● 教育基本法第八条の解釈について 昭和24年6月11日 委総1


昭和二四年六月一一日 委総一号
都道府県知事、都道府県及び私立の五大市教育長、
国立、公立及び私立の大学、高等専門学校長あて
文部省大臣官房総務課長通達


 教育基本法第八条の解釈について東京都教育長から照会があり別紙の通り回答したから御参考までに送付する。

(別紙)
    教育基本法第八条の解釈について

 このことについて昭和二十四年二月十二日教職発第四号をもつて照会がありましたが、教育基本法(以下法という。)第八条第一項は、良識ある公民たるに必要な政治的教養は教育上尊重しなければならないと規定し、更に同条第二項において法律に定める学校すなわち学校教育法第一条に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならないと規定しています。第二項の趣旨は、学校の政治的中立性を確保するところにあります。もとよりここに規定されているのは教育活動の主体としての学校の活動についてでありまして、学校をはなれた一公民としての教育の行為についてではありません。教員が学校教育活動として、または学校を代表してなす等の行為は、学校の活動と考えられるのであります。教員の個々の行為が法第八条第二項に抵触するか否かは、上記の立法趣旨にのつとり、具体的実情を精査して、大学以外の公立学校にあつては、所轄庁たる教育委員会において適切な判断がなさるべきであります。
 照会の事例についても、具体的事情を精査の上適当な判断が下されるべきであります。照会の文面だけでは正確な判断はできませんが、おおよそ左記の通りと考えられますので、参考のため回答します。

          記

    教育基本法第八条の解釈について

一、問 教員が某政党に入党したことを受持児童の父兄に話し、且入党したことに対し意見を求めるため勤務時間外に家庭訪問を行つた。訪問中に於ては某政党の宣伝をなし且児童の教育問題にも言及された節がある。或る父兄に対しては意見を求めた点について尚懇談のため来校も促した。右の事実の如く特定政党の政治活動の為教員が家庭訪問を行い学校教育活動の内容がふくまれている場合第八条に抵触するものと思うが如何ですか。
 答 教員が家庭訪問を行い、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治活動を行つた場合に、その家庭訪問に学校教育活動の内容が含まれているときは、法第八条第二項に抵触するものと解する。

二、問 教員が学校外に於て自校の生徒或は他校の生徒に対し研究会等の形式で特定政党のイデオロギーに基く政治教育を行うことが第八条に抵触するか、疑義があるので承りたい。
 答 教員が自校の生徒に対して校外で特定政党のイデオロギーに基く政治教育を行う場合は、生徒の年齢にもよるが、通常は当該学校の教育活動と認められる。従つて自校の生徒を対象とする場合は、通常法第八条第二項に抵触するものと解する。これに反して、他校の生徒を対象とする場合は、当該他校の教員と連絡を執り相互に意思を通じていわゆる交換校外教育を行う場合等を除き、通常は法第八条第二項に抵触しない。

三、問 前項同様の方法によつて自校生徒の父兄に行う場合も疑義があるから承りたい。
 答 生徒の学校教育に影響を及ぼすような場合及び学校の活動と認められる場合を除き、法第八条第二項には抵触しないものと解する。

四、問 前二項同様の方法によつて一般社会人に対して行うことは第八条と関係はないと思うが如何ですか。
 答 学校の活動と認められない限り、法第八条第二項には抵触しないものと解する。

五、問 教員が授業時間外に校外に於て某政党員が宜伝のため紙芝居を行つている所へ自校の児童を引き連れて見せることは第八条に抵触すると思うが如何ですか。
 答 児童を引き連れてみせること自体が、特定の政党を支持し、又はこれに対するための意図をもつてなされたと認められるときは、法第八条第二項に抵触するものと解する。

六、問 教員が校内職員会議に於て特定政党に入党を勧誘すること又は校内に於て多数生徒の居合わす所で他の教員を勧誘することが第八条に抵触すると思うが如何ですか。
 答 前段の場合、当該行為が校内職員会議で学校教育に影響を与える目的をもつて会議の議題に供して行われるとき以外は、法第八条第二項に抵触しないものと解する。後段の場合はその行為によつて生徒に教育的影響を及ぼすものと認められるときは、法第八条第二項に抵触するものと解する。

七、問 教員が学校を会場にして自己の加入政党員を講師として招き懇談会等を開き自ら司会の挨拶等を行うことは第八条に抵触するか疑義があるので承りたい。
 答 生徒を対象としない通常の懇談会の場合は、法第八条第二項に抵触しないものと解する。

八、問 教員が校地外にある教員住宅(校宅)を特定政党支部の事務所となし或は選挙の際選挙事務所となす事例は第八条に抵触するか疑義があるので承りたい。
 答 法第八条第二項に抵触しないものと解するが、教員住宅(校宅)が公的性質を持つものであることにかんがみ、かかる行為は避けるべきである。

九、問 教員が受持児童を使そうして自治会の活動としてボールよこせ運動、ノートよこせ運動等をなすことは政治活動の如く見られるので第八条に抵触するか疑義があるので承りたい。
 答 当該運動が特定の政党を支持し、又はこれに反対するために児童を指導して行われたものと認められる場合には、法第八条第二項に抵触するものと解する。

十、問 教員が校内に於て特定政党に関係ある歌を生徒に歌わしむることは第八条に抵触するものと思うが如何ですか。
 答 関係の程度によると思われるが、通常は第八条第二項に抵触するものと解する。





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