● 学生の政治運動について 昭和23年10月8日 発学458


昭和二三年一〇月八日 発学四五八号
国公私立大学高等専門学校長、教員養成諸学校長宛
文部次官通達


    学生の政治運動について

 学生の政治活動並びに学生に対する政治教育については、憲法教育基本法等の定める所に従うのはもとよりである。先に昭和二十一年一月十七日附をもつて次官通牒が出たが、是は主として治安維持法の廃止に際して遺憾なきを期する為であった。去る六月全国の大学高等専門学校の多数が同盟休校に参加した直後には、文部大臣のラジオ放送があり、その写しは既に各学校に送附ずみである。各学校当局は是等を熟読してその趣旨に則り教育の万全をはかられたいが、なお学生の政治運動の限界について疑義を持たれる向も多いので、左に文部省の見解を述べて参考に供する次第である。

一、すべての学生が政治に理解を持ち進んでその参政権を責任をもつて行使しうる様になる為に、政治の研究、批判の自由は学校内においても尊重せらるべきである。(教育基本法第八条第一項参照)
二、しかしながら学校教育法に定める学校は、学問教育の場であつて、政治的闘争の舞台であつてはならない。従つて学校は政治的中立性を確保しうる学園の秩序を維持しなければならない。(教育基本法第八条第二項参照)かかる秩序を乱す様な学校内の政治的活動は許さるべきでない。
三、学生が個々に結社に加入する自由は禁止すべきものではないが、学校の政治的中立性、教育上の自主性を守る為には特定の政党の支部又はこれに類する学外団体の支部を、学校内に持つことは極力回避さるべきである。
四、如何なる限度で学校内の政治的活動を容認すべきかは、その学校の性格、学則、学生の身分、年齢(例えば選挙権の有無)等、学生の政治的責任能力の限界を十分考慮して、それぞれの学校において決定せらるべき教育行政上の問題である。
五、学校における学生の自治活動は、当然学校長はじめ、教職員が責任を以て指導すべき教育上の課題である。従つて、学外の横断的組織が、これに優先して個々の学校(校長、教官、学生を含めた)の意志を外部より拘束する様なことは学校自治運動の性格からも許さるべきでない。
六、学生と労働者とは、社会的地位及び責任を異にするものである。従つて、その運動の性格も亦異る筈である。学生運動が労働運動に範をとり又これと協同することは適当でない。
七、我が国の政治が国会民主主義を建前としている以上、学校外における政治活動においても、学園内の自治活動においても、直接行動や成心ある少数者の支配をしりぞけ、公正なる選挙権の行使と、全学生の総意の正しい反映のために総ての学生が積極的な協力を示すとともに毅然として自分の意志を表明する確信と勇気を持つ様に指導せられたい。

 附 記
一、学生団体が一般政治活動をする場合には必ず正規の手続きをとらしめられたい。(昭和二十一年二月二十三日(所謂ポツダム)勅令第一〇一号政党協会其の他の団体の結成の禁止等に関する件参照)
二、官立学校の授業料値上げは、国会の議決を経たものであるから授業料納付の原則は厳重に施行せらるべきである。
 但し、支払の意志あるもので特別の事情の為支払困難な者に対しては猶予、分割払の措置を考慮すべきであるがその際にも濫用は慎まなければならない。
三、伝えられる大学の理事会法の内容については未だ研究の範囲を出ないものであつて、具体的原案作成までには至つていない。
 総じて架空の法案等を作つてその幻影に反対する等はとらない所である。

 右念の為め申添える。





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