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◆199812KHK181A1L0106J TITLE: 中高連携と個人情報の保護 AUTHOR: 朝倉 達夫 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第181号(1998年12月) WORDS: 全40字×106行
朝 倉 達 夫
はじめに
昨年度の押し詰まった3月、入試直前に府教委から「学級編成に関する個人情報の収集について」という通達文書が各府立高校ならびに地教委に出された。報告者の勤務校は毎年合格者発表後直ちに「学級編成資料」収集を目的に中学校を訪問し、「ヒヤリング」を行っている。府教委の通達の主旨は「大阪府個人情報保護条例」に基づき、「学級編成といえども慎重に対応すること」というものであり、「ヒアリング」は明らかにこの主旨に抵触する面を含んでおり、校内、特に新1年担任団の動揺と困惑は大きなものであった。
今回の報告は大阪府における中高連携の現状と個人情報の保護とどのような面で関わり、どこに問題点があり、今後どう考えていくべきかを実践を踏まえて考察したものである。
中学校と高等学校の連携の重要性と強化の必要性は以前からいわれてきた。しかし、実態としては、報告者の高校と地域の中学校との関係でいえば、「ヒヤリング」以外では、中学校の進路指導協議会の情報内容を学校長が入手することと、地域中学校の同和教育研究会進路部会に高校側の担当者が参加するくらいで、前述の新入生の学級編成資料を収集するという名目の「ヒアリング」が中高連携の最も重要な取り組みであった。
「ヒアリング」は高校での学級編成を適正にかつスムーズに行うため、入学者の多い中学校を訪問し、必要な資料を聴取してくるというものである。本校は開校のいきさつが、「地元に高等学校を」という地域住民の強い要望で16年前に設立された学校であることから、「地元集中」の進路指導が基本的に行われており、「ヒアリング」もその延長線上に位置づけられていた。
この「ヒアリング」による情報は、実際にクラス編成を行う際かなり重視されており、クラス編成の他の要素である芸術選択、入学検査試験の成績と共に活用されてきた。
「ヒヤリング」で得る情報の中身は@友人関係A健康上問題を抱えている者BクラブC出席状況Dリーダー的素質のある生徒E親のPTA役員歴Fその他中学校からの要望、といったものである。その他アンケート形式で事前に修学旅行の行き先、林間学校の行き先等校外指導に関わる事項、同和教育の内容、その他教育内容の申し送り事項の聴取がある。
これらの情報は、入学検査成績によるクラス配置の後、@リーダー性のある生徒の均等配置、A障害があり、教科教育上配慮を要する生徒の配置(体育取り出し指導等)B友人関係で一緒にする、別クラスにする等の調整に使われる。
府教委が出した「学級編成に関する個人情報の収集について」の文書では、学級編成上どうしても必要で個人情報を収集する場合は次の三点を原則とするとある。@本人から収集すること。A本人の同意を得て収集すること。Bセンシティブ情報は収集しないこと。
さらに生徒の入学前に学級編成に必要な個人情報を収集する場合は@合格者説明会において、本人から情報収集すること。A中学校等から個人情報を収集する場合には、本人及び保護者の同意を得ること。B中学校から収集する内容は、本人保護者から収集する情報の項目(健康・学校生活)の範囲内であること。C本人からであってもセンシティブ情報は収集しないこと。D同意の得られなかった生徒については中学校等から情報を収集しないことE中学校から収集した内容は、文書にまとめて、適切に保存すること。保存期間は最低1年間とし、保存期間終了後、適切に廃棄すること。F収集した情報は、本人開示の対象となること。という実施方法まで指示するものある。
指示文書にはさらに「学級編成に必要な個人情報を収集する場合の調査表の様式例」が示され、「学校生活(仲間関係)に関して学級編成上で配慮すべき事項」「健康(障害を含む)に関して学級編成の上で配慮すべき事項」の2項目に限定されている。
上記の事柄を踏まえ「合格説明会」に生徒・保護者から聴取する場合についても詳細にその例が指示される。合格説明会において次のことを口頭でもよいから説明することとして、@生徒の学校への早期の適応を図るため、学級編成について配慮する。A配慮希望があれば、用紙に記入し(あるいは口頭で後ほど)申し出てほしい(本人収集)。Bただし、希望がすべてかなえられるとはかぎらない。Cなお、同じ事柄について、出身中学校からも聞き取りを行うが、これを望まない場合は、用紙の下欄に印を付けてほしい。あるいは、口頭で後ほど申し出てほしい(本人同意)。というものである。
表題条例はその第7条(収集の制限)に「実施機関は、個人情報を収集するときは、あらかじめ個人情報を取り扱う目的を具体的に明らかにし、当該目的の達成のために必要な範囲内で収集しなければならない。2 実施機関は、個人情報を収集するときは、適正かつ公正な手段により収集しなければならない。3 実施機関は、個人情報を収集するときは、本人から収集しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、このかぎりではない。@本人の同意があるとき。」(以下省略)とあり、「学級編成に関する個人情報の収集」指示文書はこの主旨に基づくものである。
以上府教委が出した指示文書の内容を概観したが、この文書で従来本校はじめいわゆる「困難校」といわれている学校が行っている「ヒアリング」=中学校からの個人情報の収集が可能かについて述べてみたい。
第一は時期的な面で、現場の実態とはかけ離れているといえよう。「合格者登校」の際、本人から直接聴取、または中学校からの情報聴取の承認を得ることが要件になっているが、「学級編成」は合格者発表直後からとりかかり、教科書購入、個人証明写真、心臓検診等が行われる入学式前の登校日までに編成は完了しなければならいという実状に合っていない。第二に「合格者登校」の説明会の場で、「希望聴取用紙」を配布したり、直接その場で生徒・保護者の気持ちを表明してもらうことは事実上困難であるばかりでなく、いかにも形式上の了承を取り付けることになる。しかも、「健康」と学校生活=「仲間」関係だけの情報では困難校が直面しているクラスづくりに対応することはむつかしい。
したがって、府教委の指導方針に忠実に従うことを前提にすれば、従来本校はじめ「困難校」が実施してきた「ヒアリング」は不可能になろう。
「大阪府個人情報保護条例」やそれに基づく「学級編成に関する個人情報の収集について」の府教委方針がその主旨として間違っていない。しかしながら下記の諸点について現場としては問題と思われる。
@学級編成上の情報の必要性は府立学校一様ではない。特に「困難校」「同和校」など、きめ細かな生徒指導を必要とする学校では「ヒアリング」による中学校からの情報(生徒を客観的に一番よく知っている教育専門家としての意見)は重要である。
Aこの指示文書が学期末、「ヒアリング」時期の直前に地教委を通じ中学校に出されたためもあって、今年度は特に中学校によっては過剰な警戒的対応をみせるところもあった。「不登校」生徒や、内部疾患障害生徒が入学後判明し、現場の混乱が生じた。
Bセンシティブ情報の収集禁止は「同和地区」のある学校が、地域の教育センターとの連携にも支障がでてくる。
以上の状況から、「府個人情報保護条例」の主旨を尊重しながら、生徒一人ひとりを大切にし、生徒の教育権を保障するために必要な最小限の情報収集のあり方を関係者でさらに検討をしていかなければならない。
事 務 連 絡
平成10年3月20日
各市町村教育委員会
学校教育主管課長様
大阪府教育委員会
教務教育課長
高等学校が入試選抜合格者発表後に中学校を訪問し、新入生
の学級編成に必要な情報を収集することについて(通知)
記
臨時府立学校長会での説明内容
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