大阪教育法研究会 | | Top page | Back | |
◆199409KHK146A1L0202A TITLE: 「学教審中間まとめ」を読む − 大阪の高校教育改革の行方 − AUTHOR: 伊藤 靖幸 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第146号(1994年9月) WORDS: 全40字×202行
伊 藤 靖 幸
はじめにあるいは前回の復習
前回(92年7月例会)、大阪の高校教育改革の動向について、特に定時制の定通併修3年制導入問題等を中心に報告させてもらった。今回はその続編として、さる6月に発表された大阪府学校教育審議会の「中間まとめ」を検討し、やはり定時制問題を中心に大阪の高校教育改革の行方について考えてみたい。まず、若干前回の復習になるが、高校教育改革をめぐる全国状況と大阪府の状況についてふりかえってみよう。
高校教育改革・新タイプの高校という発想のルーツを探ってみれば、やはり1971年の中教審答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」にたどりつく。四六答申として知られるこの答申は、いわゆる「多様化路線」を打ち出したものとしてつとに有名であるが(結局のところ臨教審を含め近年の教育改革路線のルーツは概ねこの四六答申にあるといえるだろう)、中高一貫、多様なコース制、グループ別指導、勤労者の修学年限の弾力化、学年を固定しない弾力的指導等、最近問題とされている内容はほぼこの答申に含まれている。その後、例の臨教審第1次答申で(85年6月)6年制中等学校・単位制高校が提起され、同第2次答申(86年4月)では修業年限の弾力化(定通3年制)、や単位制の利点の活用、また学校間の接続連携・技能連携の拡大といった点が指摘された。こういった方針をうけ、87年の末には教育改革推進大綱・高校定時制通信制教育検討会議報告・教育課程審議会答申で、課程間併修等を行なって定通制を3年以上化し、無学年制(単位制)を導入する方向が固められていった。
法制的には、88年3月学教法施行規則が改定され(64条の2)定通制に無学年制が正式に導入され、同年11月学教法45条の2が改訂され定通制の技能連携を拡大し、46条の修業年限も改訂され定通制が従来の4年から3年でも卒業可能となった。89年の3月に告示された新指導要領では、定通制につき実務代替(教科に関係する仕事についている場合単位として認める)・大検単位の認定の特例が認められ3年制の導入に便宜を図っていると考えられる。この結果後述のように88年度から定通制に単位制高校ができ、3年制も導入が進んできている。しかし、ことは定通制のみの問題ではなく、91年の中教審答申「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」では、改めて新タイプの高校の推進、単位制の活用の方針が示され、それをうけて、92年の6月から93年の2月にかけて「高校教育の改革の推進に関する会議」が4次に渡る報告を発表した。そこには高校入試改革・総合学科の設置・全日制の単位制高校・専修学校、技能審査の単位認定等の内容が含まれ、定通制で特例あるいは実験的に導入された方針が全日制に拡大していく方向も指摘できる。93年の3月には学教法施行規則及び高等学校設置基準が一部改定され、全日制の単位制高校(93年4月施行)、総合学科・学校間連携(94年4月施行)がそれぞれ制度化された。 この夏の全国高法研島根大会の議論をふりかえっても、全国的に高校教育改革・入試改革が進んでいることが指摘できるだろう。
(1) 概括
大阪府においては新タイプの高校等の高校教育改革は他地域に比して、取り組みが遅かったといえるだろう。1987年、時の浅野教育長は「入学者選抜を考える」(高校教育研究10号)という論文を発表し、その中で文部省の示した受験機会の複数化の方針に明確に反対している。89年ごろまでは、大阪府教委は入試改革や新タイプの高校等には余り熱心ではなかった。とりあえず、「学習メニュー」の開発を提起し、習熟度別学級編成に利用されたりしていたが、これはあまり大きな改革ではなく、新タイプの高校等については「他地域のお手並み拝見」といった様子であった。しかしその後、他地域に遅れをとったと考えはじめ、急速に高校改革策を提起するようになる。一方、大阪市は早くから体育科を設置し、定時制を統廃合して単位制の第29高校(中央高校)を設置する事を計画していた。また、英語科・理数科等の新学科もいちはやく設置している。90年にいたって府教委は千里・住吉・佐野高校(学区の2番目クラスの進学校である)に国際教養科を設置することを発表、また入学者選抜制度も一部変更して新設の国際教養科に2回入試制を導入、男女比率も弾力化した。一方的な発表に組合等のの反対もあったが、結局91年度から発表どおり実施された。府教委は91年秋には「リフレッシュプラン」という高校改革案を発表するとしていたが、事前には単位制高校については「大阪市がおやりになるので府としては考えていない」とのニュアンスのコメントをしていた。しかし91年9月に発表されたリフレッシュプランは@入試改革の進展、男女比の弾力化拡大、二回入試を全専門科に拡大、入試日の全定分離、A特色ある学科・コースとして国際教養科を全学区に1校置く、体育科の新設、情報・体育・アジア文化言語コースの設置等の他に、B大幅な定通制改革が含まれていた。
その後、1993年5月末日に府教委は、国レベルの上記の高校教育改革推進会議報告などをうけて、大阪府学校教育審議会に「新しい時代に対応する府立学校教育の改革並びに入学者選抜の在り方について」諮問した。その「中間まとめ」が今年6月6日に発表されたわけである。
(2) 大阪府の定通制改革
@通信制桃谷高校の単位制高校化。府下で唯一の公立通信制桃谷高校ではすでに他の定時制にさきがけて特例として3年卒業制が導入されており、昼間コースも試行的に実施されていた。そしてここで92年から昼間部を正式に発足させ、通信制主体の単位制高校になることとなった。A単学級4校を募集停止・・廃校とすることを決定。B工業科等を除く普通科19校の定時制高校に桃谷高校と定通併修を行なうことにより3年卒業制とする。等の方針が示された。ABについては一方的で性急な決定に反対の声がつよく、とりわけAについては、当該校はもちろん分裂した日教組系組合・全教系組合とも強力な反対運動を展開し当面撤回させることに成功した。しかしBの3年制導入については現場の意見は必ずしもまとまらず、府の提示した定通併修案は結局、教育内容の切り下げであるという反対論も強かったが、年々志願者が減少してきている定時制にあっては、いよいよ中卒生激減期をむかえサバイバルの為には止むを得ないとする意見も強く、結果的には19校のうち導入が10校、見送りが9校とほぼ2分されることとなった。
92年度の入学状況をみれば、3年制校に志願者が集中したとまではいえないが、全体としてみれば定時制志願者の減少の中で、3年制校のほうが減り方は少なかったことは事実である。単位制の中央高校の昼間部は高倍率になり、桃谷高校も志願者が増加し、約180 名の志願者を落とすこととなった。93年の2月に定通併修3年制に反対する府高教系の教員らが中心となって、弁護士会に定通併修3年制を人権侵害であるとして申し立てが行なわれた。この申し立てに府教委は苦慮したようであり、3年制校に定時制のみの4年コースを置くよう通知を出すなど、導入当初の説明とは若干方針が異なってきたようである。 93年度からは新たに府立の工業高校3校と、岸和田産業高校が3年制となった。応募状況は、長引く不況の影響で公立高校の人気回復の傾向がみられ、定時制への志願率も普通科を中心にあまり減少していない。芸能文化コースを新設した桃谷高校ではひきつづき志願者が増加している。93年秋、「参加、提言」路線をとる日教組傘下の大阪高教組では定通制問題で新方針が提起された。その内容は「やみくもな統廃合に反対する」としながら「工業高校に普通科を併置する『総合制』への再編を求める」という文部省の高校教育改革路線に沿ったともみられるものであったので、大きな議論を呼んだ。またこれと前後して府議会で社会党議員が「定時制問題について」質問を行い、高教組方針と同じ「普通科と職業科をあわせ持つ総合制の定時制高校」構想を述べている。
94年度の応募状況も93年度同様、公立人気が続き定時制への志願も全体としては減少していない。
(1) 「中間まとめ」の位置付け
こうした状況の中で、6月6日「中間まとめ」が発表された。まず「中間まとめ」とはどういう位置付けかを考えよう。94年度末に本答申を行なう予定で、その「中間まとめ」ということであり「中間答申」でもなく、両論並記的なところもあり、これまでの議論のまとめといった性質をにおわせている。しかし、それならなぜ、あと1年もしないで本答申をするのに、急いで「中間まとめ」を発表したのか?「中間まとめ」の「はじめに」の項にいささか気になる次のような一節がある。「本中間まとめの趣旨を踏まえ、教育委員会においては、課題解決が急がれる事項について、検討に着手されることが望まれる」とある。そして本文を見ていくと、単位制高校・総合学科・入試改革等いろいろな問題があげられてはいるが、それらはすべて「検討の必要がある」程度のまとめであり、唯一定時制問題だけが「先に述べた定時制の課程の現状からすれば改革が急がれる」とまとめられている。とすれば、この「中間まとめ」のポイントは定通制改革であるとしか考えられないのではないか。実際、「中間まとめ」についての新聞報道でも、産経は単位制高校・総合学科・定時制と全般的な報道をしていたが、朝日は「定時制高校統廃合事実上ゴーサイン」と見出しをかかげて、定時制問題ばかりをあつかっていた。全体的なバランスからいうと、朝日の報道が「偏向」しているようにみえるが、実のところは、よく府教委側のねらいを見抜いていたといえるかもしれない。つまるところ、管見では「中間まとめ」のねらいは、まずもって定時制統廃合の地ならしを行い、総合学科・単位制高校・入試改革については世論の方向を探るというようなものではなかったかと考える。
(2) 「中間まとめ」の概要
まず、「中間まとめ」の内容を概観してみよう。T高校教育改革への動向。ここでは本稿の1で述べたような中央レベルの高校教育改革の動向が語られている。ただ国の動向を祖述しているだけで、なぜ改革が必要なのかを説得的に述べているとは言えない。U府立高等学校教育の改革。まず全日制と定時制のそれぞれの現状を述べ、その後「府立高校の課題と今後の在り方」として、単位制高校・総合学科・定時制の課程の3つの項目を扱っている。定時制問題については節を改めて述べることにして、その他の項目について見ておこう。定時制関係者の勝手な思い込みかもしれないが、この「中間まとめ」は定時制問題をのぞいてはあまり力の入った分析を行なっているようには思えない。全日制の現状では、中退問題、生徒の多様化が指摘され、40人学級や「学校特色づくり」をしたとある程度である。単位制高等学校については、いちおう批判的な意見にも触れてはいるが、概ね好意的に評価しており、「大阪の地域的条件を考慮し、総合学科の趣旨を踏まえ」「在り方を検討する必要がある」とまとめられている。総合学科についても、府でも「大阪にふさわしい総合学科の在り方を検討する必要がある」と導入の方向が示されている。V高等学校入学者選抜の改善。ここでも特に新しい方針は示されていないといえる。国の入試改編の方針や府の専門一次などこれまでの改革について触れ、専門一次については一次の倍率が高く、一般入試で敬遠されて定員割れをおこす問題などが指摘されている。入試改革の本論はしかし、他都府県のように普通科でも推薦入試等の形で複数受験制を導入するか否かであるが、この問題については「今後検討する予定である」ということである。
(3) 定時制問題
定時制問題についての記述は、上述のように最も踏み込んだものになっている。まず現状の項で、昭和30年代の後半から志願者は漸減しており、平成3年度以降は志願者の募集人員に対する割合は50%内外となり、しかも学校数は昭和40年代と同じ35校である。その結果、小規模化が進み1〜2学級募集の学校が大多数になっているとしている。また、定時制は勤労青少年のために設置されたのだが、勤労青少年は大幅に減少し、入学当初に定職についている生徒は25%であり、一方で、単位制高校(中央、桃谷)は高倍率で府民のニーズは高いとしている。定通併修3年制校では、志願率も進級率も上昇してきているとする。こうした現状認識に立って、課題と今後の在り方の項では、定時制は「多様な教育課程の編成や集団で行なうことが望ましい授業・特別活動において支障をきたしている」と断定し、昭和59年にすでに「適正規模・適正配置」を答申したのだが、現状からすると「改革が急がれる」とするのである。この「改革」にあたっては59年答申の適正規模・配置の理念をもとに(59年答申によれば1学年3〜4学級が適正規模である、そして現状ではこの条件を満たす普通科はわずか2校である!)、職業能力の開発・伸張、単位制の「総合的な学校」とすること、学校間連携、単位の互換、聴講制度等も検討すべきであるとする。
このような「中間まとめ」の定時制論には、すなおにうなずけない点が多い。昭和30年代から見れば、定時制の志願者が減少しているのは当然のことだろう。志願者の割合が最近低化しているというが、上述したようにここ2年は不況の影響で志願率は減少していないのだが、そういう事実は無視されている。以前に比べ、無職の生徒が増加しているのは事実かもしれないが、入学当初の在職率が25%を強調するのはまやかしに近い。この在職率は、アルバイト・パート等を含んでいない上に、当初から定時制を志願したのではない生徒が過半数を占める現在の定時制では、入学当初には定職についていないのは理の当然である。しかし、そうした生徒たちもやがて、アルバイトであれ職に就くのが通例で、しっかりしたデータをもとに言うのではないが、定時制生徒のアルバイト等を含めた在職率は、やはり70〜80%はあるというのが定時制教員の実感である。何故か、定時制の現状のところに単位制高校の話が登場し、定時制は閑古鳥が鳴いているが単位制高校はニーズが高い、「だから定時制をつぶして単位制高校をつくれ」といわんばかりなのも気になる。私は確かに単位制高校にはニーズがあり、また単位制高校をつくることは必要だと考えるが、単位制はあまりに管理主義的な大部分の全日制高校のオールターナティブとして有用であると思うので、定時制のそれではないだろう。実際、中央高校の単位制課程に来ている層は、定時制に来ている層とは異なるように思える。現に中央高校は、定時制の単位制課程であるが入試を全日制にあわせて設定しているではないか。
さて、「総合的な高校」をめざすとか「聴講制度」の導入等の定時制改革の方向は、上述した社会党議員の府議会での質問の内容とよく似たところがある。そのせいもあってか大阪高教組は、この「中間まとめ」を「多くの面で高教組の方針が反映されている」として、評価できる点も多いといったコメントを発表している。一方、府高教は全面的に批判しており、また議論のまとめかたもおかしいとしている。私自身も学教審の定時制問題の議論を一度傍聴したが、あの議論がこういう風にまとめられているのは納得できない。一部の委員の意見が不当に優遇されている感じが否めない。
結局のところ、「中間まとめ」は「統廃合に事実上ゴーサイン」を出した定時制改革をのぞいては、踏み込んだ提言を行なっていない。定時制問題については、従来府はH7(1995)年大改革を標榜していたが、大統廃合はH8(1996)年以降になるという観測がささやかれている。統廃合するにあたっては、闇討ちにはせず1年以上前に通告するということになっていたが、まだ通告があったという話は聞かない。また95年は知事選の年であり、反対運動も予想される定時制統廃合は行い難いのではないかなどが根拠である。しかし、「改革が急がれる」とされた定時制の現場では、遅かれ早かれ大きな変動があるのは必至であろう。とりあえず、定時制の将来について冷静な議論が行なわれることを期待したい。
最後に、総合学科の評価について若干述べておきたい。この点について、全国高法研島根大会の小川利夫先生の講演で、先生が熊沢誠論文「戦後民主主義教育の検証」(「働き者たち泣き笑顔」有斐閣1993所載)を引用していたのが印象的だった。熊沢はこう述べている。「革新側の教育論は、将来は地味なノンエリートの仕事に就く若者たちに、その仕事でも胸をはってやっていけるという展望を与えなければならない」「革新側の教育論が長い間避けてきた『複線コース』の大胆な肯定と広い意味での職業教育の内容の豊富化」。
こうした視点からすると、総合学科の構想は「革新側の教育論」の盲点をついていると見られなくもない。おりから、9月5日の学教審では「大阪府における総合学科について」かなりつっこんだ説明が行なわれた。大阪の特色を出した総合学科の構想が考えられているようである。批判するにせよ、評価するにせよ総合学科の構想についても十分議論しておく必要があるだろう。
トップページ | 研究会のプロフィール | 全文検索 | 戻る | このページの先頭 |