◆ H12.04.26 東京地裁判決 平成7年(行ウ)49号 日の出町立平井小学校日の丸処分事件(戒告処分取消請求事件)     主   文 一 被告が原告に対し、平成二年六月二九日付けでした戒告処分を取り消す。 二 訴訟費用は被告の負担とする。     事実及び理由 第一 請求  主文同旨 第二 事案の概要  本件は、公立小学校の教諭である原告が、勤務する小学校の入学式当日校庭の国旗掲揚塔に掲揚されていた国旗を入学式の開会直前に引き降ろしたことが地方公務員法三二条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)及び同法三三条(信用失墜行為の禁止)に違反するとして戒告処分を受けたため、その取消しを求める事案である。 一 争いのない事実等(証拠に基づき認定した事実を含む。争いのない事実については特にその旨は断らないが、認定の根拠を示すため括弧内に証拠を掲げる。) 1 原告は、東京都西多摩郡α町立平井小学校(以下「平井小学校」という。)の教諭であり、被告は、原告の任命権者である。 2 平井小学校では、平成二年四月六日に行われた入学式(以下「本件入学式」という。)より前には入学式及び卒業式において国旗の掲揚及び国歌の斉唱がされたことはなかった。 3 同年三月七日に行われた職員会議において、当時の教頭から本件入学式において国旗の掲揚及び国歌の斉唱を行うことが提案されたが、反対の意見が多く、次回の職員会議において協議することとなり、同年三月一四日の職員会議において、当時の校長が再び右提案を行ったが、依然として反対の意見が多かった。 4 Aが同年四月一日付けで平井小学校に新校長として赴任した。A校長は、同月五日の職員会議において、平井小学校の教職員に対して「入学式には国旗を校長の責任において掲げさせてもらいます。」と告げた。 5 A校長は、本件入学式の当日である同月六日午前九時三〇分ころ、B教頭をして、平井小学校校庭の掲揚塔(以下「本件掲揚塔」という。)に日章旗(以下「本件日章旗」という。)を掲揚させた。 6 原告は、本件入学式において、写真係として撮影のための椅子の整備等に当たることになっていた。原告は入学式の開始を事務室で待っていたが、同室にいた事務主査のCが入学式の会場である平井小学校の校舎三階の多目的ホールに向かうと、事務室の鍵置場の横壁に掛けてあった本件掲揚塔のハンドルを持って本件掲揚塔へ向かい、午前一〇時一八分ころ、ハンドルをポールに差し込んでストッパーを左に回し、本件日章旗を引き降ろし、綱から取り外した。 原告は、ハンドルを背広の上着のポケットに入れ、本件日章旗を歩きながら折り畳んで手に持ち、校舎中央階段に向かって歩いた。  平井小学校の教諭であるDは、新入生の一人が上履きを控室に忘れたので、これを控室から探し出して入学式会場に向かう途中、中央階段の一階と二階の間の踊り場付近で、本件日章旗を手に持ちながら校庭を中央階段方向に歩いてくる原告の姿を認めた。D教諭は、新入生の上履きを持ったまま慌てて玄関から校庭に飛び出し、原告に対して、「理由はともかく、揚げた方がよい。」と勧めた。原告は「私は降ろしたので揚げる気はない。」と答え、本件日章旗をD教諭に渡した。D教諭は、本件日章旗を掲揚すべく、新入生の上履きを入学式会場に持っていくように原告に依頼した。  D教諭は、本件日章旗を持って本件掲揚塔へ行ったが、ハンドルがなかったため、本件日章旗を掲揚することができず、これを本件掲揚塔のセンターポールの下に置き、事務室に戻ってハンドルを探したが見あたらなかった。そこで、D教諭は、入学式会場へ戻り、C主査を呼び出して事情を説明し、C主査に本件日章旗の掲揚を依頼した。C主査は事務室に戻り、予備のハンドルを机の引き出しから取り出して本件掲揚塔へ赴き、午前一〇時三二分ころ予備のハンドルでそこに置いてあった本件日章旗をセンターポールに掲揚した。  原告は、D教諭から依頼された新入生の上履きを持って、入学式会場に入り、上履きを担任の教諭に渡して、所定の席に着いた。 (乙第五号証から第七号証まで、第二三号証(四〇頁、四二頁から四四頁まで、第二六号証(三三頁から三九頁まで)、第三〇号証、第三一号証) 7 本件入学式は、同日午前一〇時二〇分ころから午前一一時ころまでに平穏に執行された。  B教頭は、入学式が終わった後、入学式会場を出て三階の第一音楽室に寄り、廊下に出て、来賓控室に行こうとして窓越しに本件日章旗を見たところ、同日朝に掲揚した位置よりも約一メートル下がっていることを発見した。B教頭は本件日章旗の位置を元に戻そうと思い、たまたまそこに通りかかったC主査からハンドルを受け取り、本件掲揚塔へ赴いて本件日章旗をセンターポールの先端まで掲揚し直した。B教頭は、その後、事務室においてC主査より詳しい事情を聞き、原告がまだハンドルを所持していると考え、入学式会場にいた原告のところへ行き、ハンドルを返還するように求めたところ、原告は、ハンドルをB教頭に渡した。 (乙第二三号証(四五頁から四九頁まで)、第三一号証) 8 被告は、同年六月二九日付けで、原告に対し、戒告処分(以下「本件戒告処分」という。)を行った。同日原告に交付された処分説明書(乙第九号証)には、根拠法規として「地方公務員法第二九条第一項第一号及び第三号」と、処分の理由として「上記の者は、平成二年四月六日、西多摩郡α町立平井小学校入学式当日、午前一〇時一八分ころ、同校校庭の国旗掲揚塔に校長の指示により掲揚されていた国旗を引き降ろした。このことは、地方公務員法第三二条及び第三三条の規定に違反する。よって、上記の処分を行うものである。」と記載されていた。 9 原告は、本件戒告処分を不服として、平成二年七月一九日、東京都人事委員会に不服申立てを行ったが、東京都人事委員会は、平成六年一二月一四日、本件戒告処分を承認する旨の裁決を行った。 二 争点 1 本件戒告処分の手続的適法性 (一) 本件戒告処分は、α教育委員会の内申をまって行われたものか否か (二) 本件戒告処分は、右の点以外に手続上の重大な瑕疵があるか否か 2 懲戒事由の有無 (一) 日章旗が国旗であることの法的根拠の有無 (二) 本件日章旗を引き降ろした原告の行為が地方公務員法三二条に違反するか否か (三) 本件日章旗を引き降ろした原告の行為が地方公務員法三三条に違反するか否か 3 本件戒告処分は、原告の思想・良心の自由を侵害するものか否か 4 本件戒告処分は、教師の職務権限の独立及び身分保障(教育基本法六条二項、一〇条、学校教育法二八条六項)を侵害し、教育行政権限の限界を逸脱する違法な処分か否か 第三 争点についての当事者の主張 一 本件戒告処分の手続的適法性 1 本件戒告処分は、α教育委員会の内申をまって行われたものか否か(争点1(一))について (一) 被告の主張  α教育委員会は、原告の処分について内申書を作成し、平成二年六月二一日、被告あてにこれを発送し、被告はこれを同月二二日に収受した。被告は、同月二八日に開催された教育委員会会議において原告に対する処分を議決し、同月二九日付けで本件戒告処分を行っているのであるから、本件戒告処分は、α教育委員会の内申をまって行われたものである。  被告は市町村教育委員会から所属教職員の服務に関する事故報告を受けると、東京都教育庁人事部管理主事が事故を調査し、問題教員を何らかの処分に付すべきであると判断したときは、調査結果を市町村教育委員会に連絡して内申を促し、市町村教育委員会は処分が相当であると判断したときは被告に内申している。  平成二年六月当時、中央区立常盤小学校に教育庁人事部職員課の分室が置かれており、主席管理主事以下管理主事らは全員右分室において勤務していた。α教育委員会の担当者は、同年六月二二日、本件の担当管理主事であったEのところに内申書を持参した。本件については、内申書が提出されることを条件に、同月一五日の教職員懲戒分限審査委員会(昭和五四年教人職発第九五号、同年八月一日教育長決定に基づく任意の機関)において戒告処分相当の結論が出されていたので、E管理主事は同月二二日に内申を受すると直ちに原告を懲戒処分に付するための教育委員会付議議案を起案し、これを教育庁本庁に所在する職員課に持参し、同日、2教人職第二〇〇号の起案文書番号を得た。右起案に基づく付議議案は関係者の審議ないし協議を経て、同月二八日に開催された教育委員会会議において議案として提出され、教育委員会会議は原案どおり戒告処分に付するのが相当であると議決した。  このように市町村教育委員会としては、内申書が教員の身分に関する重要書類であることから、担当管理主事以外の者の眼に触れることを避けるため、直接担当管理主事に提出しているところである。  本件では、E管理主事は教育委員会付議議案の起案を行うまで、これを手許に留め置くこととしたのであるが、結局、その後も内申書に収受番号を付さなかったものである。  内申書は、平成二年六月二〇日に発送番号一六四号をもって発送することを予定して当初内申書の起案にその番号を記入していた。ところが、実際には起案、決定及び発送手続の処理は同月二一日に行われ、その時には既に平成三年度心身障害学級使用予定教科書の報告についての文書が、同月二〇日に一六四号として発送されていたので、内申書の文書番号を一六四号の二と修正し、同月二一日に発送手続をした。その後発送簿へ記載しようとしたが、既に一六五号の番号が付されていたので、一六四号と一六五号の記載の間に、内申書の文書番号を一六四号の二としてその旨を記載した付せんを発送簿にはったのである。 (二) 原告の主張  被告が、原告に対して懲戒処分を行うためには、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)三八条一項により、その手続的要件として、その処分に先立ち、α教育委員会が被告に内申をすることが必要であるが、本件戒告処分に先立って、α教育委員会は、原告の懲戒処分について内申書を提出しておらず、本件戒告処分は内申をまってされていないのである。  したがって、本件戒告処分は、その手続に重大な違法があり、取り消されるべきものである。 2 本件戒告処分は、右の点以外に手続上の重大な瑕疵があるか否か(争点1(二))について (一) 原告の主張  本件戒告処分の手続においては、次の重大な手続的瑕疵があり、本件戒告処分は取り消されるべきである。 (1) 長時間の事情聴取  被告は平成二年五月二一日に原告に対する事情聴取を行ったが、それは、原告の同意を得たものではなく、勤務時間外である同日午後五時三〇分ころから午後八時五〇分ころまで継続して行われた。その間、原告に食事を採らせず、トイレにも行かせず、メモも取らせず、事情聴取書への署名、捺印を強要したのである。 (2) A校長の報告書が虚偽である疑いがあること  本件に関するA校長名儀の報告書は六通提出されているが、その内容が虚偽であり、原告を処分するためにのみ作成されたものであることがうかがわれる。  右報告書のうち、「平井小発第四号」と「平井小発第五号」の間に、作成日について「平成二年四月」とのみ記載され、日付の記載のない報告書が「平井小発第四号の二」と枝番を付されて提出されており、そのα教育委員会の文書収受番号も「第四七七‐二号」と枝番が付されていることから、後から作成した報告書を日付を偽って提出されたことは明らかである。  さらに、処分を正当化するために、被告による原告の事情聴取後も内容を修正した報告書を提出している。 (二) 被告の主張  本件戒告処分の手続は、適正になされており、取消事由はない。原告の主張する取消事由についての被告の認否、反論は、次のとおりである。 (1) 事情聴取について  被告が、平成二年五月二一日、原告に対して事情聴取を行ったことは認める。  被告は、A校長に対し、事情聴取のため原告を同道して多摩教育事務所に出頭するように指示し、原告はこれに応じて出頭した。原告がこの出頭に異議を申し出た事実はない。事情聴取は午後五時五〇分から午後七時三〇分まで行った。その間、食事をとらなかったことは事実であるが、トイレにも行かせず、メモも取らせなかったという事実はない。いずれも、そのような申出はなかった。事情聴取に当たっては、聴取内容の記載を原告に閲覧させ、誤りがないことを確認させた上で、署名捺印を得ており、これを強要した事実はない。 (2) A校長の報告書について  A校長名義の報告書がα教育委員会に六通提出されていること、そのうち平成二年四月七日付け平井小発第四号と同月一八日付け平井小発第五号との間に、日付欄空欄の平井小発第四号の二の報告書が提出されていること、同報告書のα教育委員会の収受印の番号は同月一二日第四七七号の二とされていることは認めるが、それらの内容が虚偽で、原告の処分のためのみに作成されたという事実は否認する。  右六通の報告書のうち、平井小発第一一号、平井小発第一五号が、原告からの事情聴取の後に提出されていることは認めるが、原告の処分につき影響を与えるような事実の修正はない。 二 懲戒事由の有無 1 本件戒告処分の処分理由について (一) 被告の主張  原告が本件日章旗を引き降ろした行為は、地方公務員法三二条前段に定めた法令等に従う義務に違反するものであり、それにより同法二九条一項一号に該当し、また、同法三三条に定めた信用失墜行為の禁止義務に違反するものであり、同法第二九条第一項一号及び三号に該当するものである。 (二) 原告の主張  本件戒告処分についての懲戒事由の内容に関する被告の主張は、本件訴訟において変遷を重ねており、一貫性を欠くものである。このことからすると本件戒告処分はずさんな手続によりなされたものであることが明らかであり、本件戒告処分には重大かつ明白な瑕疵があるから、取り消されるべきである。 2 日章旗が国旗であることの法的根拠の有無(争点2(一))について (一) 被告の主張  平成二年四月六日当時日章旗が国旗であることについては次のとおり法的根拠があった。  商船規則(明治三年一月二七日太政官布告)は、日本国の船舶は国旗を掲げること、その国旗は日章旗であることを定めていた。  自衛隊法(昭和二九年六月九日法律第一六五号)第一〇二条一項は、自衛艦、その他自衛隊の使用する船舶は、国旗を掲げなければならないと定めている。  海上保安庁法(昭和二三年四月二七日法律第二八号)四条二項は、海上保安庁の船舶は国旗を掲げなければならないと定めている。  自衛隊法及び海上保安庁法には右各法条にいう国旗が日章旗であることの明文の規定は存在しなかったが、いずれも商船規則が日章旗を国旗と定めていたことを前提としており、自衛隊、海上保安庁、その他大多数の行政庁においては、日章旗を国旗として掲揚してきている。  商標法(昭和三四年四月一三日法律第一二七号)四条一項は、国旗と同一又は類似の商標については商標登録を受けることができないと定めている。同法に定める国旗が日章旗であることの明文の規定は存在しなかったが、これも商船規則が日章旗を国旗と定めていたことを前提としていた。  また、日章旗が国旗であることの認識は広く国民の間に定着しており、明治以来今日に至るまでの間の社会生活及び行政上の取扱いの実際を通じて、国民的確信によって支えられているものであるから、日章旗を国旗として取り扱うことは慣習法となっている。 (二) 原告の主張  平成二年四月六日当時日章旗を国旗とすることには何ら法的根拠がなく、また、慣習としても定着しておらず、日章旗が太平洋戦争における我が国のアジア諸国への侵略のシンボルとされていたことにもかんがみると、その掲揚を強制すべきではない。  被告は、日章旗が国旗であることの根拠として商船規則、自衛隊法、海上保安庁法、商標法の規定を主張するが、自衛隊法、海上保安庁法、商標法には日章旗を国旗とする旨の規定はなく、商船規則は、明治憲法下の太政官布告によるもので、商船のみを拘束するものであり、自衛隊法や海上保安庁のように、制定経緯・立法趣旨・規制対象の異なる法律がこれを「前提とする」等ということはできない。 3 本件日章旗を引き降ろした原告の行為が地方公務員法三二条に違反するか否か(争点2(二))について (一) 被告の主張  学校教育法施行規則の一部を改正する省令(平成元年文部省令第一号)、学校教育法施行規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令(平成元年文部省令第四号)及び小学校学習指導要領の全部を改正する告示(平成元年文部省告示第二四号)が公示され、新小学校指導要領に基づく教育課程は平成四年四月一日から全面実施されることとなった。  この改正によれば、小学校学習指導要領は、その第四章において、特別活動として、望ましい集団活動を通じて、心身の調和のとれた発達と個性の伸張を図るとともに、集団の一員としての自覚を深め、協力してよりよい生活を築こうとする自主性、実践的な態度を育てることを目標とする諸活動を定めている。そして、その中に、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めており、学校長以下の教職員は児童・生徒に対してこのような指導を行うべき法律上の義務を負うこととなった。  学校教育法二〇条は、「小学校の教科に関する事項は、同法一七条及び一八条の規定に従い、監督庁が、これを定める。」とし、同法一〇六条は「第二〇条の監督庁は、当分の間、これを文部大臣とする。」として、文部大臣は小学校の教科に関する事項を定める権限を与えられている。  同法施行規則二四条は「小学校の教育課程は、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭及び体育の各教科、道徳並びに特別活動によって編成するものとする。」としており、同規則二五条は「小学校の教育課程については、この節に定めるもののほか、教育課程の基準として文部大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする。」と規定している。  学習指導要領を教育課程の基準として国が設定することの必要性は、学校教育は公の性質を有するものであること、教育の機会均等の確保、法の定める教育の目的、目標の実施の必要、教育の中立性の確保、時代の進展に応じた教育水準の発展向上等の要請のため全国的な基準の設定を要することから肯定されるところである。このような趣旨から文部大臣は右学校教育法二〇条に基づき、教育課程の編成及び実施の基準として各教科の目標、内容、内容の取扱い等を定めているのであるから学習指導要領には法的拘束力があり、学校はこれに基づいて学習指導を行う義務が生ずる。  右指導要領の実施を円滑に行うため、平成元年四月一日から平成四年三月三一日までの間における教育課程については、「小学校学習指導要領(昭和五二年文部省告示第一五五号)の特例」(平成元年文部省告示第三二号)及び平成元年三月二七日付け「小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の移行措置及び移行期間中における学習指導について」(文初小第一三四号)が告示及び通達され、これによって、新学習指導要領第四章は平成二年度から実施することになった。  東京都教育委員会教育長は、右告示及び通達を受け、平成元年三月三一日付けで、東京都公立学校教育課程に関する移行措置について、「『現行小学校学習指導要領の特例』(平成元年文部省告示第三二号)によって実施すること。文部事務次官通達の『小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領の移行措置並びに移行期間中における学習指導について』(文初小第一三四号平成元年三月二七日付け)の小学校に関する通達を参照すること。地域や学校の施設・設備その他の教育条件及び児童の発達段階と特性を十分配慮すること。※『東京都公立小学校教育課程移行措置基準・資料』を貴管下小学校における教育課程編成等の参考として、五月三一日ごろ配布を予定しています。」という内容の通達を、各市町村教育委員会教育長、多摩教育事務所長、教育庁出張所長、各区教育委員会教育長、都立盲・ろう・養護学校長に対して発し、これら通達を受けた者は、管下各小学校長に対し、同様の通達を行った。  教育庁指導部は、平成二年二月一四日、各市町村教育委員会教育長に対し、国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう指導するに当たっては、校長を中心として、教職員の共通理解(国旗の掲揚、国歌の斉唱が特別活動の内容として必要であることを教職員が理解すること)のもとに協力して実施するようにするが、共通理解が得られず実施が困難な状況(教職員の共通理解の下に協力して実施することができない状況)においては、学習指導要領の法的根拠(学習指導要領は法律上の根拠があり法的拘束力があること)を示し、校長の責任により実施することとの指導を行い、各教育長は管下各小学校長に対し、同内容の指導を行った。  以上のとおり、本件入学式における本件日章旗の掲揚は、法的根拠に裏付けられたものであり、校長が学校全体の特別活動としての入学式において本件日章旗の掲揚を行うことを具体的に校務として決定しているので、原告もその掲揚下における教育活動を行うべき職務上の義務があるのに、原告はこれに反して本件日章旗を引き降ろしたものであるので、地方公務員法三二条前段に違反する。 (二) 原告の主張  前記のとおり、日章旗が国旗であるという法的根拠はなく、原告が本件日章旗の掲揚に従うべき法的義務はなく、本件日章旗を引き降ろした行為は、地方公務員法三二条に違反するものではない。 4 本件日章旗を引き降ろした原告の行為が地方公務員法三三条に違反するか否か(争点2(三)) (一) 被告の主張  教師は、未だ思慮分別の十分でない児童・生徒の教育をつかさどるという重要な任務を担っており、その言動が児童・生徒に影響を与えるところが極めて大きいので、言動に注意しなければならず、教育者にふさわしい倫理と厳しい自立心が要求されている。したがって、国民は教師に対し、このような態度で職務を遂行することを期待しており、それがとりもなおさず教師に対する信用である。  本件入学式における本件日章旗の掲揚は、平井小学校の特別活動の一環として、A校長が学校教育法二八条三項に定められた権限に基づき、適法に、しかも学習指導要領にも沿って行われたものであるが、原告は自己の考えに反するとして一方的に引き降ろす行為を行って、国民の信頼を裏切ったものである。この行為は、教師の職にある者全体の信用を国民との関係において傷つけ、かつ全体の奉仕者としてふさわしくない非行であり、地方公務員法三三条に違反する行為である。 (二) 原告の主張  前記のとおり、日章旗が国旗であるという法的根拠はなく、原告が本件日章旗を引き降ろした行為は、何ら教師の職の信用を傷つけるものではないから地方公務員法三三条に違反するものではない。 三 本件戒告処分は、原告の思想・良心の自由を侵害するものか否か(争点3)について 1 原告の主張  本件戒告処分は、原告の思想・良心の自由を侵害するものである。 2 被告の主張  この点に関する、原告の主張は争う。 四 本件戒告処分は、教師の職務権限の独立及び身分保障(教育基本法六条二項、一〇条、学校教育法二八条六項)を侵害し、教育行政権限の限界を逸脱する違法な処分か否か(争点4)について 1 原告の主張  本件戒告処分は、教師の職務権限の独立及び身分保障(教育基本法六条二項、一〇条、学校教育法二八条六項)を侵害し、教育行政権限の限界を逸脱する違法の処分である。 2 被告の主張  この点に関する、原告の主張は争う。 第四 争点についての判断 一 本件戒告処分は、α教育委員会の内申をまって行われたものか否か(争点1(一))について  地教行法三八条一項は、「都道府県委員会は、市町村委員会の内申をまつて、県費負担教職員の任免その他の進退を行うものとする。」と規定しており、本件戒告処分についても、これに先立ちα教育委員会が被告に対し原告について内申をしていたことが手続要件として必要である。  被告は、α教育委員会の担当者であるFが平成二年六月二二日に中央区立常盤小学校にある東京都教育庁人事部職員課分室を訪れ、本件の担当者であるE管理主事に内申書を持参した旨主張し、証人E及び証人Fの供述中にはこの主張に沿う部分(証人Eにつき九〇項から九六項まで、一七七項から一七九項まで、証人Fにつき九八項から一〇一項まで、一一四項、一一五項、一一八項、一一九項、一二一項、一二五項、二〇四項、二〇六項から二〇八項まで)がある。  そこで、右各証言の信用性の裏付けとなる証拠があるか否かについて判断する。 1 α教育委員会作成名義の「教職員の処分について(内申)」と題する書面について  甲第一号証によれば、α教育委員会の作成名義による被告宛の「教職員の処分について(内申)」と題する書面(以下この文書を指すときは「本件内申書」という。)が存在し、同書面には、発出番号として「日教委発164‐2号」、作成日付として「平成2年6月21日」、本文として「平成2年4月6日、α町立平井小学校入学式当日校庭国旗掲揚塔に、校長の指示によって掲揚されていた国旗を引き降ろした同校教諭Gの行為は、」、「措置をとられるよう内申します。」と記載されていること、右文書には、収受印が押印されておらず、収受番号も付されていないことが認められる(右本文の中間部分は、甲第一号証において覆字となっているので、その部分に記載されている内容については不明である。)。 2 α文書管理規程について  乙第三八号証によれば、α教育委員会は、文書の収受及び配付、処理、文書の施行、保管、保存、その他の文書事務処理について基本的事項を定めることにより、文書事務の適正かつ能率的な処理を図ることを目的としてα文書管理規程(昭和四九年一二月二三日訓令第六号)を定めていることが認められるが、この規程は文書の発送に関して次のように定めている。        記 文書の発送方法はおおむね次の方法による。 (一) あらたに発送する文書は、文書収発簿に発送年月日、あて先、件名等を記載し、すでに受付されている文書にかかる報告等の場合は、その「処理経過」欄に発送年月日と報告等の旨を記載し、起案文書に施行年月日、記号及び番号を記入する。 (二) 文書取扱主任は、課の発送文書を取りまとめ、使送、郵送に区分し、所要事項を記載して発送の手続をとること。 (三) 文書取扱主任は、発送の処理が完結したときは、起案文書の発送欄に押印しなければならない。 3 α教育委員会が文書を発送する場合の事務処理方法について (一) α教育委員会は、平成二年度当時、文書発送簿(甲第二号証、第三号証)及び文書受付簿(乙第三三号証)を作成し、発送する文書に関する事項は前者に、収受する文書に関する事項は後者に記載する取扱いであった。α文書管理規程は、文書事務の適正かつ能率的な処理を図ることを目的としており、この趣旨に証人Fの証言(平成一〇年一二月一六日付け証人調書二一〇項から二一七項まで)を併せて考えれば、α教育委員会が文書を発送するについては、これに先立ち文書発送簿に発送年月日のほか、当該文書を特定するに足りる記載をして番号を確保し、その上で起案文書に施行年月日、記号及び右のとおり文書発送簿に記載することによって定まる番号を転記することを規定しているものと認めることができる。したがって、文書の表題から文書の内容を事前に察知されることが適当でない文書であっても番号を確保するために文書発送簿に必要最小限の記載、すなわち、文書の表題自体は記載せず、当該文書を特定するに足りる記載をしておき、後日必要に応じて文書の表題を追記すれば足りるものと考えられる。  これに反し、文書を発送した後に文書発送簿に記載する措置を執ることは本来α文書管理規程の予定していない措置であり、これを実際に行おうとすれば、文書を起案するに際し、文書発送簿を見てその時点で文書発送簿に記載するとすれば得られるはずの番号を起案文書に記入することになるが、文書発送簿にまだ記載していない以上その番号を確保したことにはならないので、当該文書について文書発送簿に記載する前に別の文書が文書発送簿に記載されれば番号が重複使用される事態が生ずる。これを避けるためにあらかじめ枝番を使用することも一法であるが、枝番については、このような場合とは別に、文書取扱い責任者が不在であったり、勤務時間外に発送されたりしたため、文書取扱い責任者への連絡が後れる等して発送の記載が後れたりした場合に枝番を使わざるを得ないときがあるから、文書発送簿に記載せずに番号を確保する目的で例えば枝番「‐二」を使うと、右のような別の事情からその枝番を重複使用されることになる危険は免れない。 (二) 本件内申書についてもこれを起案し、決裁を受ける時点で「施行年月日」のほか、文書発送簿に記載すべき番号が不可欠である。甲第一号証によれば、本件内申書には「平成2年6月21日」、「日教委発第164‐2号」と記載されていることが認められる。したがって、本件内申書が本当に平成二年六月二一日に決裁を受けて作成されたとすれば、「第164‐2号」という番号を確保するための措置が執られることが必要となる。そこで、本件内申書の件を処理したFがどのような判断の下にどのような措置を執ったかが問題となる。 4 Fが執った措置について (一) Fが文書発送簿に付せんをはって本件内申書の件を記載した時期及びその理由について  証人Fの証言(平成一〇年一二月一六日付け証人調書一九九項から二〇二項まで)によれば、Fは平成二年六月二九日にされた本件戒告処分の後の同年七月ころにα教育委員会の文書発送簿に六月二一日付けの「教職員の行政処分について 平井小G教諭」と記載された付せんをはったのであり、この日付の同年六月二一日ころはったわけではないこと、Fは同年六月二一日の時点で文書発送簿に本件内申書を特定するに足りる記載をしておく等の措置は何ら執らなかったことが認められる。証人Fは、本件内申書が人事案件なので他の者の目には触れさせたくなかったため、文書発送簿には後日処分が出てから付せんをはって記載することを考えていたと説明している(平成一〇年一二月一六日付け証人調書八五項、八六項、一九八項、二一八項から二二一項まで)。 (二) 本件内申書の番号を確保するための措置について  そうすると、本件内申書が本当に平成二年六月二一日に決裁を受けて作成されたとすれば、Fはその時点では文書発送簿に何ら記載しておらずその番号を確保する措置を執っていなかったのであるから、番号一六四の枝番を使用するとすれば、他の後発的事情から重複使用される危険を避けるためにはかなり大きな枝番(例えば「‐一〇」)を使用する必要が生じるのに、実際には枝番は「‐二」である。この点をおくとしても、Fが本件内申書が人事案件なので他の者の目に触れることを避けるため文書発送簿には後日処分が出てから付せんをはって記載することを考えていたとするならば、少なくとも番号の枝番を使用するということでなければ、本件内申書のために当該番号を確保しておくことにはならない。したがって、Fの説明としては、むしろ右のような理由から意識的に「一六四」の枝番「‐二」を使用したということになるはずである。しかるに、証人Fは、枝番を使用した理由として番号の重複使用を避ける目的であったとは全く供述しておらず、同年六月二〇日に決裁を受ける前提で「一六四」の番号を使用することとしたが、教育長が急きょ不在になってしまったために決裁を受けられず、翌日の同年六月二一日に本件内申書の決裁を受けた時点では既に他の文書のために「一六四」を取られてしまったために枝番を使用したと説明している。この説明は、決裁を受けた時点で直ちに文書発送簿に記載することを前提としていたといわざるを得ないのであり、人事関係文書であることを理由に本件戒告処分がされるまで文書発送簿に記載しない扱いとしたという説明とは矛盾する。 (三) 本件内申書の番号に「一六四‐二」を使用した理由について  証人Fは、平成二年六月二〇日に決裁を受ける前提で「一六四」の番号を使用することとし、起案書にはその番号を書いていたが、教育長が急きょ不在になってしまったために決裁を受けられず、翌日の同年六月二一日に本件内申書の決裁を受けた時点では既に他の文書のために「一六四」を取られてしまったために枝番を使用したと説明しているが、本件内申書の番号に「一六五」ではなく「一六四‐二」を使用した理由は、当初使うことにした番号(「一六四」)にこだわったからであると供述している(平成一〇年一二月一六日付け証人調書六一項から七四項まで、八五項、一五四項、一五五項、一六一項、一八一項)。しかしながら、甲第一号証の番号の記載された箇所を見ても「日教委発第」と「号」との間には枝番を含めて記載するに足りる十分なスペースがあり、いったん「一六四」の番号が記載された後に枝番が付加された体裁とはなっていないから、Fが同年六月二一日に本件内申書を起案したとすればその時点では既に他の文書に「一六四」の番号が使用されたことが判明していたことになる。このことは証人Fの証言とも符合する(平成一〇年一二月一六日付け証人調書六一項から六三項まで、七一項、七二項)。要するに、Fは、既に同年六月二〇日に起案していた本件内申書を利用してその番号に枝番を付加したというわけではなく、同年六月二一日に改めて本件内申書を作り直したというのである(証人Fの供述平成一〇年一二月一六日付け証人調書一六一項)から、本件内申書の番号に「一六四‐二」を使用しなければならない合理的な理由は何もなく、「一六五」の番号を使用すれば足りたというほかはない。 5 乙第三五号証(五〇頁、五一頁)及び証人Fの証言(平成一〇年一二月一六日付け証人調書九八項から一一三項まで)によれば、Fは、平成四年七月一日に行われた東京都人事委員会の口頭審理の際には、証人として内申をした時期について平成二年五月中旬と答えていたこと、しかし、本件訴訟では、その後被告の出した書面を見て記憶違いがあったとして東京都人事委員会の口頭審理の際の証言を訂正したことが認められる。 6 α教育委員会が被告に内申をした時期は、地方公共団体内部における公文書の発送及び収受がいつなされたかという問題であるから、本来的には、各行政庁に備え付けられた文書発送簿、文書収受簿の記載及び当該文書自体に押印された収受印の日付及び収受番号によって客観的に明らかにされるべきものである。  乙第三七号証によれば、東京都教育庁文書管理規程には、「主務課長は、課に直接到達した文書並びに庶務課長から配付を受けた文書を受領し、収受をしなければならない」(一三条一項)との規定があり、収受した文書には収受印を押印しなければならない旨規定されている(同条三項)。  しかしながら、前記のとおり、本件内申書には収受印が押印されておらず、収受印の日付及び収受番号によって本件内申書が平成二年六月二二日に収受されたことを証明することはできない。 7 証人Eの証言(平成一〇年九月三〇日付けの証人調書一一項から一四項まで)によれば、Eは、平成二年六月当時東京都教育長の人事部管理主事であり、原告に対する本件戒告処分の担当者であったことが認められる。証人Eは、平成二年六月一三日ころ、同人がα教育委員会の担当者であったFに対して、同年六月一五日ころまでに内申書を提出するように促したこと、同年六月一五日には懲戒分限審査委員会が開催されることになっていたので、Eはできればこの懲戒分限審査委員会までに内申書を提出してほしいと告げたことを供述しているが(平成一〇年九月三〇日付けの証人調書八三項から八九項まで)、証人Fは、Eからは近々という話を聞いたことだけを覚えており、同年六月一五日の懲戒分限審査委員会に間に合わせてほしいと言われたことは覚えていないと供述している(平成一〇年一二月一六日付け証人調書一八七項から一九六項まで、二〇九項)。Eが同年六月一五日の懲戒分限審査委員会に間に合わせてほしいと頼んだとすれば、これは本件内申書の提出時期にかかわる求めであり、依頼を受けたFとしては覚えている方が普通であると考えられるし、殊に、証人Eの前記供述どおりであるとすれば、Fは求められた時期よりも一週間も後れて提出したことになっているのであるから、その理由についても説明を要するところであると考えられるが、証人Fは右のように供述するにとどまる。これは、Fが当時Eから同年六月一五日の懲戒分限審査委員会に間に合わせてほしいという話を聞いていなかったためであると考える方が合理的である。 8 証人Eは、本件内申書を受け取った後、原告に対する懲戒処分の教育委員会付議議案を起案し、その教育委員会付議議案の起案について収受印を押印するという手続をとったが、その際、本件内申書には収受印を押印する手続をとらなかったとし、その理由として、個人の処分にかかわる重要な書類であるので、他人の目に触れないように管理主事が預かり保管する扱いとなっていたことを挙げ、教育委員会付議議案を起案した後、主席管理主事、本庁の職員課の職員課長、人事部長の決裁を経る必要があり、職員課長の決裁をとるときに、職員課長へ本件内申書が提出されていることは口頭で報告し、これを確認してもらう趣旨で本件内申書を示したが、教育委員会付議議案に文書番号をとる手続の担当者へは本件内申書を見せなかっただけでなく、本件内申書が教育長の目に触れる機会もなかったと思われるとして、結局、本件内申書の内容を見たのはE管理主事と主席管理主事の二人だけであること、以上のように供述しており(平成一〇年九月三〇日付けの証人調書一〇一項から一二四項まで、二〇〇項、二七五項から二八〇項まで、二八七項から三〇一項まで、三三〇項、三三一項から三四〇項まで)、結局証人Eの供述以外にその裏付けとなる証拠が被告内部で得られないことを自認しているに等しい。また、乙第三六号証の三及び証人Hの証言(平成一一年六月二四日付けの証人調書一五項)によれば、件名として「東京都公立学校教員の懲戒処分について(西多摩郡α町立平井小学校教諭Gの事故)」、起案者として「E」との記載のある、平成二年六月二二日付け第二〇〇号の当時東京都教育庁で使用していた文書収発カードが存在することが認められるものの、証人Hの証言(平成一一年六月二四日の証人調書四八項から五六項まで)によれば、平成二年六月二二日当時、東京都教育庁の職員課服務班で勤務していたHは、同日、E管理主事から原告の懲戒処分に係る教育委員会付議議案の起案書を受け取り、文書収受カードに件名、日付、文書番号、起案者名等を記入したが、その際、内申が添付されていた否かは確認していないことが認められる。要するに、α教育委員会が本件戒告処分に先立って被告に原告の処分について内申をしたことを裏付ける客観的証拠はないと言わざるを得ない。 9 以上のとおり、本件戒告処分に先立ちα教育委員会が被告に原告の処分について内申をしていた事実、すなわち、平成二年六月二二日に本件内申書が発送(使送)されていた事実が存するとすれば、日の出町教育委員会では通常の事務処理の在り方としては理解できない仕方で処理されたこととならざるを得ないから、右のような事実があったとは容易に認め難い。また、被告の担当者が勤務していた東京都教育庁人事部職員課分室ではその時点で本件内申書を収受したことを裏付けるに足りる客観的証拠は何もない。証人E及び証人Fの各供述は平成二年六月二二日に二人の間で本件内申書が授受されたという点では一致しているが、EがFに対し同年六月一五日の懲戒分限審査委員会に間に合わせてほしいと頼んだか否かについては前記のとおり符合しておらず、Fが当時Eから同年六月一五日の懲戒分限審査委員会に間に合わせてほしいという話を聞いていなかったと考える方が合理的であることからすると、右各供述の信用性には疑問がある。これらの各点に照らして考えると、被告の前記主張に沿う証人E及び証人Fの各供述部分は採用することができず、他に被告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。 二 そうすると、本件戒告処分は、その手続において地教行法三八条一項違反の違法があり、取消しを免れない。 第五 結論  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第一九部 裁判長裁判官 高世三郎    裁判官 鈴木正紀    裁判官 植田智彦