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TITLE:  ゴス事件アメリカ合衆国連邦最高裁判決
AUTHOR: 羽山 健一(訳)
SOURCE: 大阪高法研年報 1990年版(1991年03月)
WORDS:  全40字 × 295行

 

ゴス事件アメリカ合衆国連邦最高裁判決

Goss v. Lopez, 419 U.S.565(1975)

 

 

  ホワイト判事が法廷意見を述べた。

 この上訴は,オハイオ州コロンバス地区公立学校制度(CPSS)の数名の管理者(administrators)が,連邦地裁三人判事法廷(three-judge federal court)の判決を不服として申し立てたものである。その地裁判決は,被上告人−CPSSの数名の高校生−が,停学に先立って,あるいは停学後の合理的期間内に聴聞の機会を与えられることなく,在籍する高校から一時的に停学とされた点において,憲法修正第14条の命ずるところに反し,適正な法の手続き(due process of law)の保護を奪われたものであると判示し,管理者に対して生徒記録から当該停学処分に関するすべての記述を抹消するよう命じた。

 

 

 オハイオ州法,法令集3313章64条(注釈付,改訂版,Rev. Code Ann.§3313.64(1972) )は,6歳から21歳のすべての子どもに無償教育を保障している。同法3313章66条は,オハイオ州の公立学校校長に対し,問題行動を理由として生徒を最高10日間の停学に処し,または生徒を退学にする権限を与えている。どちらの場合でも,校長は24時間以内に生徒の両親に通知し,処分の理由を述べなければならない。退学処分を受けた生徒,又はその両親は,処分について教育委員会への不服申し立てが認められ,その際には教育委員会で聴聞の機会が与えられる。教育委員会は聴聞の結果に従って,その生徒を復学させることもできる。停学処分を受けた生徒については,3313章66条にも,またはその他の州法の条項にも,退学の場合のような手続きは規定されていない。制定法の施行規則は別として,本件の停学を科した時点において,CPSS自身は,停学に適用できる明文の手続き規定を持っていなかった。さらに記録を見る限り,本件に関係した高校はいずれも同様に規定を持っていなかった。ただ,各高校は公式にあるいは非公式に,停学を科するに値する行為については規定していた。

 9名の被上告人は,3313章66条に準じた聴聞を受けることなく,コロンバス地区の公立高校からそれぞれ最大10日間の停学処分を受けたと主張し,合衆国法典第42編第1983条をもとに,コロンバス地区教育委員会とCPSSの数名の管理者に対し,訴訟を提起した。訴状によれば原告らは,3313章66条が公立学校の管理者に,何らかの聴聞を経ることなく,原告らの教育を受ける権利(right to an education) を剥奪することを認めている点において,憲法修正第14条の規定する手続的適正手続きに反するものであって,同条が憲法違反であるという宣言的判決を求めた。さらに原告らは,公立学校職員(public school officials) が将来,3313章66条による停学処分を行うことを禁止する,差し止め命令を請求し,また,問題となっている生徒記録から,過去の停学に関する記述を抹消することを求めた。

  証拠によれば,当該停学は,1971年2月から3月にかけてCPSSで広く巻起こった生徒の騒乱状態の結末として,発せられたものと認められる。6名の原告,ルドルフ・サットン,タイロン・ワシントン,スーザン・クーパー,デボラ・フォックス,クラーレンス・バイヤーズ,それにブルース・ハリスはマリアン・フランクリン高校の生徒であった。そして彼等は,停学を命じた学校管理者の面前で,混乱的で不従順な行為をおこなったことを理由に,それぞれ10日間の停学処分を受けた。

  この中の一人,タイロン・ワシントンは,授業が行われていた学校の講堂で示威行動をしていたグループの一員であった。彼は校長から退去を命じられたが,それを拒んだので停学になった。ルドルフ・サットンは校長の面前で,タイロン・ワシントンを講堂から連れ出そうとしていた警察官に体当たりして攻撃したので,直ちに停学になった。他の4名のマリアン・フランクリン高校の生徒たちも,同様の行為を理由に停学になった。以上の6名は誰も停学の基礎となる事実を確認するための聴聞の機会を与えられなかった。ただそれぞれの生徒は,停学期間の終了後に,各自の将来について話し合うための相談会に両親と共に出席する機会が与えられただけであった。

  2名の原告,ドゥワイト・ロペスとベティ・クロームは,それぞれセントラル高校とマクガフィ中学の生徒であった。ロペスは,学校の食堂で起こった施設破壊などの混乱に関連して停学処分を受けた。ロペスは,その日は少なくとも75名の生徒が停学処分を受けたと証言し,また彼自身は破壊行動に加わっておらず,傍観者にすぎなかったと主張した。彼の破壊活動について証言する学校側の証人はいないのであるから,この認定を左右するに足る証拠はない。ロペスは聴聞の機会を与えられなかったのである。

  ベティ・クロームは,自分の登校する学校とは別の高校での示威行動に参加した。そこで他の生徒たちとともに逮捕され,警察署に連行されたが,起訴されずに釈放された。翌日彼女は登校する前に,10日間の停学処分を受けたことを知らされた。この事件について証言する学校側の証人がいないので,マクガフィー中学の校長がクロームの停学処分を決定するに至った経過や,どのような情報に基づき処分をしたかは不明であった。記録から明らかなことは,何らの聴聞も行われていないことである。

  9番目の原告,カール・スミスの停学についての証拠はまったくない。全員ではないが,原告のなかには,親たちへ停学の命令文書やその写しが送られている者もあるにも拘らず,彼の停学については,学校の記録から何の情報も得ることができない。

  以上の証拠にもとづいて,三人判事法廷は,原告らは「停学処分を受けるにあたり,事前の聴聞,あるいは事後の合理的期間内の聴聞を受ける機会を与えられなかった」のであるから,適正手続きの保護を奪われたものであると判断し,オハイオ州法令集3313章66条(1972)とそれに準拠して発せられた規則は,上記のような停学を認めている点において憲法違反であると判示した。学校の記録から原告らの停学処分に関するすべての記述を抹消することを命じた。

 連邦地裁は,オハイオ州の学校管理者に特定の懲戒処分手続きをとるように強制しておらず,また「学校の教育目的と調和し,学校や地域の特性を反映した,公正な停学処分手続きを規定する自由」を学校管理者に対し認めている。しかし連邦地裁は,「緊急事態でない限り,停学前の告知と聴聞は最小限の要請」であることを判示した。本件の解明にあたり,まず連邦地裁は,先例が次のことを認めていると述べた。 (1)「学校における学習の環境を混乱させる行動,他の生徒,教員,学校職員を危険にさらす行動,施設を破壊する行動をとる場合には,直ちにその生徒の登校を禁止する」ことが許される。 (2)処分決定後24時間以内に,その生徒の両親に対し,停学手続きについての通知を送る必要がある。 (3)生徒を停学にした後,72時間以内に,生徒本人も出席する聴聞会を開く必要がある。最後に,聴聞会の性質について。申し立てられている被疑事実を説明する陳述が行われ,当該生徒その他の者が弁護したり懲戒の軽減を求める陳述をすることが許される。ただし学校は,弁護人(counsel) の出席を認める必要はない。

 被告学校管理者は,三人判事法廷の判決を不服として上告した。原判決は,原告の請求・・被告に記録の抹消を命じる・・を認容したのであるから,当裁判所は,合衆国法典第28編第1253条に従って,上告の裁判権をもつ。原判決維持(上告棄却)

 

II

 

 最初に上告人は,公費による教育を受ける憲法上の権利は存在していないのであるから,適正手続き条項(Due Process Clause)は公立学校制度からの排除に対し保護を与えるものではない,ということを主張する。この立場は原判決の本質を誤解するものであり,またこれまでの判例によって反駁されている。憲法修正第14条は,州が適正な法の手続きを経ることなく,何人からも生命,自由または財産を奪ってはならないと規定している。保護を受ける財産権上の利益とは,一般的に「憲法によって創設されるものではなく,それらはむしろ」,市民に特定の利益を与える州法や規則のような,独立した源によって「創設され,その範囲が定められるのである。」 Board of Regents v. Roth,408 U.S.564,577,92 S.Ct.2701,2709, 33 L.Ed 548(1972).

したがって,州の被雇用者は,十分な解雇理由が存しない限り,州法や州職員によって施行された規則のもとで,雇用の継続を要求する正当な資格を有しており,適正手続きの手続的保護を要求することができる。・・・・・ 福祉の受給者も同様で,特定の資格がある限り,制定法上の福祉の権利を有する。仮出獄者は出獄する憲法上の権利を持たないのであるが,Morrissey v. Brewer,408 U.S.471(1972) は,適正手続き条項による規制を,仮出獄を取り消す政府の決定に適用した。同様に,Wolfe v. McDonnell,418 U.S.539(1974)では,州法のもとに認められた囚人の信用(good-time credits) を公的に取り消したことについて,憲法がそのような特権を委任していないにも拘らず,適正手続き条項の手続き的保護を適用した。

 本件では,被上告人は州法に基づき公教育を受ける正当な資格(entitlement) を有していることは明らかである。オハイオ州法令集3313章48条及び3313章64条(1972,1973) は,5歳から21歳までの住民に,無償の教育を提供することを地方当局に命令している。そして義務教育法(compulsory-attendance law) は,少なくとも1年に32週の出席を義務づけている。オハイオ州法令集3321章4条(1972)。この法令集3313章66条が校長に,最高10日間の停学処分を認めていることは間違いない。しかし,何の理由もない場合に,停学処分を強制することはできない。すべての学校は退学及び停学の理由を特定する規則をそれぞれ持っている。一般に,教育を受ける権利を被上告人らの年齢層(class) の人々に与えた以上,オハイオ州は,問題行動があったかどうかを決定するために,基本的に公正な手続きを経なければ,問題行動を理由としてこの権利を取り消すことはできない。 Arnett v. Kennedy,suppra,at 164, 94 S.Ct.at 1649(パウエル判事同意意見),171,94 S.Ct.1652(ホワイト判事一部同意一部反対意見)206,94 S.Ct.1670(マーシャル判事反 対意見).

 オハイオ州には,公立学校制度を設立し維持する憲法上の義務はないかも知れないが,それにも拘らず,同州はこの制度を維持し,子どもたちに就学を義務づけている。生徒たちは校舎の入り口で「憲法上の権利を放棄する」わけではない。Tinker v. Des Moines School Dist.,393 U.S.503,506(1969).「現在各州に適用される憲法修正第14条は,州それ自体や,州が設けたすべての機関から市民を保護する・・・教育委員会も例外ではない」。West Virginia Board of Education v. Barnette,319U.S.624,637(1943). 学校での行動の規範を規定し強制する州の権限は,確かに広範なものであるが,それは憲法上の保護と矛盾なく行使されなければならない。とりわけ,生徒は適正手続き条項によって保護される財産権的利益(property interest) として,公教育を受ける正当な資格を有しており,州はこれを承認しなければならない。そしてこの財産権的利益は,適正手続き条項が義務づける最小限の手続きを遵守することなく,問題行動を理由に剥奪されてはならない。

  また適正手続き条項は,恣意的に自由を剥奪することをも禁止している。「政府の行為によって個人の名声,評判,名誉,または誠実性が危うくなっている場合には」,この条項が義務づける最低限度の要請が満たされなければならない。本件では,学校当局は,問題行動についての嫌疑により,被上告人らを最高10日間の停学処分にした。停学処分が維持され,記録されれば,当該生徒は,教師や友人間での評判を著しく落とし,将来の高等教育や雇用の機会が妨げられる。聴聞の手続きを経ることなく,問題行動が行われたかどうかを一方的に決定できるというような,州の主張する権利は,憲法の要請とはまったく相容れないものである。

 さらに上告人は次のように主張する。たとえ,公教育を受ける権利が,適正手続き条項によって,一般的に保護されるとしても,この条項は州が生徒に「過酷で悲痛な損害」を与えた場合に限り,適用されるべきものである。10日間の損失は,過酷でも悲痛でもないので,適正手続き条項とは無関係である。このような上告人の議論もまた,次のような当裁判所の先例によって否定されるものである。すなわち,「適正手続き上の義務が適用されるかどうかについて,われわれは第一に,問題になっている利益の『量』ではなく,質を調べなければならない」。Board of Regents v. Roth,supra at 570-571, 92 S.Ct.1 at2705-2706. 確かに被上告人らは学校から一時的に排除されたにすぎない。しかし,停学の長さや結果的な厳しさは,適切な聴聞の形式を決定する上で考慮すべき要因ではあっても,何らかの聴聞を受ける「基本的な権利を左右するものではない」。当裁判所の見解では,財産権の剥奪が,とるに足りないもの(de minimis)でない限り,その重大性は,適正手続き条項が適用されるかどうかの問題とは無関係である,とされている。われわれの見解では10日間の停学はとるに足りないものではなく,適正手続き条項を完全に無視してこれを科することはできない。

 もちろん短期の停学は退学に比べ,はるかに穏やかな権利の剥奪である。しかし,「おそらく教育は,州および地方政府の最も重要な機能であり」Brown v.Board of Education,347 U.S.483,493, 74 S.Ct.686,691, 98 L.Ed.873(1954),無視しうる程度の些細な期間の停学は別として,それを超えて教育過程から全面的に排除することは,停学処分を受けた子どもの人生にとって重大な事件であることは間違いない。そしてその停学が10日間であるならば,明らかにそれは些細なものとはいえない。一時的に拒否された教育上の財産権的利益,及び名声についての自由権的利益・・これもまた本件に関わっているものである・・は,どちらも実体のないものではないので,恣意的に学校が決めた手続きによって停学を強制することは憲法上許されない。

 

III

 

 「適正手続きが適用されることが決まれば,次にどのような手続きが適正であるかが問題となる」。Morrissey v. Brewer,408 U.S.at481, 92 SCt.,at2600. その問題の審理に移る。適正手続き条項の解釈や適用は,極めて実際的な問題であり,「まさしくその適正手続きの本質は,考えられる限りのすべての状況に一般的に適用できるような,普遍的な手続きの概念を否定するものである」ということを,われわれは本件においても十分に認識している。Cafeteria Workers v. McElroy,367 U.S.886,895, 81 S.Ct.1743,1748, 6 L.Ed.2d 1230(1961). またわれわれは,われわれ自身の手による以下の警告を忘れてはいない。

  「わが国の公立学校制度の運営に対する司法的介入に伴って,それが注意深くかつ抑制的であるべきであるという問題が起こっている・・・・。全般的にみて,わが国の公教育は,州および地方当局の統制に委ねられている」。Epperson v. Arkansas,393 U.S.97, 104, 89 S.Ct.266,270, 21 L.Ed.2d 288(1968).

 しかしながら,われわれを導く確かな指標がある。Mullane v. Central Hanover Trust Co.,339 U.S.306, 70 S.Ct.652, 94 L.Ed.865(1950),この事例は後の判例でしばしば引用されるものであるが,「適正手続き条項の暗号のような抽象的用語について,多くの議論が沸き起こっている。しかし少なくともこの条項が,生命,自由,財産の剥奪に先立って,告知および事例の特質に応じた聴聞の機会を要求していることは,疑う余地がない」。Id.,at 313, 70 S.Ct.at657 「適正な法の手続きに不可欠な基本的要素は,聴聞を受ける機会」であり,「もし生徒が問題となっている事情を知らされず,争うかどうかを自分で決定できないのであれば」,その権利は「ほとんど現実味や価値のないものとなる」。したがって,まさに最小限のものとして,停学,およびその結果として生じる財産権的利益への侵害を受けようとしている生徒は,何らかの告知と,何らかの聴聞を与えられなければならない。「権利を冒されようとしている当事者は,聴聞を受ける資格がある。そしてその権利を享有できるようにするため,当事者は,まず最初に告知を受ける必要がある」。

  また当裁判所の判例から,告知の時機と内容,および聴聞の性格は,争っている利益の適切な調整によって決定されると考えられる。生徒の利益は,教育の過程からの不公正なあるいは誤った排除を,その結果として起こるすべての不幸な侵害とともに,退けることである。適正手続き条項は,適正に科される停学から生徒を守るものではないが,もしも停学が真に不当なものであれば,それは生徒の利益と州の利益の両方に害を与える。もし懲戒手続きが,全体として適正なものであり,決して誤ったあるいは不公正なものでなければ,通常その処分は教育的なものといえよう。残念ながら本件ではそうではなかったし,誰もそのような主張をしていない。懲戒権者は,最善の誠意をもって処分手続きをすすめていたとしても,しばしば,他人の報告や助言に基づいて処理することがあり,問題となっている行為の事実や態様についての認定がたびたび争点となっている。誤りをおかす危険性は,決して無視しうる程度のものとはいえず,停学処分にあたり,重大な犠牲を払うことにならないかどうか,あるいは教育の過程を妨害していないかどうかに注意しなければならない。

  われわれの学校教育が広範囲で複雑であることが厄介な点である。教育がその機能を発揮するためには,適度な規律と秩序が不可欠である。しばしば懲戒を必要とする事態が起きているし,時には即時の効果的な措置が求められることもある。停学は,秩序を維持するために必要な手段であるのみならず,価値の高い教育的方策でもある。すべての停学の事例について,念入りの聴聞を要求するということが,重大な関心事として検討されているが,学校当局が告知や聴聞についての規則に拘束されず,一方的に措置できる自由な権限を望むのももっともである。しかし懲戒権者が生徒に違反の事実を知らせず,また生徒が不正を行っていないということを確かめるために,生徒側の言い分を述べさせる努力もしないで,生徒とのコミュニケーションを持とうとしないのであれば,それは教育制度上,奇妙な懲戒のあり方といえよう。「公正さというものは,権利を左右する事実の一方的な秘密裡の認定によっては保持されない」。「秘密主義は,真実探求とは無縁のものであり,独善は正義の保証をあまりにも貧弱なものにする。重大な損害を受ける危険性のある人に対して,真実に達するために,被疑事実の告知と,聴聞に対処する機会を与えることが,最良の方法である。」。

  学校が十分有効な措置を行おうとするなら,学校当局が告知や聴聞の要請から完全に開放されるべきである,などとは考えられない。一時的な停学に直面している生徒は,適正手続き条項の保護を受ける資格を有しており,10日間以内の停学処分についての適正手続きとは,被疑事実について,生徒に口頭あるいは文書で通知し,もし生徒がそれを否認すれば,学校当局のもっている証拠を示して説明する必要があり,生徒側に釈明の機会を与えるものでなければならない。この条項は,問題行動についての不公正なあるいは誤った事実認定や,学校からの恣意的な排除を避けるために,少なくともこのような基本的予防手段を義務づけている。

 「告知」が与えられる時期と,聴聞の時期との間には遅れがあってはならない。大多数の事例において,おそらく懲戒権者は問題行動が起ると直ちに,その容疑について生徒と非公式に話し合うであろう。われわれは単に,この話し合いで生徒が自己の利益となる事実を説明する機会を与えられるに際して,当該生徒は,まず最初に,どのような違反を問われているか,またどのような根拠に基づいてそれが問われているかについて告げられるべきことのみを判示するものである。短期の停学に必要とされる手続きの性格についての問題を審理した下級審は,同じ結論に到達している。Tate v. Board of Edcation,453 F.2d.975,979(CA8 1972); Vail v. Board of Edcation,354 F.Supp.592,603(NH 1973). 聴聞は問題行動が起こったほとんど直後に行われるべきものであるから,一般原則として,告知と聴聞は生徒の登校を禁止するのに先立って行われるべきである。しかし連邦地裁は,再発が予想される事情があって,事前の告知と聴聞に固執できないような場合があることを判示しており,われわれはそれに同意する。その生徒が引き続いて出席することによって,他人や施設を継続的危険に陥れ,学習の過程を妨害するような脅威が進行するといった特殊な場合には,直ちにその生徒の登校を禁止することが許される。そのような場合においても,連邦地裁が指摘したように,事後にできるだけ早く,必要な告知と基本的な聴聞が行われなければならない。

 われわれの判示においても,われわれは,学習の場(classroom setting) に不適当な手続きを学校の懲戒権者に押し付けているとは考えていない。われわれは不公正な停学を避けるために,公正な学校長ならば自分に対して課すであろうようなもの以上の手続きを課していないのである。マリオン・フランクリン高校の校長の証言によれば,実際にこの学校は非公式の手続きを備えており,これは今われわれが要求している手続きと非常によく似たものであり,通常の停学に適用できるものであったが,しかし本件ではこの手続きに従っていなかった。同様にCPSS全体に適用できる最近の覚え書きによれば,現在ではCPSSの学校長は地方規則によって,少なくともわれわれが述べた憲法の最低基準と同程度のものを与えることが義務づけられている。

  われわれは適正手続き条項が全国的に次のことを義務づけているとする,短絡的な解釈を差し控える。すなわち,短期停学についての聴聞が行われる際に,生徒に,弁護人を依頼する機会や,被疑事実を支持する証人に対面し反対尋問を行う機会,あるいは生徒側に自己の利益となる事実を立証する証人を出す機会を与えなければならないという解釈である。懲戒のための,ごく短期の停学は数えきれないほど大量にある。それぞれの事件に,たとえ不完全なものであっても,訴訟型の手続きを要求することになれば,多くの場合,円滑な運営が損なわれ,いたずらに教育的効果を犠牲にしてしまうことになる。さらに,停学手続きを形式化し,敵対的性格を強めることになれば,そのような停学は通常の懲戒手段として,あまりにも煩雑なものとなるだけでなく,教育的作用としての効果をも損なうことになる。

  他方,効果的な告知や,生徒側に自己の利益となる証拠の提出を認める非公式の聴聞は,誤った処分を避ける上で大きな意味がある。少なくとも,懲戒権者は,事実認定についての争いや,原因と結果についての議論があることにつき注意を喚起されることになろう。それによって懲戒権者は,告発人の召喚を決めたり,反対尋問を許し,生徒に生徒側の証人を出席させることを許可することになるだろう。より複雑な事例の場合には,弁護人許可することもできよう。どのような事例についても,懲戒権者が慎重であることによって,誤りを冒す危険性は少なくなると考えられる。

 懲戒権者自身が違反となる行為を目撃している場合には,停学前に,生徒と懲戒権者の間で,少なくとも非公式の公平なやりとり(give-and-take) が行われるべきことを義務づけたとしても,事実発見の機能の上でわずかな意味しかもたないであろう。しかし物事は常に外から見えるとおりのものであるとは限らない。したがって生徒は,少なくとも自分の行動の特性を説明し,その行動を自分が正しいと考える前後関係の中に位置づけるよう陳述する機会をもつことになるだろう。

  またわれわれは,10日間を超えない短期停学のみを審理の対象としたものであることを明らかにしておく。長期停学や,学期の残りの期間の退学,あるいは永久退学の場合には,より正式な手続きが義務づけられるであろう。また,われわれは,単に短期停学に関する場合であっても,例外的な事態のもとでは,基本的手続き以上のものが要求される可能性のあることを排するものではない。

 

IV

 

 連邦地裁は,本件のどの停学も,事前,あるいは事後の聴聞を経ないで行われているため,各停学は無効であり,また当該州法は,そのような告知や聴聞を経ない停学を許している点において憲法違反であるとした。したがって,

  原判決を維持する。

  パウエル判事が法廷意見に反対し,これに主席判事,ブラックマン判事,レーンキスト判事が加わった。

 

(羽山健一 訳)

 


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