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◆199201KHK114A1L0092I TITLE: PTAを見直す AUTHOR: 田中 紘一 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第114号(1992年1月) WORDS: 全40字×92行
田 中 紘 一
まず、PTAは、法的には社会教育団体の一つに位置づけられている(社会教育法第10条)。これは、各校のPTA会則の中の、「本校の教育目的達成に協力し」といった規定とも呼応している。PTAは、各校から出された教育方針等に協力するのであって、それらを決定したり、運営に、あたったりするものではない。
また、山崎真秀静岡大学教授は、PTAを、「父母と教師が対等の立場で協力し、地域や学校での児童・生徒の健全な成長と幸福のための諸活動を行うことを目的として組織された、自主的・任意的な民間団体である。」(解説教育六法・1990・三省堂)と、定義している。
なお、歴史的にみると、当初は、1947年4月に文部省が発表した「父母と先生の会」参考規約にも見られるように、PTAは、教育の民主化の一翼を担うものであった。その後、PTAは、子どもの教育環境の整備、不良文化財の追放、教育予算増額の要求等に取り組んできた。しかし、次第に、学校後援団体化する等の弊害も出てきた。
@ 父母と教師の立場は対等か
PTAは、「父母と教師が対等の立場」で協力できるものであろうか。結論は、現状では否である。
例えば、入会金や会則からして、父母と教師の間には不平等がある。ある県では、入会金を父母からだけ取り、教師からは取っていない。会費にしても、父母と教師の間には、3〜4倍の違いがある。逆に、弔慰金の支給では、父母の場合、教師の15%にすぎない額の場合さえある。
また、役員になる場合も、父母が2%程度であるのに対し、教師は、10〜20%もある。
このように、PTAの会則などからみて、現状では、父母と教師の立場は、対等とはいえない。
そして、父母のPTA活動の蓄積が限られたものであるのに対し、教師のそれは、より豊富なものである。
更に、父母も教師も、子ども(児童・生徒)を教育する権利を持っている点では同じであるが、父母のそれが、学校外で行使されるのに対し、教師のそれは、学校内で行使される。学校運営、懲戒権、調査書の作成等、教師は、学校内において、父母に比べて「強い立場」をもっており、それは、PTAにおいても微妙な影響を及ぼしている。PTA総会の会場のようすは、その間の事情を如実に表している。前で、いろいろ説明しているのはほとんどが教師であり、父母は、ほとんどの場合、それを聞く側にすぎない。教師が、その属性を離れて一人のPTAの会員として発言することは、ほとんどない。常に、教師という属性や分掌という立場を引きずったままの発言である。
このように、父母と教師は、その本質からも、対等な立場に立つことは難しい面がある。
A PTAの学校後援団体化
PTA予算をどう使うかは、PTA自身が決定することである。しかし、PTAは、本来公費が負担すべきところを、その予算の大部分で負担している。今や、PTAは、学校後援団体になってしまったといっても過言ではあるまい。
ある県の公立高校のほとんどの学校の、PTA予算に占める、PTA運営費・PTA活動費の割合は、10%前後に過ぎない。逆に、公費でまかなわれるべき、学校活動費・学校運営費の割合は、90%前後にもなる。特に、図書費の中に占める公費の割合は、25%に過ぎず、残りは、PTA会費等でまかなっているのが現状である。
@ 父母と教師の立場を対等に
まず、PTA入会金・会費、弔慰金の支給額、役員になる割合等、父母と教師の間に見られる不平等な点を是正すべきである。
次に、教育方針の決定、学校運営、懲戒権等、「強い立場」にある教師に対して、知る権利、校則決定への参加、異議申立権等を確立し、「弱い立場」である父母の立場を強化すべきである。
A PTA予算の見直し
PTA予算の中で、10%程度しか占めていないPTA運営費、PTA活動費を増やしPTA研修費等、PTA本来の事業にPTA会費を使うようにすべきである。
また、学校活動費、学校運営費等、公費で負担すべきものは公費で負担させ、そうしたものへ、PTA予算を使うのは極力減らし、学校後援団体からの脱却を図るべきである。
そのためにも、1947年4月に、文部省が発表した、「父母と先生の会」参考規約の「適当な法律の手続きにより、公立学校に対する、公費による適正な支持を確保することに協力する」(第2条8項)の精神を、今一度、思い起こし、参考にすべきであろう。
B 研修の見直し
前述の、「父母と先生の会」参考規約の、「・・・・・・民主社会における市民の権利と義務とに関する理解を促すために、父母に対して、成人教育を盛んにする」(第2条2項)や「新しい民主的教育に対する理解を深め、これを推進する」(第2条3項)等の精神を参考にして、PTAに関する、父母・教師の研修を盛んにすべきである。
特に、現在は、「子どもの権利条約」や「学校5日制」について、父母と教師が、共に学び、意見を出し合い、これらの実現のために取り組んでいくことが、いつにも増して求められている。PTAの研修材料として、これほど適切なものは、またとないのではあるまいか。これらへの取り組みを通して、親の教育権の確立、学校と家庭と地域との役割分担が明確になってくるはずである。
C PTA組織の見直し
PTAの会員である、父母と教師の立場を対等にしようとする場合、会則などの不平等を是正することはできる。しかし、父母が、子どもの教育への権利の代行をする立場を持ち、教師は、その要求を受け取る立場にあるといった点になってくると、それを是正し、対等の立場で協力するということは、困難になってくる。
こうなってくると、PTAの組織の中を、父母部会と教師部会の二つに分け、その調整機関として、連合役員会、連合総会を設置するのも一案であろう。
各々、等質の部会で討議し合ったものを、連合役員会、連合総会で討議し、調整を図っていくのである。現状の教師主導型のPTAの運営よりか、よりましなものになるのではなかろうか。
なお、連合役員会の構成は、各部会から、その会員数に応じて同比率の役員を選出し、構成するものとする。オブザーバーとして、生徒会代表を複数参加させる。
<参考図書・文献>
坂本秀夫『PTAの研究』三一書房
新井隆一他監修『解説教育六法・1990』三省堂
山口明子「意味としてのPTA」大阪高法研ニュース第78号
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