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TITLE:  私学の労働条件をめぐる諸問題
AUTHOR: 笠原 啓二
SOURCE: 大阪高法研ニュース 第161号(1996年1月)
WORDS:  全40字×97行

 

私学の労働条件をめぐる諸問題

 

笠 原 啓 二 

 

  すでに私立高校の高校間の生存競争は終ったが、生徒急減期を迎えたいま、様々な問題が再び表面化してきている。ここにきて生徒減少による収入減を乗り切るために大幅な人員整理が行われようとしているのである。これまでも私学は生徒獲得競争の中で過重な労働時間の強要やヤミの時間外補習を始めとする様々な時間外労働の強化が行われてきた。そして今回は露骨な解雇攻撃や、組合つぶしのための不当解雇などが起こっているのである。ここでは個々の事象に沿っていくつかの話を進めていきたいと思う。

 

1.専任教員の高齢化と不均衡な年齢構成

  私学は50代、40代が極端に多い変則的な年齢構成になっている。私の勤務校でも専任教員58名中20代7人、30代9人、40代23人、50代17人、60代2人という構成である。本校の定年は63歳であり、数年先には毎年2〜3名の者が退職していく状況になる。退職金に関しては毎年引当金をプールしてあるが、生徒急減の状況ではこれもいつかは行き詰まる状況もでてきかねない。さらに、高年齢層の増加にともない学校行事にしてもなかなか身軽に動くということもできずすべて縮小される方向にある。クラブ活動に関しても実技を見られる教員の減少が著しくなってきている。

  高齢化した教員の病気による入院や通院も激増しており、福利厚生に関しても検討がいる状況になっている。それにともない、私学共済の問題、年金等を含めたさまざまなものが現在の基準では実施されない状況が待ち受けている。しかし、これらの問題はなかなか議論されることなく危機に直面するまで見てみないふりの状況が続きそうである。

  一方、年齢構成の不均衡は私学だけの問題ではなく、公立高校でも同様な問題を抱えているそうである。しかしながら公立高校では加配人事などでできるだけ吸収しているが私学ではそれもできず教員の生活に直接響いてくるのである。

 

2.人員整理

  バブルのはじけた会社同様、中小の私学は生徒減少の影響を直接的に受ける。例えば6クラス募集のところで生徒が集まらず2クラス減少したとすると、3年後には6クラス減少し、まるまる1学年分の生徒が消えてしまうことになる。そこで単純にいえば三分の一の教員がいらなくなることになる。人員整理は非常勤からという考えが漠然とあるが、生徒減少をむかえた中で非常勤講師を減らしても直接の人件費の減少はごくわずかに過ぎず、高齢高給の専任教員の整理に着手しなければならないのである。しかし人員整理の問題はたいへん難しい問題なので、理事会も言い出すタイミングが難しくなかなか口に出さない。そこである日突然整理される者の氏名が発表されることになろう。また、直接解雇とまでは言い出せないので理事会側はまずは希望退職者を募るかたちをとりたいらしい。この件に関しては組合側にも十分にありうることを示唆している。

  この希望退職者を募るというのも様々な問題があって、希望退職とはいいながら教員間の間でそれぞれの思惑により暗黙の序列がつき、教員間で居づらい状況が起こるであろうことは容易に想像できる。このような状況の中で、教員が結束して危機を乗り切ることは困難であろう。

  また、この分会の組合員は教員の構成員以上に高齢であり、平均年齢も50歳になろうとしている。そして最近ではさまざまな思惑から今まで組合に関係なかった人達、それも50歳代の新入会が目立ってきている。このような状況の中で、組合執行部の中でも今後どのよう闘争を組んでいくかに関しては話ができていないのが現状である。加配などの余裕のない職場では一気に人員整理の問題が表面化してくるであろう。

 

3.大私教が抱える解雇問題

  現在大私教が争議団を組織して解雇された教員の支援闘争を組んでいるものが4件ほどある。まずそれらの中から特徴的なものを2件ほど選び、問題点を検討していきたいと思う。

(1) S学園の場合

  発端はA教諭が理事会批判のビラを配ったことをとがめ「職務怠慢、統制違反」などを理由に理事会は彼を解雇した。A教諭は地位保全の仮申請をし「解雇権の濫用、解雇は無効」との裁定をえた。しかし理事会はしたがわず裁判闘争になっている。

  この事件もA教諭個人への攻撃と共に組合攻撃の要素もあり理事会側は裁判所の和解勧告にも従わず裁判になっている。

  事件経過を詳しく見ても本件は解雇にあたいしないような事件であり解雇権の濫用は明らかなのではあるが私学の場合にはすぐに解雇までいってしまう場合が多い。公立の教員の場合はかなりの事例でもほとんど解雇になるようなケースは見られないのと対照的である。

  また、裁判闘争を行うにしても膨大な労力と時間がいり、裁判闘争が終結するころには定年を迎えているというようなことが起こりかねないのである。

(2) D高校の場合

  この事件は体育の授業の時、自分が顧問である水泳部の部員に全裸で泳がせたものが発端である。学校側は当初はさして重大事件であるとの認識がなかったが、マスコミなどの取材攻勢を受ける中で、慌ててB教諭を懲戒解雇したようである。ここでも、地位保全の仮申請を行い、B教諭の行為自体にも大きな問題があるがこの件で懲戒解雇というのは解雇権の濫用であるとの裁定が出た。しかし理事会は裁判所の決定に従わず裁判闘争となっている。

 

  このように解雇権が濫用される状況が多発し分会の中でも複数の人が解雇問題に絡んでくると、分会の能力だけではどうにもならない状況も出てくるであろうし、大私教でもそうそう支援闘争も組んでいられなくなるであろう。その他の事件を見ても、いきなり懲戒解雇に該当するような事例とは思えないものでも私学の場合は解雇につながる状況があるようだ。

  そこで、生徒急減期をむかえたなかで安易な人員整理のために、理由はともかくとりあえず解雇、というような状況が近い将来にやって来る危険がある。また理事会側にもとりあえずこのような裁判を行うことにより他の教職員のみせしめにするというような態度が見受けられるのである。

 

4、まとめ

  このような状況の中で、生徒の人権も重大な問題ではあるが教育労働に携わる者の生活に直接かかわる問題の検討が必要な状況になってきた。この部分は退職金問題などと同様に戦後発展してきた私学の中では今まであまり労働闘争の中で顧みられなかった部分である。しかし、ここにきて教職員の高齢化、生徒数の減少という状況をむかえ、見過ごすことのできない急務な問題となってきた。さらに問題なのはこのような状況の中でも教職員の危機感がいまひとつ薄く、組合も小回りのきく対応ができていないことである。

  一方この問題は私学だけでなく、公立の教員に関しても同様な状況が来ることはわかっているのだが、ここでもことの重大性が深く認識されてないようである。また、私学でもうちは大丈夫であると思っているところもあるが、生徒の総数が急激に減少していく状況の中では早晩同じ問題が出てくるのは間違いないのである。早急な諸問題の検討が必要となろう。



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