● 職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について 平成18年10月13日 人企−1626



人企−1626 平成18年10月13日
各府省官房長等 宛
人事院事務総局人材局長


    職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について(通知)


 職員の分限処分については、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第74条から第81条まで及び人事院規則11−4(職員の身分保障)に定められており、その運用については、「人事院規則11−4(職員の身分保障)の運用について(昭和54年12月28日任企−548)」によって行っていただいているところですが、今般、同法第78条第1号から第3号までの各号に係る裁判例、人事院の判定例、過去の処分事例及び相談事例等に見られる典型的な事例ごとに各府省等において行うことが考えられる手続や留意点等の対応措置を別紙のとおりまとめましたので、これを参考として、各府省等において分限制度の趣旨にのっとった対処により一層努めていただくことを通じて公務の適正かつ能率的な運営のより一層の確保をお願いいたします。

                                     以上
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別紙


      職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について


T 趣旨

 国家公務員法(昭和22年法律第120号。以下「法」という。)に定める分限処分は、職員が情実に左右されず、全体の奉仕者として公正に職務を遂行できる環境を確保するために設けられた身分保障を前提に、官職に必要な適格性の欠如等が認められる職員が存在して公務能率の維持・確保ができなくなるおそれのある場合に、公務の適正かつ能率的な運営を図るために当該職員を免職、降任等させるものである。

 各府省等においては、日ごろから、職員が分限事由に該当する可能性のある場合には、職員に公務能率を阻害している状況等を認識させてその改善を求めたり、研修の実施等の必要な措置を講ずるなど、適切な人事管理を行う必要がある。その際、心身の故障があると思われる職員に対しては、職員の健康の保持増進及び安全の確保に必要な措置を講ずることとされている責務を果たすことが求められる。

 その上で、法に定められた分限事由の有無の判断に当たっては、分限処分は職員に不利益な身分変動を生じさせるものであることから、恣意的な処分とならないよう、客観的な資料により、分限制度の趣旨に沿い、適切かつ合理的な判断を行う必要がある。

 そこで、法第78条第1号から第3号までの各号の分限事由について裁判例で示された考え方を確認した上で、分限処分の検討が必要となる典型的な事例について、任命権者として行うことが考えられる手続や留意点等の対応措置をまとめるとともに、分限事由である勤務実績不良(同条第1号)又は適格性欠如(同条第3号)の徴表と評価することができる事実の例、それらを判断する客観的な資料の例及び実際に分限処分が行われた例を示し、参考に供することとする。

 なお、下記の事例ごとに掲げる対応措置は、分限事由に該当する可能性のある場合の標準的な措置を示したものである。任命権者においては、これを参考として、個々の事例への対応に当たり、行為の態様や業務への影響等に応じて、更に必要と考えられる措置を追加する一方、必ずしも行う必要がないと考えられる措置を省略する等、自らの判断と責任に基づいてその裁量の範囲内で適切に対応することが重要である。


U 裁判例で示された分限事由についての考え方

 過去の裁判例(地方公務員に関するものを含む。)では、分限事由についておおむね次のような考えが示されている(各裁判例の事案の概要と結論は、参考1参照)。

1 勤務実績不良(法第78条第1号)
 「勤務実績がよくない場合」とは、職員が担当すべきものとして割り当てられた職務内容を遂行してその職責を果たすべきであるにもかかわらず、その実績があがらない場合をいい、当該職員の出勤状況や勤務状況が不良な場合もこれに当たる。〔北九州市職員分限事件(福岡地裁平成4年1月22日判決)(福岡高裁平成4年11月24日判決 控訴棄却、確定)〕

2 心身の故障(法第78条第2号)
 「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」とは、将来回復の可能性のない、ないしは、分限休職期間中には回復の見込みの乏しい長期の療養を要する疾病のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合を指す。〔守口市門真市消防組合事件(大阪地裁昭和62年3月16日判決)(最高裁平成元年6月15日第一小法廷判決 上告棄却)〕

3 適格性欠如(法第78条第3号)
 「官職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいう。この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に現れた行動、態度に徴して判断すべきであり、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けて評価すべきであり、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において法第78条第3号の該当性を判断しなければならない。〔大曲郵便局事件(最高裁平成16年3月25日第一小法廷判決)〕


V 分限処分の検討が必要となる事例と対応措置

1 勤務実績不良(法第78条第1号関係)及び適格性欠如(同条第3号関係)
(1) 対応措置が必要となる例
○ 毎日のように初歩的な業務ミスを繰り返して作業能率が著しく低い状況であるとともに、定められた業務処理も怠ることが多く、勤務実績が著しく悪い。
○ 無断欠勤や職場での無断離席を繰り返し、上司の注意・指導にもかかわらず来訪者や同僚等としばしばトラブルを引き起こして来訪者等からの苦情が絶えない。その結果、職員本人の業務が停滞しているだけでなく同僚職員の業務遂行にまで悪影響を及ぼしている。

(2) 対応措置
 勤務実績不良の職員又は官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職員に対しては、一定期間にわたり、注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の見直し、研修等を行い、それによっても勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状態が継続する場合には、分限処分が行われる可能性がある旨警告する文書(警告書)を交付する。その上で、一定期間経過後もこれらの状態が改善されていないことにより当該職員が法第78条第1号又は第3号に該当するときには、分限処分を行う。

ア 手続
(ア) 注意・指導、担当職務の見直し等
 人事当局及び職場の管理監督者は、勤務実績不良の職員(勤務実績不良の徴表と評価することができる事実が認められる職員)又は官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職員(適格性欠如の徴表と評価することができる事実が認められる職員)に対し、勤務実績の改善を図るため又は問題行動を是正させるための注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の見直し、配置換又は研修を行うなどして、勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状態が改善されるように努める(参考2参照)。

(イ) 警告書の交付
 (ア)の措置を一定期間継続して行っても勤務実績不良の状態又は適格性欠如の徴表と評価することができる行為が頻繁に見受けられるなど適格性に疑いを抱かせる状態が続いている場合には、任命権者は、当該職員に対して、次の内容の記載がある文書(以下「警告書」という。様式の例は別紙1参照)を交付する。

@ 勤務実績不良又は適格性欠如の徴表と評価することができる具体的事実
A 勤務実績不良又は適格性欠如の徴表と評価することができる状態の改善を求める旨の文言
B 今後、これらの状態が改善されない場合には、法第78条第1号又は第3号に基づいて分限処分が行われる可能性がある旨の文言

(ウ) 弁明の機会の付与
 任命権者が職員に(イ)の警告書を交付した場合には、当該職員に弁明の機会を与える。

(エ) 警告書交付後の観察
 人事当局及び職場の管理監督者は、警告書交付後も、一定期間注意・指導等を行いつつ、勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状態が改善されているかどうか、注意深く観察・確認を行う。

(オ) 分限処分
 任命権者は、(ア)から(エ)までの措置を講じたにもかかわらず、職員の勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状態が改善されていないことにより当該職員が法第78条第1号又は第3号に該当すると判断した場合は、分限処分を行う。

イ 留意点
(ア) 資料収集
 勤務実績不良又は適格性欠如に該当するか否かの判断は、単一の事実や行動のみをもって判断するのではなく、一連の行動等を相互に有機的に関連付けて行うものであるので、参考3に掲げるような客観的な資料を収集した上で行う必要があり、特に、仕事上の失敗・トラブル・第三者からの苦情等の具体的な事実が発生した場合には、その都度、詳細に記録を作成しておく。また、注意・指導、警告書の交付等の措置を行った場合は、その内容を記録しておく。

(イ) 問題行動が心の不健康に起因すると思われる場合
 問題行動が心の不健康に起因すると思われる場合には、管理監督者は、職員に積極的に話しかけて事情を聞くほか、必要に応じ同僚等に職員の状況の変化の有無を聞き、また、健康管理者、健康管理医、専門家等と対応を相談する(「職員の心の健康づくりのための指針について(平成16年3月30日勤職−75)」参照)。

(ウ) 懲戒処分との関係
 問題行動が懲戒処分の対象となる場合には、任命権者は、総合的な判断に基づいて懲戒処分を行うなど厳正に対応する必要がある。

(エ) 降任と免職
 分限処分を行う場合、下位の官職であれば良好な職務遂行が期待できると判断するときには降任処分とし、下位の官職でもそれが期待できないと判断するときには免職処分とする。

(オ) 行為の態様等に応じた手続の省略
 問題行動の態様や業務への影響等によっては、任命権者の判断と責任に基づいて、裁量の範囲内で、警告書の交付などの手続を省略することができる。

2 心身の故障(法第78条第2号関係)
(1) 対応措置が必要となる例
○ 3年間の病気休職の期間が満了するにもかかわらず、病状が回復せず、今後も職務遂行に支障があると認められる。
○ 心肺機能停止後昏睡状態のため、病気休職中であるが、今後回復して就労可能となる見込みがない。
○ 心身の故障のため、3年以上にわたって、病気休暇や病気休職と短期間の出勤とを繰り返している。

(2) 対応措置
 3年間の病気休職期間が満了するにもかかわらず心身の故障の回復が不十分で職務遂行が困難であると考えられる場合、病気休職中であって今後職務遂行が可能となる見込みがないと判断される場合又は病気休暇や病気休職を繰り返してそれらの期間の累計が3年を超え、そのような状態が今後も継続して、職務の遂行に支障があると見込まれる場合には、医師2名の受診をさせて、法第78条第2号に該当するかどうかを判断する。

ア 手続
(ア) 医師2名による診断
 任命権者は、職員が3年間の病気休職期間が満了するにもかかわらず心身の故障の回復が不十分で職務遂行が困難であると考えられる場合、病気休職中であって今後職務遂行が可能となる見込みがないと判断される場合又は病気休暇や病気休職を繰り返してそれらの期間の累計が3年を超え、そのような状態が今後も継続して、職務の遂行に支障があると見込まれる場合には、当該職員に対して、法第78条第2号に該当するか否かを判断するために、医師2名を指定して受診を促す。この場合において、職員が指定された医師2名の診断を受けようとしない場合には、職務命令として受診を命ずる。

(イ) 医師2名の診断結果による判断
@ 医師2名により心身の故障があると診断された場合
 指定した医師2名によって、人事院規則11−4(職員の身分保障)第7条第2項に規定する診断(長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によっても治ゆし難い心身の故障があるとの診断)がなされ、その疾患又は故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないことが明らかな場合は、分限免職とする。

A 医師2名による心身の故障があるとの診断が得られなかった場合
 指定した医師2名のうち、少なくとも1名が人事院規則11−4第7条第2項に規定する診断をしなかった場合には、法第78条第2号に該当すると判断することはできず、職員本人及び主治医・健康管理医等と相談の上、円滑な職場復帰を図っていくなどの対応を行う必要がある。

イ 留意点
(ア) 医師による適切な診断を求める努力
 心身の故障の回復の可能性の判断は、医師の専門的診断に基づく必要があるが、職場の実態や職員の職場における実情等について、診断する医師の十分な理解を得ることなどを通じて、適切な診断を求めていくことが必要である。

(イ) 病気休職期間満了前からの準備
 3年間の病気休職の期間が満了する場合には、その期間満了前から、当該職員や主治医と緊密に連絡を取って病状の把握に努め、医師2名の診断を求める必要があるかどうか検討しておく。

(ウ) 複数の異なる内容の心身の故障が原因の場合
 病気休暇や病気休職を繰り返してその累計が3年を超える場合であっても、例えば、精神疾患の病状が回復し職場復帰した後に交通事故による外傷によって病気休職等とされた場合のように、当該病気休職等の原因である心身の故障の内容が明らかに異なるときには、この事例には該当しないものとして取り扱う。

3 受診命令違反(法第78条第3号関係)
(1) 対応措置が必要となる例
○ 3年間の病気休職期間満了に当たって、職務遂行能力の有無を把握し、職務復帰が可能であるか否かを判断するため、再三にわたり指定する医師の受診を命じたにもかかわらず、これらの命令に従わなかった。
○ 1の勤務実績不良又は適格性欠如の例に該当する場合で、問題行動が心身の故障に起因すると思われたことから、1(2)イ(イ)の措置を講ずる中で、再三にわたり医師の受診を命じたにもかかわらず、これらの命令に従わなかった。

(2) 対応措置
 3年間の病気休職期間が満了するに当たって心身の故障の回復が不十分で職務遂行が不可能であると考えられたことなどから、再三にわたり医師の受診を命じたにもかかわらずこれに従わない場合又は勤務実績不良若しくは官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職員について、それらが心身の故障に起因すると思われるため再三にわたり医師の受診を命じたにもかかわらずこれに従わない場合には、医師2名の受診を受診命令書により命じ、これに従わないときは、法第78条第3号により免職とする。

ア 手続
(ア) 受診命令書の交付
 次の内容の記載がある受診命令書(様式の例は別紙2参照)を交付して受診を命ずる。
@ 任命権者の指定する医師2名の診断を受け、診断書を提出するよう命ずる旨の文言
A この受診命令が法第78条第2号に該当する可能性があるか否かを確認することを目的とするものである旨の文言
B 正当な理由なくこの受診命令に従わない場合、法第78条第3号に該当するとして分限免職が行われる可能性がある旨の文言

(イ) 分限免職
 (ア)の受診命令書の交付により行う受診命令に対し、職員が正当な理由なく従わない場合、法第78条第3号により分限免職とする。

イ 留意点(適格性欠如の要件を確認しておく必要性)
 この分限免職は、法第78条第3号に基づく処分であるから、職員が正当な理由なく受診命令を拒否したことのほか、@当該職員が有していると思われる疾患又は故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない状況にあると認められること、A受診命令拒否その他の行動、態度等から、当該職員が官職に必要な適格性を欠くと認められることを客観的資料により確認して行うことが必要である(参考1裁判例4参照)。

4 行方不明(法第78条第3号関係)
(1) 対応措置が必要となる例
○ 長期間にわたり、行方不明となっている。

(2) 対応措置
 原則として1月以上にわたる行方不明は、免職とする。
ア 留意点
 被処分者となる職員の所在を知ることができないときには、人事院規則8−12(職員の任免)第78条に基づき、官報に処分内容を掲載する。



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参考1 裁判例


1 勤務実績不良(法第78条第1号)
〔北九州市職員分限事件(福岡地裁平成4年1月22日判決)(福岡高裁平成4年11月24日判決 控訴棄却、確定)〕

(事案の概要)
 年休の大半を年度の当初から無計画に取得し、年休の不足を補うために病休を取るようになり、勤務日数は大幅に減少し、他の職員にも余分な負担をかけざるを得ない状況になった。しかも、その病休を不正に利用して頻繁に借金返済のための金策に費やしていた上、上司の再三にわたる注意、指導にもかかわらず、一向に態度も改まらず、遅刻を繰り返しては、借金を重ね、職場にも頻繁に私用の電話がかかるなど公務遂行に専念することが困難になり、職務を通じて知り合い、自立指導をしてきた生活保護受給者から多額の金銭を借り受け、破産宣告を受けるに至った。

(「勤務実績不良」についての考え方)
 勤務実績がよくない場合とは、職員が担当すべきものとして割り当てられた職務内容を遂行してその職責を果たすべきであるにもかかわらず、その実績があがらない場合をいい、当該職員の出勤状況や勤務状況が不良な場合もこれに当たる。

(結論)
 被告が、原告について、地方公務員法第28条第1項第1号及び同項第3号に規定する「勤務実績が良くない場合」及び「その職に必要な適格性を欠く場合」に当たる事由があるとして本件分限免職処分をしたことについては、相当の理由がある。


2 心身の故障(法第78条第2号)
〔守口市門真市消防組合事件(大阪地裁昭和62年3月16日判決)(最高裁平成元年6月15日第一小法廷判決 上告棄却)〕

(事案の概要)
 主治医から、「病名:精神分裂病(現在の病名では「統合失調症」)長期継続入院の要あり。例え寛解しても消防の職務の任に耐えることは不可能と思われる。」旨の診断書、及び別の病院の医師から、「病名:性格障害、社会的未熟、新しい外界の刺激に対して有意義な適切な反応を示すことは困難な場合が多いと思われる。」旨の診断書を徴し、精神疾患により消防職務の遂行には支障があり、またこれに堪えないものと判断して、分限免職処分を行った。

(「心身の故障」についての考え方)
 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合とは、将来回復の可能性のない、ないしは、分限休職期間中には回復の見込みの乏しい長期の療養を要する疾病のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合を指す。

(結論)
 原告の本件処分の取消しを請求する部分は理由がない。


3 適格性欠如(法第78条第3号)
〔大曲郵便局事件(最高裁平成16年3月25日第一小法廷判決)〕

(事案の概要)
 多数回にわたり懲戒処分等に付され、上司から再三にわたり指導訓戒されているにもかかわらず、長期間にわたり、あえて上司の職務上の命令に従わず、腕章不着用、始業時刻後の出勤簿押印、標準作業方法違反、研修の拒否、超過勤務拒否等の非違行為を反復継続し、著しく職場秩序をびん乱した。

(「適格性欠如」についての考え方)
 官職に必要な適格性を欠く場合とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解される。この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に現れた行動、態度に徴して判断すべきであり、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けて評価すべきであり、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において法第78条第3号の該当性を判断しなければならない。

(結論)
 @被上告人は数年間にわたって非違行為を繰り返し、再三にわたり、注意・訓告・懲戒処分等に付されたものであり(A、B略)、C人事院の判定が下された後は、それまでとは異なる類型の新たな非違行為を始め、懲戒処分の対象とされなかった非違行為については頑として改めなかったというのであるから、上司の指導、職務命令に従わず、服務規律を遵守しない被上告人の行為、態度等は、容易に矯正することのできない被上告人の素質、性格等によるものであり、職務の円滑な遂行に支障を生ずる高度の蓋然性が認められるものというべきである。そうすると、本件分限免職処分が裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるということはできない。


4 受診命令拒否が行われた場合の適格性欠如(法第78条第3号)
〔芦屋郵便局事件(大阪高裁平成12年3月22日判決)(最高裁平成12年10月19日第一小法廷判決 上告棄却)〕

(事案の概要)
 自律神経失調症との診断のため、3年間の病気休職の後復職したものの、病状が改善されなかったことから、病気休暇を付与した。職務能力の有無や職務復帰の可能性を判断するため、提出された1名の医師の診断に加え、もう1名の医師の受診を前後4回にわたり命じたが、分限免職処分を受けるおそれがあることから、これを拒否した。また、当時、心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、これに堪えない状態にあった。そこで、これらの事情を総合して、分限免職処分を行った。

(法第78条第1号及び第2号と第3号との関係についての考え方)
 法第78条第1号ないし第3号はいずれも職員の適格性の欠如に関する規定であって、第3号はその一般規定であり、第1号及び第2号は適格性を欠く場合の例示規定である。したがって、(中略)心身故障のため第3号の適格性を欠く場合に当たることもあり得るのであって、第1号ないし第3号は一定の状態に対する評価の側面を異にするにすぎないものといえる。

(本件に法第78条第3号を適用することについての考え方)
 心身の故障があると疑われる職員で、次の(1)(2)の要件を充たす職員は、(1)@について医師2名の診断がない場合であっても、簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因して、その職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められるときは、法第78条第2号のほか、同条第3号の「その官職に必要な適格性を欠く」職員にも当たる。

(1) 適格性欠如の要件
@ 長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によっても治癒し難い心身の故障があると認められ、その疾患又は故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと。
A この@に加え、次の(2)の事由などの行動、態度に徴表される一定期間にわたって継続している状態により、当該職員が官職に必要な適格性を欠くこと。
B 現に就いている職務に限らず、配転可能な他の職務を含めて考慮しても、なお、当該職員の疾患又は故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないこと。
(2) 受診命令拒否の要件
@ 任命権者が、心身の故障があるとの合理的な疑いがある職員に対し、職務遂行能力の有無を把握し、分限免職の要件を充たすか否かを判断するために、特定の医師を指定して受診を命じていること。
A 当該職員が正当な理由がなく受診命令を拒否していること。

(結論)
 長期の療養若しくは休養によっても治癒し難い自律神経失調症のため職務の遂行に支障があり、これに堪えず、また、配転可能な他の職務を含めて考慮しても職務の遂行に支障があり、これに堪えない。そして、受診命令を拒否するに至った経過、拒否理由にも照らすと、その間の言動に徴表される長期に継続している心身の状態により官職に必要な適格性を欠くものと認められる。
 また、4回にわたり職務遂行能力の有無を把握し、分限免職の要件を充たすか否かを判断するため、医師を指定して受診を命じているにもかかわらず、正当な理由なくして受診命令を拒否し続けている。
 被控訴人は、適格性欠如の要件、受診命令拒否の要件を充たす職員であり、本件処分当時その官職に必要な適格性を欠くことが明らかであったことが認められ、本件処分について裁量権行使を誤った違法があるものとは認められない。




参考2 勤務実績不良又は適格性欠如の徴表と評価することができる事実の例

 勤務実績不良又は適格性欠如の徴表と評価することができる事実の例としては、以下のようなものがある。
 なお、個々の例が法第78条第1号の勤務実績不良又は同条第3号の適格性欠如のいずれの徴表に該当するかについては、諸般の要素を総合的に検討して判断する必要があるが、下記の例のうち、(1)から(5)までについては同条第1号又は第3号の徴表、(6)及び(7)については同条第3号の徴表と評価することができる。
 また、個々の例の中には、同時に懲戒処分の対象となる事実も含まれていることから、当該事実を把握した任命権者は、分限処分と懲戒処分の目的や性格に照らして、それぞれの処分を行うかを判断する必要がある。

(1) 勤務を欠くことにより職務を遂行しなかった。
@ 長期にわたり又は繰り返し勤務を欠いたり、勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた。
 ○ 連絡なしに出勤しなかったり、いわゆる遅刻・早退をした。
 ○ 病気休暇、年次休暇が不承認となっているにもかかわらず、病気等を理由に出勤しなかった。
 ○ 上司の指示を無視し、資料整理に従事する等と称して出勤しなかった。
A 業務と関係ない用事で度々無断で長時間席を離れた(欠勤処理されていない場合でも勤務実績不良等と評価され得る。)。
 ○ 事務室内を目的もなく歩き回り、自席に座っていることがほとんどなかった。
 ○ 勤務時間中に(席を外して)職場外に長時間私用電話をした。
(2) 割り当てられた特定の業務を行わなかった。
 ○所属する係の所掌業務のうち、自分の好む業務のみを行い、他の命ぜられた業務を行わなかった。
(3) 不完全な業務処理により職務遂行の実績があがらなかった。
@ 業務のレベルや作業能率が著しく低かった。
 ○ 業務の成果物が著しく拙劣であった。
 ○ 事務処理数が職員の一般的な水準に比べ著しく劣った。
A 業務ミスを繰り返した。
 ○計算業務を行うに当たって初歩的な計算誤りを繰り返した。
B 業務を1人では完結できなかった。
 ○他の職員と比べて窓口対応等でトラブルが多く、他の職員が処理せざるを得なかった。
C 所定の業務処理を行わなかった。
 ○ 上司への業務報告を怠った。
 ○ 書類の提出期限を守らなかった。
 ○ 業務日誌を作成しなかった。
(4) 業務上の重大な失策を犯した。
(5) 職務命令に違反したり、職務命令を拒否した(受診命令の拒否を含む。)。
(6) 上司等に対する暴力、暴言、誹謗中傷を繰り返した。
(7) 協調性に欠け、他の職員と度々トラブルを起こした。




参考3 勤務実績不良又は適格性欠如を証明するための客観的な資料の例

 勤務実績不良又は適格性欠如を判断する客観的な資料の例としては、以下のようなものがある。

(1) 勤務評定記録書その他職員の勤務実績を判断するに足ると認められる事実を記録した文書
(2) 勤務実績が他の職員と比較して明らかに劣る事実を示す記録
(3) 仕事上の失敗・トラブル、苦情等の記録
(4) 指導に関する記録、対話に関する記録
 ○ 職務命令に従わない等、官職にふさわしくない言動に関する記録
 ○ 官職に必要な能力、適性、知識を有していない事実に関する記録
(5) 服務に関する記録(懲戒処分、分限処分等の記録を含む。)
(6) 身上申告書、職務状況に関する報告
(7) 研修、業務の割振り変更や他の官職への配置換の結果報告




参考4 実際に分限処分が行われた例

 勤務実績不良又は適格性を欠くことを理由に分限免職が行われた例としては、以下のようなものがある。

○ 正規の手順に従って業務を処理せず、来訪者の照会に対しても必要なことを答えないなど、業務遂行に当たって常に同僚職員が応援する必要が生じ、再三の指示、指導にもかかわらず勤務実績の改善が見られず、かつ、遅刻、早退、終日欠勤などで無断欠勤を繰り返した。
○ 来訪者への対応につき責任をもって行う立場にある者が、勤務時間のほとんどを図書室において個人的な研究や勉強などで時間を過ごし、緊急時を含め、来訪者への対応態度に消極性が顕著で、来訪者や同僚の信頼を得ず、組織協働的な業務運営を困難にした。
○ 上司・同僚・来訪者に対して、大声でその名誉・信用・人格を傷つけるような非難・中傷等を繰り返し、また、インターネットによりこれらの者を誹謗・中傷する内容の投稿をし、職員本人の業務が停滞しているだけでなく同僚職員の業務遂行にまで悪影響を及ぼした。
○ 暴力を伴う言動及び意味不明な言動、職務命令の拒否、部内部外の者に対する長時間の迷惑電話、職員の業務を長時間にわたり中断させる行為などを繰り返し行い、周囲の職員、特に女性職員に対し恐怖感を与え続けた。
○ 勤務状況について上司から度重なる注意、指導を受けるとともに、懲戒処分(減給)を受けたにもかかわらず、その後も勤務意欲に欠け、遅刻等について指導した上司に対する不適切な言動のほか、出勤後、庁舎の物置等に入り、職務命令を放棄したこともあった。また、事務室において管理者に長時間まとわりつき、管理者及び他の職員の業務の正常な遂行を妨害した。
○ 課長から命ぜられた課の日常の業務及び特命の業務を行わず、課の内外を問わず大声で叫びあるいは暴言を吐くなどけん騒にわたる言動を繰り返して業務の妨害を行い、勤務時間内に職場を離脱するなどして役所やその関係団体の幹部職員のもとに赴いて執ように面会を求め、更にこれら職員の自宅を夜間や休日に訪問して執ように面会を求めるなどの行為を繰り返した。
○ 繰り返し懲戒処分等に付され、上司から注意、指導、訓戒を受ける等厳重に戒められていたにもかかわらず、数年間にわたって、勤務時間中の飲食、雑談などや遅刻によって勤務を欠き、また、ラジオを聞きながら作業を行う、上司等に暴行を加え暴言を浴びせる、故意に作業を遅くするなどの行為を繰り返し行った。



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(別紙1)

              警 告 書


(氏名)             (現官職)

(内容)
1 あなたには、下記のとおり、勤務実績不良又は適格性欠如の徴表と評価するこ
とができる事実が認められますので、その改善を求めます。
2 今後、これらの状態が改善されない場合は、国家公務員法第78条第1号又は
第3号に基づいて分限処分(免職・降任)が行われる可能性があります。

(勤務実績不良又は適格性欠如の徴表と評価することができる具体的事実)





     年  月  日
任命権者


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(別紙2)

             受 診 命 令 書


(氏名)             (現官職)

(内容)
1 あなたに対し、年月日までに、次の医師2名の診断を受け、
診断書を提出するよう命じます。

  指定医師@
  指定医師A

2 これは、国家公務員法第78条第2号に該当する可能性があるか否かを確認す
ることを目的とするものです。

3 あなたが正当な理由なくこの受診命令に従わない場合は、国家公務員法第78
条第3号に該当するものとして、分限免職が行われる可能性があります。

     年  月   日
任命権者






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