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TITLE:  情報は民主主義の通貨
AUTHOR: 辻  公雄
SOURCE: 大阪高法研ニュース 第125号(1992年12月)
WORDS:  全40字×82行

 

情報は民主主義の通貨

 

弁護士  辻  公 雄(大阪高法研顧問)

 

1.世界と日本の情報公開法の制定

  世界的には、1950年代よりスウェーデン・フィンランド・デンマーク等の北欧、ドイツ・フランス、そしてアメリカで各種の情報公開法が制定されています。

  日本では国段階の情報公開法が未だ制定されておらず、自治体レベルで1982年に、山形県金山町で公文書公開条例が制定されたのが最初であり、現在は全国47都道府県、3259市区町村のうち、39都道府県、176市区町村で同条例が制定されています。

 

2.情報公開度と民主主義

  政治や行政においては、少数の権力者が多数の者を支配してきましたが、それを可能にしたのは、権力者が情報を独占していたからだといえます。

  逆にいうと、情報をどれだけ公開するかは、どれだけ多くの国民が政治や行政に参加できるかということになり、情報の公開度は市民参加、市民主権の度合いを示すことになります。

  情報公開度が民主主義の成熟度を示し、情報は民主主義の通貨といわれる所以です。

 

3.情報公開の実情

  アメリカでは、企業同志の情報獲得のための公開請求は乱用の気配があるが、公益的見地から行なわれている公開請求は、市民が主権者であることを基礎づけるべく有効に機能しており、情報公開はアメリカにおける民主主義への賛辞と自信のあらわれといわれています。

  例えば、日本の自動車の欠陥が輸出先のアメリカの情報公開で判明されたり、アメリカの首長の宿泊や食事代の資料まで公開されるのです。

  日本においては、条例制定以降、約10年間に15万件余の公開請求があり、その内容は公金支出や都市計画、教育情報等、多岐にわたっていますが、行政側で公開を拒否する場合も相当あります。

 

4.公開拒否に示される行政の本質

  行政側が情報の公開を拒否する場合に、その理由とするところは、公開にすることにより関係者に迷惑がかかり、今後の行政に支障が生ずるというものです。

  この拒否理由は、教育個人情報についても共通しており、公開により子供や親と学校側の信頼関係が損なわれ、以降の教育に支障が生じるというものです。

  しかしながら、一見もっともらしい行政側の公開拒否理由の中に、行政の体質が如実に示されているといえます。

  即ち、「行政側が各種の情報を知っておいて、それを有効に使うことが最重要なことであり、市民に知らせることは無用な障害を生じさせることになる」という発想なのです。

  これは、市民に知らしめるなという、国民主権以前の封建的考えが現在でも行政の体質となっていることを示しています。

  日本の情報公開は、『おかみ』が国民に恩恵的にしてやっているというものであり、国民主権の下にあっては、情報は本来的に市民の共通財産という認識が欠落しています。

  行政側のいう支障とは、市民から痛いところを突かれると、為政者にとって都合が悪いということに外なりません。

  行政にとって痛いことこそ、情報公開の機能なのです。

  また、情報を公開することによって、ゴネ得や不正なことを市民的批判により是正してゆけるのです。

  この事は、教育個人情報についても妥当し、情報を隠して事を進めるのではなく、子供についての評価を公にして、子供も親も共に考える中でこそ、真の信頼関係が出来るものといえます。

  以上の如く、情報公開による利害得失については、行政が勝手に決めるのではなく、まず、情報を公開し、みんなで議論する中で、諸課題を克服してゆくというのが本来の民主主義のあり方といえます。

  尚、プライバシーを事由とする公開拒否については、公金支出を伴う自治体との取引や公的交際は、すべて公的関係のものであり、プライバシーの問題ではない事を留意する必要があります。

 

5.情報公開の前進と市民運動

  日本の情報公開の実情が不十分とはいえ、この間数々の成果を挙げ、ガラス張り行政の為に貢献してきたことは事実です。

 例えば、

  公金支出に関しては、相当な範囲まで公開されてきており、特に大阪府知事交際費については行政訴訟が提起され、地裁、高裁では共に全面公開の判決が出され、現在最高裁で審議されています。

  この最高裁判決が今後の公金支出の情報公開のリーディング ケースになると言われています。

  また、教育情報については、豊中市教育委員会が1992年11月16日に指導要録の公開決定を行ない、高槻市の内申書開示請求について、教育委員会は非開示決定をしましたが、不服審査会は1991年2月28日に全面開示の答申を出しています。

  このように、情報公開の流れはどんどん広がってゆく方向にあります。

  その外、昨年末に新聞紙上で連日問題とされた尼崎市や高槻市での議員のカラ出張の問題は、市民グループの請求による情報公開が発端となっており、腐敗した行政をただす重要な運動になっています。

  このように、行政情報の公開は行政監視を可能にし、行政の透明化と市民の為の行政の確立にとってなくてはならないものとなっています。

  行政情報の公開は有史以来はじめのことであり、真に市民主権を確立できる制度として、その改善を含めて十分に活用していくことが我々の課題であると考えます。

                             (1993.1.1)

 


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