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TITLE: 私たちは、なぜ、ホットライン活動を続けるのか? ― 「日の丸・君が代」強制反対ホットライン大阪5年間の経験から ―
AUTHOR: 伊賀 正浩
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第217号(2004年12月)
WORDS: 全40字×199行
私たちは、なぜ、ホットライン活動を続けるのか?
― 「日の丸・君が代」強制反対ホットライン大阪5年間の経験から ―
「日の丸・君が代による人権侵害」市民オンブズパーソン 事務局
伊 賀 正 浩
1.はじめに 〜 新しい段階に入った「日の丸・君が代」強制
(1)学校現場への「日の丸・君が代」強制攻撃は、昨年の東京での「10.23」通達以降、全く新しい段階に入りました。今春の卒・入学式を通じて、東京では、「君が代」斉唱時に不起立・退席などを理由にして250名以上の教職員が処分され、5名の嘱託教員が不当解雇されました。不起立、それだけを理由にした処分は、北九州、広島に次ぐ3例目です。
「10.23通達」のねらいはそれだけではありませんでした。絶対服従を強要される教員を使って、あるいは教職員を人質に、子どもたちに国家への絶対服従を教え込むことです。都教委は、担任処分を人質に、生徒たちに直接『踏み絵』を踏ませる行為を始めたのです。生徒の不起立や式への不参加がクラスの大半を占めた担任教員など43名を「指導不足」を理由に「厳重注意」などの前代未聞の「処分」を強行しました。今年の卒業式から、子どもを主人公として創意工夫していた学校が、都教委の通達通りの画一的な形式で、子どもたちの主体性を無視した、監視と服従を強いるものとなりました。
10月2日には、創立記念式典などを行う都立高校2校【深川高校(江東区)と千早高校(豊島区)】の校長が、それぞれ全教員に対し「日の丸・君が代」に関して「学習指導要領に基づき、適正に生徒を指導する」よう求める職務命令を出しました。これは、教職員自身に起立を命じるものから、「生徒への指導」=生徒への強制をあからさまに命じるものです。
この2人の校長の職務命令は、都教委のねらいを露骨に反映したものです。「生徒への指導」を強制する職務命令を次の卒・入学式で、全学校に広げようとする意図が明白です。
(2)職務命令と監視、不起立者に対する大量処分をテコに教職員の「思想改造」せまる東京方式を全国へ波及させる動きが始まっています。神奈川では11月30日、県教委が各校長あてに「入学式及び卒業式における国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底について」通知を出しました。その中では「教職員が校長の指示に従わない場合や、式を混乱させる等の妨害行動を行った場合には、県教育委員会としては、服務上の責任を問い、厳正に対処していく」と、不起立の教職員に対して懲戒処分に踏み込むことを念頭に入れた通知です。
埼玉県でも、7月の県議会で教育長が、「適切でない行動を取る教員については、処分も視野に入れ検討する」と発言しました。
大阪も例外ではありません。2004年2月2日、府教育長が「式中の国歌斉唱の際に、児童生徒に指導すべき教員が着席したままであることは、きわめて無作法なこと」と校長会で例年以上に一歩踏み込んだ発言をしています。府議会でも、再三にわたって、自民党議員が「東京のようにやれないか」と府教委に圧力をかけています。
府教委をかろうじて押しとどめているのは、東京での都教委の暴挙に抵抗する粘り強い抵抗の存在であるし、大阪での「日の丸・君が代」強制に抵抗する声の頑強な存在です。私たちも、府教委を監視し、「良心の自由」の侵害に、声を上げ続けなければならないと感じています。
2.ホットライン5年間の報告 ― 事例を中心にして
ここ数年、卒・入学式では、教育育委員会と校長がますます「良心の自由」を顧みることなく、露骨な人権侵害を起こすようになっています。「日の丸・君が代」の100%実施だけでは、全然止まっていません。子どもたちや教職員の心の中まで、強制がエスカレートしています。すさまじい「日の丸・君が代」の強制が、学校の民主的な雰囲気を壊し、上意下達の「命令し、それに従う」教育が浸透していっています。そのような状況を反映して、毎年「日の丸・君が代」強制反対ホットライン・大阪には、深刻な人権侵害を含む電話相談が寄せられました。いずれも、電話相談だけでなく、弁護士との相談会を持ち、当該の教育委員会や学校への申し入れ・抗議行動を行ってきました。
(1)「良心の自由」「選択の自由」のあることを伝える「事前説明」に対する攻撃
法制化後、初めての卒業式では、「君が代」が式に導入される中で、式のアナウンスの中で「良心の自由」「選択の自由」の説明をし、子どもたちに歌う・歌わない、立つ・座る、自由のあることを伝える運動が広がりました。その結果、多くの学校で子どもたち、教職員、保護者の不起立という状況が生まれました。
府教委は、この事態に対して、2000年9月、司会者が「国歌斉唱は教職員の間で必ずしも合意のあるものではありません」と発言したことを、了承したとして校長を「厳重注意」処分。その後、府教委から、「不要な発言をするな」と校長への圧力は強まり、事前説明への攻撃が強まっています。
<2002年 羽曳野市からの相談例>
「全国的な強制圧力の中で、子どもたち・保護者をはじめとする式参加者全員の思想・良心の自由に配慮した最低限の措置をとることを職員会議でも確認し、実施してきた。校長が式前日に子どもたちに強制ではないことを説明したり、当日に『国歌斉唱を行いますが、賛同される方はご起立ください』などを付け加えるなどである。そのことによって、子どもたちが『国歌斉唱』時の立つ・立たないや歌う・歌わないを最終的に自分で決めても、何らの不利益も受けることがないように配慮してきた。
教育長の校長訪問は、このような最低限の措置を中止させることを目的としたものと考えられる。教育長は、各校長に『昨年と同じでは困る』と指示したという。学校行事への不当介入ではないのか。」(2002年3月4日)
(2)歌うことを強要する「事前説明」が始まった
昨年から「良心の自由」の事前説明をつぶすだけでなく、新たな強制が始まっています。管理職が卒業式の予行で、「国歌斉唱」の「意義」を語り、「胸を張って歌ってほしい」と説明するケースが増えてきたのです。
<2003年 高槻からの相談例>
予行練習時、校長が「卒業式では国歌を斉唱する。どこの国にもその国の旗や歌がある。君たちも日本の国歌をワールドカップや国際的な競技大会で聞いたことがあるはず。卒業式のような式の時は、国歌をきちんと歌って国民の自覚を高めようとしている。君たちもその時は、きちんと胸をはって歌ってほしい」と子どもたちに説明をした。
(3)子どもたちへの直接的な歌うことの強制と人権侵害の発生
<2001年 卒業式での相談例>
- A 小学校では、「君が代」の事前指導で、在日韓国人生徒への差別事件がおきた。音楽の授業で「君が代」の練習があり、4年生の在日韓国人の子どもが耳をふさぎ、歌わなかった。その後、教室に帰ってクラスメイトから「なぜ歌わないのか」とせめられ、言い合いになり、その時「韓国人」という差別発言を受けた。その後、子どもの保護者が学校に抗議の申し入れを行っている。
- B 小学校では、6年生の在日韓国人の子どもと日本人の子ども5名が、卒業式に「日の丸と君が代はやらないでほしい」と校長に申し入れた。そして、卒業式前に担任が子どもたちを個別に呼び出し、圧力をかけた。担任は、一人一人に対して「式の時どうするの?」「親には相談したの?」「退場以外にも、友だちとして協力できることはほかにいっぱいあるでしょう?」と恫喝を加えた。このような圧力を跳ね返して、卒業式当日は10名ほどの子どもたちが起立せず、歌わなかった。
- C 小学校では、修了式当日、卒業式に起立しなかった5年生の子ども全員を残して、校長が「この本(学習指導要領)には、『国旗・国歌は尊重するように』と書いてある。」「国旗・国歌が必要ないと思う人、必要だと思う人、わからない人」のいずれかに手を挙げさせた。
その後、3人の子どもたちが校長に抗議をした。子どもは「(憲法は)平和主義でしょう?」と校長に質問し、校長は「せめてきたらどうするねん。」「背くときは、先生がやめさせられる」と発言した。
- D 小学校。「国歌斉唱」で着席している子どもたちを「立ちなさい」としかりつけ起立を強制した。(複数の学校で)
(4)音楽専科教員へのピアノ伴奏強制とそのことを通した子どもたちへの強制
「国歌斉唱」が式次第に入り、「君が代」斉唱を行うようになったほとんどの学校で、次の攻撃として教員への「君が代」ピアノ伴奏の強制が始まっています。毎年、音楽専科の教員から「君が代」ピアノ伴奏を強制されているとの相談を受けています。ある音楽専科教員は、校長から「来年音楽専科が出来るかどうかは、君が代を指導し、しかも子どもが大きな声で歌えるように指導できるかどうかできめる」「(君が代指導が)いやだという気持ちが消えないうちは専科をさせられない」、さらに「そういう要請があったことを秘密に出来るかどうかでもきまる」と迫られました。教員の「思想・良心の自由」を全く無視した驚くべき強制です。管理職は、人事権を悪用し音楽専科教員にピアノ伴奏の強制を「秘密」にさせ、職場の中で孤立させることで、命令に従わせようとしているのです。
このようなケースは、氷山の一角にすぎないのではないでしょうか。校長室の密室の中で音楽専科教員が追いつめられ、人権が奪われている実態は、まだまだ明らかになっていません。卒・入学式で「君が代」をピアノ伴奏すべき義務はどこにもありません。どこにも法的根拠がないことが、校長の権限の中で人権を無視する形で推し進められています。
<2003年 相談例>
「音楽専科を希望しています。この前校長に呼ばれ来年音楽専科ができるかどうかは、君が代を指導し、しかも子どもが大きな声で歌えるように指導できるかどうか。そして管理職からそういう要請があることを秘密にできるかどうかで決まると言われました。
君が代の指導が今年は極端に強いです。歌えと強制はできませんと答えたら、それなら専科は任せられないといいます。」(2003年3月 大阪市)
(5)「日の丸・君が代」授業への攻撃の開始
- 高校3年学年団が配布したHR用学習資料を府教委の指示で校長が回収通知(2004年 卒業式 2件)
- 市会議員が八尾市内小学校へ「君が代」授業参観。日本会議大阪が大阪各地で画策している。(2003年3月 八尾市)
(6)「君が代」斉唱時に教職員へ起立の強制
大阪でも、教職員への起立強制が強まっています。府教委は、処分にまでは踏み込んでいませんが、不起立者の名前を把握するなど、その一歩手前まで行っています。
大阪の中でも突出しているのが枚方市教委です。2002年3月、市教委は、「国家斉唱時に起立しなかった教職員調査」を実施し、その中では、不起立の教職員の氏名、指示した日時、場面、内容、現認者、当日起立しなかった教職員への再度の起立の指示の有無に加えて、起立しなかった理由が事細かに調査していました。
<枚方の事例>
- 小学校。「職員、卒業生起立」「在校生起立」「来賓、保護者はお起立ください」と3度にわたって執拗に起立要請をした。(2001年)
- 中学校。卒業式で「君が代」斉唱中、不起立の教員に対して「○○教諭立ちなさい。」と教頭が2度にわたってマイクで命じる。(2003年)
- 市教委による不起立教職員に対する思想調査。「国歌斉唱時の起立状況について」の調査の中で「起立しなかった理由」を報告。
3.「日の丸・君が代」の暴力的な強制に対抗するために
(1)全国の「日の丸・君が代」強制のさらなる強化を阻止できるかどうかは、東京での暴力的な強制に対する抵抗にかかっています。全国の教育委員会が東京の動向に注目しています。都教委のやり方が失敗すること、あるいは大きな抵抗を生みスムーズには進まないことを見せつけることは、極めて重要です。その意味では、東京での「日の丸・君が代」強制は、東京だけの問題ではありません。
東京では、「予防訴訟」(国歌斉唱義務不存在確認訴訟)が行われ、現在では360名が原告に名を連ねる大原告団になっています。また、「東京ココロ裁判」準備、国立「ピースリボン」裁判など多彩な抵抗闘争が組まれています。全国から東京で闘う人たちを支援し、連帯していくことが重要です。
(2)大阪での焦点は、ひらかた「君が代」訴訟=スミ塗り訴訟の行方です。2002年3月、市教委が実施した「国家斉唱時に起立しなかった教職員調査」が、不当な個人情報の収集であり、その事務に枚方市・教委の財産を使用したことに対する損害賠償を請求する住民訴訟。昨年11月の第3回公判以降、「不起立調査」の違法性を問う実質審議へと公判が進んでいます。
今年の11月、市教委の「不起立調査」に対して、市情報公開・個人情報保護審査会が、「氏名と起立しなかった理由」を削除するように答申を出しました。このことは、「不起立調査」事態を違法なものとして否定していることになります。これで、枚方市教委は、窮地に立たされたと言ってもいいでしょう。
大阪では、富田林市など枚方以外にも「不起立調査」を実施しようとした市町村教委がありました。枚方市での「不起立調査」に対して打撃を与えれば、周りの市町村に与える影響は大です。不起立処分を阻止する大前提にもなっていきます。
全国的な強制が強まる中で、粘り強く抵抗し続ける人々の輪が広がり始めていることを実感しています。決してあきらめないこと、抵抗し続けること、そのことを通してネットワークを広め、教育委員会の攻撃を押し返す力を付けていきたいと思っています。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会