◆200410KHK216A2L0350CH
TITLE:  [対照表]教育基本法と与党教育基本法改正に関する検討会「中間報告」
AUTHOR: 井前 弘幸
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第216号(2004年10月)
WORDS:  全40字×350行


[対照表] 教育基本法と与党教育基本法改正に関する検討会「中間報告」



教育基本法
(1947年3月31日)

「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(中間報告)」
2004年6月16日

 
  与党教育基本法改正に関する検討会においては、これまで教育基本法に盛り込むべき項目及び内容について検討を深めてきた。検討にあたっては、次の4点を前提としてきた。
@教育基本法の改正法案は、議員立法ではなく、政府提出法案であること
A改正方式については、一部改正ではなく、全部改正によること
B教育基本法は、教育の基本的な理念を示すものであって、具体的な内容については他の法令に委ねること
C簡潔明瞭で、格調高い法律を目指すこと教育基本法に盛り込むべき項目については、次のようにした。

 各項目に盛り込むべき内容については、現時点でのとりまとめは別紙のとおりである。なお、それぞれの項目及び内容については、
・現行法前文中の「憲法の精神に則り」の扱いについて
・国を愛する心について
・宗教教育及び宗教的情操の内容と扱いについて
・義務教育制度について、特にその年限の扱いについて
・中等教育の意味と高等学校、大学の位置づけ
・職業教育について
・幼児教育と家庭教育について
・教育における国と地方の役割について
・私学振興と憲法第89条とのかかわりについて
・教育行政における「不当な支配に服することなく」について
・学校教育における学習者の責務について
などの論点があり、さらに検討を要するものである。

  われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
  われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。
  ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。
 前文  


○法制定の背景、教育の目指す理想、法制定の目的

 「憲法の精神に則り」の扱いが検討事項
 現行基本法が日本国憲法との密接な関係を明記するのに対し、「改正」内容の多くが違憲。改憲を目指す立場との関係。「改正」派にとって、前文はまったく異なるものにする以外にない。

第1条(教育の目的)
  教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 教育の目的  


○教育は、人格の完成を目指し、心身ともに健康な国民の育成を目的とすること。

「平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた」の現行法の基本理念を削除。
 ――したがって、教育はこれらの否定を目的とする。――教育の目的は、自主的精神を持たない国家に従順な「国民の育成」

第2条(教育の方針)
教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
 教育の目標  


○教育は、教育の目的の実現を目指し、以下を目標として行われるものであること。
@真理の探究、豊かな情操と道徳心の涵養、健全な身体の育成
A一人一人の能力の伸長、創造性、自主性と自律性の涵養
B正義と責任、自他・男女の敬愛と協力、公共の精神を重視し、主体的に社会の形成に参画する態度の涵養
C勤労を重んじ、職業との関連を重視
D生命を尊び・自然に親しみ・環境を保全し、良き習慣を身に付けること
E―1伝統文化を尊重し、郷土と国を愛し、国際社会の平和と発展に寄与する態度の涵養
E―2伝統文化を尊重し、郷土と国を大切にし、国際社会の平和と'発展に寄与する態度の涵養

「道徳心の涵養」「公共の精神」「良き習慣」等――内心と日常生活への介入。
「能力の伸長」「創造性」「自律」――新自由主義と能力主義
「健全」???
「伝統文化を尊重」「郷土と国を愛す」――愛国心の強制

第3条(教育の機会均等)
@すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。

A国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。
 教育の機会均等  


○国民は、能力に応じた教育を受ける機会を与えられ、人種、信条、性別等によって差別されないこと。

○国・地方公共団体は、奨学に関する施策を講じること。

「すべて」「等しく」「なければならない」を削除。「社会的身分、経済的地位又は門地」による差別禁止を削除。「経済的理由による修学困難への奨学」義務も削除。−−国家に課された機会均等義務を全面否定。

第4条(義務教育)
@国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

A国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
 義務教育  


○義務教育は、人格形成の基礎と国民としての素養を身につけるために行われ、国民は子に、別に法律に定める期間、教育を受けさせる義務を負うこと。
○国・地方公共団体は、義務教育の実施に共同して責任を負い、国・公立の義務教育諸学校の授業料は無償とすること。

「国民としての素養」−−国家の定める国民像
「保護する子女に」→→「子に」
「九年の普通教育」→→「別に法律に定める期間」
「国・地方公共団体は、義務教育の実施に共同して責任」(権限問題にすりかえ。)

第5条(男女共学)
  男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであつて、教育上男女の共学は、認められなければならない。
全部削除

 男女平等と男女平等教育の否定。自民党憲法調査会は、憲法24条の婚姻・家庭生活における両性の平等を見直すことを提言。(2004年6月10日)

第6条(学校教育)
@法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。

A法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。
 学校教育  


○学校は、国・地方公共団体及び法律に定める法人が設置できること。
○学校は、教育の目的・目標を達成するため、各段階の教育を行うこと。
○規律を守り、真筆に学習する態度は、教育上重視されること。

「公の性質をもつもの」を削除。教育の公共性を否定。「株式会社立学校」等新自由主義的市場原理を前提。
「規律を守り、真筆に学習する態度」→学習者の責務。態度の強制。→「切り捨て」を前提。


 教員  


○教員は、自己の崇高な使命を自覚して、研究と修養に励むこと。教員の身分は尊重され、待遇の適正と養成・研修の充実が図られること。

「全体の奉仕者」を削除。「全体の奉仕者」として、教員個々が職責の自覚に基づいて行動するための「身分保証」や「待遇の適正」ではなく、国家が定める「自己の崇高な使命」のために働け。その限りにおいての「身分保証」や「待遇の適正」。

第7条(社会教育)
@家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。

A国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。
 社会教育  


〇青少年教育、成人教育などの社会教育は、国・地方公共団体によって奨励されるものであり、国・地方公共団体は学習機会の提供等によりその振興に努めること。

 生涯学習社会への寄与  


○教育は、学問の自由を尊重し、生涯学習社会の実現を期して行われること。

「図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用」等予算措置の必要な具体の項目を削除。予算措置義務の解除。


 家庭・学校・地域の連携協力  


○教育は、家庭、学校、地域等の連携協力のもとに行われること。

 家庭教育  


○家庭は、子育てに第一義的な責任を有するものであり、親は子の健全な育成に努めること。国・地方公共団体は、家庭教育の支援に努めること。

  家庭教育の項を新設。「家庭は、子育てに第一義的な責任を有する」と家庭への責任転嫁。かつ一方で、「国・地方公共団体は家庭教育の支援に努める」とし、国家・行政による家庭教育への介入を規定する。


 幼児教育  


○幼児教育の重要性にかんがみ、国・地方公共団体はその振興に努めること。

 大学教育  


○大学は、高等教育・学術研究の中心として、教養の修得、専門の学芸の教授研究、専門的職業に必要な学識と能力を培うよう努めること。

 私立学校教育の振興  


○私立学校は、建学の精神に基づいて教育を行い、国・地方公共団体はその振興に努めること。
第8条(政治教育)
@良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。

A法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
 政治教育  


○政治に関する知識など良識ある公民としての教養は、教育上尊重されること。

○学校は、党派的政治教育その他政治的活動をしてはならないこと。

◎「良識ある公民たるに必要な政治的教養」→「政治に関する知識など良識ある公民としての教養」=主権者としての「公民」から、被統治者としての「公民」
◎「党派的政治教育その他政治的活動」とは、政府や政策を批判する可能性のある教育は、「法の名において断罪する」ということ?

第9条(宗教教育)
@宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。

A国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
 宗教教育  


○宗教に関する寛容の態度と一般的な教養並びに宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されること。

○国・公立の学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならないこと。

  宗教に関する「一般的な教養」の教育上の尊重規定の挿入。「一般的な教養」を口実として、靖国神社をはじめとする国家神道の学校教育への導入の可能性。中教審答申等のおける「宗教的情操の涵養」と「道徳教育」を結びつけた「修身」教育。

第10条(教育行政)
@教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。

A教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
 教育行政  


○教育行政は、不当な支配に服することなく、国・地方公共団体の相互の役割分担と連携協力の下に行われること。

◎「教育は、不当な支配に服することなく」を、「教育行政は、不当な支配に服することなく」に変更。教育への国家・行政権力の介入を禁じた現行基本法第10条1項全面的な否定。国家・行政の教育介入をフリーハンドにする一方で、「不当支配」を教職員組合や市民運動等教育行政を批判するものに向けられる。教育行政を批判することが「違法」行為に?!
◎「国民全体に対し直接に責任を負つて」を削除し、「国・地方公共団体の相互の役割分担と連携協力の下に」に変え、「内容」を含めて、国家が一方的に行う主体者となる。


○国は、教育の機会均等と水準の維持向上のための施策の策定と実施の責務を有すること。

○地方公共団体は、適当な機関を組織して、区域内の教育に関する施策の策定と実施の責務を有すること。

「適当な機関を組織して」−−現行の教育委員会制度も変更し、行政が直接権限を行使するための組織を新設する。

第11条(補則)
この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。
 教育振興基本計画  


○政府は、教育の振興に関する基本的な計画を定めること。

  教育振興基本計画の教育基本法への位置づけ。教育内容を含む教育に関する予算措置の権限を文科省に一元化する。


 補 則  


○この法律に掲げる諸条項を実施するため、適当な法令が制定されること。



付記
○「教育の目標」中の「国を愛し」「国を大切にし」については、統治機構を愛するという趣旨ではないとの認識で一致した。
○「宗教教育」については、宗教が情操の涵養に果たす役割は教育上尊重されることを盛り込むべきとの意見があった。
○「教育行政」中の「不当な支配に服することなく」については、適切な表現に変えるべきとの認識で一致した。

Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会