◆201712KHK246A1L0620M
TITLE:  注目の教育裁判例(2017年12月)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第246号(2017年12月)
WORDS:  全40字×620行


注目の教育裁判例(2017年12月)



羽 山 健 一



  ここでは、公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から、先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。

判例タイムズ 1429号−1441号
判例時報 2305号−2349号
労働判例 1142号−1166号
判例地方自治 413号−426号



  1. 大学教員成績評価権事件
    大阪地裁平成27年9月24日判決


  2. 静粛な環境で授業を受ける権利訴訟
    千葉地裁平成28年1月27日判決


  3. 大阪市立高校バスケットボール部顧問体罰事件
    東京地裁平成28年2月24日判決


  4. 兵庫県立高校いじめ自殺事件
    神戸地裁平成28年3月30日判決


  5. 東大阪市立中学校バドミントン部熱中症事件
    大阪地裁平成28年5月24日判決


  6. 都立高校進路変更勧奨事件
    東京地裁平成28年7月11日判決


  7. 大阪府立高校欠席指導事件
    大阪地裁平成28年9月15日判決


  8. 川越市立中学校いじめ遷延性意識障害事件
    さいたま地裁川越支部平成28年12月22日判決


  9. 大分県立高校剣道部熱中症死亡(求償権)事件
    大分地裁平成28年12月22日判決


  10. 真岡市立小学校給食白玉団子事件
    宇都宮地裁平成29年2月2日判決


  11. 福岡県立高校・校内柔道大会負傷事件
    福岡地裁平成29年4月24日判決


  12. 私立高校空手道部パワハラ事件
    大阪地裁平成29年6月13日判決


  13. 私立中高一貫校保護者会事件
    大阪地裁平成29年8月18日判決





◆大学教員成績評価権事件

【事件名】損害賠償等請求事件
【裁判所】大阪地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第3760号
【年月日】平成27年9月24日判決
【結 果】棄却
【経 過】二審大阪高裁平成28年3月22日判決、棄却(上告・上告受理申立)
【出 典】判時2335号42頁


事実関係の概要:

  Xは、大学の教授であるところ、Xが所属する学部では、4年生の学生は、1年間特定の研究室に配属されて卒業研究を行い、卒業研究の単位を取得することが卒業の要件とされていた。Aは、平成24年4月、4年生となり、Xの主催する研究室に配属されたところ、Xは、平成25年1月初旬頃、Aにつき、卒業研究の単位を与えることができないと判断し、卒業研究の発表会にも参加させないとの方針を決めた。Aはそのことを知り、本件学部の学生副主任であるB准教授に対し、Xから不適切な言動、指導等を受けた旨記載した書面を提出した。学部長であるYは、Xが所属する学科の教員らで構成される教室会議に対し、Aを卒業させる方向で検討するように伝えた(本件諮問)。これを受けて、臨時の教室会議が開催され、Aの指導担当教員をXから他の教員に変更することが決議された。Yは、Aの指導担当教員をXからBに変更する旨決定した(本件措置)。
  これに対しXは、成績評価権が侵害され、名誉を毀損されたと主張して、被告学校法人及びYに対し損害賠償等を請求した。

判決の要旨:

  大学教員が成績評価を行う権利又は利益は、大学における教授の自由と密接な関係を有するものであるが、成績評価を行うことが専門の研究結果を教授することの不可欠な内容をなすとまではいえず、教授に伴って付随的に生じるものであるから、教授の自由とは保障の程度が異なる。
  被告学校法人は学生との在学契約上、適切な教育を行う義務を負い、組織体として自主的な秩序維持の権能も認められる必要があるから、成績評価を行う権利又は利益は、当該教員の学生に対する指導状況や、当該学部が秩序維持の権能を行使する必要性等から合理的な制約に服する。
  違法性の有無は、学部長Yの人事権の行使に逸脱、濫用が認められるかどうかで判断すべきであり、本件事実関係の下では、本件措置には必要性があり、目的は不当ではなく、本件措置によりXが受けた不利益は甚だしいとはいえず、Yによる人事権の行使に逸脱、濫用はなく違法とはいえない。

備考:

  本件は、大学における指導担当教員と学生との関係において、セクハラやパワハラなど、いわゆるアカデミックハラスメント(アカハラ)が問題となった事案である。認定事実によると、Aは卒業研究で行き詰まってXに指導を求めたところ、「違うって何度言ったら分かるんだ。」と言われるばかりで、何が違うかも分からない状態が続き、卒業研究発表の機会が与えられなかったことにつきXに説明を求めたが、「研究もやってねえのにどうやって発表するんだよ。」「もう1年やれ。」と掛けあってもらえなかった。
  控訴審は、本件措置の前提として、XのAに対するハラスメントの可能性が否定できない状況にあったことや、Xに代わってAの指導担当となったBが行った成績評価の内容、本件諮問を受けた教育会議の審議状況等を補足して、本件措置や本件諮問が不当ではなく、かえって相当であった旨判示して、控訴を棄却した。




◆静粛な環境で授業を受ける権利訴訟

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】千葉地裁判決
【事件番号】平成27年(レ)第100号
【年月日】平成28年1月27日
【結 果】控訴棄却、追加請求棄却
【経 過】第一審千葉簡裁平成27年5月15日判決(棄却)、
     上告審東京高裁平成28年8月25日判決(棄却)
【出 典】D1-Law.com判例体系


事実関係の概要:

  Xは学校法人Yとの間で、B講師が担当する授業である「民法と行政法は何処が違うか」を受講する契約を締結した。Xは授業を受講していたところ、同じ授業を受講していた女子学生が、パタパタと音を立ててパソコンのキーボードを打っていたため、これに対し、音がうるさいのでやめてほしいと注意した。本件学生は、Xの注意に対して、禁止されていないのでよいじゃないですか、私はいつもパソコンでノートを取っているんです、と怒鳴った。そうしたところ、B講師は、音が気になるなら席を替わるようXに指示し、Xは、これに従って、後方の席に移動した。Xは、B講師の指示に納得することができず、それ以降の授業に集中することができなかった。
  そこで、Xは、Yにおいて、静粛な環境で授業を受けられるよう配慮する義務に違反し、Xの教育を受ける権利が侵害されたと主張して、Yに対して、不法行為に基づき損害賠償等を求めた。

判決の要旨:

  学校法人Yにおいては、授業中にパソコンを使用して記録することを基本的に認めているのであるから、それぞれの授業におけるパソコンの使用の可否については、講師の裁量に委ねられている。講師がパソコンの打鍵音が通常受忍される程度を超え、他の学生の受講が妨げられていると認められるのにこれを禁止しないような場合でない限り、パソコンの使用を禁止しない措置が違法になるものではない。
  これを本件についてみると、B講師にはパソコンの打鍵音が聞こえなかったこと、X以外の受講生からは苦情がなかったことなどが認められる。本件学生によるパソコンの打鍵音は、通常受忍される限度を超えて他の受講生の受講の妨げになる程度のものであったということはできないから、その使用を禁止しなかったB講師の措置が不法行為になるということはできないし、債務不履行になるということもできない。









◆大阪市立高校バスケットボール部顧問体罰事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】東京地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第32577号
【年月日】平成28年2月24日
【結 果】一部認容(確定)
【経 過】
【出 典】判時2320号71頁、判タ1432号204頁


事実関係の概要:

  Y市立高等学校のバスケットボール部に所属していた生徒Aが、本件高校の教員であり保健体育の教諭並びに同部の顧問及び監督であった本件教諭から多数回にわたり暴行や威迫的言動等を受けたことを原因として自殺したとして、生徒Aの父、母及び兄であるXらが、本件教諭の当該行為が不法行為に該当し、これらの不法行為と自殺との間に相当因果関係が認められるなどとして、Y市に対し、損害賠償等の支払を求めた。

  生徒Aがキャプテンに就任してから自殺するまでの約3か月の間に、本件教諭から多数回にわたり受けた暴行や威迫的言動等(侮辱的言動を含む)は次のとおり。
 [1] 度々特に厳しく叱責したり顔面等を殴打したりする状況の下で、専攻実技の授業において、他の生徒らの面前で「キャプテン辞めろ」等と語気鋭く責め立て、
 [2] 自殺の前月の練習試合の際に、ルーズボール(いずれの選手も保持していない状態のこぼれ球)への飛びつき方が悪いとして責め立てた上で頬を1ないし2回殴打し、
 [3] 自殺の4ないし5日前の練習試合の合間及びその後に合計8ないし11回の殴打とともにボールを顔面に投げつけてぶつける暴行を加えて唇から出血や鼻の両側の腫れを生じさせ、その際に「キャプテン辞めろ」等と怒鳴りつけて責め立て、
 [4] 上記 [3] の翌日の練習試合の際に本件教諭の指示に「はい」と返事したのに対して「分かったふりするな」等と怒鳴りつけ、ルーズボールへの飛びつき方が甘いなどとして責め立て、
 [5] 自殺の前日の練習試合の際、試合の中断時にプレーの内容が意にそわないなどとして怒鳴りつけ責め立てながら頬や側頭部を平手で強く殴打するなど、合計16ないし20回ほど、体育館全体に大きく音が響き渡るほど強度の殴打により顔面に相当の出血を来し、全治約3週間を要する傷害を負わせた上で、「叩かれてやるのは動物園やサーカスで調教されている動物と一緒や。○○(生徒A)は動物か。」等と責め立て、
 [6] 同日の練習試合後のミーティングにおいて他の部員らの面前で、生徒Aのせいで負けた、キャプテンから外す等と語気鋭く責め立て、
  [7] 同日のミーティング後、キャプテンを続けるのが苦しい旨を申し出た生徒Aに対し、キャプテンを辞めるなら試合に出さない旨を申し向けた上で、キャプテンを続けたいと述べた生徒Aに対し、もっときつく怒られたり叩かれたりしても甘受する旨を応諾させ、「殴られてもやるんやな」等と述べるなどした(以下「本件暴行等」)。

判決の要旨:

(1) 本件教諭の生徒Aに対する有形力の行使や言動等の不法行為該当性
  本件教諭の有形力の行使による暴行については、多数回にわたる極めて強度の暴行との評価を免れず、その違法性は強い。本件教諭の威迫的言動等についても、生徒Aに強い心理的打撃や屈辱感を与えるのみならず、本件バスケット部の他の部員との関係でもいたずらに負い目を負わせて心理的葛藤等を惹起し、生徒Aの自尊心を著しく傷つけるものであって、著しい精神的苦痛をもたらす内容や態様のものであった。本件教諭による威迫的言動等もまた、上記の暴行と相まってこれらと一体化し、教育上の指導として法的に許容される範囲を逸脱した一連一体の行為として、不法行為法上違法と評価される。

(2) 本件教諭の有形力の行使や言動等の行為と生徒Aの自殺との間の相当因果関係の有無
  [1] 生徒Aが本件教諭から最も強度の暴行等を受けた日の夜に自殺を決意していた兆候とみられる行動をとった上で遺書を作成して、その日の夜ないし翌未明に自殺に至っている。[2] 生徒Aが本件教諭による暴行等につき不安や恐怖及び苦悩や混乱を示す言動をしていた。これらによれば、本件暴行等がなければ生徒Aが自殺に至ることはなかったといえることは明らかであって、本件暴行等と生徒Aの自殺との間に条件関係が優に認められる。
  本件暴行等が行われた当時、いわゆる「指導死」の問題が広く社会問題化し、文部科学省によるリーフレットや「生徒指導提要」の配布等によって全国の高校等の教員に対しても注意喚起がされていたことが認められる。
  諸事情を総合考慮すれば、本件教諭には生徒Aの自殺について予見可能性があったと認められ、本件教諭による暴行等と生徒Aの自殺との間には相当因果関係が認められる。

(3) 寄与度による減額の可否及びその割合
  生徒Aにおいて、担任教諭や家族に相談することなく一人で思い詰めて短期間に自殺を決意し自死に至ったことについては、生徒Aが気が優しく気遣いが細やかで責任感が強く真面目で素直であるなどの非常に優れた美点を数多く備えていた一方で、強度の身体的、精神的負荷に対して脆弱な面があったとみられることは否定し難く、生徒Aの自殺という結果の発生に生徒Aのそのような心因的要因が一定程度寄与したことは否定し難い。
  したがって、生徒Aの自殺における本件教諭の暴行等の寄与度は7割と認められ、民法722条2項を類推適用し、生徒Aの死亡によりXらに生じた損害の認定額の7割についてXらの請求を認容する。

備考:

  本判決の理由中において、体罰は一切の留保及び例外なくこれを禁止する学校教育法11条に違反するものであり、それが運動部の活動における指導の際に行われたものであっても異なるものではなく、仮にいわゆる強豪校と称される学校の運動部において指導の過程で体罰が一定程度行われているという実情が事実上あったとしても、そのことによって体罰が法的に許容され得るものではないことが判示された。
  また、有形力の行為を伴わないものであっても、一定の事情の下では、教育上の指導として法的に許容される範囲を逸脱した威迫的、侮辱的な言動が体罰と相まって生徒の人格的利益等を侵害する違法な行為と評価されることも判示された。
  本件教諭が傷害罪などに問われた刑事事件において、大阪地裁は平成25年9月26日、、懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡し、確定している。

 <本事件をめぐる主な動き>
2012年12月  男子生徒が自宅で自殺
2013年2月  市教委が元顧問を懲戒免職処分
2013年3月  大阪府警が元顧問を傷害と暴行の両容疑で書類送検
2013年5月  弁護士らによる市外部監察チームが「体罰放置の一因は市教委に
        ある」とする最終報告書を公表
2013年9月  大阪地裁が懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決
2013年12月  両親らが大阪市への損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に提起
2016年2月  東京地裁は民事訴訟で大阪市に約7500万円の賠償命令(本件判決)
2017年11月  大阪市が元顧問に損害賠償金の半額の支払いを求める訴訟を提起







◆兵庫県立高校いじめ自殺事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】神戸地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第2446号
【年月日】平成28年3月30日
【結 果】一部認容・一部棄却(確定)
【経 過】
【出 典】判時2338号24頁


事実関係の概要:

  県立高校に在学していた2年の男子生徒Aが自殺により死亡したことについて、Aの両親である原告らが、(1)Aにいじめ行為をした同級生ら(Y1〜Y3)に対し、不法行為に基づく損害賠償を求め、(2)それを発見・防止等できなかった担任教諭・校長に対して不法行為に基づき、高校を設置管理するY県に対しては、安全配慮義務違反又は国家賠償法に基づき損害賠償を求め、(3)Aの自殺後、本件高校の教諭らが原告らに対して、遺族への配慮義務に違反する行為をしたとして不法行為に基づく損害賠償を求めた。

  裁判所が、同級生ら(Y1〜Y3)の行為のうち、亡Aに対する「いじめ」に該当するとしたものは次の通りである。
  (行為1) 同級生らは2年次の4月下旬頃から亡Aを「ムシ」と呼ぶようになった。同級生らが亡Aのことを「ムシ」と呼ぶのは毎日のことであり、その回数は1日3、4回に及んだ。同級生らは、休み時間に繰り返し「ムシ」と呼んだほか、「おい、ムシ返事せいや。」、「おい、ムシ、無視しんな。」「ムシ来た〜。」「出たぁ。」などと言った。

  (行為2) Y3は、5月から6月のいずれかの日の昼休み、亡Aが席を外している間に、教室内にいた蛾の死骸を紙にのせて、亡Aの椅子の上に置いた。亡Aは蛾に気付かずその上に座った。蛾は、亡Aのズボンに付いた。亡Aは、椅子から立ち上がり、自分の周りを見て椅子の上の虫の死骸に気がつき、自分の手で虫の死骸を払った。そして、ズボンについた蛾の鱗粉を払い、そのまま席に着きうつむいた。Y1は、そのような様子を見て笑った。他にも笑った生徒がいた。

  (行為4) Y1は、6月上旬頃、授業の前の休み時間に亡Aの椅子の下に蛾のような1cmぐらいの虫が死んでいるのを見つけた。Y1は「ネタを見つけた」、「虫の下に虫がいるという感じ」と思い、授業開始の礼が終わって着席後、Y2やY3に向かって、椅子の下の虫を指さして、「虫おるやん」と言ったので、Y2やY3が笑った。そのような行為に対し、亡Aは特に反応しなかった。

  (行為5) Y1は、6月6日頃、文化祭にむけたコーラスの練習時、亡Aの周りにいた生徒に対し、「亡Aの近くにいると菌が付く」、「離れようぜ」という趣旨のことを言った。これを聞いた亡Aの周りにいた生徒が、亡Aから数歩離れた。また、Y2及びY3を含む数人の生徒が笑った。亡Aの近くにいたY2は、亡Aに対し、小声で「汚い」、「エキスが付く」などのことを言いながら、亡Aの周りの生徒を押して、亡Aにぶつからせようとした。Y1も、Y2と同じように亡Aの周りの生徒を押した。一方、Y3も、コーラスの練習中、亡Aの背中や脇を指で押したりした。これを見ていた生徒の中には、Y1らに対して、やめるよう注意した複数いたが、Y1らはその注意を聞き入れなかった。

判決の要旨:

  本判決は、同級生ら及び担任教諭・校長には亡Aの自殺を具体的に予見することまではできなかったとして、亡Aが被った精神的苦痛についてのみの損害賠償請求を認容した。また、教師らの発言の一部が、遺族である両親に対する配慮に著しく欠けるものであったとして、県への損害賠償請求を認容した。

(1) 亡Aに対する「いじめ」の存否と不法行為性について
  いわゆる「いじめ」といわれる行為のうち、「自分より弱い者に対して、一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手方深刻な苦痛を感じているもの」との定義に該当する場合には「不法行為」を構成する。
  同級生らの上記行為(1、2、4、5)は「いじめ」に該当し、民法709条の不法行為を構成する。同級生らの上記「いじめ」行為は、極端な有形力の行使を伴うものではなかったにせよ、同人の人格を深く傷付け、大きな精神的苦痛を生じさせる共同不法行為に該当し、その違法性の程度は、この種の類型の「いじめ」としては大きいものというべきである。

(2) 担任教諭、校長の対応が安全配慮義務に違反するか
  Y県は、入学許可処分によって発生する公法上の法律関係に基づく付随義務として、信義則上、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護し、安全の確保に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている。具体的な義務の内容として、本件いじめ行為の存在を認識することが可能であった担任教諭は、本件いじめ行為の存在を具体的に把握して、これを防止し、適切な措置を講ずるべき注意義務(予防・発見義務)を負い、校長は、他の教員にいじめ防止のための適切な指導・助言を与え、生徒の生命身体の安全をはかるべき注意義務(指導・助言義務)を追っていたが、担任教諭、校長ともに各注意義務に違反した。

(3) 同級生らの「いじめ」と亡Aの自殺との相当因果関係について
  同級生らの「いじめ」と亡Aの自殺との間には条件関係(事実的因果関係)は認められる。しかしながら、本件いじめ行為は、執拗かつ苛烈な暴行を長期間にわたり反復継続したものではなく、Aの自殺という結果は特別損害にとどまり、Y1らは亡Aの自殺を「予見し、又は予見することができた」(民法416条)とは認められず、Y1らの「いじめ」と亡Aの自殺との間の相当因果関係を肯認することはできない。
  そのため、同級生ら及びY県の負う損害賠償責任の範囲はいじめ行為によって被った亡Aの精神的苦痛に対するものにとどまる。

(4) 原告らに対する亡A死亡後の配慮に関する被告県の責任について
  Y県は、安全配慮義務の一内容として、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係と何らかの関連性がうかがわれる生徒の死亡事故等が発生した場合、遺族対応において、その心情等を著しく傷付けないよう配慮すべき義務(配慮義務)を負っている。
  本件高校の生活指導部長は、上記配慮義務の一環として、原告らの面前においてはもとより、それ以外の場においても、公然と、遺族でる原告らの感情を著しく害するような発言等をすることを厳に慎むべき法的義務を負っていた。
  しかるに、生活指導部長は、本件クラスとは別のクラスの授業開始前に、女子学生から、「修学旅行はどうなるの」と質問されたのに対し、「遺族は全然理解してくれない、マスコミも同じことを何度も繰り返す、このままでは学校が潰れる、修学旅行もいけるかどうか分からない」と発言し、更に「体育祭はどうなるの」との質問に対しても「体育祭もどうなるか分からない。」と返答した事実が認められる。かかる生活指導部長の発言は、その真意はともかく、これを社会通念に照らし客観的にみる限り、遺族である原告らの感情を逆なでする著しく不適切な発言である。
  原告らが配慮義務違反であると主張した各行為のうち、生活指導部長が著しく不適切な発言をして配慮義務に違反し、校長は同校の教師を指導・監督すべき義務を尽くさなかった。したがって、Y県には配慮義務違反及び国賠法1条1項に基づく損害賠償責任が認められる。

備考:

  周知のように、文部科学省による「いじめ」の定義は変更されている。すなわち、同省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の定義では、いじめは、1985年以来「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」としてきたが、その後、2006年に「一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的苦痛を感じているもの」と変更された(生徒指導提要 平成22年3月184頁)。この変更により、児童生徒がいじめを認知しやすいようにしたものと考えられる。
  この変更を受けて、いじめ防止対策推進法(2013年)は、「いじめ」の定義を、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」(第2条)と規定して、おおよそ、同省の2006年変更後の定義に合わせている。
  ところが、本判決は、あえて変更前の定義を用いて、不法行為に該当するか否かの判断を行った。これは、損害賠償を判断する際の定義と、いじめの実態調査を行う際の定義とで、いじめの定義が異なるのは合理的であるとの考えが前提にあると考えられる。





◆東大阪市立中学校バドミントン部熱中症事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】大阪地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第5530号
【年月日】平成28年5月24日
【結 果】一部認容・一部棄却
【経 過】二審大阪高裁平成28年12月22日判決(一部変更)(確定)
【出 典】裁判所ウェブサイト、判時2331号36頁


事実関係の概要:

  市立中学校のバドミントン部に所属していた原告が、部活動中に熱中症にり患し、脳梗塞を発症したのは、顧問教諭等による熱中症予防対策が不十分であったことによるなどと主張して、中学校を設置するY市に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償の支払を求める事案。
  原告は中学1年生の女性であった。本件バドミントン部は、平成22年8月30日、午前11時25分頃から、中学校の体育館内で練習を開始した。原告は、午後1時過ぎ頃、試合形式の練習をしていたところ、地面に落ちたシャトルを拾い損ねることが2回続いた。様子がおかしいと感じた顧問教諭は、原告に確認したところ、「頭が痛い。しんどい。」と訴えたため、原告を教官室に移動させ、水分を取らせるなどした後、タクシーでA病院の救急外来を受診した。原告はアテローム血栓性脳梗塞と診断され、そのまま入院した。
  原告は、平成22年8月30日から、主としてリハビリ治療を受け、平成23年8月13日症状固定の診断を受けた。Bクリニックの医師は、平成24年8月31日の最終受信時の原告の症状を「軽度の左半身の不全麻痺」としている。

判決の要旨:

(1) 熱中症対策の概要
  財団法人日本体育協会は、平成6年、熱中症予防の原則を「熱中症予防八ヶ条」としてまとめ、具体的なガイドラインとして「熱中症予防のための運動指針」(本件指針)を発表した。本件指針は、WBGTの温度に応じて、とるべき対応についての指針を定めたものである(下記備考参照)。本件指針について、文部科学省により広く学校関係者に周知され、大阪府教育委員会及び東大阪市教育委員会によって指導等が行われていた。

(2) 顧問教諭又は校長の過失について
  本件事故当時、部活動に関わる指導教諭及び校長は、部活動中の生徒の安全確保に配慮すべき義務の一環として、熱中症発症を予防すべく、本件指針に準拠し、その趣旨を踏まえて熱中症予防策をとるべき法的義務を負っていた。
  本件指針の趣旨を踏まえて予防策を行うには、その前提となるWBGT又はこれに相当する湿球温度又は乾球温度を把握することがまずもって必要となり、そのためには、黒球温度計、湿球温度計又は乾球温度計のいずれかを設置することが不可欠である。したがって、被告中学校において部活動の指導教諭を監督する立場にあった校長には、上記温度計を設置する義務があったというべきである。
  しかるに、事故当時、本件体育館には、黒球温度計及び湿球温度計はもとより、一般の乾球温度計も一切設置されていなかったのであり、本件指針の趣旨に従って熱中症の予防に配慮する前提となるWBGT等の温度を認識することのできる環境が全く整備されていなかったことになるから、校長が上記義務を怠っていたことが明らかである。

(3) 原告の素因の寄与とその割合
  原告はもともと通常人に比べて血液が凝固し易いという身体的素因(プロテインS欠乏症)有しており、原告のプロテインS欠乏症が、本件脳梗塞の発症及び重篤化に相当大きく寄与したものとうかがわれるところ、その寄与の程度は70%と認めるのが相当である。

備考:

  二審の大阪高裁平成28年12月22日判決は、Y市の損害賠償責任を肯定した原判決の判断を相当としたが、原判決を一部変更し、損害額を411万円余から487万円余に増額した。
  本件指針で用いられているWBGT(湿球黒球温度)とは、暑さに関する環境因子のうち、気温、湿度、輻射熱の三因子を取り込んだ指標であり、熱中症予防の温度指標として有効とされるものである。WBGTの数値に応じて指導者がとるべき対応の指針は概ね次のとおり。また、熱中症予防の参考資料については、文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課長通知「熱中症事故の防止について(依頼)」(29初健食第43号・平成29年5月15日)参照。

 WBGT  乾球温度  熱中症予防のための運動指針
31度以上35℃以上運動は原則中止
28〜31度31〜35℃厳重警戒(激しい運動は中止)
25〜28度28〜31℃警戒(積極的に休息)
21〜25度24〜28℃注意(積極的に水分補給)
21度まで24℃までほぼ安全(適宜水分補給)

日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(平成25年4月)より






◆都立高校進路変更勧奨事件

【事件名】国家賠償請求事件
【裁判所】東京地裁判決
【事件番号】平成26年(ワ)第30116号
【年月日】平成28年7月11日
【結 果】棄却(確定)
【経 過】
【出 典】判時2341号103頁、判地自425号74頁


事実関係の概要:

  本件は、都立高校の生徒Xが入学後問題行動を繰り返し、校長、教諭が指導、進路変更勧奨等を行ったことについて、本件高校を設置管理するY(東京都)に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償等の支払を求めた事案である。

  生徒Xは、平成26年4月、都立A高校に入学した。Xは、入学直後から制服の詰め襟のホックを留めるよう指導を受けたり、ホームルームの時間中に携帯電話を使用しないよう指導を受けたり、授業中に大声で奇声を上げたり、女性教諭に抱きつき、その様子を撮影し、インターネット上にアップロードする等の問題行動を繰り返した。A高校の教諭らは、X、その母Bに事情を説明し、Xに特別指導を行う等した。A高校の教諭らは、新たにXの問題行動が発覚し、反省もないことから、X、Bに進路変更につき検討してほしい旨を伝えたり、Bの代理人である弁護士Cを交えて数回にわたり話し合い等を行ったが、事態は改善しなかった。A高校の教諭は、平成26年7月24日、高校の補欠募集(転学・編入学)の資料をB、Cに郵送したところ、Xは、同年8月6日、希望転学先をD高校にする転学願いを提出し、同月31日、転学した。Xは、Yに対し、違法な登校の拒否、違法な進路変更勧奨等を理由として、慰謝料、転学費用、弁護士費用の損害賠償を請求した。

判決の要旨:

(1) 教諭らがXの登校を拒否したか
  原告Xは、Xを本件高校に登校させてほしいと繰り返し頼んだのに対し、校長や生活指導主任の教諭らは、「特別指導すらできなかったのであるから、登校させられるわけがない。」などと述べてXの登校を拒否し、また、どうすれば本件高校に通わせてもらえるのかと尋ねると「なぜ、指導無視をし続けた学校に戻りたいのか、何を反省して家庭がXをどのようにサポートするかなど回答がなければ、そもそも検討できない」と述べ、Xの登校を拒否したと主張した。
  これに対し、被告Yは、「登校」という言葉は、クラスでの通常授業を受けるために学校へ行くことと、別室での特別授業を受けるために学校へ行くことの二つの意味に解することができ、Xらの求める趣旨が不明であるところ、校長が送った回答は、上記二つの意味のうち後者の意味での登校すらも拒否したものではないと主張した。
  本判決は、「登校」という言葉は、退学するか、在籍を続けるかにかかわらず、本件高校に行き、別室での授業を含め、何らかの形で本件高校の教諭による教育を受けることを意味すると定義づけたうえで、校長らの発言や回答は、登校を拒否するものであったとは認められないとして、Xの主張を斥けた。

(2) 進路変更勧奨が違法であるか
  進路変更勧奨は教育目的を達成するための自律作用として行われるもので、事実上の措置にすぎず、校長及び教諭の専門的、教育的な判断に委ねられる。学校当局の判断が社会通念上不合理であり、裁量権の範囲を超えていると認められる場合、あるいは、その勧奨が生徒の意思決定の自由を侵害するような不当な方法で行われた場合には、違法となる。
  本件では、問題行動を繰り返すXに対して厳しい対応をすることで教育目的を達するために校内の秩序を維持する必要があり、合理的な裁量権の範囲を超えた社会通念上不合理な措置であったとはいえず、勧奨を継続したことがXの意思決定の自由を侵害したとまでいうことはできない。したがって、本件進路変更勧奨が違法であるとは認められない。

(3) 教諭らがXに登校できる旨の説明義務を負うか
  Xは、仮に校長らがXの登校を拒否したとは認められないとしても、登校を拒否されたと誤認しているXに対し、登校が可能であることを説明する信義則上の義務を負うと主張する。しかしながら、弁護士Cは、退学処分がなされておらず、在学契約が存続している以上、Xは本件高校の授業を受けると言う意味での登校をする権利を有すると考えていたことが認められ、説明義務が存したとは認められない。

備考:

  本件は、生徒の問題行動めぐる、校長、教諭、保護者らの話し合いの場に、保護者の代理人として弁護士が関与したことに特徴がある。本件弁護士は「正式に退学処分とならないのに自主退学勧奨に応じるつもりはない」、「明確に自主退学を拒否した後も、自主退学勧奨を続けることは、在学契約の不履行であるばかりか、違法な違法な自主退学勧奨にあたる。」などと書面に記載し、またに、面談において「本件の事情からは退学処分というのは厳しい」と述べ、女性教諭に対する性的嫌がらせについて「本人が告訴をすればともかく、それがない以上退学処分の事由とはならない」、さらに、無断撮影した教諭らの写真をインターネット上にアップロードした件についても「退学処分の事由としては十分ではない」などと述べている。ここには、弁護士が学校側の措置の法的位置づけを明らかにするとともに、学校側を追いつめている様子が浮かび上がっている。
  学校側は、十分な反省がないのにXを通常の授業に戻したのでは、生徒の問題行動を不問としたことになるし、かといって、退学処分のような強制力を伴う措置は執れないというディレンマに陥っているように思われる。




◆大阪府立高校欠席指導事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】大阪地裁判決
【事件番号】平成27年(行ウ)第327号
【年月日】平成28年9月15日
【結 果】棄却(控訴)
【経 過】
【出 典】判地自422号63頁


事実関係の概要:

 いじめ行為等をする生徒に対する欠席指導が違法であるとして、生徒がY(大阪府)に対して国家賠償請求を行った事例
  原告Xは平成27年4月に本件高校に入学した男子である。本件高校は被告Yが設置した高等学校である。本件高校の校長は、平成27年5月21日、Xが、複数の女子生徒らに対し、その意思に反して、抱きつく、首筋にキスマークをつける、胸を舐める、スカート・下着の中に手を入れて触る、男子個室トイレに連れ込み女子生徒の口の中に舌を入れ、上半身の衣服を脱がせて胸を触るなどの行為をしたこと(対象行為1)を理由として、Xに対し、無期停学処分をした。校長は、平成27年6月11日、Xに反省の態度が見られるとして、上記無期停学処分を解除した。これに伴い、Xは復学した。

  平成27年6月23日、生徒指導主事、学年主任、クラス担任であるN教諭及びO教諭、人権教育部長は、Xの他のクラスの男子生徒に対するいじめ行為(対象行為2)等を基礎として、X及びXの法定代理人親権者母に対して、学校を欠席し、自宅で進路変更を含めて、今後のことを考えるよう伝えた(本件措置)。
  教頭、学年主任らは、平成27年7月7日、来校したXの母及びXの代理人弁護士と面会した。その際、代理人弁護士は、「学校に来ないでくださいというのは行政指導なのか」、「今のXに出席する権利はあるのか」、「欠席扱いの意味がわからない」、「明後日登校させる」などと述べた。
  校長は、平成27年7月8日、いじめ対策委員会を開催し、被害生徒の保護及びXに対する教育的指導の観点から、原告を出席停止とする旨を決定した。出席停止の期間中は、教員の対応可能な週に一、二日程度、被害生徒に会わないような時間や態様でXの登校を認め、学科指導を行うこととした。
  X及びXの母は、平成27年7月13日午後6時頃から午後8時40分までの間、本件高校において、いじめ防止対策推進法23条4項に基づいてXに対する出席停止処分をした旨の告知を受けた。

判決の要旨:
  本件高校の職員が、職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく、本件措置をしたと認められる事情はないから、国家賠償法上の違法があるとはいえない。

(1) 本件措置の法律上の根拠について
  懲戒処分が相当な事案であったとしても、直ちに懲戒処分によるのではなく、転学の可能性を含めた進路変更を検討するため、X及びXの母の了承の下、一定期間学校を欠席し自宅で謹慎するよう指導することが不相当であるとはいえない。本件措置は法令上の根拠を有する行政処分ではなく、自主的な欠席を促すものとしてされた指導であることは明らかである。

(2) 本件措置の違法性について
  対象行為1及び対象行為2等に照らせば、Xに自宅おいて転学や自主退学を含む進路変更を検討してもらいたいという本件措置の目的が正当であることは明らかである。また、将来の転学等の可能性を考えれば、懲戒処分によることなく、X及びXの母の了承の下、措置として自主的な欠席を促すことも目的達成のため相当な手段というべきであり、本件措置について国家賠償法上の違法があったものと認めることはできない。

備考:

  原告は「高校1年生のXが、学校の教諭から「学校に来てはいけない」と断言されたにもかかわらず登校できるはずがなく、本件措置は事実上欠席を強制するものであった」と主張しているが、これはもっともなことである。本件措置は、「家庭謹慎」「自宅謹慎」「欠席指導」などと呼ばれるものであり、これが真に生徒や保護者の了承の下に行われていたならば、事例のような紛争にはならないと考えられ、判示にある「Xの欠席が自主的なものであって強制にわたるものではなかった」という事実認定は、いささか無理がある。

  本件において、学校はいじめ対策委員会を開催し、Xを、いじめ防止対策推進法第23条4項に基づく出席停止処分とする旨の決定をし、これを保護者にも伝えている。同法の同条項は次のように規定されている。
第23条(いじめに対する措置)
4 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。
  ところが、同条項には「出席停止処分」という文言は使われていないし、他に根拠となる法令も見当たらない。したがって、本件における「出席停止処分」とは、法令に基づく用語ではなく、「出席停止の指導」のようなものを意味していると考えられる。ただし、本件では、「出席停止」といいながら、週に一、二日程度の登校を認めているので、その実態は、いわゆる「家庭謹慎」と「登校謹慎」を組み合わせたようなものであろう。

  いじめ防止対策推進法23条4項の「教室以外の場所において学習を行わせる等」の措置を行う場合には、いじめ加害者である生徒の学習権を侵害しないように、原則的には、毎日、通常の教室以外の場所で学習指導を行う必要がある。いわゆる「別室指導」がこれに当たる。本件のように、原則的には生徒の出席を停止し、家庭で自学自習させ、週に一、二日程度の登校をさせて学習指導を行うという態様の指導は、同条項に基づく、いじめ防止措置に当たるとはいえない。

  それでは、なぜ、学校は、同条項に基づく正式ないじめ防止措置を採らなかったのであろうか。おそらくそれは、通常のクラスとは別に、一人の生徒を、毎日6時間学習指導する態勢を組むことが、人的にも予算的にも困難であったからであろう。したがって、同条項のいじめ防止措置が適切に運用され、実効性のあるものにするためには、人的・予算的な裏付けなど、制度的な整備が必要であろう。







◆川越市立中学校いじめ遷延性意識障害事件

【事件名】損害賠償請求、独立独立当事者参加事件
【裁判所】さいたま地裁川越支部判決
【事件番号】平成24年(ワ)第1071号、平成25年(ワ)579号
【年月日】平成28年12月22日
【結 果】一部認容・一部棄却(控訴)
【経 過】
【出 典】判時2338号61頁


事実関係の概要:

  [1] 市立中学校に在学していた少年らが、同学年の被害少年に対し、いじめによる暴行を加え、遷延性意識障害を負わせたとして、加害少年ら(3名)に対し損害賠償を請求した事例。[2] 学校外でのいじめにより被害少年の生命、身体等に危険が生じる事態について、学校側は予見可能であったにもかかわらず、これを回避するための措置をとらなかったとして、市に対して国家賠償を請求した事例。

  原告X1は平成9年生まれの男性で、原告X2は、原告X1の実母である。原告X1は平成24年1月5日当時、市立中学校の2学年に所属していた。被告少年ら(3名)も、当時、本件中学校の2学年に所属していた。原告X1及び加害少年らは、いずれも、本件中学校の野球部に所属していた。被告Y(川越市)は本件中学の設置者である。
  X1は平成23年7月頃、川越市立教育センター分室(通称「リベーラ」)において、WISC−3テスト(知能検査)を受信した。X1のクラス担任教諭は、X2と電話で、X1を特別支援学級に編入させるかどうか尋ねたが、X2は決めかねている様子であった。担任教諭は、リベーラから、12月ごろまでに、上記テストの結果として、X1は、語彙力はあるが、他人の気持ちを想像することが苦手であること、川崎市就学支援委員会がX1に特別支援学級を勧めるかどうか検討中であることなどを知らされた。

  X1及び加害少年らは、平成24年1月5日の午前中、野球部の練習に参加した。午後1時頃に強風のため練習は終了し解散となった。練習後、加害少年らは、X1に対して、一対一の殴り合いをするから一緒に来るように言い、X1を伴って、中学校から数百メートルの公園に行った。最初は、一対一の殴り合いを行ったが、加害少年らの側が劣勢になると、他の2人が加勢してX1に暴行を加えた。その後、X1は地面に倒れたまま動かなくなり、病院に救急搬送された。病院に到着時は心肺停止の状態であった。蘇生術の実施により心拍は再開したものの、蘇生後脳症による遷延性意識障害(いわゆる植物状態)となった。そのため、X1は人工呼吸器管理、胃ろうによる経管栄養、痰の吸引等の看護・介助が必要な状態となった。

判決の要旨:

  本判決は、加害少年らと川越市に対し総額約1億5000万円の損害賠償の支払いを命じた。その争点は多岐にわたるが、ここでは、市の責任に限って紹介する。

(1) 中学校の教員が負う注意義務
  学校教育の場自体においてのみならず、これと密接に関連する生活場面においても、生徒に対して、他の生徒からもたらされる生命、身体等への危険から保護すべき義務があり、前記生活場面において、生徒の生命、身体等に危険が及ぶおそれが具体的に予見される場合には、被害発生を防止すべき注意義務(結果回避義務)を負う。

(2) 暴行事件についての予見可能性
  教員らは、X1が、よだれを垂らしてしまうことなどを理由に、周囲の生徒から継続的なからかいの対象となっていたことが、暴力を伴う事件にまで発展している事実を十分に認識できた。文科省の発した通知におけるいじめの定義に照らして、これがいじめに当たるものと評価し得た。したがって、教員らは、X1に対するからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件にまで発展する事態を予見できた。

(3) 学校外での事件についての予見可能性
  X1と加害少年3名は、いずれも同学年の野球部員であり、学校教育の場と密接に関連する放課後や部活動終了後の帰宅までの間などの生活場面において行動を共にすることが多かった。確かに、加害少年3名によるX1に対する暴行は、冬休み期間中に学校外の公園で行われたものではあるが、部活動の後、時間を置かず、中学校に近い公園で行われたことなどに照らせば、学校教育の場と密接に関連する生活場面における事件と評価できるのであって、教員らにおいても予見は可能であった。

(4) 教員らの過失の有無
  教員らのとるべき措置として、いじめに関与した生徒らに対する適切な指導・監督及びX1の母であるX2への働きかけといった具体的な措置を検討した上で、教員らがこうした措置を講じることが可能であり、これによりX1に対する暴行を回避し得たにもかかわらず、教員らは前記措置をとらなかった。したがって、教員らには注意義務を怠った過失がある。

備考:

  本件の争点の一つとして、学校外での暴行についてまで、中学校の教員らが結果回避義務を負うのかという点がある。本判決は、学校教育の場と密接に関連する生活場面において、予見可能性がある場合には、義務を負うとしている。




◆大分県立高校剣道部熱中症死亡(求償権)事件

【事件名】求償権行使懈怠違法確認等請求事件
【裁判所】大分地裁判決
【事件番号】平成27年(行ウ)第6号
【年月日】平成28年12月22日
【結 果】一部認容
【経 過】二審福岡高裁平成29年10月2日判決(棄却)
【出 典】裁判所ウェブサイト、季刊教育法193号59頁


事実関係の概要:

  県立高校の剣道部に所属していた原告らの子である亡Aが、練習中に熱射病を発症して死亡した事故につき、県らに損害賠償を求めた前訴で一部の請求が認容されたところ、原告らが県の住民として、県は剣道の指導監督をしていた顧問及び副顧問に対し求償権を取得したのに、その行使を違法に怠っているとして、地方自治法242条の2第1項に基づき、求償権行使を怠る事実の違法確認及び、支払請求をすることを求めた(住民訴訟)。

判決の要旨:

  本判決は、県が元顧問に請求を怠ることは違法であると確認した上で、県が元顧問に対し100万円を支払うよう請求することを命じた。

(1) 元顧問は、亡Aが竹刀を落とした時点で熱中症と疑わなかったこと、この時点で直ちに練習を中止し、病院に搬送すべきなのにしなかったこと、そればかりか、「演技するな」などと述べながら、前蹴りや平手打ちといった亡Aの全身状態を悪化させる行為をとったことから、注意義務違反の程度が重大であり重過失が認められる。

(2) 元副顧問は顧問を補佐する立場にあり、顧問の意向に反することは困難であった。倒れた亡Aに駆け寄った際、元顧問から「これは演技じゃけん、心配せんでいい」などと制止されたこと、亡Aの全身状態を悪化させるような行為には及んでいないことなどからすれば、その注意義務違反の程度が重大であるとまではいえず、重過失があるとは認められない。

(3) 県は、本件事故により2755万円余の損害を被った一方で、加入していた損害賠償責任保険から保険金2555万円余を収納していることから、県の実質的負担額は200万円にとどまり、求償権の上限は200万円になる。
  部活動はボランタリー的なものであること、本件事故当日までの指導の姿勢に大きな問題点があったとまではいえないこと、亡Aへの期待から指導に熱が入ったこと、以上のような諸事情に照らすと、保険金を控除した200万円の2分の1の限度においてのみ、元顧問に求償することができる。

備考:

  本事案についての民事訴訟、刑事告訴、住民訴訟(求償権行使請求)の経緯は次のとおり。部活動中の事故で、教員に対する刑事告訴が不起訴となった事例で、求償権の行使が認められる事例は稀である。

2009年8月22日  亡Aが部活動中に熱中症で倒れ、死亡
2009年12月28日  大分県教委が元顧問を停職6ヶ月、元副顧問を停職2ヶ月の懲戒処分に
2010年3月2日  両親が県などに損害賠償を求める民事訴訟を提起
2010年3月12日  両親が元顧問らを業務上過失致死の容疑で刑事告訴
2012年12月12日  大分地検が元顧問らを嫌疑不十分で不起訴処分
2013年3月21日  大分地裁が県などに賠償命令、元顧問らの賠償責任は認めず
2013年7月23日  大分検察審査会が「不起訴不当」と議決
2014年1月8日  大分地検が再び不起訴処分
2014年6月16日  福岡高裁が一審判決を支持し、控訴を棄却
2015年7月28日  最高裁が上告を退け、判決が確定
2015年12月    両親が県に求償権行使を求める住民訴訟を提起
2016年12月22日  大分地裁が住民訴訟で元顧問の重過失を認定(本件判決)
2017年10月2日  福岡高裁が重過失を認定、判決が確定





◆真岡市立小学校給食白玉団子事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】宇都宮地裁判決
【事件番号】平成25年(ワ)第615号
【年月日】平成29年2月2日
【結 果】棄却(確定)
【経 過】
【出 典】判時2337号69頁、D1-Law.com判例体系


事実関係の概要:

  亡Aの両親である原告らは、当時小学校1年生であったAが真岡市立の小学校にて給食に出された白玉汁の白玉団子を吸い込み、喉に詰まらせて窒息し、救急搬送先の病院で白玉団子を除去されたものの脳死状態となり、入院と自宅介護を繰り返していたが約3年後に死亡したことについて、小学校の設置者である被告(真岡市)に対して国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めた事案。

判決の要旨:

  本判決は被告(真岡市)の責任を否定し、両親である原告らの請求を棄却した。
(1) 大きさ直系2センチ強の白玉団子を白玉汁の形で提供したことに過失があるか
  [1] 直径約2cmの白玉団子が他の食品と比較して特に誤嚥事故発生の危険が高いとはいえない、[2] 白玉団子は従前からA小学校で給食として使用され、誤嚥事故は発生していないこと、Aも4回食べているが、事故はなかったこと、[3] Aは教員の教えを守り、落ち着いて給食を食べていたこと、自宅でも団子や餅を食べていたこと等を考慮すると、Aが誤嚥する具体的危険性を予見させる兆候はなかった。したがって、小学校ないし給食センターの過失はない。

(2) 本件事故発生後の学校の対応に過失があるか
  窒息に対処する方法としてハイムリック法と背部叩打法(こうだほう)とがある。ハイムリック法とは、傷病者の後ろから両腕を回し、みぞおちの下で片方の手を握り拳にして、腹部を上方に圧迫する手法をいう。背部叩打法は、傷病者を立位又は座位にし、上半身を前のめりにし、背後から左右の肩胛骨の真ん中辺りの背中を手掌基部で連続して叩く手法を言う。この二つの方法は、その場の状況に応じてやりやすい方法を実施してかまわないが、一つの方法を数度繰り返しても効果がなければもう一つの方法に切り替え、異物か取れるか傷病者の反応がなくなるまで、二つの方法を繰り返して続けるべきであるなどとされている。
  以上のことを前提にすると、教員らは、本件事故を察知してから2分ないし3分後には救急車を要請しており、救急車の要請が遅れたと評価はできない。また、職員らは、Aが自立できているうちは背部叩打法を試み、Aがぐったりして自立できなくなってからは心臓マッサージと人工呼吸の手順を行うなどしている。そして、ハイムリック法については、15歳以下の児童の場合、「内臓損傷、胃内容物の気管内への流入の可能性があることを念頭に入れて処置しなくてはならない」とされており、職員らが当時7歳で大柄でもないAに対し、既に行っている背部叩打法のほかにハイムリック法を行うべき義務はない。

備考:

  給食中の事故について、学校の責任が肯定されたものとして、(1) 学校給食で出されたそばを食べ、食物アレルギーで窒息死した、札幌市立小学校そばアレルギー事件(札幌地裁平成4年3月30日判決)、(2) 学校給食を食べて食中毒を起こした、O−157食中毒事件(大阪地裁堺支部 平成11年9月10日判決)などがある。





◆福岡県立高校・校内柔道大会負傷事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】福岡地裁判決
【事件番号】平成26年(ワ)第3880号
【年月日】平成29年4月24日
【結 果】認容
【経 過】
【出 典】裁判所ウェブサイト


事実関係の概要:

  福岡県立J高校の1年生であった原告Lは、平成23年3月11日、J高校で開催された武道大会において柔道の試合に臨んだところ、試合中に、対戦相手に技を掛けようとして、転倒して左側頭部から畳に衝突し頸髄損傷及び頸椎脱臼骨折の傷害を負い、重度四肢麻痺等の身体障害者等級表による等級1級の後遺障害を残した。そこで、原告Lとその両親が、公権力の行使に当たるJ高校の教諭らには、事故の発生を未然に防止すべき注意義務(安全配慮義務)があるにもかかわらず、その義務に違反して本件事故を引き起こしたと主張してJ高校を設置する被告県に対し、計約2億6900万円の損害賠償金の支払を求めた。

判決の要旨:

  本判決は教諭らの安全配慮義務違反を認め、県に対し、計約1億2400万円の支払いを命じた。
(1) 事前指導における注意義務違反の有無について
  教諭らにおいては、事前指導の具体的な内容として、試合に出場する生徒らに対し、死亡事故を含む重大な事故が発生する柔道の危険性について改めて注意喚起をした上で、本件大会の試合時には普段の授業と異なる心理状況に置かれ、冷静さを失いがちになり、それが事故発生の要因となり得ることなど、本件大会に固有の特別な環境面に由来する内在的な危険性を十分に説明し、そのような状況にあっても、勝負に強い拘りを持たないこと、無理に技をかけたり、危険な行為に出たりするなどの行動を取らないことを強く意識づける指導を行う義務があった。しかし、こうした指導を実施したとは認められない。

(2) 試合形式による本件大会の開催における注意義務違反の有無
  教諭らには、参加生徒の健康状態や技量等の各生徒の特性等を十分に把握し、柔道の指導状況に応じて本件大会の開催の是非を適切に検討する義務があると解される。
  ところが、前年度の武道大会の柔道競技中に起きた2件の事故について、J高校内で事故の調査、原因分析や予防策を具体的に協議し、その結果を踏まえて安全指導対策を行い、大会のルールや環境を改善するなどした形跡がない。
  このような状況を踏まえれば、教諭らが本件大会の開催を中止せず、例年に倣って漫然とこれを開催したことは、上記義務に違反しており、過失があるものと認められる。

(3) 過失相殺の可否及び過失割合について
  本件事故は、原告Lにおいて、対戦相手の体勢を崩しきれていない状態で、技を中断することなく、対戦相手を無理に投げようとしたことが直接的な原因となって発生したものであるところ、原告Lは、無理に技をかけると怪我をする危険があることを認識しており、また、原告Lの柔道経験に照らせば、本件事故の当時、対戦相手に払い腰をかけた際に、対戦相手の体勢を崩し切れていないことを十分に認識することができたものと認められ、原告Lは、本件事故の発生を回避することが可能であったというべきである。以上を踏まえれば、原告らの請求については、3割の過失相殺をするのが相当である。





◆私立高校空手道部パワハラ事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】大阪地裁判決
【事件番号】平成26年(ワ)第7515号、平成26年(ワ)第7516号
【年月日】平成29年6月13日
【結 果】一部認容・一部棄却
【経 過】
【出 典】D1-Law.com判例体系


事実関係の概要:

  [1] 被告Y1が設置する私立高等学校の生徒であり空手道部に所属していた原告X1が、同校の教諭であり空手道部の顧問(監督)であった被告Y2からパワハラを受けたと主張し、[2] X1の友人であり、同空手道部に所属していた原告X2が、Y2からX1の友人であるという理由でパワハラを受けたと主張して、Y1及びY2に対し損害賠償(慰謝料等)を求めた事案。

  顧問Y2は、世界空手道選手権で世界制覇するなど、選手としての実績を残したあと、20年以上ナショナルチームのコーチを務めている。また、Y2は、本件空手道部においても、30年以上の長期にわたり顧問(監督)を勤め、その間、インターハイを制覇するなどの輝かしい実績を残している。Y2は以上のことから、空手道界において大きな影響力を有しており、とりわけ本件空手道部の部員、保護者及びOGらにとっては、Y2はいわば絶対的な存在で、その影響力は絶大であって、Y2から明示的な指示がなくとも、Y2の意向を忖度し、それに沿った行動をするような関係にあったと推察される。
  X1及びX2は平成23年4月に本件高校に入学し、空手道部に所属していた女子生徒である。X1は感情のコントロールが不十分で、気分にムラがあり、それが練習態度に現れたり、それによって他の部員と衝突することもあった。また、X1は、Y2の指導方針や選手の起用方針などに関して疑問を呈したり、不満を表したりすることがあった。

判決の要旨:

  本判決は、Y2の行為には顧問としての裁量の範囲を逸脱する違法行為があったとして、X1に77万円、X2には44万円の、それぞれ慰謝料等の支払いを命じた。ここでは、パワハラと主張された行為について、X1の事例に限定して紹介する。

(1) 団体戦への起用について
  Y2が平成24年6月以降、X1を団体戦に出場させなかったことが、X1の主張するように、Y2を信用できないと発言したことへの報復や懲戒であったとは認めがたく、裁量を逸脱した不相当な扱いであったとはいえない。

(2) OGらによる不適切な指導について、
  X1は平成24年12月28日、Y2から髪の毛が長いと注意されたことに関し、Y2に対し、許される髪型の基準は何かなどと尋ねた。Y2は、X1の態度を反抗と捉え、練習場から出て行くように命じた。このX1の態度についての指導として、夜間、Y2及びOG5人が集まり、飲酒もしている場に、高校生であるX1を呼び出し、OGらが集団で指導・注意を行うことは不適切であり、相当性を欠くものであった。したがって、Y2は、OGらによる指導を阻止しなかった点で、不法行為責任を負う。

(3) 練習参加禁止について
  Y2は、X1が、平成25年6月9日、試合形式での練習中、やる気がないとみられる態度をとったなどとして、X1に練習場からの退出を命じた。さらにY2は、翌週に迫ったインターハイ予選まで、X1に練習への参加を禁止した。部活動への参加という部活動の根幹に関わる事項については、顧問の裁量の範囲は狭いと解され、反省を促すために当日、練習場から退出させることは相当であったとしても、翌日以降の練習参加を禁止することは、問題行動との均衡を著しく欠く不相当な処分であったと解される。

(4) インターハイ予選での差別的扱いについて
  練習禁止の処分は、インターハイ予選の期間も継続されたため、X1は、試合前のウォーミングアップも部員とは別に行わざるをえず、また、Y2はX1を応援する部員をとがめる指導をしたことにより、本件高校の生徒、父母等関係者でX1を応援する者はほとんどいない状況になった。こうした差別的扱いの原因はY2の行為にあり、その行為は著しく相当性を欠くものであった。

(5) 退部届の強要について
  X1の母は、前記(4)の差別的扱いがX1に対するいじめであると感じ、試合終了後、空手道部の関係者が集まっている場において、「こいつらカスが」などと発言し、その際、X1も母親の発言に呼応して「カスじゃけぇ」などと発言した。Y2は、従前のX1の態度に加えて、カス発言が合ったことを理由に、X1をこれ以上預かることはできないと考え、X1に退部届を提出させた。こうしたカス発言を理由に退部を迫ることに客観的合理性はない。それにもかかわらず、退部届を提出しなければインターハイ個人戦への出場が叶わなくなる旨申し向け、退部届の提出を余儀なくさせたものといえるから、不法行為に当たる。

(6) 大学推薦の不当拒否
  スポーツ推薦のもつ性質を考慮すれば、推薦をするか否かに関する学校の裁量は相当に大きいと言うべきである。X1は、空手道の実力はあってもチームワーク等の面で一定の難があると考えられていたのであり、それらを理由に、学校として大学に推薦できないと判断することが裁量の範囲を逸脱するものであったとは評価できない。

(7) 大学推薦に関する説明義務違反について
  Y2は、X1及びその両親に対し、スポーツ推薦をする意思はないが、自己推薦など他の方法による進学を妨げないとの趣旨で、大学進学の邪魔はしないと告げた。Y2は、X1がH大学へのスポーツ推薦を強く希望していることを知りながら、スポーツ推薦の意思がないことを明確に告げず、そのためX1に無意味な期待を抱かせた上、最終的に推薦を拒否して多大な失望感や不審感を抱かせた。このことは明らかに相当性を欠くものであった。







◆私立中高一貫校保護者会事件

【事件名】損害賠償請求事件
【裁判所】大阪地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第1357号、平成28年(ワ)第1121号
【年月日】平成29年8月18日
【結 果】棄却
【経 過】
【出 典】D1-Law.com判例体系


事実関係の概要:

  Y中学校・高等学校に在籍する生徒の保護者であり、保護者で組織される被告保護者会を退会した原告が、修了式に際して原告の長女が他の生徒と同じコサージュ等を交付されなかったことによって、同女が学校でいじめられるかもしれないと心配する等の精神的苦痛を被り、人格権等を侵害されたとして、不法行為に基づき損害賠償を求めた事案。

  原告は、本件学校に在籍する生徒2名の保護者(父)であり、被告保護者会は、本件学校に在籍する生徒の保護者を会員とし、団体としての組織を備えた権利能力なき社団である。原告は、保護者会の会員として(自動加入)、当初はクラス役員を担当するなどしていたが、平成26年3月、「活動内容及びその告知方法等について意見の相違がある為」等の旨を記載した退会届を提出し、同月末日をもって退会した。
  平成28年3月、本件中学校の修了式が行われた際、保護者会は会員の子女である生徒用のコサージュ及び一輪花を用意し、原告は担任教員から聴取して同様の原告長女用にコサージュ及び一輪花を用意し、いずれも本件学校に交付された後、学校職員によって、原告用意のものは原告長女に、保護者会用意のものはその他の生徒に、それぞれ交付された。

(原告の主張)
  原告は、本件学校の学年主任に対し、実費負担による配付の検討を求めたものであり、かくして教員を通じて原告長女にも交付するよう申し入れたが、保護者会はこれを拒否した。原告は、保護者会の上記行為によって、原告長女が学校でいじめられるかもしれないと心配するなどの精神的苦痛を被った。原告は、保護者として、子女が学校でいじめに遭うかもしれないなどと心配することのない原告固有の人格権ないし人格的利益を有しており、保護者会の上記行為はこれを違法に侵害するものとして不法行為を構成する。

(被告の主張)
  被告保護者会が原告長女に贈呈しなかったのは、原告が保護者会の会員でないからにすぎず、原告子女を疎外する意図はない。したがって、保護者会の行為は何ら違法なものではない。しかも、原告長女が学校でいじめられるかもしれないなどというのは、単なる抽象的な可能性にすぎず、実際にもいじめを受けた事実はない。

判決の要旨:

  原告主張の人格権ないし人格的利益が法律上保護されるものであったとしても、保護者会による違法な侵害行為(不作為)が認められないから、不法行為を構成することはない。したがって、原告の請求には理由がない。
  子女が学校でいじめに遭うなどの心配のないことは、その内容及び限界が相当に不明確であり、いかなる行為が原告主張の人格権ないし人格的利益を侵害したことになるかも相当に不明確である。
  会員の子女でない原告長女に対しコサージュ等を交付すべき作為義務を、損害賠償をもって強制することは、法令上の根拠がないことはもちろん、法感情上も正当化できない。この理は、過半の生徒の保護者が、原告同様に退会した上、その子女につきコサージュ等の交付を要求することを想起すれば、自ずから明らかである。











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