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TITLE:  「保健室登校」の生徒が欠席扱いとなっていることについて
AUTHOR: 森川 英子
SOURCE: 大阪高法研ニュース 第131号(1993年6月)
WORDS:  全40字×107行

 

「保健室登校」の生徒が欠席扱いとなっていることについて

 

森 川 英 子 

 

はじめに

  現在、学校に登校出来ない児童・生徒の問題は数の問題や質の変化が重なり深刻な問題となってきております。とりわけ高等学校教育のなかでは中途退学問題とも交錯して、真実の姿が見えにくいところもあります。不登校生徒は教室に入って勉強したくても、教室という場の持つ説明しがたい緊張感に耐えられないといい、そして無意識の内に身体症状にすりかえている生徒も少ない数ではありません。

  そこで保健室登校の生徒が欠席扱いをされている一部の高等学校の問題とその学校長が法的根拠としている裁量権について、まとめてみたいと思います。

 

1 「保健室登校」という言葉の歴史

  昭和52年(1977)「養護教諭の実際活動」 杉浦守邦著(東山書房)が最初の文献であるように思います。

 

2 保健室登校とは、次のように定義します。

 (大阪府立高等学校養護教諭研究会の定義)

不登校または不登校状態の初期、あるいは回復期に登校はしていても教室へは行くことが出来ない状態の時、保健室に登校させることを「保健室登校」といいます。

 

3 保健室登校の生徒が欠席扱いをされている学校の実数について

  @1990年の大阪府立高等学校養護教諭研究会 145校の調査で、欠席と扱われている学校が12校。A上記調査1991年版では137校の調査で欠席扱いの学校16校となっています。B1990年の大阪府立高等学校教務部会での調査「保健室登校」は出席扱いとしていますか、「いいえ」19校となっています。C京都女子大学児童学第4研究室高橋眞理子の調査(1993)によると55校中、欠席は15校となっています。

 

4 当該学校長が欠席扱いとする法的根拠

  学校長は「学校長の裁量権で保健室登校の生徒を欠席扱いと出来る」という根拠を強力に述べてきました。教室に行くことだけが学校に出席したことでしょうか。生徒の出欠席の認定は校長の裁量権の範囲内であるということについては異論をいうところではありません。しかし、教科出席ではなく、学校に出席したという認定の意味は生徒の学校内存在を認めるということで実に大きな意味があると思われますが、これについて以下のように整理して考えてみました。

 

5 校長の出欠席認定の意味

  高校現場では、授業に出ないことを欠課、学校に来ないことを欠席と称しています。学校に来た生徒を出席と認定することになりますが、単に学校に「遊びにきた」生徒は出席認定されず、その学校の教育活動を受け、そのために学校に来た生徒が出席認定されることになります。学校に来たと認定する出席認定はいくつかの意義があります。

@日本体育・学校健康センター法の災害給付の対象範囲となろう。校内にいても「下校後、遊びのため登校して在校していても対象とならない」との説明があります。A義務教育学校の校長は、休学日を除き、引続き7日間以上出席せず・・・、その出席させないことについて保護者に正当な理由が認められない場合は、その旨を生徒の住所の有する市町村の教育委員会に通知しなければならない。(学校教育法施行令20条)B公立高校では、進級認定出来ない基準として何単位かの未取得と共に学校への登校しない日数(欠席日数)が3分の1以上などの内規をおいているケースが多い。単位がクリヤーしても学校への欠席日数が多ければ、それだけで進級認定されないことになるので、校長が「保健室登校」生徒を欠席と認定することは、その生徒にとって大きな不利益を与えることがあります。

 

6 それでは「保健室登校」の生徒は養護教諭の養護を受ける目的で登校しているわけであるがその活動は教育活動と言えないものなのでしょうか。そこで次のような考えから「保健室登校」の生徒は次のような理由から学校における教育の一環を受けているものと考えられます。

 @教育基本法において次のように教育の目的は決められています。第1条(教育の目的)教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ自主的精神に満ちた心身共に健康な国民の育成を期して行わなければならない。従って保健室登校で2者関係を学び、3者関係を学び、やがて教室という特定集団の人間関係を学びつつ、教室という場に戻る彼らは人間のあり方を保健室登校で徐々に学んでいくのであります。A学校教育法施行規則で次のように規定されています。第26条(履修困難な各教科の学習指導)児童が心身の状況によって履修することが困難な各教科は、その児童の心身の状況に適合するように課さなけれなならない。学校教育法施行規則65条で高等学校に準用B学習の遅れがちな生徒、心身に障害のある生徒については学習指導要領で配慮すべき事項として掲げられています。高等学校学習指導要領 第1章 総則 第7款 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項 6-(6)学習の遅れがちな生徒、心身に障害のある生徒などについては、各教科科目の選択、その内容の取扱い等について必要な配慮を行い、生徒の実態に即した適切な指導を行うこと。 このように生徒の実態に即した指導を行うよう明記されています。思春期の一時期に自己の確立を図れないで混乱に陥っている生徒の支援は明らかに学習指導要領に明記されている通り配慮すべき生徒と言えます。C学校教育法施行規則の一部を改正する省令(平成5年1月28日文部省令第1号)1項 小学校または中学校において、心身に故障がある児童または生徒(特殊学級の児童および生徒を除く)のうち心身の故障に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部大臣が別に定めるところにより、特別の教育課程によることが出来ることとすると共に、当該特別の教育課程による場合には、あらかじめ都道府県の教育委員会等に届出ることとすることとした。Dジュリスト 1992-4-15で文部省初等中等教育局中学校課課長補佐 阪内宏一氏は今後の登校拒否(不登校)問題への対応において特に学校や教育委員会の取り組み上の留意点について若干の指摘をしたいと述べながら6番目に次のように書いています。「学校における取り組みが効果をあげる為にも個々の教師の努力と同時に学校全体が一丸となって努力する必要がある。そのためには改めて校長のこの問題に対する認識とリーダーシップの発揮が求められる。」E現在の不登校生徒に対する文部省の方針や養護の本質からすると、学校の教育計画や校長の職務命令として、養護教諭は保健室に入り、または入ろうとしている不登校生徒への養護活動を禁止しない限り、保健室に来た生徒への養護教諭の対応は養護活動の一環となります。それは養護教諭の専門的判断に委ねられています。従って明確な禁止なき限り、養護教諭が「保健室登校生徒」への対応を養護の範囲内と判断して対応すれば、その生徒は学校の教育活動の一環の範囲に入ったことになります。校長が、学校の教育活動の範囲内に入った生徒を「下校後に学校に遊びに来た生徒」並に欠席と認定することは、誤った認定であります。F校長が職員会議等の議訣を経て決定する教育計画において、在籍していない生徒が学校へ入ってきた場合と同様に「授業を受ける気持ちのない生徒が登校してきても教育指導してはならない」とでも明確に決めれば、養護教諭の養護活動の対象とはならず、欠席扱いは相当なものとなるかもしれます。しかし現状は不登校をはじめ、不登校状態の心を病む生徒が保健室を頻繁に利用していることは文部省調査でも述べられ「保健室登校」は養護教諭の指導形態としてすでに1991年に認められています。G生徒は学校に行きたくても行けないという心理的状況にあり、切実な教師との人関係を求め、そのことから教室に復帰したいとねがっている。その糸口を保健室の養護教諭に求めています。(1991年版 保健室登校の実態とその理論化に向けての一考察P27)H保健室登校は目的意識的な教育実践です。現在の不登校生徒に対する支援は養護教諭の目的意識的な営みによって家庭内存在から一歩足を踏み出し教室という特定な集団に位置づくための中間基地として3者関係を学ぶ場所となっています。そして現実に生徒は教室に戻っています。

 

7 上記の理由から保健室登校は教育活動の一環であり、保健室登校の生徒を欠席と認定することは、校長の違法ないし不当な権限行使であるように思われます。

 

 

 



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