◆200612KHK228A2L0170C
TITLE:  学習指導要領の変遷
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: (2006年11月初稿、2015年5月更新)
WORDS:  全40字×170行


学習指導要領の変遷


改訂年 改訂・実施 特徴・内容
1947年 1947年3月20日「学習指導要領一般編(試案)」発表、「同  各教科編(試案)」発表。
小学校、中学校は1947年度より実施、高等学校は1948年度より実施。
教育実践において参考とすべき手引き書

  • 社会科、自由研究の創設
  • 問題解決学習、討議法の導入。
  • 1951年 1951年7月「学習指導要領一般編(試案)」(小中高)改訂・実施。 急遽作成した1947年版の修正

  • 「教科課程」を「教育課程」に変更し、教科および教科以外の教育活動を含める。教科外の教育活動を特別教育活動と改称。
  • 道徳教育を学校教育のあらゆる機会に行うこととする。
  • 1955年 1955年小学、1956年中学の「社会科編」改訂。
    1955年12月「高等学校学習指導要領一般編」改訂(「試案」の文字を削除)、1956年度より実施。
    独立国家として、占領時代の違和感の解消

  • 道徳教育の役割、天皇の地位を明記。
  • 地理、歴史教育の系統性の重視。
  • 高校における総合制教育課程課程を改め類型(コース)制導入
  • 1958〜1960年 (改訂)
    小学校:1958年10月
    中学校:1958年10月
    高等学校:1960年10月

    (実施)
    小学校:1961年度
    中学校:1962年度
    高等学校:1963年度(学年進行)
    教育課程の国家基準としての性格の明確化

  • 官報告示により法規性・法的拘束力があるとする解釈を行う。
  • 教育課程編成を教科、特別教育活動、道徳、学校行事の4領域とする。
  • 「道徳」の時間の特設による道徳教育の強化。(1958年より実施)
  • 学校行事、儀式などで国旗掲揚、君が代斉唱が望ましいと記載。
  • 科学技術教育の向上、教科の学習の系統性を重視。
  • コース制・多様化を謳い能力適性に応じる教育。
  • 1968〜1970年 (改訂)
    小学校:1968年7月
    中学校:1969年4月
    高等学校:1970年10月

    (実施)
    小学校:1971年度
    中学校:1972年度
    高等学校:1973年度(学年進行)
    教育内容の一層の向上=「教育内容の現代化」

  • 学校行事と特別教育活動をまとめ特別活動とし、教科、道徳とあわせ、教育課程編成を3領域とする
  • 時代の進展に対応した教育内容の導入するとし、小学校で集合を導入するなど教科内容を増大した。
  • 学校制度の多様化と能力・適性に応じた教育を強調。
  • 神話教育の復活と「愛国心」教育の強調(国家を守る自覚、公民的資質の養成の強調など)。
  • クラブ活動の必修化(必修クラブ)。
  • 1977〜1978年 (改訂)
    小学校:1977年7月
    中学校:1977年7月
    高等学校:1978年8月

    (実施)
    小学校:1980年度
    中学校:1981年度
    高等学校:1982年度(学年進行)
    ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適正化

  • 指導要領内容の半減と授業時間の削減で「ゆとり」「精選」を強調。
  • 「知、徳、体の調和のとれた人間形成」を主張。
  • 教科、特別活動での道徳教育が強化(社会奉仕・勤労体験学習、家庭・地域との連携などを力説)。
  • 君が代を「国歌」と明記し、「国旗を掲揚し、国歌を斉唱させることが望ましい」と規定する。
  • 高校において「国語I」「現代社会」などを設け、必修単位数を削減
  • 1989年 (改訂)
    小中高等学校:1989年3月

    (実施)
    小学校:1992年度
    中学校:1993年度
    高等学校:1994年度(学年進行)
    社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成

  • 小学校低学年で社会・理科を統合し「生活科」を新設(1990年実施)。
  • 高校の社会科を廃止し、「地理歴史科」と「公民科」を新設。
  • 道徳教育を「学校教育の基本にかかわる問題」として拡充し、「畏敬の念」「人間としてのあり方、生き方の教育」を強調。
  • 君が代、日の丸について、「望ましい」を「指導するものとする」と変更し、義務づけを強化。
  • 中学校習熟度別学習を導入、2・3年での選択教科を大幅に拡大。
  • 高校の多様化・細分化の推進(単位制高校など)。
  • 女子のみ必修であった家庭科を男子にも必修とする。
  • 情報教育など情報化社会への対応。
  • 1998〜1999年 (改訂)
    小学校:1998年12月
    中学校:1998年12月
    高等学校:1999年3月

    (実施)
    小学校:2002年度
    中学校:2002年度
    高等学校:2003年度(学年進行)
    「ゆとり」の中で「生きる力」を育む

  • 教え込む教育から、自ら学び自ら考える力を育成する教育へと基調の転換を図る。
  • 学校5日制を完全実施するため、教育内容を3割削減し、基礎・基本を確実に身に付けさせることを徹底。
  • 心の教育の観点から道徳教育の拡充。
  • クラブ活動を廃止し、「総合的な学習の時間」の新設。
  • 普通教科として「情報」を新設し、必修とする。
  • 一部改正
    小中高等学校:2003年12月
    学習指導要領のねらいの一層の実現

  • 学力低下の批判を受け、学習指導要領が最低基準であることを強調。
  • 2008年 (改訂)
    小学校:2008年3月
    中学校:2008年3月
    高等学校:2009年3月

    (実施)
    小学校:2011年度
    中学校:2012年度
    高等学校:2013年度(学年進行)
    「ゆとり教育」の是正と「生きる力」の継続

  • 授業時数の増加、土曜日の活用。
  • 「総合的な学習の時間」の縮小。
  • 中学校での必修科目の増加と選択科目の削減、外国語(英語)の授業時数の増加
  • 小学校で外国語活動が必修化される。
  • 総則に道徳教育の目標として「我が国と郷土を愛する日本人の育成」が明記された。小学校音楽で「君が代を指導する」が「君が代を歌えるよう指導する」に変更された。
  • 中学校の保健体育科で武道が必修化される。
  • 一部改正 2015年3月27日
    (実施)
    小学校:2018年度
    中学校:2019年度
    道徳教育の教科化

  • 道徳の時間が「特別の教科である道徳(「道徳科」)として位置づけられた。
  • 2015年度から新課程を先行実施できることとした。
  • < 参考文献 >

    ○ 河野重男・西村三郎編『高等学校学習指導要領の展開 総則編』明治図書(1978年)
    ○ 平原春好『日本の教育課程―その法と行政―第2版』国土社(1980年)
    ○ 永井憲一編『新学習指導要領と教師』エイデル研究所(1991年)


    < 後記 >

      ここ数日、高等学校における必修科目の履修漏れの問題が連日のように報道されている。文科省の調査では、履修漏れは、国公私立を合わせて計540校、8万3743人に及び、全国の高校の約1割で履修漏れがあったことになる(2006年11月2日朝日新聞)。この問題で安倍首相や伊吹文科相は、教育現場の校長・教員、教育委員会が規範意識に欠けると批判し、文科省自身の責任は結果責任にとどまるとコメントしている。こうした政府の姿勢はきわめて欺瞞的であり、ここで、改めて学習指導要領(以下、指導要領)の経緯を整理し、その欺瞞性を明らかにしようと考えた。

      文科省は指導要領が「法令」であるとの立場をとっている。しかし、指導要領は文字通りの「法令」とは言えない。今回の対策で、生徒に補習を受けさせることが検討されているが、指導要領には何をもって履修を認定するかという「履修」の要件は規定されていない。指導要領が法令とするならば、これは致命的な欠陥であろう。その結果、特例措置として補習時間数を軽減したとしても、定められた補習の時間数を生徒が受講しなかった場合に、その生徒の卒業を認定できるかどうかについて指導要領からは判断できない。結局、卒業させるかどうかの判断は各高校に委ねられることになろう。

      もともと指導要領は、1947年に教員が参考とすべき「手引き書」として発行されたものであったが、1958年に当時の文部省がこれを官報に告示することにより、法規性・法的拘束力があるとする解釈を行い現在に至っているのである。

      ところが、これまで、指導要領は文字通りの「法令」としては守られてこなかったし、当の文科省自身もそれを放置し、あるいは黙認してきた。たとえば、指導要領に定める教育内容の学年指定は、私立の一貫校では前倒しされ、最終学年で空いた時間を受験勉強に充てていた。これは後に、選択制の拡大や、中高一貫校制度の導入によって実態を追認する方向で解消された。また、1971年度から導入された必修クラブは、実施を始めたものの長らく完全な実施が実現されないまま、2002年度の指導要領から正式に削除された。同じように、小学校で1980年から「ゆとりのある充実した学校生活」を実現するために導入されたいわゆる「ゆとりの時間」は高校でも実施されたが、次の指導要領の改訂でこの時間が削除される前に、学校現場では姿を消していた。

      さらに、高校において学校5日制を導入した2003年度からの指導要領では、週当たりの授業時数は、30単位時間を標準とすることになっているが、一部の公立学校や多くの私立学校では土曜日に授業を行ったり、7時間目の授業を実施するなどして週30時間の標準を大きく上回っている。

      これとは逆に、文科省は指導要領に定める国旗国歌の指導については、1999年に国旗国歌法が制定される以前から、毎年、その実施状況を全国調査し、執拗にその完全実施を迫り、ついには、ほぼ100%の実施率をもたらした。指導要領のある部分については完全に遵守させるが、別の部分については調査しようともしない。いったいこの落差はどう理解すればよいのだろうか。

      文科省設置法によれば、文科省は学校教育について調査し、教育委員会や都道府県知事に対して指導、助言、勧告を行う権限を有している。ところが、今回の必修科目の履修漏れの問題について、文科省はこうした権限を有しながら、問題が発覚するまでは、実態調査をし不適切な運用に対し指導や勧告を行うなどの充分な対応をしてこなかった。

      高校では、家庭科を男女必修とし、世界史を必修とした1994年頃から必修漏れの兆候があったといえる。2001年度には広島と兵庫の県立高校でこの問題が発覚し文科省も是正を指導したが(2006年10月26日朝日新聞)、このとき、履修漏れの問題が広範に拡大していることを疑うべきであった。文科省は遅くとも、学校5日制の完全実施を行い授業時数を大幅に削減した2003年に、この問題を察知しその全国調査を行い是正を指導するべきであった。このように、文科省は履修漏れの問題がこれほど全国的に拡大する以前に、それを食い止めることができたのであり、それを行うべきであった。それを行わなかった不作為の責任はきわめて重い。

      責任を問われた文科省は、「法改正して教育委員会に対する権限を強化したい」と述べているが、これは責任のがれであり、国旗国歌の徹底に見られるように、現状のままでも、文科省は既に指導要領を遵守させるのに充分な権限を有しているのである。文科省が今回の事件の結果、より強力な権限を手に入れるならば、それは「焼け太り」であり、文科省の責任のがれを許したことになる。

    (2006年11月3日)



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