◆198312KHK019A2L0154E
TITLE:  BBS運動の現状と展望(2)− BBSの研修活動とケース活動
AUTHOR: 吉田 卓司(編著)
SOURCE: 関西非行問題研究8号(1983年)
WORDS:  全40字×154行

BBS運動の現状と展望(2)

BBSの研修活動とケース活動
 ― 近畿地方BBS会員研修会での研究協議を通して ― 


神戸・長田BBS 後藤邦子 松本佳子



 1.近畿地方BBS会員研修会の概要

  この研修会は,「地区BBS会において,中堅または指導的立場で活動しているBBS会員に対し,活動上必要な知識及び技能を修得させることにより,BBS活動の充実,発展を図ろうとするものである」(開催要綱より)の趣旨でおこなわれたものである。各地域で,さまざまに実践されている会員の方々と,研究協議を中心に2日間にわたり論議できたことは,数多くの問題を浮き彫りにでき,また,各々の経験の中からその方策が練られ,大変有意義なものであった。日程等を下に記す。

・日 時 昭和57年10月23日(土),24日(日)
・会 場 大津市打出浜1−2 さざなみ荘
・参加者 BBS会員44名,来賓ほか11名
・主 催 法務省保護局,日本BBS連盟,近畿地方更生保護委員会,近畿地
     方BBS連盟,大津保護観察所,滋賀県BBS連盟
・日 程
(第1日)
 受付開始     13:30
 開会あいさつ   近畿地方更生保護委員会事務局長、
          近畿地方BBS連盟会長、大津保護観察所長、
          社団法人近畿更生保護事、業協会会長
 研究協議 I    14:50〜17:00
 休憩・入浴・夕食 17:00〜19:00
 研究協議 II   19:00〜21:00

(第2日)
 レクリエーション指導 8:00〜9:00
 講     義    9:00〜10:30
 質疑応答・討議    10:30〜11:40
 講     評    11:40〜12:00
 閉     会    12:00



 2.「出会いの場」の設定

  まず自然で効果的な「出会い」の場の設定について話が始められた。近畿では,京都,大阪の活動が活発なようで,一人でいくつものケース経験をもつ方がたくさん来られていて大変参考になった。あるBBS会員から,「LBの非行歴を,BBS会員は最初に聞いておく必要はないのではないか。LBに対しての先入観を持つだけだろう。LBが自分から話してくれるのを待ちたい」との意見もあった(LBとはLittle Boyの略で,男子対象少年を意味する)。また,他のBBS会員からも,「LBが,そこまで話してくれるようになれば,真の友達関係なのだろう」との発言があった。たしかに,理想的な姿であると思う。だが私が担当しているケースのLSの場合,薬物非行の経験があり,私は保護司さんとLSの母親から詳しくその内容を教えていただいて良かったと思っている(LSとはLittle Sisterの略で,対象の少年が女子の場合)。LSに,「前の友達からよく電話がかかってくるんです」と相談された時も,その認識の上で,その友達だけには絶対会ったりしないようにアドバイスした。また,その後数ヵ月は不審な電話もなかったようだが,相手もそう簡単にはあきらめないだろうと思っていたので,折にふれてLSに,誘いの電話がないか尋ねていた。ある日,LSと遊びに行って別れ際,私が「最近変な電話ない」と尋ねたら,「○○の所で,新しく売る所ができて,ものはよくないが安いから来ないか」と誘いがあったという。私はそのことを保護司さんに連絡し,LSの母親とも遠路しあって,今後LSの行動等に変化がないか充分注意して見守ってゆこうということになった。私のケースの場合,もし私がLSの非行歴を知っていなければ,どのように対処していっただろうかと考えると疑問である。また,資料としてでも知っていなければ,BBS会員自身も危険の生じるケースもあるのではないかと思う。


 3.家族・家庭とどうかかわるか

  あるBBS会員から,ケース担当のLBの親とあまりにも深くかかわり,LBと親と両方のケースを持っているような状態にまでなったようで,「家庭とは関与しない方が良いし,親の理解もあまり必要とは言えない」との意見も出た。だが,私のケースでは,初回面接のとき保護司さんとLS宅を訪問し,お母さんもいっしょになごやかに話せたのが良かった。実際に,LSの立ち直りを助けようとするキリスト教関係の人もLSと直接会っていろいろ話しているようだが,お母さんとは会っていなかったらしい。お母さんは,LSの以前つきあっていた友達からの電話に気をつかっておられたせいもあってか,キリスト教関係の人からの電話にも不信感を持ち,LSに,「絶対に会いに行ってはいけない」とおっしゃったらしい。だが私に対しては,電話で彼女の様子も教えてくださるし,どこかへ遊びに行った後など,とても喜んでくださり,お礼の言葉をいただく。LSも,「今朝出てくる時,お母さんに『BBSの人といっしょだったら,どんどん遊びに行き』と言われたんです」と嬉しそうに話してくれたりすると,親の更生保護への理解と協力を得ることの大切さを,一層感じるのである。


 4.LBの触法行為について

  LBに対して洒,タバコを認めるような発言,またLBと会員との趣味話題の共通点がカラオケと車だけだったということで,LBを連れてスナックヘ行き,お洒を飲んだり歌を歌ったりし,無免許のLBに車の運転をさせたり自ら交通違反をもしてみせたBBS会員の発言に疑問を感じた。これに対して,それらを認めるべきでないという意見は少なかった。この点に関しては,LBとLSとでは違うのではないかとも考えられる。「LBと心から打ち溶けるためには,お酒もいっしょに飲みに行くし,BBS会員それぞれの常識の範囲であれば良いのではなかろうか」との意見もあった。だが,それなら,私がLBを持つならそれらを認めるのが良いのかと言われると全くわからない。ぜひ,これを読まれた方のご意見をお聞きしたい。


 5.研修活動の意義

  ケース活動の豊富な会員から,よく,「これが私の持論ですが」という言葉を耳にしたが,私も含めてBBS会員は,ケースがさまざまである故,考え方にも柔軟性が必要だと感じる。また,研修会でいろんなケース報告を聞くことにより,自分の考えと違った意見出会う。それは単なる意見ではなく事例であるので,誰も否定できないし,自ら考えに幅が出てくるのではないだろうか。最後に,兵庫では,まだケース活動の件数が少なく,57年11月現在12件であるが,京都・大阪などでは多いようで,大阪は50件くらいあるらしい。京都では,バドミントンを毎週おこなっているそうで,そのなかに,保護司さんはもちろん,観察官も毎回参加されているそうである。そうしていると観察宮の方も,BBS会員一人一人の性格を把握でき,「今度このケースを持ってみないか」と,LBの性格に合いそうなBBS会員がいれば声をかけてケースを依頼してくださるそうだ。このように積極的な地区会の動きやさまざまのケース事例,そして各々BBS会員の意見に触れることができ,またボランティア活動にとっては欠くことのできない情熱を持った方々と交流できたことは,何にも増して研修会に参加した成果であったように思う。
(以上,長田BBS・後藤邦子)


 6.ともだち活動開始時に,対象少年の非行歴を知るべきか

  今回の討議での結論は,「少年の経歴の資料はあくまで資料として見るべきで,一側面からだけの視点ではなく,いろんな立場からの資料を,色めがねをかけずに,本人の立場で見るべきだ」ということだった。確かに,経歴を聞くことによって,偏見をもってLBを見てしまうのではないかという危険性はあるかもしれない。私自身,LSのおこした事件の内容を初回面接前に聞かされていたので先入観がなかったといえばウソになるが,そんなイメージもLSに会うことにより,吹きとんでしまった。しかし,そういう,いわば,悪→善へというイメージの転換はできても,何も知らずにいてLBから聞かされ裏切られたときに会員が感じるショックを考えると,善→悪へというイメージの転換もないとは言いきれないだろう。それらの点を考えると,やはり一応事前にLBの略歴くらいは知っておくべきだと思うし,それで動かしようのない程の偏見を持ってしまうようなら,BBS会員として不適だとさえ私は思うのである。


 7.LB・LSの親との連携

  親との連格は,信頼をある程度得,安心させるためにも是非とっておくことが必要であるが,中には親に信頼されすぎて親の代役の立場にまで立たされて困ったという事例もあった。私の場合,逆に,一応保護司さんに紹介はしていただいたが,親の協力が得られず,LSとも連絡をとれないでいる。それぞれの家庭にさまざまな事情があるかもしれないので,親が拒否を示した場合,それ以上家庭内にBBS会員が踏み込んでよいものかどうかは,疑問を感じるところである。友だち活動は,あくまで会員とLBとの関係であって,必要以上に家族とかかわるのは,かえって良くないというご意見もわかるが,やはりこのような局面に立たされると,痛切に家族の協力の大切さを感じるのである。


 8.ともだち活動とグループワーク

  グループワークでは,LBがBBS会員と接することによって,モデルとして見ることのできる対象を多く得られて良いのだが,表面的なつきあいに終わるきらいがあるとも言われていたが,その点については,一人一人が真剣に接してゆけば,それなりの成果はあるのではないかという結論に達した。具体的には,施設訪問をして友達になり手紙を出して,出所後,友だち関係が成立したという例もあった。


 9.ともだち活動と研修

  講評で,「少年を良くしようと,肩に力を入れすぎず,触法行為は,保護司さんや観察官に相談しながら,情熱,誠意,自信を持って,押してもダメならひいてみろの心意気でやって欲しい」と言われた。どうも,私の場合,肩に力が入らなさすぎて,自信喪失にいつも陥っては,他のBBS会員や保護司さん観察官に元気づけていただいていることが多いようだ。今後は,この研修会で得たさまざまな知識を知識として終らせるのではなく,実際の活動に役立ててゆかねばならないと思う。そのためには,どんどん自分の足で観察所や保護司さんの所へ出かけて行かなければならないと思う。実際,私の場合,幸運にも研修から帰ってすぐケースを持たせていただくことになったのだから,他にもたくさんケースを持ちたいと思っておられる方がいらっしゃると思うが,その点,今一度考えてみてはどうだろうか。また,諸機関へのBBSのピーアールの大切さを痛感するとともに,地区会の一層の活発化の必要性を感じている。
(以上,長田BBS・松本佳子)





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