● 実教出版の日本史教科書についての大阪府教育委員会見解 2013年7月9日

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(各校長への電子メール)
送信日時:2013年7月9日火曜日
件名:  【重要】平成26年度使用高等学校用教科用図書選定に関して


府立学校校長・准校長 様

 いつもお世話になっております。
 標記については、現在、各校で作業を進めていただいているところですが、選定に当たり注意していただきたいことが生起しておりますので、急ぎこのメールを送信いたします。

 さて、平成26年度使用教科用図書の選定及び報告については、平成25年5月27日付け教委高1573号により、通知しているところです。

 過日、東京都教育委員会は、
「実教出版株式会社の教科書『日本史A(日A302)』『日本史B(日B304)』を都立高等学校(都立中等教育学校の後期課程及び都立特別支援学校の高等部を含む)において、使用することは適切でないと考える」との見解を示しました。

 この教科書について、大阪府教育委員会の見解は以下のとおりとします。


見解


 実教出版株式会社の教科書『日本史A(日A302)』『日本史B(日B304)』には、【国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。】という記述があります。

 府教育委員会は、この記述について、一面的なものであると考えます。それは、学習指導要領の趣旨や、平成24年1月16日の最高裁判決で、国歌斉唱時の起立斉唱等を教員に求めた校長の職務命令が合憲であると認められたことに、全く言及がないからです。

 また、府教育委員会としては、すでに通知している、平成26年度使用高等学校用教科用図書選定の手引き(「教科書選定に当たっての調査項目とその留意事項」の「地理歴史」)には

  2 選択・扱い
   (3) 特定の事項・事柄を強調しすぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく
  取り上げていないこと。

 と示しています。

 一方、文部科学省は、教科書検定に合格したこの教科書について、「検定上誤りとは考えられず、許容されるものである」という見解を示していることから、府教育委員会としては、一部の記述のみをもって、この教科書の採択をしないとの結論まで至っておりません。

 各学校においては、これらのことを踏まえ、校長の権限と責任のもと、選定理由を十分明確にし、適正に教科用図書の選定を行うよう、お願いいたします。

                             以上


 なお、選定にあたって、ご相談等のある場合は、高等学校課恩知参事または教務グループ柴首席までご連絡下さい。

 それでは、よろしくお願いいたします。

 (参考)
 東京都教育委員会の報道提供
 http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr130627d.htm




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● 教科用図書の補完教材に関する指示事項(通知) 2013年9月27日 大阪府教育委員会
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教委高第2528号 平成25年9月27日
関係府立高等学校 校長・准校長 宛
教育長通知


        教科用図書の補完教材に関する指示事項(通知)


 実教出版株式会社の教科用図書「高校日本史A(日A302)」及び「高校日本史B(日B304)」(以下これらの図書をまとめて「本教科書」といいます)の使用に際しては、下記に従った指導を行ってください。

                    記

1 対象生徒  「本教科書」をすでに使用している在校生、及び今後使用する在校生または新入生
2 指導方法  対象生徒全員に別紙補完教材を配付の上、教員が同教材を使用し、同教材の内容に従って、生徒の理解を深めるよう指導を行うこと。その際、公民教科書関連箇所を生徒に指摘すること(別紙補完教材注1から注5を参照)。
必要に応じて下記の参考資料を用いてもよい。

 参考資料
 ・日本国憲法19条
 ・国旗及び国歌に関する法律
 ・大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌斉唱に関する条例
 ・平成24年1月16日最高裁判決
 ・高等学校学習指導要領 公民(現代社会・政治経済)

3 報告  対象となるすべてのクラスの授業終了後、速やかに別紙様式の確認報告書を提出すること。なお、12月末に中間集計を予定している。

4 提出  高等学校課 教務グループあて(逓送による)


《本件連絡先》
教育振興室 高等学校課
教務グループ 植木・平岡
TEL: 06-6941-0351(内線3467)
FAX: 06-6944-6888
E-Mail: UekiNo@mbox.pref.osaka.lg.jp




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別紙 補完教材

 本書は、実教出版高校日本史A教科書の185ページE印(もしくは高校日本史B教科書の247ページE印)で示された記載につき、補足をする文書です。
 該当個所では、「国旗・国歌法が憲法第19条の思想・良心の自由(注1)に違反するおそれがあり、日本政府が国民には国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないと国会審議であきらかにしたにもかかわらず、一部の地方自治体では公務員に強制する動きがある」との趣旨の記載がなされています。
 この記載に関する事実関係を整理すると以下の通りです。
 平成11年に国旗は日章旗、国歌は君が代と認める国旗・国歌法が成立した後、大阪府では平成23年に大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例が制定されました。
 条例は、各地方自治体の選挙を通じて選ばれる住民の代表者である議員によって構成される議会が多数決によって決議する法です(注2)。
 この条例に基づき大阪府教育委員会は府立学校で勤務する公務員(生徒・保護者は対象ではありません)に対し、入学式及び卒業式等、国旗を掲揚し、国歌斉唱が行われる学校行事において、起立して国歌を斉唱することを命じる職務命令を発しました。つまり、議会が成立させた条例(法)を、行政機関である教育委員会が国民ではなく公務員に対して執行したのがこの職務命令です。
 議会で正式に成立した条例を行政機関が執行する場合、当該条例の執行が憲法や法律に違反していないかを別の独立した機関が判断しうることが必要であり、この判断権を持つのが裁判所です(裁判所の司法権)(注3)。
 国民・住民の代表者が議員を選挙で選び、この議員によって構成される議会が立法権を持ち、立法府が制定した法を、行政権を持つ行政機関が執行し、その違法性を審査する権限(司法権)を裁判所が持つことにより、権力の相互抑制を実現しているのが三権分立の考え方です(注4)。
 最高裁判決平成24年1月16日(懲戒処分取消等請求事件)の裁判では、東京都立学校校長による国旗掲揚、国歌斉唱の職務命令が憲法第19条の思想・良心の自由の侵害にあたるかが争点になりました。
 つまり、職務命令が違法なのではないかという点を最高裁判所に判断してもらうための裁判が行われたのです。その結果、判決では、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱するという職務命令は、憲法第19条の思想・良心の自由を侵害するものではなく、合憲であるという判断がなされ、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱するという職務命令の合憲性が確定されました。
 この判決により、同趣旨の職務命令を発令した大阪府の職務命令及び大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例の合憲性が確認されたと解されます。
 一方で、条例に批判的な意見をもつ人々は表現の自由(憲法第21条)(注5)などの権利を行使して自分の意見を述べることができます。
 このように、意見の分かれる事項について議論し、憲法・法律・条例といった法に従った適正な手続きを経て、国民・住民が意思決定するというのが民主主義の考え方です。
 今回は、当該記載の事実関係につき、補足が必要であるとの考え方に立ち、皆さんにこの補助教材を提供する運びとなりました。生徒の皆さんには、三権分立、表現の自由、民主主義といった制度や考え方をご自身で考え、理解を深めていただきたいと思います。


注1〜5については、別文書にて、各学校で使用している公民教科書の該当ページを示すこと。








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