◆201912KHK248A1L0540M
TITLE:  注目の教育裁判例(2019年)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 大阪教法研ニュース 第248号(2019年12月,2021年9月一部削除)
WORDS: 


注目の教育裁判例(2019年)



羽 山 健 一



ここでは、公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から、先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。

判例タイムズ 1454号−1465号
判例時報   2385号−2423号
労働判例   1188号−1210号
裁判所web   2018.12.29−2019.12.24



  1. 東京都立特別支援学校教員休職事件 ――親の執拗な要望が不法行為に当たるか
    東京地裁判決 平成29年6月26日

  2. 那覇市立中学校教頭うつ病退職事件 ――校長のパワハラによるうつ病
    那覇地裁判決 平成30年1月30日

  3. 大学准教授LINEセクハラ事件 ――LINEでの言動がパワハラに当たるか
    東京地裁判決 平成30年8月8日

  4. 姫路市立中学校柔道部顧問懲戒処分事件 ――部活動の指導をめぐる停職処分
    大阪高裁判決 平成30年11月9日

  5. 東北芸術工科大学成績不正評価事件 ――学生を救済しようと成績評価変更
    山形地裁判決 平成30年12月25日

  6. 甲府市立小学校教諭うつ病事件 ――校長のパワハラによるうつ病
    甲府地裁判決 平成31年1月15日

  7. 福岡市立中学校特別支援学級学習権事件 ――英語を教えてもらえず学習権侵害
    福岡高裁判決 平成31年3月27日

  8. 大阪府立高校生徒自殺事件 ――喧嘩の指導直後の自殺
    大阪地裁判決 平成31年3月27日

  9. 熊本県立高校生徒LINEいじめ自殺事件 ――寮生間のトラブルよる自殺
    熊本地裁判決 令和元年5月22日








◆東京都立特別支援学校教員休職事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 東京地裁判決
【事件番号】平成27年(ワ)第36807号
【年月日】 平成29年6月26日
【結 果】 棄却
【経 過】 東京高裁平成29年12月26日判決(棄却)
【出 典】 判タ1461号243頁


事案の概要:

本件は、特別支援学校高等部の教員であった原告が、原告の在職中に生徒の母親である被告が内容及び頻度と態様において原告の受忍限度を超えた要望を同校の管理職におこなったため、精神的に追い詰められ、心身の不調をきたし休職等を余儀なくされ、満足に職務に戻れないまま失意のうちに退職したと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料200万円等の支払を求める事案である。


認定事実:

原告は、平成24年度、Nの在籍するクラスの副担任であった。Nの在籍するクラスは生徒数が7名で、主担任は女性の教諭、副担任が原告であった。Nは男子生徒であり、着替えやトイレの介助を要したことから男性である原告が事実上Nの担当となった。

原告の主張によると、被告は担任や原告に対し、入学式翌日から具体的要望を開始し、原告らが対応できないと回答したものについては直接校長に要望をおこなった。具体的な要望の内容は(裁判所は細かい事実認定を行なっていないので、原告の主張を引用する)、○連絡帳の書式変更を要望、○推薦する本を読むようにとの要望、○水遊び・砂遊びをやめさせてほしい旨の要望、○体育祭の種目変更についての要望、○朝の活動についての要望、○ハンカチを噛むことをやめさせてほしい旨の要望、○一人通学指導を開始してほしいとの要望、及び、○学校でのNの座席変更についての要望などである。さらに、被告は校長に対し、原告について、教員として能力が低く、Nの指導から外してほしい、Nの通知表から名前を削除してほしい、学校からいなくなるようにしてほしい旨の要望を繰り返しおこなった。


判決の要旨:

父母らが学級担任の自己の子どもに対する指導方法について要望を出し、あるいは批判することは、許されることであって、その内容が教員としての能力や指導方法に関する批判に及ぶことがあったとしても、直ちに当該教員に対する不法行為を構成するような違法性があるということはできない。

被告が原告に対しNの指導方法について要望したことや、被告が校長らに対し原告をNの指導から外すことやNの通知表から原告の名前を削除することなどについて要望したことが認められる。また、被告が複数回にわたり原告の授業等を見学したことが認められる。

被告が原告に対してNの指導方法について要望を出した際に原告に対する人格攻撃等があったとか、原告の授業等を見学した際に授業の妨害をおこなった等の事実を認めるべき証拠はない。被告が校長らに対しNの指導から原告を外すこと、Nの通知表から原告の名前を削除すること及びクラスの担任から原告を外すことなどを要望したことについても、被告は直接原告を糾弾等したわけではなく、事柄についての判断は校長ら管理職に委ねられており、原告を学校から排除することを違法に要望したものと評価することはできない。

被告がNの指導に関して要望をおこなったことに関して、原告の受忍限度を超えて不法行為を構成するような行為を認めることはできない。

備考:

本件の原告は、東京都に対しても訴訟を提起し、本件学校の管理職員が原告の負担や職場環境への配慮を怠ったことにより抑うつ状態となったとして、損害賠償を請求した。東京地裁平成28年12月16日判決(棄却)。






◆那覇市立中学校教頭パワハラうつ病事件

【事件名】 国家賠償法に基づく損害賠償請求事件
【裁判所】 那覇地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第155号
【年月日】 平成30年1月30日
【結 果】 一部認容・一部棄却
【経 過】
【出 典】 ウエストロー・ジャパン 2018WLJPCA01306008


事案の概要:
那覇市立a中学校の教頭職にあった原告Xが、同中学校のB校長からいわゆるパワーハラスメントに当たる言動をされたことによりうつ病に罹患し、その後教諭を退職せざるを得なくなったなどとして、那覇市に対し、得べかりし給与額、慰謝料等の損害賠償を求めた事案。


認定事実:

B校長は教頭である原告に対し、次年度の年間指導計画及び評価基準の作成状況を取りまとめるよう指示し、その期限である平成23年10月27日、原告に報告を求めたところ、まだ何もやっていないとのことであったため、B校長は、事務室前の廊下において、「いいわけばかりするな」などと言って原告に対して大声で叱責し始めた。B校長は、その後、原告に校長室へ入るよう指示し、扉を閉め、部屋に二人しかいない状況で、「こんな教頭はいない」、「教頭としてこんなこともできないのか」、「仕事が遅い」、「教頭は能力がない」などと言って、原告を大声で叱責した(以下「本件言動」という)。

原告は平成23年11月14日、病院において、心因反応という診断名の下、心的ストレスによる身体不調は強く、職場復帰は不可であるとの診断を受け、同日から平成24年3月31日までの病気休暇および病気休職を取得した。

原告は平成24年4月1日、中学校教諭に降任され(「降格」)、b中学での勤務を開始した。原告は、平成24年8月21日、クリニックを受診し、作業能力の低下、自信の低下などの症状が認められたため、うつ病と診断された。原告は、同年9月3日から平成25年3月31日までの間、病気休暇および病気休職を取得し、同日、教諭を辞職した(「退職」)。原告は平成25年11月13日、クリニックにおいて、脳の一部に萎縮が認められアルツハイマー病と診断された


判決の要旨:

原告が、本件言動以前から、心療内科を受診するなど精神的な問題を抱えていたことをうかがわせる事情は認められず、クリニックにおいても、うつ病について本件言動によるものと考えられる旨の診断がされているのであるから、原告のうつ病は、本件言動による心因反応が悪化して発症したものと認められる。

原告は、病気休暇取得中に後任の教頭を配置してもらうためには、自ら降格するほかないという理解の下で、教頭からの降格を願い出たものと認められる。そして、本件中学に迷惑をかけたくないとの思いから、早期に後任の教頭が配置されることを希望することが不合理とはいえない。そもそも、本件言動がなければ病気休暇を取得することはなかったことは明らかであるから、原告は、本件言動により、やむなく降格を願い出るに至った。したがって、本件言動と降格との間に相当因果関係が認められる。

原告が、退職をした時点で、うつ病が治癒ないし軽快したとか、少なくとも近い将来復職することができる見込みがあったとは認められないのであるから、原告のうつ病と退職との間の相当因果関係が認められる。

以上のとおり、本件言動と降格及び退職との間の相当因果関係が認められるから、原告には、教頭として勤務し続けた場合に取得することができた給与額と実際に支給された給与額との差額分の損害が生じている。






◆大学准教授LINEセクハラ事件

【事件名】 懲戒処分無効確認等請求事件
【裁判所】 東京地裁判決
【事件番号】平成29年(ワ)第26690号
【年月日】 平成30年8月8日
【結 果】 認容(控訴)
【経 過】
【出 典】 労働経済判例速報2367号3頁


事案の概要:

原告による 女子学生Bに対するLINEでの言動がセクハラに該当するとして、原告に対し停職1ヶ月の懲戒処分を行ったのに対し、同言動がセクハラ該当しない、該当するとしても停職1か月の懲戒処分は重きに失するなどと主張して、懲戒処分の無効確認、停職期間中の差額賃金などを求めた事案である。


認定事実:

原告は、平成29年4月10日から翌日にかけて、被告大学に転入し、原告の運営するゼミに所属希望を出していた女子学生Bとの間で、LINEでのやり取りを行った(以下、このやり取りを「本件LINE」という)。

女子学生Bは、4月10日18時19分に、原告に対し、LINEにより、講義の登録について質問したのに対し、原告は、20時45分に、丁寧にこの質問に答えた。女子学生Bが、22時24分に、礼を述べるLINEを返信し、今見たので遅くなってしまったと述べたのに対し、原告は、「あれ?既読になってたぜ?」と述べた。

本件LINEにおいて、原告は混雑する鉄道路線の話題になった際、「痴漢が多いのはD線だっけ?」などとして痴漢の話題を持ち出し、女子学生Bが卒業した短期大学においてセクハラがあったか否かという話をし、その後、セクハラの基準について触れ、「お尻は無理だけど、二の腕まではOKとか」と述べたり、ゼミ員の選考に関して、「ただね、僕の予想なんだけど、今日三次募集で選考受けに来た女の子いるでしょ? あの子はたぶん途中で切るとおもう。」「不真面目だと思うの + かわいくないから」などと述べ、さらに、女子学生Bから原告の印象について言及されたことに対し、「え?先生イケる感じ?」「今度、デートしよっか?」などと述べている。

当該LINEでの応答は、原告による女子学生Bに対する「既読無視」についての非難から始まったことで、女子学生BがLINEによるやり取りを途中で打ち切れないという心情に陥っており、延々午前1時25分まで3時間に及んだ。

女子学生Bは4月12日、被告大学の人権コーディネーターを訪問して、本件LINEについて相談し、本件ゼミを辞めたいが、当該単位を不本意な形で落とすことには納得がいかないなどと訴えた。


判決の要旨:

(1)懲戒事由該当性
原告のLINEにおける一連の言動は、一般的に女性の立場から見て不快感を感じさせるに足りる内容であり、女子学生Bは、原告の言動により実際に不快感を抱いたと認められる。以上に照らし、原告のLINEにおける言動は懲戒事由に該当する。

(2)停職処分の相当性
他方、既読無視の指摘やゼミの単位に関する発言については、女子学生BにLINEを打ち切らせないための意図的な行動であったとは認め難く、また、デートに誘う発言についても、断られることを前提とした冗談であると見るのが自然である。さらに、原告に懲戒処分歴がないこと、懲戒処分における事情聴取ないし弁明手続の中で学生とのコミュニケーションの取り方を反省し、今後同様の行為を繰り返さないという趣旨を述べていることも、一定限度で原告に有利に斟酌すべき事情といえる。

これらの事情に照らすと、被告が、原告に対し、就業規則上懲戒解雇に次ぐ重い懲戒処分として停職を選択したことは重きに失する。本件停職処分は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上も相当と認められないから、労働契約法15条に基づき、無効と認められる。






◆姫路市立中学校柔道部顧問懲戒処分事件

【事件名】 懲戒処分取消等請求控訴事件
【裁判所】 大阪高裁判決
【事件番号】平成30年(行コ)第51号
【年月日】 平成30年11月9日
【結 果】 原判決変更(上告・上告受理申立)
【経 過】 一審神戸地裁平成28年(行ウ)第66号(棄却)
【出 典】 裁判所ウェブサイト


事案の概要:

兵庫県姫路市立中学校で部活動でのいじめを隠すため、同僚らに診断先の病院で虚偽の説明をするよう指示したなどとして、停職6カ月の懲戒処分を受けた元教諭の男性が、処分取り消しや配置換えによる損害賠償を県に求めた事案。原審は、停職処分及び配置換えをいずれも適法であるとして、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として本件控訴を提起した。


認定事実:

控訴人は、a中学校で、柔道部顧問として柔道部員の指導にあたっていた。a中学校柔道部は、多くの大会で優秀な成績を収め、全国優勝をしたこともあった。柔道部部員のA〜Eらは下宿して共同生活を送っていたが、A〜Cは日常的に、D、Eによる暴力行為を受けていた。

3年生のD及び2年生のEは、平成27年7月7日午前7時頃から、a中学校の家庭科室において、かわるがわる、1年生のAの顔面を殴り、長さ約1mの物差しでAの頭、顔、身体を10回以上たたき、平手で顔面を数回殴打したほか、立てなくなったAに対し、Dは太ももに膝蹴りをし、DとEがみぞおちを数回蹴るなどの暴行を加え、よって、Aに全治1箇月を要する胸骨骨折を含む傷害を負わせた(「本件傷害事件」)。控訴人は、同日午後3時頃、Aを医師に受診させるに際し、A及びAに付き添うF教諭に対し、医師には「階段から転んだ」と説明するよう指示した(「本件虚偽説明指示」)。

Dは、7月27日、兵庫県中学校総合体育大会(「県大会」)の団体戦に出場し、a中学校はこの大会で準優勝して近畿中学校総合体育大会(「近畿大会」)団体競技への出場資格を得た。G校長はDが近畿大会に出場することを了承していたが、市教委は、同年7月29日、本件傷害事件を理由に、近畿大会へのDの出場を辞退するようG校長に指示した。G校長は、同日、控訴人に電話をかけDを近畿大会に出場させないようにと伝えた。控訴人は、これに従わず、同年8月4日に行われた近畿大会の団体戦にDを出場させた(「職務命令違反」)。その結果、a中学校は同大会で優勝した。

a中学校では、卒業生や保護者等から柔道部に対し、洗濯機、乾燥機、送風機、冷蔵庫、トレーニング機器等の物品が寄贈され、校内に設置されていた。G校長は、平成26年12月初旬、本件物品の撤去を指示したが、控訴人は対応しなかった(撤去指示違反)。平成27年10月1日に市教委による、原状回復するよう指示する「施設管理に係る改善指示書」が交付されると、控訴人は本件物品を撤去した。

処分行政庁は、平成28年2月23日、控訴人の行った本件「虚偽説明指示」、「職務命令違反」、「撤去指示違反」を理由として、地公法29条1項、懲戒条例5条により懲戒処分として、6月間停職とした。

処分行政庁は、同年4月1日、控訴人に対し、姫路市立b中学校への配置換えをした。控訴人は停職期間が満了する前の同年6月30日をもって辞職した。


判決の要旨:

(1)懲戒理由に係る考慮事情
Aを診察した医師がそのような虚偽の説明をたやすく信用したとは考え難く、医師に対する虚偽説明指示がその後のa中学校としての組織的対応に支障を来す結果をもたらすものではなかったことが明らかである。その意味で、控訴人の虚偽説明指示が、本件傷害事件の「隠蔽」ないし「隠匿」とまで評価することは困難であり、その悪質性の程度がそれほど高いとはいい難い。

G校長は、いったんはDの近畿大会出場を認めていたのであり、G校長は、校長としてDの近畿大会への出場資格を取り消す権限を有していたのに、自らその権限を行使しなかった。被害生徒であるAの保護者も含む複数の保護者らがDの出場を支持していた。

本件物品を撤去するとなれば、これらの寄贈者らに対する説明等が必要であり、直ちにG校長の指示に応じて撤去することが困難であった。

(2)処分の相当性
処分行政庁は、各非違行為単独では、「虚偽説明指示」については減給相当、「職務命令違反」及び「撤去指示違反」についてはそれぞれ戒告相当と判断した点は是認し得る。複数の非違行為が行われた場合や情状等により処分を加重する場合においても、自ずと合理的な限度がある。

3件の非違行為のうち、「虚偽説明指示」については減給相当とされるから、これに戒告相当の2件の非違行為を併合し、かつ控訴人には平成10年に生徒への体罰により減給10分の1・1月の懲戒処分を受けた前歴があることを勘案したとしても、減給よりはるかに重い処分と考えられる停職を選択すること自体、社会通念上裁量権の範囲を逸脱するものというほかない。したがって、本件停職処分は違法な処分であり、取消しを免れない。(さらに、国家賠償法1条1項に基づき55万円の損害賠償を被控訴人(県)に対して命じた。)






◆東北芸術工科大学成績不正評価事件

【事件名】 懲戒処分等取消請求事件
【裁判所】 山形地裁判決
【事件番号】平成29年(ワ)第232号
【年月日】 平成30年12月25日
【結 果】 棄却
【経 過】
【出 典】 労働判例ジャーナル87号95頁


事案の概要:

本件は、被告が運営する私立大学の教授として雇用されている原告が、被告に対し、停職8か月の懲戒処分には、懲戒事由がなく、懲戒事由があったとしても相当性を欠くものであって無効であると主張して、本件懲戒処分が無効であることの確認を求めると共に、停職期間中の賃金等の支払を求める事案である。


認定事実:

原告が担当していた宗教学の講義を受講した学生Bは、本件講義についてF評価(単位が付与されない)を受けた。学生Bは、原告に対し、学期末試験に持ち込む予定であった授業プリントを友人に貸したところ返却されなかったことにより、学期末試験の成績が振るわずに宗教学の成績が単位認定不可となってしまったことや、本件講義の単位を取得できれば、被告大学を卒業して、決まっていた進路に進むことができることを伝えた上で、再試験やレポート提出等の措置を執ってもらえないかという旨の質問をした。

原告は、再試験を実施し、この結果を受けて、学生Bの成績評価をFからDへと変更する旨の成績変更申請を行った。その際、原告は、学生Bの学期末試験における得点を1点と記載したのは、正確には12点であったのを原告が誤認していたことによるミスであったとして、成績評価を修正する旨、申請書に記載するとともに、得点を1点から12点に修正した学生Bの学期末試験の答案を白黒コピーして添付した。

被告は、原告及び学生Bに対し聞き取り調査を行い、職員審査会を開催した上で、原告の行為が、被告大学就業規程4条及び5条に違反し、学校教育の秩序を乱し、被告大学の信用を著しく傷付け、多大な損失を及ぼすものであるとして、原告に対し、停職期間を8か月とする懲戒処分を行った。


判決の要旨:

(1)懲戒事由1について
原告は、本件講義の単位認定にあたり、成績評価が確定し公開された後再試験は認められないという被告大学の運用規定を理解しながら、学生Bに対して単位付与にかかる再試験を行ったと認められるから懲戒事由に当たる。

(2)懲戒事由2について
原告は、あたかも学生Bが当初から12点を得ていたかのように見せようと加工したと認められ、この加工後の答案用紙を成績変更申請書の根拠資料として添付し、虚偽の理由を付して成績変更申請を行ったから、原告の行為は懲戒事由に当たる。

本件各懲戒事由について、被告大学では許されていない再試験が行われたことを学生の一部が知ることで、学校法人全体の秩序が乱れることにもなり得るといえ、また、学生や保護者に、被告大学が公平・適正に単位認定をしていないと思われることは、被告大学の信用を傷付けることになる。本件各懲戒事由の結果は、相当に重大であり、本件懲戒処分が重きに失するとはいえない。







◆甲府市立小学校教諭うつ病事件

【事件名】 公務外認定処分取消請求事件
【裁判所】 甲府地裁判決
【事件番号】平成29年(行ウ)第2号
【年月日】 平成31年1月15日
【結 果】 認容
【経 過】
【出 典】 ウエストロー・ジャパン2019WLJPCA01156003


事案の概要:

本件は、小学校教諭である原告が、勤務していた甲府市立b小学校において指導が困難なクラスの担任となったことや、同校のC校長からパワー・ハラスメントを受けたことなどを原因として、平成24年8月30日にうつ病を発症したとし、このうつ病の発症は公務に起因するものであると主張して、地方公務員災害補償法に基づき、公務災害認定請求を行ったところ、処分行政庁が、平成27年1月7日付けで原告のうつ病を公務外の災害と認定する処分をしたことから、その取消しを求める事案である。


認定事実:

原告は、もともとまじめで几帳面で正義感や責任感が強く、仕事熱心で頼まれると断れない性格であり、これらはうつ病と親和性のある性格である。

b小学校の平成24年度の6年生のクラスは、前年度から、規範意識に欠ける児童が多く、指導が困難な状況にあったところ、前年度に担任であった教諭は引き続きクラス担任を務めることを拒否したため、原告が本件クラスの担任となった。原告は、ほぼ毎日学級通信を発行するなどして、児童らの指導に当たった。原告は、7月30日に、うつ状態によりAクリニックの受診したが、その後の8月24日までに症状は徐々に軽快し、研修や学校行事にも参加していた。

原告は、8月26日、地域防災訓練に参加するため、会場へ向かう途中、自身が担任をする学級の女子児童を訪問しようとして、その住居に立ち寄ったところ、児童宅の庭において、飼育されている飼い犬に咬まれ、約2週間の加療を要する創傷を負った(犬咬み事故)。原告は整形外科クリニックを受診後、C校長に電話をかけて、犬咬み事故を報告し、公務災害になるかどうか尋ねたところ、C校長は公務災害に該当しないとの認識を示した。

原告は8月27日夜、電話で、女子児童の母に対し、ペット保険等の「賠償保険に入っていたら、使わせていただきたい」などど話したところ、児童の母は、保険には入っていないと答えた。児童の父母は、翌8月28日の夜、原告宅を訪れ、犬咬み事故について謝罪するとともに、治療費を支払わせてほしいと申し出たが、原告は、気持ちだけで十分であるとして、これを辞退した。

8月29日午後、C校長は、児童の父から電話を受け、犬咬み事故について、原告の児童の母に対する電話での話が脅迫めいているといったことを言われ、C校長を交えて原告と話がしたいと言われた。C校長は、原告に対し、犬咬み事故発生から前夜までの経緯をまとめた書面を作成するよう指示し、原告は、これを報告書にまとめ、C校長に提出した。

児童の父と祖父は、同日午後5時30分頃、b小学校を訪れ、校長室において、C校長及び原告と面談した。児童の祖父は、C校長から見せられた報告書に「賠償」という言葉が記載されていることについて、「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か」などと言って、原告を非難した。そして、原告に対し「強い言葉を娘に言ったことを謝ってほしい」などと謝罪を求めた。C校長は、原告に対して、保護者らに謝罪するよう求め、原告は、床に膝を着き、頭を下げて謝罪した。C校長は保護者らが帰った後、原告に対し、翌日に児童宅を訪問し、児童の母に謝罪するよう指示した。

原告は、8月30日、Aクリニックを訪れた際には、抑うつ気分、不安焦燥感及び不眠等が憎悪しており、D医師は、病名をうつ病とし、9月5日までは自宅療養が必要であると診断した。D医師は、9月6日、原告の症状が著しく悪化し、自殺も懸念されたため、原告に対して入院を勧め、原告は9月10日から29日まで、閉鎖病棟に入院した。


判決の要旨:

(1)C校長のパワハラの有無について
原告は、犬咬み事故に関しては、全くの被害者であり、被害に遭ったことについて何らかの過失があったともいえない。そうすると、原告が犬の占有者・管理者としての児童の保護者に対して犬咬み事故による損害賠償を求めたとしても、権利の行使として何ら非難されるべきことではない。

それにもかかわらず、C校長は、原告を一方的に非難しただけでなく、保護者らに対する理由のない謝罪を強いることを重ねた。C校長は、保護者らの理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために容易に行動したというほかない。そして、この行為は、原告に対し、職務上の優越性を背景とし、職務上の指導として社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱したものであり、原告の自尊心を傷つけ、多大な精神的苦痛を与えたものである。

(2)指導困難なクラスの担任になったことについて
基金が行ったb小学校の職員に対する質問調査によると、同僚らは、指導が極めて困難なクラスであったため、家庭や地域と連携してきめ細かく経営を行い、多大な心配りが必要であったとの原告の申立が事実であると証言している。原告が指導の困難なクラスの運営に当たったことは、それ自体原告に相当の精神的負荷を与えるものであった。

C校長は、原告において、他の教師又は児童の面前で、指導が不十分であることを公言されたと受けとめられる言動を行い、このような言動は、担任である原告に対して精神的負荷を与えるものであった。C校長に、原告をサポートしようとする行動や姿勢があったとは認められない。

原告の公務と8月30日に発症したうつ病との間の相当因果関係が認められ、公務起因性を認めることができる。


備考:

同原告による関連事件:校長のパワハラに基づく教諭のうつ病罹患事件(損害賠償請求事件)・甲府地裁平成30年11月13日判決(一部認容)。
関連事件:家庭訪問中の負傷事件(公務外認定処分の取消請求事件事件)・甲府地裁平成29年9月12日判決・東京高裁平成30年2月28日判決






◆福岡市立中学校特別支援学級学習権事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 福岡高裁判決
【事件番号】平成30年(ネ)第558号
【年月日】 平成31年3月27日
【結 果】 認容
【経 過】 一審福岡地裁平成26年(ワ)第3485号
【出 典】 裁判所ウェブサイト


事案の概要:

本件は、被控訴人の設置する福岡市立中学校の特別支援学級に通っていた控訴人が、在学中、@本件中学校の校長及び各学年時の学級担任らにおいて、指導計画を作成せず、これに基づく授業等を実践しなかったことにより、控訴人の学習権を侵害し、また、A本件中学校の嘱託員から暴行を加えられ、B本件中学校の教諭から、暴行及び脅迫を加えられ、名誉を毀損されたとして、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したので控訴人が控訴した。(以下、本稿では上記@の争点についてのみ紹介する)


判決の要旨:

特別支援学校学習指導要領によれば,特に示す場合を除き,各教科,道徳,外国語活動,特別活動及び自立活動の内容に関する事項を取り扱わなければならないとされ,特別支援学校中学部において上記各教科に外国語が含まれることは明らかである。

上記学習指導要領において,外国語科を設けないことができるとされているのは,知的障害を有する生徒の場合や知的障害を併せ有する重複障害者である生徒の場合に限られる。

そうすると、ADHD,広汎性発達障害と診断されていた控訴人に対し,a教諭が英語教育を入学当初わずかに実施したにとどまり,その後,英語を含む外国語の教育を実施しなかったことは教師の裁量を逸脱し,控訴人の学習権を侵害したものであり,違法といわなければならない。

控訴人の精神的苦痛は相当に大きかったものと推認される上,a教諭は知的障害を有しない控訴人に対する特別支援学級における教育課程の編成及び実施について十分な理解ができていなかったことがうかがわれる。しかし,1年次における控訴人は学習意欲が低下し,着席して授業を受けること自体が困難な状況にあったこと,そうした状況を踏まえ,控訴人に対しては生活面における指導や自立活動を重視する必要性があったことは否定し難いこと等を考慮すると,控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するためには30万円をもって相当と認める。







◆大阪府立高校生徒自殺事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 大阪地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第3126号
【年月日】 平成31年3月27日
【結 果】 棄却
【経 過】
【出 典】 裁判所ウェブサイト、判例タイムズ1464号60頁


事案の概要:

本件は、当時府立高校の生徒であったCが、授業中に他の生徒とトラブルになったところ、同校の教員らが、約8時間にわたって生徒Cを校内の一室に監禁状態にして反省文等を作成させる等の不適切な指導を行うなどした結果、生徒Cが、下校中に踏切内に立ち入って電車に跳ねられて死亡したとして、教員らの行為は違法なものであるとして、国家賠償法1条1項に基づき、生徒Cの祖父である原告A及び生徒Cの母である原告Bが逸失利益及び慰謝料として損害賠償金等の支払を求めた事案である。


認定事実:

生徒Cは、小学校の頃からクラスメートが喧嘩をしているときに傍観せず止めに入ったり、授業中に私語をしている人を注意するなど正義感が強く、物事に真面目に取り組む性格であった。母親である原告Bは、高校に提出する生徒個人票に「コミュニケーションがうまくとれず、対人関係で心配なことがあります。」なとの記載をしていた。生徒Cは原告Bに対し、高校では、授業中に私語をしたり、携帯電話でLINEをしたりゲームをしたりする者がいること等について不満を漏らすことがあった。

生徒Cの教室では、平成27年5月15日午前9時45分から、P講師の担当する2限目の「基礎英語総復習」の授業が行われていた。生徒Cの前の座席には、トラブルとなる相手方生徒がいた。P講師は、授業開始後、各生徒の机間を回って従前に課した宿題の解答状況等のチェックをするなどしていたところ、相手方生徒は、その間、立ち歩いたり、大きな声で話をするなどしていたほか、右隣の女子生徒の方に身を乗り出して女子生徒の腕を握るなどしていた。

生徒Cは、午前10時前頃、相手方生徒を注意するために、後ろから頭を軽く叩くなどしたところ、相手方生徒がこれを無視したことから、再度、相手方生徒の襟をつかむなどして自席に正しく座らせようとするなどしていたところ、相手方生徒が生徒Cの方に振り向いたことから、相手方生徒の頬を平手で叩いた。これに対して相手方生徒は、生徒Cの頬を平手で叩いた上、教室の外に連れ出そうとして胸ぐらをつかんで引き寄せるなどしたところ、大きな音がして、教室内が騒然となった(本件トラブル)。

生徒C及び相手方生徒は、午前10時10分ごろから、別々の部屋で事情聴取を受けるなど、複数の教諭から交代で指導を受けた。生徒Cは事情聴取の後、「振り返りシート」の作成を指示されたが、なかなか完成させることができず、午後0時半ごろにこれを完成させた。生徒Cは、午後1時15分頃に昼食をとった後、反省文の作成をしていたが、なかなか書き進めることができなかった。途中で様子を見に来た教諭は、生徒Cに声をかけ反省文を書くよう促したが、午後4時頃になっても、ほとんど書けていなかった。午後5時40分頃、担任教諭は生徒Cに対し、月曜日までに反省文を書いてくるように指示した上で、今後のことは、電話で母親に伝えるので、生徒C自身でもトラブルの内容を伝えるよう指導し、生徒Cは午後6時過ぎ頃に1人で下校した。生徒Cは、午後6時28分頃、帰宅経路上にある踏切内において死亡した。


判決の要旨:

(1)相手方生徒を注意しようとしたことについて
本件トラブルは、生徒間の暴力であり、かつ、結果的に授業を妨害することになったものであるから、生徒Cの行為が、相手方生徒の授業中の不適切な言動を注意する目的で行われたものであったことを考慮したとしても、懲戒権の行使をすることが相当な場合であった。

(2)約8時間にわたる拘束について
生徒Cを結果として小会議室に8時間近くにわたって止め置くことになったのは、生徒Cが事情聴取の際に、相手方生徒に対して暴力行為を行った理由を容易に明らかにしなかったり、振り返りシート及び反省文をなかなか記載することができなかったことによるものであって、小会議室に止め置いたこと自体は、生徒Cの行為に対する懲罰として肉体的あるいは精神的な苦痛を与えるという意図の下に行われたものではなかったということができる。そうすると、生徒Cの拘束時間が8時間近くと相当長期間にわたったことは、適切であったとはいい難いものの、そのことだけから、本件高校の教員らの対応が、直ちに教育的指導の範囲を逸脱するものであったとまでいうことはできない。

(3)1人で下校させたことについて
生徒Cが落ち着いた受け答えをし、真面目に指導を受け入れようとしている様子であったことや指導等の態様等の諸事情に鑑みると、生徒Cが自棄的な言動を取り、動揺している様子がうかがわれたことのみから、本件高校の教員らにおいて、生徒Cが下校途中に自殺することを予見することは不可能であった。したがって、本件高校の教員らが、生徒Cを1人で下校させたことが対応として不適切であったということはできない。

以上によると、本件高校の教員らの指導等が、教員が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものであり、職務上の法的義務に違背していたということはできない。


備考:

本判決は、公立学校の教員の生徒に対する有形力の行使を伴わない懲戒権の行使が、国家賠償法上違法となる場合があることを前提として、具体的な事実関係に鑑みて、本件で行われた指導については教育的指導の範囲を逸脱しないと判断したものである。






◆熊本県立高校生徒LINEいじめ自殺事件

【事件名】 損害賠償請求事件
【裁判所】 熊本地裁判決
【事件番号】平成28年(ワ)第508号
【年月日】 令和元年5月22日
【結 果】 一部認容・一部棄却
【経 過】
【出 典】 裁判所ウェブサイト


事案の概要:

熊本県立高校の1年生であった亡Aが、自宅で自死したところ、本件は、亡Aの母ないし兄弟である原告らが、@亡Aは、同級生である被告Bの違法な権利侵害行為(いじめ)により精神的苦痛を負ったとして、被告Bに対し、民法709条に基づき、亡Aの損害等の支払を求め、A被告県に対し、亡Aは、本件高校の教職員らの安全配慮義務違反により自死に至ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、亡Aの損害及び原告の固有の損害等の支払を求める事案である。


認定事実:

亡Aは、平成25年4月1日に本件高校に入学し、本件高校の設置する女子寮である寮に入寮した。亡Aは、入寮後、物音を立てない、喋らないなどの暗黙のルールに不満を持つようになり、寮を辞めたいという心情を持つようになった。被告B及びCは、いずれも、本件寮に入寮した亡Aの同級生である。亡Aは、4月から5月頃にかけて、被告B及びCとの間で、寮における生活態度等について相互に不満を抱くようになり、亡Aが被告B及びCに、「デブ」、「豚」などと言うようになり、他方、被告Bが亡Aの唇を揶揄して「たらこ」と言うなど、相互に身体的特徴を揶揄し合うようになった。両者の対立は直接の口論にとどまらず、それぞれ相手の写真を無断でライン(LINE)のグループに送信するなどした。

本件高校は、6月6日、生徒理解のためのマークシート記入式の調査(以下「シグマテスト」)を実施したところ、亡Aは、「死んでしまいたいと本当に思うときがある」という項目に該当する旨の回答をしていた。

亡Aは、6月下旬ころ、出身中学校の同級生のライングループに、被告Bについて述べていることを暗に示して、以下のメッセージを送信した。「おい、まじH人うざいなー」、「しねばいい」、「まぁH人の一部つか1人」、「あーーうざい」、・・・「まじはよやめろ」「あがんカスいらんわ」、「まじカスすぎ」、「がちでおらんくなってほしい」、「あーーーきもい」(一部略)。

被告Bは、亡Aが上記のメッセージを送信した事実を知って、腹を立て、本件高校内で亡Aに対し直接文句を言ったが亡Aが事実を素直に認めなかったため、その態度にさらに不満を持った。被告BとCは、6月28日、本件寮の休養室から隣室にいた亡Aに、Cがスマートフォンを用いて架電したが、亡Aが電話に出なかったことから、亡Aに対し、ライン上で以下の各メッセージを送信した(以下「本件ライン」)。「おいて」、「電話でろて」「はげ」、「唇」、「汚い」、「どんだけへぼいと」、「根性悪いよそこのあなた」、「日曜日しらんぞ」、「レスキュー隊呼んどけよ」、「唇とばすなよ」(一部略)。本件ラインを確認した亡Aは、同日、原告甲に架電し、本件ラインを転送した。原告甲は、同日、クラス担任K及び、舎監長に架電した。

舎監長は、7月8日、亡A、被告B及びCを呼び出し、同人らを指導した。舎監長は、亡A、被告B及びCに対し、@他人の誹謗・中傷をしないこと、Aラインの使い方を考え直すこと、B今後同様のことが発生した場合、関係者全員を自宅通学にする等の措置をとる可能性があることを約束するよう指導し、亡A、被告B及びCもこれを了承した。これ以降、被告BやCは、亡Aと日常会話を交わすような関係に戻り、亡Aに対していじめやこれに類する行為に及ぶことはなかった。

亡Aは、7月23日、実家に帰省し、翌日、ライン上に、寮を辞めたいが、先生と親から説得されて辞められない旨を書き込んだ。亡Aは、夏季休暇中の8月17日、実家において縊死により自殺した。遺書などは残されていなかった。


判決の要旨:

(1)被告Bの不法行為責任について
被告Bが亡Aに送信した本件ラインは、その内容を見ると、亡Aの身体に危害を加える可能性を暗に示す表現を含んでおり、全体として、亡Aの人格権を侵害し、さらに亡Aを畏怖させるに足りる脅迫行為であるといわざるを得ない。したがって、本件ラインの送信は違法な脅迫行為であるから、不法行為を構成する。

(2)教員の安全配慮義務違反について
舎監長がとった対応は本件の事情に即した合理的な判断によるものであるといえ、被告Bらによるいじめの再発防止が実現されたと認められる。したがって、舎監長の対応に安全配慮義務違反があったとは認められない。

担任は7月上旬ころ、シグマテストの受験結果を受領したが、亡Aの回答については気が付かなった。担任としては、亡Aの精神的苦痛の解消を図るための対応を執ることができるよう、少なくとも、舎監長に対し、シグマテストの回答結果を伝えるべき義務を負っていた。しかるに、担任は、亡Aのシグマテストの回答を漫然と見逃して、舎監長にこれを伝えなかったから、担任の対応には亡Aに対する安全配慮義務違反があるといえる。

(3)担任の安全配慮義務違反と亡Aの自殺との因果関係について
亡Aの置かれていた状況は、相応の心理的負荷を感じる程度のものではあるが、それ自体、自殺を決意するほどの強度の精神的苦痛を感じさせるものとまではいい難いこと、被告B及びCとの関係については解決していたことなどからすれば、担任において、亡Aの自殺を具体的に予見することができたとはいい難い。したがって、担任の安全配慮義務違反と亡Aの自殺との間に相当因果関係を肯定することはできない。






Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会