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TITLE:  注目の教育裁判例(2021年暫定版)
AUTHOR: 羽山 健一
SOURCE: 2021年8月15日
WORDS:  全40字×420行


注目の教育裁判例(2021年暫定版)



羽 山 健 一



  ここでは,公刊されている判例集などに掲載されている入手しやすい裁判例の中から,先例として教育活動の実務に参考になるものを選んでその概要を紹介する。詳細については「出典」に示した判例集等から全文を参照されたい。

判例タイムズ 1478号−
判例時報   2461号−
労働判例   1231号−
裁判所web   2020.12.25−




  1. 北海道公立高校教諭パワハラ自殺事件 ―― 自信を喪失させるような注意をする先輩
    仙台地裁 令和2年7月1日判決

  2. 岐阜県私立高校柔道部暴行事件 ―― 絞め技か暴力か?
    名古屋地裁 令和2年11月10日判決

  3. 東京都立高校教諭免職処分事件 ―― 女子生徒とのキスを理由とする懲戒免職
    東京地裁 令和2年12月11日判決

  4. 太宰府市私立高校生徒自殺事件 ―― 執拗ないじめによる自殺
    福岡地裁 令和3年1月22日判決

  5. 大阪府立高校頭髪指導事件 ―― 染髪禁止校則の違法性
    大阪地裁 令和3年2月16日判決









  6. ◆北海道公立高校教諭パワハラ自殺事件

    【事件名】損害賠償請求事件
    【裁判所】仙台地裁
    【事件番号】平成30年(ワ)第489号
    【年月日】令和2年7月1日判決
    【結 果】一部認容・一部棄却
    【経 過】
    【出 典】ウエストロー・ジャパン,判時2465・2466号52頁,判例タイムズ1481号221頁


    事案の概要:

    原告らの子である亡Aは,平成25年4月1日付けで北海道教育委員会から北海道公立学校教員として任命され,a高校において定時制課程の英語担当教員として勤務していたが,平成27年7月28日,自殺した。本件は,原告らが,業務が過重化したこと及び先輩教諭Bにおいて亡Aに対しパワー・ハラスメントをしたことにより亡Aは精神的に追い詰められて自殺したのであり,校長及び教頭は労働環境を整備するという信義則上の安全配慮義務に違反したと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金等の支払を求める事案である。判決は,校長及び教頭において亡Aのうつ状態を認識しながらBによる度重なる注意を防止する措置を講じなかったことが安全配慮義務に違反するとして,損害賠償請求を一部認容した。


    認定事実:

    亡Eは,平成27年5月15日,教頭に対して,F教諭が仕事を丸投げしてくるという悩みのほか,G教諭の担当するクラスの副担任としての仕事ぶりがG教諭の期待に添えておらず,G教諭を苛立たせてしまっているという悩みを相談した。教頭は,G教諭に対し,「あまり先輩教員として教員のあるべき姿を指導することは,本人のプレッシャーになるので多少控えた方がよいのではないか。」などと話して注意した。

    G教諭は,6月23日,亡Eの生徒への関与姿勢について,約36分間にわたり,「生徒の方見てるっつうのは答えひとつだべや。関わっていくしかねーベや,お前向いてねーって。うそつけって。おまえ向いてねえから答えでねえんだよ。」などと言って注意した。亡Eは,従来からのG教諭による度重なる注意とあいまって,教師として生きてゆく自信を喪失した。G教諭は,6月26日,亡Eが会議の終了を待たずに帰宅したことについて注意した。

    亡Eは,6月26日の夜,教頭に対して,教師として生きてゆく自信を喪失させるような注意をG教諭から受けたことについて相談した。教頭は,直ちに,G教諭に電話を架け,「先生の言い方が非常につらかったようで,E先生は教師に向いていないのではないかと悩んでいた。」などと伝えた。

    教頭は,6月29日,亡Eから,心療内科を受診し,うつ状態という診断を受け,薬を処方された旨の報告を受けた。そのため,教頭は,校長に対し,上記診断結果を報告した。校長らは,亡Eに対して,休暇を取ることを勧めたものの,G教諭に対しては亡Eがうつ状態という診断を受けたことを伝えることをしなかった。のみならず校長らは,亡EとG教諭の席を離したり,担任と副担任の関係を解消したりする措置を講じたこともなく,当該措置を執ることにつき,亡Eの意向を聴取することはなかった。

    G教諭は,7月27日午後1時30分頃,亡Eに対し,担当するクラスの生徒Aが午後4時頃に宿泊研修の同意書を提出するため登校することから,生徒が来たら,そのことを生徒会室に伝えに来てほしい旨依頼し,別の生徒と作文を書くため,生徒会室へ移動した。G教諭の依頼は,生徒会室で作文を書く生徒と生徒Aが鉢合わせることがないようにしたいという意図によるものであった。ところが,亡Eは,同日午後4時30分頃,生徒Aが登校したため,生徒Aを生徒会室へ同行した。生徒Aを帰らせた後,G教諭は,20分間にわたり,亡Eに対し,亡Eが生徒Aを生徒会室に同行したことについて,「なんでそうしたの。」,「こうするべきじゃないの。」などと述べて,亡EがG教諭の意図とは異なる対応をしたことを淡々とした口調で注意した。亡Eは,7月28日未明,自殺した。


    判決の要旨:

    (1)G教諭の行為の違法性
    職場で働く者が,職場内における優越的な関係に基づき,同じ職場で働く他の者に対し身体的又は精神的苦痛を与える行為は,業務上必要かつ相当な範囲を超える場合に,パワーハラスメントとして不法行為法上違法となると解するのが相当である。

    亡Eがうつ状態の診断を受けていたにもかかわらず,G教諭は,その事実を校長らから伝えられておらず,その後亡Eに対する注意を自制するよう指導を受けることすらなかったのであるから,亡Eの精神状態が客観的に極めて不安定であったこと及びその原因が自己の亡Eに対する執拗な注意にあることを的確に認識していなかったことが認められる。そうすると,7月27日のG教諭による亡Eに対する注意には,故意又は過失があったものと認めることはできない。したがって,G教諭の行為に不法行為は成立しない。

    (2)校長らの安全配慮義務違反の成否
    未だ勤務経験2年余りにすぎないAが教師として生きてゆく自信を喪失させないよう校長らは,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して亡Eの心身の健康を損なうことがないように,G教諭に対し,亡Eのうつ状態の原因が教師として生きてゆく自信を喪失させるようなG教諭の度重なる注意にあることを自覚させ,未だ勤務経験2年余りにすぎない亡Eが教師として生きてゆく自信を喪失させないように,亡Eにこれ以上の注意をしないよう自制を促すとともに,亡Eの意向を聴取するなどして亡Eの精神状態に配慮した上で,亡Eの意向に反しない限度で,G教諭が業務において亡Eに接触する機会を減らす措置を講じる義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったものというべきである。したがって,校長らは,亡Eの心理的負荷等が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したものと認めるのが相当である。

    (3)過失相殺及び素因減額
    加害行為と被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患を料酌することができるものと解するのが相当である。

    亡Eは,14歳の時及び31歳の時にも自殺を試みたことがあり,元来不安を感じやすい性格であったことが認められる。亡Eの自殺の原因は,過去2回自殺を試みた経過等を踏まえると,亡Eの不安を感じやすい性格が寄与していたというべきであり,亡Eの性格は,労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めるのが相当である。

    したがって,亡Eの自殺は,G教諭による亡Eに対する注意と亡Eの上記性格とが共に原因となって発生したものと認めるのが相当であり,本件においては722条2項を類推適用して6割の素因減額を行うのが相当である。


    コメント:

    本判決は,職業人として生きて行く自信を喪失させるような注意をする先輩を新人から引き離すべき安全配慮義務の存在を認めた事例である。

    一昔前なら,先輩教員が新任教員を怒鳴りつけるような光景は普通に見かけられた。かつて熱血教師と呼ばれた先生は,生徒に対してだけでなく,教員に対しても,真剣に相手の将来ことを思い,熱心に指導し叱責した。しかし,現在では,このような行為はパワハラと受けとめられ,,新任がメンタルヘルスを損なうようなことがあれば,設置者は組織として責任を問われることになる。

    本判決では,教頭・校長の管理職が,うつ状態の診断をうけた教員に対して,相談にのり,休暇を勧めたり,加害者に対して注意を与えるにとどまり,防止するための具体的措置を講じないい場合は,安全配慮義務に違反すると判断した。具体的措置というのは,加害者と被害者を引き離すことであり,担当を替えたり席を替えたりして,明確に接触の機会を減らす必要がある。

    亡Eの死亡は公務災害の認定を受けられず,遺族は災害補償の支給を受けることができなかった。本判決は,そのような場合でも,民事訴訟で学校設置者の責任を問い,損害賠償を受けることができる場合があることを示した。








    ◆岐阜県私立高校柔道部暴行事件

    【事件名】損害賠償請求事件
    【裁判所】名古屋地裁
    【事件番号】平成31年(ワ)第66号
    【年月日】令和2年11月10日判決
    【結 果】一部認容・一部棄却
    【経 過】
    【出 典】ウエストロー・ジャパン


    事案の概要:

    本件は,大韓民国の国籍を有し,平成29年4月に被告学園の設置するa高等学校に入学して柔道部に所属していた原告が,柔道部の1年先輩である被告Y1から,@同月頃から継続的に暴力を受けるとともに,公然と「おい,コリアン」と呼ぶなどされた,A平成30年1月頃,絞め技の練習中に,不必要に頚部を絞め続けられた,B同年2月20日,寝技の練習中に,複数回連続して顔を膝蹴りされたと主張し,被告Y1,同人の父被告Y2及び母被告Y3に対しては不法行為(民法709条)に基づき,被告学園に対しては使用者責任又は債務不履行責任に基づき,それぞれ連帯して,損害賠償金等の支払を求める事案である。判決はY1への請求を一部認容し,Y2,Y3,学園への請求は退けた。


    認定事実:

    本件高校には,柔道スポーツコースがあり,柔道部においては,全国大会への出場及び優勝を目指し,レベルの高い練習が求められていた。同コースでは体育科目の授業においても,柔道の練習を行うことがあった。

    被告Y1は,平成29年4月以降,原告に対し,耳をこする,肩を叩く(いわゆる肩パンチ)をするなどの暴行を加えた。被告Y1は,原告のことを「コリアン」と呼ぶことがあり,他人の面前でもこのような呼び方をすることがあった(本件行為1)。原告の母は,柔道部顧問のC教諭に対し,原告が被告Y1からいじめられているなどど相談した。C教諭は原告及び被告Y1から事情を聴取したうえで,被告Y1に対し,後輩に対してはもう少し気を遣って練習するように,などと指示した。

    原告及び被告Y1は,平成30年1月18日,絞め技を含む寝技の研究をすることになり,被告Y1は,原告を頸部の防御をさせない状態(ノーガードの状態)にさせた上で,原告の頸部に対して絞め技をかけた(本件行為2)。絞め技は柔道における正式な技であり,防御側の選手が畳又は攻撃側の選手の体を2回叩く(これを「参った」という)か,防御側の選手が意識を失って気絶する(これを「落ちる」という)と,「一本勝ち」と判定される。

    原告の母は,同日夕方,顧問のF教諭に電話をし,原告が被告Y1に顔を絞められて目が充血したと訴えた。F教諭は,翌日,被告Y1から事情を聴取し,同日,原告の母に対し,被告Y1が原告に絞め技をかけ,その結果原告の目が充血したことを報告し,今後は原告と被告Y1を組ませないようにすると伝えた。

    平成30年2月20日,柔道の授業の終わり頃,原告は,被告Y1から相手をするよう言われ,寝技の乱取り(試合形式の練習)をした。原告は直ぐに「亀」の状態になって防御姿勢をとったところ,被告Y1は,原告に対し「三角」という技(上四方固め)をかける過程で,自身の右膝を,亀の状態になっている原告の左肩と顔の間に勢いよく4,5回入れ,原告の左顎付近に衝突させた(本件行為3)。原告は,同日,歯科を受診し,外傷性両側顎関節症,歯牙破折(外傷性),全治2〜3か月を要するとの診断を受けた。

    原告及び原告の母は,2月26日,高校を訪れ,本件行為3を含む被告Y1の行為について抗議し,厳しい処分をするように求めた。原告は警察に被害届を提出したものの,警察は,4月末頃,本件について事件性がないため立件しないとの判断をした。本件高校は,6月18日,被告Y1が1年生複数名に対して耳をこするなどにより耳を膨らませる行為や,叩くなどの行為をしたことについて,同日から6月26日までの間特別指導(停学)とする処分をした。


    判決の要旨:

    (1)本件行為1について
    本件行為1の暴行は,平成29年5月頃当時原告の身体にあざなどの異変がなかったことに照らし,原告が負傷するほど強度のものではなかったものの,何らの理由なく原告に暴行を加えるものであり,違法な行為であると認められる。また,他人の面前で,原告を「コリアン」と呼んだ行為についても原告が,以上のような暴行を受けていたことと相俟って,自身を侮蔑する意図を含む発言であると受け止めるのもやむを得ない面があり,違法な行為であると認められる。

    (2)本件行為2について
    本件行為2の違法性についてみると,頸部をノーガードの状態にさせた上で絞め技をかける練習が,通常の練習方法として想定されていたことに照らすと,被告Y1が,原告の目が充血する程強い力で絞め技をかけたことなど本件行為2の態様を踏まえても,本件行為2は,柔道の技の範疇にあり,正当行為として違法性を阻却されるというべきである。

    (3)柔道競技中の負傷事故と責任について
      この点,柔道は,相手の身体に対して直接攻撃をし,技を競い合う格闘技であるから,その性質上,競技中に負傷する危険性が内在する。そうである以上,柔道の競技に参加する者は,このような危険を一定程度は引き受けた上で競技に参加しているということができる。したがって,柔道の競技中において,一方が,故意又は過失により,相手方に有形力を行使し,その結果,相手方が負傷したとしても,そのような行為は,禁止事項に違反せず,かつ通常予想され許容された動作である限り,社会的相当性の範囲内の行為として,違法性を阻却されるというべきである。もっとも,上記の理は,柔道の技とは無関係に相手に対して有形力を行使する場合や,柔道の技として過剰である場合にまで妥当するものではない。

    (4)本件行為3について
    三角技においては,必ずしも,本件行為3のように,何度も勢いよく自身の膝を相手の顔に衝突させる必要があるとまではいえない。しかも,相手方の顔に向けて勢いよく膝を衝突させる行為が,重要な器官の存する頭部や顔面等に損傷を与えかねない危険性を有することは容易に理解できるところ,被告Y1は,寝技の練習中であったとはいえ,亀の状態になって防御姿勢をとっている一学年後輩の原告の顔に向けて,一方的に勢いよく複数回にわたって膝を衝突させ,その結果,奥歯の外側が破折したものである。そうすると,本件行為3は,寝技の練習における動作としては,質的・量的に過剰な面があったことを否めない。以上からすると,本件行為3は,三角技の過程で行われた動作であり,禁止事項に該当するものではないとはいえ,本件の具体的状況の下においては,通常予想され許容された動作を超えるものであり,違法性は阻却されないというべきである。

    (5)被告学園の責任について
    F教諭は,原告母からの抗議を受けて,原告と被告Y1を練習で組ませないこととしたところ,体育の授業担当のE教諭は,被告Y3が原告の母に謝罪したことから,原告と被告Y1の間の問題は解決したと判断した。かかるE教諭の判断は,本件高校が定めるいじめ防止基本方針におけるいじめの解消の定義等に照らし,やや安易な面があったことは否定できない。もっとも,本件高校の教諭らにおいて,被告Y1が原告に暴行を加えるなどすることについての予見可能性があったとはいえず,事前措置義務違反があるとまでは認められない。したがって,本件高校の教諭らについて安全配慮義務違反があるとはいえないから,被告学園は,不法行為責任又は債務不履行責任を負わない。


    コメント:

    今年(2021年)にはコロナ禍において東京五輪が行われ,スポーツへの関心がより一層高まった。今後,ますますスポーツを楽しむ人が増えると予想される。ところが,スポーツは一定の危険を内在しているため,事故を完全に避けることはできない。それでは,スポーツに参加する人はこの危険を知った上で参加しているのだから,スポーツでケガを負ったとしても,加害者に損害賠償等の責任を追求することができないのであろうか。

    一般に,スポーツの競技中に生じた加害行為については,それがそのスポーツのルールに反することがなく,かつ通常予測され許容された動作に起因するものであるときは,加害者の行為は違法性を阻却されると考えられてきた。たとえば,ママさんバレーボール中の事故につき責任を否定した裁判例として東京地判昭45年2月27日判決がある。ところが,近年では,ルールにしたがっていても,事故回避のための注意義務違反があれば責任を認める傾向にある。たとえば,バドミントンのダブルスプレー中のペア間の事故につき,加害者の責任を認めた裁判例として,東京高裁平成30年9月12日判決がある。本判決は,注意義務違反の有無を検討することなく,加害行為が「通常予想され許容された動作を超える」ものであるとして加害者の責任を認めた。








    ◆東京都立高校教諭免職処分事件

    【事件名】処分取消及び損害賠償請求事件
    【裁判所】東京地裁
    【事件番号】平成31年(行ウ)第137号
    【年月日】令和2年12月11日判決
    【結 果】一部却下・一部棄却
    【経 過】
    【出 典】ウエストロー・ジャパン 2020WLJPCA12118003


    事案の概要:

    本件は,被告から,生徒に対する性的行為等を理由とする懲戒免職処分及び退職金等の全部を支給しない旨の処分を受けた原告が,各処分の取消しを求めるとともに,管理職の職員が原告の過酷な勤務実態を認識しながら人員補充等の措置を講じないかったことによりうつ病及び双極性障害にり患したとして,国家賠償法1条1項に基づき賠償金580万円等の支払を求める事案である。判決は懲戒免職処分取消請求を却下し,その余の請求を棄却した。


    認定事実:

    原告は,平成19年4月1日から東京都立b高校,c高校などの進学校において非常勤講師として情報科の授業を担当し,平成28年4月1日から被告の臨時的任用教員として本件高校で勤務し,平成29年4月1日付けで被告の正規職員となり,同日以降も本件高校で勤務し,情報科を担当した。原告は,平成29年度,第2学年5組の副担任であり,情報科を担当する教諭でもあったことから,情報科の学習指導,情報処理指導主任として,職員室の各教員のコンピュータに関する様々な業務に加え,教務部の担当職務を遂行していた。

    原告は,平成29年6月頃,本件生徒(第2学年に在籍する未成年)に対しLINEの連絡先を交換しようと提案をし,本件生徒とLINEの連絡先を交換した。原告は,平成29年6月頃から,原告の自宅,通勤途中の電車内等において,スマートフォンを利用して本件生徒に対し,「でも可愛いわー」,「まじまじ」,「じゃかまってあげなーい」,「明日さ顔観れる?」,「しょくいんしつウロチョロして笑」,「さみしーなー」,「(本件生徒の名前)の顔見たいわー」,「目でおっちゃう」,「あははりょ」,「今日よく(本件生徒の名前)みた」,「今日もっといてほしかったわー」「えー見たい」,「見たらすぐ消すからぁ」,「やっぱりお前との絡みは楽しいな」,「あの頭に癒される」,「なるべく本部にいてね」,「今さ1人?」,「どこいるん?」,「りょ声聞きたかった」,「聴きたくなった笑」といった内容のLINEのメッセージを送信した。

    原告は,平成29年9月頃から平成30年3月頃までの間,校舎5階にあるコンピュータ室において,本件生徒と2人きりで個別指導を行った際,少なくとも合計30回,本件生徒の唇にキスをした。原告は,平成30年4月21日午後2時頃,東日本旅客鉄道株式会社東京駅丸の内北口付近において,本件生徒と待ち合わせをした後,書店に行き,同日午後6時頃,付近の路上において,本件生徒の唇にキスをした

    本件生徒の親は,平成30年6月7日,高校に対し,原告が本件生徒に対し不適切な行動をしている旨申告をした。そこで,校長は,原告,及び,本件生徒に対して,事情聴取をし,その結果をまとめ,同年7月9日,都教育委員会宛に事故報告書を提出した。都教育委員会は,平成30年7月12日,原告に対する事情聴取を実施した。

    原告は,平成30年6月9日午後,クリニックを受診し,医師に対し,同月7日,保護者からのクレームがあり,そこからゆううつ感,不安感,意欲低下,食欲不振といった症状が出現した旨申告し,医師から「抑うつ状態」であり,3か月間の自宅療養・通院加療を要する旨の診断を受けた。また後に,同年12月31日まで療養期間を延長する旨の診断を受けた。なお,同病院の診療録には原告について気分障害(双極スペクトラムの疑い)との記載がある。

    東京都教育委員会は,平成30年9月25日付で,原告による非違行為があり,本件非違行為は全体の奉仕者たるにふさわしくない行為であって,教育公務員としての職の信用を傷つけ,職全体の不名誉となるものであり地公法33条に違反するとして,原告に対し,同法29条1項1号及び3号に基づき懲戒免職処分をし,また,職員の退職手当に関する条例17条1項に基づき,一般退職手当金等74万7489円の全部を支給しない処分をした。

    東京都教育委員会では,「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」(以下「本件処分基準」)を定め,非行の類型ごとに標準的な処分量定を記載しており,「児童・生徒に対する性的行為等」のうち「同意の有無を問わず,直接陰部,乳房,でん部等を触る,又はキスをした場合」については標準的な処分量定として「免職」としている。


    判決の要旨:

    (1)懲戒免職処分の取消しの訴えが適法か否か
    地公法51条の2,49条1項は,懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分であって人事委員会に対して審査請求をすることができるものの取消しの訴えは,審査請求に対する人事委員会の裁決を経た後でなければ,提起することができない旨定めている。ところが,原告は,被告の人事委員会に対して本件懲戒免職処分を不服とした審査請求をせず同委員会の裁決を経ないまま,本件懲戒免職処分の取消しの訴えを提起している。したがって,本件懲戒免職処分の取消しの訴えは審査請求前置の要件(行訴法8条1項ただし書)を欠く不適法なものであるから,却下すべきこととなる。

    (2)不支給処分を取り消すべき違法性があるか否か
    東京都の「職員の退職手当に関する条例」17条1項は,懲戒免職処分を受けて退職した者について,退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができると規定している。また,本件条例の解釈及び運用方針では,「支給制限処分を行うに当たっては,非違の発生を抑止するという制度目的に留意し,一般の退職手当等の全部を支給しないことを原則とすること」とされ,退職手当等の一部を支給しない処分にとどめることができる非違の内容及び程度を限定列挙し,しかも,その場合であっても,公務に対する都民の信頼に及ぼす影響に留意して慎重な検討を行うものとする旨定めている。

    本件非違行為は,列挙されている事由のいずれかに該当すると認めることはできないから,本件連用方針によれば,本件において例外的に退職手当等の一部を支給しない処分にとどめる余地はないことになる。また,原告は教育公務員として高度の倫理性が求められる職務を担当する責任ある立場であるにもかかわらず,約7か月間にわたり,本件高校の教室内で個別指導の際,第2学年で未成年であった本件生徒に対しキス行為を少なくとも合計30回繰り返し,さらには路上でもキス行為をし,生徒との間の私的な連絡を禁止されていたにもかかわらず,本件生徒に対し不適切なLINEのメッセージを繰り返し送信したのであり,本作非違行為の内容及び程度は重大で,また,本件非違行為が公務に対する信頼に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。そして,被告での勤続期間が臨時的任用教員であった期間を含めても2年6か月にとどまることなどを併わせ考慮すると,本件不支給処分が社会通念上著しく妥当を欠き,東京都教育委員会の裁量権の範囲を逸脱し,又はその濫用があったということはできない。

    (3)管理職の「職務上の注意義務違反」があるか否か
    原告が,出退勤管理のためのカードの打刻時刻を超えて業務を遂行していたことを認めることはできず,平成29年9月頃の時点で原告の長時間労働が常態化していたとまでは認められない。また,平成30年6月7日以前に原告が抑うつ状態にあったことが認められず,かつ,原告が度々管理職に対して過酷な勤務実態の改善を強く訴えていたことも認められないことからすれば,平成29年9月時点で,本件高校の管理職の職員が原告の過酷な勤務状況を改善するため人員補充等の方策をとるべき職務上の義務があったということはできない。


    コメント:

    (1)性的行為についての処分について
    教員の生徒に対する性的行為について,裁判所は厳罰となる重い処分を許容する傾向にある。裁判官は,教員が一般の公務員に比べ,「高度の倫理性が求められる職務を担当する責任ある立場」にあると見ているからである。

    本件の原告は,不利益処分の取消を求めるなかで,@キス行為に関しては本件生徒の思わせぶりな行動があり,A本件生徒は成人に近い年齢であったなどの事情を参酌すべきと主張した。しかし,判決は,@について,仮にそのような事実があったとしても,高校の教員として本件生徒を指導する立場にあった原告においてキス行為を多数回繰り返したことを正当化する事情には到底なり得ず,参酌すべき事情といえない,Aについては,本件生徒は原告自らが指導する対象者であり,かつ未成年であることからすれば,本件生徒の年齢は判断を覆すに足りない,と判示した。

    このように,生徒の同意があった,あるいは,生徒から誘ってきた,成人に近い年齢であった等の主張は,処分を軽減するための主張として意味を成さない。こうした傾向は,2022年に成人年齢が18歳になっても変わらないと予想される。


    (2)訴訟手続きの難しさ
    懲戒処分の取消請求について,判決の要旨(1)でみたように,裁判所は法律上の要件を満たしていないとして,実質審議を行わないまま,機械的に請求を却下した。そもそも,懲戒処分の効力争うには,訴訟の提起に先立って,人事委員会に対して審査請求を行いその裁決を経ておく必要がある(地方公務員法51条の2)。この審査請求は,処分から3か月以内にしなければならない(地方公務員法49条の3)。

    ただし,この審査請求をしておいて,3か月が経過すれば,審査請求に対する裁決が出されていなくても,処分取消の訴えを提起することができる(行政事件訴訟法8条2項)。また,本事例に見るように,懲戒処分の取消請求が認められない場合でも,不支給処分の取消請求や損害賠償請求の訴えは適法に提起することができる。








    ◆太宰府市私立高校生徒自殺事件

    【事件名】
    【裁判所】福岡地裁
    【事件番号】平成28年(ワ)第3250号
    【年月日】令和3年1月22日判決
    【結 果】一部認容(控訴)
    【経 過】
    【出 典】裁判所ウェブサイト


    事案の概要:

    本件は,被告が経営するα高等学校の3年生であった本生徒が平成25年11月14日に自死したことについて,(1)本生徒の同居の親族である原告らが,本生徒の自死は本高校の生徒らの集団暴力行為等のいじめに起因するところ,本高校の教員は集団暴力行為等を把握し,これを阻止する義務を怠り,その結果,自死を未然に防ぐことができなかったなどと主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金等の支払を求めるとともに,(2)本生徒の相続人である原告X1及び原告X2が,被告の不作為により,本生徒の名誉が毀損されたと主張して,被告に対し,本生徒が生前有していた名誉回復請求権に基づき謝罪文の掲示を求める事案である。判決は損害賠償請求につき一部認容し,名誉回復請求については棄却した。


    認定事実:

    本生徒は優しく穏やかな性格であり,原告ら家族の中ではいつも明るい様子であった。本生徒と原告らとの関係は良好であり,特にトラブルはなかったが,本生徒は,自死に至るまで,自身が本高校において嫌がらせ等を受けていることを原告らに相談したことはなかった。

    本生徒は,本高校入学後,特に2年生時から自死に至るまで,加害生徒らから,他の生徒の前で,殴られたり,蹴られたりする暴力や,セロハンテープで何重にも巻かれて椅子に縛り付けられたり,ゲームと称して失神させられたりする暴力のほか,使い走りをさせられたり,「アゴ」という身体的特徴を揶揄する呼び方をされたりするなどの多様な嫌がらせを一方的かつ継続的に受けていたことが認められる。

    本生徒は,2年生時の平成24年同年6月28日,原告らにも伝えず本高校を無断欠席し,紐で首をくくって自殺をしようとしたことから,首の周りに幅1cmほどの赤い痣ができた。原告X2は,同日夕方に帰宅した本生徒の首に痣があるのを見て,痣の原因を尋ねたが,本生徒は,保育の実習中に子供から引っかかれてできた旨説明した。

    原告X1は,翌29日,本生徒を高校に連れて行き,甲教諭と面談をした。甲教諭は,本生徒の首の痣を確認し,本生徒が自殺をしようとしたのではないかと疑い,痣の原因を強く問いただしたが,本生徒は,友人と遊んだ時にロープが引っかかって怪我をしたと説明するのみであった。甲教諭は,本生徒が大きな悩みを抱えていると考えたものの,ひとまず注意深く見守ることとし,この出来事については副担任に報告したのみで,教頭や他の教諭への情報提供や生徒からの聞き取り等は行わなかった。

    本生徒に対するいじめは,特に,本生徒が自殺する直前の平成25年10月頃からは,複数人が,何らの理由なく,一方的に,殴ったり,足蹴りしたりする暴力を日常的に行うようになり,その態様も,深呼吸を繰り返させ酸欠状態に陥らせて胸を押して失神させたり,体育館で何度も足払いをして床に転倒させたり,調理実習で調理し熱せられた麻婆豆腐を無理やり本生徒の口の中に流し込んで火傷をさせたり,堅いパンが砕けるほどの力で顎を殴って,その様子を動画撮影したりするという相当に苛烈なものであった。

    平成25年11月5日に調理実習が行われた際,加害生徒らは本生徒に火傷を負わせるとともに,本生徒に食べさせるために,豆板醤を大量に練りこんだテニスボールほどの大きさの白玉団子を作成した。乙教諭は,白玉団子や麻婆豆腐に大量の豆板醤が入れられていることに気付き,生徒B及び生徒Dを注意指導したが,本生徒などから事情聴取をしたり,他の教師に情報提供をしたりすることはなかった。

    本生徒は,同年11月13日の夜,市内のマンションに立入り,携帯音楽プレイヤーに,「生徒Aだけは絶対に許さない。殺したい。」,「さよなら。」などとメモを残し,翌日午前3時30分頃,非常階段から投身した。

    本高校では,毎年5月頃及び9月頃に,全校生徒を対象として,記名式で「学校生活アンケート」(以下「本件アンケート」)を実施していた。本件クラスでは,平成25年9月21日に実施された本件アンケートにおいて,「あなたのクラスに,仲間はずれにされている人がいますか。」という質問に対して,「すこしある」と回答した生徒が2名おり,「あなたのクラスに,いやがらせをされている人はいますか。」という質問に対して,「とてもある」と回答した生徒が1名いた。甲教諭が,この「とてもある」と回答した生徒に事情を聴いたところ,その被害者は本生徒ではない生徒であった。本生徒は,これらの質問に対して「全くない」,「あまりない」と回答した。


    判決の要旨:

    (1)被告及び教員の具体的な義務違反の有無
    被告及び本高校教員らには,生徒の生命・身体を保護するための具体的な義務として,特定の生徒に対するいじめの兆候を発見し,又はいじめの存在を予見し得た時には,教員同士や保護者と連携しながら,関係生徒への事情聴取,観察等を行って事案の全体像を把握した上,いじめの増長を予防すべく,本生徒に対する心理的なケアや加害生徒らに対する指導等の適切な措置を取る義務があるものと解される。

    (甲教諭について)
    本生徒は一度自死を試みているところ,甲教諭は,本生徒が不審な傷を負っていることについて副担任のみに報告し,その後しばらく本生徒の様子を注意深く見守ったというだけで,長期間にわたる継続的な観察をすることもなく,副担任以外の教員との間で情報共有も行なわなかった。甲教諭において,本件アンケートの結果に基づいて広く生徒から事情を聴くなどの調査をした事実は認められず,また,本生徒の無断欠席についても,本生徒自身からの事情聴取はおろか,原告らへの連絡すら行った形跡がない。したがって,甲教諭には,本生徒にかかるいじめの兆候を発見したにもかかわらず,なすべき情報共有や調査等を適切に行わなかったという点において,安全配慮義務違反が認められる。

    (乙教諭について)
    乙教諭は,平成25年11月5日に行われた調理実習の際,生徒B及び生徒Dに注意をしただけで,本生徒やその周囲の生徒に事情を聴くなどの調査を行わず,他の教員にかかる出来事を報告することもなかったのであるから,乙教諭にも上記義務違反があったといわざるを得ない。

    (被告学校法人について)
    平成22年の本高校における生徒の自死を契機に行われるようになった「いじめ」防止の取組等にもかかわらず,被告には,教員間で情報共有し調査態勢を構築する義務や,いじめ問題への対処につき教職員に対し十分な指導を行うべき義務の違反が認められる。

    (2)名誉回復請求権行使の可否
    加害生徒らのいじめは主に身体的暴力によるものが多く,本生徒の客観的な評価を低下させるような言辞があったものとは認められない。かかるいじめを阻止できなかった被告の不作為によって,本生徒の「名誉」(民法723条)が毀損されたとは認められず,同条に基づく原状回復請求は認められない。


    コメント:

    本件は,私立高校の生徒のいじめ自殺について,学校・教員の指導に安全配慮義務違反が認められるとして,被告学校法人の損害賠償責任を認めた事例である。学校におけるいじめ自殺事件は1980年代に社会問題として注目されるようになって以来,約40年を経た現在においても,その発生は後を絶たない。

    政府は,文部科学省(当時は文部省)を中心に,数々の対策を打ち出してきた。2013年には,「いじめ防止対策推進法」が公布施行され,いじめの防止対策の基本事項が法定された。それにもかかわらず,対策による成果が表れているとは言い難い状況である。(事例で紹介した生徒の自殺は,ちょうどこの2013年の11月に起きたものである。)

    裁判例においては,学校・教員が,注意義務を果たせば,いじめ自殺は防ぐことができた,という関係性を前提に,学校・教員の責任の有無を判断してきた。そこでは,教員の安全配慮義務の内容が具体化され,いじめ防止指導,生徒の動静把握,情報の共有,組織的対応,保護者との連携などが,教員の法的義務とされた。

    政府の対策においても,こうした関係性を前提として,学校・教員を啓発し,意識改革をすすめ,法律によって行動の変容を迫ることによって,学校・教員のいじめ対処能力を一層高めることを狙ってきた。

    しかしながら,こうした対策にもかかわらず,何十年もの間,この問題が解決に向かわないということは,政府の対策に十分な実効性がなく,何らかの問題点なり欠陥があると考えるべきではないだろうか。

    たとえば,学校・教員を法で縛り,徹底した指導や完全な取組をさせるという一辺倒の手法に問題はないだろうか。というのは,現在の学校は,いじめ以外にも数多くの諸課題を抱えており,それに対応しきれていない機能不全の状態にあると考えられるからである。教員の指導は不完全であり,学校の対応能力には限界があることを前提に,いじめ対策の制度設計をするという視点が欠けているように考えられる。

    こうした視点からは,いじめ防止対策として,少人数学級の実現は不可欠であろう。ちなみに,本件において自殺した生徒が属していた3年次のクラス人数は44名であった。この人数では,本生徒のような,支援が必要な生徒が複数名いる場合には,担任・副担任が業務を分担したとしても十分な対応は難しい。この点,今年(2021年)3月,小学校の学級規模について法改正が行われ,今後5年間かけて計画的に40人から35人に引き下げることが決まった。しかし,中学校,高等学校の学級規模は現状の40人のままである。先進国の中で40人学級を放置しているという異常性は,はからずも,昨年から今年にかけてのコロナ禍における感染対策のなかで露呈した。

    また,学校に教員以外の専門性をもったスタッフを増員することも必要である。たまに学校を訪れるようなスクールカウンセラーの配置では足りず,各学校に常駐の,スクールカウンセラーや,スクールソーシャルワーカー,スクールロイヤー,いじめ対策専門員等を配置すること,さらに,養護教諭の複数配置拡充などが考えられる。








    ◆大阪府立高校頭髪指導事件

    【事件名】損害賠償請求事件
    【裁判所】大阪地裁
    【事件番号】平成29年(ワ)第8834号
    【年月日】令和3年2月16日判決
    【結 果】一部認容(控訴)
    【経 過】
    【出 典】裁判所ウェブサイト


    事案の概要:

    本件は,被告大阪府の設置,運営する大阪府立A高校に在籍していた原告が,本件高校の教員らから,頭髪指導として,繰り返し頭髪を黒く染めるよう強要され,授業等への出席を禁じられるなどしたことから不登校となり,さらに不登校となった後も名列表から原告の氏名を削除され,教室から原告の机と椅子を撤去されるなど不適切な措置を受けたために,著しい精神的苦痛を受けるなどの損害を受けた旨主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項又は債務不履行に基づく損害賠償等の支払を求める事案である。判決は,染髪を禁じる校則及びこれに基づく頭髪指導は高校教員らの裁量の範囲内で適法であるとする一方,生徒名簿からの氏名の削除等は教育環境を整える目的でされたものではなく,手段の選択も著しく相当性を欠くなどとして,原告の国家賠償請求を一部認めた。


    認定事実:

    本件高校の生徒心得には「ジェル等の使用やツーブロック等特異な髪型やパーマ・染髪・脱色・エクステは禁止する。」という記載がある(「本件校則」)。本件高校では,頭髪検査の結果,校則に違反していることが認められた時は,原則として,4日以内に手直し(地毛の色に染め戻すこと)をしなければならないこととされ,それがされない場合や不十分な場合は,さらに4日以内に手直しをしなければならないこととされている。また,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされている(「本件指導方針」)。

    原告は,入学後,複数の教員から,複数回にわたり,頭髪を黒く染めるよう指導を受けた。原告は,いずれも指導に従って頭髪を黒色に染めていた。

    原告は,2年生の夏休み期間中の平成28年7月27日,頭髪を明るいオレンジがかった茶色に染め,部活動のために登校した。教員らは,夏休み中であっても染髪は許されない旨を告げ,直ちに頭髪を黒く染め戻すよう指導した。原告は,8月22日の始業式の日,頭髪を染め直して登校したが,複数の教員から,染め戻しが不十分であるとして,頭髪を黒く染めて登校するよう指導を受け,さらに,同月26日,同月30日にも同様の指導を受けた。さらに,原告は,9月6日及び8日,F学年主任らから指導を受けた際,頭髪指導に従わないのであれば,別室指導となり,普通に教室で授業を受けたり,他の友人と共に文化祭に参加したりすることはできない旨告げられた。原告は,9月9日以降,本件高校に登校していない。

    教頭は,9月下旬頃,原告や原告の母に対し,原告が頭髪指導に従わない場合には,修学旅行に参加しても他の生徒とは別行動にする旨及び修学旅行に参加しない場合はキャンセル料の発生期限が迫っている旨を告げた。原告は,10月15日から同月18日まで実施された修学旅行に参加しなかった。

    本件高校は,10月頃以降,原告に対して課題を交付し,原告が3年生に進級するための出席の代替措置を講じた。原告は,これらの課題を達成し,平成29年4月,3年生に進級した。

    原告,原告の母及び原告代理人は,平成29年6月15日,事前に校長に連絡をしたうえ,登校回復に向けて教員との面談を行うために本件高校を訪れた。その際,原告は,玄関に設置されていた名列表の3年生の欄に原告の氏名の記載がなく,教室にも原告席が設置されていないことを認識した。原告は,本件高校には戻るべき場所がなくなったなどと言って意気消沈した。

    原告は,登校しない状態が継続したが,学習課題を履修するなどし,本件高校は,平成30年3月末日,原告に対し,卒業認定を行った。


    判決の要旨:

    (1)本件校則及び本件指導方針の違法性について
    高校は,法律上格別の規定がない場合であっても,その設置目的を達成するために必要な事項を校則等によって一方的に制定し,これによって生徒を規律する包括的権能を有している。

    華美な頭髪,服装等を制限することで生徒に対して学習や運動等に注力させ,非行行動を防止するという目的は,学校教育法等の目的に照らしても正当な教育目的であると言い得る。そして,中学校以下の学校教育の場合とは異なり,生徒は自ら高等学校の定める規律に服することを前提として受験する学校を選択し,自己の教育を付託するのであるから,当該学校に在籍する期間に限って本件校則のような制約を生徒に課すとしても,その事が生徒に過度な負担を課すものとはいえず,それが社会通念に反するともいえない。以上のような諸点に鑑みれば,本件校則における頭髪規制は,正当な教育目的のために定められたものであって,その規制の内容についても社会通念に照らして合理的なものと言い得る。

    本件指導方針においては,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされている。染髪した髪を一旦地毛の色に染め戻した場合には,その後色落ちすることがあっても当該生徒に対して何らの頭髪指導を加えないとすると,外形上頭髪が生来の色と異なる色合いをしている生徒のうち,一部については頭髪指導を行ってその是正を求める一方,一部については何らの頭髪指導を行わないという状態を招来することになる。このような状態に陥った場合には,頭髪指導の対象となった生徒に不公平感を生じさせ,あるいは他の生徒に対して本件校則に違反しても許容される場合があるという誤った認識を与え,結果として本件校則の目的が達成できなくなるおそれが生じることは否定できない。以上によれば,本件指導方針は,校則の目的を達成するための指導方針として,社会通念上も合理性のあるものと認められる。

    (2)本件校則に基づく頭髪指導について
    原告は,原告の頭髪の色は生来茶色であり,教員らもそのことを認識していたうえ,入学してから2年生の一学期終了までの間,染髪したことはなく,校則違反はしていなかったにもかかわらず,教員らが原告に対して黒染めを強要したことは違法である旨主張する。[しかし]教員らは,中学校における頭髪指導の経過や本件高校における頭髪検査の結果等といった合理的な根拠に基づいて,原告の頭髪の生来の色は黒色であると認識していたことが認められる。このような認識は,原告の頭髪を撮影した写真によっても,原告の頭頂部の毛髪の生え際付近の色が,その先の部分と比較すると黒色に近いと認められることとも整合する。

    2年生の夏休み以降の頭髪指導について,従前と同様の態様で頭髪指導を続けたとしても,原告本人による自発的な改善の見込みは極めて低く,原告の母親による家庭内での指導,改善に期待することも困難であったと言わざるを得ず,原告は別室指導を避けるための再考の機会を与えられながらも頭髪指導には従わない旨の意思を表明していたのであるから,教員らが,別室指導というより強制力の強い指導方法を選択したことには合理的な理由があったというべきである。

    (3)原告が登校をしなくなった以降の措置について
    被告は,名列表に原告の氏名を記載し,教室に原告席を置けば,原告が勝手に欠席を続けているにも関わらず3年生に進級したことが他の生徒にも明らかになり,他の生徒が原告席にいたずらをし,あるいはSNS等に原告の心情を傷つけるような無責任な噂が拡散される可能性があったことから,本件措置は,かかる事態により原告の登校回復が困難になることを避ける目的で行った合理的な措置である旨主張する。

    しかし,そうであれば,原告らに対して本件措置を取ること及びその理由が十分に説明されるべきであったところ,教員らは,本件措置を取ったこと自体を原告,原告の母及び原告代理人に何ら説明しなかった。したがって,本件措置が,不登校の状態にあった原告の心情に配慮してされたものとは言い難く,真に原告の登校回復に向けた教育環境を整える目的をもってされたものであったと評価することはできない。


    コメント:

    (1)本件では,原告の生まれつきの髪(地毛)の色も争点の1つであった。本件校則は,「染色・脱色」を禁止するものであり,茶髪そのものを禁止しているわけではない。したがって,原告の地毛が茶色であれば,校則に違反していないことになる。この点について,原告及び母親は「髪の色が生まれつき茶色いのに学校から黒く染めるよう強要された」と主張したのに対し,学校側は「原告の地毛は黒色であり,校則に反して茶色に染めていたため指導しただけで,違法性はない」と反論した。判決は,「教員らは生徒の生来の頭髪の色が黒色であると合理的な根拠に基づき認識し,頭髪指導をしており,黒染めを強要したと評価はできない」として,違法性を否定した。判決は明確な表現を避けているものの,原告の生まれつきの髪の色が黒色であるという教員らの認識を是認した。こうした議論の前提には「生まれつき茶色い頭髪を黒く染めさせる指導には違法性がある」という認識があり,教員側もこの認識を共有しているといえよう。

    (2)判決は,別室指導を選択したことには合理的な理由があったとしている。しかし,他の生徒から引き離し隔離して学習指導を行う別室指導や,文化祭,修学旅行への参加を躊躇させるような学校側の措置が,生徒の学習権を侵害しないかについて,深い検討がない。校則違反の程度,他の生徒に及ぼす影響,生徒の心身に及ぼす影響,学習権制限の程度等,総合的な考慮が必要であるが,とりわけ学習に及ぼす影響についての考察が重要であろう。それは,学習は個別学習のみで足りるものではなく,自主的な集団活動や,いわゆる「協働的な学び」による学習効果も軽視できないからである。

    (3)判決は,名列表に原告の氏名を記載せず,教室に原告席を置かないという措置について,原告が受けた心理的打撃の程度は相当に強いものであったとして慰謝料請求を認めた。しかしながら,この措置は,原告が登校できるようになる時期が予測困難であることから,当面の取扱いとしてとられたものである。これに気付いた原告が,戻る場所がなくなったと感じたことは事実であるにしても,原告が登校する気になれば,名列票の名前も,教室の机も容易に追加することができ,現実には,原告が学校に戻ることができなくなるという状況にはなかった。

    教諭らも,原告が学校に復帰しても学習についていけるように,日常的に,課題を与えたり,出張授業を行ったりして,原告が学校に戻れる環境を整えようとしていた。原告はこうした指導を直接に受けていたのであるから,原告の学校復帰をめざす教諭らの姿勢は,原告の立場からも容易に認識できるものである。したがって,原告の受けた精神的損害は金銭的に慰藉すべき程度のものではないと考えられる。







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