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◆199209KHK122A1L0143OH TITLE: 高学歴社会の進展と男女の意識の変遷 − 性解放の進展と労働問題に視点をあてて − AUTHOR: 山崎 京子 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第122号(1992年9月) WORDS: 全40字×143行
〜性解放の進展と労働問題に視点をあてて〜
山 崎 京 子
昭和40年代以後の日本の高度成長は高学歴社会への移行を容易にした。それは一方に於いて高校中退、大学の大衆化といった問題をも顕在化させる過程であった。その過程にあって、男女の意識、労働状況はどのように変化しどのような問題を生じているか。世紀末の状況をとらえ、21世紀への教育を考えるよすがとしたい。
@京大新入生数の推移と女子学生数の変遷
1960年(昭和35年)から1990年(平成2年)の間の京大新入生数の推移を10年毎に見ていくと1960年1841人(内女性57人3.1%)、1970年2635人(内女性 150人5.7%)、1980年2510人(内女性 206人8.2%)、1990年2823人(内女性 377人13.4%)となっており、男子入学者数の伸び1.3倍に比べ、女子入学者数は6.6倍と顕著である。学部別に見ると、1960年には0人だった経済学部と工学部が1980年代に入って急増。法学部、農学部もこの時期に大巾に伸びている。その他の学部でも確実に増加しており、文学部、教育学部、薬学部では学部全体の1/3の割合を占めるまでになっている。或る意味で女性の志望動向を調べることが世の中の動きや経済の動きを知る一つの方法ではないかと考えられる。
A京大女子学生達の卒業後の進路
そこでこの女性達の卒業後の進路を追ってみると、勿論社会の各方面で活躍している人が多数おられることは事実である。そうした女性達については、卒業年次の古い人の場合には独身の人の比率が多いのであるが、卒業年次が下るにつれて、結婚し、子供を育てながら職業を持ち続ける人の割合が増えている。しかし一方に於いて、卒業後一度は職に付いたのか、或いは最初から未就職かは判らないが(多分大多数の人達は一度は職についたものと思われるが)現在無職で専業主婦になっている人の多さにも驚かされるのである。 しかもそれは女子学生の多い学部の卒業生に顕著な現象のように見える。(文、教育、薬、農学部)専業主婦になっている卒業生の最も少ないのは医学部である。以上の現象につき、日本全体の大学卒業生の動向を見ながらその原因を探りたいと思う。
文部統計要覧(平成4年版)によると日本全体でみた大学(4年制)卒業者中の女子の進路を見ると、男子の大学院進学率 8.35%に対して女子は 3.8%で(´91年)就職率は男子 81.1% に対し女子 81.8% に上るから合わせて男子 89.4%、女子 85.6%が進学か就職している。更に女子の臨床研修医予定者 1.2%を加えると86.8%は進路が確定している。故に進路不確定な女子を 13.2% とし、京大卒女子の場合も同じ割合と仮定すると(実際は4年制大学卒の多くは女子大卒なので、京大卒の方が進路不確定率は少ないと思われるが、20年間の年次変化を考慮すればこの仮定でもよいと思う)昭和39年卒から昭和59年卒の20年間で京大卒の進路不確定女子は 435名と計算される。所が実際には京大卒女性の中の無業者は約2500名とみられることから、卒業後就職しながら何等かの理由で離職して再就職しない女性が多い事を示していると考えられる。では彼女たちは何時退職したのであろうか。
文部統計要覧に拠って幼稚園から大学までの女性教員に例をとって短大卒と大学(4年)卒の女性の勤続状況を調べてみよう。
@幼稚園教員
短大卒の場合は女子の 3.1%が進学し 88.1% が就職で合わせて91.1%が進路確定しているが、その中の6.8% が幼稚園教諭に就職している。幼稚園教員は93.8%が女性であるが、その年齢構成を見ると52.4%が26才以下で占められ、男性教員の56.8%が59才以下、43.2%が60才以上とは著しい相違を見せる。
A小学校教員
小学校教員ではどうか。現在では小学校教員も大学卒が多くなり、短大卒は新卒では殆ど無いと考えられるが、小学校教員の 59.3%は女性である。年齢構成は女性は 51.4%が35才以下、男性は35才以下は 36.6%である。小学校教員は給与上も育児休暇等についても女性の職場の中では男女平等待遇で、比較的恵まれた職場の筈であるが、それでも男性とは勤続年数に於いて顕著な差がある。
B中学校教員
中学校教員ではどうか。女性の割合は 37.3%と下がってくる。年齢構成は女性の 55.9%が35才以下。男性は35才以下は 43.5%である。
C高校教員
高校教員ではどうか。女性の割合は 20.9%と更に下がる。年齢構成は女性の中で35才以下は 39.5%,38才以下は 48.1%,41才以下は 56.5%,男性の中では35才以下は 34.9%, 38才以下は 43.9%,41才以下は 52.9%で、女性教員の勤続年数は長くなってくる。
D大学教員
大学教員ではどうか。女性の割合は 9.4%と更に下がる。年齢構成のデータは無いが、多分勤続年数は長いであろう。大学教員の場合は殆どが大学院終了者と思われる。
E短大教員
短大教員の場合は女性の割合は 38.4%であるが、年齢構成その他は全然判らない。京大卒女子の場合、教員になる場合は高校以上の教員になる場合が多いと考えられるので、無業者となった女性たちは恐らく教員以外の職についたものと考えられる。
労働白書(平成3年版)に拠ると、総務庁統計局「就業構造基本調査」(昭和62年)に拠り、殆どの者が学校を卒業後10年以上経過している35〜39才層を例にとると、10年以上就業を続けている者の割合が学歴が高い程大きくなり、学歴が高い程長期勤続という傾向が見られる。しかし高学歴の者は長期勤続の傾向が強い反面、結婚や出産で一旦退職すると家庭にとどまる傾向が強い事が窺われる。特に高学歴の女子では一旦退職すると、その後仕事をしたいと思っても、所謂終身雇用制を前提とする我が国の雇用慣行の下では、前歴と同等以上の再就職をすることが困難な事が背景にあるのではないかと思われる。高学歴女子に於いては働き甲斐や能力発揮を求める就業ニーズと実際に就くことの出来る仕事との間にかなりの開きが生じており、有配偶者の再就職を抑制する一因となっていることも考えられると労働白書は分析している。
一方、天野正子著「女子高等教育の座標」では高学歴女性の職業行動の中の職業継続に焦点をあて、それを促す要因と抑制する要因の検討を通して、継続に与える学歴効果を見ている。継続を可能にする第一の条件は初職選択にある。職業継続に有利な条件を備えた専門職や公務職では高等教育を必要とするから、この点で学歴効果は大きいとしている。他方職業継続を中断させ、再就職を抑制する要因として女性自身の問題と職場の条件が考えられるとしており、前者については女子学生の職業意識の弱さの側面が職業生活の中で露呈した結果と言えるとしている。即ち、第一に女性の中で職業志向と家庭志向とが十分構造化されていないことがあげられる。職業意識が高いといっても、職業を軸にした人生設計ではないから、結婚、出産に直面すると職業継続を考慮に入れずに配偶者を選択し、出産する。多くの場合、夫が共働きに反対とか、転勤が多いとか、妊娠したが預ける所がないとか、継続困難な事態に突き当たる。確かにわが国の女性の高い結婚率と適齢期結婚に示される様に、若い女性にとって結婚や出産は人生に不可欠のことなのであろう。しかしそうであるなら、継続困難な事態に突き当たった時に、何故解決の努力をして、家庭と職業を両立させようとしないのであろうか。高学歴女性の職業の意義を見ていくと、第一に職業が生活の必要性に迫られていない点が上げられる。女子学生の就職動機が自己実現を高く評価し、経済的動機を軽視する傾向は高学歴女性が経済的ゆとりのある男性と結婚する傾向と結び付いて、ますます促進される。このように就業が生活上の必要性や家庭責任と結び付いておらず、「仕事を持たざるを得ない」側面が弱い事が家庭と職業の両立への努力を阻む大きな要因になっている。第二に高学歴女性が期待する自己実現的欲求が現実の職業生活の中で充足されず、期待と現実の落差の大きいことが若年期退職を促し、再就職を抑制する。仕事が単純反復的で処遇の男女格差は大きい。経験を積んでいる筈の職場の先輩を見ても自分とそれ程違わない仕事に就いている。こうしたことから職場での将来の見通しは明るくない事を実感する。丁度その時期に、「かけがえのない」恋人、妻、母親として期待されればそちらにひかれることも頷ける。育児中断している高学歴女性の中には再就職を希望している者も結構いるが、希望に合致した仕事は見付からず、かと言って水準を落としてまで仕事を持とうとは思わないと言うのが本音ではないだろうか。
とはいえ、企業は今日、高学歴女性の大量採用の場となりつつある。いわゆる男女雇用機会均等法の成立によって、採用や配置の問題に改善の可能性が生まれた。また今春から育児休業制度が男女両性に法制化されたことにより、出産後の職業継続も容易になってきた。今まで高学歴女性達はその高い意欲にも拘らず、職業継続への活路を切開いていくための行動力に欠けていた。結婚、出産、育児期に一度退職してしまえば彼女等が職場に復帰してくることは稀である。その背景には、彼女等の職業意識に潜む「弱さ」がある。この様に考えてくると、高等教育機関に学ぶ女性達には、長期的な見通しに立った職業生活を現実的に設計していく能力が求められている事が判る。彼女等は先ず旧弊な通念に捕らわれる事無く、労働市場の現状や新しい動向に就いての正確な情報を把握し、自らの可能性を常に適格に認識する必要がある。同時に、今日女性の生涯に占める育児期の割合が縮小している事実や、高齢化社会の到来によって女性にも経済的能力が必要とされていることなど、女性にとっての職業の現代的意味が学習されなければならない。また女性の長期就業の隘路となる乳幼児保育の問題に関しても、0才児保育の実態や育児休業の制度化等の実情について正確な知識を得ることが必要である。高学歴女性達はこれらによって生活の諸側面と職業とを結び合わせる具体的な展望を形成しなければならない。こうした学習は女性の生き方についての従来の通説に反するから、女子高等教育の課題は、これらを学習出来る機会を意図的・計画的に提供することにある。現在「女性学」等のコースでその一部は実現されているが、更に女子高等教育全体の中でより組織的に整備され、推進されることが今後の課題である。同時に、高等教育機関の職業指導では、これらに就いての豊かな情報の提供と共に、女子学生たちにより学歴効果の高い初職の選択が奨励されるような指導が必須のものである。多くの高学歴女性が職業を継続し、質の高い職業能力を発揮していくこと自体が女性労働への評価を、さらには女性そのものへの評価を高めていく原動力となる筈である。ここでは主に大学に於ける教育について述べられているが、学歴効果の高い初職を選択するためには、その前提としての大学に於ける専攻が問題となる。即ち、いかなる大学のいかなる学部、学科に入学するかであって、これは既に中学、高校時代からの女子教育と密接に関連している。医学部、理学部、工学部等への女子の進学率の低さは、中学、高校段階での女子教育に問題があると考えられる。私はこの点の実情を詳細には把握していないので、中学、高校の先生方の御意見を寄せられることを期待している。
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