◆ H20.01.17 神奈川県個人情報保護審議会答申 個情審議第280号 国歌斉唱時不起立者氏名利用停止請求事件(教育委員会における神奈川県個人情報保護条例第6条及び第8条に定める個人情報の取扱いについて) 個情審議第280号 平成20年1月17日 神奈川県教育委員会委員長 平山彦仁 宛 神奈川県個人情報保護審議会会長 兼子仁 教育委員会における神奈川県個人情報保護条例第6条及び第8条に定める個人情報の取扱いについて(答申)  神奈川県個人情報保護条例(以下「条例」という。)第6条及び第8条第3項第7号に基づき、平成19年10月30日付けで諮問のありました 「県立高校等の入学式、卒業式における国歌斉唱時の教職員の不起立状況把握及び指導に係る事務」(以下「本件事務」という。)に関する個人情報の取扱い(以下「本件諮問」という。)については、それぞれ次のとおり答申します。 1 条例第6条に基づく諮問について   この諮問事項は、県立高等学校等の教職員が、入学式及び卒業式における国歌斉唱時には職務として起立すべきものとする教育委員会の法的見解を前提として、同起立をしなかった教職員の氏名、不起立の事実及びその日時並びに校長による教職員への指導の経過という個人情報(以下「本件個人情報」という。)を、校長等の管理職が把握し報告書に記載する事務に関し、条例第6粂ただし書に定める「思想、信条」に関する個人情報の例外的取扱いの必要性について審議し答申することを、当審議会に求めるものである。  その際に、本件諮問に先立つ神奈川県個人情報保護審査会の答申(平成19年10月24日付け答申第73号から第89号まで。以下「審査会答申」という。)において、本件個人情報は、「思想、信条」に該当する情報であって、その取扱いに当たっては、条例第6条ただし書に基づき、当審議会の意見を聴くことが相当であると結論されている。  ところで、条例第6条ただし書において、思想信条情報を例外的に取り扱う事務の必要性について、当審議会が審議し了承することが予定されているのは、当該思想信条情報の取扱い自体は合憲であると容易に判断される場合や、その違憲性の疑いがさほど強くない場合であると解される。  ところが、本件個人情報が「思想、信条」に該当するものであるゆえんは、審査会答申において、国旗及び国歌に関する一定の思想信条を発露した行動情報であること、と判断されている。  そこで、本件個人情報の取扱いは、その当否が日本国憲法第19条に定める「思想及び良心の自由」の保障と深く関係しており、思想信条情報としての例外的取扱いが、教職員個々人の「思想及び良心の自由」の憲法的保障といかなる関係に立つかについては、事の性質上、当審議会の委員間において当該人権問題の考え方が多様に存し得るところである。  この点、本件諮問に際し、教育委員会としては、本件個人情報の取扱いも公務員の職務・服務に関するそれとして、「思想及び良心の自由」の人権保障とは両立するという法的見解のようであるが、そうした見解に立つ本件諮問について、当審議会の審議が全会一致ないし多数決によってこれを是とする答申に至ることは、すでに会議において十分に表明された諸委員の発言内容に照らすとき、不可能であると考えられる。そうしたところに、本件の思想信条情報の取扱いが、憲法上の人権に深くかかわる特殊性が表れていると考えられるのであって、現にそうした憲法上の人権問題は、別途、訴訟上の争点ともなっているところである。  かくして、当審議会としては、条例第6条ただし書に基づいて、思想信条情報を例外的に取り扱うとする、本件事務の正当性及び必要性を積極的に認めるという意味において、本件諮問の内容を適当とする答申を行うことはなし難い。  もっとも、条例第6条ただし書では元来、実施機関は「審議会の意見を聴いた上で正当な事務若しくは事業の実施のために必要があると認めて取り扱う」と定めているので、上記のような理由により諮問内容を不適とする本答申を踏まえて、最終的にいかなる職権行使をするかは、実施機関である教育委員会に条例上ゆだねられているところと解される。この場合に、実施機関としては、すでに前記審査会の答申内容は当審議会への本件諮問によって履行しているものと考えられよう。 2 条例第8条第3項第7号に基づく諮問について  この諮問事項は、実施機関が個人情報を本人以外から収集することについて、当審議会の意見を聴くという例外的手続に関するものである。  そこで、本件における標記諮問事項は、上記1の諮問事項に関する当審議会の答申内容を踏まえて、実施機関である教育委員会が、いかなる職権措置を採るかの仮定にかかわるところであり、当審議会として、本答申においてその適・不適の判断を示すことは難しいが、本件にとって独立した諮問事項には当たらないであろう。