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◆199308KHK133A1L0584EFG TITLE: 高校生の規範意識 − 因子分析による若干の考察 − AUTHOR: 田中規久雄 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第133号(1993年8月) WORDS: 全40字×584行
田 中 規 久 雄
はじめに
本研究は基礎法学的な立場から、高校生1720名に対して、法意識を含む規範意識に関する84問の設問で行なった調査(1987年実施)の結果分析である[注1]。
本調査の対象ならびにその様々な属性については、別表1をご参照いただきたい。調査対象者の年齢については、おおまかに4〜5月に1年であったものを15歳、2〜3月に1年であったものと4〜5月に2年であったものを16歳、2〜3月に2年であったものと4〜5月に3年であったものを17歳、2〜3月に3年であったものを18歳とすると、下表のようになる。
年齢別調査人数
15歳 | 185人 |
16歳 | 796人 |
17歳 | 709人 |
18歳 | 17人 |
不明 | 13人 |
収集したデータを、大阪大学大型計算機センターACOSシステム2000のSPSS(R4.1)にかけ(1992年10月)、単純集計[注2]・性差検定・因子分析[注3]を行なったが、ここでは因子分析結果を中心に取り上げたい[注4]。
なお、設問はおおよそ以下の内容に分類される。実際の設問は別表2をご参照いただきたい。
・一般的社会意識(Q1−10)
・一般的法意識(Q11−21)[注5]
・軽度の非違行為に対する意識(Q22−32)
・教務措置に対する意識(Q33−47)
・生活指導・校則に対する意識(Q48−58)[注6]
・懲戒処分・退学勧告に対する意識(Q59−63)
・体罰・精神罰に対する意識(Q64−72)[注7]
・部活動に対する意識(Q73−76)
・日の丸・君が代に対する意識(Q77−78)
・逸脱行動に対する意識(Q79−84)
主成分分析結果として、固有値1以上の因子24個が抽出された。パラメーターはすべてSPSSのデフォルトであり[注8]、軸回転については一般的なVARIMAX法であったが収束しなかった。
各因子の因子負荷量は、経験的にいって、0.6程度あれば決定的、0.5程度でかなり決定的、0.4 程度でかなり影響があるといったところであるので、本調査ではかなり解釈の難しい因子も散見される。因子負荷量が 0.2以上もしくは-0.2以下の設問を中心に解釈した結果、一応、以下のように命名した。なお、( )内は、固有値を示す[注9]。
・ F1「規制志向因子」(10.36) | ・F13「マイペース型因子」(1.41) |
・ F2「他律性因子」(5.44) | ・F14「ピーターパン因子」(1.34) |
・ F3「生真面目型因子」(3.09) | ・F15「被保護欲求因子」(1.26) |
・ F4「成績中心因子」(2.96) | ・F16「法日常生活無関係因子」(1.23) |
・ F5「正統権威性因子」(2.50) | ・F17「法規制重圧感因子」(1.21) |
・ F6「道徳性葛藤因子」(2.33) | ・F18「小市民的因子」(1.17) |
・ F7「ハイブロウ志向因子」(1.90) | ・F19「エゴイズム因子」(1.17) |
・ F8「合理性因子」(1.74) | ・F20「良識志向因子」(1.09) |
・ F9「軽度規範逸脱容認因子」(1.71) | ・F21「潔癖性因子」(1.07) |
・F10「適正利益要求因子」(1.61) | ・F22「集団内部規範重視因子」(1.06) |
・F11「カルビニズム因子」(1.54) | ・F23「個人尊重因子」(1.03) |
・F12「世間常識型因子」(1.44) | ・F24「非社会性因子」(1.02) |
以下、そのそれぞれについての解釈を示す。(以下、Qのついた数字・〔 〕内の数字は設問番号である。なお、設問は要旨で引く。)
『因子分析法によって得られた因子は、自然現象を理解するための人工的な概念であって、実際に存在する要素的なものと考えてはならない。』[注10]のであって、それゆえ、各因子につけた名前は便宜的なものであり、重要なのはそれがどのような表層意識(設問)上の傾向を示すかである。
なお、因子負荷量の一覧は、別表3をご参照いただきたい。
(1) Factor1「規制志向因子」
この因子は、学校の様々な規制〔57,53,56,55,50,52,51,49,62,48,63,73,45〕と、その強制〔58,61,54,41,64,40,66,42,71,39,44,67,68,65,43,38,60〕を肯定し、その規制の対象となるような行為を否定する〔30,28,29,27,25,23,81,84,22,32,26,31,21,79,24,82〕。
とくに、3ない運動受容に突出した負荷量をもつのが特徴的である。
Q20「軽犯罪不処罰」に対しては否定的にはたらくのは理解できるが、気になるのは、Q47「内申書本人開示」に対しては否定的にはたらき、Q77「日の丸掲揚」・Q78「君が代斉唱」に対しては肯定的にはたらいていることである。
これは、内申書の非開示、日の丸掲揚、君が代斉唱が一種の規制として意識されているためではないかと思われる。
規制方法については、成績上の不利益〔41,40,42〕、軽い体罰を強く容認させ〔64,66〕、強い体罰にも肯定的である〔67,68,65〕など体罰を受け入れやすくさせている因子である〔71〕。
(2) Factor2「他律性因子」
この因子は、強い体罰・精神罰を肯定し〔69,67,68,65,71,74,72,66,76,64〕、高校生自身を性悪視させる〔81,82,79,29,83,23,31,28,25,14,30,84,32,26,80,27,22〕。
ここで注目されることは、この因子が体罰を重用させるわりには、実体的な生活指導や校則にはあまり影響を与えていないことである〔59,41,60,44,42,57,36,58,43,40,52,38,37,55,61,39,15,54,51,62,56,53,63〕。すなわち、非違行為の基準はともかく、生徒は悪いことをするのであり、それには体罰を与えよとするものであると思われる。
なお、Q70「親体罰当然」にはあまり影響がないのは、親の規制力が弱くとらえられ、親の体罰を外的規制・処罰には考えていないからではないだろうか。
(3) Factor3「生真面目型因子」
この因子は、Factor2 の場合とは対照的に、高校生を一人前の人格として見〔19,18,46,47〕、それを性善視し〔83,82〕、責任の取りかたの一つとしてであろうか、軽い体罰を容認する〔66,64,70,67,81〕。また、Factor2 とくらべ、Q70「親体罰当然」をより強く肯定させるのは、親の規制に対してある程度の信頼をおいているためではないかと考えられる。
また、この因子がQ46「個人記録本人開示当然」、Q47「内申書本人開示当然」をある程度肯定させる傾向があるのも注目される。
(4) Factor4「成績中心因子」
この因子は、Factor 1が規定するような規制〔57,51,56,53,52,63〕や、体罰以外の強制〔58,60〕、ならびにその対象となる行為の拒否〔29,31,83,81,30,82,27,28,79〕には決まった影響はないが、悪い学習態度による成績の低下〔39,38,41,40,42〕や不利益〔43,44〕を受容し、体罰を否定する〔69,68,67,66〕。注目されるのは、Q15「罰は厳格執行」を受容する傾向にあるのに、体罰を否定することである。これは、体罰が適正な罰とは意識されていないからであろう。
つまり、学校は学習するところであり、それに関する態度についての学習上の規制には従うべきだとする因子であると考えられる。それゆえ、Q37「格闘技拒否退学当然」、Q36「格闘技拒否成績低下当然」について受容的にはたらくのは、「格闘技」が学習内容と意識されているためだと思われる。
(5) Factor5「正統権威性因子」
この因子は、Factor4 が強く規定する学習態度への規制を拒否し〔39,38,40,41〕、宗教的心性を肯定する〔77,78,6・7,5〕。 学習態度の規制については、それを合理的なものとして理解したうえで(そのこと自体はFactor4 の場合と同様であると思われる)、それゆえにこそそれを拒否していると考えられる。Q77「日の丸掲揚当然」、Q78「君が代斉唱当然」もその正統権威性ゆえに肯定されているのであろう。
(6) Factor6「道徳性葛藤因子」
この因子は、軽度の非違行為にはとくに決まった影響はないが〔28,30,29,31〕、おそらく本人たちが非行と意識しているであろう逸脱行動については〔83,80,82,81,79〕、高校生ならしてみたくなるとする。しかし、それをしてはならないとする意識の抑制が働いているのであろう〔14,6〕。 Q63「結婚退学勧告当然」、Q62「妊娠退学勧告当然」について否定的なのは、他に学校の規制を否定する傾向がないことから、学校が規制すべきでないとしているのではなく、結婚や妊娠の「非行」性を否定しているためであろう。
(7) Factor7「ハイブロウ志向因子」
この因子は上昇志向を肯定し〔2,1〕、学校より私事を優先し〔33,35〕、行儀の悪い行動を否定する〔40,80,41,39〕傾向がある。ただ、Q35「格闘技拒否当然」の肯定度に比べて、Q36「格闘技拒否成績低下当然」・Q37「格闘技拒否退学当然」の否定度が低い点が次のFactor8 と大きく異なるのは、強制は許せないが、自由にしたことに対して多少の不利益があっても受忍するという要素があるためではないかと考えられる。
(8) Factor8「合理性因子」
この因子は、学校より私事を優先し〔35,33〕、そのことに対する学校の不利益扱いも拒否する〔36,37〕。また、宗教的心性にも否定的である〔6,5・7〕。
(9) Factor9「軽度規範逸脱容認因子」
この因子は、軽度の規範逸脱行為を肯定する傾向にあるが〔26,27,35,33,28,29,32〕、金銭横領(とくに高額)については否定的である〔23,25,22,24〕。Q35「格闘技拒否当然」、Q33「日曜授業参観欠席当然」を肯定するのはそれを私事の観点からではなく、規範逸脱性の観点からとらえているためであろうと考えられる。
(10) Factor10「適正利益要求因子」
この因子は、自己利益情報の本人開示を要求し〔46,47,59〕、金銭横領はすべきではないとする〔24,22,25,23〕(ただし、少額金銭横領より高額の方が負荷量は小さい)。
(11) Factor11「カルビニズム因子」
Factor5 「正統権威性因子」に対して、日の丸・君が代〔78,77〕については否定的にはたらくが、宗教的心性〔6,5・7〕についてはFactor5と同様肯定的で、Factor8 「合理性因子」とは対立し、上昇志向〔2,1〕については Factor7「ハイブロウ志向因子」と同様肯定的という複雑な因子である。
宗教的心性肯定、日の丸・君が代拒否で、世俗の利益を肯定することで、一応カルビニズム型としておく。
(12) Factor12「世間常識型因子」
この因子は、厳しい部活動を否定する点が顕著で〔74,76,75〕、その他、日の丸・君が代〔78,77〕、個人情報本人開示〔46,47〕、3ない運動〔57〕など、一応社会通念のフロンティアなものにはやや肯定的なスタンスをもつ。Q18「刑事成年の低年齢化」に肯定的な点から、大人意識もあるように思える。
(13) Factor13「マイペース型因子」
この因子は、妊娠や結婚したら退学勧告されて当然と考えさせる傾向があり〔62,63〕、また宗教的心性(ただしQ7「先祖に恥じないように」は除く)をやや肯定させる〔6,5〕一方、厳しい部活〔75,76〕・各種校則〔53,52,51,54〕・上昇志向〔1,2〕をやや否定させる傾向にある。
解釈が難しいが、「妊娠したり、結婚したら学校をやめて家庭をもつのが当然」と考えているとして「マイペース型」としておく。
(14) Factor14「ピーターパン因子」
この因子は、刑事成年の高年齢化を肯定する一方〔19,18〕、上昇志向を否定して〔1,2〕「社会のためが幸福」〔4〕とする。また高校生のバイクにやや否定的〔58,57〕な一方、家出に親和的な点から、支配されない子どもでいたいとする因子と考えておく。
(15) Factor15「被保護欲求因子」
この因子は、「刑事成年の低年齢化」の否定にかなり影響し〔18,19〕、部活の厳格さ〔76,74,75〕や、遵法性〔11,12〕にも否定的にはたらく反面、親密な人間関係を求めるのであろうか、礼儀的な校則〔48,49,50〕や軽い体罰〔64,66〕にやや肯定的に働く。
(16) Factor16「法日常生活無関係因子」
この因子は、Q12「公共福祉は権利に優先」を肯定し、遵法性〔11,13〕、Q15「罰は厳格執行」にも肯定的に影響している反面、妊娠・結婚退学勧告〔63,62〕には否定的にはたらき、Q20「軽犯罪不処罰」には肯定的にはたらいているのは、法はなにか重要なことだけ対象にして厳格に執行されているのであって、日常生活の些細なことには関係ないとする意識のゆえではないかと思われる。(百円の横領にはほとんど影響がないのに〔22,24〕、一万円の横領にはやや否定的にはたらく傾向や、Q10「非合法手段もとる」に肯定的なのもそのゆえと考えられる。)
(17) Factor17「法規制重圧感因子」
この因子が、Q11「悪法も遵守」に肯定的で、Q10「非合法手段もとる」やQ3「好きに生きるのが幸福」などに否定的なことは遵法性を示すが、これはFactor16の遵法性がタテマエ的であるのに対して、かなり日常生活で重荷になっているものと思われる。それゆえ、軽度の不利益〔40〕や、規制が強制的でないもの〔63,62〕には肯定傾向があるが、不利益の大きいもの〔43,44,45〕は否定し公正な取り扱いを要求する〔47,46,16〕。
(18) Factor18「小市民的因子」
この因子が、Q3「好きに生きるのが幸福」を肯定し、Q8「縁故採用する」を肯定する一方、Q4「社会のためが幸福」にも肯定的で、Q10「非合法手段もとる」に否定的なのは、社会的非難を受けたくないが受けない範囲では思い通りにもしたいという意識のあらわれと考えられる。宗教的心性には規定されず〔6,7・5〕、 軽い規制はある程度受容する〔60,46,47〕。
(19) Factor19「エゴイズム因子」
この因子は、いわゆる自分のわがままを肯定する〔12,21,8・23〕。 Q37「格闘技拒否退学当然」、Q48「起立礼当然」、Q15「罰は厳格執行」などに対する肯定は、それを人ごとと考え、他人のわがままを許さないものであると考えられる。しかし内弁慶なところがあり、Q10「非合法手段もとる」には否定的で、そこまでは押し切れないと考えているのではないかと思われる。
(20) Factor20「良識志向因子」
この因子は、Q9「社会問題には不関与」を否定し、教務上の懲戒的措置にも否定的〔42,45,43〕で、Q59「処分規定公開当然」やQ4「社会のためが幸福」に対して肯定的であるが、一方、Q34「友人葬式早退当然」を否定し、Q71「体罰容認法改正」に肯定的である(ただし具体的な体罰については必ずしも肯定的ではない〔65-69〕)。
(21) Factor21「潔癖因子」
この因子は、Factor20と同様、Q9「社会問題には不関与」・Q17「尊属殺の処罰加重」・Q76「疲労時練習強制当然」とならび軽度の非違行為の中でもやや重いもの〔31,32〕を否定し、Q16「無辜の不処罰」や、Q11「悪法も遵守」を肯定する傾向にある点で、一種の潔癖性をあらわしていると考えられるが、Q60「酒同席処分当然」に肯定的で、Q18「刑事成年の低年齢化」に否定的なのは少年的な側面をあらわしているのではないかと思われる。
(22) Factor22「集団内部規範重視因子」
この因子は、Q34「友人葬式早退当然」・Q17「尊属殺の処罰加重」・Q42「カンニング0点当然」などに肯定的で、少額金銭横領〔24,22〕・Q8「縁故採用する」に否定的であるが、これらは所属集団の「和」をみださないという意識ではないかと考えられ、Q10「非合法手段もとる」に肯定的なのは所属集団の利益のためには外部的にはそれも許されると考えているように思える。
(23) Factor23「個人尊重因子」
この因子は、Q16「無辜の不処罰」を肯定し、Q20「軽犯罪の不処罰」・Q36「格闘拒否成績低下当然」に肯定的、Q60「酒同席処分当然」・Q4「社会のためが幸福」に否定的であることから、個人尊重意識があるものと思われる。
(24) Factor24「非社会性因子」
この因子は、Q10「非合法手段もとる」を肯定し、少額金銭横領〔24,22〕・Q9「社会問題には不関与」に肯定的で、Q13「法が行動を規制」に否定的であることから非社会性をあらわすものと思われる。
因子分析では、調査者が意識しなかった設問の隠れた意図も抽出されるが、本稿では調査者側の明確な意図のみによる傾向をみることとする。具体的には学校生活に直接関連すると思われるある設問群がどの因子に強く規定されているかをみ、次にその因子が媒介となって他のどんな設問群を規定するかをみることによって、因子そのものは消去して設問群間の表層的相関をみようというわけである。(以下「 」内は設問群の性質、〔 〕は設問要旨を示す。)
(1) 「生き方」
「上昇志向」を最も強く肯定する因子7は、〔日曜授業参観欠席〕・〔格闘技拒否〕をも強く肯定する。
(2) 「宗教的心性」
〔天罰〕・〔神仏〕・〔先祖〕といったものの否定にほぼ固有的にはたらく因子8は、〔日曜授業参観欠席〕・〔格闘技拒否〕を強く肯定する点で因子7と同傾向であるほか、「個人教育情報開示」などに肯定的である。
(3) 「法意識」
「刑事成年の引き上げ」を最も強く肯定する因子15は、〔悪法も遵守〕・〔公共福祉は権利に優先〕、部活動の〔疲労時練習強制〕にかなり否定的である。
反対に「刑事成年の引き上げ」の否定に固有的にはたらく因子3は、〔性関係〕・〔家出〕以外の「逸脱行動」にかなり否定的で、「体罰」(とくに相対的に軽いもの)、「個人教育情報開示」にはかなり肯定的である。
(4) 「軽度の非違行為」
「金銭横領」・〔歩行者信号無視〕・〔自転車二人乗り〕・〔パチンコ〕・〔たばこ〕・〔酒〕・〔キセル乗車〕・〔無断自転車借用〕などの「軽度の非違行為」を平均して最も強く肯定する因子2は、同時に〔万引き〕・〔家出〕・〔バイク窃盗〕・〔暴走族〕・〔シンナー〕・〔性関係〕といった「逸脱行動」をも平均して最も強く肯定し、「体罰」、「厳しい部活動」にかなり肯定的で、「遵法性」、「日の丸・君が代」、「上昇志向」にも肯定的である。否定には因子1(後出)が強くはたらく。
(5) 「授業態度による成績評価」
〔欠席〕・〔遅刻〕・〔私語〕・〔居眠り〕による減点の否定に固有的にはたらく因子5は、「宗教的心性」、「日の丸・君が代」を強く肯定し、「上昇志向」にも肯定的である。
(6) 「個人教育情報開示」
「個人教育情報開示」の否定にほとんど固有的にはたらく因子1は、「軽度の非違行為」をほぼ固有的に否定している。また、「逸脱行動」にもかなり否定的であるが、「体罰」、「厳しい部活動」、「日の丸・君が代」にはかなり肯定的であり、その他、「生活指導・校則」・「処分・勧告」肯定についてはほとんど固有的に学校のいうがままである。また、「授業態度による成績評価」・「厳しい教務措置」にも強く肯定的であり、「宗教的心性」にも肯定的である。また「個人教育情報開示」を最も強く肯定する因子10は「金銭横領」にかなり否定的である。
(7) 「生活指導・校則」
因子1(前出)がほぼ全般に強く肯定する。〔靴下白〕・〔制服〕・〔髪型〕・〔校門帰宅〕など、「校則」に否定的な因子13は、「厳しい部活動」、「上昇志向」にも否定的であるが、〔妊娠退学勧告〕・〔結婚退学勧告〕にかなり肯定的で、「宗教的心性」にも肯定的である。
(8) 「処分・勧告」
これも因子1(前出)がほぼ全般に強く肯定する。〔妊娠退学勧告〕・〔結婚退学勧告〕にかなり否定的な因子6は、「逸脱行動」にかなり肯定的であるほか、「宗教的心性」に肯定的で「上昇志向」に否定的である。
(9) 「体罰」
全般に最も強く肯定するのが因子2(前出)である。因子4は否定の方向にほぼ固有的にはたらいており、「授業態度による成績評価」・「厳しい教務措置」・〔格闘技拒否による成績低下・退学勧告〕を強く肯定し、「個人教育情報開示」、「金銭横領」、「上昇志向」に肯定的である。
(10) 「日の丸・君が代」
因子5(前出)が最も強く肯定する。否定の方向に固有的にはたらいている因子11は、なぜか「宗教的心性」、「上昇志向」には肯定的である。
おわりに
24抽出された因子の中で教育価値のある因子は何なのか。この調査で最も傾向のはっきりした因子が F01「規制志向因子」であったことが、学校文化の特質を示しているのではないのか。また、ある特定の質問に対して意外に性質の違ういくつかの意識(因子)が根拠になって、同一の結論が導きだされていることの評価をどうするのかといった疑問が残る。
ともあれ、これが我が国の生徒文化の一断面であることは受けとめられねばならないだろう。
1993/8/12、改訂版
< 注 >
[1]なお本調査自身は昭和61年度文部省科学研究費補助金(奨励研究B)「高校生徒の規範意識調査に基づく教育指導法の研究」(課題番号61907041)によるものである。
[2]890名を抽出した単純集計結果とその分析については、田中規久雄「高校生の規範意識(その1)(その2)」月刊生徒指導1987/10,11(学事出版)、参照。
[3]因子分析については、四方実一・一谷彊『教育統計法入門』1980(日本文化科学社)227頁〜、参照。
[4]規模は小さいが同様の方法を用いた先行研究として、安藤邦男「コンピューターを導入しての生徒指導」月刊高校教育1981/5、46頁から。ただし結論的には共通なものはなかった。
[5]以上、日本文化会議『日本人の法意識』1973(至誠堂)、飽戸・石村・林『現代日本人の法意識』1982(第一法規)、参照。
[6]菊川ほか「校則についての調査」熊本県立教育センター研究集録34号、1983、西村啓「青少年の二輪車運転に関する心理学的研究(1)(2)」広島大学学校教育学部紀要、1984/12,1985/12、参照。
[7]今橋盛勝『「体罰その他の人権問題の実態と意識」の研究』1986、茨城大学行政法・教育法研究室、参照。
[8]大阪大学大型計算機センター『SPSS-X利用の手引き』(ファイル化文書)1989、98頁〜、参照
[9]本稿では因子負荷量・固有値とも、小数第3位四捨五入で表記する。
[10]前掲、四方・一谷、228頁。
別表1 調査対象者の属性
<県名> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 北海道 01 514 29.9 29.9 29.9 新潟 02 41 2.4 2.4 32.3 茨城 03 32 1.9 1.9 34.1 東京 04 104 6.0 6.0 40.2 神奈川 05 40 2.3 2.3 42.5 静岡 06 180 10.5 10.5 53.0 京都 07 40 2.3 2.3 55.3 大阪 08 593 34.5 34.5 89.8 香川 09 44 2.6 2.6 92.3 島根 10 83 4.8 4.8 97.2 福岡 11 49 2.8 2.8 100.0 ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <実施月> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 2 709 41.2 41.2 41.2 3 313 18.2 18.2 59.5 4 667 38.8 38.8 98.3 5 30 1.7 1.7 100.0 9 1 0.1 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <国立・公立・私立> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 国立 1 4* 0.2 0.2 0.2 公立 2 1715 99.7 99.8 100.0 9 1 0.1 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 * 誤記である。 <全日制・定時制> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 全日制 1 1565 91.0 91.1 91.1 定時制 2 153 8.9 8.9 100.0 9 2 0.1 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <普通・工業・商業・農業・家政> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 普通 1 1330 77.3 77.4 77.4 工業 2 213 12.4 12.4 89.8 商業 3 40 2.3 2.3 92.1 農業 4 79 4.6 4.6 96.7 家政 5 41 2.4 2.4 99.1 その他 6 15 0.9 0.9 100.0 9 2 0.1 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <共学・別学> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 共学 1 1718 99.9 100.0 100.0 9 2 0.1 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <学年> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 1 812 47.2 47.6 47.6 2 538 31.3 31.5 79.1 3 357 20.8 20.9 100.0 9 13 0.8 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <性別> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 男 1 945 54.9 55.4 55.4 女 2 760 44.2 44.6 100.0 9 15 0.9 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <部活動> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 体育系 1 578 33.6 41.4 41.4 文化系 2 226 13.1 16.2 57.6 未加入 3 587 34.1 42.0 99.6 文体両方 4 6 0.3 0.4 100.0 9 323 18.8 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <単車免許の有無> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 免許あり 1 117 6.8 9.5 9.5 免許なし 2 1115 64.8 90.5 100.0 9 488 28.4 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <宗教> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent あり 1 208 12.1 16.2 16.2 なし 2 1076 62.6 83.8 100.0 9 436 25.3 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <学外サークル活動> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 加入 1 130 7.6 9.6 9.6 未加入 2 1219 70.9 90.4 100.0 9 371 21.6 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0 <学外ボランティア活動> Valid Cum Value Label Value Frequency Percent Percent Percent 加入 1 23 1.3 1.7 1.7 未加入 2 1329 77.3 98.3 100.0 9 368 21.4 MISSING ------- ------- ------- TOTAL 1720 100.0 100.0
別表2 質問内容 (強く肯定は5、強く否定は1として5段階で回答する。)
(1〜4) 人の暮らしかたについて、
1 経済的に豊か(金持ち)になるのが、最も幸福である。( 9〜10)社会に不満がある時、
9 社会の問題にはかかわらないようにすると思う。
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