大阪教育法研究会 | | Top page | Back | |
◆199312KHK137A1L0114A TITLE: 選択科目の設置と単位制高校について AUTHOR: 林 敏一 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第137号(1993年12月) WORDS: 全40字×114行
林 敏 一
はじめに
一昨年、大阪府において大阪市立中央高校と大阪府立桃谷高校という2校の単位制高校が誕生した。来年4月に兵庫県でも尼崎稲園と姫路北高校に単位制の課程が設置される。学校現場では、学年制をはずすことにより生徒指導上の問題が起こりやすいとか教育内容が不十分になるのではないかといって反対の声が多い。一方、父母の間では、自由な学校中退後の再入学が可能、登校拒否ぎみでも通学できるのではと歓迎され、希望する生徒が増加する傾向にあり、桃谷高校ではそれまでの通信制では定員に満たなかったのが単位制になった年に定員を越え不合格者を出さねばならなくなったという。では、単位制とはどのような制度なのかというと、教員も生徒もあまりよく知られていない。大枠としては指導要領や学校教育法によって定められているが、実際の運用は各学校に任され学校によって適用方法が異なっているようである。
例会では、単位制と類似性の高い勤務校の通信制課程の学習方法と選択科目の設置方法を説明しながら単位制の考え方を探り、後半で各単位制高校の状況を紹介し問題点を深めた。
通信制課程は1948年に通信教育による高等学校の単位認定が、1955年に通信教育のみによって高等学校卒業資格が得られるようになり、1961年に通信制課程が制度化され独立校も設立され、1992年末現在90校16万人の生徒が学んでいる。通信教育の目的は、働きながら学ぶ勤労学生に高等学校教育を受ける機会を与えるために時間的にも経済制約を克服するための特例が数多くある。
1)自学自習を基本とし、教科書・学習書等によって自宅におけるレポート作成によって学習を進める。
2)学習指導はレポート添削と、月2回のスクーリングの中で指導を行う。
3)学習の理解度は年数回のテストによってチェックする。
4)公立の通信制高校にあっては教科書・学習書が支給され、授業料も年間約1万円程度と格安である。
5)各生徒の学習進度が一様ではないため、単位修得の要件(規定回数のレポート・テスト・スクーリング時間数)を満たせばその単位を科目ごとに認定する。
6)卒業するには必修科目を含む80単位を修得し、特別活動のスクーリングを通算40時間以上受けることによって得られ、単位には前籍校の単位や大学資格検の合格科目を卒業単位に組み込むこともできる。
各学校によって異なるのは、スクーリングの持ち方でNHK学園などではその2/3をNHK高校講座によるテレビ・ラジオの視聴で免除し、残りを集中スクーリングで実施したり、本校では2週間に1回、日・月曜日に実施しているが、平日や平日の夜間に実施している場合もある。
単位の要件であるレポート等の回数は指導要領によって示され、国語・数学等の自習が可能なものについては、1単位につき3枚のレポートと1時間のスクーリング。理科・英語・商業などのように実習をともなうものは、3枚のレポートと4時間のスクーリング。体育については、1枚のレポートと5時間のスクーリングとなっている。1枚のレポートもB4サイズ1枚のプリントであり、教科書・学習書を参考に書き込んでいくという内容で、内容の精選が必要となる。そのため教員の側として、その指導内容で高校生の学習として満足のゆけるものかどうかという苦悩があり、一方で生徒の側からすれば、添削や学習の手引き等の補助指導しか受けられず、理解が不十分なまま次に進まねばならないことや、生徒によっては、他人のレポートを丸写しの者もいる。添削指導や数少ないスクーリングの中で学習のイメージをつかめせるかがポイントとなっている。生徒によって内容理解の差はあるもののテスト等の実施によって確認され、単位のとれた生徒は標準以上と認められる。しかし、自学自習の困難さから数枚のレポートや1回目のテスト不合格で学習をあきらめてしまう生徒も多く、指導の難しさを感じている。
通信制において学習の主体が自宅での自学自習なので、スクーリングの時間割さえうまくやりくりすれば、比較的自由に選択科目を履修できる。本校においても国語I、数学I、現代社会などの必修科目を履修した後、2年次からAからFの6群の選択群から理科Iの後で選択理科を選択するなど科目の選択順序はあるものの31科目を自由に選択させている。その中でも、英語・理科などの実習系の科目と社会・数学などの自習系の科目の同群での同時選択も存在する。また、学年別にスクーリング時間を組んでいるが、3年卒業を希望する者は1年目から1年次の科目に加え、一部2年次の科目を履修するし、一方でその学年で履修できなかった科目は次の年に再度履修(本校では更新学習と呼んでいる)をし、履修できた科目は、次の科目を履修するようにしている。結果的にスクーリングはクラスごとではなく、履修している生徒がそれぞれに開講されている教室に移動して面接を受けるている。教師側も、その教室にいかないと何人の生徒が出席し、学習内容も各生徒の進度が異なるので質問に答えながら進めるという形態をとっている。
選択科目の履修者数は、スクーリング時間数の少ない国語や社会が比較的多く、専門性の高い数学や物理、化学、工業簿記が少なくなっている。また、多くの選択科目を設置しているようだが、家庭科は女子だけしか履修できないし、普通科でありながら、簿記や商業法規、商業経済などの商業科目を設置しているが、受験を希望する者は普通科目ばかりを選ぶと、卒業する生徒ではほとんど履修科目が変わらないものとなっている。
通信制という、開設科目が履修者数によらず開講できるという利点の中で自由な選択科目の設置が可能となっているわけだが、実施する上で教員の少なさ(専任14名)から一人で4科目以上指導しなければならないなどのしわ寄せは多い。
単位制高校は、臨時教育審議会の答申を受けて制度化され、
1)学年制がなく、留年がない。各科目ごとに単位認定がされる。
2)毎日登校しなくてもよい。複数の時間帯に設定された時間割のうち、履修している科目だけに出席すればよい。
3)多様な科目を開設し、選択の幅を広げる。
4)過去に在籍した高校の修得単位を累積加算する。
5)定時制、通信制の併修を認める。大検、技能連携を可能とする。
6)学期ごとの単位認定や卒業を可能とする。
7)卒業の要件は、通算3年以上在籍し、必修科目を含む80単位の修得し、特別活動を履修する。
が、その要点である。これをもとに、@通信制を基本とする単位制高校(桃谷など通信制高校からの改組)、A通信制と定時制を併用した学校(新宿山吹、大宮中央など)、B定時制高校(大阪市立中央など)が開設され、更に来年度からC全日制の課程が兵庫県で開設される。本校の通信制の学習形態と@Aのカリキュラム等を比べてみてもほとんど変わりはない。上記の単位制の特徴が通信制の制度のなかに包含されてしまうことは、桃谷高校の教員の「名称は単位制になったが内容は変わらない」の証言に象徴されるだろう。ただそれだけに、各生徒の意志が強く継続的に学習できる指導を行わなければ、大量の卒業できない生徒を抱えることになるだろう。また、BCなどの定時制・全日制だけの課程を学校を開設する上での問題点は多様な科目を複数講座実施するための教員の手当を行う必要とする。更に再履修者をどうするのかという問題を抱えている。また、開講科目についても学校の規模によって、大都市圏の学校では選択科目を多いが、地方の小規模校ではほとんど必修科目で選択の余地が少なくなっているなど各学校によって異なっている。
単位制高校についての制度の検討をと思い、発表を企画したが、内容として通信制高校の紹介に終わってしまった。ただ、単位制も通信制も生徒が自分の履修する科目を選択できること。修得した科目は累積加算されていくとういう学校の本来あるべき姿ではないのだろうかと感じてしる。単位制高校では生活指導が大変だ。選択科目が生徒の希望にしておれば偏ってしまうのでは、更に学習内容の低下がといった教師の心配が提起されるが、例会で指摘されたように、学校が生徒を丸抱えして生活指導までしなければならないのだろうか、また選択科目も選べるように興味関心を深めるような指導が教師の側に求められるのでは痛感した。
トップページ | 研究会のプロフィール | 全文検索 | 戻る | このページの先頭 |