■ 指導力不足等教員の資質向上方策について 平成13年3月 大阪府教育委員会・教職員の資質向上に関する検討委員会(中間報告)

------------------------------------------------------------------------------

指導力不足等教員の資質向上方策について



教職員の資質向上に関する検討委員会
中 間 報 告



平成13年3月





目   次

はじめに

1 教育改革と教職員の資質向上
(1)教育改革に向けて
  (2)教職員の資質向上を望む声
2 指導力不足等教員をめぐる基本的な考え方
  (1)教員を取り巻く状況
  (2)教員に求められる資質
  (3)指導力不足等教員の現状と対応の方向
  (4)指導者としての校長・教頭の役割
3 指導力不足等教員への対応
  (1)対応の現状と対応システムづくりの必要性
  (2)対応システムの概要
  (3)実効性ある対応システムとするために
4 教職員全般の資質向上に向けて

むすび


・ 指導力不足等教員への対応イメージ図
・ 教職経験の段階と指導力不足等の状況に応じた当面取組むべき対応策の例

<参考資料1>  検討依頼事項
<参考資料2>  開 催 経 過
<参考資料3>  委 員 名 簿

-------------------------------------------------------------------------------






はじめに

 新しい世紀を担う子どもたちが、個性や創造力、豊かな人間性をはぐくみ、たくましく成長していくことは府民の願いである。子どもたちをとりまく状況が大きく変化している中で、学校や教職員に寄せる府民の期待は、ますます高まってきている。
 府民の期待を真摯に受けとめ、子どもたちの「生きる力」をはぐくむことができる魅力ある学校づくりを進めることが、府教育委員会をはじめ学校教育に携わる者すべてに求められている。特に、子どもの心身の発達や人格形成に大きな影響を及ぼす教職員の資質向上に、府民の強い関心と期待が寄せられている。
 いま、府内の学校においては、多くの教職員が意欲的に教育課題に取組んでいる。しかし、その一方で、学校を取り巻く問題の複雑さ・困難さに対応できない教職員の問題も生じている。
 本検討委員会は、平成12年7月、大阪府教育委員会から「教職員全般の資質向上方策」の検討について依頼を受け、発足した。各委員がそれぞれ専門とする分野はもとより、学校や教育活動の特性を踏まえた上で、子ども、保護者、そして府民の視点からの検討を重ねてきた。
 教育は、今日教えたことが明日すぐに形になって表れるものではない。教職員の教育活動も多様で、集団としての取組まれていることなど、さまざまな特性がある。教職員の資質・能力を一層高めていくためには、これらの特性を考慮しながら、個々の教職員の努力や意欲を認め、働きがいを引き出し、力量を高めていく必要がある。
 また、子どもたちは、質の高い教育を受ける権利がある。しかし、子どもたちは教職員を選ぶことができない。子どもたちの教育への責任が果たせていないいわゆる「指導力不足教員」や「問題教員」への対応は、教育委員会や学校が責任をもって早急に対処すべき課題である。
 このため、本検討委員会では、指導力不足等教員への対応方策について、先に検討を行ってきた。関係者をはじめ府民の意見を聴きながら、各委員それぞれの経験を踏まえて検討を重ね、ここに指導力不足等教員の資質向上方策を「中間報告」として取りまとめた。

1 教育改革と教職員の資質向上

(1) 教育改革に向けて
 子どもをめぐる状況の急激な変化の中で、いま、学校教育も変わることが求められている。
 いじめや不登校、「学級崩壊」、中途退学、多発する少年非行など早急に解決を図るべき教育課題への取組みに加えて、国際化、科学技術や情報化の進展、少子高齢化、環境問題など社会の変化に対応した教育を積極的に進めることが必要となっている。
 そのために、府教育委員会には社会や子どもの変化に対応した教育環境づくりの施策が求められている。また、学校において、管理職には子どもの変化やニーズを踏まえた学校運営を行うことが求められ、教職員にも時代の変化に対応し、意識改革を図ることが求められている。
 平成11年4月に大阪府教育委員会が策定し、現在その具体化が進められている『教育改革プログラム』には、学校教育の再構築のために、学校改革や教育内容と教育方法の改善などとともに、学校の自主性・自律性の確立がうたわれている。ともすれば閉鎖的との批判を受ける学校を地域に開き、学校運営の透明性を確保し、家庭や地域と連携して特色ある教育活動を展開できるよう体制を整備・充実して、府民の信頼に応えていかなくてはならない。
 そのためには、校長が管理職としてのリーダーシップを発揮するとともに、教職員も自ら意識改革に努めることが重要である。
 子どもたちの教育は学校だけで、あるいは学校は教職員だけで切り盛りするという感覚を捨て、社会のさまざまな人々との連携の中で、社会の宝である子どもを育てていく視点が不可欠である。社会との関わりの中でこそ、学校や教職員の自主性・自律性が伸長され、学校教育のキーパーソンは教職員であるという誇りと自覚が再認識されてこよう。
 「学級王国」という言葉に象徴されるように、これまで学校は他から評価を受け入れない存在とみられてきた。教育界全体に対しても「教育界の常識は、社会の非常識」といった批判もなされている。しかし、学校は社会から離れて存在するのではなく、保護者、地域、府民とともに存在するものであり、情報化の進展とともに、学校の透明性や説明責任を求める声が高まっている。保護者や地域との協働による学校づくりが求められる今日、外部から評価を受けることについて、学校や教育界だけが例外であることは許されなくなってきている。
 教職員も、社会の中で責任をもって生きていかなくてはならず、「自主性」の名のもとに自分の思いだけで子どもを教えるという一方的なスタイルは通用しない。
 すべての教職員に本物の力量が求められているのである。

(2) 教職員の資質向上を望む声
 平成11年7月、大阪府教育委員会が発表した『学校教育自己診断試行のまとめ』には、子どもや保護者から寄せられた回答の抜粋が、学校教育改善のための提言として掲載された。
 そこには、子どもから先生に対して、例えば「やる気のない先生とやる気のある先生の差が大きすぎる」などの声が寄せられている。保護者からも「面と向かってくれる先生には子どもは尊敬し、学校生活も楽しいようです。反面、逃げ腰の先生には何とも言えない幻滅で学校も楽しくないようです」などの意見が述べられていいる。    
 教職員の資質向上に対する関心は全国的なものであり、『教育改革国民会議報告』(平成12年12月22日)では「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」、「効果的な授業や学級運営ができないという評価が繰り返しあっても改善されないと判断された教師については、他職種への配置換えを命ずることを可能にする途を拡げ、最終的には免職などの措置を講じる」との提言を行っている。  
 これを受けて、文部科学省では、『21世紀教育新生プラン―レインボープラン―』(平成13年1月25日)において「効果的な授業等ができない教師を他職種に配置換えできる途の拡大や免職などの措置」などを政策課題と掲げ、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正により、指導力が不足し十分な適格性を有しないと認める教員を教員以外の職員へ円滑に異動させるための方途の創設を予定している。
 都道府県においても、東京都が先行的に指導力不足教員対策や教育職員の人事考課制度を既に具体化させている。最近の動きでは、神奈川県が指導力不足教員等に対する指導の手引きを作成している。また、高知県、埼玉県では、検討委員会や懇話会が第一次提言や報告書(案)を発表するなど、各都道府県教育委員会においても、独自に教職員の資質向上のための組織的対応方策への取組みが始められており、全国的な潮流となってきている。
 大阪府では、多くの教職員が、きびしい社会状況の中でさまざまな教育課題に対して意欲的に取組んでいる。
 学校教育活動が子どもの実態や保護者・地域の学校教育に対するニーズ等に対応しているかどうかについて、学校自らが教育計画の達成度を点検する「学校教育自己診断」や、校長の諮問に応じて保護者や地域住民が意見を述べる「学校協議会」、また地域の総合的教育力を活性化するために各中学校区に組織される「地域教育協議会」など、開かれた学校づくりのための先進的な取組みが、教職員の積極的な参画のもとで実施されている。また、先に述べた「教育改革プログラム」や、これまでの豊かな蓄積を踏まえて人権教育を総合的に推進するための考え方や方向を明らかにした「人権教育基本方針」「人権教育推進プラン」も、多くの教職員の意欲的な実践に支えられて具体化の道を着実に歩んでいる。
 さらに、「総合的な学習の時間」への先進的な取組みや高等学校の総合学科、普通科総合選択制、全日制単位制、専門高校など特色づくりに向けた動きも、教職員の日々の実践に裏付けられて進められている。
 多くの教職員の積極的な取組みがなされている中、一方で、一部とはいえ、指導力や適格性に問題がある教員の存在が学校教育に対する府民の信頼を損ねていることも確かである。
 こうした教員が生み出されてきたことについては、子どもの変化や学校に求められるものの変化、教育諸条件や学校の組織風土、教員の高年齢化などさまざまな原因が考えられ、原因を本人だけに帰することが酷な事例もあろう。府教育委員会や学校の管理職、そして同僚教職員にも、この問題を放置せず、対応方策づくりや当該教員への支援・指導など解決のために力を惜しまぬことを求めたい。
 本検討委員会の議論の中でも、指導力や適格性に問題がある教員について、「対応する制度がないからといって放置しておいていい問題ではない」、「制度がないならつくるべきである」との意見が出されている。
 府民の声に応え、こうした状況を早急に改善するために、教職員の資質向上のための組織的な対応方策を講じていかなくてはならない。


2 指導力不足等教員をめぐる基本的な考え方

(1) 教員をとりまく状況
 社会の急激な変化のなかで、教員が日々教室で向かいあう子どもたちにも変化が表れてきている。学ぶ目的と意味を見いだせない、暴力へとかられていく、あるいは他者との交わりを拒否する子どもたち。
 また、その背景としても、保護者の子育て意識の変化や家庭の教育力の低下などがいわれている。
 一方、学校教育が社会から孤立して置かれており、学校に対する要求も複雑化しているため、社会からのストレスが学校や教員を抑圧しているのではないかという見方も示されている。山積する教育課題との格闘に忙殺され、ともすれば焦燥感や虚脱感の中で、教員としての生きがいや教職としての使命を見失いそうになっているのではないか。
 また、そうした教員を支援し、指導すべき管理職は、十分その職責を果たしてきたのであろうか。時代の変化に対応できない教員や使命感を見失った教員を生み出してきた責任の一端は、管理職にも当然求められる。
 本検討委員会では、「開かれた学校」を重要な視点の一つとして検討を進めてきた。多様な資質能力をもつ教員が集団として協働し、学校全体として充実した教育活動を展開できるよう、学校内部を開いて教員の育ちあう風通しの良い環境をつくるとともに、複雑化・困難化する教育課題をすべて学校で解決しようとするのではなく、保護者・地域と連携して取組めるよう、学校を地域に開き、地域の人々が学校に入り、教員が地域に出ていかなくてはならない。しかしながら、学校の閉鎖性を批判する声も多く、いま学校で起こっていることが社会に十分知られているとは決して言えない。
 『教育改革国民会議報告』は「教育行政や学校の情報を開示し、適切な評価を行うことで健全な競い合いを促進することが、教育システムの変革にとって不可欠である」と述べている。
 教育行政や教育機関が社会に対する説明責任を求められる中で、教員の資質・能力の向上と意識改革が一層求められている。教育行政や学校のあり方とともに、教員のあり方、教員の役割と責任が問われ、教員の資質と見識が問われている。
 こうした状況の中で、子どもの発達や人格形成に悪影響を及ぼし、学校運営にも支障を生じる、いわゆる「指導力不足教員」や「問題教員」に対し、社会の厳しい声が寄せられている。

(2) 教員に求められる資質
 学校において、子どもたちのために何よりも望まれることは、個々の教員が多様な個性や能力を活かしつつ、集団として協力し、補い、高めあうことにより、学校全体が生き生きと運営され、充実した教育活動が展開されることである。
 本検討委員会は、指導力等が不足している教員に対する指導や支援などの対応方策を検討するため、教員にめざしてほしい方向について、具体的事例も踏まえながら議論を行ってきた。教員の置かれている状況や抱えている課題はさまざまであり、画一的な教員像を一律に望むものではなく、個性豊かで人間味あふれる教員が自己を磨くための目標になるものとして共通認識を以下にまとめた。

 教育の専門家としての誇りと情熱を抱きつづけ、一人の人間として子どもと向き合いながら、主体的・自律的に教育活動にあたること、また、学校の教育目標を共有し、互いの持ち味を活かしつつ同僚と高めあい、学びつづける姿勢が教員に求められている。そのため必要な資質の目安として次の3点を挙げる。

 @ 豊かな人間性
 まず、いつの時代にも教員に求められる資質として、教職に対する誇りや、子どもとの関わりに注ぐ情熱が挙げられる。自らの仕事に対する誇りや情熱は、教員に限らず、すぐれた職業人として当然備えるべき資質であるとも言えるが、人を教え導く立場の教員には、より期待されるものである。また、子どもの人権が尊重された教育活動の展開を要請される教員にとって、一層鋭敏な人権感覚が不可欠である。
 その上で、何よりも子どもが好きで、子どもと共感でき、子どもから学び、子どもに積極的に心を開いていくことができる「豊かな人間性」が求められよう。
 そうした「豊かな人間性」を土台として、この変化の時代の教員に求められているものとして、「実践的な専門性」と「開かれた社会性」を挙げることができる。

 A 実践的な専門性
 いじめ・不登校をはじめとして、「学級崩壊」や少年非行など、早急に解決を図るべき教育課題が求めているのは、教員一人ひとりが子どもの変化に対応できる実践的な指導力である。そのためには、専門分野についての知識・技能はもちろんのこと、自分の「専門」を狭く限定してそこにとどまることのない幅広い識見と、社会の変化に的確に対応して自ら設定した課題の探究に努め自己を教育していく力と、主体的・自律的に教育活動にあたる姿勢がこれまで以上に要求されている。教員として、学習指導はもちろん生活指導や進路指導、学級経営等についての専門的知識・技能に裏打ちされた指導力に富む「実践的な専門性」が求められている。

 B 開かれた社会性
 教員は、教室の中では、どんなに困った事態に直面しても代役をなかなか呼べないことがある。授業が思うように成り立たずに密室での孤立感を味わうこともある。学級の「壁」を越えて、学年や教科、学校全体で、あるいは、地域と連携して柔軟に教育活動に取組むことが必要である。広い視野に立って、子どもや同僚とはもちろんのこと、保護者や地域との相互理解を深めながら信頼関係を築き、子どもへの最善の対応をとることが求められる。
 もう一方で、学校の業務の大半は日々組織的に遂行されている。教員一人ひとりの意欲・力量の向上だけでなく、協働する組織としての質を高めることが重要である。学校の教育目標を共有し、互いの持ち味を活かしながら、同僚と質の高い学びを触発しあい、学校教育を通して家庭や地域に働きかけ、受け入れていく「開かれた社会性」が要請されている。

(3) 指導力不足等教員の現状と対応の方向
 @ 現状
 大多数の教員が、学校教育の改革に向けて意欲的に日々の教育活動に取組んでいる一方で、環境の変化などにより、自らの指導力を発揮することができず、改善への努力は重ねているものの成果が表れず、教育指導に悩みを持ち、自信を失いつつある教員もいる。また、少数とはいえ、教育の専門家としての使命を見失い、子どもの前に立つことの適格性を疑わなくてはならない教員が存在することも事実である。
 本検討委員会では、経営が困難な学級を途中から担任するなど、子どもたちへの教育が困難な状況にある場合や指導の成果を早急に求めることが困難な場合を除き、指導力等が不足しているとして、対応を必要とする教員の範囲について検討を行った。

・指導力不足等教員の範囲
 指導を受ける子どもたちを第一に考え、学習指導や生徒指導、学級経営等において、子どもたちの教育への責任が果たせていない教員を「指導力不足等教員」とした。保護者や地域、そして同僚との良好な関係を築けないことなどから教育活動に支障をきたしている者も、子どもたちへの影響を考慮し、「指導力不足等教員」の範囲に含めることとした。 また、この「指導力不足等教員」の指導力等が不足している状況や程度、その原因や表れる態様はさまざまであり、具体的な対応の検討に向けて、大きく4つに区分し、さらにきめ細かな対応策を考える必要があると認識する。

・指導力に関し支援を要する教員
 指導力が十分に発揮されていない教員についても、努力や取組み姿勢は評価すべきである。結果が明確には表れてはいないが、その取組む姿勢は評価できる教員や、過去の実績を踏まえ、環境の変化による一時的な指導力不足とみられ、学校内・外の協力により回復可能と考えられる教員を、「指導力に関し支援を要する教員」とした。これらの教員に対しては、その教員の指導を受けている子どもたちのことも考慮し、惜しみない支援をおくり、指導力の回復・向上を図っていくべきである。

・指導力不足教員
 具体的な態度や行動として、「教科の質問に答えられない」、「子どもの気持ちを汲みとれない」「子どもどうしの関係づくりができない」など、学習指導や生徒指導、学級経営上での専門性に欠如がみられる教員、あるいは、保護者や同僚との対人関係が築けず子どもの指導が十分に行えないなど社会性に欠如がみられる教員などさまざまな態様がある。
 これらの態度や行動の表れた場面、程度や頻度、継続性などを考慮した上で、本検討委員会ではこうした教員を「指導力不足教員」とし、対応方策を検討することとした。

・適格性を欠く教員
 さらに、勤務態度・服務上に著しい欠如や問題があるなど教員としての資質に欠ける者を「適格性を欠く教員」として、対応を検討することとした。

・疾病等により指導力が発揮できない教員
 疾病等により指導力が発揮できない教員(疾病等により休職中の者は除く)に対しては、治療を優先した慎重な対応が求められる。特に精神的な疾患と思われるが本人に病識のない場合や、精神的疾患により休職を繰り返している者については、専門家の意見をもとに、より慎重に対応を検討するべきである。

 以上、「指導力不足等教員」の範囲をまとめたものを掲げ、さらに、対応方法の判定や個別の指導の目安となるよう、これまでの府教育委員会の事例を踏まえ、「指導力不足等教員」の区分に応じた態様を掲げる。
 「指導力不足等教員」の個々のケースにはさまざまな原因があり、複合している場合や潜在化しているものもあると考えられる。今後は、指導力不足等の態様の把握にとどまらず、個々の事例の十分な分析を行い、原因も究明し、より効果的な対応方法の決定や個別の指導に活かしていくことが望まれる。
 また、これらの分析結果と対応策の効果等を検証し、対応マニュアルとして、管理職や教育委員会担当者の分析・対応能力の向上を図ることが望ましい。




-------------------------------------------------------------------------------

「指導力不足等教員」の範囲

 学習指導、生徒指導、学級経営等において、指導力を発揮できず、 子どもたちの教育への責任が果たせていない者
(保護者、地域、同僚との良好な関係が築けないことなどから、教育活動に支障をきたしている者を含む)

(1) 指導力に関し支援を要する教員
 @ 結果が明確に表れてはいないが、その取組む姿勢は評価できる者
 A 環境の変化等による一時的な指導力不足とみられ、学校内の協力により回復可能と考えられる者

(2) 指導力不足教員
 専門性・社会性に欠けるなど教員としての指導力が不足している者

(3) 適格性を欠く教員
 勤務態度・服務上の著しい問題があるなど教員としての資質に欠ける者

(4) 疾病等により指導力が発揮できない教員
 疾病等(特に精神的な疾患)が原因と考えられるが、受診・治療をしないまま、指導力が発揮できない状態の者や休職を繰り返し、復職後も指導力が発揮できない状態の者



-------------------------------------------------------------------------------

「指導力不足等教員」の態様

区  分                  ○  態  様


(1) 指導力に関し支援を要する教員

@ 結果が明確に表れてはいないが、その取組む姿勢は評価できる者

○専門的な知識・技能に欠けるところがある
○子どもの理解に欠けるところがある
○直面する教育課題を正しく認識できない場合がある

A 環境の変化等による一時的な指導力不足とみられ、学校内の協力により回復可能と考えられる者

○学校や子どもの状況への理解が十分でない
○経験したことのない状況に置かれている



(2) 指導力不足教員

 専門性・社会性等の欠如によって指導力が不足している者


○教育的愛情や使命感に欠如がみられる
 ・教育に携わる者としての責任感に欠ける
 ・子どもの立場に立った対応ができない
○学習指導上問題がある
 ・子どもを理解する姿勢・意欲に欠ける
 ・専門的知識・技能に欠ける
 ・指導内容・教材の工夫がみられない
 ・指導計画の実施が困難である
 ・適正な評価ができない
○生活指導・進路指導に支障をきたす
 ・子どもを理解する姿勢・意欲に欠ける
 ・カウンセリングマインドに欠ける
 ・状況把握・判断力、対応力に欠ける
○特別活動等の指導に問題がある
 ・意義・背景を理解しない
 ・健康・安全面への配慮がない
○学級・学校運営の上で問題がある
 ・子どもの心身の状況を日々把握できていない
 ・責任感に欠ける
 ・課題設定・解決の意欲がない
 ・保護者や地域、関係機関との対応が充分でない
 ・学校運営への参加意識に欠ける
 ・同僚と協働する姿勢がみられない



(3) 適格性を欠く教員
 勤務態度・服務上著しい問題がある者

○ 教育として、あるいは公務員として、ふさわしくない態度や行動があり、指導にもかかわらず改善がみられない



(4) 疾病等により指導力が発揮できない教員

○ 疾病等(特に精神的な疾患)が原因と考えられるが、本人に病識がないなどの理由により、受信・治療をしないまま、指導力が発揮できない状態の者
○ 疾病等(特に精神的な疾患)による求職を繰り返し、復職後も指導力が発揮できない状態の者

-------------------------------------------------------------------------------


A 対応の方向
 従来、「指導力不足等教員」の問題に対し、府教育委員会や学校も多くの時間と労力を費やしながら個別の対応をしてきている。その努力は認めるものの、子どもたちへの影響を考えれば、現に問題が存在していることに対し、放置しているとの責めを真摯に受けとめなくてはならない。
 ほとんどの教員は、教育者としての理想を求め、教育に対する情熱を持って、教員としての道を選択したであろう。しかし、現に「指導力不足等教員」となってしまったことに、本人はもとより、学校の管理職や教育委員会もその責任を感じ、新たに「指導力不足等教員」が生まれてくることのないよう日々の指導育成や支援等に努めるとともに、防止策や初期段階での問題解決のための方策を講じるべきである。
 指導力の向上をめざし努力する教員には、学校としても、教育委員会としても、支援を惜しむべきではない。しかし、指導を重ねても改善されない者には、処分や人事上の処遇なども含めて、府民が納得する厳正な対応を行う必要がある。何よりも「指導力不足等教員」に指導を受けざるを得ない子どもたちの立場に立った対応を第一義に考えるべきである。
 そのためには、校長による日々の指導育成にはじまり、対応に至るまでの組織的な対応が可能な体制を確立し、状況に応じて学校現場から離れて研修を行うなど、当該教員の態様に応じた方策を速やかに講じ得るような「対応システム」が必要であり、最重点課題として早急に取組むべきである。
 一方、指導力不足等の防止策や初期段階での問題解決方策として、採用段階から経験者までのライフステージに即した対応が必要である。また、学校の管理職であり、学校教職員の指導育成者である校長や教頭の指導能力の向上方策など総合的な対応方策が望まれる。
 また、先の「対応システム」による対応の中で、事例を蓄積し、指導力不足の状態に至った原因や対応策の成果について調査・研究を行うことにより、一層効果的で緻密な指導方法や対応策、予防策を確立していく必要がある。

(4) 指導者としての校長・教頭の役割
 教職員の資質は、日々の教育活動を通じて高まるものである。教職員の優れたところを把握し、意欲を引き出し、指導育成することは、管理職である校長と教頭の職務である。
 管理職のリーダーシップによる教育活動の活性化に向けての職場環境づくりが、教職員の資質向上の鍵を握っていると言っても過言ではない。
 教員には職階が少なく、少数の管理職と多数の教職員という学校特有の状況もあるが、校長・教頭は、教職員一人ひとりの状況を把握し、指導育成と健康管理に努める必要がある。子どもの実態や変容に柔軟に対応できるよう、教職員の集団による指導のシステムを学校内に確立し、教職員の働きやすい環境をつくっていくのも管理職の役割である。子どものニーズに応えられない教員や指導力に悩む教員について、管理職は、学年主任等の中堅職員の協力を得るなど、でき得る限りの早期発見に努め、支援・指導を行わなくてはならない。
 また、学校内外からのさまざまな情報を決しておろそかにせず、開かれた学校づくりのための機会を活用するなど、情報の収集と発信につとめ、学校に対する信頼を高めるような対応が必要である。
 こうして把握した支援や指導が必要な教員に対して、管理職は、ふだんから特別な注意を払い、改善の指導や助言を行わなくてはならない。何よりも子どもに与える影響の大きさを考え、学校の経営責任者としての自覚を持って、学校の危機として認識し、的確で速やかな対応をとる必要がある。
 管理職には、学校の経営者として、社会のニーズを的確にとらえる感覚と、学校独自の教育目標を打ち出す構想力、目標の共有化・具現化を推進する決断力やリーダーシップとともに、教職員を指導育成していく能力が要請されている。学校改革の先頭に立って、めざすべき道の先を照らし、教職員を元気づける灯台の役割を校長は果たさなくてはならない。
 府教育委員会は、学校の管理職が「指導力不足等教員」の対応に追われ、学校運営に支障をきたすことのないよう、「対応システム」の構築など、学校の支援とともに、管理職の指導育成能力の向上に努める必要がある。また、管理職がこのような指導者としての責任を全うし、意欲的に学校経営を行えるよう、管理職をもっと魅力のあるポストとしていく必要があることも、ここで指摘しておきたい。


3 指導力不足等教員への対応

(1) 対応の現状と対応システムづくりの必要性
 教員としての適格性に疑問を抱かせる者に対し、なぜ速やかに処分や人事上の措置をしないのかという厳しい指摘がなされている。
 地方公務員法の第28条では、適格性を欠く公立学校の教員に対し、分限処分をすることができるとされている。府教育委員会は、これまでにも、適格性に欠ける教員には分限免職処分も含めて対処してきている。しかし、「適格性を欠く場合」の判断については、特に厳密、慎重であることが要求されており、分限免職処分を適用した例は、全国的にも少ない。
 「指導力不足等教員」への対応には、多くの時間と労力が費やされるが、学校現場に放置しておくことで、さらに大きな影響がでていることを忘れてはならない。
 校長等の個別指導等によっても改善がみられない教員を、長期にわたり校長をはじめとする教職員の負担のもと、学校現場に置いてはおけない。子どもたちの教育に悪影響を及ぼす教員は、学校現場から離すべきであるという考え方は当然であり、そうした教員に対する対応は、教育委員会が責任をもって厳正かつ速やかに行わなくてはならない。
 校長等が指導に労力を費やすだけで改善の効果がみられない教員に対しては、態様に応じた適切な対応方策を定め、速やかな対応ができるような対応システムを構築する必要がある。
 一方、適切な指導や措置により課題を克服できる可能性のある教員をも一律に扱うことはできない。本人の改善に向けての意欲を損ない、他の教員の積極的な姿勢にも影を落とすような、いわゆる「レッテル貼り」にならないよう、あくまでも本人の改善への取組みと、学校教育の活性化につながるよう慎重に対処していくことが望まれる。

(2) 対応システムの概要
 子どもたちや学校現場への影響を考慮し、府教育委員会に対し、「指導力不足等教員」への対応について実効性のあるシステムを構築されることを望むものである。
 以下、システムの概要について述べる。<「指導力不足等教員への対応イメージ図」参照>

@ 日々の指導育成
 校長は、「指導力不足等教員」に限らず、すべての教職員の資質向上や健康管理のため、教職員の状況等について把握に努める必要がある。子どもや保護者とのかかわりにおいて問題が生じた場合や指導力に悩む教員を把握した場合には、適宜指導・助言を与え、その改善に努めなくてはならない。
 問題事象が起きた場合は迅速かつ的確に指導を行う必要がある。機を逸することで事実確認が困難になり、問題を複雑化させる可能性がある。
 特に著しい問題行動の場合は、問題事象の正確な把握のため、本人からの事情聴取をはじめ、事象に関わる子ども・保護者・地域や同僚からの情報など多方面からの情報収集に努め、問題事象を客観的に把握できる資料を収集することが不可欠である。
 また、問題行動などについての情報は、府教育センター等の研修で把握される場合もあり、府民等から直接府教育委員会事務局に届いている情報もある。校長と府教育委員会との緊密な協議のもとで当該教員の実態把握を進めることが重要である。

A 経過観察と改善への指導
 度重なる指導にもかかわらず、改善がみられない場合や勤務態度・服務上の問題がある場合には、適切な対応をとるために、校長は、当該教員に対して経過観察と改善への指導を行うことが大切である。
 観察にあたっては、当該教員の問題行動の内容や程度、また頻度等を確認し、子ども・保護者・地域からの苦情、同僚からの指摘や苦情があるかどうか、それが事実であるかどうかなどを見極め、具体的な状況や言動を詳細に記録する必要がある。
 校長は、継続的な観察・記録を行い、冷静な判断の上に立ち、指導力不足等の問題について原因究明に努め、改善に向けての的確な指導を粘り強く行うことが必要である。
 また、指導にあたっては、本人の意見を十分聞き、本人の改善に向けた努力を促すとともに、場合により、是非を明確にした厳正な対応が求められる。
 当該教員の態様に応じて、他の教員からの支援や協力を得てサポート体制を組み、例えば、ティーム・ティーチングや授業観察等の実施、生徒指導や学級経営等についての「校内研修」等を行い、早期改善に努めるべきである。
 なお、原因として、疾病等が考えられる場合は、医療機関との連携を図りながら、当該教員の健康を第一に、適切な対応をとる必要がある。
 府教育委員会は、「対応マニュアル」等を作成し、周知するなど、管理職の対応能力を高める方策をとるとともに、学校の主体的な取組みにより、教職員の支援体制が効果をあげ、早期改善が図られるよう、適宜、校長に対し指導・助言を行う必要がある。

B 対応方法についての意見聴取
 校長の度重なる指導にもかかわらず、改善がみられない教員については、府教育委員会と連携を図りながら、対応方法を講じる必要がある。
 対応の検討に際しては、子どもたちにとっての影響という基本的な視点のもとで、当該教員の指導育成をどう実現するかについての慎重かつ丁寧な検討が必要になる。客観的な資料とともに、校長だけでなく本人の意見等も踏まえ、判断していくことが適切である。また、本人が指導力不足等の状況に至った原因について、本人の業務内容や勤務の状況はもとより、学校の運営体制等についても把握するべきである。
 府教育委員会は、対応方策の専門性や客観性を確保するため、学校教育関係者とともに医療や法律等の専門家などを構成員に入れた「指導力向上委員会(仮称)」を設置し、具体的な対応策について意見を聴くことが必要である。
 当該教員に対しては、本人の置かれている状況等を説明した上で、本人の意見を「指導力向上委員会」での検討に反映させるとともに、具体的な対応を講じる際にも、その理由を説明するなど不信感を持たれることのないようにする必要がある。
 具体的な対応が一定期間経過した後、改善状況や対応方策の効果の検証を踏まえ、当該教員へのその後の対応方法についても、「指導力向上委員会」から意見を聴く必要がある。
 なお、「指導力向上委員会」に意見を求める「指導力不足等教員」については、当面、子どもたちへの影響が大きく、対応の急がれる、適格性を欠く教員や著しく指導力が不足する教員に重点を置くべきである。
 府教育委員会は、適正かつ速やかな対応方策が講じられるよう、常に対応システムの改善に努める必要がある。また、「指導力向上委員会」での対応方法の検討と改善状況の検証を重ね、「指導力不足等教員」に対する基本的な考え方と対応の姿勢を確立するとともに、具体的な指導方法を校長用「指導マニュアル」としてまとめることも有用である。

C 態様に応じた対応の決定
 「指導力向上委員会」の対応案についての意見を踏まえ、府教育委員会は、自らの権限と責任のもと、速やかに具体的対応策を決定し、実施していく必要がある。
 対応内容については、初任者からベテランまで、当該教員の状況に応じて、また、専門性、社会性、勤務態度・服務等「指導力不足」の態様や原因も踏まえた内容とする必要がある。
 具体的な対応の方法としては、「校内研修」や「校外研修」等が考えられる。研修に際しては、その目的を明確にし、本人の自覚を促す必要がある。
 「校内研修」では、個別研修や支援体制のもとでの業務を行うこととなる。校長は、必要に応じて学習指導や生徒指導等に関する指導者を定めるなど校内の指導体制を整備し、態様に応じて作成した研修計画に従って実施することが重要である。
 府教育委員会は、学校を訪問して指導できるスーパーバイザーの体制を整えたり、校内研修プログラムを開発したりするなど学校の支援に努める必要がある。
 「校外研修」については、府教育センターでの一定期間の研修となるが、他部局や社会教育施設などへの派遣研修も考えられる。
 教育センターでの研修に際しても、態様に応じた研修プログラムの作成が必要であり、専任の研修指導者を配置するべきである。
 研修担当者は、当該教員の研修記録を作成し、研修プログラムの改善や研修効果の判断に活かすとともに、研修後の対応について「指導力向上委員会」から意見を聴く際の資料とする必要がある。
 校外研修を行っても、研修効果がみられない教員に対しては、厳しい事後対応も予想されるが、府教育委員会として、教職以外の道を見出すような支援など、多様な対応方法を今後検討していくことが望まれる。
 なお、子どもの教育を保障し、学校の負担を軽減するために、当該教員の研修期間中、代替講師を補充するなどの措置をとる必要がある。

D 疾病等についての対応
 疾病等により療養が必要な教員については、他の「指導力不足等教員」への対応システムとは異なる対応が求められる。
 特に、精神疾患については、未然に防止できる職場環境づくりを学校内部の共通課題として再認識する必要がある。また、本人に病識がなく、適切な治療を受けないまま勤務が継続する場合も起こり得る。本人の健康と子どもへの影響を考えれば、何よりも治療を優先した慎重な対応が必要である。
 このため、専門家の意見も聞きながら、校長から本人に対し、受診指導や受診命令等を行う必要がある。
 また、病気治療のため、病気休暇や休職中の教員について、校長は、本人や家族から定期的に状況を確認するとともに、本人の同意を得た上で、主治医にも療養の状況を確認するなど、病状の把握に努めることが重要である。
 とりわけ、復職の判断については、休職を繰り返してしまうことのないよう、教員の職務を熟知した医師による診断が最も望ましく、このため、復職の手続きに必要となる診断書については、教育委員会の指定する医師からとるべきであるとの声もある。今後、関係機関との連携のもと、円滑な職場復帰のためのプログラム開発などが求められるが、医療や労働条件にかかわる課題であり、より専門的な場で議論が尽されることが期待される。



-------------------------------------------------------------------------------

「指導力向上委員会(仮称)」の概要について


1 設置目的
 指導力不足等教員に対する具体的な対応方策等について、専門的・多角的見地から検討を行い、府民に信頼される学校教育や学校運営に資することを目的として「指導力向上委員会」(以下、「向上委員会」)を設置する。

2 委員構成
 学識経験者、医療関係者、法律関係者、学校教育関係者、企業関係者等

3 職務内容
 府教育委員会の求めに応じ、指導力不足等教員に対する府教育委員会の具体的対応案について意見を述べる。

・府教育委員会は、自らの権限と責任のもと、向上委員会の意見を踏まえ、具体的対応策を決定し実施する。
・その他、向上委員会は、必要に応じ、指導力不足等教員への対応に関し、府教育委員会に対し、説明を求め、意見を述べることができる。

4 検討の対象となる指導力不足等教員
 当面、向上委員会の検討の対象とする指導力不足等教員は、原則として次のとおりとする。

@ 学校現場から離す対応(校外研修、職種変更、退職の勧奨、分限処分等)が必要と考えられる者

A 校内・校外研修等の対応策を講じた後、その改善状況の確認と今後の対応を決定する必要のある者


5 適正な手続き及び審議
(1) 本人の意見の反映
・府教育委員会は、当該教員に対するヒアリング及び任意に提出された意見書を踏まえて検討を行い、具体的対応案について向上委員会の意見を求める。
・府教育委員会は、当該教員のヒアリング調書及び意見書を向上委員会に資料として提出する。

(2) 審議等
・向上委員会は、個人のプライバシーに十分配慮し、検討を行う。
・向上委員会は、必要に応じ、当該教員あるいは関係者に対し、同意を得た上で、向上委員会への出席を求めることができる。

-------------------------------------------------------------------------------



(3) 実効性あるシステムとするために
@ 教職経験の段階と指導力不足等の状況に応じた対応策
 「指導力不足等教員」への対応システムを実効性のあるものとするためには、先にも述べたように、ライフステージや指導力不足の態様を見極めながら、それぞれの教員に応じた対応策を実施していくことが必要である。
 また、現に存在する「指導力不足等教員」への対症療法的な対応にとどまらず、新たに「指導力不足等教員」を生み出さないための抜本的な治療や予防のための対応策を実施していくことが重要である。
 本検討委員会では、採用時、初任者、経験者、管理職という教職経験の段階と、専門性、社会性、勤務態度・服務等の状況に応じた対応をとるために有効であると考えられる方策について、現行の制度内で可能なものだけにとどまらず、今後、可能性を追求すべき対応策も含めて幅広く検討してきた。検討を行った対応方策の中で、「対応システム」を中心とした「指導力不足等教員」に対する対応方策とともに、予防策・資質向上方策としても有効と思われる方策で、府教育委員会として当面取組むことが望まれるものについて例示した。<「教職経験の段階と指導力不足等の状況に応じた当面取組むべき対応策の例」参照>PDA文書

 対応策の中には、「一定期間を通じて学校公開や授業公開を実施するなど『開かれた学校づくり』の積極的推進」など、学校によってはすでに実施されており、保護者や地域から高い評価を受けているものもある。このように現在すでにおこなわれている方策をさらに充実させることによって、「指導力不足等教員」に対してのみならず、教職員全般の資質向上に寄与するものも多くあり、対応策の実施に必要な条件整備を府教育委員会に望みたい。

<府教育委員会に具体化が望まれる主な項目>
○ 時期を定めた長期間の学校公開や授業公開など「開かれた学校づくり」の積極的推進
○ 教員の努力や向上心が評価され、自己研鑽を一層深めるための「学校教育自己診断」や「学校協議会」の活用・充実
○ 校長のリーダーシップが発揮できる学校組織の充実


A 管理職の指導能力の向上
 「指導力不足等教員」への対応システムが有効に機能するものとなるかどうかは、管理職の指導能力にかかっている。
 校長としては、まず、教員が子どもの教育を担うにあたって、心身ともに充実した態勢で臨めるよう、教員の健康管理や職場の円滑な人間関係の維持など、環境の整備に努めなくてはならない。さらに、教員が集団として意欲的な教育活動に取組めるよう教育目標を提示できる見識、学校改革に挑む積極性や的確な危機管理能力、対外的な調整力など学校運営についての豊かな経営感覚が必要である。
 また、教員が、授業内容や指導方法、評価方法等の改善に努め、教科指導力の向上を図るとともに、カウンセリング・マインドをもって子どもを理解し指導できるようにするなど、指導者として教員の資質向上に取組む姿勢が管理職に要求される。
 特に、子どもに対する指導力が十分とは言い難い教員に対しては、子ども・保護者・府民からの信頼を損なうことのないよう、教員としての指導力を獲得・回復させるための努力を払わなくてはならない。
 そのためには、府教育委員会は、管理職を対象に、経営感覚やリーダーシップの研修、人権やカウンセリングの研修、「指導力不足等教員」や病休・休職者への対応についての研修などを実施する必要がある。
 管理職登用に際しては、学校運営についての意欲や能力、経営感覚を一層重視するなど、その適性を見極めることが求められる。
 また、管理職への目標管理や、学校運営についての外部からの評価等を参考にした管理職人事などにより、管理職の意欲を引き出すこととあわせて、校長の権限や責任を見直すなど、管理職ポストが魅力あるものと感じられるようにすることを要望したい。

B 校内の協力・支援体制
 多様な教員が、共通の目標に向かって、個性を活かしながら、協力して教育活動を進めるなかでこそ、教職員の資質と力量は磨かれるものである。初任時の学校組織風土によりその教員の教育に携わる姿勢が決まるとも言われているように、一人ひとりの教員の資質・能力を高める上で、職場の環境は大きな影響を及ぼす。校長のリーダーシップのもと、教員が相互に資質を高めあう職場環境づくりが何よりも必要である。
 「指導力不足等教員」への協力・支援体制が有効に働くためには、日常から授業公開や実践・研究発表が積極的になされているなど、教員の自己評価・相互評価などが活発に行われる雰囲気が必要である。
 学校教育目標に則って各教科や学年、校務分掌単位でそれぞれの目標を立て、共有しつつ、互いの意欲と力量を高めあう日々の活動のなかで、個々の教員が子どもたちの教育に携わるという職務の重大さを確認しながら、常に時代の要請に応えるべく自己変革を果たしていかなくてはならない。

C 制度上、財源上の課題解決に向けての働きかけ
 中央教育審議会は、平成10年9月の答申において、適格性を欠く教員等については、子どもの指導に当たることのないよう適切な人事上の措置をとる、必要に応じて分限制度の的確な運用に努めるなどの提言を行っている。
 『教育改革国民会議報告』の中では、教師の意欲や努力が報われ評価される体制づくりのために、「特別手当」などの金銭的処遇や準管理職扱いなどの人事上の措置、他職種への配置換え、雇用形態の多様化、免許更新制の検討などが提言されている。
 これらの提言を受けて、文部科学省の『21世紀教育新生プラン』でも、教える「プロ」としての教師の育成をめざし、不適格教員に対する「教壇に立たせない」などの厳格な対応や優秀な教員の表彰制度と特別昇給の実施、社会体験研修の制度化、教員の雇用形態や採用方法の多様化、免許更新制の可能性の検討などが政策課題として掲げられている。
 本検討委員会としても、「指導力不足等教員」への対応システムをさらに有効にするために、法令の改正や制度・運用の見直しが必要となるものについて、国・文部科学省に強く働きかけるよう、府教育委員会に要望したい。

<国・文部科学省への働きかけが望まれる主な項目>
○ 不適格教員への厳正な対応のための明確な分限免職処分の基準設定
○ 5年程度の期限付き任用制度など柔軟な雇用制度の創設
○ 教員の専門性や適性を確認するための教員免許更新制の導入
○ 担任手当等業務に応じた手当や教諭の職務級の上位級を新設するなど、教員の意欲や努力に報いるための給与体系への移行
○ 全国的課題である指導力不足等教員の研修に伴う代替講師の国庫財源措置

 また、国の対応を待つだけでなく、府教育委員会として、独自にとり得る方策の研究も望みたい。

D 対応策の早急な具体化と検証・改善、市町村への働きかけ
 府教育委員会は、「指導力不足等教員」に対して、早急に対応策の具体化を図らなくてはならない。子どもも保護者も同僚も管理職もみんなが苦しみながらこの問題をじっと我慢しているという状況のマイナス面は計り知れず、特に「適格性を欠く教員」への対応は焦眉の課題である。ごく少数の教員のために、意欲的に教育課題に取組む多くの教員が意欲を減退させるような事態は絶対に避けなくてはならない。
 対応策の具体化については、平成13年度に府教育委員会の直轄校から実施し、検証しつつ、できるだけ早い時期に市町村で取組むよう、市町村教育委員会に働きかけ、その取組みを支援していく必要がある。


4 教職員全般の資質向上に向けて

 多くの教職員が日々、教育に対する情熱に支えられ、自己を磨き、山積する教育課題に真摯に取組んでいる中で、保護者、府民から、一部の「指導力不足等教員」に対してのみならず、教職員全般に対しても社会に開かれた存在となっていないという批判がなされている。
 今日の教育課題は、教職員の努力だけでなく、教育委員会、学校全体、保護者、地域の連携協力のもと、解決を図っていかなくてはならない。
 しかし、これまで、あまりにも学校の内で起こっていることや取組み等が外部から見えず、個々の教職員の努力も評価されずにいるのではないか。
 本検討委員会では、喫緊の課題である「指導力不足等教員」への対応方策について検討を重ねてきた。
 「指導力不足等教員」への対症療法的な対応策だけでなく、抜本的な対応としても、教職員全般の資質向上方策としても、「開かれた学校」をめざして教育活動の透明性を高める必要があるのではないか。多方面からの評価を受け入れ、そのフィードバックとして工夫改善を重ねるという双方向性のある、開かれた関係が欠かせない。
 学校は、校長のリーダーシップのもと自発性と主体性をもった教職員によって、教職員集団として機能している。
 学校においても、校長と教職員との一層開かれた関係を確保するためにも、また、教職員の努力や向上心が適正に評価され、自己研鑽が一層深まるためにも、個々の教職員の意欲を引き出すような評価制度を検討する必要があると考える。
 今後、「指導力不足等教員」への対応方策について検討を重ねた経験を生かして、学校教育と教育活動の特性を踏まえながら、教職員の意識改革を促し、意欲や能力の向上を図るため、個人の能力や業績を適正に評価する制度など教職員全般の資質向上方策の検討に入っていきたい。


む す び

 今日ほど、教職員の資質と見識が問われている時代はない。複雑で困難な教育課題を抱える時代であるからこそ、教職員に対する子どもや保護者、府民のまなざしが厳しいのだとも言え、それはまた、教職員に対する期待の大きさの表れであるとも言える。新しい世紀を迎えて、新しい時代を担っていく子どもたちを育てるという教職員の公共的な使命は、今まで以上に重要となっているのである。
 少年非行やいじめ、不可解な殺傷事件など、人間が生きていく上での大切なものを一時見失った子どもたちを前にして、ますます教職員の果たす役割は重要になっているのではないか。
 「学級崩壊」や不登校、中途退学など、学ぶ意味を見出せず、自尊感情の希薄な子どもたちに対して、ますます教職員の責務は重いものとなっている。
 国際化、科学技術や情報化の進展、少子高齢化、環境問題など社会の変化に対応して新しい時代を生きていかねばならない子どもや青少年が、かけがえのない生命を大切にして、自他の人間としての尊厳と人権を認めあい、自立・共生への「育ちあい」を通して、すこやかでしなやかな新世紀の担い手として成長することを念じたい。
 どんな時代にも、教職員は、子どもの可能性の中に未来社会の萌芽を探ってきた。そうした姿勢や意欲を、日々の教育活動のなかでともすれば見失い「指導力不足等」の状態に立ち至った教員に、もういちど誇りと元気を回復してもらうために検討してきた結果を、ここに「中間報告」として取りまとめた。府教育委員会として早急に具体化を図られることを要望する。


-------------------------------------------------------------------------------

<資料>
・指導力不足等教員への対応イメージ図
・教職経験の段階と指導力不足等の状況に応じた当面取組むべき対応策の例

<参考資料1>検討依頼事項
<参考資料2>開 催 経 過
<参考資料3>委 員 名 簿


Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会