大阪府教育行政基本条例・職員基本条例(2012年)

2012年3月23日 成立
2012年3月28日 公布








<参考資料 1>

大阪府議会、教育・職員条例が成立 4月1日施行へ
(朝日新聞2012年3月23日)


  大阪府議会(定数109)は23日、知事の教育への関与を強める府教育行政基本条例と、校長の権限強化や保護者の学校運営参加を定める府立学校条例、職員評価や処分厳格化を規定した職員基本条例について採決し、いずれも大阪維新の会と公明、自民の3会派などの賛成多数で可決・成立した。賛成した議員は過半数を占める維新をはじめ8割超に達した。3条例とも4月1日に施行される。

  教育・職員条例は、大阪維新の会がほぼ同趣旨の条例案を昨年9月に議員提案していた。同会幹事長の松井一郎知事は昨年11月のダブル選で「民意が得られた」とし、知事提案で成立をめざす方針を表明。橋下徹大阪市長らと協議し、内容を修正した条例案を府議会に提案した。

  教育行政基本条例では、知事が府教委と協議して教育目標となる教育振興基本計画を作成すると規定。知事が教育委員の罷免(ひめん)権を持つことも明文化した。府立学校条例は、府立高校の学区廃止や校長の権限強化、保護者らによる学校評価を導入。職員基本条例では職員評価に相対評価を導入したほか、部長級ポストの公募や職務命令に違反した際の処分厳格化を定めた。

  23日の本会議で、民主は「拙速で検討の時間が必要」と3条例に反対し、共産も反対。大阪維新の会と公明、自民などは「慎重な運用を求める」との意見をつけて賛成した。本会議ではほかに、大阪府市を大阪都に再編する具体策をまとめる協議会設置条例や、子どもへの性犯罪で服役し出所した人に居住地の届け出を義務づける全国初の条例も成立した。

  松井氏は条例成立後、「ここから公務員の意識改革に向かって動き出す。学校では校長を支える組織作りを進めたい」と述べた。

  一方、教育2条例の成立を受け、辞意を固めていた大阪府教育委員会の生野照子委員長は、28日の教育委員会会議で辞任を正式表明する。



<参考資料 2>

大阪府の教育行政基本条例案、府立学校条例案
及び職員基本条例案に関する会長声明(大阪弁護士会)


1 知事による教育行政基本条例案等の提案

  大阪府では、2012年(平成24年)2月23日、知事提案によって教育行政基本条例案及び府立学校条例案(以下「教育関係条例案」という。)並びに職員基本条例案が府議会に提案された。これらの条例案には、以下に述べる看過できない大きな問題がある。

2 各条例案の問題点

  第一に、教育関係条例案については、学校間あるいは子どもたちの間の格差を公表することによって競争をあおり、競争に勝てなかったものに不利益を与えるという考えが随所にみられる。同条例案では、3年連続定員割れ高校については、「再編整備の対象とする。」とされ、定員割れを理由とする統廃合の可能性が示されている。府立普通科高校の学区については、維新の会提案のとおり、2014年(平成26年)4月からの一学区制とすることが盛り込まれた。府民に対する教育情報の提供という言い方で、学力テスト結果の学校別公表への途も開かれている。しかしながら、教育にこのような過度の競争を持ち込むことは、教育現場を荒廃させるおそれがある。

  第二に、職員基本条例案には、職員及び教職員に職務命令違反に対してきびしい懲戒処分・分限処分の基準を設定し、さらに職員については相対的人事評価を行うことによって、統制管理する発想がみられる。同条例案によれば、教職員についても、同一の職務命令違反3回で分限免職となる可能性があるが、東京都の教職員の日の丸・君が代処分事件の最高裁判決も懲戒処分として減給以上の処分を課することについては、きわめて謙抑的な判断をしており、この判決に照らしても、思想良心に関わる問題で3回の職務命令違反で分限免職につながる規定を設けることは、憲法違反のおそれが強い。

  第三に、教育関係条例案には、学校の管理及び教職員の人事等を教育委員会の事務とする地方教育行政組織法23条等に違反し、政治が教育内容に介入し、教育の中立性・公平性を侵害して、府教育委員会及び市町村教育委員会を府知事の下に置くような規定がある。

  まず、同条例案には、知事が教育委員会と協議して教育振興基本計画を策定することが定められているが、上記の教育委員会の職務権限とされた事項について知事が基本計画を定めることは同法23条に違反するおそれがある。

  また、「同計画に定めた目標達成のための教育委員の取組み等の点検評価により、知事が教育委員の罷免事由の該当性を判断する」との規定は、教育委員の罷免事由を限定した同法7条に違反し、「大阪府教育委員会が市町村に共通する教育の基本方針を定める」との規定は、府教育委員会が市町村教育委員会に命令する関係を定めることになり、「市町村に対し、・・・指導、助言又は援助を行うことができる」とする同法48条に反する疑いがある。

  第四に、職員基本条例案は大阪府人事監察委員会を新たに設置し、職員の懲戒・分限処分について、任命権者に意見を言うとしているが、教育委員会についても人事監察委員会の意見を考慮する義務を課すことは、教育委員会の独立した権限を認めている同法23条に反するものである。

3 教育関係条例案について考慮すべき事情

  教育関係条例案のモデルとなっているアメリカの「おちこぼれゼロ法」による学校選択制、学力テストの成績の悪い学校の民営化・統廃合、生徒の成績による教員へのボーナス配分などについて、失敗であったことが明らかになっている。府・市教育委員の中にも、競争主義は、かえって子どもたちの意欲をなくすとして反対する意見が強くある。また、教育委員会の独立性・中立性は、時の政治によって教育の内容がゆがめられないようにするための重要な制度的保障である。

  当会は、少年事件・児童福祉・学校問題などで、子どもの学習権・成長発達権を守り、子どもの権利条約を実施するために取り組んできたが、今回の各条例案が子どもの学習・成長の権利を阻害し、教職員の自由で闊達な教育活動を抑制することになることを危惧するものである。このような重要な問題の決定が、保護者・子どもの声、学校現場の声、教育学者の意見、諸外国の経験などを考慮せず、知事・議員の現時点での政治的動向に基づく判断で決せられることは、百年の計と言われる教育の分野については不適切である。

  以上により、当会は、知事提案の各条例案が制定されることに、強く反対するものである。

2012年(平成24年)3月19日
大阪弁護士会
会 長  中 本 和 洋












Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会