訓告行為、被告池本の日の丸掲揚行為は、いずれも、大阪市の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについてなした行為であるから、被告大阪市は、原告に対し、国賠法一条により、慰謝料金二〇〇万円の支払義務がある。  (二) 被告池本は、権限がないのに、本件入学式及び卒業式において日の丸を掲揚したのであるから、原告に対し、民法七〇九条に基づき、被告大阪市と連帯して、慰謝料一〇〇万円の支払義務を負う。  なお、国賠法により被告大阪市が責任を負担することと、公務員である被告池本が個人として不法行為責任を負担することは別異のものであり、被告池本が免責される理由はない。 三 被告らの主張 1 (被告両名−原告の主張−に対して)  被告池本には卒業式等に日の丸を掲揚する権限があった。  (一) 国旗掲揚条項には、法的効力がある(学校教育法三八条、一〇六条一項、同施行規則五四条の二)。  日本を含め、国家が、国旗をその国の象徴として大切にすることは、国際的ルールであるところ、前記のとおり、国旗掲揚条項で、右各式典に際し、国旗を掲揚することを厳格に求めるに至っているのは、右のような趣旨に基づくものであって、学校儀式で国旗を掲揚することは、学校教育として必要かつ相当と認められる範囲内であり、国旗掲揚条項は、法的効力を有する。  (二) 国旗を掲揚することは、校長の権限に属する職務である(学校教育法四〇条、二八条三項)。  職員会議は、校長の職務遂行上の補助機関にすぎず、職員会議の決定に、校長は拘束されない。  (三) 日の丸は、国旗掲揚条項に規定される「国旗」である。  日の丸が国旗であるとする一般的な規定はないが、商標法四条や海上保安庁法四条は、「国旗」につき規定するところ、右規定では、日の丸が国旗であるとするこれまでの国民の確信を前提とした上で、法律上、「国旗」という文言が使用されたのであって、日の丸が日本国の国旗であることは慣習法になっている。  (四) 思想及び良心の自由は、内心にとどまる限り保障されるものであり、日の丸が掲揚された入学式、卒業式に教職員として出席を義務づけられたからといって、教職員の思想及び良心の自由が侵害されるものではない。 2 (被告大阪市−原告の主張2に対して)  (一) 学校の入学式や卒業式において、日の丸を掲揚して式を挙行するのは、適法な公務の執行であり、およそ、学校の職員には、その式典の執行につき、それが円滑に行われるように務める職務専念義務があり(地方公務員法三五条)、これを妨害してはならないとの職務上の義務がある。また、校長は、職務上、学校職員に対して、右式典の執行を妨害しないように命令する権限を有する。  原告の本件卒業式での前記発言は、適法な公務としての卒業式の進行を妨害するものであり、右式典が円滑に進行するように職務に専念する義務に違反する。  被告池本は、本件卒業式の前日や当日の朝、卒業式が円滑に進行するように指示したにもかかわらず、原告がその命令に違反し、右発言を行ったこと、及び、卒業証書授与の際、「壇上の日の丸に抗議します。」と発言し、教頭が「やめなさい。」と制止したのに、さらに、「卒業式に日の丸はいりません。」と発言したことは、上司の職務上の命令に反するものであり、教育公務員にふさわしくない非行である。また、入学式における前記プレートの着用行為は、職務専念義務に違反する。  (二) 文書訓告とは、教育委員会の服務監督権に基づく所属教員に対する指導にすぎないものであり、地方公務員法に定められる懲戒処分や分限処分と異なり、昇給延伸等経済的不利益を被るものでもない行政上の措置にすぎないものであるところ、教育長は、原告に対し、行政措置として本件文書訓告をしたのであって、本件文書訓告は、措置事由があり、かつ相当なものであるから、適法である。  (三) 本件文書訓告は、前記の理由に基づいて行われたものであり、原告が、教育合同の構成員であるとか、教育合同のために行為をしたことを理由として行われたものではない。仮に、原告の行為が、教育合同の機関の決定に基づき、その指示に従った行為であるとしても、本件行為は、職員団体のために行いうる正当な行為とは認められない。 3 (被告池本)  被告大阪市が国賠法一条より責任を負う場合、被告池本は個人として賠償責任を負うものではないから、原告の被告池本に対する請求は失当である。 四 争点 1 被告池本の日の丸掲揚行為の違法性の有無  (一) 国旗掲揚条項に法的効力があるか。  (二) 校長の権限と職員会議の決定の効力との関係  (三) 日の丸は、国旗掲揚条項に定める「国旗」であるか。  (四) 卒業式等の際の国旗掲揚は、原告の思想及び良心の自由を侵害するか。 2 本件文書訓告の違法性の有無  (一) 措置事由の有無  (二) 団結権等侵害の有無 第三 争点に対する判断 一 争点1について 1 国旗掲揚条項の法的効力の有無  (一) 学習指導要領の法的効力の有無  憲法の精神である、民主的で文化的な国家の建設、個人の尊厳の実現を目的として制定された教育基本法は、一〇条において、まず、教育は、不当な支配に服することなく行われるべきものと定めており(同条一項)、右趣旨からすると、教育行政機関に対しても、教育関係法規を運用する際に、「不当な支配」にならないように配慮する義務を課しているものと解され、次に、教育行政は、右の自覚のもとに、教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならないと定めており(同条二項)、右趣旨からすると、教育行政機関は、その整備確立のための措置を講ずるにあたっては、教育の自主性尊重の見地から、これに対する「不当な支配」となることのないようにすべきものと解される。したがって、不当な支配を目的とするものでない限りは、教育行政機関が、必要かつ合理的な範囲で、教育内容及び方法を決定することは、同条の禁止するところではない。  本件学習指導要領は、右に述べた教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備の一環として、文部大臣が、中学校の教科に関する事項を定める権限に基づいて、普通教育に属する中学校における教育の内容等について基準を定めたものを告示したものであって(学校教育法三八条、一〇六条一項、同施行規則五四条の二)、法的効力を有するといえる。  唯、右基準は、教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために、必要かつ合理的と認められる大綱的基準にとどめられるべきものと解される。  したがって、学習指導要領の個別の条項が、右大綱的基準を逸脱し、また、内容的にも、教師に対し、一方的な一定の理論や観念を生徒に教え込むことを強制するような内容ならば、それは、教育基本法一〇条一項の不当な支配」に該当するものとして、法的効力は否定される場合もありうると解される。  (二) 国旗掲揚条項の法的効力 (1) 国旗掲揚条項は、教育の内容、方法について規定するものであるところ、(証拠略)によれば、国旗掲揚条項は、日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てるとともに、生徒が将来、国際社会において尊敬され、信頼される日本人として成長していくためには、生徒に国旗に対して正しい認識を持たせ、これを尊重していく態度を育てることが重要であること、入学式、卒業式は、学校生活に有意義な変化や折り目をつけ、厳粛かつ清新な雰囲気の中で、新しい生活への動機付けを行い、学校、社会、国家などの集団への所属感を深める上でよい機会となることから、このような意義を踏まえたうえで、これらの式典において、国旗を掲揚するように指導するものとしたことが認められる。  国旗掲揚条項の右趣旨は、憲法を受けた教育基本法一条にいう教育の目的に反するものとは言い難く、その性質上、王国的になされることが望ましいものであるから、これを学習指導要領の一条項として規定することは、教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために、必要なものということができる。 (2) 問題は、国旗掲揚条項の内容が、前記大綱的基準から逸脱するか否か、あるいは、内容的に、教師に対し、一定の理論等を生徒に教授することを強制するものであるか否かの点である。  まず、国旗掲揚条項は、前記のような趣旨に基づいているのであって、一般的普遍的な基準を示すものであり、それ以上にどのような教育をするかについて定めるものではない。また、右条項は、入学式、卒業式等の式典の内容や進行等の一部を規定しているにすぎず、具体的な国旗の掲揚方法等についても何ら指示するものでもない。さらに、(証拠略)によれば、どのような行事に国旗を掲揚するかについては、各学校が実施する行事の趣旨を踏まえて判断するのが適当であるとされていると認められる。すなわち、国旗の掲揚を行う式典(入学式、卒業式を除く。)の選択、国旗の掲揚を式典の設置、進行等の中で、どのように行うかは、各学校の判断に委ねられているから、決して一義的な内容というものではない。  以上の点から考えると、国旗掲揚条項は、前記大綱的基準を逸脱するものではない。  次に、国旗掲揚条項には、国旗の「意義を踏まえ」とあるが、その内容は前記のとおりであり、教師に対し、国旗を巡る客観的な歴史等を生徒に教授することを禁止するものではないから、教師に対し、一方的な一定の理論等を生徒に教え込むことを強制するものではない。  以上によれば、本件国旗掲揚条項は、教育基本法一〇条に抵触せず、法的効力を有すると解される。 2 校長の権限と職員会議の決定の効力について  (一) 校長の権限  学校教育法は、「校長は、校務をつかさどり、所属員を監督する。」と規定する(四〇条、二八条三項)。右にいう「校務」とは、学校の運営に必要な校舎等の物的施設、教員等の人的要素及び教育の実施の各事項につきその任務を完遂するために要求される諸般の事務を指すものと解されるところ、学校教育法施行規則五四条の二及びこれを受けて制定された学習指導要領によって、校務には、学習指導要領に基づく教育課程の計画、実施をなす責務と権限も含まれると解される。  したがって、国旗掲揚の事務の遂行は、学習指導要領の国旗掲揚条項により、校長の権限に属する職務であるといえる。  (二) 職員会議の決定の効力との関係  学校という組織体で、最終的に意思決定を行い、右意思決定に対して最終責任を有するのは校長であると解すべきであり、職員会議は、学校の「決議機関」といえず、校長の職務遂行上の補助機関にすぎないものというべきである。  したがって、仮に、被告池本が、入学式や卒業式等の式典に国旗を掲揚することを職員会議の審議事項にせず、あるいは、職員会議の審議とした上で、職員会議が国旗掲揚に反対する決定をした場合であったとしても、それにより、校長である被告池本の国旗を掲揚する権限が影響を受けるものではない。 3 日の丸は、国旗掲揚条項に規定される「国旗」であるか。  (一) 国家は、国旗を保有する権利を有すると解され、したがって、日本国においても、国旗を保有する権利があると解すべきところ、いかなる旗をもって日本国国旗とすべきかを一般的に規定した法規というものは存在しない。  しかしながら、日の丸以外に国旗として扱われているものはなく、現在でも効力のある郵船商船規則(明治三年太政官布告第五七号)によれば、日の丸をもって日本船舶に掲げられる国旗とされており、また、商標法四条(昭和三四年成立)や海上保安庁四条(昭和二三年成立)は「国旗」について規定しているが、日の丸が「国旗」であることを前提にしていると解される。さらに、明治以降、現在に至るまで、日本国国旗として日の丸が用いられ、日本国内の全国的な競技会等の場及び海外で行われる国際的な会合や競技等の場でも、普遍的に国旗として日の丸が掲揚されており、諸外国からも、日の丸が日本国の国旗として承認され、尊重されるに至っていることは公知の事実である。次に、証拠(〈証拠略〉)によれば、世論調査の結果、国民の大多数が、現在、日の丸を国旗として認識していると認められる。  したがって、以上の事実に照らすと、現在においては、日の丸を日本国国旗とする慣行と国民的確信が既に形成されており、それは一種の慣習法となっていると認められる。  (二) 原告は、そのような慣習法はない旨主張するが、その理由は、要するに、日の丸が天皇に対する忠君思想を象徴するものであり、現在の憲法の理念と相容れないから、公の秩序叉は善良の風俗に反し(法例二条参照)、慣習法の成立要件を欠くという点にあるものと解される。  そこで、検討するに、証拠(〈証拠・人証略〉)によっても、少なくとも、現在においては、日の丸が天皇に対する忠君思想の象徴であるとすることはできない。  国旗は、国民統合の象徴の役割を担っているが、国旗の有する意義も時代とともに変遷し、国旗を巡る考え方も不変ではない。国旗に対する意義付けや国民の国旗に対する考え方も、国旗を取り巻く政治的環境や文化的環境、国民の認識の変化に伴って変わるのは当然であり、過去の時代における国旗に対する意義付けや国民の考えが、現在にも引き継がれるというものではない。  日の丸に対して、第二次世界大戦の終了時というそう遠くない時代まで、現在の国民主権の観点からみて是認し得ない意義付けが行われたことは否定できないところであり、右の点を強調して、現在でも、日の丸を国旗とすることに反対する意見もある。  しかし、現在における日の丸の有する意義は、過去の時代のそれとは異なるものであり、日の丸を国旗として認識する大多数の国民の意識も、右の事実を前提にしていると理解される。  したがって、日の丸に対して、現在においては是認できない意義付けが過去においてなされたからといって、日の丸を日本国の国旗とする慣習法の成立が妨げられるということはできない。 4 卒業式等の際の国旗掲揚は、原告の思想及び良心の自由を侵害するか。  国旗である日の丸は、日本国民の統合の象徴という役割を果たすと考えられるが、入学式や卒業式に日の丸を掲揚したからといって、その式典が、何らかの思想に賛同を表するために開催されることになるものではなく、出席者が、そのような思想に賛同の意を表することになるものでもない。したがって、国家や地方公共団体が、教師に、日の丸を掲揚される卒業式等に出席し、その式典の事務運営をする義務を課しても、それは、右教師の内心の世界観等の告白を強制するというものでなく、これをもって、思想及び良心の自由を侵害する強制行為があったということはできない。 5 以上によれば、被告池本の本件卒業式等における国旗の掲揚を違法なものとすることはできない。 二 争点2について(本件文書訓告の違法性の有無) 1 前記争いのない事実によれば、教育長は、原告に対し、本件文書訓告を行ったものであるが、この文書訓告とは、服務監督権者(県費負担教職員にあっては、市町村教育委員会)が、教職員に対し、職務上の注意喚起や改善向上を目的として、訓告文を読み上げ、それを本人に交付し、将来を戒めるとともに、説諭を行うという行政措置であって、職員の義務違反に対し、公務員関係における秩序維持のため、任命権者(県費負担教職員にあっては、市町村教育委員会)が行う制裁である懲戒処分(戒告、減給、停職、免職。地方公務員法二七条、二九条)と異なり、法律で規定されたものでなく、人事記録カード等への履歴事項とされたり、給料の減額、昇給の停止を伴うなどの制裁的効果を有しないものである。  また、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、大阪市教育委員会が行う行政措置としては、文書訓告のほか、口頭注意、諭旨免職があるが、文書訓告は、口頭注意よりも、職務違反等が大きい場合に課されるという運用がなされていることが認められる。  そこで、本件文書訓告の措置事由の有無について検討する。 2 前記争いのない事実に加え、以下の証拠によれば、次の事実が認められる。  (一) 被告池本は、平成元年四月、鯰江中学校に校長として着任後、同年九月の運動会及び平成二年三月一四日の卒業式の際、日の丸を校舎屋上に掲揚した。同月一五日、前記四組合員等から構成される鯰江中学校職場協議会が結成され、原告も代表役員の一人になった。(〈証拠・人証略〉)  (二) その後も、被告池本は、平成二年四月三日の入学式及び同年九月の運動会に日の丸を校舎屋上に掲揚し、平成三年三月一四日の卒業式及び同年四月二日の入学式には、校舎屋上と式場内に日の丸を掲揚した。原告は、いずれの場合も、被告池本が日の丸を掲揚することに反対した。(〈証拠・人証略〉)  (三) 平成四年二月一三日、被告池本は、職員会議で、「国旗の掲揚について、入学式と同じ方法で実施したい。よろしくお願いする。」と発言した。これに対し、原告は、反対意見を述べた。  原告は、同年三月七日、教育合同として、組合掲示板に「卒業式に日の丸はいらない!」と記載されたポスターを張り、同明九日、教育合同鯰江中学校分会として、被告池本と日の丸掲揚につき話合いを行ったが、被告池本は、日の丸を掲揚するとの方針を撤回しなかった。原告は、同月一〇日、職務中に、「日の丸を強制しないでください」と記載されたプレートを着用し、同月一一日の卒業式の予行練習の場で、生徒に対し、卒業式の際に日の丸に抗議するかもしれないという趣旨の話をした。被告池本は、同日、卒業式の準備終了後の打合わせで、教職員に対し、「明日の卒業式がスムーズにいくよう。」にと指示した。(〈証拠・人証略〉)  (四) 平成四年三月一二日、卒業式の当日、被告池本は、屋上と式場内の壇上に日の丸を掲揚した。  被告池本は、朝の打ち合わせの際に、再度、教職員に、「式の進行がスムーズにいくよう、よろしくお願いする。」と指示した。原告は、遅刻してその場にいなかったので、被告池本は、約五分後に出勤した原告に対し、「卒業式の進行が円滑に行われるようにやってほしい。」と指示した。(〈証拠・人証略〉)  (五) 卒業式において、原告は、原告が担当する三年四組の生徒の氏名を壇の下でマイクで読み上げる事務を担当していたが、卒業証書の授与が三年四組の番になった際に、マイクで、ゆっくり大きな声で、「壇上の日の丸に抗議します。」と述べた。原告の立つマイク席の後ろ側一列目に座っていた教頭が立ち上がって、すぐ、「やめなさい。」と原告を制止した。しかし、原告は、続けて、「卒業式に日の丸はいりません。」と発言し、その後、「同じく四組。」と言って、生徒の名前を読み上げた。原告の発言によって、式場内が少しざわついた。(〈証拠・人証略〉)  これに対し、原告は、教頭は、原告の抗議の発言の終了後に原告を制止したものであり、式場内がざわついたことはない旨供述する。  しかし、原告は、日の丸の掲揚に抗議するために右のような発言をしたのだから、被告池本や卒業式の出席者等が十分に聞き取ることができるように、ある程度、ゆっくり、大きな声で発言したと推認できるところ、一方、教頭は、原告の上司として、すぐに原告の発言を制止したと考えるのが合理的であり、原告の抗議の発言の終了を待って制止したとするのは不自然である上、原告が日の丸の掲揚に抗議する発言を行うことを予期していない生徒や父兄らが、式典の進行と全く関係のない原告の発言を聞き、驚いて、周囲の者と小声で話したりするようなことは十分に考えられることであるから、原告の右供述は直ちに措信できない。  (六) 被告池本は、平成四年三月一九日、大阪市教育委員会に、卒業式での原告の発言について報告を行ったところ、大阪市教育委員会は、同月二四日、被告池本に対し、翌二五日に、事情聴取のため、原告とともに出頭するように連絡した。そこで、被告池本は、原告に対し、その旨電話で伝えたが、原告は、「組織で対応していく。」と答え、右事情聴取には応じなかった。その後、同委員会は、同月二九日まで、三回にわたり、被告池本を通じて、原告に対し、事情聴取のため同委員会に出頭するように伝えたが、原告は、「組織で対応します。」等と言い、出頭を拒否した。(〈証拠・人証略〉)  (七) 平成四年三月三一日、職員会議終了後、原告は、被告池本に対し、入学式に国旗を揚げないように申し入れたが、被告池本は、「これまでどおり実施する。」と答えた。(〈証拠略〉)  (八) 被告池本は、平成四年四月二日の入学式において、屋上及び式場内に日の丸を掲揚したが、朝の職員の打合わせの際、原告は、日の丸を掲揚しないことを要求し、さらに、抗議のためにビラをまくという発言をした。被告池本は、右打合わせの最後に、職員に対し、「入学式がスムーズに進行し無事終了するよう、それぞれの役割を果たしていただきたい。」と指示した。右打合わせ終了後、原告は、すぐに、「入学式に『日の丸』はいりません!」と記載されたプレートを着用し、午前一〇時から開始された入学式にも、右プレートを着用したまま出席し、起立、礼を拒否した。(〈証拠・人証略〉)  (九) 平成四年四月二日、被告池本は、大阪市教育委員会に、原告が入学式でプレートを着用したことについて報告をした。(〈証拠略〉)  (一〇) 平成四年五月六日、大阪市教育委員会は、被告池本に、原告に対して事情聴取に応じるように伝えるように、電話連絡をした。被告池本は、同日、原告に対し、校長室で、「同月八日午後四時、事情聴取のため、市教委に出頭せよ。事実確認及び弁明のできる最後の機会である。」と伝え、同月七日、八日にも、大阪市教育委員会に出頭するように伝えたが、原告は、「組織的に対応する。」と答え、結局、大阪市教育委員会の事情聴取には応じなかった。(〈証拠略〉)  (一一) 平成四年五月一五日、大阪市教育委員会は、原告に対し、同月一六日午前一一時に文書訓告の措置を行うために、被告池本を通じて、原告に対し、右時刻に同委員会に出頭するように指示した。しかし、原告は、出頭を拒否したので、同委員会は、訓告文を原告の自宅に送付した。(〈証拠・人証略〉) 3 前記のように、鯰江中学校の校長である被告池本には、同校の入学式、卒業式の式典において、日の丸を掲揚する権限があり、右権限に基づいて、日の丸を掲揚した右各式典の事務を行うのは、被告池本の適法な公務の執行である。  学校職員には、法令等に従い、かつ、上司である校長や教頭の命令に忠実に従う義務があるから(地方公務員法三二条)、学校職員は、右各式典において、校長から命じられた事務を遂行し、右各式典を円滑に遂行するよう努力し、その進行を妨害してはならない職務上の義務を負担する。  また、地方公共団体の職員は、法律等に特別の規定がある場合を除くほか、その勤務時間及び職務上の注意力の全部をその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責任を有する職務にのみ従事する義務を負う(地方公務員法三五条)。したがって、卒業式や入学式の職務遂行中に、当該地方公共団体がなすべき事務を妨害するために、正当な理由なく、マイクで式典の進行を妨げる発言や、一定の要求等を掲げたプレートを着用し、組合員相互、校長、同僚、生徒、保護者、住民らに対して、自己の信じる主義、思想等を発表するようなことは、右職務専念義務に反し、許されない。  本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告池本が、適法な権限に基づき、卒業式の式典において、日の丸を掲揚したところ、原告が、右式典中に、壇上の日の丸に抗議します。」等とマイクで発言したものであり、原告の右発言は、出席した生徒、保護者、地域住民、被告池本、同僚の教師等に向けて、原告が被告池本の日の丸掲揚行為への非難の意思を有することを表示することを目的としてなされたものであり、これにより、卒業式の式典の円滑な進行が客観的に妨げられたことは明らかである。したがって、原告の右行為は、法令に従って職務を遂行する義務に違反する。  また、原告は、前記のとおり、教頭の制止があったにもかかわらず、続けて、卒業式に日の丸はいりません。」と発言したものであって、右発言行為は上司の命令に対する違反行為であり、仮に、教頭の右制止がない場合であっても、前記のとおり、校長が、原告に対して行った、原告は、円滑に卒業式の式典が遂行できるように、職務を遂行せよ。」との趣旨の命令に反するものであり、いずれにせよ、上司の命令に従う義務に違反するものである。  さらに、前記のとおり、卒業式、入学式における国旗掲揚行為は、被告池本、ひいては被告大阪市がなすべき適法な事務というべきところ、この事務を妨害するための前記発言行為は、職務専念義務に反するものである。また、前記のとおり、原告は、入学式の式典に、入学式に『日の丸』はいりません!」というプレートを着用して、職員席に着席しているが、これも、右式典における被告池本の国旗掲揚行為への非難の意思表示をすることを目的とし、入学式の式典の進行を妨害するための行為であって、職務専念義務に反する行為である。  したがって、本件文書訓告には、措置事由がある。  なお、原告は、原告は日の丸掲揚に反対するという主義又は思想を有しているところ、本件文書訓告により、右思想及び良心の自由を侵害されたと主張するが、思想及び良心の自由は、以上のように適法に課された義務に反してもよいことまで保障するものではない。また、原告は、卒業式等において、反対意見を表明することは、表現の自由の一環として保障されるかのように主張するが、表現の自由も内在的制約に服するところ、卒業式等においてそのような言動をするのは、生徒らの平穏に卒業式等の式典を受ける権利を侵害するものであって、右のような言動は、表現の自由として、到底、保障されるものでない。 4 文書訓告の相当性  本件文書訓告は、前記のような原告の職務違反行為等に対して、課されたものであって、前記のとおり、原告は、被告池本が、卒業式の前日及び当日に、「原告は、円滑に卒業式の式典が遂行できるように、職務を遂行せよ。」との趣旨の命令をしたのに、右式典で前記発言を行い、さらに、入学式の当日、被告池本から、円滑な入学式の進行ができるように職務を遂行する旨命令を受けたのに、右式典でプレートを着用したのであって、このように、原告の職務違反行為は著しいものがあるから、原告に対する行政指導の一つとして、本件文書訓告が行われたのは、相当である。  原告は、本件文書訓告が裁量権を逸脱したものであると主張し、その理由について縷々述べるが、右主張は、以上の認定事実と異なる事実を前提とするか、あるいは、単に、当、不当の問題を取り上げるにすぎないものであり、本件文書訓告を裁量権を逸脱した違法なものと評価することはできない。 5 団結権侵害の有無等  (一) 本件文書訓告による教育合同の団結権の侵害の点について検討するに、本件文書訓告は、前記のとおり、原告の行った職務違反行為に対してなされたものであって、原告の所属する教育合同を敵視し、その組合の弱体化を図るために文書訓告がなされたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は失当である。  (二) また、地方公務員法五六条違反の点について検討するに、同条の「正当な行為」とは、法令に違反しない行為であることが必要であり、職務違反行為(同法三二条)や、職務専念義務違反行為(同法三五条)等は含まれないと解されるところ、前記のとおり、原告の行為は、右各違反行為であったのであるから、「正当な行為」とはいえず、したがって、原告の同条違反の主張は失当である。  (三) さらに、原告は、「不当労働行為」(労働組合法七条)の主張をするが、大阪市教育委員会及び被告池本が、教育合同の団結権を認めなかった事実を認めるに足りる証拠はないし、組合敵視の一環として本件文書訓告を行った事実を認めるに足りる証拠もないことは前記のとおりであるから、原告の右主張は失当である。 3(ママ) 以上によれば、教育長のした本件文書訓告が違法であるということはできない。 三 国賠法一条と個人責任  原告の被告池本に対する請求は、被告大阪市の公務員である被告池本が公権力の行使に当たって、その職務行為に基づき損害を加えたことを理由とするものであるが、このような場合、公務員が個人として賠償責任を負うものではないと解すべきであるから(最判昭和三〇年四月一九日民集九巻五号五三四頁、最判昭和四〇年三月五日裁判集民事七八号一九頁等)、原告の主張は失当である。 四 結論  以上によれば、原告の本訴請求中、被告池本に対する請求は、主張自体失当であり、被告大阪市に対する請求は、被告池本の行為及び教育長の行為が違法であるとの立証がないから、その余の点を検討するまでもなく、失当であり、したがって、原告の本訴請求はいずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第二四民事部 裁判長裁判官 武田和博 裁判官 細見利明 裁判官 桂木正樹