◆200406KHK214A2L0209BE
TITLE: 学生支援機構奨学金制度について
AUTHOR: 遠藤 亨
SOURCE: (2004年6月、事務局宛メール)
WORDS: 全40字×209行
学生支援機構奨学金制度について
埼玉高法研 遠 藤 亨
このたび、わが子の通う大学に、日本学生支援機構奨学金制度の運用について、当該大学の裁量で「第一種奨学金」と「第二種奨学金」の併用をさせない旨の規定を設けていることについて、質問を寄せ、当該大学より回答が得られましてので、そのやり取りをお知らせいたします。
東京電機大学奨学金ご担当 様
学生支援機構奨学金制度に関する質問をさせていただきます。なお、悪文、失礼な点は前もってお詫び申し上げます。
独立行政法人日本学生支援機構は、その目的について「教育の機会均等に寄与するために学資の貸与その他学生等(大学及び高等専門学校の学生ならびに専修学校の専門課程の生徒)の修学の援助を行い、大学等(大学、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校)が学生に対して行う修学、進路選択その他の事項に関する相談及び指導について支援を行うとともに、留学生交流(外国人の受入れ及び外国への留学生の派遣)の推進を図るための事業を行うことにより、我が国の大学等において学ぶ学生等に対する適切な修学の環境を整備し、もって次代の社会を担う豊な人間性を備えた人材の育成に資するとともに、国際相互理解の増進に寄与することを目的とする」としております。
これは、「憲法」および「教育基本法」の精神にのっとり「教育の機会均等」の具体化をするためと解されます。
さて、本制度(独立行政法人日本学生支援機構奨学金制度、以下単に「本制度」といいます)は併用が可能な制度であり、貴大学(東京電機大学、以下単に「貴大学」といいます)のホームページにおいても「併用制度」を紹介し「第一種奨学金の貸与のみでは学業継続が困難な者に対しては、第二種奨学金をあわせて貸与することがあります」としております。
ところが、貴大学では入学後の申請を行う際、「第一種奨学金(無利子)」と「第二種奨学金(有利子)」の併用ができない旨の規定を設けております。
これでは、申請の際、相対的に少額の奨学金で済む学生においては、「第一種奨学金(無利子)」と「第二種奨学金(有利子)」の両方を選択する余地はありますが、多額の奨学金貸与を必要とする経済的により困窮した学生においては、有利子の「第二種奨学金」のみを選択して応募するほかなく、逆進性が出現する事態となっております。
このような現象は、
@「平等原則(憲法14条)」および本制度の目的とするところの「教育の機会均等」に反すると思われますがいかがでしょうか。
Aまた、本制度は、その目的とするところから、教育・研究の社会権的保障に資することから「実質的な平等」についても、少なからず目指すものと解されますが、運用において経済的な逆進性は「形式的な平等」の原則に照らしても、疑問があると思われますがいかがでしょうか。
Bさらに、学校(学校教育法)の「公の性質」にかんがみ、本制度を運用する際に、単に利用者(学生)を多くするということを主たる目的にするのではなく、本制度の目的に即し、教育の機会均等の実現のため「実質的な平等」を目指すべきであり、したがって、多額の奨学金貸与を必要とする経済的により困窮した学生に対し、「第一種奨学金(無利子)」と「第二種奨学金(有利子)」の併用申請を実施すべきと考えますがいかがでしょうか。
なお、ご多用中、誠に恐れいりますが、この質問へのご回答は10日以内にお願い申し上げます。また、ご回答は公表することがありますので、ご承知おきください(公表する際は、個人情報を除き全文正確にいたします)。
敬具
2004年5月25日
東京電機大学学生父母
平成16年5月31日
遠藤 亨 様
東京電機大学**学部
事務** ** *
前略 理工学部の運営にあたりましては、ご協力を賜り御礼申し上げます。
早速ではございますが、お問い合わせのありました日本学生支援機構奨学金制度に関する質問について、ご回答申し上げます。
理工学部事務部では、日本学生支援機構の「第一・二種奨金」について、いかに公平に希望する学生に配分するかについて常に配慮しながら選考を行っています。特に、近年の長引く経済不況のため、切実に奨学金を希望する学生が増えながら、「第一・二種奨学金」の枠は限られているという状況の中で、選考に苦慮してきた実情があります。そこで、より多くの希望者に奨学金が配分できるようにすることを最優先とし、「第一種奨学金」と「第二種奨学金」の併用はしないとの選考方針を定め、現在に至っています。
選考方針をこのように定めたもう一つの理由として、日本学生支援機構のほかにも、各種自治体・財団等の貸与・給付の奨学金があること、さらに本学独自の奨学金があり、より困窮度の高い学生に対する支援の道が開かれていることがあります。しかしながら、多額の奨学金貸与を必要とする経済的により困窮した学生は「第二種奨学金」を選択して応募するほかない、というご意見も一理が有ると考えます。また、ここ1・2年は国の奨学事業が充実してきており、本学部に配分される枠も増えつつあります。
ついては、今年度の選考状況等も勘案し、来年度以降の選考方針については、再度、理工学部内で検討したいと考えております。
最後になりましたが、貴重なご意見を頂き、真に有り難うございました。今後も、お気付きの点がございましたら、お寄せ頂くようお願い申し上げます。まずはご連絡申し上げます。
草々
東京電機大学**学部
事務** ** * 様
貴「平成16年5月31日付」にてご回答を頂き、まことにありがとうございます。
また、当方といたしましては、既に貴大学(東京電機大学理工学部)において、正式な意思決定機関にて議論を行った結果であると推察いたし、当該決定に至る過程についても適正であったと信頼するものでございます。
さて、本制度(日本学生支援機構奨学金制度)の運用上の問題につきましては、当該機構(日本学生支援機構)の解釈や、前年度立法化の折に付帯決議(衆議院にて)された事項との整合性ならびに、立法における付帯決議の法的拘束力の問題につきましては、高度な法の理解と実例の批判・検討が必要と考えられます。また、自治権を有するところの大学自らが「教育の機会均等」に資するため、本制度の運用を如何に適切に行っていくかという決定権を持つことは重要であり、このような自治権を持つことは高等教育機関として、研究機関として当然のことと理解いたします。それゆえ、決定と執行については、直接、学生に対してはもとより社会に対しての責任(説明責任を含む)を持つものとも思います。
これらの点につきましては別途、専門家(教育法学等)による検討、(あるいは個別の紛争処理の結果)を待たねばならないことと理解いたします。
しかしながら、誠に僭越ではございますが、貴大学において今年度の本制度申請の折、併用できる旨の記載事項がある当該支援機構の申請用紙に、貴大学の指示により、本人の意に反して「併用を希望しない旨」の申請内容を記載せざるを得ず(そうしないと貴大学では受け付けてもらえないため)、また、当該大学の受験や、合格後の入学の諾否選択の際、学生支援機構が提供する情報ならびに、大学案内等の貴大学が提供する奨学金に関する情報の両方を読んでも、併用できない旨の記載がなく(学生・父母が知ることとなったのは、たしか4月9日付けのA3判プリント「日本学生支援機構奨学金募集について」であったと思います)、したがって社会通念上、あるいは一般的注意義務をもってしても、当該大学が、2種類ある支援機構奨学金の併用ができない旨の利用制限を学生に課している事実が判明でき得ないと考えられます。
よって、この点につきましては、貴大学の不作為ではないかと思料いたします。告示や表示は、準法律行為であっても、表示者がその内容に拘束される場合があろうかと思います(なお、当方側の資料が誤っていた際は是非ご指摘ください)。
ご多用中誠に恐れ入りますが、本件につきましては是非、責任ある機関(学部・理事会・教授会等)にお伝え頂き、あわせてご検討・ご改善をお願いいたしたく思います。
今後とも学生、地域に対し、教育・研究、生涯学習充実のため、また、科学技術・産業(ものづくり)発展のためご尽力ください。
なお失礼な点はお詫び申し上げます。敬具。
2004年6月1日
(追申)
東京電機大学**学部
事務** ** * 様
お手数をおかけ致します。先に(6月1日19:09)送信致しました分に追申をお送りいたします。当方にて「日本学生支援機構」に電話で問い合わせた事項(要旨)をご参考としてお知らせさせていただきますので、先ほどのものと合わせてご検討くだされば幸いに存じます。
先ず、大学の裁量で併用をさせない規定は認めているか?という問いに対して同機構は「大学の裁量で利用者枠の拡大のため、併用をさせない大学の規定も認めている」との回答を得ております。
また、私が指摘した「逆進性」すなわち、多額の奨学金貸与を必要とするものに対して「有利子奨学金の貸与」となり、相対的に小額で済むものに対しては「無利子奨学金の貸与」という行政機構としてのサービス給付は、経済的な「逆進性」となり、運用の面で、法律に基づく給付の原則に照らし違法ではないか?という、問いに対しての同機構の回答は、「日本学生支援機構奨学金制度は、選択制であり、また、併用も選択可能な制度であるので、併用しないことが申込者の意思によるものとして扱っている」ということだそうです。
貴大学に於かれましては、既にご研究・ご議論されておられるため、お解かりかと存じますが、同機構の回答の誤り(あるいは恣意的な作為)は、少なくとも、「教育機関ごとに裁量範囲で条件を付けて募集する主体である大学の意思」と「個々の申請者である学生の意思」がすり替わることを容認している解釈をしている点であります。
以上、ご参考までに。 早々
2004年6月2日(追申の分として)
平成16年6月4日
遠藤 亨 様
東京電機大学**学部
事務** ** *
前略 「平成16年5月31日付」回答に対し、貴重なご意見を頂き真に有り難うございました。
ご指摘のとおり、併用できないことについて、ご父母ならびに学生の皆さんへの事前の周知が欠けておりました。事務部としては、配慮が足りなかったと反省しております。来年度については、この事も含めまして、再検討を行うことといたします。
ご承知のように、私立大学は国より税金から補助金を受け、かつ高額の学費をご父母の皆様に負担頂いておりますので、説明責任があることは重々承知しております。
とかくこれまで大学は閉ざされた社会であり、安穏とした状況であったかとも思いますが、今後は業務の適正化を図り、社会からのご批判に耐えられるように改善することが責務であると考えております。事務部においても常に自己点検を怠らぬよう、努力いたしますが、ご父母の皆様方から忌憚のないご意見を頂ければ幸いと存じております。どうぞよろしくお願いいたします。
まずは、ご報告と御礼を申し上げます。
草々
上記のようなやり取りですが、電話で問い合わせた日本学生支援機構の回答に強く疑問を抱きます。
「大学の裁量で利用者枠の拡大のため、併用をさせない大学の規定も認めている」といい、私の指摘の「逆進性」については「日本学生支援機構奨学金制度は、併用も選択可能な制度であるので、併用しないことが申込者の意思によるものとして扱っている」ということだそうです。また、「このような事例は多くある」そうです。
このような制度(の運用)では、当該大学に入学した学生のうち、最下層に「利子を課す奨学金」をあてがい、中間層に近い者にはより利益を与える「無利子の奨学金」をより多く分布させるというねらいがあるのだろうと思います。他の私立大学も多くはこのような制度の利用を行っているとしたら、無利子貸与制度(第一種)は経済的に最下層の学生には届かないということになります。
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