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◆200010KHK192A1L0718J TITLE: 大阪府立高校における生徒の個人情報保護について AUTHOR: 山口 明子 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第192号(2000年10月) WORDS: 全40字×718行
山 口 明 子
はじめに
大阪府個人情報保護条例施行ののち、大阪府教委は府立高校における生徒の個人情報保護について様々の取り組みをしている(大阪高法研ニュース 181号 朝倉達夫会員「中高連携と個人情報の保護」参照)が、その経過は下記のようなものであった。
1996.10.1. 大阪府個人情報保護条例施行 1998.1.26. 府教委、個人情報保護審議会に「個人情報の収集について」諮問 1998.3.13. 個人情報保護審議会答申 府教委、府立高校校長会で新入生の個人情報収集について説明 1998.3.20. 府教委、市町村教育委員会に高校の新入生個人情報収集について通知 1998.4 府教委、「府立学校に対する指示事項」 1998.5. 8. 府教委、府立高校に対して「生徒に係る個人情報の収集及び本人への提供 等に関する調査について」送付 (回答期限 5.18) 1998.5.19. 府教委、「平成10年度学校教育計画の提出について」通知 (提出期限 6.10)
ここに報告するのは98年3月から4月にかけての府教委の様々の指示・通知ののちに行われた5月8日付「生徒に係る個人情報の収集及び本人への提供等に関する調査」 (1.新入生の個人情報収集について. 2.成績の通知. 3.情報公開についての校内体制) のうち、調査1.及び2.の回答を全日制高校155校についてまとめたものである。
設問(1)合格者説明会等において、本人・保護者から学級編成に必要な情報を収集したか。
〔ア 収集した イ 収集しなかった〕
○ 収集しなかった場合は、その理由。
回答(1)
ア イ 記入なし 計 92 62 1 155
収集しなかった理由
@必要がない/従来から収集しない 23 学級編成に個人的事情を考慮しないから不要 4 すべきでない(条例、先入観を避ける) 9 何を収集すべきかわからない 1
A申し出てもらう・その他 10 入試資料を参考にする 9 中学校から収集する 5
「収集しなかった」理由によって、@「全く収集しない」グループと、A「(他の方法で収集するから)新入生説明会では収集しなかった」グループとに分かれる。
「全く収集しない」グループでは、単に「従来から収集していない」として明確な理由がないものが最も多く、要するに学級編成には個人情報を必要としないということのようである。次に個人情報保護条例の制定や府教委からの指示への顧慮、あるいは「先入観を避ける」という理由が続く。
他方、「他の方法で収集する」グループでは、「希望があれば申し出てもらう」というのが最も多い。これは学校としては必要としないが、本人・保護者の希望があれば考慮してもよいということであろうか。
しかし、「入学資料を参考にする」としている学校で、学力検査の成績だけでなく、調査書の「学習の記録の評定」欄や「総合所見」欄が参考とされるのであれば、調査書の機能を逸脱している疑いがある。特にその機能について疑問が多い「総合所見」欄が、入学後の学級編成に利用されているのではないかとの疑いが払拭し難い。
「中学校から収集する」のは5件だが、この設問でイと答え、次問(2−(1))でア・イと答えているのが13校あり、これは回答として矛盾しているのではないかと思われる。
設問(2) 実施した場合、それは口頭か、文書による収集か。〔ア 口頭 イ 文書〕
回答(2)
ア イ ア・イ 計 48 40 4 92
設問(2) 実施した場合は、どのような配慮希望が出されたか。
回答(3) (複数回答)
身体・健康に関して 70 友人関係等について 35 学習等について 22 特に希望なし 11 その他 33
その他の主なもの(2校以上)
家庭事情 5 宗教上の問題 5 芸術科目の選択4 姓名について 3 経済問題 3
学級編成についての希望であるから、「身体・健康」「友人関係」が上位にあるのは当然であるが、あまり学級編成には関係がないと思われる回答もある。添付されている調査用紙によれば、調査内容は単に学級編成上の希望だけでなく高校生活に関する懸念や希望に亙っているものがあり、この回答に学級編成に無関係と思われる内容が含まれているのは、学校の調査のしかたにも原因があると思われる。
設問(1)中学校等から個人情報を収集したか。
ア 中学校等を訪問し情報を収集した
イ 文書で情報を収集した
ウ 昨年度まで実施していたが、本年度は実施しなかった
エ これまで、実施したことはない
○ イ、ウ、エの理由(※ 文書で収集した場合は、送付した文書を添付すること)
回答(1)
ア イ ウ エ ア・イ 無記入 計 56 2 21 69 2 5 155
それぞれの回答数は集計表の通りであるが、「理由」を読むと学校が印を付している記号と実際の行動とは異なると思われる場合がある。(カッコ内の数字は高校番号)
例えば、
エ 中国帰国生徒についてのみ収集した→アに分類すべき エ PTA役員経験者について文書で調査した→イに分類すべき × 一昨年まで収集した→ウに準じると見なすべきだろう
そこで下記の表のように数字を修正した。以下は修正表の数に従う。
ア イ ウ エ ア・イ 無記入 計 57 3 22 67 2 4 155
イ(3件)の理由
PTA役員の経験のみについて情報を収集 2 時間の関係で中学校を訪問できなかった 1
なお、文書が添付されていたのは1件だけだった。
ウ(22件)の理由 (複数回答)
条例の趣旨、審議会答申、府教委の指導を勘案した 9 中学校から断られた、辞退された 6 生徒から直接収集した 7 本人同意が必要なら充分収集できない 2 本人以外からの収集は不適当と判断した 1 日程的に無理 2 中学校から訪問・説明を受けた 1 中学校から聞きたい事項がなかった 1
初めの5つの理由はいずれも条例施行に関わっている。4番目の理由は条例を積極的に受け止めているとは言えないが、いずれにしても、「今年からの中止」には、条例施行、それに伴う府教委の指導が大きく影響していると思われる。
エ(67件)のの理由 (複数回答)
必要がない 36 直接本人から収集する 13 偏見・先入観を避ける 6 プライバシー・生徒の人権に配慮 5 従来から収集していない 4 必要があれば中学校から連絡がある 4 無記入 5
エの理由は、ウと様相が異なり、むしろ調査1−1「収集しなかった」理由によく似ている。表現としては一様でないが、「必要がない」という答えが半数以上あり、必要があれば本人から収集するというのが2位を占める。「偏見・先入観を避ける」という理由があるのも1−1と似ている。「人権・プライバシーに配慮」というのは、条例制定以前から学校としてそういう姿勢があったという意味であろう。
ウの理由を挙げた学校には条例制定を強く意識していることが感じられるのに対して、エと回答した学校から窺われるのはこれまでの習慣的姿勢である。
設問(2)中学校等からの収集に当たって、本人または保護者の同意を得たか。得た場合、
その方法は、口頭か、文書による同意か。
〔ア 口頭で説明し同意を得た イ 文書を示し同意を得た
ウ 同意を得なかった〕(※ 口頭の場合はその内容についてまとめたもの、文書
による場合は該当文書を添付すること)
回答(2)
ア イ ウ ア・イ 無記入 計 28 19 12 2 1 62
計=(1)ア+イ+ア・イ=62
設問は「同意を得たか」であるが、意味は「同意を得ようとしたか」であろう。
「得ようとしなかった」のが12件ある。また、文書による場合は文書を添付するようにと書かれているが、添付したのは21校中7校である。さらに、調査を取り止めた1校が文書を添付している。
また、「口頭で同意を得た」高校のうち3校が記している口頭説明の概要によると「中学校から収集してもらいたくない者は後ほど申し出てほしい」と述べたとのことである。このようなやり方で不同意の生徒が申し出ることができたかどうか、極めて疑わしい。そのことは次の設問に対する回答で一層はっきりする。
設問(3)説明の結果、同意を得ることができなかった生徒がいたか。
〔ア 全員の同意を得た イ( )人の同意が得られなかった〕
回答(3)
ア イ 無記入 計 30 18 1 49
計=(2)ア+イ+ア・イ=49
同意しなかった生徒数
10人以下 11校 20人以下 2校 23人 1校 32人 1校 60人 1校 61人 1校 105人 1校
同意を得られなかったと答えた高校は18校だが、この他に「電話によって同意を求めた(が、44人の生徒の同意が得られなかった)」1校と「11人の同意が得られなかった(結局取り止めた)」1校がある。
ところが、これらの「同意が得られなかった生徒がいた」と答えた学校は、(2)ですべてイまたはアイと答えている。逆に(2)でアであった学校はすべて「全員の同意を得た」と答えている。前問と合わせ、口頭での問い合わせには拒否しにくい実態が感じられ、口頭での調査回答の真偽の程は甚だ疑わしいと言わなければならない。電話での問い合わせには拒否回答があるところから、面と向かっては拒否しにくいということであろう。
設問(4)中学校等に対して、訪問して情報収集することについて事前依頼の方法。
〔ア 文書で依頼した イ 電話で依頼した ウ 依頼しなかった〕
(※ 文書で依頼した場合は、文書を添付すること)
回答(4)
ア イ ウ ア・イ 無記入 計 30 25 4 2 1 62
計=(1)ア+イ+ア・イ=62
「依頼しなかった」高校が4校ある。生徒の個人情報を中学校から収集するときに情報本人の同意を得ることは必要だが、その情報を持っている中学校に事前依頼することは条例上の必要からではなく、実務上あるいは儀礼上の問題であろう。しかし、その事前依頼について55校が「依頼した」と答え、肝心の本人の同意については、「得ようとした」のが49校に止まっているのは、高校側の「生徒の個人情報保護」についての認識の程度を窺わせるものである。
「電話で同意を求めた」1校は中学校に対しては文書で依頼している。しかしこの回答数には含まれていない。
依頼文書が添付されているのは9校である。うち1校は、結局実施しなかった。
設問(5)情報収集の依頼を断った中学校等があったか。あれば、その中学校の設置市町
村別中学校数。〔ア 断った中学校があった イ 断った中学校はなかった〕
回答(5)
ア イ 記入なし 計 4 52 1 57
計=(4)ア+イ+ア・イ=57
A (高槻4* 茨木2) B (狭山1 藤井寺1) C (茨木2 高槻全) D (? 2) E (高槻3 島本 1) F (高槻7) G (高槻4)
「断った中学校があった」という回答は、実施校では4校だけである。
ただし、A高校は、高槻市の中学校からは前以て連絡があったので依頼しなかったと答えている。また、E、F、Gの3校は反対があったので実施はしていない。
しかしこれらの高校は、F高校を除き、(3)で「同意を得られない生徒がいた」とは答えていない。これは、中学校が依頼を受け入れなかった場合、最初からその中学校出身の生徒に同意を求めなかったためかとも思われる。F高校はそれでも生徒に同意を求め、同意しない生徒がいたために結局実施しなかったのであろう。
設問(6)情報収集を行った中学校等の校数〔( )校〕
回答(6)
1〜10 11〜20 21〜30 31〜40 41〜50 59 64 94 記入なし 20 17 8 8 2 1 1 1 4
高校によって大差があるが、それぞれ学区内の中学校数に差があると思われるから、この差をどう理解すればよいのかわからない。しかし、少数の場合は全体ではなく一部校についてのみ調査したところがあるのではないかと思われる。殊に、依頼を拒否された場合は、その中学校は対象から除外したであろう。
また3校は部分的に拒否されたため全体を取り止めたが、逆に、1校は、連絡があって最初から1中学校には連絡しなかったが、生徒は全員同意したので、依頼を受け入れてくれた中学校のみを訪問したと解釈される。
設問(7)情報収集に際して、調査用紙を利用したか。
ア 調査用紙を事前に送付し、中学校側に記入してもらった
イ 調査用紙を持参し、記録した
ウ 調査用紙は作成せず、教員が各自記録した
(※ 調査用紙を作成した場合は添付すること)
回答(7)
ア イ ウ ア・イ 無記入 計 6 11 41 2 2 62
計=(1)ア+イ+ア・イ=62
調査用紙を作成せず、聞き取り調査という形で行ったところが最も多い。作成した用紙を添付したのは2校のみ。ただし1校は取り止めている。
設問(8)収集項目はどのようなものか。
〔ア 健康 イ 学校生活 ウ その他( )〕
回答(8)
ア イ ウ アイ アイウ イウ 記入なし 計 6 5 3 33 12 2 1 62
計=(1)ア+イ+ア・イ=62
ウ(17)の主なもの
友人関係 4 学習状況 3 PTA役員経験 2 その他 各1 (家庭問題など/体育実技等の配慮/出席状況/生徒会役員経験/経済状況など)
個人情報収集というより、受検者数把握のために訪問した場合もあるらしい。
設問(9)収集した情報をまとめて「調査報告」等を作成したか。
〔ア 作成した イ 現在作成中 ウ 作成していない〕
回答(9)
ア イ ウ 記入なし 計 26 8 25 3 62
計=(1)ア+イ+ア・イ=62
作成しているところが結構多いが、府教委への提出は求められていない。
設問(10)その他、中学校等から情報収集をすることについて混乱等があったか。
〔ア あった イ なかった〕
イの場合、どのような状況であったか。
回答(10)
ア イ 記入なし 計 3 58 1 62
計=(1)ア+イ+ア・イ=62
ア(3校) 説明を記入している学校 2校 イ(58校) 〃 17校
この設問の2項は誤りであったと思われ、イ「混乱がなかった」について状況を説明を求めているため、回答にも混乱がある。アの回答数は3だが、1件は状況について記入せず、2件は下記のとおりである。
「校長会が意見交換不実施を決めたため、従来の方法を採ることができなかった」
「中学校から断られた。のちにいじめの関係で配慮要請があり、クラス編成を変更した」
また、イと答えながら記入している高校も17校ある。ほとんどは「混乱がなかった」ことを述べているのみだが、1校は「市教委の通知に戸惑って問い合わせてきた中学校が数校あった」と記している。
〔まとめと問題点〕
この設問は、個人情報の取扱いのうち、個人情報の収集・利用について「本人からの直接収集」「目的外利用の禁止」などの原則に対する府立高校の認識・理解度を調査したものと考えられるが、この結果を見るといくつかの問題点が見えてくる。
第1は、1−1は個人情報の収集についての調査であるが、本人から直接収集せず、他の方法で収集するとしている場合の「他の方法」が必ずしも明らかでなく、また、その方法が適切かどうかについての顧慮があまり見られないことである。特に、「入学者選抜資料」であるはずの調査書をどのように利用したのかが明らかにされる必要があり、場合によっては個人情報の「目的外利用」に該当することになろう。
第2は、1−2は、すでに中学校が収集していた生徒の個人情報を高校が利用する手続きについての調査であるが、情報の本人の同意について、正確に理解・実施されているとは言いがたい。特に、本人からの同意を得ようともしなかった12校は明らかに条例や府教委の通知に違反している。しかも、「同意を得(ようとし)た」と答えた高校が49校あるが、文書によって同意を得ようとした高校ではすべてに拒否回答があったことを考えれば、口頭によって得られた同意の真実性には極めて疑義がある。このような調査方法には、単なる形式的、あるいはわざと拒否しにくい方法を用いたとの疑いも払拭しがたく、婉曲な条例違反とも見なしうる。
そもそも、府教委の指導が、本人の同意を求める点で不十分と思われる。まず、入学説明会の席上で「中学校からの個人情報収集」について諾否をきくように指導しているが、そのような席で充分考えて回答ができるものかどうか甚だ疑問である。しかも、中学校から聞く情報の範囲が示されていないから、一旦承諾を与えると、情報の中身を問わず無制限な情報収集を認めることになってしまうのではないかとの疑念が生じ、生徒からすればあまりに広範囲な同意を求められることになるから、たやすく同意しうるものではなく、拒否する生徒がいるのも無理はないと思われる。また、この同意を口頭で求められた場合には拒否しにくいことが、口頭で求められた場合には拒否した生徒が全く居ないことから看取される。このような方法で同意を求めるのはフェアではなく、文書によるべきであり、また内容についても特定の情報に限られていることを明示すべきであろう。
さらに疑問が残るのは調査書の用途である。調査書の作成目的はあくまで高等学校入学者選抜にあるはずであり、これを入学後の学級編成資料とするのは目的外利用であって、これを府教委が看過しているとすれば、個人情報保護条例違反を許していることになる。
高校の中には、条例の趣旨を充分理解していないと思われるところがあり、条例制定に伴う府教委の指導をあまり意に介していない高校も多い。
特に創立の古い学校ほど、府教委の指導に無頓着である。創立の旧い学校は、生徒の個人情報収集にそれほど熱心ではないが、収集するに当たっても無頓着・無神経である。この調査が条例施行直後のものであることを考慮するとしても、個人情報保護の原則について全く理解していないと思われる高校も多く、この点については府教委の一層の啓蒙が必要であろう。
市町村教育委員会の姿勢が、中学校に反映し、それが高校の行動にも影響していることも看取される。例えば、1−2(5)において、「情報収集の依頼を断った中学校があった」と答えた7校のうち6校が第2学区に属しており、断った中学校は高槻市立・茨木市立・島本町立の中学校である。特に高槻市では97年3月に小学校から中学校への児童・生徒の個人情報伝達が条例の手続きを踏まずに行われていることが判明し、その後、高槻市教委は個人情報保護運営審議会に諮問し、12月にその答申を得て98年1月に個人情報調査票の様式を定め取扱について学校園に通知した。この調査に関わる生徒の個人情報収集はその通知の直後であり、このような市教委の姿勢が高槻市立中学校の判断に当然影響を及ぼしたと考えられる。1−2(2)で「中学校からの個人情報収集を本年度は実施しなかった」高校のうち、「中学校から断られた」という理由を挙げていた6校のうち5校が第2学区に属しているのも、同様な事情によるものと推測される。
設問1 次の期末考査の得点を本人に知らせているか(前後期制の学校は(1)(3)に記入)
(1) 1学期末考査 ア 答案用紙を返却している イ 得点のみ知らせている
(前期末) ウ 知らせていない エ 教科によって異なる
○知らせていない理由または教科によって異なる理由
(2) 2学期末考査 ア 答案用紙を返却している イ 得点のみ知らせている
ウ 知らせていない エ 教科によって異なる
○知らせていない理由または教科によって異なる理由
(3) 学年末考査 ア 答案用紙を返却している イ 得点のみ知らせている
(後期末) ウ 知らせていない エ 教科によって異なる
○知らせていない理由または教科によって異なる理由
この設問に関しては、回答の整理が必要であった。一つはエの解釈に混乱が見られたことである。普通には「教科によって知らせたり知らせなかったりする」、つまり「アイ or ウ」という解釈になると思われるが、「知らせ方が教科によって異なる」つまり「ア or イ」と解釈した回答もいくつかあった。理由としても(実は、この回答を読んで、解釈の違いがわかったのだが)「知らせない理由」ではなく「学科により知らせ方が異なる」理由が書かれている場合があった。この場合は、表記はエでも、実際はア・イということになる。
いま一つは(2)の回答欄に記入がない場合がいくつかあった。しかし、(1)と(2)の回答を調べると、記入されている場合は(1)(2)の回答はすべて同じであり、異なる場合はない。また両者の理由も同じである。そこで、(2)の回答欄に記入がない場合は(1)と同じとして処理した。
上記2点の修正を施した結果、(1)(2)(3)の回答数は以下のようになる。
回答1 (1) (2) (3) ア 62 62 27 イ 7 7 7 ウ 13 13 31 エ 66 66 76 アイ 2 2 1 アイウ 1 1 1 アエ 2 2 2 アウ 0 0 1 無答 2 2 2 計 155 155 155
回答(1)について
ウ(13件)の理由
平常点を加味して総合的に評価しているため 10 慣習的に 1 特にきまりがないため 1 記入なし 1
なお、
個々の教師によっては知らせている 2 本人の申し出があれば答案を返却または得点を知らせている 9 返却の方向で周知徹底を図っている 1
と付記がある場合もある。そうであれば、エとするべきではないかと思うが、学校方針としてはウであるということであろう。
ウの主な理由は、評価の付け方が得点以外のものも加味しており、返却して得点と評価の差が大きいことが知られると、のちの指導に支障があるということである。
エ(66件)の理由(複数回答あり)
@教科の主体的指導に任せている 10 教科担当者によって異なる 6 基本的にはア・イだが教科によって異なる 2 平均点を一定にするため、成績のつけ方が教科によって異なる 1 (答案の返却について)規定がない 8 A時間がない・日程的に無理 19 学期末のため統一した対応ができない 1 2学期初めに得点を知らせる教科が多い 1 期末考査だけの結果を知らせても意味がない 1 B評価には試験の得点以外の要素が入っている 15 (従って)得点を知らせると指導しにくくなる 3 C 特に理由はない 5 D 休み期間中に学習課題としてテスト問題を活用する 1 記入なし 1
最も多いのは@グループの「教科・教科担当者に任せている」という理由である。「学校としての統一した方針はなく、それぞれの教科に任せている」という意味であろう。2番目に多い理由はAグループの「時間がない」である。学期末であるため、「返却したり知らせたりする時間がない」「次の学期に知らせても意味がない」「回答について解説せずに得点だけ知らせても意味がない」という意味の答えが多かった。3番目にウの理由として多かった「評価と得点の差が大きいため、得点を知らせるとあとの指導がしにくくなる」が来る。
エの理由は明らかにウとは異なっている。ウの場合は、ほとんどが「評定のつけ方」に依るものであったが、エについては、単に「教科担当者に任せている」「必ず知らせるという規定がない」というふうな、特に積極的な意味のない理由が第1位となる。次の「時間がない」というのも、やはり客観的な理由である。第3にウと同じ理由が来る。このことから、返却したりしなかったり、得点を知らせたり知らせなかったりする学校では、そのことをあまり重視しなかったり、単に時間がないというだけの理由で、ウの場合のように意識的に乃至は「教育的目的を以て」「知らせたくない」というわけではない場合が多くなる。ウと同じ理由の学校では、教科によって取扱が異なり、評定の付け方に得点以外の要素を取り入れている教科では「知らせない」ということであろう。
ところでこの回答にも
返却する方向で努力中 9 要求があれば返却する 22
と付記されていた。
回答(2)について
(2)については、上記の如く、回答はすべて(1)と同じであり、理由も同じである。(2)について無回答が6であったが、他の例から推測して(1)と同じと見なし、6のうち4はアに算入した。
回答(3)について
(3)は(1)(2)とは異なる様相を呈する。ただしこれについても一定の傾向はある。
まず、(1)(2)でイ−イ、ウ−ウとなって場合は、(3)でも全てそれぞれイ、ウとなる。しかし、ア−ア、エ−エであったものは、(3)では必ずしもア、エとなるわけではない。
(1) (2) (3) ア−ア−ア 29 イ 5 ウ 6 エ 21 アエ 1 エ−エ−イ 1 ウ 12 エ 53
つまり、期末考査の結果は知らせても、学年末考査の結果は必ずしも知らせない学校があるということになる。逆に期末について知らせなかった学校は、学年末についても同様に、知らせていない。期末には知らせないが、学年末だけ点数を知らせる学校は1校のみである。
ウ(31件)の理由(複数回答あり)
(3)でウとしている学校は、(1)(2)ではア、ウ、エに分かれる。
@ア−ア−ウ 6 Aウ−ウ−ウ 13 Bエ−エ−ウ 12
@の場合 返却日がない 3 指導する時間的余裕がない 2 平常点を加味する評価である 3 Aの場合 総合的評価をするため 11 慣習 1 特に理由はない 1 内規上、決まりがない 1 Bの場合 日程上の理由 5 指導の支障となる 4 慣例 1 知らせないよう申し合わせている 1 特に知らせる必要はない 1 理由はない 1
@Bグループでは、時間的・日程上の理由と指導上の理由がほぼ同数、あるいは前者が後者より多いのに対して、Aでは指導上の理由が大半を占める。これは、Aの場合は、(1)(2)のウの理由と同じく一定の意図を以て「知らせない」ことにしていることを示している。もっとも、(3)でウと答えている学校の中に、要求があれば返却あるいは点数を知らせると付記して、全員に一斉に返却はしないが、返却を拒否しているわけではないという姿勢を示す学校も17校ある。
エ(76件)の理由(複数回答あり)
@ア−ア−エ 22 Aエ−エ−エ 53
@の場合 時間がない 15 解説する時間がとれない 2 タイミングが悪い 1 総合的評価をしている 3 統一した取り決めがない 1 理由はない 1 無記入 1 Aの場合 時間がない 17 タイミングが悪い 2 解説する時間がとれない 2 知らせる方法がない 1 総合的評価をしている 14 成績のつけ方が教科により異なる 1 得点を知らせると混乱が生じる 1 統一した取り決めがない 10 教科・教科担当者に任せる 10 特に理由はない 6 知らせても意味がない 1 無記入 2
@の場合は、そのほとんどが時間的・日程的理由であるのに対して、Aの場合は(1)(2)のエの理由と、順位は異なるが同じものが現れている。また、「要求があれば知らせる」は20校、「返却の方向で努力中・方法を検討したい」などの付記が9校にあった。知らせることを拒否しているわけではないが、積極的に知らせるわけでもない、ということのようである。
設問2 留年した生徒に対して、修得科目・単位数等を知らせているか
〔ア 知らせている イ 知らせていない ウ 教科によって異なる〕
○知らせていない理由または教科によって異なる理由
回答2
ア イ ウ その他 無記入 計 95 53 3 2 2 155
イ(53件)の理由(複数回答あり)
全科再履修の方針をもっている 30 (従って)知らせると学習指導上支障がある 12 特定の担当者への感情的わだかまりを避ける 4 トラブルを避ける 2 総合的判断によって留年・進級を決めている 3 原則として知らせないことになっている 1 留年になるケースはほぼ全欠の生徒のみ 1 未修得科目を知らせている 1
留年生徒に対して修得科目や単位数を知らせていない学校数は53校で、全体のほぼ3分の1である。その理由として圧倒的に多いのは「全科を再履修させる方針を採っている(から、知らせると指導上支障が生じる)」であり(42件)、次に「留年の原因となった未修得教科の担当者との間にトモゥったときは調査書にはそれを記入する 1
〔まとめと問題点〕
調査1が個人情報収集に関してであったのに対して、調査2は個人情報の本人への開示に関するものである。ただし、開示請求に対する対応というわけではなく、積極的に提供しているかどうかを調査したものといえるだろう。その観点でこの回答を見ると、
2−1 (1) (2) (3) @ ア・イ − ア・イ − ア・イ 41 A ウ − ウ − ウ 13
@グループは期末・学年末の試験結果をすべて知らせているのに対して、13校は全く知らせていないことになる。
さらに2−1と2−2の回答を総合すると、
@−ア 25 A−イ 7
という結果になる。つまり、25校が、学期末・学年末の試験の成績をすべて生徒に知らせるとともに留年生徒に修得科目や単位数を知らせているのに対して、7校は期末・年度末を通して全く考査成績を生徒に知らせないだけでなく、留年生徒に対して修得科目も単位数も知らせないという指導をしているということになる。このことは、開示請求をしても拒否するというわけではないだろうから、条例違反とまでは言えないにしても、その精神には背くものと言わなければならないだろう。
次に、このような指導をしている理由は、この調査の回答から見るところ、「実際の得点数と通知表の評定とのあいだに差があり、得点数よりもいい評価が付いているために、得点を知らせると指導の妨げになる」ということである。ほんとうのことを知らせない方が本人のためだという、あの、調査書や指導要録の開示拒否の理由としてお馴染みのセリフである。もっとも、この場合は、調査書や指導要録の場合とはおそらく逆に、実際よりもよい点を付けているので、それでいい気になってもらっては困るということなのであろうが、しかし、例えば試験の得点通りではなくとも、加点については何らかの基準はあるはずで、教師のさじ加減というわけではないであろう。そうでなければ、虚偽の情報収集ということになり、削除・訂正請求の対象ともなりかねない。少なくとも、この理由からはそのような疑いも生じると言えるであろう。
また、「トラブルを避ける」という理由も、同じく開示拒否の理由の一つとして、しばしばお目にかかった「生徒・保護者から逆恨みを受けるおそれ」などと同類である。
さらに、このような指導に対しては「教育上の」疑問も生じる。
点数が悪くても成績がよければ生徒は勉強しなくなると危惧しているのであろうが、それでは知らせなければ生徒は勉強するようになるのであろうか。点数を知らせなければ、成績がよいのだから点数がよかったのだと生徒は誤解し、勉強しなくなるのは同じである。それだけでなく、自分の実力について誤解したままになり、むしろ学習上の妨げになるというべきであろう。このような扱いは生徒のためという言い訳が常に使われるが、生徒が自分の力量を知らず、そのまま卒業すれば、そのときだけはトラブルも起こらず教師にとって楽だったとしても、あとで困るのは生徒である。このようなその場凌ぎの処理で済ませるのは、指導上の困難を避けるだけで、実は生徒の学習権を侵害するものと言わなければならない。
「知らせるという内規がない・取決めがない」という回答も案外多かったが、個人情報保護条例はこのような規則や内規に先行するはずであり、条例の趣旨を考えれば、当然、生徒本人に返却すべきだということになろう。まして、「知らせないことを申し合わせている」という回答に至っては論評の限りでないというほかない。
調査1・2を通じて感じられるのは、依然として「生徒の情報は学校の情報」と見なしている学校が多いことである。中学校段階では、その自治体の姿勢によってかなり個人情報保護の理解も進んだように見受けられるが、それに比べれば府立高校における個人情報保護条例の理解は、まだまだ不充分と言わざるをえない。これは1998年、今から2年前の調査であり、その結果もまとめられていないそうであるが、その後高校の認識はどの程度進歩したであろうか。調査2における「見せていない」「知らせていない」という回答に、「要求があれば見せる」「知らせる方向で努力中」と付記されていることは、現状が必ずしも適切ではないという感覚は高校にもあることを示していると思われるが、この感覚が現在は認識・実践の段階に至っていることを切に願っている。
調査1 新入生の学級編成に必要な個人情報の収集について 1 合格者説明会等における本人・保護者からの収集について (1) 合格者説明会等において、本人・保護者から学級編成に必要な情報を収集したか。 [ア 収集した イ 収集しなかった] ○ 収集しなかった場合は、その理由。 (2) 実施した場合、それは、口頭か、文書による収集か。 [ア 口頭 イ 文書] (3) 実施した場合は、どのような配慮希望が出されたか。 ┌─────────┬─────┬────────────────┐ │内容 │ 人数 │ ※新入生合計人数( )人 │ ├─────────┼─────┤ ※その他の具体的事項 │ │身体・健康に関して│( )人 │ │ │友人関係等について│( )人 │ │ │学習権について │( )人 │ │ │その他 │( )人 │ │ └─────────┴─────┴────────────────┘ 2 中学校等からの個人情報の収集について (1) 中学校から個人情報を収集したか。 ア 中学校等を訪問し情報を収集した イ 文書で情報を収集した ウ 昨年度まで実施していたが、本年度は実施しなかった。 エ これまで、実施したことがない ○ イ、ウ、エの理由 (※ 文書で収集した場合は、送付した文書を添付すること) (2) 中学校等からの収集に当たって、本人または保護者の同意を得たか。得た場合、その方法は、口頭か、文書による同意か。 ア 口頭で説明し同意を得た イ 文書を示し同意を得た ウ 同意を得なかった (※ 口頭の場合はその内容についてまとめたもの、文書による場合は当該文書を添付すること) (3) 説明の結果、同意を得ることができなかった生徒がいたか。 ア 全員の同意を得た イ ( )人の同意が得られなかった (4) 中学校等に対して、訪問して情報収集することについて事前依頼の方法。 ア 文書で依頼した イ 電話で依頼した ウ 依頼しなかった (※ 文書で依頼した場合は、文書を添付すること) (5) 情報収集の依頼を断った中学校等があったか。あれば、その中学校の設置市町村別中学校数。 ア 断った中学校があった イ 断った中学校はなかった ( )市町村立中学校計( )校 ( )市町村立中学校計( )校 ( )市町村立中学校計( )校 (6) 情報収集を行った中学校等の校数 ( )校 (7) 情報収集に際して、調査用紙を利用したか ア 調査用紙を事前に送付し、中学校側に記入してもらった イ 調査用紙を持参し、記録した ウ 調査用紙は作成せず、教員が各自記録した (※ 調査用紙を作成した場合は添付すること) (8) 収集項目はどのようなものか ア 健康 イ 学校生活 ウ その他( ) (9) 収集した情報をまとめて「調査報告」等を作成したか ア 作成した イ 現在作成中 ウ 作成していない (10) その他、中学校等から情報収集することについて混乱等があったか ア あった イ なかった ○ アの場合、どのような状況であったか 調査2 生徒の成績等を本人に知らせることについて 1 次の各期末考査の得点を本人に知らせているか(前後期制の学校は(1)(3)に記入) (1) 1学期末考査(前期末) ア 答案用紙を返却している イ 得点のみ知らせている ウ 知らせていない エ 教科によって異なる ○ 知らせていない理由または教科によって異なる理由 (2) 2学期末考査 ア 答案用紙を返却している イ 得点のみ知らせている ウ 知らせていない エ 教科によって異なる ○ 知らせていない理由または教科によって異なる理由 (1) 1学期末考査(前期末) ア 答案用紙を返却している イ 得点のみ知らせている ウ 知らせていない エ 教科によって異なる ○ 知らせていない理由または教科によって異なる理由 2 留年した生徒に対して、修得科目・単位数等を知らせているか ア 知らせている イ 知らせていない ウ 教科によって異なる ○ 知らせていない理由または教科によって異なる理由 調査3 情報公開(公文書公開・個人情報の保護)に関する校内体制について 1 平成9年度の情報公開(公文書公開、個人情報保護)に関する校内研修 ア 実施した イ 実施しなかった ○ 実施した場合、その内容等 ┌──┬──┬───┬────┬─────────────────┐ │月 │日 │時間 │講師等 │研修テーマ │ ├──┼──┼───┼────┼─────────────────┤ │ │ │ │ │ │ └──┴──┴───┴────┴─────────────────┘ (※ 実施した場合、配布資料等を添付すること) ○ 実施しなかった場合、その理由 2 平成10年度の実施計画 ア 計画がある イ 計画していない ○ 計画がある場合、その内容等 ┌──┬──┬───┬────┬─────────────────┐ │月 │日 │時間 │講師等 │研修テーマ │ ├──┼──┼───┼────┼─────────────────┤ │ │ │ │ │ │ └──┴──┴───┴────┴─────────────────┘ ○ 計画がない場合、その理由 3 生徒の個人情報保護のための校内体制 (1) 個人情報の管理・保護等に関する内規等を作成しているか ア 作成した イ 作成中である ウ 作成していない (※ 既に作成した場合、一部添付のこと。) ○ 作成中、または作成していない理由 (2) 個人情報の管理・保護等に関する校内委員会等を組織しているか ア 組織している イ 検討中である ウ 組織していない ○ 組織している場合、その名称( )
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