◆198612KHK055A2L0368E
TITLE:  青少年条例の運用実態と問題点−条例運用の具体的検証を中心として−
AUTHOR: 吉田 卓司
SOURCE: 関西非行問題研究11号(1986年)
WORDS:  全40字×368行


青少年条例の運用と問題点
 ― 条例運用の具体的検証を中心として ― 


吉 田 卓 司


  [目 次〕
  1.はじめに
  2.青少年条例による法的規制の実態
  3.条例適用の反教育的効果
  4.青少年条例の基本的性格
    ― まとめにかえて ―



 1.はじめに

  青少年が風俗営業、ポルノ=グラフイー等のいわゆる有害環境から相当の影響を受けていることは否定できないだろう。しかし、これらの環境が青少年にとって良い影響を与えているとは到低いえないとしても、それゆえにどのような法的規制をも可能であるとはいえない。一定の法的規制を承認する立場からも、その規制内容については、人権保障と規制の公正さ、社会的コスト等について十分な検証が必要といえよう。



 2.青少年条例による法的規制の実態

  青少年条例の運用の実態については、私自身既に本誌等において考察を加えたことがある(1)。それらの実態調査と論考では、青少年条例の立法上の問題点を明らかにし、いわゆる有害環境の浄化について住民運動や行政の取組みを具体的に検証した。その上でこれらの運動が単なる現象面の改善(雑誌自動販売機の撤去等)にとどまらず、少年非行を生む社会構造の改善をも目指す視野の広い運動に発展し、地域の教育力が高まることを期待した。しかし、この期待が幻想であったことをこの小稿で明らかにせねばならない。
  現実に、いわゆる有害環境は改善されるどころか、売春を主たる「営業」とする風俗産業や裏ビデオ等が公然と普及され、性の商品化はますます進み、それに対する条例規制が公正かつ有効な対処をなしえないことが浮き彫にされてきたのである(2)。
  昭和59年2月14日の衆議院予算委員会で自民党の三塚政調副会長(当時)が「こんな雑誌を小中高生が読んでいるとは、極めて憂慮すべき事態」として少女雑誌「ギャルズライフ」(主婦の友社)等五誌を上げたことを契機として、政府・国会を中心として「有害図書」の規制立法の是非が国会内外で議論され、公党間の政策協議の正式議題とされるなどした(3)。政府・自民党による出版物規制立法は従来からも繰り返し企図されており、この一連の立法企図についても慎重な検討を必要とする(4)。ここでは、特にこの国会での議論が青少年条例の運用に直接的な影響を与えたことに注目したい。
  このとき福岡県児童福祉審議会は福岡県警などの要請にこたえて、国会で槍玉にあげられた少女向月刊雑誌のうち「エルティーン」(近代映画社)、「キャロットギャルズ」(平和出版)=各三月号=を「有害図書」に指定し、青少年への販売を禁止した(5)。従来の有害指定のが成人向けのポルノ雑誌にはぼ限定されていたことから考えてもこの指定は極めて異例の措置といえる。しかも少女向けに編集・出版されていたものを青少年に対して販売禁止することは、事実上その都道府県での販売禁止を意味するもので、出版者にとっては、有害図書販売者への罰金(3万円)という法定の法律効果をはるかに越えた経済的損失があるといえよう。
  また、この「有害指定」手続についても看過しえない問題点を指摘しうる。各都道府県青少年条例も福岡県と同様に「有害指定」手続において知事が審議会に諮問にもとづいて指定を行なうという手続をとっている。福岡県青少年条例においては審議会委員の大半が学職経験者であり、その上出版業界関係者も審議に参加している(6)。それにもかかわらず前記のような指定がおこなわれたという事実は、第三者機関が行政機構上の有効なチェック機能を果していないことを示すものといえよう。青少年条例の運用において、「有害図書」は担当行政官によって収集・選定され、これについて審議会が実質的に謙抑的審判機能を果たしていないことは前述の調査によっても既に明らかである(7)。「有害指定」が当該関係者にあたえる経済的損失の大きさ、および事後的求済による損害回復の困難性を考えれば、そのような恣意的「有害指定」手続自体が不当である。すなわち、今日の膨大な出版物の中から「有害図書」を一律的に選定すること自体不可能な現状においては、「有害指定」は必然的に行政官および取締警官の恣意的判断に依存することにならざるをえず、しかもその恣意的規制が政治状況を敏感に反映している点にも注意しなければならない(8)(9)。
  このような表現物に対する法的規制の結果として出版者は過度の経済的制約をうけ、あるいはそれを恐れて消極的意味での自主規制をすることになる。この意味での自主規制とは政府・行政の意に添う出版物を発行するという自己規制であり、このような出版者自身の自己規制こそが精神的自由権侵害の本質である(10)。



 3.条例適用の反教育的効果

  本節では、青少年条例が高校生活指導の現場にどのような法的効果をもたらすかという点について、事例研究を基礎として実証的検討を加えたい。既に「淫行処罰」を中心に、青少年条例については、最高裁判所の判決(最大判・昭和61年10月23日、判例時報1170号3頁)が出され、改めて青少年の性的行為の法規制についての再検討がせまられている。運用実態への批判的検討、および現体制下での実践的対応の検討は焦眉の課題といわねばならない。
  表1を見れば明らかなように、性非行で補導される女子の約40%は条例違反の摘発に関連して補導されたものである。したがって、児童福祉法、売春防止法、少年法の適用に比して、青少年条例は、性的行動の規制機能を果していることは明らかである。しかし、条例が都道府県単位のものである以上、その適用は各都道府県によって大きな相違が見られる(表2)。都道府県の人口比など地域の特性などを考慮しても、表2を見る限り北海道、新潟、兵庫、岡山、福岡など300件をこす送検人数の道県はやはり「みだらな行為」処罰について、積極的な条例運用をおこなっているといえる。

  前述の最高裁判決が出るまでほ、青少年条例の「みだらな行為」処罰の範囲も、これを狭義に解する判決(11)と、広義に解する判決(12)と二分されており、少年警察の条例適用が各地方自治体によって差異を生じたのは必然的であった。しかし、条例の運用の不公正が改善されるか否かは、予断を許さない。
  一方教育の現場では、性的行動を含む私生活についても不良行為は生活指導の対象として、各学校において何等かの指導をおこなっている。生活指導の内容については各校で相当の違いがあるので一概に高校の生活指導基準を示すことはできないが、(資料)に例示したような生活指導の処分内規をもつ高校も現実に存在する。

  例示した私立女子高校のように指導対象行為に対する処分の選択枝が少なく、しかも容易に退学・無期停学処分が機械的に課せられる構造になっている場合、少年警察の性的行動の認知が(たとえ少年が広い意味で被害者的立場であっても)学校の管理主義校則に連動したとき、当該青少年は条例によって保護されるどころか逆に教育の機会を強制的に奪われる結果となるのである。そのうえ、「青少年条例の適用にあたっては、青少年等の条例適用を受ける者の自由・権利を不当に侵害しない」という旨の適用上の注意が多くの青少年条例において明文で示されているにもかかわらず、現実には条例が本来予定していないような強権的法運用がおこなわれたり、青少年に対して強圧的取調べがおこなわれている事実がある(13)(14)。
  少年警察活動が青少年の性的問題行動を暴露し、さらに極端なケースでは警察付の新聞記者を通して誇張・歪曲された「性非行」記事が興味本位に書き立てられること等も少なくない。このことによる当該少年の社会的制裁、精神的ダメージは回復不可能といっても言いすぎでない。生徒の問題行動を警察活動によって学校側が正確に認知し、それを一つの指導資料として、その後の教育的指導に生かせる状況がすべての教育現場にあり、警察活動がそのような意味での教育的配慮をなしうるものとすれば理想的であろう。しかしながら現実には、警察の取調が教育的配慮を欠いている事例が数多く見られる(15)。非行を犯した(関与した)生徒の警察出頭が授業時間内に命じられる等は希ではない。当該生徒が単位習得のために、ぎりぎりの授業時間数しか残されていないような場合でも、警察の出頭要請は(任意出頭の事例さえも)執要におこなわれる(16)。このような場合において、青少年の処遇をめぐる警察的観点と教育的観点の確執が顕在化するのである。


表1 女子の性非行による補導件数(昭和59年度)−『昭和60年版犯罪白書』より
総 数売春防止法違反 淫行(児福法)違反 淫行(刑法犯) みだらな行為(条例犯) ぐ犯行為 その他の性行為
9813811 909 3926 753 3412



表2 各都道府県の「淫行」処罰の現状
罰 則 ※59年の
送検人数
懲役刑 罰金刑
北海道 3万円以下 422
青 森 5万円以下 17
岩 手 1年以下 10万円以下 34
宮 城 10万円以下 162
秋 田 1年以下 10万円以下 49
山 形 6月以下 10万円以下 139
福 島 6月以下 10万円以下 170
茨 木 10万円以下 56
栃 木 3万円以下 62
群 馬 1年以下 10万円以下 138
埼 玉 1年以下 10万円以下 245
千 葉 処罰規定なし
東 京 処罰規定なし
神奈川 1年以下 10万円以下 269
新 潟 1年以下 10万円以下 302
山 梨 5万円以下 12
長 野 県条例なし
静 岡 10万円以下 103
富 山 1年以下 10万円以下 133
石 川 5万円以下 45
福 井 1年以下 10万円以下 31
岐 阜 1年以下 10万円以下 99
愛 知 1年以下 10万円以下 157
三 重 5万円以下 59
滋 賀 6月以下 10万円以下 52
京 都 1年以下 10万円以下 106
大 阪 6月以下 5万円以下
兵 庫 5万円以下 311
奈 良 3万円以下 64
和歌山 1年以下 5万円以下 28
鳥 取 5万円以下 46
島 根 1年以下 10万円以下
岡 山 1年以下 10万円以下 315
広 島 1年以下 5万円以下 229
山 口 1年以下 10万円以下
(他県条例の適用)
徳 島 5万円以下 20
香 川 6月以下 3万円以下 21
愛 媛 5万円以下 106
高 知 1年以下 10万円以下 25
福 岡 2年以下 10万円以下 396
佐 賀 2年以下 10万円以下 31
長 崎 2年以下 10万円以下 50
熊 本 2年以下 10万円以下 48
大 分 1年以下 10万円以下 62
宮 崎 6月以下 5万円以下 42
鹿児島 1年以下 10万円以下 86
沖 縄 2年以下 10万円以下 57
計  4,678
 ※人数は警察庁まとめ
 毎日新聞夕刊 1985年10月23日(水)



 資 料   A高校(神戸市内私立高校)生徒処置内規

(一) 指導処置の段階
1、説論 主に担任の先生が説きさとす
2、訓戒 生徒と保護者に対して、校長もしくは指導部教諭がさとしいましめる
3、停学 校長が訓戒を与えた上、停学家庭謹慎をさせる
     @有期停学・・・・7日間
     A無期停学・・・・8日間以上
4、退学 退学処分は職員会議をへて、校長がこれをおこなう
※訓戒、停学は二度重ねない、二度目はそれぞれ停学、退学にする。但し特別の考慮を必要とするときはそれぞれ二度おこなう場合もある

(二) 指導処置の対象
(1)凶悪行為[殺人、強盗、強姦、放火]…退学
(2)粗暴行為[暴行、傷害、リンチ、恐喝、脅迫〕…無期停学 退学
(3)窃盗行為[校内・校外における盗み、すり、万引]…無期停学 退学
(4)知能犯行為[詐欺、横領]無期停学 退学
(5)風俗犯行為[とばく、わいせつ行為]…有期停学 無期停学 退学
(6)その他の触法行為[住居侵入、ぞう物保持(盗品等の保持)、わいせつ物所持、失火、タキ火等のいたずら]…訓戒 有期停学 無期停学
(7)ぐ犯・不良行為
[飲酒、喫煙〕…有期停学 無期停学
[凶器所持、たかり、家出、無断外泊、パーティーへの無断参加、公共物の破損、怠学、風俗営業(パチンコ、キャバレー等)への出入、不純異性交遊、不良団体加盟〕・・・訓戒 有期停学 無期停学
(8)その他の行為
[カンニング]…有期停学
[授業妨害、教師の説諭無視、校異・教材の悪意的破損、登下校途中の喫茶店や遊戯場への立入]…訓戒 有期停学
[言動の粗暴行為、授業態度の不良、掃除当番の逃避、朝礼への不参加、無届早退・欠課]…訓戒
[服装・頭髪等の違反で生徒会の注意に従わない場合]…有期停学 無期停学 退学
[身分証明書の勝手な書きかえ]…有期停学 無期停学
(9)交通関係の不良行為
[無免許運転、スピード違反、怪我をさせたとき]・・・無期停学 退学
[その他の交通法令違反]…有期停学
[登下校時の単車、乗用車等の運転、利用]・・・有期停学
[定期券の悪質な不正使用(期間切、区間外使用、定期券の貸借)、定期券面の偽造(使用未遂、使用)]…有期停学 無期停学
※呼び出しに応じない保護者の場合、その生徒に対して・・・無期停学



 4.青少年条例の基本的性格

  現代の日本の警察が政治的に、あるいは宗教的にさえも中立性を保ちえないことは周知の事実である(17)。また、青少年に対する捜査・取調上の人権侵害、法規違反も後を断たない。このような現実のなかで、青少年条例はどのような社会的意味をもつものであろうか。本稿はまさにその点について、一資料を提供するものであった。
  多くの青少年条例に見られる出版物規制規定は、「性」・「暴力」等の「有害出版物」を青少年の目にふれさせないことを目的としている。しかし、この条例によって「有害出版物」が一掃され、事態が改善されたと考えている人は皆無に等しいだろう。では、この法は社会的に何の意義ももたないといえるであろうか。その答は否である。少女雑誌有害指定事件・「GORO」有害指定事件において明らかにされたように、青少年条例は行政(とりわけ警察)が青少年にとって望ましくないと考える出版物に対して任意に規制を加えうる法的根拠をあたえたものである。しかもその適用に際しては、本稿本文・注記の具体的事例が示すように、「法の下の平等」、法執行の安定性」の観点が全く欠落している点に注意しなければならない。
  「深夜外出」「みだらな行為の規制についても、青少年の性行動が条例によって犯罪化されたことに伴って家庭教育、学校教育に対する警察の介在はより一層強化されたといわなければならない。その社会的弊害は、本稿に掲げたもののほかにも幾多の事例が明らかにしているとおりである。「みどりちゃん事件」(18)(最高裁決昭58・9・5)−少年保護事件における再審請求−にみられる人権軽視の実態、すなわち別件逮捕と見込捜査、捜査官の誘導による調書作成、少年警察活動要綱という内部規則にさえ違反した強権的取調等が、無実の少年に殺人の罪と保護処分を押しつけたことなどを考えると、青少年条例とともに少年警察自体の検証も十分に行なわれる必要があろう。いずれにせよ、このような少年警察活動の法的・構造的問題の改善に具体的展望をもちえず、さらにこれらの実態について無理解のままで青少年の「健全育成」を警察主導の法規制に委ねることはできない。
  戦前の警察規則においても、臣民の権利保障、思想犯の探索とならんで、警察活動の柱であった(19)。けれども人権軽視の警察による「善導」・「矯正」がどれほど大きな民主主義と人権の脅威になるかは、いうまでもないであろう。その意味では、青少年条例を機能的治安立法の一つとする主張(20)には相当の根拠があると言わなければならない。




(1) 近畿2府4県の実態調査結果については、吉田卓司「青少年の健全育成と表現の自由」関西非行問題研究6号(1981年)17〜36頁。近畿出版倫理連合会の自主規制の実状については、同「『低俗出版物』規制の現状」少年補導304号(1981年)24〜29頁に詳しい。また、いわゆる「ゆるやかな条例」ないし「自主規制型条例」の一つである京都府の条例運用については、同「青少年条例による出版物規制と環境浄化活動」法と政策15号(1983年)39〜43頁。本稿では、これらの80年代前半の実態把握を基礎とし、さらに条例運用のその後の実態に注目しようとするものである。前掲出稿との重復を極力避けようと努めたので、参照いただければ幸いである。
(2) 例えば、青少年保護を目的とする法規制が地域社会の自主的な非行防止を低下させるとの実践的な問題提起(鍋谷博敏「少年警察と青少年条例」法律時報増刊『青少年条例』(1981年)31〜38頁、36頁)は注目に値しよう。
(3) 朝日新聞・1984年3月12日および同3月14日参照。
(4) 昭和30年代から昭和70年代後半にいたるマスコミ規制立法をめぐる動向については、中村泰次「青少年条例ラッシュの実態」新聞研究372号(1978年)43〜47頁に詳しい。
(5) 西日本新聞・1984年3月9日
(6) マスコミ倫理懇談会全国協議会による「都道府県青少年対策担当者に対するアンケート」調査による(法律時報増刊『青少年条例』(1981年)263頁)。
(7) 吉田・前掲注(1)論文「青少年の健全育成と表現の自由」22〜25頁。
(8) 「警察の不偏不党・公平中立という点も、実質的には訓示規定程度の無内容なものに転化し、…政治警察への傾斜は、まさに現実的危険として存在する」といわれる(中山研一「治安と防衛」『現代国家権力と法(現代法学全集53巻)』(1978年)91〜216頁、198頁)。
(9) 青少年向け雑誌が、青少年条例の有害図書に指定されたのは、本稿で取り上げた福岡県の事例が最初ではない。1976年に宮城県青少年条例によって、青少年向け雑誌「GORO」(小学館)が指定をうけたことがある(朝日新聞・1976年3月14日)。この事例では、高校生による婦女暴行事件が加害者である少年が、前記「GORO」の記事に刺激されて犯行に走ったと自供したため、同県警防犯少年課で同誌を検討、「内容に問題がある」と判断して、県青少年室に連格。同室でも検討の上有害指定をおこなった(林田広美「青少年の性犯罪とマスコミ」新聞研究297号(1976年)87〜88頁参照)。宮城県「GORO」有害指定事件が、マスコミを短格的に非行原因としたこと等の諸問題では、本稿の福岡県少女雑誌有害指定事件と同様の側面をもつ。しかしながら、福岡の指定は、具体的事件を媒介とせず国会での自民党議員の発言を契機とした有害指定であり、「有害基準」が時の政治状況によって容易に変化しうる点で極めて大きな法規制の矛盾をあらわしたものといえるのではないだろうか。
(10) ナチス・ドイツ時代においては、出版物に対する自主規制が言論統制の有力な手段であったことは、国家権力が直接に法規制をするのではない場合にも、社会的集団や法の有する副次的機能が深刻な、権利侵害を惹起する危険性を示している。なお石村書治「言論の自由とマスメディアの『自主規制』」福岡大学創立30週年記念論文集・法学編(1964年)1〜51頁参照。
(11) 例えば、旭川家裁 昭和41年7月28日決定(家月19巻1号81頁)
 北海道青少年保護育成条例の「淫行またはわいせつな行為」とは、「青少年の精神的、知的な未熟さや情緒的な不安定に乗じたような形態における、つまり誘惑、威迫、立場利用、欺もう、あるいは困惑、自棄につけこむ等の手段を講じて青少年を自己の性的行為の相手方とせしめた場合にのみを指すものと解すべきである」とした。
(12) 例えば、東京高判 昭和39年4月22日(東京速報1182号)。
 青少年条例における「淫行とは、健全な常識がある一般社会人からみて、結婚を前提としない欲望を満たすためのみに行なう不純とされる性行為」とする。
(13) 例えば、「深夜同伴」規定違反事件が審判不開始とされた判例−釧路家裁、昭和51年9月25日決定(家月29巻5号94頁)−についてみると、
  C(19歳)は、昭和51年4月5日、午後11時から翌日午前0時25分頃までの間、幼なじみのD子(16歳)をその依頼に応じて、自動車に同乗させて走行中のところ、警官に発見され、北海道青少年保護育成条例違反事件として家裁送致となったが、家裁は、当該行為に「青少年の福祉を害する危険」はないとし、Cを非行なしとして、審判不開始とした。
 このように、青少年の福祉を害すると思われない事実についても、条例による取締りがおこなわれているのである。このことは条例自体にも広範囲にわたる処罰を可能とするような不明確性の乏しい規定が現存することを示している。
(14) 出版物に対する条例運用上の問題性も看過しえない。
  例えば、「青少年条例違反による自動販売機の押収」がいくつかの県でおこなわれた。
 岡山県倉敷市内の喫茶店と飲食店前の二ヵ所の自動販売機で、岡山県が昭和56年8月および11月に有害指定した二種類の雑誌(¥300、¥400)を収納し、販売していたとして、昭和57年4月に自動販売機二台を押収するという強行処置をとった。同県児島署では、青少年非行防止活動の一環として有害図書自動販売機の撤去運動を推進していたが、同年1月頃図書自動販売機が管内に設置されはじめたことで、同署員が見回り中に、県指定の有害図書が収納されていることがわかったもの。(オカニチ昭和57年4月20日版)
 このように、条例が条文上定めた法的制裁の効果を超えて、規制をおこなっている現状を知ることができる。
(15) 仙台桜ケ丘中学事件では、警官の不用意な言動から、中学生が私服警官と衝突し、少年は公務執行防害等で現行犯逮捕され家裁送致となったが、家裁では「とりたてて問題を起こす生徒ではない」として審判不開始の決定が出される等。少年警察活動要綱や犯罪捜査規範など内部規範で「捜査に当っては少年の心情を傷つけないよう努め」、「捜査の時期、場所、方法等について慎重に注意する」といった自己規制が、単に訓示的意味しかもたなくなっているのではないかと思われる。
 日弁連『第28回人権擁護大会シンポジウム第一分科会報告書「学校生活と子どもの人権」』(1985年)、および寺村恒郎「少年警察強化は何を狙うか」文化評論307号(1986年)82頁、87〜88頁。
(16) 高校の生活指導における実践例の中でも、警察への対応に苦慮する事例は、少なくない。例えば、1日でも学校を休めば留年が決定的となる生徒に対して、警察からの出頭要請は「他人をひどい目にあわせておいて、自分だけが単位不足などとよく言えたものだ、学校をやめて罪をつぐなうぐらいの気持ちはないのか」の激しく怒鳴り、親も「耐えられない」というほどで、学校が指導部長と担任の二人で警察に学校内の事情説明に行った際も「先生が背後で知恵をつけると証拠いん滅の罪になりますよ」と担当警官から強迫まがいの言葉を聞いている。久保田武嗣「A子が変わり三組が生きかえるまで−−実践記録・教育実践をどう集成化してきたか−−」高校生活指導78号(1985年)62頁、69〜70頁。
(17) ウォルター・L・エイムズ(後藤典訳)『日本警察の生態学』(1985年)187頁においては、警察が創価学会などの特定の宗教に関与することを禁止し、あるいは被差別階層出身者を採用しないことなどの実態が社会的調査に明かにされている。特定の革新政党を公安警察の対象とし、一方で保守政党議員に警察OBが多いことなどは国民公知のことであろう。なお、大野達三『日本の政治警察』(1973年)参照
(18) 「みどりちゃん事件」については、荒川雅行「少年保護事件における二つの最高裁決定」関西非行問題研究9号(1984年)53〜59頁、およびそこに掲げられている参考文献参照。
(19) 中山研一、前注(8)掲書104〜105頁参照。
(20) 中山研一『現代社会の治安法』(1970年)83頁では、東京都青少年の健全な育成に関する条例を治安法として挙げられ、前注(8)掲書170頁において、中山教授は「青少年の健全育成ということ自体が治安的観点の中にとりこまれざるをえない現実の下では、これを上からの治安対策から切り離し、自主的・自律的な下からの運動として展開する努力こそが追求されるべきであろう」とされる。





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