◆201812KHK247A1L0833M
TITLE:  注目の教育裁判例(2018年12月)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第247号
WORDS:  全40字×833行


注目の教育裁判例(2018年12月)



羽 山 健 一



  ここでは、公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から、先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。

判例タイムズ 1442号−1453号
判例時報   2350号−2384号
労働判例   1167号−1187号
判例地方自治 427号−439号
裁判所web   2017.04.24−2018.12.28



  1. 私立大学非常勤講師セクハラ被害事件――講師の臀部を触った学生の責任
    千葉地裁判決 平成28年11月29日

  2. 福島県立高校教員懲戒免職処分事件――生徒との不適切な関係で23年後の免職処分
    仙台高裁判決 平成28年11月30日

  3. 平塚市立小学校・校外写生中交通事故死事件――正門前で起きた児童死亡事故
    横浜地裁小田原支部 平成29年9月15日

  4. 公立大学大学院生退学処分事件――同和差別発言を行う大学院生の処分
    名古屋高裁判決 平成29年9月29日

  5. 埼玉県行田市立小学校保護者事件――担任と保護者の訴訟合戦
    さいたま地裁熊谷支部判決 平成29年10月23日

  6. 宮代町立中学教員懲戒免職事件――キスや抱擁を理由とする免職処分
    さいたま地裁判決 平成29年11月24日

  7. 目黒区立小学校長神社奉納金事件――神社への奉納金支払いと政教分離原則
    東京地裁判決 平成30年1月26日

  8. 豊中市立中学校男子バスケットボール部顧問セクハラ事件――不適切な行為を理由とする免職処分
    大阪地裁判決 平成30年3月22日

  9. 府中町立中学校卓球部員転落事故事件――部活動中の転落事故
    広島地裁判決 平成30年3月30日

  10. 北海道立高校教諭差別発言事件――色覚障害の生徒に教諭が差別発言
    札幌地裁判決 平成30年6月21日

  11. 三鷹市立小学校児童殴打事件――担任を殴打したADHD傾向の児童と親の責任
    東京地裁立川支部判決 平成30年10月2日






◆私立大学非常勤講師セクハラ被害事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 千葉地裁判決
【事件番号】平成26年(ワ)第1013号
【年月日】 平成28年11月29日
【結 果】 一部認容・一部棄却(確定)
【経 過】
【出 典】 労判1174号79頁


事案の概要:

原告は、被告学園に雇用され、被告学園が経営する大学で英語の非常勤講師として稼働していた米国人男性である。原告が、自身のクラスの生徒である被告学生Yから、授業中に臀部を触られるなどしたため多大な精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料100万円等の支払を求めた。他方、被告学園に対しては、原告代理人の立会の下で原告本人からの事情聴取をせず、不十分な調査をするにとどめた上、原告と学生Yとの関係の改善に向けた方策を何も講じなかったことから、原告が多大な精神的苦痛を被ったとして、労働契約における債務不履行に基づき慰謝料150万円等の支払を求めた。

認定事実:

原告は、平成26年11月5日、本件大学の英語担当専任講師であるDに対し、同月4日の授業中に、学生Yから臀部を触られる等のセクハラ行為を受けたので、学生Yを原告の授業に出席させないようにしてほしい旨伝えた。翌6日にも本件大学の職員であるEに同様の要請を行ったが、学生Yは授業料を支払っていることから、学園としては授業に出席させない措置をとることができない旨伝えられた。

原告から委任を受けた原告代理人は、同月10日付けで、被告学園にあてて「請求書」と題する書面を発送した。そこには、学生Yに謝罪文を書かせること、原告の精神的・経済的被害につき賠償すること、今後、原告本人ではなく、すべて原告代理人に連絡をすること等が記載されていた。

本件大学の総合事務センター長Hは、原告と学生Yとの間にトラブルが生じているという連絡を受け、同月11日、本件「請求書」を閲覧した上で、学務担当課長らとともに、学生Yに対する事情聴取を実施した。学生Yは「(原告の臀部に)触れたかもしれないが、記憶にはないです。」、「ただ、少なくともつかんだり強くたたいたりした事実はないです。」、「もし、先生がこのことで怒っているのであれば、記憶にはないが謝りたい。」等と述べた。Hらは翌日にも事情聴取を実施したところ、学生Yは「昨日も言ったように、覚えていないが、「ノリ」で触ったかもしれない。自分の記憶にはないんです。」と回答した。Hらは原告の授業を選択している学生に電話をかけて同日の授業の状況を調査したが、トラブルがあった等の特段の事情は述べられなかった。

Hらは、同月11日、学生Yに対する事情聴取に次いで、原告からの事情聴取を行った。Hらは、原告に対し、学生Yによる謝罪を受け入れるかどうか等を尋ねたところ、原告は、自分は何も言うつもりはない、すべては弁護士を通さなければならない旨の回答を繰り返した。

同月18日、被告学園ではハラスメント調査委員会が開催され、原告の主張するハラスメントに該当する事実は認められないと結論付けた。

判決の要旨:

(1) 学生Yは、Xの臀部を触る行為に及んだか
学生Yのように、事実を否定しているにもかかわらず、早い段階から謝罪の意向を表明するというのは、不可解といわざるを得ない。学生Yの供述の信用性には疑問があるといわざるを得ない。他方、原告が虚偽の事実を主張してまで学生Yを陥れようと企てていることの動機となりうるような事実(個人的な怨恨等)は、まったくうかがうことができない。そして、原告の供述内容については大枠において、不自然不合理なところはない。したがって、学生Yは、授業中に、原告の臀部を触っていたとの事実を認定するのが相当である。

(2) 学生Yの行為によって原告が被った損害額
原告が学生Yの行為によって受けた精神的衝撃は、決して小さなものではないと考えられるが、学生Yはあくまでも「ノリ」で行為に及んだもので、したがって、刑法176条の強制わいせつ罪に該当するものではない。この意味において、学生Yの違法性は、さほど強いものではない。加えて、学生Yからすれば、原告が提訴するほどまでに精神的苦痛を被ることは予想していなかったことがうかがえる上、学生Yの年齢等を考慮すると学生Yがそのような認識を持ったとしてもそれはやむをえない側面がある。そういった事情からすれば、学生Yが原告に支払うべき慰謝料の額については、10万円が相当である。

(3) 被告学園は原告からの要望に対し、労働契約上の義務に反する対応に及んだか
被告学園(Hら)が、学生Y(2回)及び原告本人(1回)に対する事情聴取により、学生Yが原告の臀部に触った可能性は否定できないとの印象を有していたところ、その後原告から再度の事情聴取をせずに、ハラスメント調査委員会が学生Yによるハラスメント行為はなかったという結論を下したことについては、不十分な調査によって被用者である原告に不利な結論を下したという外なく、被告学園の措置は労働契約上の義務に違反するものと認められる。

(4) 被告学園の債務不履行によって原告が被った損害額
被告学園は学生Yの履修継続及び事態の早期決着を目指すことを優先して、原告側の言い分を尊重しない行動に出たものという外はなく、被告学園のかような対応は、非常勤講師である原告を精神的に相当傷つけたものと認められる。その上で、被告学園が原告に支払うべき損害賠償の額については、原告が再就職を果たしていることを含め、80万円が相当である。






◆福島県立高校教員懲戒免職処分事件

【事件名】 懲戒処分取消等請求事件
【裁判所】 仙台高裁判決
【事件番号】平成28年(行コ)第13号
【年月日】 平成28年11月30日
【結 果】 原判決取消、被控訴人請求棄却
【経 過】 一審福島地裁平成28年6月7日判決(認容)、
      最高裁二小平成29年8月25日決定(上告棄却・上告不受理)
【出 典】 判地自427号48頁


事案の概要:

県立高校教員であった被控訴人(教員X)が、23年以上前に、顧問をしていた部活動に所属していた女子生徒と部活動終了後に頻繁にみだらな行為を行ったことを理由して、教育委員会が行った懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分について、これらの処分はいずれも違法であると主張して、その取消を求めた事案である。原審が教員Xの請求をいずれも認容したことから、控訴人(福島県)が控訴した。

認定事実:

女子生徒は、両親の不和など、家庭の問題で悩んでおり、教員Xは、顧問として女子生徒の指導に当たる中で、女子生徒の悩んでいた問題についても親身に相談に応じるうち、女子生徒は教員Xに好意を抱くようになった。教員Xは、その当時、30代半ばであり、妻と2人の子と暮らしていたが、妻との間に不和が生じていたこともあって、1986年11月頃から、女子生徒と性交渉を持つに至った。教員Xは、この関係を女子生徒が高校を卒業する時点で精算したいと思いながら、1989年3月までの間、2、3日に1回程度の頻度で性交渉を行った。教員Xは、妻と別れるといった考えを持っていなかったが、女子生徒が、教員Xの妻に対し、教員Xとの関係を告白したこともあって、協議離婚した。

教員Xは、1990年ごろ、女子生徒の母から慰謝料として500万円を支払うよう請求された。教員Xは、行政書士に仲介を依頼し、女子生徒の母に50万円を支払うことにより問題を納めたが、示談書を取り交わすに至らなかった。女子生徒は高校を卒業後、結婚し子どもをもうけたが、その後、離婚し京都府内で生活している。

教員Xは、2007年12月頃、女子生徒から慰謝料の支払いを求められ、2012年1月に、女子生徒の母から慰謝料の請求を受けたため、弁護士と相談した上で、民事上の請求権は、消滅時効、排斥期間により消滅している旨の通知をした。福島県は、2012年2月、女子生徒から電話で本件非違行為があった旨の告発を受けて、事情を知るに至り、女子生徒、女子生徒の母親及び教員Xに対する調査を行った。
  教員Xは退職届を提出したが、福島県教育委員会は2012年6月、「教員Xが、1986年11月頃から1989年3月まで、女子生徒と、部活動終了後に、自家用車で女子生徒を自宅に送る途上の車内、体育教官室、女子生徒の自宅、部活動遠征時の宿舎等において、頻繁にみだらな行為を行った」として、懲戒免職処分、及び、退職手当等の全部を支給しないとする旨の退職手当支給制限処分を行った。なお、処分時点での一般退職手当の額は約2848万円であった。

判決の要旨:

(1) 懲戒事由該当性について
公務員の中でも教育公務員は、単に教科教育を行うのみならず、児童・生徒の心身の健全な育成を図るべく、社会一般のルールやモラルを教え導く立場にあるから、公務員の中でも高度の倫理性が期待され、要求されている。教員Xによる本件非違行為は全体の奉仕者たる教員として執るべき行動と相容れない背信行為であり、地方公務員法29条1項1号及び3号の懲戒事由に該当する。

(2) 懲戒免職処分の違法性について
教員Xの行為は、女子生徒が社会性が乏しく未熟であることに乗じて、自己の性欲を満たすために女子生徒の尊厳を無視して性交渉を持ち、その後も同様の行為を2年5か月にもわたって多数回重ね、その健全な成長の妨げになる行為を繰り返したものであり極めて悪質な行為である。したがって、本件懲戒免職処分は社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえない。

(3) 退職手当支給制限処分について
教員Xが和解金として50万円を支払っていること、本件非違行為は23年以上前の事であり、本件処分を受けるまでの間、懲戒処分を受けることなく、教育に携わってきたものであることを斟酌するとともに、一般の退職手当には賃金後払的な性質や退職後の生活保障的な側面がある事を考慮したとしても、なお、本件非違行為は勤続の功をすべて抹消するに相当する重大なものであるから、本件退職手当支給制限処分が社会通念上著しく妥当を欠くものとは言えない。






◆平塚市立小学校・校外写生中交通事故死事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 横浜地裁小田原支部判決
【事件番号】平成28年(ワ)第495号
【年月日】 平成29年9月15日
【結 果】 一部認容・一部棄却(確定)
【経 過】
【出 典】 判例時報2373号70頁、判例地方自治432号53頁


事案の概要:

本件は、市立小学校の図工の授業として正門前の公道において写生していた児童Aが被告Yの自動車に轢かれて死亡した交通事故に関して、児童Aの両親が、同所で写生することを容認していた指導教諭の過失があるとして、被告市と被告県に対し国家賠償責任を求めた事案である。

認定事実:

本件小学校の6年生の児童は、平成26年10月17日午後1時40分から3時15分まで、図工の授業で、小学校内の任意の場所において絵を描くことになっていた。児童Aは1人で、小学校正門前の公道上にしゃがんで絵を描いていたが、指導教諭は、独自の判断により、児童Aが本件公道上で絵を描くことを許可しており、このことを校長その他の管理職に報告していなかった。同日午後2時50分頃は、本件小学校の1年生から4年生の児童が下校する時間帯であったところ、同日も本件公道上には、複数の車両が駐車していた。

被告Yは、本件小学校に通う自身の子を迎えに行ったところ、児童Aが本件公道上で絵を描いていることを認識したが、既に複数の車両が駐車しており、他に駐車する場所が見当たらなかったことから、前方約1.2mに児童Aがいる場所に駐車した。児童Aがしゃがんでいた位置は、被告Yの車の運転席からは死角となっていた。被告Yは、午後2時50分頃、絵を描いている児童Aの傍らを通って車に乗り込んだ。そのとき、同乗していた二男がぐずりだしたためそのことに気を取られ、児童Aの存在を失念し、進路前方の安全を十分に確認しないまま、車を発進させて児童Aに衝突させ、同車右前輪を児童Aの身体に乗り上げて轢圧し、その事実に気付いて慌てて後退させた。児童Aは、本件交通事故により、同日午後7時37分頃、肝破裂等の傷害による内出血性ショックにより死亡した。

判決の要旨:

(1) 被告Yの責任
被告Yは、前方の安全を十分に確認しないまま漫然時速5キロメートルで発進させた過失があったと認められるから、運行供用者責任及び不法行為責任を負う。

(2) 被告市及び被告県の責任
当時、本件小学校の児童を迎えに来た保護者の車両が、正門前に複数台駐車することが常態化していた。そのような状況で、指導教諭としては、児童が図工の授業中に本件公道を含む校外で絵を描くことを認めれば、公道をさほど危険なものと認識しない児童において車両付近でしゃがむなどして絵を描く者が出てくること、その結果児童が車両によって死亡することを容易に予見することができた。指導教諭には過失が認められ、被告市及び被告県は国家賠償責任を負う。






◆公立大学大学院生退学処分事件

【事件名】 退学処分取消等請求控訴事件
【裁判所】 名古屋高裁判決
【事件番号】平成28年(ネ)第827号
【年月日】 平成29年9月29日
【結 果】 原判決一部取消、被控訴人請求棄却(上告・上告受理申立)
【経 過】 一審名古屋地裁平成28年8月25日判決(一部認容)
【出 典】 裁判所ウェブサイト、判時2365号52頁


事案の概要:

学生Xは、Y大学が設置する大学院医学研究科修士課程に在籍していた学生である。Y大学学長は、本件大学院に勤務していた派遣職員について同和差別を内容とする発言をするなどしてその名誉を毀損した行為や、派遣職員の派遣元会社に電話をしてその業務を妨害した行為等が、懲戒処分を定めた学則所定の事由に当たるとして学生Xを退学処分にした。本件は、退学処分を受けた学生Xが、本件退学処分が根拠のない事由に基づいてされたなどの点において違法かつ無効なものである旨主張して、学生Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認と、違法な本件退学処分により精神的苦痛を受けたなどとし主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案である。

原審(名古屋地裁平成28年8月25日判決)は、本件退学処分は違法であるとして、学生Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認、及び、Y大学に対して慰謝料等として55万円の支払を命じた。これに対してY大学が控訴を提起した。

認定事実:

学生Xは、昭和60年、大学卒業後、会社勤務を経てフランスに渡り、化粧及び美容を学び、帰国後、専門学校講師などを経て、美容家となった。学生Xは平成24年、Y大学大学院医学研究科修士課程に入学し、加齢・環境皮膚科学分野に所属した。学生Xは理科系の研究室において研究、実験をした経験がなかったため、指導教授は学生Xの研究、実験を補助するスタッフの派遣を受けることにした。

<1> 学生Xは派遣職員に対し、「医学部卒業でもないあなたが、なぜ、ここでお金を払ってまでも雇われなければならないのか」、「とにかく近くに来ないでほしい」などと言った。<2> 学生Xは派遣会社に電話をかけ、派遣職員は仕事ができない、派遣職員のミスのため、紫外線の被害に遭ったなどと苦情を述べるとともに、派遣職員が同和地区出身者であるとして、同人を研究室に派遣しないよう求めた。<3> 学生Xは、指導教授の研究に関する指導に対して反発し、その指導に従わなかった。<4> 学生Xが指導教授に送信したメールの中に、指導教授について、「人間的に信用できないし、指導者として尊敬できるところもなく、今まで出会った大学の教授の中で最もレベルが低い。」などと人格攻撃にわたる内容のものがあった。また、派遣職員以外の研究室関係者について、「多分、まともな家に育っていない。医師や歯科医師の中には、普通の企業が採用しない在日や同和が混ざっています。」などとひぼう中傷する内容のものがあった。

判決の要旨:

<1> 学生Xの派遣職員に関する同和差別発言は、派遣職員の人格を傷つける違法なものであり、派遣職員の名誉を毀損するものと認められる。<2> 学生Xが指導教授らの指導に対して、人格攻撃を含めた反発をし、他の教員から懲戒の対象になるなどとの警告を受けたにもかかわらず、指導に従わない態度を継続した。<3> 学生Xのこれらの一連の言動は、社会的に許容された限度を超えるものであり、その結果、研究室の運営に重大な影響を及ぼすに至った等と認められる。したがって、学長が学生Xに対して退学処分を選択したことは、やむを得ない措置であった。






◆埼玉県行田市立小学校保護者事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 さいたま地裁熊谷支部判決
【事件番号】平成25年(ワ)第418号
【年月日】 平成29年10月23日
【結 果】 棄却
【経 過】
【出 典】 D1-Law.com判例体系(ID28260227)


事案の概要:

埼玉県行田市の小学校教諭が児童の両親の抗議で不眠症になったと訴えて敗訴した裁判について、両親側が、提訴は違法だなどと主張して教諭らに賠償を求めた事案。

小学校教諭である担任Yは、当時小学校3年生であった児童Xが在籍する学級の担任であった際、児童Xの両親に対し、両親らの連絡帳への書き込みや市教育委員会での言動、あるいは、警察署への被害届提出は、担任Yの名誉を棄損するなどと主張して、損害賠償請求訴訟(前訴)を提起したが、前訴については、担任Yの請求を棄却する判決が確定した。

本件は、前訴確定後、児童X及びその両親(両親ら)が、(1)担任Yの児童Xに対する指導、叱責行為や、校長や教育委員会の一連の対応が、児童Xの人格権を侵害する違法なものである、(2)前訴について、担任Yの提訴、連絡帳の証拠提出、担任Y、校長及びPTA会長による陳述、証言が、いずれも両親らの人格権、プライバシー権及び名誉権を侵害する違法なものであると主張して、担任Y、校長、PTA会長、行田市及び埼玉県に対し、国家賠償請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

判決の要旨:

(1) 担任Yの行為の違法性
教諭の行為が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものかどうか、あるいは体罰に該当するかどうかは、児童の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、教育的効果、身体的・精神的被害の大小・結果等を総合して、個別具体的に判断すべきである。

<1> 担任Yが児童Xの背中に触れた行為について。児童Xに身体的被害も全く生じていない極めて軽微な身体的接触であり、体罰には該当しない。<2> 担任Yが、授業時間中、児童Xが通学路を守って帰宅したのかどうかを確認した行為について。確認自体に問題はないとしても、事実確認に時間を要したことで、他の児童からの批判にさらされていた児童Xの精神的負担は大きくなっており、担任Yにおいて配慮に欠ける面があったことは否定できないが、不相当とまではいえない。<3> 担任Yが、授業時間中、児童Xが鉄棒の練習をしたのかどうかを確認した行為について。他の児童も立たされている状況で、担任Yから厳しい口調で発言を求められたことで、児童Xは相当な精神的負担を受けたと推認でき、担任Yにおいて配慮に欠ける面があったことは否定できないが、全体を通してみれば、児童Xが他の児童との円滑な人間関係を築くことができるようになり、児童Xの成長につながると期待してなされたものと理解でき、そのような懲戒の趣旨や教育的効果に鑑みると、不相当とまではいえない。何れの行為も違法とは認められない。

(2) 前訴における証拠提出行為の違法性
前訴において担任Yが連絡帳等を証拠提出したことは、両親らのプライバシーを侵害するおそれがある。しかし、訴訟行為については、たとえ相手方のプライバシーを侵害しうるものであったとしても、正当な訴訟活動の範囲内にとどまる限り、違法性を阻却し、当該訴訟行為が、事件と全く関連性を有しない場合や、訴訟遂行上必要な範囲を超えて、著しく不適切な方法、態様で主張立証を行い、相手方のプライバシーを著しく侵害するような場合に限って、違法性が認められる。担任Yの行為は違法とは認められない。

備考:

担任Yが提起した前訴についての、さいたま地裁熊谷支部平成25年2月28日判決(平成22年(ワ)第556号 慰謝料請求事件)は、当ウェブサイトの「注目の教育裁判例(2013年12月)」で紹介されている。






◆宮代町立中学教員懲戒免職事件

【事件名】 懲戒免職処分取消請求事件
【裁判所】 さいたま地裁判決
【事件番号】平成28年(行ウ)第11号
【年月日】 平成29年11月24日
【結 果】 認容
【経 過】 控訴審東京高裁平成30年9月20日判決(原判決取消)
【出 典】 判例時報2373号29頁


事案の概要:

中学校の教諭であった原告が、15歳の女子と交際し、キスや抱擁を行い、アパートに宿泊させるなどの非違行為をしたとして、教育委員会が懲戒免職処分をしたことについて、同処分は、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとして、処分の取消しを求めた事案。

認定事実:

原告は平成27年3月、大学の教育学部を卒業したが、その頃、講師としてアルバイトとしていた埼玉県内の学習塾の当時15歳の女子生徒と交際を開始した。同年4月、原告は埼玉県教育委員会(県教委)に教員として採用され、中学校において勤務を開始した。原告は、中学校の教員になった後も、保護者に承諾を得ないまま、高校生になった女子生徒との交際を継続し、自らのアパートや2人で出かけた先でキスや抱擁をしたほか、女子生徒をアパートに宿泊させて同じベッドで寝るなどした(本件非違行為)。原告は女子生徒との交際が保護者に発覚したため、同年8月、女子生徒の保護者に対して謝罪した上、交際を解消した。県教委は、本件非違行為が地方公務員法33条に違反するものであるとして、同法29条1項1号及び3号の規定により原告に対して懲戒免職処分(本件処分)をした。

判決の要旨:

(1) 本件非違行為が懲戒処分に該当するか
教育に携わる教育公務員は、公務員の中でも高度の倫理性が期待、要求されており、教職に対する生徒、保護者、社会一般の信用を傷つけ、公教育全体への信頼を損なう行為は許されないというべきである。

原告の勤務する中学校の生徒とほとんど年齢も違わず婚姻年齢にも達しない女子生徒を恋愛対象としたことにより、生徒、保護者が、原告に対し、生徒を平等に扱わなかったり、生徒の未成熟さに乗じて性的行為に及んだりするのではないかなどと不信感や不快感を抱いたとしてもやむを得ないものであるから、原告は「職の信用を傷つけ」「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」を行ったといえる。

(2) 免職処分の違法性について
県教委が定める職員の懲戒処分の基準(本件基準)は処分量定の標準例として、「18歳未満の者に対して、わいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。」と定めているところ、原告の行為は「わいせつな行為」に該当する。しかし、以下のような事情を考慮すると、県教委が懲戒免職処分を選択したことは、社会観念上著しく妥当を欠き、その裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用した違法なものである。

<1> 原告と女子生徒との交際は、女子生徒が積極的に望んでいたものであること、原告及び女子生徒が将来を見すえて真剣に交際をしていたこと。<2> 原告は、アパートに宿泊させた日を除けば、女子生徒をそれほど遅くない時間に帰宅させていた。キスや抱擁以上の性的な行為に及んでいないこと。<3> 女子生徒が健全な育成を妨げられるような心身の傷を負ったとは認められないこと。<4> 原告は、日頃の勤務態度が誠実であったことに加え、真摯に反省していること。

備考:

一審判決に対し被告埼玉県が控訴し、東京高裁は、平成30年9月20日、逆転判決を下した。控訴審判決は、「生徒は当時15歳で、教育者としての社会的責任を持ち出すまでもなく許されない」と指摘し、免職処分は妥当だと述べ、埼玉県の控訴を認容した。






◆目黒区立小学校長神社奉納金事件

【事件名】 目黒区校長交際費支出損害賠償請求事件
【裁判所】 東京地裁判決
【事件番号】平成29年(行ウ)第332号
【年月日】 平成30年1月26日
【結 果】 棄却
【経 過】 東京高裁平成30年5月24日(控訴棄却)
【出 典】 ウエストロー・ジャパン(文献番号2018WLJPCA1268009)


事案の概要:

本件は、目黒区立小学校長らが、校長交際費から、神社等に祭礼奉納金、祭礼祝金として計48万7196円を支払ったことは、政教分離原則に違反する不法行為であり、これにより目黒区が同額の損害を被ったにもかかわらず、目黒区長であるY(Y区長)が当該校長らに対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っていると主張して、目黒区の住民である原告が、目黒区の執行機関である被告を相手に、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、上記怠る事実に係る当該職員であるY区長に対し、不法行為に基づく損害賠償等の支払を請求するよう求める事案である。

認定事実:

本件校長らは、目黒区教育委員会事務局学校運営課長が支出負担行為及び支出命令をし、目黒区会計管理者から資金前渡を受けた校長交際費について、その交付を受けた上で、平成23年9月7日から平成28年10月1日までの間、特定の町会の祭礼祝金や特定の神社の祭礼奉納金として、当該町会や当該神社に対し、41回にわたり、計48万7196円を支払った(本件各支払)。

同期間の目黒区教育委員会事務局教育次長3名及び学校運営課長2名の計5名は、平成29年1月27日、目黒区長に対し、本件各支払は、目黒区民に、校長公債費の支出基準から逸脱している等の疑義を生じさせるおそれがあり、公費に求められる公正・中立性の観点から鑑みると、支出に当たり適切ではない取扱いがあったため、目黒区に本件各支払の額の全額とこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金に相当する額との合計額である55万5059円を返納する旨の申出をした上で、目黒区に対し、同額を支払った。同金員は、同日、目黒区において、歳入費目を平成28年一般会計「校長交際費返還金」として歳入調定された(本件返納)。

判決の要旨:

仮に、本件各支払が政教分離原則に違反する不法行為に該当し、これにより目黒区が本件各支払の額に相当する額の損害を被ったとしても、本件返納により目黒区の当該損害が填補され、目黒区の本件校長らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅したことは明らかである。したがって、本件返納後にY区長が上記請求権を行使しなかったとしても、そのことをもって違法な怠る事実ということはできない。

原告は、本件返納をしたのが本件校長らではなく、本件各支払当時の教育次長ら及び学校運営課長らであることから、Y区長が本件返納を受領することは違法である旨を主張する。しかしながら、そもそも債務の弁済は第三者であっても原則としてすることができる上、本件各支払当時の学校運営課長らは、支出負担命令及び支出命令をし、資金前渡を受けた職員であるのみならず、本件校長らによる校長交際費の使途について報告を受け精算を行っていた者であり、教育次長らは、学校運営課長らを指揮監督すべき地位にあった者であり、いずれも本件各支払に関し法的又は道徳的責任を負い得る立場にあることに照らせば、Y区長(目黒区)が教育次長らや学校運営課長らから自主的な損害額の弁済として本件返納を受けることについて、違法・無効ということはできない。

備考:(参考新聞記事)

校長交際費で神社に奉納金 東京・目黒の小学校5校
(産経ニュース 2017.2.8)
東京都目黒区教育委員会は、区立小学校5校が平成23年度以降、校長交際費から神社や町会、商店街に対し、祭礼の奉納金や清酒代などとして計41件、計約49万円を不適切に支出していたと発表した。区教委は「祭礼行事への支出は公費に求められる公正、中立性の観点から不適切だった」としている。区教委によると、校長らはいずれも宗教行事には参加しておらず、学校運営への協力や児童活動への支援に対する感謝の気持ちだったと説明している。支出した計約49万円は、関係職員らが法定利息相当分を上乗せして区に返納したという。






◆豊中市立中学校男子バスケットボール部顧問セクハラ事件

【事件名】 懲戒免職処分取消等請求事件、退職手当等不支給処分取消等請求事件
【裁判所】 大阪地裁判決
【事件番号】平成28年(行ウ)第90号、平成28年(行ウ)第115号
【年月日】 平成30年3月22日
【結 果】 認容
【経 過】
【出 典】 ウエストロー・ジャパン(文献番号2018WLJPCA03228001)


事案の概要:

豊中市教育委員会は、市立中学校の教諭であった原告に対し、同校の生徒で原告が顧問を務める男子バスケットボール部の部員であった男子生徒に対してセクシャルハラスメント行為を行ったことを理由として、懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分を行った。本件は、原告が、被告豊中市に対し、上記各処分については裁量権の逸脱・濫用があるとしてその取消しを求める事案である。

認定事実:

原告は、豊中市立中学校の英語科担当教諭であり、男子バスケットボール部の顧問を務めていた。本件生徒は、同部のキャプテンを勤める3年生の男子生徒である。原告は、日頃から、部員らに対し、練習後にアイシングやマッサージを行っていた。

原告は、平成25年8月2日、個別学習指導を行うため、本件生徒を自家用車で原告の自宅に連れて行き、自宅内で指導を行った。指導の後、寝室のベッドにおいて、本件生徒の足と肩胛骨の下あたりのマッサージを行った。その後、原告は、当該生徒が眠そうにしているのを見て、本件生徒を驚かせようと思い、本件生徒に原告からキスをされたと思わせる意図で、「目にほこりがついてるで。」と言い、目を閉じた本件生徒の唇に、指を2本(人差し指と中指)当てた。原告は本件生徒に対し、唇に当てたのは原告の指である旨の説明はしなかった。本件生徒は、帰宅後、母親に対し、原告からキスをされたなどと泣きながら打ち明けた。

本件生徒は、その後も、同部の練習に参加し、原告は本件生徒に対し、教室や職員室で個別指導や相談に答えていた。もっとも、8月2日の出来事以後、原告が本件生徒を自宅に誘ったり、本件生徒に不快感を生じさせるような言動があったとは認められない。

本件生徒は同年9月14日、両親と共に校長と面接し、原告との間の出来事について話した。校長は、翌日、原告から事情を聴取した上で、出勤停止の通知をした。市教育委員会は、同年10月16日、本件懲戒免職処分、退職手当支給制限処分を行った。

その後、原告代理人から、本件生徒の父親に連絡があり、原告が本件生徒に謝罪すること、本件生徒は原告の謝罪を受け入れて宥恕すること、原告は本件生徒に対し慰謝料として50万円を支払うこと、本件生徒が嘆願書を作成すること等をその内容とする示談書を交わした。本件生徒は、平成28年3月12日、原告と会い、「やっと先生と話して、納得することができました。今後、自分はバスケット、先生は教師として頑張ってもらいたいと思います。」と記載された嘆願書を作成した。

判決の要旨:

原告の行った行為は、本件生徒が思春期の生徒であることに対する配慮に乏しく、性的なものを想起させる言動に複数回及んで本件生徒の心を傷つけるに至ったもので、教師として軽率と言わざるを得ない。

原告の行った行為は、厳しい非難に値する行為ではあり、懲戒処分に付すること自体は相当であるものの、直ちに懲戒免職に値するということについては、原告が教育公務員であることを考慮してもなお厳罰にすぎ、社会通念上著しく妥当を欠くものであるといわざるを得ない。したがって、本件免職処分は、裁量権の逸脱・濫用したものであり、取消を免れない。また、本件退職手当の不支給処分は、その前提を欠くこととなり、同じく取消を免れない。






◆府中町立中学校卓球部員転落事故事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 広島地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第725号
【年月日】 平成30年3月30日
【結 果】 認容
【経 過】
【出 典】 ウエストロー・ジャパン(文献番号2018WLJPCA03306007)


事案の概要:

本件は、広島県府中町立中学校の女子卓球部に所属して練習していた生徒Xが、女子卓球部の練習場となっていた校舎の4階廊下の開いた窓から転落し、外傷性くも膜下出血等の傷害を負った事故につき、(1)生徒Xが、顧問であったB教諭が安全措置を講じる注意義務に違反し、校長及び教職員が安全教育を実施する注意義務に違反したため上記事故が発生したとして、損害賠償金の支払を求め、(2)生徒Xの両親が、上記事故により固有の慰謝料が発生したとして、被告府中町に対し、損害賠償金の支払を求めた事案である。

認定事実:

女子卓球部員は、平成21年7月31日午前8時30分頃、練習のために本件廊下に集合した。生徒Xは、女子卓球部の顧問であるB教論から本件廊下の上段の窓を開けるよう指示を受け、本件廊下の上段の窓を開けるため、下段の窓枠に上った。当時、下段の窓は開いた状態であった。生徒Xが下段の窓枠に上った直後にバランスを崩して、本件中学校の中央棟の4階から転落し、約10m下にある駐車場の屋根に衝突した。B教諭は、指示をした後、部室に移動したため、事故を目撃しておらず、生徒から連絡を受け、現場に赴いた。本件中学校の教諭により救急要請がされ、生徒Xは県立病院に救急搬送された。本件事故によって、生徒Xには、<1> 右眼失明、<2> 左腎機能廃絶、<3> 外傷性脳損傷及び高次脳機能障害の後遺障害が残存している。

判決の要旨:

本件廊下の窓枠には手すりや面格子などの転落を防止する器具は設置されていなかったことからすると、下段の窓を空けた状態で下段の窓枠に上がろうとした場合、手で窓枠を確実につかみ、かつ、体勢を維持しない限り、足を滑らせたり、バランスを崩したりすることにより、本件廊下の外側に転落する危険性が高いということができる。

そして、生徒を指導する立場にあるB教諭でさえ、日常的に、本件廊下の上段の窓を開ける際は、開いた状態にある下段の窓枠に上って、上段の窓を開けていたこと、B教諭は、本件事故当日に女子卓球部員に対して本件廊下の上段の窓を開けるよう指示したことからすると、B教諭は、同部員が下段の窓を開けた状態で下段の窓枠に上る可能性が高いこと、ひいては、同部員が下段の窓枠に上った際にバランスを崩して本件廊下の外側に転落する危険性が高いことを具体的に予見することができたと認められる。

したがって、B教諭は、生徒Xを含む女子卓球部員に対し、本件廊下の上段の窓を開ける指示をする際には、下段の窓を閉めた上で窓枠に上がるよう指導したり、脚立等の高所作業用の道具を使用するよう指導するなど、転落を防止する措置を採った上で作業をするように指示すべき注意義務を負うということができる。ところが、B教諭はこうした指示をしなかったのであるから、上記注意義務に違反したということができる。

備考:

本件において、事故の態様について、中学校側と生徒側に主張の相違が見られた。中学校側は、事故の態様につき、「生徒Xが窓枠に上がったとき、窓の外側の庇(ひさし)にピンポン玉が落ちているのを見つけ、それを取ろうとして、窓枠から庇に降りた。その時バランスを崩して落下した」と主張しており、事故当日に実施された保護者会においても同様の説明がなされた。これに対し、生徒側は「生徒Xはボールを取りに行こうとして、庇に降りようとしたことはない」と主張した。

B教諭は、日頃から卓球部員に対し、庇に落ちたボールを取るために庇に降りてはならないと繰り返し注意していたことから、仮に、生徒Xが庇に降りていたとすれば、生徒Xの過失が問われることになる。判決は中学校側の主張を退け、生徒Xには過失が認められないとして、過失相殺を否定した。






◆北海道立高校教諭差別発言事件

【事件名】 慰謝料請求事件
【裁判所】 札幌地裁判決
【事件番号】平成29年(ワ)第1232号
【年月日】 平成30年6月21日
【結 果】 一部認容
【経 過】
【出 典】 ウエストロー・ジャパン(文献番号2018WLJPCA06216003)


事案の概要:

被告道が設置し運営している高等学校の生徒で色覚障害を有する原告が、同校における授業中、同校の教諭から「お前は色盲か。」と言われたこと、同校が同発言に関して他の生徒に対する聴き取り調査を遅々として行わず、遅延の理由について虚偽の説明をしたこと、及び、同校が原告の両親に無断で原告に直接謝罪したことにより、精神的苦痛を負ったと主張して、被告道に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料100万円の支払を求めた事案。

認定事実:

生徒X及びその母は、ホームルーム担任教諭に、生徒Xが色覚障害を有することを伝えていたが、担任教諭は、同情報を同じ学年内の教諭と共有するのみで、F教諭を含む教科担当とは共有していなかった。そのため、F教諭は、生徒Xが色覚障害を有することを知らなかった。生徒Xは、本件発言があるまで、友人に色覚障害を有することを伝えていなかった。

生徒Xは、平成28年3月16日、「社会と情報」の授業において、エクセルを使用した課題(一部、色の区別を要し、生徒Xにとっては容易なものではなかった。)を与えられたが、作業が停滞していた。それを見たF教諭が、生徒Xが課題に真剣に取り組んでいないと考え、しっかり課題に取り組まない理由を確認し指導する目的で、生徒Xに対して、「字が読めないのか。おまえは色盲か。」と言った。

判決の要旨:

(1) F教諭の発言は違法であるか
本件発言は、その文言からして、色覚障害者が場面によっては文字の判読に困難を来すことを嘲笑するものであり、これを色覚障害者に対して発言することは同人の名誉感情を侵害する違法な行為である。また、F教諭は、生徒Xが色覚障害者であることについて認識はなかったものの、色覚障害の出現頻度(男子の約5%、女子の約0.2%)に照らせば、教室内に色覚障害を有する生徒がいる可能性は想定でき、それが生徒Xである可能性も認識し得たというべきである。

F教諭が本件発言をしたのは、F教諭としては、生徒Xに対し、しっかり課題に取り組まない理由を確認し課題に取り組むよう指導する目的であった。しかしながら、そのような教育目的からであったとしても、他の生徒もいる教室内で、生徒Xに対して、「おまえは色盲か。」などと発言すべき必要があったとは認められないし.本件発言が上記教育目的を達成する上で相当なものであったとも認められない。本件発言は客観的に指導の手段として許容されるものではないから、本件発言が懲戒権(学校教育法11条)の行使として適法となることはない。以上によれば、F教諭が生徒Xに対し本件発言をしたことは違法であり、これについて同人には少なくとも過失がある。

(2) 2回目の聞き取り調査が3か月近く遅延したことが違法であるか
再度の聞き取り調査を実施するに当たっては、生徒X及びその母の意向確認が必要であると考えられたこと、弁護士への相談などに従事せざるを得なかったこと、などに照らすと、上記程度の期間を要したことはやむを得なかった。

(3) F教諭が生徒Xに直接謝罪したことが違法であるか
生徒Xの父が生徒Xに直接接触しないよう明示的に要請する中、F教諭は、事前に生徒Xの両親に知らせることなく、生徒Xに直接謝罪した。しかし、生徒Xは、当時高校2年生であり、謝罪を拒否することも可能であった中、謝罪に応じたこと、謝罪には信頼回復という教育目的が認められることなどによれば、違法な行為とはいえない。






◆三鷹市立小学校児童殴打事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 東京地裁立川支部判決
【事件番号】平成29年(ワ)第822号
【年月日】 平成30年10月2日
【結 果】 一部認容
【経 過】
【出 典】 ウエストロー・ジャパン(文献番号2018WLJPCA10026001)


事案の概要:

三鷹市立b小学校に在籍する、3年生児童Aの担任教諭である原告が、児童Aの親権者である被告Y1及びY2に対し、小学校の教室内で授業時間中に児童Aが原告の顔面を殴り鼻骨骨折の傷害を負わせた事件について、民法714条1項に基づき、損害賠償を求めた事案。

認定事実:

児童Aは、平成26年4月に本件小学校に入学して以降、他の児童や教師、物への暴力を頻繁に行っており、その結果、児童や教師らがけがを負うことがあった、児童Aの入学以降、小学校3年生の8月までの間、児童Aによってけがを負ったり、殴る、蹴る、つねる等の暴力行為を受けた児童や教師は、少なくとも延べ100人程度に上っていた。

児童Aは、事故前には、ADHDであるとの確定診断を受けたことはなかったものの、ADHDの疑いがあるということから、通院による治療を受けるとともに、平成27年4月以降、毎週金曜日午前中に、三鷹市立c学校の教育支援学級に通うようになった。(児童Aは、本件事故後、ADHDであるとの診断を受けた。)

児童Aの3年次の担任である原告は、暴力行為が起きる都度、被告らに連絡をして注意を喚起し、児童Aの問題行動に対応するため、複数の教職員やボランティアが立ち会うなどの態勢をとり、被告Y2と月1回は面談を行うなどした。しかし、児童Aは、感情が不安定になって授業中に教室や学校から出てしまったり、他の児童や原告に対して暴力を振るうことが絶えず、興奮して原告の手を噛んだこともあった。

本件暴行が起きたのは平成28年8月26日であるが、当日は、夏休み期間中に授業の補充指導を目的とする国語及び算数を中心として10日間にわたって開催されていたサマースクールの最終日であった。授業終了間際になり、サマースクールのアンケート用紙を記入するよう教員Bが児童らに求めたところ、児童A(当時8歳、身長約130cm、体重約25kg)は、無断で離席して教室前方にある教師用の机の中から、筆記用具を取り出して使用し始めた。教員Bが注意したところ、児童Aは、これに憤慨して教室内にあった植木鉢の受け皿をつかみ、振りかぷって教員Bへ投げつけようとした。そのため教員Bは、児童Aの手首を取り押さえ、間もなくして原告も、児童Aを壁の方に向かせて背面から両手首をつかむ形で抑止した。児童Aが落ち着くと手を離すが、離すと再び暴れ、また腕をつかむというやりとりを繰り返したのち、児童Aは、突然振り返って児童Aから50cmほどの距離にいる原告の顔面を右のこぶしで殴る暴行を加え、原告は鼻骨骨折の傷害を負った。

判決の要旨:

(1) 被告らは監督義務を果たしたか
児童Aは、ADHDの疑いにより感情のコントロールが難しく、本件小学校に入学して以降、児童や教師又は物に対して暴力を振るうことが多数回にわたっていたのであるから、親権者である被告らにおいては、本件小学校において他人への暴力行為を行うことを容易に予見し得たことは明らかである。被告らにおいて、児童Aに対して他人の身体を傷つける行動を絶対にしてはならないという指導教育が十分に尽くされていたとは認められない。

被告らは、家庭内におけるしつけでは対応できる範囲を超えていたとして、結果回避可能性がなかったと主張する。しかしながら、児童Aの特性を踏まえて、暴力行為の危険性及びこれが絶対に許されないことについて理解させ、暴行行為に及ばないようにさせることが不可能であるとは認められない。

(2) 原告の代理監督者としての責任
被告らは、担任である原告の本件暴行直前の児童Aへの対応に過失があり、児童Aの衝動的な行動を引き起こしたと主張する。しかしながら、原告の対応は不適切なものであったと認められず、原告は代理監督者としての監督義務を怠らなかったものと認められる。

(3) 原告の損害額
原告の請求126万2954円に対し、原告の損害は56万9858円が相当であると認められる。

備考:

民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
  前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。






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