● 公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律ならびに同法施行令の施行について 昭和37年6月9日 文初財第266号



文初財第二六六号 昭和三七年六月九日
文部事務次官通達


    公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律
    ならびに同法施行令の施行について

 公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(昭和三六年法律第一八八号)が昭和三六年一一月六日公布施行され、引き続き同法施行令(昭和三七年政令第二一五号)が、本年五月二二日公布施行されました。
 この法律は、公立の高等学校に関し、学校の設置、学校の適正な配置および規模ならびに学級編制および教職員定数の標準について必要な事項を定め、もって高等学校の教育水準の維持向上に資することを目的としております。
 法律等の概要および留意すべき点は、左記のとおりでありますから、事務処理上遺憾のないように願います。
 なお、貴管下各市町村関係機関に対してこのことを通知し、法律等の趣旨を徹底させるよう御配慮願います。

          記

1 概要

(1) 法制定の趣旨

 高等学校教育の急速な普及発達に伴い、高等学校の設置、管理、運営ならびにその財政負担は地方公共団体にとってきわめて重要な問題となっているが、さらに昭和三八年度からは教育課程の改訂、生徒の急増等の問題があるので、新たに法律をもって、公立の高等学校の設置、その適正な配置、規模、学級編制および教職員定数等についての基準を明示し、もって高等学校教育の水準の維持向上に資せんとすることがこの法律の趣旨であること。(法第一条)

(2) 定義

 この法律において「教職員」とは、校長、教諭、養護教諭、助教諭、養護助教諭、講師(常時勤務の者に限る。)、実習助手および事務職員(地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第一七二条第一項に規定する吏員に相当する者をいう。)をいうこと。(法第二条第一項)
 この法律において「全日制の課程」、「定時制の課程」および「通信制の課程」とは学校教育法(昭和二二年法律第二六号)第四条に規定するそれぞれの課程をいうこと。(法第二条第二項)
 この法律において、「農業に関する学科」、「水産に関する学科」、「工業に関する学科」、「商業に関する学科」および「家庭に関する学科」とは、それぞれ農業、水産、工業、商業および家庭に関する専門教育を主とする学科をいうこと。(法第二条第三項)

(3) 公立の高等学校の設置

 公立の高等学校は、都道府県が設置するものとすること。(法第三条第一項)
 ただし、人口がおおむね一〇万以上であり、かつ、高等学校を設置するのに充分な財政上の能力を有すると認められる市町村(市町村の組合を含む。)は、高等学校を設置することができるものとすること。(法第三条第二項、令第一条)

(4) 適正な配置および規模

イ 都道府県は、高等学校の教育の普及および機会均等を図るため、その区域内の公立の高等学校の配置および規模の適正化に努めなければならないこと。この場合その区域内の私立の高等学校の配置状況を充分に考慮しなければならないこと。(法第四条)

ロ 公立の高等学校における学校規模は、生徒の収容定員が本校にあつては三〇〇人、分校にあつてはすべての学年の生徒を収容する分校については一〇〇人、これ以外の分校については六〇人をそれぞれ下らないものとすること。(法第五条、令第二条第一項)
 ただし、本校における生徒の収容定員については、専門教育を主とする学科を置く場合および当該公立の高等学校が夜間において授業を行なう定時制の課程のみを置くものである場合は、この限りでないこと。(法第五条ただし書、令第二条第二項)
 なお、分校の収容定員に係る部分の規定は、昭和四二年四月一日から施行すること。(令附則第一項ただし書)

(5) 学級編制の標準

 公立の高等学校の全日制の課程または定時制の課程における一学級の生徒の数は、やむを得ない場合を除き、五〇人(農業、水産、工業、美術、音楽または体育に関する専門教育を主とする学科にあつては四〇人)を標準とすること。(法第六条、令第三条)
 なお、経過措置として生徒急増期間中(昭和三八年四月一日から昭和四四年三月三一日まで)においては、学級編制の標準生徒数を一〇%増加させるものとしたこと。(法附則第五項)

(6) 教職員定数の標準

 公立の高等学校に置くべき教職員の都道府県または市町村ごとの総数(以下「教職員定数」という。)は、法第八条から第一二条までの規定によりそれぞれ校長、教諭等、養護教諭等、実習助手および事務職員の種別ごとに算定した数を合計した数を標準として定めるものとすること。

イ 校長の数

 学校の数を基礎として算定すること。(法第八条)

ロ 教諭、助教諭および講師の数

(イ) 学校の課程および専門学科の種別に応じ生徒の数を基礎として算定すること。
(ロ) 専門学科の数に応じて算定すること。
(ハ) 学校の規模に応じて必要な数を加算すること。(法第九条)

ハ 養護教諭および養護助教諭の数

(イ) 生徒の数を基礎として算定すること。
(ロ) 学校の規模に応じて必要な数を加算すること。(法第一〇条)

ニ 実習助手の数

(イ) 生徒の数を基礎として算定すること。
(ロ) 学科の数に応じて算定すること。
(ハ) 分校の数に応じて加算があること。(法第一一条)

ホ 事務職員の数

(イ) 学校の課程の種別に応じ生徒の数を基礎として算定すること。
(ロ) 専門学科に応ずる生徒の規模に応じて補正を行なうこと。(法第一二条)

ヘ 以上は、教職員定数の算定に当つての原則を示したものであるが、これに次のような特例が認められること。

(イ) 農業、水産もしくは工業に関する学科を置く公立の高等学校で一の学科の生徒の数が非常に多い場合もしくは規模の大きい実験実習の施設等がある場合または学科の新設等のため一以上の学年の生徒が欠けている場合等には、一定の方法により教諭等または実習助手の数を加減することができること。(法第一三条、令第五条)
(ロ) 公立の高等学校で非常勤の講師を置くこととするものがあるときは、教職員定数の算定については特例が認められること。(法附則第四項、附則第六項、令附則第二項)

(7) 教職員定数に含まない数

 教職員定数には、休職者および女子教育職員の出産に際しての補助教育職員の確保に関する法律(昭和三〇年法律第一二五号)第三条第一項の規定により臨時的に任用される者は含まれないこと。(法第一五条)

(8) この法律施行の際、現に定められている公立の高等学校の教職員の定数((7)に掲げる者を除く。)がこの法律により算定した数を標準として定めるべき教職員定数に達しない都道府県または市町村にあつては、昭和三八年三月三一日までの間は、この法律により算定した数を標準としないで教職員定数を定めることができること。ただし、その現に定められている教職員の定数を下ることとなつてはならないこと。(法附則第二項)

(9) (8)に掲げる教職員定数の標準に達しない都道府県または市町村は、昭和三八年三月三一日までの間において、順次、その教職員定数がこの法律により算定した数を標準として定めるべき教職員定数に達することとなるよう努めなければならないこと。(法附則第三項)

2 留意すべき事項

(1) 定義

 この法律では、たとえば農業に関する学科とは、農業科、林業科等のいわゆる小学科を、水産に関する学科とは漁業科水産増殖科等の小学科を、工業に関する学科とは機械科、電気科、工業化学科等の小学科を指すものであるから、この点特に誤解のないようにされたいこと。

(2) 公立の高等学校の設置

イ 法第三条第二項の規定は、地方自治法において高等学校の設置は、主として都道府県の事務とされ、市町村はその規模および能力に応じてこれを設置することができることとされている趣旨と同趣旨の規定であり、法第三条第二項に基づく政令で具体的に高等学校を設置することができる市町村の基準を明らかにしたものであること。
ロ したがつて、都道府県の教育委員会は政令で定める基準にしたがい高等学校設置の認可に関する基準を速やかに改正する必要があること。

(3) 適正な配置および規模

 法第五条および令第二条に規定する規模に達しない公立の高等学校については、都道府県は、その規模の適正化に努めなければならないが、この適正化を進めるにあたつては、生徒の通学事情等を考慮のうえ、高等学校教育の普及および機会均等を妨げることのないように留意し、特に生徒の急増期間中においては、慎重な配慮が必要であること。なお、定時制分校の無理な統廃合を促すようなことのないよう留意されたいこと。

(4) 教職員定数の標準

イ この法律は、高等学校を設置する都道府県または市町村ごとの教職員の総数の標準を定めたものであつて、個々の公立の高等学校ごとに置くべき教職員の数または教職員の種別ごとの数の標準を定めたものではないこと。
 なお、各学校ごとの具体的な教職員定数については、従来の実績を下廻らないよう留意されたいこと。

ロ この法律は、吏員相当の者以外の事務職員その他の職員(たとえば農夫、牧夫、職工等高等学校の農場または工場等において労務に従事する者等)の定数についてふれていないので、都道府県または市町村は、教職員定数を定めるに当り吏員に相当しない事務職員その他必要な職員の確保については、実情に応じ従来どおりの考慮を払う必要があること。

ハ この法律および政令においては、教職員定数算定の基礎となる生徒数に専攻科および別科の生徒数が含まれていないので、専攻科または別科を置く高等学校を設置している都道府県または市町村は、教職員定数を定めるに当り、この法律の諸規定に準じ必要な考慮を払われたいこと。

ニ 公立の高等学校で非常勤の講師を置くこととするものがある場合における教諭等の数を減ずる方法は、政令第六条に規定されるとおり非常勤の講師に担当させる週当りの授業時数を一八で除して得た数を合計した数を減ずるのであるが、この場合週当りの授業時数とは、いわゆる一時限を単位として考えること。

ホ この法律に定める教職員定数の標準に達しない都道府県または市町村にあつては、昭和三八年三月三一日までの間において、順次教職員の充実に努め、教職員の増員を円滑にするよう配慮が望まれること。

ヘ 教職員定数には、休職者および産休代替教員が含まれていないので、これらについては、別途予算上の定員が確保されるよう措置されたいこと。

ト 法附則第七項および政令附則第二項に規定する「生徒の養護に従事する職員で養護助教諭に準ずる者」とは、養護教諭または養護助教諭として採用されてはいないが養護助教諭に準ずる程度の資格を有する者で生徒の養護をつかさどる者を、「実験若しくは実習について教諭の職務を助ける職員で実習助手に準ずる者」とは、実習助手として採用されてはいないが実習助手に準ずる程度の学歴なり経歴をもつており、実習助手と同様に実験または実習について教諭の職務を助ける者を、「事務に従事する職員で事務職員に準ずる者」とは、吏員相当の者として採用されてはいないが吏員に準ずる程度の資格を有する者で事務に従事する者をいうこと。

チ この法律の制定に伴い、地方交付税法の一部を改正する法律(昭和三七年法律第五九号)により都道府県教育費および市町村教育費の高等学校費の測定単位として教職員数が加えられ、この法律の規定に基づいて算定される教職員定数を基礎として基準財政需要額が算出されることとなつたこと。

リ 都道府県または市町村が、この法律および政令に基づいて算定した教職員定数その他必要な事項については、文部大臣に報告を求める予定であること。

〔参考〕 第三九回国会におけるこの法律の附帯決議(衆・参両院)を添付したので、その内容について考慮を払われたいこと。



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○公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律案に対する附帯決議

(昭和三十六年十月二十日)

(衆議院文教委員会)

一 本法が施行されるにあたっては、現在各学校の課程別、職種別の教職員の実績を尊重し、その現状を下廻ることのないように配慮すること。

一 本法の施行により、現存の定時制分校の統廃合を促すようなことがないように留意し、また市町村が高等学校を新設することについての制限は実情に即するように留意すること。

一 附則第五項及び附則第六項はこれを機械的に適用することなく、生徒の体位、施設設備等の現状にかんがみ、可能な限り法第六条の原則を尊重し、これによって措置すること。

一 教育効果をあげるため、将来高等学校設置基準甲号を指向して努力すること。

一 養護教諭、養護助教諭、事務職員、実習助手等の適正な配置のできるように措置すること。

一 本法実施にあたり、その必要な経費については、基準財政需要額の算定にあたって確実に措置すること。

一 本法施行に伴って、私立高等学校との間におこる格差是正のため、適当な対策を考慮すること。

右決議する。


――――――――――

○公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律案に対する附帯決議

(昭和三十六年十月三十一日)

(衆議院文教委員会)

一 本法の施行にあたっては、各学校の課程別職種別の現在の教職員数を確保し、絶対に現状を下回らないように措置すること。

一 高等学校教育の現状が準義務制的性格をたかめていることと、教育の機会均等の原則とにかんがみ、本法の施行により、現存の定時制分校の統廃合を促すことのないように留意するとともに、市町村が高等学校を新設することについての制限は実情に即して行なうこと。

一 養護教諭、養護助教諭、実習助手及び事務職員の数は現在過少につき、将来さらに増員充実の措置を講ずること。

一 高等学校生徒の急増期間における施設設備の整備は、終戦処理施策の一環として早急に抜本的施策を樹立し、その充実を図り、すし詰教育を極力避けること。

一 教育効果を高めるため、将来高等学校設置基準甲号を指向して努力し、特に農業・工業・水産等の専門課程の教職員の充実を図ること。

一 私立学校の適正配置に留意するとともに、国の助成を強化して教職員の充実を図り、格差是正に努力すること。




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