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TITLE:  「心のノート」の教育法・教育行政上の問題点
AUTHOR: 室井  修
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第210号(2003年10月)
WORDS:  全40字×308行

 

「心のノート」の教育法・教育行政上の問題点

 

室 井   修 (近畿大学)

 

 はじめに

  みなさまも既にご存知かと思いますが、ここに文部科学省発行の「心のノート」の冊子があります。小学校は1・2年、3・4年、5・6年という低学年用、中学年用、高学年用の三つに分かれています。中学校用は一冊です。たしか、これは市販されていますので手に入るようです。ざっと大まかに拝見したところ、カラフルで、見ていても字が大きくイラストや写真があり、記入するところが多く、書いてある内容もひじょうにソフトです。だから、親や学校の先生が見ても、良いことが書いてあるのではないかという感じをお持ちの方が多いようです。というのは、今の子ども達が心の問題、身体の問題を含めていろいろと問題になっているときにだけに、もっとこうあってほしいという親の願いが、部分的であれ、こういったところにも一定、反映しているからです。

  しかし結論から先に言いますと、その内容には、それなりの一つの流れがあることが分かります。例えば、中学校用の冊子を見ますと、基本的にはどういう方向に導こうとしているかが分かります。ある部分だけを見ていると、ごもっともと思われる部分も少なくありません。しかし、書いてある内容を少し吟味していくと、これはきわめて非科学的ではないのか、一面的な捉え方ではないか、など、気がつくことがたくさんあります。いわば、こうあるべきと書かれているところが多いわけですが、たとえば、働くということについて、「いまあなたが働いたと感じるのはどんなときだろう? 勉強したときだろうか、学校への行き帰りだろうか」、「働くということは自分のためばかりではなく、社会に奉仕し貢献しているということだ」とあります。「働く」ということがきれいごとになってしまっているのではないかと思います。今日の日本の雇用の現実を考えると、多くの国民にきびしい生活現実を強いており、子どもの中には親のリストラ等を負担に感じながら学校生活を満足に送れない者もあり、そういう現実をみると、この冊子で言及している「働く」という叙述には、きれいごとみたいに読めます。また、社会への奉仕等を取りあげながら、最後の出口は、国を愛する心をどう作り上げていくかということで、締めくくっているように思います。

  要するに「心のノート」は、当局の言葉を借りて言えば、「道徳教育の充実に資する補助教材」であり、今日の子どものおかれている問題状況の中で、全国の国公私立の小中学生全員に無償で配布するんだと言っているわけです。その予算として7億3千万円を計上し、昨年(2002年)の春に配布されています。

  文部科学省の通達や文書がいくつか出ていますが、昨年(2002年)4月22日付の「『心のノート』について(依頼)」には、どういう背景のもとで、またどういう意図でこれを作成したのかということ、そしてこれの概要、性格付けなども述べられています。これ以外に、昨年7月12日付で、「『心のノート』の配布状況について」という照会文書が出ています。実はこれが出されたのは、国会で与党の議員から問題にされたのがきっかけです。このような立派な冊子を全国に配布しているけれども、どうもきちんと使っていないんじゃないか、調べるべきではないか、という議員の側からの質問があって、急きょ、児童生徒への配布状況についての調査を実施することになりました。その中に、市区町村名、所管の小中学校数、そして配布していない学校数を書くようにということで点検をしています。それから今年(2003年)になって、今度は活用状況についての照会文書を、5月19日付で、おろしています。地域によって、たとえば京都府などでは、昨年3月に「心のノート」について指導主事が解説をしています。「心のノート」とは何か、なぜ配布するのかということを現場の教師に対して説明しているのです。そういう当局側の資料がありますので、とくに、昨年4月22日付の「『心のノート』の活用に当たって」という文書に細かく書かれていますから、ぜひ読んでいただいたらいいんじゃないかと思います。

  これらの資料や国会での質疑をベースにして、文部科学省が作成、発行し、それを無償で全児童生徒に配布したことが、教育行政上、教育法上どういう問題があるのか、について考えてみたいと思います。ある当局側の勉強会のようなものがあり、そのなかで、「心のノート」を作った法的根拠は何かという質問に対して、このノートの編集協力者でもあるF教授がノート発行の法的根拠として、@文部科学省設置法3条、4条、A学校教育法21条2項、B学習指導要領の三つをあげています。そういった点を含めて、私自身、考えてみたいと思います。これまで、教育心理学者や臨床心理学者、教育学者が、いろんなところで発言し書かれたものもありますけれども、教育行政上とか教育法の立場からの見解というのは、いまひとつ見あたりません。また、現場の先生のほうでもそれについて教えてほしいという声もあり、そしてまた、書く機会を与えられて書いたというのが、お手元の資料「『心のノート』の教育行政上の問題点」(部落問題研究所『人権と部落問題』2003年1月号=698号)です。配布したレジメ等とこの私の書いたものを通して話していきたいと思います。

 

 1 「心のノート」の教材上の位置づけ

 

  文部科学省は「心のノート」を「道徳教育の充実に資する補助教材である」と位置づけています。このことは文部科学省の依頼文、通知文に書かれています。そして、配布当初は当局はこのノートを、世論とくに教育関係者からの批判、疑義を気にして、「各学校において有効かつ適切に活用されることを期待します」、「何の強制力もありません」ということも言っています。また、最近の国会においても、文部科学大臣が野党の質問に答えて、これは活用状況の文書配布について質問しているのですけれども、指導助言の一貫として配布しているのだと言っています。少なくとも表向きは、その使用を強制するという性格はないと言い、義務付けるようなことは避けているわけです。

  しかし、その間、衆議院の決算行政監視委員会における配布状況についての与党議員による質疑をへて、「『心のノート』の配布状況について」という照会の文書を各都道府県・指定都市教育委員会宛に出しています(平成14年7月12日)。

  補助教材として位置づけるということであれば、補助教材とはどういう性格のものなのかということを、まず、しっかりおさえておく必要があるんじゃないかと私は思います。現場の先生の中にも「心のノート」について、私の知るかぎりでも、実際に使っている先生もあれば、使わずにわきに積み上げている先生もいると聞いています。ただ、教育委員会から校長を通してチェックがかかっているということで、校長先生が急いで、「先生方、使って下さい」と言うので、はじめて引っ張り出して見るという先生も多いようです。いずれにしても、このノートは補助教材ということですので、それがどういうことなのかを問題にしたいと思います。

 

 2 補助教材の意義

 

  補助教材の使用について、学校教育法21条2項は、「教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なものは、これを使用することができる」と定めています。そして、このことについて、学校教育法の制定過程で言及されていることがらも紹介して、補助教材がどういう意味で捉えられているか、とくに学校教員との関係で、どのように解されているかについて、あらためて確認しておいたほうがよいのではないかと思います。要するに、教師が補助教材を使用するのは自由であり、何が「有益適切」であるかの判断は学校・教師(集団)に委ねられているというのが原則であるということです。これは当然のことだと思うのですが、しかし現実には必ずしもそうなっていません。

  その点について、戦後直後の展開では、まず、学校教育法案の国会への提案者である当時の高橋文部大臣が「有益適切な補助教材の使用が自由になったこと以外は、従来の小学校に関する規定と大差ありません」と言うように、補助教材の使用が自由になったということです。そしてその「有益適切」性の判断主体についての学校教育法21条2項の画期的意義は、当時の唯一の解説書である、内藤誉三郎(元文部省初中局長)の『学校教育法解説』(1947年)のなかで言及されています。そしてそれ以外にも、天城勲『学校教育法逐条解説』(1954年)のなかでも同趣旨のことが言及されています。要するに、「21条2項では、有益適切な補助教材の使用が自由であることが明らかにされた。教育本来の性質から言えば当然の規定であろう。何が有益適切であるかの判断は教員に委ねられている」(内藤、同書)ということです。ここはひじょうに重要だと思います。そして、有益適切なものの「判断の基準については、文部省が指示するが、決定は教育者自身である」(天城、同書)。いうならば、最終的に補助教材として有益適切かの判断は学校教師自身にあるんだということです。それゆえ、戦後直後の教師の補助教材の使用の自由という原則の確認は、ひじょうに重要であるといえます。もちろん、使用の自由というのは、いうまでもなく、教師による勝手気ままな自由放任を意味するものではなくて、まさに教師の教育専門的力量に信頼を置いた自由、教育の自主性、自律性を認めた上での自由を意味するものでした。そして、すでに言及したように教師集団に「有益適切」な補助教材の判断を認め、選定する自由を保障しなければならないのは、その対象となっている補助教材がまさに教育専門的事項であり、日常的に教育活動にたずさわっている個々の教師、教師集団こそふさわしい立場にあるとみるのが、妥当な見方であると認識されたからです。

  このように考えると、今回の文部科学省による児童生徒への無償配布について、その配布状況および活用状況に関する文書で教育委員会を通して、校長を叱咤激励して点検するということが事実上、学校教師に対してどういう影響力ないし強制力を及ぼしうるものになっているかについて考えてみる必要があります。以上のことを前提にして、「心のノート」の取扱いをめぐる教育行政上、あるいは教育法上の問題点について以下のように取りあげてみようと思います。

 

 3 同ノートの取り扱いをめぐる教育法上・教育行政上の問題点

 

(1)補助教材使用の自由の原則からの逸脱

  すでに述べたように、すべての学級のすべての児童生徒に配布されているかどうかを調査するために、「配布状況について」の照会文書が出されています。そこで、配布していない小学校数、中学校数を、それぞれ記入して報告させるということ、このような点検を求めているということは、その全体の法的意味あいからすれば、たとえ法的拘束力を持たないにしても、学校現場において一部であれ既に校長がその意を汲んで、このノートの使用を教員に命じているところがあったり、「強制しない」はずの国旗=日の丸の掲揚、国歌=君が代の斉唱にまつわるその後の理不尽な処分や強制的な行政指導、さらにはわが国における文部科学大臣、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校長という縦の上下秩序のいまなお克服しきれないでいる伝統的現実の中では、運用次第では事実上、教育行政における非権力的な助言指導権の行使を越えて、教師の補助教材使用の自由に規制を加えかねないものになっているといわなければなりません。このことは、先ほど述べた学校教育法21条2項の立法趣旨に反しており、さらには、教育基本法10条の規定する教育の自主性尊重の原則にも抵触するのではないかと思われます。

 

(2)同ノートの発行・全国一律配布の問題点

 

@ 教育行政の任務とその限界の原則を逸脱

  一言でいえば、この「心のノート」というのが当局側による一定の教育価値を方向づけるものであるということが問題です。公権力機関である文部科学省が人の心に関わるもの、いわば人間観、価値観に深く関わるものを道徳教育の教材としてこのノートを発行して、一律に配布するということが、戦後教育行政の原理からみて決して許されるものではないということです。

  「心のノート」の内容は、概して、入り口では「美しい心をそだてよう」とか、「心をみがき大きく育てよう」という調子でノート全体を「心の問題」オンパレードで誘導し、出口は「君が国を愛しその発展を願う」、「この国を愛し、その発展を願う気持ちは、ごく自然なこと」という方向、ゴールに導いていくというパターンになっています。

  このような内容に対しては、心理学者その他による批判的な意見が少なくありません。たとえば、それ自体は文句のつけようのないような響きのよい言葉を多く並べて、ある方向にマインド・コントロールする内容になっているとか、モラルや頑張らねばとの目標ばかり教え込むことは、かえって危険です、とか、人格形成の上で重要な思春期は、さまざまな体験や仲間とのやりとりの中で周りから押し付けられた価値を確かめつつ壊しながら納得して自分の価値を再編していくもので、そのような時期に「何の強制力もない」といいつつも随所に散りばめられた「こうあるべきだ」との内容を繰り返し読むうちに、一定の方向を示されているとも考えもせずにそれに無批判に従う人間になってしまう方向性を有している、などという疑義や批判が少なくありません。要するに、知らないうちに一定の方向に導いていくような展開になっているということです。

  当局側が「ノートも手引き書も価値の押しつけにならないよう、しかし教えるべきことは教え込めるよう気をつけました」と言っているように、一方では強制ではありませんと言いながら、しかし教えなければならないことはしっかり教え込めるように留意して同ノートを編集していると言い、まったく矛盾したことを平気で言っているのです。これには既に多くの方々が批判していますが、こうした公権力の介入に対する批判を気にしながらも、しかし、やらなければならないことはやるという強い姿勢を行政側が持っているということは否定できません。

  ある意味では、国民が無意識のうちに、いざというときには国の政策を受け入れるような基礎づくりが行われているといえます。今日の政治的な分脈でいうと、ここずっと問題になってきた有事立法の体制(有事法制関連三法<2003年6月6日成立>)に動員するようなイデオロギー統制というものが、教育においてもソフトな方法ですすめられているのではないでしょうか。つい最近も、有事立法の中で病院の医師や看護師についても、本人の意思とは関係なく有事体制に組み込まれるべき法案が成立しています。同じことが学校教育の場でもすすみつつあるとみるのは思いすごしでしょうか。決してそうではないと思います。「社会のために」、「国際貢献のために」という名目で、そのような方向を受け入れていくような「心づくり」というのがすすめられているのです。「心のノート」を通して国家が国民の精神を統制しようとする意図を甘くみてはならないのではないかと思います。

  人間の人格形成、内面的価値形成にかかわって教育と国家との関係について述べた以下の点を確認する必要があります。すなわち、戦後直後に出た文部省教育法令研究会『教育基本法の解説』によると、教育行政は、「教育内容に介入すべきものではなく、教育の外にあって、教育を守り育てるための諸条件を整えること」をその目標にするべきであると述べています。

  また、最高裁学力テスト判決(1976年)においても、本来、人間の内面的価値形成にかかわる「教育内容に対する国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請されるし、殊に個人の基本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤つた知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」ということで、教育内容に対する公権力の介入を戒めている判決例として有名になっています。

  現場の先生方が忙しいという中で、十分判断する余裕もないままに、また校長が強制する中で、少なくない教師たちがこのノートが使用しています。以上のような問題点を有するこのノートを無原則に使用している状況を私たちは見過ごしてはならないと思います。

 

A 同ノート発行の法的根拠の無原則適用

  先ほど言いましたように、ある研修会で、「心のノート」の法的根拠はどこにあるのかという質問に対し、このノートの編集協力者であるF教授は、文部科学省設置法4条11号をあげています。そこには、文部科学省の所掌事務として「教科用図書その他教授上用いられる図書の発行・・・に関すること」が定められています。「その他教授上用いられる図書」として「心のノート」を発行しているのだ、というわけです。

  この規定は包括的になっているので、どういう前提のもとで発行に関することの事務が行えるのかは、上位法である憲法や教育基本法、および戦後の文部省設置法の立法趣旨、さらには子どもの権利条約などをふまえた法令の解釈、運用が重視されなければなりません。先ほどの最高裁学力テスト事件判決も、日本国憲法の理念に則った教育基本法は、教育諸立法の中で、「中心的地位」を占める法律であり、「一般に教育関係法令の解釈及び運用については、法律自体に別段の規定がない限り、できるだけ教基法の規定及び同法の趣旨、目的に沿うように考慮が払われなければならない」と述べている通りです。

  では、包括的に規定している文部科学省設置法4条11号の「発行に関すること」の事務の取り扱いの前提にはどのような規定があるか。憲法の教育人権の根拠規定である26条(教育を受ける権利)のほか、13条(個人の尊重)、19条(思想・良心の自由)、23条(学問の自由)などがあり、さらに教育基本法、子どもの権利条約の諸規定があります。と同時に、戦後の文部省設置法がどういう趣旨で設けられたかということも参考にすべきではないかと思います。

  戦後の教育改革過程で、今後の「文部省は・・・あくまで基本的人権を尊重して、精神活動の自由を保障することをその主要な任務とし、いやしくも国家権力をもって、・・・教育の実体に干渉を」加えてはならない、とうたっていました(1948年1月30日、教育刷新委員会)。ここで、「実体に干渉する」とはどういうことなのかというと、文部省の方からしかるべき実体をつくってその方向に導くことをいう、という意味なのです。つまり、「心のノート」でいえば、しかるべき「心のノート」を発行して、自然に一定の方向にコントロールしてしまうような、そういう実体をつくっていくということ、そのようなことを禁止しているのです。

  この明快な説明は、教育行政の任務とその限界を示したものであり、今回のノートの発行と全国一律配布は、押しつけではないと言いながら、ソフトな内容と方法を通して、国家の一定の価値内容を導くという実体をつくりだそうとしており、文部科学省の任務とその限界を越えたものとなっているといえるでしょう。

  旧文部省設置法は、行政改革の中で文部科学省設置法にかわったのですが、かつての文部省設置法6条2項で、文部省はその権限行使については法律に別段の定めがない限り、行政上および運営上の監督権を有しない、と定められており、その権限行使について一定ブレーキがかけられていたわけです。これは、その後の法令の解釈や運用にあたって、その趣旨を前提にして生かされるべきではないかと思います。

  「別段の定めがある場合を除いて」という例外を認めて、50年代以降、たびたびの法「改正」を経て、また、行政権限の性格を曖昧なままにして制定した今日の新しい文部科学省設置法を経て、文部科学省の行政支配を強める政策がとられてきたにせよ、憲法・教育基本法の今言いましたような基本理念・原則、および文部省設置法の立法趣旨に則った指導助言権を主内容とする教育行政の原理の前提は堅持しなければなりません。

  したがって、文部科学省設置法4条11号の包括的規定についても、無原則に権限行使ができるということではないのであり、かりに発行するにしても、一律配布し、しかも点検するというようなやり方じたいが本来の指導助言行政のあり方から逸脱しているのではないかと思うのです。

  教育内容や教育方法等に関する専門的事項については、教育行政は学校の主体的な判断に委ねる指導助言により運用すべきであるとの近年の中教審答申(1998年)に照らしても、補助教材として配布している「心のノート」に対しては、あくまでも学校の主体性を尊重すべきなのです。

 

B 思想・良心の自由の憲法的保障に触れかねない

  日本国憲法19条は「思想および良心の自由は、これを侵してはならない」と規定していますが、このノートが文部科学省による一定の価値内容を方向づけようとしていることには、重大な疑点を含んでいるといえます。

  このことは、「心のノート」を見れば分かります。また、昨年4月22日付の「『心のノート』について(依頼)」に、このノートの使い方を書いていますが、そこに、「『心のノート』は、児童生徒の発達段階に応じ、継続的に道徳の学習が発展できるように工夫しており、自分のノートを自分で作っているという意識が生まれ、このノートを介して心の成長が実感できるようにしていくことが大切である」とありますが、そこまで言いきってよいものかどうか。まさに教育方法上の問題を、たとえ拘束力がないにしても、こういう形で言ってきていることは問題です。ほかにも同様の記述があります。一方では、一人ひとりの内心の自由については慎重でなければならないと言いながら、他方では、それに矛盾するような取り扱いがみられる点については注意を要します(同上「依頼」文書参照)。

 

C 教育に関する地方自治の原則を逸脱

  現行教育法制における重要な基本原理の一つである、教育に関する地方自治の原則からみても、今回のような一律配布、一律照会、点検による行政指導、関与のあり方は、事実上、国の教育行政権の行使の限界を明らかに逸脱しているということです。こういう指摘はこれまで十分にされてこなかったと思います。一方で、地方自治、地方分権といいながらも、戦後の重要な教育行政の原則を逸脱しかねないような展開がみられる、ということの指摘をしておかなければならないでしょう。

  なぜなら、照会や依頼文による行政指導が、たとえ法的拘束力を有していないとはいえ、教育委員会や学校長をして、国家の政策意図に関連して、「教えるべきことは教え込める」という強い決意をもって、それを受け入れさせるような影響力を行使する状況や、一般教員に対して児童生徒への同ノートの配布、活用を命じる校長が出てきている現実のもとでは、教育の自主性尊重の原則とならんで教育における地方自治の原則が歪められかねないものになっているからです。

  今の地方教育行政というものが、まだまだ主体性、自主性を生かされていないことがあるだけに、言葉の上では助言、指導といっても、また、あくまで強制力はありませんといいながらも、教育行政が事実上の強制力を行使している点を、私たちは見落としてはならないのではないかと思うのです。他方、教育および教育行政の地方自治の直接の担い手である学校教職員や教育委員会の自主的な力量の発揮が要請されるし、そのような力量が発揮できる環境・条件の整備をどうすすめていくべきかも重要な課題でしょう。

 

 4 課題

 

  最近は学習指導要領の改訂に関わって、2002年度の教科書検定で、発展的な内容が認められることになりました。あくまで指導要領は最低基準だから、教科書に書いてあることを越えて教えてもよいと言い始めています。そういう意味では、その発展的な内容をどう見るのか、教科書、補助教材を含めてどのように考えていったらよいかということを、教育課程の編成、教育活動の中で総合的に考えていかなければならない問題だと思います。いま国のほうでも関係者の批判を受けて右往左往しています。今日、改めて教育内容行政のあり方に関わって、現場の教師はそれ対して、どのように責任を負い、専門的力量をつけていかなければならないか、ということが厳しく問われているのではないかと思います。

2003年9月20日

 

(この文章は、室井先生の講演内容を編集部で要約したものです。)

 

【関連資料】

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14文科初第125号
平成14年4月22日

各指定都市教育委員会教育長
附属小・中学校(中等教育学校、盲、聾、養護学校小・中学部を含む)を置く各国立大学長
  殿

文部科学省初等中等教育局長
矢 野 重 典 

 

「心のノート」について(依頼)

 

  このたぴ、文部科学省では、「心のノート」を作成し、全国の小・中学生に配付することとしました。「心のノート」は、児童生徒が身につける道徳の内容をわかりやすく表し、道徳的価値について自ら考えるきっかけとなるものであり、学校の教育活動全体において活用され、また学校と家庭等が連携して児童生徒の道徳性の育成に取り組むよう活用されることを通して、道徳教育の一層の充実を図ろうとするものです。
  つきましては、下記に示す「心のノート」の趣旨及びその活用の仕方等を参考にして、学枚の教育活動全体及び家庭において、有効かつ適切な活用がされるよう、所管の学校に対する指導をお願いします。
  なお、後日、教師用活用の手引きを送付しますので、併せて活用願います。

 

 

1 趣 旨

  今日の我が国の教育において、「生きる力」の育成が重要な課題となっている。その「生きる力」の核となる豊かな人間性の育成を担う柱として、道徳教育の充実が、従来にも増して強く求められているところである。生命を大切にする心や他人を思いやる心、物事の是非・善悪といった規範意識などをしっかりと身につけさせるとともに、家庭や地域社会との連携を図りながら、豊かな体験を通して児童生徒の内面に根ざした道徳性を育成することが重要である。
 「心のノート」は、児童生徒が身につける道徳の内容を、児童生徒にとってわかりやすく表し、道徳的価値について自ら考えるきっかけとなるものであり、学校の教育活動全体において活用され、また、学校と家庭等が連携して児童生徒の道徳性の育成に取り組むよう活用されることを通して、道徳教育の一層の充実を図ろうとするものである。
 すなわち、「心のノート」は、児童生徒一人ひとりが、このノートを手に取り、様々な時間や場で、道徳的価値や人間としての生き方にかかわって気付いたことなどを、このノートや自らの心に記録したり、整理したりすることを通して、児童生徒が自ら道徳性をはぐくみ、人間としてよりよく生きることに資する教材である。

 

2 「心のノート」の趣旨を生かした活用

  「心のノート」は、学校での道徳の時間をはじめ、各教科、特別活動及び総合的な学習の時間や家庭での話し合いの場などで、広く活用できるものである。
 学校の教育活動や家庭における、「心のノート」の趣旨を生かした創意ある活用を通して、@児童生徒が身につける道徳の内容を知り、興味・関心をもって授業や、生活等に意欲的に取り組むことができる A児童生徒一人ひとりが継続的に活用することにより、自己の道徳的成長を実感したり、それを記録したりすることができる B様々な体験的活動を道徳教育の観点から捉え、体験活動及びこれらを通じた道徳教育を一層充実させることができる C児童生徒の道徳性を育成するための、教職員全体の共通理解による指導体制づくり及び学校と家庭の連携が促進できる、などが期待される。

(1) 学校の教育活動全体を通じての活用

(a)道徳の時間における活用
 児童生徒が身につける道徳の内容をわかりやすく表すというこのノートの趣旨から、学習指導要領に定める道徳の内容(小学校低学年15項目、中学年18項目、高学年22項目、中学校23項目)について、児童生徒の発達段階や実際の道徳の授業の展開等をも考慮し、例えば道徳的価値についての理解を確実にすること、実践することを促したり実践した内容を自ら整理すること、自らの生き方を考えること、発達段階に応じて保護者が協力することなどに配慮した編集をしている。
 これらを生かした活用がなされることにより、@児童生徒が自主的に学習に臨むことにより、主題に対する興味・関心を高め学習への意欲を高めることができる A副読本などの内容や道徳的価値について、児童生徒の理解を深めたり、学習した内容をまとめたり、考えを整理したりすることを助けることができる B児童生徒が道徳の時間の学習を継続的に振り返ることができ、また自らの心の成長を記録することができる、などが期待される。

(b)各教科等における活用
 各教科等の学習活動の中には、道徳教育にかかわる内容や活動が含まれており、各教科等の指導の過程において、それぞれの特質に応じた道徳教育も併せ行われている。
 各教科等における道徳教育に「心のノート」をより生かすためには、自校の道徳教育の全体計画などについて、教職員の共通理解を深めるとともに、教科等の目標や内容について、道徳教育との関連を改めて明確にしておく必要がある。
 後日配付予定の教師用活用の手引きにおいても、教科等との関連を示す予定であり、それをも参考にしてこのノートが活用されることが期待される。

(2)学校と家庭との連携による活用
 「心のノート」は、学校と家庭が連携して児童生徒の道徳性を育成する上でも有効に活用できる、いわば学校と家庭との架け橋的な性格も有するものである。保護者が児童生徒の発達段階に配慮しながら、一緒にこのノートを開き、前向きな言葉かけや、書き込み、話し合いをすることなどを通して、家庭においても児童生徒の道徳性の育成に取り組まれるとともに、学校における道徳教育について保護者の理解を得ることが期待される。

 

3 「心のノート」の活用に当たっての留意事項等

(1)「心のノート」は、教科書ではなく、道徳の時間に活用される副読本や指導資料等に代わるものでもなく、これらの教材と相まって活用されることにより、道徳教育の充実に資する補助教材である。「心のノート」のみをもって道徳教育を行うというものではないことに留意し、今後とも、児童生徒の心に響く効果的な教材の活用に努めることが必要である。

(2)「心のノート」は、児童生徒の発達段階に応じ、継続的に道徳の学習が発展できるように工夫しており、自分のノートを自分で作っているという意識が生まれ、このノートを介して心の成長が実感できるようにしていくことが大切である。例えば、記入する部分については、「心のノート」に直接記入してもよいし、別途記入するノートを持つといった工夫も考えられる。
 いずれにせよ、児童生徒が主体的に学習し、自ら道徳性をはぐくんでいくことができるよう、指導に当たっては十分に配慮することが大切である。

(3)「心のノート」の活用に当たっての教師や保護者等のかかわり方については、児童生徒の発達段階等を十分に考慮する必要がある。


14初教課第7号
平成14年7月12日

各都道府県・指定都市教育委員会
          指導事務主管課長 殿

文部科学省初等中等教育局教育課程課長
布 村 幸 彦    

 

「心のノート」の配布状況について(照会)

 

  道徳教育の充実については、日頃から御配慮を賜り御礼申し上げます。
  さて、文部科学省では、道徳教育の充実に資するため、「心のノート」及び「心のノート」教師用活用の手引きを各都道府県・市町村教育委員会等を通じて配布したところであり、各学校において有効かつ適切に活用されることを期待しています。
  ついては、このたび「心のノート」の児童生徒への配布状況について調査を実施することとしましたので、下記の要領により、平成14年8月19日(月)までに、当職あて回答願います。
  なお、今後「心のノート」の活用状況(学校における具体的な活用の仕方、児童生徒や保護者の意見等)について、調査を実施する予定があることを申し添えます。

 

 

1 調査時期は、本年度の夏期休業前の時点とする。

2 この調査の対象となる学校は、公立の小学校、中学校及び中等教育学校とする。(盲・聾・養護学校は調査の対象としない。)

3 下の様式により、配布状況をまとめるものとする。

都道府県市名 
担当者職・氏名 
連絡先電話番号 

市区町村名

所管小学校数

配布していない小学校数(内数)

所管中学校数

配布していない中学校数(内数)
○○市        
●●町        
△△村        
◇◇学校組合        
県立学校        

       

4 県立学校については「市区町村名」欄には、「県立学校」と記入する。また、中等教育学校(前期課程)は中学校として扱う

5 分校は本校と合わせて1校とする。

6 全ての学級の全ての児童生徒に配布されている状況を「配布されている」ものとし、これに該当しない学校の数を「配布していない小学校数」「配布していない中学校数」の欄に記入する(全ての学校で配布されている場合は「0」を記入する)。ただし、特殊学級について、個々の児童生徒の障害の状態や程度を考慮し、「心のノート」を使用することが著しく困難と判断された場合は除くものとする。

7 組合立学校について、遺漏のないよう留意する。

8 提出先 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程第1係
        〒100-8959 東京都千代田区霞が関3−2−2
        TEL 03−5253−4111(内線2903)










事  務  連  絡
平成15年5月19日

各都道府県・指定都市教育委員会
          指導事務主管課長 殿

文部科学省初等中等教育局教育課程課長
大 槻 達 也

「心のノート」の活用状況について

 

  各都道府県・指定都市教育委員会におかれては,平素から道徳教育の充実のため,御尽力いただき誠にありがとうございます。
  文部科学省では,今後の取組の参考とするため,「心のノート」の活用のための各教育委員会の取組,学校等での活用状況,これまでの成果や今後の活用に向けての課題等について,その状況を把握したいと考えております。
  ついては,御多忙中恐縮ですが,別紙様式に御記入いただき,平成15年7月11日(金)までに,当課あて御提出願います。
 

【本件担当】

文部科学省初等中等教育局教育課程課
教育課程第一係(坂下,前川,武市)
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(別紙様式)

 

「心のノート」の活用状況について

 
(記入者)
都道府県市名
所属・職名
氏   名
電話番号

 

T 教育委員会における取組

1 各学校において「心のノート」の活用が図られるよう、貴教育委員会において、どのような取組を実践していますか。その際,関係機関・団体等への働きかけなどを行っている場合には、相手方も具体的に挙げてください。資料がある場合は,別途添付してください。
 

 

2(都道府県教育委員会のみ回答すること)
 域内の市区町村教育委員会において実施している取組のうち,特色のあるものがあれば記述してください。資料がある場合は,別途添付してください。
 

 

U 学校等での活用状況

1 児童生徒の「心のノート」の活用を一層促すために,域内の学校において,これまでにどのような活用が図られていますか。有効な活用方法と思われる事例について記述してください。資料がある場合は,別途添付してください。

 @ 小学校
活用場面 有効な活用方法

ア 各教科

 

イ 道徳の時間

 

ウ 特別活動

 

エ 総合的な学習の時間

 

オ 学校での日常生活(上記ア〜エ以外の場面)

 

カ 家庭での日常生活

 

キ 家庭や地域との連携

 

ク その他(上記ア〜キ以外の場面)

 

 

 A 中学校
活用場面 有効な活用方法

ア 各教科

 

イ 道徳の時間

 

ウ 特別活動

 

エ 総合的な学習の時間

 

オ 学校での日常生活(上記ア〜エ以外の場面)

 

カ 家庭での日常生活

 

キ 家庭や地域との連携

 

ク その他(上記ア〜キ以外の場面)

 

 

2 域内の学校において,道徳の時間以外で,「心のノート」が多く活用されていると思われる場面を,小学校,中学校それぞれ,ア〜キのうちから3つまで選び,○をつけてください。
  小学校 中学校
ア 各教科 (   ) (   )
イ 特別活動 (   ) (   )
ウ 総合的な学習の時間 (   ) (   )
エ 学校での日常生活 (   ) (   )
オ 家庭での日常生活 (   ) (   )
カ 家庭や地域との連携 (   ) (   )
キ その他(下記の欄に具体的にご記入下さい) (   ) (   )
 

 

3 「心のノート」が効果的に活用されていない状況が見られる場合,その理由としてどのようなことが考えられますか。ア〜エのうちから選び,○をつけてください。(複数回答可)また,そのような状況が見られる場合,その具体的な内容をあわせて記述してください。
  中学校
ア 教師の理解や活用への意識が十分ではない  
イ 児童生徒の共感が得られていない  
ウ 保護者や地域の理解が得られていない  
エ その他  
 

 

V これまでの成果や今後の活用に向けての課題等

1 児童生徒,教職員,保護者,地域等に閲し,「心のノート」の活用の成果としてこれまでに見られたことなどについて,記述してください。
 

 

2 今後,各学校において,「心のノート」を活用するに当たって,どのようなことが課題として考えられるか,また,教育委員会としてどのように取組を進める必要があると考えているか,記述してください。
 

 

3 児童生徒,教職員,保護者等の意見や感想等で,「心のノート」の内容について,改善の参考となると思われるものがあれば,記述してください。(記入の際は,冊子の種別(小学校1・2年用,3・4年用,5・6年用,中学校用)及び該当ページを明記してください。)
 

 

※ なお,「心のノート」の活用の実態について調査し整理した資料(研究会等によるものを含む。)があれば添付してください。



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