● 長期連欠児童の取扱上の疑義について 昭和29年7月14日 委初261
昭二九、七、一四 委初二六一
滋賀県教育長あて
文部省初等中等教育局長回答
(7年間の長期欠席児童の全課程修了の認定は教育的見地から慎重に行わなければならない)
照 会
一 説 明
(1) 昭和二一年四月小学校第一学年に入学したA(昭和一四年一〇月二〇日生)は、約一カ月後から連欠し、昭和二八年九月まで全く不就学にひとしい連欠を続けた。
(2) この間担任教員、学校長、村学事係等が時々その就学の督促に力めたが、ついに就学せしめるに至らなかった。
(3) Aはこの間近所の小さな者を集めて、ガキ大将をもって自ら任じ、素行も悪く近隣も眉をひそめる不就学児童生活を続けていた。
(4) 昭和二八年九月二四日、七年半ぶりに登校、爾来二九年三月一九日まで一三九日登校し、この間病気欠席二日だけで毎日熱心に校長の個別指導を受けた。
(5) 昭和二九年四月、一応六学年に入れてあるが、当該校長は「はっきり第六学年として認定しているわけではない。しかしこの一カ月間の出席状況学習態度等を見、学校の考えている線にそっているならば、来年三月には、卒業証書を与える積りである。また小職としても学級担任教師の努力と、今後個別指導による補習等全職員の協力を得てこのことを実現させたい」との断固とした取扱いと、不就学児童ないし浮浪児の救済の熱意をのべている。
(6) さらに当該校長は「こんなことで進級取扱いないし卒業認定ができるかどうか問題であると思う。しかし、過去の彼の生活を見、将来を気づかっていたいた時のことを思うとこれ位の措置でこうなり得たことは何としても幸であり、決して学校教育において進級取扱上に悪例を残すとは考えていない」との所信を述べている。
二 設 問
(1) 保護者は、教育基本法第四条と学校教育法第二二条の規定により、A少年が満一五歳に達した日の属する学年の終りまでは、これを小学校に就学させる義務があると思料されるし、又、各学年の課程の修了又は卒業の認定は、本学校長の権限に属することであるが、本件の場合一躍六学年に編入させることができるか。
(2) かりに第六学年に編入させることができるとしても、右のごとくわずかな出席日数をもつて、来春卒業証書の授与ができるか。
(3) 校長の認定の結果卒業不可と認めた場合には、学校教育法施行規則第二七条、同二八条により原級留置は可能であるとの行政実例があるが、この場合A少年は満一五歳をこえて原級に留まることになり学校教育法第三九条の規定による保護者の就学義務は延長されることなく、就学を続けるわけである。
かくて一カ月後(来年春)に、学齢生徒でない少年も小学校の全課程を修了したと認めて、校長が卒業証書を授与することができるか。
(4) (2)の場合、かりに卒業に認定されたとするとき中学校へ進むことができるか。できるとしても満一五歳に達した場合の学齢簿の取扱いは、卒業した者等就学義務のなくなった場合と同一の取扱いをすべきと思料せられるから、本人及び保護者の希望による「学習の継続」を許可するのであって、学校教育法施行規則第二七条、同二八条に規定する修了又は卒業とは関係ないものと解してよいか。
また、その許可者は、校長か、当該教育委員会か。
回 答
(1) 各学年の課程を修了して順次上級学年に進級するのが原則であるが、かかる場合は、本人はすでに相当の年齢に達しているので本人に対する教育効果、他の児童生徒に及ぼす影響等を考慮して適宜相当学年に編入せざるをえないと考えられる。
(2) 小学校の全課程を修了したものと認めれば、卒業証書を授与すべきであるが、当該認定は教育的見地から慎重に行なわなければならない。
(3) 全課程を修了した者には、学齢児童生徒たると否とにかかわらず、すべて卒業証書を授与しなければならない。
(4) 小学校を卒業した者は中学校へ進むことができる。その者が中学校へ入学の時すでに満一五歳を超えている場合には教育委員会の入学許可を要するが、中学校に在学中に満一五歳を超えた場合には、あらためて許可をうける必要はない。学齢簿の取扱いについてはお見込みのとおりである。なお、学校教育法施行規則第二七条は学齢児童生徒たると否とを問わず、児童、生徒一般に適用される規定であるから、その者にも当然適用がある。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会