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◆200103KHK194A3L0075AN TITLE: ノルウェーの「基礎学校及び後期中等教育に関する法律」の要点と特徴 AUTHOR: 北川 邦一 SOURCE: 『日本教育法学会年報』第30号・有斐閣(2001年3月) WORDS: 全40字×75行
北 川 邦 一(大手前大学)
ノルウェーにおいて、「基礎学校及び後期中等教育に関する法律」(LOV av 17. juli 1998 nr.61 OM GRUNNSKOLEN OG DEN VIDAREGAANDE OPPLARINGA)が99年8月1日から施行 された。この法律は、公立学校及び実習企業における基礎学校教育(初等及び前期中等教育)及び後期中等教育(高等学校3年又は同2年及び企業内職業実習2年が通常)、並びに、私立の基礎学校及び基礎学校段階の私的家庭教育に適用され、コミューネ(基礎自治体)又は県が責任を負う成人教育及び成人のための特殊教育に対して部分的に適用される(1章1節。第1章第1節を略記。以下同様)。この法律は、従前の基礎学校、後期中等教育・職業実習等に関する4法律を廃止し(16章3節)、94/95学年度以降の後期中等教育改革、97/98学年度以降の基礎学校教育改革を含む一連の教育制度改革を集約統合したものである。
日本の教育との比較研究の観点から、以下にこの法律の規定内容の要点と特徴を述べる。
1章2節で、@まず、キリスト教的な倫理的発達・価値の自覚と理解を掲げている。これを受け、2章4節で基礎学校において他の宗教的哲学的信念による出席免除の権利を認めつつキリスト教・宗教・道徳の時間を必修としている(教育計画要領で各学年概ね週2時限)。Aまた、一般的知識の授与、労働と社会生活への準備性、国の文化遺産・民主主義の理念及び科学的思考方法・労働方法の増進、人間の平等、精神の自由と寛容、生態学的理解及び国際的協同責任の促進、B生徒各個人の能力と適性に応じた授業、C教員、生徒、実習生、企業、学校、家庭、労働生活相互間の良好な協同形態の創造、D生徒及び実習生を攻撃的言動から保護することを謳っている。Aに関して基礎学校、後期中等教育、成人教育のための教育計画要領「一般部分」を定め、社会発展に応じた国民共通の一般教育を重視している。またBに関して授業組織は「通常、能力の水準、性又は民族的所属によってはならない」としている(8章2節)。
@この法律により就学を1年早め、基礎学校で6歳から10年間の義務教育を受ける権利を保障し(99学年度全面実施)、A3ヶ月以上ノルウェー定住見込みで権利を認め、B児童生徒の義務であることを明記し、C私立学校の外、家庭での義務教育代替実施を認め、D教科書教具を含め無償としている(2章1-3、12、13節)。
@基礎学校の修了者は申請によって3年間(障害者は5年)の全日制の後期中等教育を受ける権利を有する。A志願者は、1年間の基礎コース(現在は省令で13種設置)の中から3つを志願でき、そのうちの1つとその上に設置される2年間の上級コース(10種の職業コースの多くでは高校1年+企業での実習2年)に入学する権利を有する、B公立高等学校及び実習企業の教育課程は無償と定めている(3章1節。但し教科書は自費)。
@実習生は文部省令の定める職業資格試験受験を目指して企業と実習契約を結ぶ、A実習生は実習期間中、実習企業の被雇用者として法律と労働協定に定める権利と義務を有し、かつ実習生固有の権利を有する、B実習企業は、県の職業教育委員会の承認を受け、実習内容に関して省令の要件を満たし、かつ実習監督の有資格者を保有しなければならない、C実習は定められた研修計画に従って行なう、D実習企業は文部省令の定めによって県から補助金を受け取る、等と定め、E実習契約の修正、解除に関しても定めている(以上4章)。
@文部省は、基礎学校の総授業時数と教育計画要領(lareplan=授業内容・方法の基準)と日々の授業時間の枠組み、後期中等教育の総授業時数・企業実習期間の総計と教育計画要領、授業時間の枠組み、学業及び職業実習の成績評価、評価に対する不服申し立て、職業実習の実習企業承認条件について省令を定める(2章2節、3節、3章2節、4章3節)。なお、文部省は、教育職員の資格・常勤の学校職員の資格について省令で定める(10章1節、3節)。また、毎年、全基礎学校毎に数学、ノルウェー語、英語のいずれかの科目を選んで第十学年生徒全員に学力テストを行なっている。A以上のような文部省の権限を前提として、基礎学校教育にはコミューネが、後期中等教育には県が責任を負っている(13章1、3節。なおノルウェーのコミューネと県の間に指導・監督等の上下関係は無い)。
@基礎学校には、教員代表2名、他の職員代表1名、父母代表2名、生徒代表2名、コミューネ代表2名による協同委員会を置く。コミューネ代表の内1名はその学校の校長とする。生徒代表は、法令による秘密事項に関しては出席してはならない。委員会はその学校に関するあらゆる事項についてその見解を表明する権限を有する(11章1節)。A高等学校に職員及び県の代表並びに生徒評議会選出代表2名を含む学校委員会を置く。校長は県の代表である。委員会は当該学校に関する全ての事項について見解を表明する権限を有する。生徒評議会代表の集団、職員代表の集団のいずれも単独で理事会議席の多数を有することがあってはならない(11章5節)、等と定めている。
以上の外、(7)1学級の生徒数上限について、第1-7学年は28人、第8-10学年は30人以下学級とする、高等学校普通科目は30人、専門科目は15人とする(8章3節)、(8)教育言語について、ブックモールとニューノルウェースクという両形態の国語により、かつ両形態の国語の教育をしている(2章5節)、(9)少数言語(で)の教育を重視している(2章7、8節、6章)、(10)疎少人口のため通学の運送と宿泊を重視している(7章)等の特徴がある。
(初出『日本教育法学会年報』第30号・有斐閣・2001年、202-3頁)
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