大阪教育法研究会 | | Top page | Back | |
◆200106KHK196A1L0419BJ TITLE: 行政監視運動と情報公開 AUTHOR: 松浦 米子 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第196号(2001年6月) WORDS: 全40字×419行
市民グループ「見張り番」代表世話人 松浦 米子
i) 運動の発端
すでに、本会の顧問である辻公雄弁護士の講演記録等によって市民オンブズマン運動が紹介されているところであるが、「見張り番」は、大阪市の公金乱脈事件=市幹部職員と一部市会議員による市食糧費の年間約7億円にのぼる違法支出(予算の約3倍)=の追及をきっかけに結成した市民による「行政監視活動団体」である。
全国の市民オンブズマンの草分けは1980年に誕生した大阪の市民オンブズマンである。現在、全国的に組織が広がり、行政の違法行為や浪費の是正を求める連携運動を展開し、大きな成果をあげている。全国市民オンブズマンが年々課題として取り組んだ「官官接待」(食糧費違法支出)「談合」(公共工事)「塩漬け土地」(土地開発公社による自治体の先行取得土地の5年以上放置による莫大な利子支出などのムダづかい)そして「開発・公共工事の見直し」などは、政府への影響を及ぼしている。
大阪市の公金乱脈事件から、大阪府の裏金問題へと、現在は大阪府・大阪市の問題に幅広く取り組んでいる。乱脈の土壌に落とされた「行政監視運動」の種は、その後、土壌改良や育成方法などに苦労しながら、かなりの枝を広げて少なからず花も咲かせてきたのではないだろうか。しかし、後述するとおり、大阪市の腐敗はいまだ相当な部分に残っている。
「主権在民」「住民自治」「知る権利」などを根幹に据えての市民運動の存在意義は否定できない。
ii) 「食糧費」
「食糧費」は、いまとなっては一躍有名になったが、「交際費」「出張旅費」などと違って当時私たち市民には耳慣れない言葉であった。
「食糧費」は、行政財政の予算費目「款、項、目、節(細節)」の「節・需用費」の中の「細節」であり、細節には、「消耗品費」「印刷製本費」「光熱水費」「建物修繕料」などがある。また、行政の財務会計予算・決算書は、行政機構ごとに編成されておらず、一番大きな款のあり方が1.議会費、2.総務費、3.民生費、4.環境保健費などであり、市民にはもちろん行政をチェックする議員にもその支出内容が分かりにくいものとなっている。おそらくほとんどの職員も理解できないことになっている。これでは税金の使途を監視できるはずがない。独立している教育委員会は、一応1まとまりになっていて、款が「11.教育費」である。
では、「食糧費」がなぜ予算の3倍も費消されていたかといえば、89年当時はまだ大阪市の公開条例が制定されておらず、会計文書が外に出ることもなかった頃であるから、長年にわたって庶務課だけの組織的な違法支出がまかり通っていたのである。議会議事録では、毎年一部野党議員からの「食糧費」浪費に関する質問が出されていたが、大勢与党に抑えられて表面化しないできたものである。毎夜毎夜ネオンがつく頃になると「川向こうへ席を変えよう」と市役所から川ひとつ北にある「北新地」の「高級クラブ」へ移り、2次会・3次会と深夜渡り歩く議員や幹部職員の行状があからさまになって、警察の調査が入ったという。
なお、「食糧費」の使途は、会議における茶菓や刑務所の賄いなどとされている。決して酒食を伴う宴会の費用ではない。現在はどこの「食糧費」支出文書を入手しても宴会への支出はほとんどないはずである。(しかし、姿を変えてどこかに潜んでいるのかも知れない)
後日、私たちは飲食・接待費の損害賠償請求住民訴訟ではじめてその支出の実態を知ったのである。白紙請求書(支出命令書)を大量に馴染みの店に渡しておき、ラウンジやクラブから送付されてくる請求書を庶務課が振り分けるのである。虚偽の架空口座をつくり、公金をプールして議員や幹部職員の飲食に充てていたものである。
公金乱脈事件は、「総務局長の私的支出」「議員のたかり」そして、一般職員も巻き込んだ「一律超勤手当」などが次々に姿を現した。
「見張り番」が最初に手がけたのは、総数5万人といわれる市職員に一律に支払われてきた短時間(1ヶ月4時間ないし5時間分)の超勤に対する手当であった。当時、食糧費の桁外れな違法支出に議員の追及も鈍く、さらに労働組合もなかなか追及に立ち上がれなかったのは、超勤手当の違法支給があったに他ならない。
1990年2月14日、バレンタインデーにふさわしく500人を超える請求人で、「ヤミ手当」返還を求める住民監査請求を提起したことが「見張り番」の初仕事であった。市民は、監査委員に請求すればこの件は一件落着になるものだと考えていた。ところが、監査委員はこともなげに「担当者を呼んで聞いたが、違法支出でないと言っている」から「違法でない」と監査請求を棄却・却下しつづけた。
iii) 住民監査請求
市民オンブズマン運動は、一人ひとりの権利を集合させた運動であり、住民監査請求、住民訴訟、情報公開請求など基本的にはひとりでもできる行為である。地方自治法第5章の「直接請求」にもとづく行為ではない。
住民監査請求は、地方自治法第9章「財務」の第242条1項から7項までの条項に基く行動であり、第243条の「住民訴訟」に連動する。有権者の50分の1の連署を必要とする直接請求とは異なり「住民」であれば請求できる制度である。これが威力を発揮できるのは、確かな「事実証明」が不可欠である。従って、一般的には新聞報道記事を添付して記事の内容について請求する。請求できる内容は地方自治法242条の各項により
@* 違法もしくは不当な公金の支出、 * 財産の取得、管理もしくは処分、 * 契約の締結もしくは履行 * もしくは債務その他の義務の負担がある (当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合を含む) と認めるとき * または違法もしくは不当に公金の賦課もしくは徴収もしくは財産の管理を 怠る事実があると認めるとき
となっている。「違法不当な公金支出」が最も多い。「財産の取得、管理、処分」「契約の締結、履行」について、大阪府出資の「財団法人大阪見本市協会」が経営する「コクサイホテル」破産処理の場合にあたるのではないだろうか。府の損害賠償と職員の不当利得返還などを複合して請求している。
ところが、242条2項で、請求できるのは当該行為のあった日または終わった日から「1年を経過したときはできない」と制限されているため、長年にわたる違法支出については、請求時点で1年以上経過したものを「期間徒過」を理由に棄却・却下される。
ただしがきに「正当理由」があるときはこのかぎりでない、としているが、「正当理由」には、ごく秘密裏に行われていたか、天変地異によって請求が不可能であったときなどとなっており、「秘密裏」には、あまねく市民がよほどの注意力をもってしても知ることができない場合とされ、監査委員はこのハードルで門前払いするのである。
例には事欠かないが、建設局の各地測量事務所職員が「不法占拠物撤去手当」を全員に支給していることの内部告発があり、情報公開請求で「撤去手当命令簿」を入手してみた。しかし、肝心の撤去先が個人情報を理由に非公開・墨塗りで内容がわからない。一覧表にまとめてみると、現業職員全員が月に数時間だれもが平均して同じくらいの収入になるように申請している。ところが測量事務所8カ所からの資料をとったため、相当の量であったが、その中である事務所の書類から行き先が偶然判明したのである。
なんと非公開にしている不法占拠物を撤去しに出向いた場所は、一年中同じ地域の同じ住所番地であり、数名ずつのローテーションを組んで申請簿に記入していたことがわかったのである。これも長年にわたる行為であり、文書が保存されている4年分について住民監査請求を提起したが、監査委員は「違法手当」と認定し、建設局に平成11年度の違法支給分約5500万円を返還させるよう勧告して、それ以外の請求を期間徒過で棄却した。しかし、その他の約4500万円は、建設局管理職やOBらが自らすべて請求額を返還した例がある。
住民監査請求による追及の最大の障害が「期間徒過」であり、未解決である。
そのハードルをクリアすれば、監査委員は監査を行うにあたっては、請求人に新たな証拠の提出および意見陳述の場を設け、監査した結果を60日以内に請求人に通知し、公表することが義務付けられている。「必要な措置を講ずるよう」勧告を受けた首長は、関係機関・職員に勧告された措置をし、その結果を指定された期間内に監査委員に報告する。監査委員はその報告を請求人に通知する、という順序である。
これまでの住民監査請求約50件中、返還勧告が出されたのはここ2年くらいのことであり、7件である。
iv) 住民訴訟
請求が棄却・却下された場合、あるいは結果に不服のある場合、監査委員が60日以内に結果通知を出さなかった場合、必要な措置を講じなかった場合などには、30日以内に住民訴訟を提起することになる。
後述の大阪市教委学務課の違法契約については、監査委員は、プール金のみを返還させたものの、虚偽の契約分全体については、別の物品を納入しているので市に損害はないとして棄却した。しかし、契約時に、別の物品を納入して相殺することの契約条項はなく、「前受け金」として業者が預かっていた間の利息についても返還すべきものであると考え、契約全額の損害賠償請求を住民訴訟で提起したものである。住民訴訟は、住民監査請求前置が条件となっており、住民監査請求の内容に限られる。
地方自治法242条の2を根拠とし、住民監査請求を受けて以下のような内容となっている。
1.当該執行機関または職員に対する当該行為の全部または一部の差止めの請求 2.行政処分たる当該行為の取消または無効確認の請求 3.当該執行機関または職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求 4.地方公共団体に代位して行う 当該職員に対する損害賠償請求、 若しくは不当利得返還の請求、 または、当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する 法律関係不存在確認の請求、 損害賠償請求、 不当利得返還請求、 現状の回復の請求、妨害排除の請求
などができる。
「見張り番」は、1990年に最初の住民監査請求・住民訴訟を提起してから今日まで、約20件の住民訴訟を提起してきたしたが、ひとえにボランティア弁護団の惜しみない労力によるものである。全国的にも同様であるが、弁護団の積極的な取り組みによる行政への影響および成果は大きい。「見張り番」が提起した住民訴訟では、一律超勤手当の和解なども含めて請求額のほとんど(約2億円以上)を市に返還させている。
いまや、弁護士の居ない地域あるいは少ない地域では、住民訴訟を原告本人訴訟ですすめるオンブズマンメンバーも増えつつあるが、一方で訴訟の増加に対する抑制も起こっている。政府の「地方制度調査会(委員長高原須美子)」が唐突に地方自治法の大幅な改正の答申を出した中には、住民訴訟もターゲットになっている。いわゆる242条2項の4号請求について、これまでは、原告住民側が自治体に代位して、違法行為をした職員や業者などを直接住民訴訟の相手とすることができたものを、すべて自治体(首長)を被告にするというものである。
改正の理由は、「乱訴をさけるため」「職員個人が被告とされることで職務への支障が生じることを避けるため」「職員個人の負担をなくすため」と、違法・不当行為者の責任を逃し、裁判をいたずらに長引かせるものになっている。不正に対する責任追及と再発防止よりも、行政・職員の都合を優先させ、司法改革が提唱している「迅速な裁判」にさえ矛盾するものとなっている。
日弁連をはじめ法律家をはじめとして、反対する意見書がだされている。私たちは、行政監視運動と並行してこうした制度改悪にも取り組まねばならない。最近では、民事訴訟法でも「司法改革」に便乗して「敗訴者負担」の導入で、弱者や公益のための市民の裁判提起を萎縮させる改革案が出され、私たちは意見書提出や署名運動など大々的に取り組み、「一律導入をしない」ところまで答申の中身に影響を与えたが、法案成文がどのようになるか、いまだ予断を許さない状況である。
いま、「見張り番」のホットな取り組みは、全国的にも例のないほど逮捕者を出した公共工事の談合・収賄事件である。この2年間に、大阪府議会議員4人(内議長経験者2人)、大阪市会議員2人(元議長一人)、府および市の職員3人が逮捕されている。風聞によれば、大阪府議会議員の逮捕予定者がまだまだあるという。
これらの「入札競売妨害、あっせん収賄罪」事件は、刑事裁判が先行しているために、住民訴訟は他の裁判に比べて事情や証拠などを刑事記録により知ることができるので、負担が少ない。
既に刑事罰が確定している事件もあり、これについては、大阪府知事が損害賠償請求を怠っていることを問題にしている。さすがに財政破綻の大阪府では、自治法の規定にあるように、知事自ら損害賠償請求を起こす方向のようである。
また、実際には原告の主張がめったに通らないといわれる「差止訴訟」には、オリンピック招致のための「北港テクノポート地下鉄建設差止」請求や府の外郭団体「財団法人見本市協会」経営のコクサイホテル破産処理に51億円の公金支出は違法であるとの差止請求がある。「北港テクノポート地下鉄差止」は、7月13日のIOC委員による2008年開催地決定の結果とも相まってその進展が注目されるところである。
住民監査請求・住民訴訟とならんで、行政監視活動に不可欠なのが情報公開請求である。「情報の公開」があってこそ「行政監視活動」が成り立つといっても過言ではない。「情報は民主主義の通貨」と言われるように、「公正と透明を求めるオンブズマン運動を支える強力な道具である。
i) 地方自治体の情報公開条例
昭和50年代初期に地方自治体からはじまった公開条例の制定は、遂に国の法律(国の保有する情報の公開を求める法)を成立させ、ことし4月1日から施行された。
大阪府の条例は全国でも3番目に制定されるなど、先駆的な役割を果たしてきたといえる。1984年であったか、大阪高法研でも伊藤氏がいちはやくこれに注目して、当時の「青焼き」といわれる湿複写による条例案で学習した記憶が蘇る。大阪府条例案作成には一部府民が関わったこともあって、前文に「知る権利」を明記するなど全体的には府民に配慮したものとなっている。運用にあたっても大阪市などと比較すると職員全体の情報公開に対する理解度もよく、公開度も高い。ちなみに全国市民オンブズマンが毎年公開度ランキングを発表し、昨年度第5回の発表であったが、大阪府はついにベスト10位に入った。大阪府の成績は、第1回16位、第2回14位、第3回11位、第4回12位である。大阪市は政令市12市のうち、第1回が8位、第2回6位、第3回6位、第4回9位、第5回が9位と失格市を除くと最低位である。都道府県の中に入れると、32位に位置する。
国の情報公開法が制定されるに伴い、各自治体で既に制定されていた条例が国との整合性をもたせるために、「改正」されたところが多い。しかし、市民との関わりの中で蓄積されてきた公開度や利用しやすさなどが、この改正によって後退した部分も少なくない。
ii) 国の情報公開の問題
本年4月1日からスタートした国の情報公開法は、答申策定時から各自治体の請求活動をしている市民の熱い関心と注目のもとに、審議会委員に対して要望を出したりヒヤリングで意見を述べたり、市民が関わってきた。関西からの注文はなんといっても、情報公開に関心ある弁護士などを中心に「裁判管轄を地方にも」を重点的に訴えたことであった。
幸い、高等裁判所管轄地で提訴できることになったが、私たち市民の立場になると、それだけで良かったのか疑問も残る。「知る権利」の明記もなく、不開示理由が個人識別型になり、やたら「おそれ」を入れたり、手数料や閲覧料を設定したり、実際に請求してみると至って使いにくいものになっていることを痛感している。
窓口に備えられたパソコンでの文書特定もそれほど役にたたず、備え付けられたパソコンを無視して、窓口担当者に直接求めるか、打出された文書ファイルで調べる方が求める文書に早く辿り着く。
前進面は、「公文書公開条例」が「情報公開条例」になり、決裁・供覧を受けた文書に限らず、職員が組織的に用い保有しているメモなども公開対象となった。また、国に合わせて自治体の住民に限っていた請求権を「何人も」に改正されたこと、行政の「説明責務(責任)」が明記されたことなどがある。しかし、手数料や閲覧料の徴収、徴収の方法などは改善が急がれる。
昨年取り組んだ問題で、これまでになかった教育委員会の分野が加わった。大阪市の教育委員会の腐敗ぶりを象徴する事件である。
i) 発端
2000年3月中旬、大阪市教育長と株式会社「学校事務機センター」(この社名がまぎらわしい)との「リソグラフ印刷機」購入契約書、仕様書、納入先学校名の3点セット文書の写しが10件分郵送されてきた。納入日は、平成9年と11年のいずれも3月31日で、2700万円から700万円までの納入額であった。つまり、いずれも年度末ぎりぎりの納入契約であり、その契約金額の大きさが特徴であった。追って、男性から電話があり、その契約すべてが「架空」で、長年続けられてきたとのことであった。多額の公金を支出させるために、学校現場では使用しない「丁合機」や「TP作成機」などの購入契約をしたことにした架空契約額は数億円になるという。ことしこそ告発を決心したとも付け加えて電話が切れた。電話のむこうから身元が判明することを怖れている様子が伝わってきた。
何億円もの架空契約だと送られてきた契約書をそのまま信じて住民監査請求の事実証明書に添付して提出しても、これまでの経験から、監査委員が内部調査して「架空」契約と認めるかどうかは甚だ疑問であるし、その契約書以外の「印刷機購入」まで調査はしないことが予測できる。住民監査請求は、特定した内容の範囲での調査となっている。「違法」を証明する必要があることと、監査委員は市民の訴えよりも市職員の説明を採用するので、すべて契約通りに各学校に納入されていた「違法でない」と監査結果を出すことも十分考えられた。なんとしても「違法」を探し当てねばならないが、ここから先が市民にとっては大変な負担である。
ii) 情報公開の問題点(真実の情報、全面公開とは)
「印刷機」だけでなく「平成10年度の学校備品の購入に関する文書」を公開請求するところからはじめた。すでに納入されている契約なので「印影」以外に「墨塗り」のない書類が出てきた。次に「印刷機」の購入状況を要求したところ、教育委員会学務課がすべての書類を調えるのが大変なのか、平成9年から11年度までの「印刷機」購入の一覧表を作成して提出してくれた。しかし、これだけではどれが違法でどの契約が適法か不明である。「印刷機」の購入契約といっても、本来は、各学校現場から事務センターへ発注し、事務センターが業者と契約を交わして学校へ納入させるルートになっている。もうひとつのルートは、教育委員会学務課に毎年度末に集まる学校配分予算の未消化分(年平均1億5000万円)について、学務課が直接購入契約するものがあったのである。
一覧表は、いわば「架空契約」を目立たなくするものに他ならなかった。各年度の一覧表には、納入日毎に納入先の学校名が記されていたので、告発の書類と照合してもなかなか合致するものはなかった。ただ、最後の2行に納入先学校数と契約金額のけた違いに大きいものがあった。これについて説明を求めたところから、いよいよ核心に迫ったのであった。しぶしぶ学務課は「現場の申請を受けて」「年度末の未消化予算で」「購入契約」している分だと説明した。
そこで、学務課契約の書類のみを公開請求した。告発文書と合致するものにようやく手が届いた。しかし、公開された文書は一応揃っている。収入役室も疑義がないから支出命令通りに公金を業者の口座に振り込んでいる。
公開された情報だけでは、違法不当な支出かどうかわからない。すべて「虚偽」に基づき「整って」作成されたものからは、市民は不正を見つけることはできない。情報公開の落とし穴でもある。公開された書類の山を目の前にして考え込んだ。納入先の学校名の教員数人にそれとなく印刷機が納入されているかどうか尋ねてみた。どの先生も「ああ、ありますよ」と言われる。教師は学校に備品さえ充実すれば、それがどういう購入方法であれ関係ない。また、購入ルートさえ分からないのが実情である。そこで、事務職員にも尋ねてみた。しかし、事も無げに「教育委員会から予算が余った分で購入したからと、格安あるいはタダで配布してくる備品はあるよ。学校は助かる」と言われたので、これでは「けしからん」理由がないのかとこれまでの「不正」追及の高まりがしぼんでしまった。
しかし、おかしい。予算未消化分がすべて契約通りに納入されるのだろうか。納入先学校はどうやって決めるのだろう。本当に学校現場から申請があがっているのだろうか。まず、学校からの申請書を請求したいと言ったら、担当者の一人は「ある」といい、ひとりは「文書はない」という。校長から口頭で要望を受けるという。これでは、すべての学校から備品要求を公平に受けていることがないのは確かになった。
本当にすべての印刷機が契約書通りに納入されているのだろうか。なぜ、事務職員はタダで配布される備品のルートや全体の予算配分を捉えようとしないのだろう。もう一度数校に学校予算で買えないけれど現場で欲しいものをまとめて学校長に提出しているか、と聞いてみた。みんな、「そんなことはこれでに一度もない。校長が今年度買えなかったけれど必要な備品は?などと聞かれたことなどあり得ない」という答えであった。しかし、一部の先生からは、「今年転任の校長は、教育委員会に顔が利くから欲しいものがあったら言いなさい。入れてもらうから」と個人的に言ったことがあり、まもなく校長室に立派な応接セットや肘掛け付きの執務椅子が入ったということも耳にした。ますます疑問がふくらんでくる。未消化予算のある部分は校長が個人的に利用できるものであることがぼんやり分かってきた。すべてではなく一部の校長であろう。そこで、まず虚偽の契約であることを確かめることが先決と考えた。
初心に返り常識に立ち返ってみることにした。納入した「証明」書を要求しよう。市教委公文書公開担当に電話で問い合わせてみた。「納入したことのわかる文書」を請求したいと伝えると、「内部で作る検査調書がありますが、それよりも学校長押印の納品書(受領書)の方が信用できるでしょ。納品書を業者から取り寄せるから見てください。これは、公文書ではないから閲覧だけですが」と言われた。なぜ?いつもであれば「公文書以外のものは出せない。第3者文書は第3者の承諾が必要」などとめったに入手も閲覧もできないのに、今回は職員が作成した公文書よりも業者の受領書を優先している。後日わかったのであるが、この「検査調書」こそ「虚偽公文書」の仕上げの書類だったのである。作成した職員をかばってのことであったと思う。
さて、納品書の山を揃えてくれて、閲覧の日がきた。行政資料センターの公開窓口に担当職員が3人揃って現れた。課長代理が「本日は、鎧も兜も脱いでお話します」と奇異なことを言う。「これまでは鎧も兜も着けていたということ?市民には鎧と兜を着て対応することになっているんですね」と言うと「いや、なにもかもお話しますという意味です」「はい、いつもそうあるべきですよ。あなた方には説明責務があるんですから」
平成10年度印刷機の納品書54校分を前にして、学務課は「ちゃんと納入しています」と、数枚確認して終わると思ったのかも知れない。そうは問屋が卸さない。腰を据えて「では、一枚一枚全部確認しましょう」と納入先学校名毎に契約書と納品書をつき合わせていった。ところが、平成11年3月31日納期の契約であるにもかかわらず、初っ端から平成10年8月の納入など、3月31日に納入されたものは1校もなかった。これでは納品書をいいかげんなものを揃えてきたのか、実際に印刷機が納入されないで契約通りに支出された公金が別のところへいっているのか、である。
「どういうこと?」「はい、それが本日なにもかもお話しますということです。やってはならないことをやっていました」「そうでしょう。なぜもっと早く真実を言ってくれなかったのですか?」「申し訳ありません」と頭を下げている。
しかし、こんなに職員が市民に簡単に頭を下げ非を認めることはない。(入り口のごめんなさいで奥へ入らせない作戦ではないか)と直感した。まず、入り口の「非」だけでも固めよう。納品書も欠落したものもあった。中にはブルーの業者納品書の中にオレンジの「学校事務センター」の納品書が混じったりしてあった。2台の注文に対して1台の納品もあった。次に、学務課職員の作成する検査調書を確認する必要がある。「検査調書」は、契約どおりの備品(印刷機)が発注先の学校に確かに納入されたという証明書である。「完納」と「分納」欄があって、すべての書類は「完納」にマルがついていた。納入検査も契約日に納入数すべてが「合格」で「不合格」品はゼロであった。検査職員は学務課長、直接補助する係長には企画調査係長と補助職員3名が署名押印して数千万円の検査調書を発行しているのである。「その書類が虚偽です」と自ら認めた。
あとは、新聞記者が、公金が業者にプール、それも印刷機だけでなく学校備品のすべてにわたり他に3業者にもプールされていることを突き止めて報道した。請求人に謝ってことが済むはずがないことくらい承知していると思っていたが、報道された後に文書公開で会った担当者は「信頼して全部お話すれば理解していただけると思ったのに」と言った。こういう神経こそ大阪市の構造腐敗を物語っていると言えるし、市民はとうてい理解も許しもできない。しかし、大阪市教育委員会は、架空契約でプールした公金は印刷機こそ納入しなかったが、その都度学校現場で必要なものを納入し、相殺しているからと、それほど反省も改善もせず、監査結果が出る前に早々と19人を訓告などの軽い処分で済ませてしまった。
監査委員は、プールされている額約9500万円を業者に返還させるよう勧告を出したが、監査委員もまた違法契約を認めながら、9億6500万円については市が損害を受けていないとして措置をしなかった。
iii) 第2次裏金プール
ところが、この監査結果の違法契約一覧表を見ているとおかしいことに気がついた。監査委員がすべての契約を違法と認めて、一部返還勧告を出しながら、同一契約の中から「インク・マスター」の消耗品契約分を除いている。なぜ、消耗品は適法なのか。そこで、消耗品契約文書をすべて請求した。その契約内容を見て驚いた。市立高校25校のすべて、中学校、小学校、幼稚園と莫大な量(50箱から100箱)の印刷機用消耗品を契約している。「消耗品だから使ってしまって納入確認はできない」という言い訳が通用すると思ってのことだろうと予測していたら、その通りの説明をしてきた。
学務課は、納入を確認できないだろう、で済まそうとしている。ここでも常識を働かせねばならない。まず、監査結果について、監査事務局に説明を求めた。「いや、調査段階で、消耗品も入っていることに気がついていましたよ。しかし、これについては納品したという証明を見せてもらっていますから、確かに納入されていますよ。それにあの監査請求では備品について調査していましたから」と涼しい顔で答える。
年間どんなに多く使うところでも、200本のマスターを使うことはない。まして、幼稚園などは50本も使えない。そのうえ、今回はあくまでリソグラフ印刷機用のインク・マスターであるから、それだけではない。各校園では複数のメーカーの印刷機を使っているところがあり、他のメーカーの消耗品も注文するから、リソグラフ用インク・マスターだけではない。ところが、監査事務局はなんとか住民監査請求を提出しないように仕向ける。「現場調査で見ましたが、インクの30箱や50箱を置くスペースはどの学校にもありますよ」「スペースの問題ではありません。印刷機用インクなどを買い置きしても品質が劣化することも考えられますし、その都度補給するものですよ。多い学校でも同一機種でマスター20本か30本でしょう」「いや学校はたくさん印刷しますから」と事務局。いったい何のために、どういう立場でこんな応答をするのか。最後の留めはこうであった。「それよりも、この件はまだ新聞にも報道されていませんし、なにか証拠でもあるのですか」という。これにはさすがに頭にきて、「新聞報道以外に証拠を認めないのですか?以前には新聞報道だけでは証拠にならないと言って却下したこともあるではないですか」と、即座に新聞記者に連絡して同席してもらった。
しかし、何よりの証拠は、監査委員自ら認めた「学校備品購入契約書等一連の文書」である。同一文書の中で「消耗品契約は適法」と証明の義務は市民にない。契約書関係文書を事実証明に添付して住民監査請求した。当然のことながら、監査委員は、私が提出した以上の約2億5000万円を違法と認め、第1次通りプール金約8000万円の返還を勧告したのである。
この場合には、インターネットのホームページで、配布先学校名と配布数と納入期日を記載して、本当に配布されたかどうかの情報を呼びかけた。また、25校の市立高校事務長あてにアンケートを送信したが、2校から即日配布なしの回答が来たきりであとは緘口令が敷かれたのであろう、音沙汰なしであった。これを公務員の守秘義務だと勘違いしている。
中学校、小学校、幼稚園にはごく親しい先生や親から情報を得た。印刷機消耗品は学校現場からすべて残量を見て発注しているから、学務課から直接配布を受けることがないことがほぼ固まった。メールでも配布がないと数人からあった。
以上が第2次違法契約事件である。
iv) 第3次裏金プール
ところが、情報公開で入手した消耗品契約文書の中に、同類の別業者の書類があった。これも同じパターンである。住民監査請求の記者会見で、第3次があることを予言しておいたら、監査委員は住民監査請求を待たずに自らの「随時監査」を行い、別業者の違法契約を明らかにした。平成11年度分のみであるが、その額約5600万円を返還勧告し、6750万円を違法契約とした。しかし、平成7年度から平成10年度までの違法契約は2億5700万円であり、プール金は1億300万円が明らかにされている。大阪市教委の違法契約、業者との癒着は底なし沼である。
このあと、監視運動のこれからについて書く予定であったが、分量が多くなってしまったので、以上で区切りたい。しかし、今回の違法契約事件追及に取り組んでみて実感したのは、学校教員がいかに法律・規則の外で生活しているか、遵法感覚に乏しいかである。教育法研究会発足のそもそもの趣旨は、「各学校現場に法律知識のある教員を」ということであったと思う。これでは児童・生徒の人権がいつまでたっても守られるはずがない。一方で、情報公開が急速に進む中、個人情報の漏洩には無神経であるのに、学校情報にはやたら過敏で、大阪市の「職員会議録」は書式も一定にして公開しても問題のない文書を作成するように神経を使っている。
学校情報といえば、およそ規則・規律、成績・評定などが問題にされるところであるが、学校配分予算については教職員も親もそれほど関心をもたないのはなぜだろうか。長引く不況で学校現場では徴収金の納入が困難と聞く。一方で、問題があると学校現場には収支の瑣末にやたら厳しい目が注がれ、職員の判断力を抑えてしまう傾向になる。
学校予算、学校維持運営費の収支を教職員や親がいつでも閲覧できるように、備え付けて置くことを提言したい。学校側の説明責務が果たされねばならないのは言うまでもない。教育法研究会の役割はまだまだ大きいと思う。
2001/06/20
トップページ | 研究会のプロフィール | 全文検索 | 戻る | このページの先頭 |