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◆199311KHK136A2L0067EF TITLE: 施設管理権論の法的問題について AUTHOR: 松岡 義之 SOURCE: 大阪高法研ニュース 第136号(1993年11月) WORDS: 全40字×67行
大阪経済法科大学 松 岡 義 之
校則は、施設利用者に対する施設管理者の施設管理規程であるという説がある。くだけたいい方をすれば、「学校に通わせてもらっているのだから学校のルールを守れ。」ということになろう。
1988年6月6日高知地裁判決(大方商業高校バイク事件)は、「高等学校は、生徒の教育を目的とする公共的な施設(営造物)であるから、その校長は法令上の根拠がなくても、生徒の生徒指導、学校の設置目的を達成するために必要な事項を、行政立法たる営造物規則(内規)として、校則、生徒心得等の形式で制定し、これによって在学する生徒を規律する包括的権能を有すると解せされる。…(当該校則の内容は)学校の設置目的を達成するのに必要な範囲を逸脱し、著しく不合理(でないかぎり)無効とはいえず、生徒はこれに従うことを義務付けられる。」と判断しているが、これは営造物管理という概念と、そのための規程制定権を前提にしていると思われる。しかしながらこの判決には、「公立の学校」は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第244条第1項に規定する「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設」である「公の施設」であって、同条第2項で「…正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」として、広範囲に住民の施設利用権を認めているという点が抜け落ちている。
この規定は、従来の「営造物」という認識は、利用者より施設管理を重視する「営造物は国のものであって、営造物の利用は、国民への『恩典』である。」という考え方を否定し、「公の施設は住民のものであって、公の施設を利用することは、住民のオーナーとしての『権利』である。」という考え方によって、追加改正されたものとされている。
さて、大阪府立の高等学校に制服を着用しない者を校門などで追い返し、又は授業中服装検査を実施し服装違反や異装者に帰宅を命じ、これにより実力行使もあったという事例が複数ある。もし、当該「帰宅改善指導」とよばれる指導が、生徒本人の意に沿わないときには、明らかに服装や頭髪といった「みなり」による「施設利用の拒否」であると考える。この場合において、服装・みなりの指導が、地方自治法に定めるところの施設利用権を制限するため必要な「正当な理由」にあたるのか検討してみたい。
まず、生徒は一般的に住民であるという前提のもと、学校という公の施設を管理するための規定は、法律及び法律の委任による政令に規定されている事項以外は、地方自治法第244条の2第1項により条例に定めなければならないとされ、この例外として、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第33条第1項により教育委員会規則によって定めることもできるとされている。一般的には、学校設置条例、又は教育委員会規則たる学校管理規則により、学校長に施設管理の事務とそのための規程制定権が委任されているとされている。この施設管理のための規程制定権は、包括的なものではなく、また学校の教育目的に合致しさえすれば、著しい不合理がない限りなどという広範囲なものでもない。あくまで施設管理のために必要な個別具体的なものでなければならないという制定限界がある。そのために、学校の生徒指導のためであるといえども制服規則は、学校という施設管理のため具体的かつ直接的に必要となるものでなければならない。服装規定は、別段「はだか」でもなく「プールには水着で入る。」とか「体育館では、体育館用シューズを履く。」などといった施設管理上、具体的かつ直接の必要性はないと考える。よって施設管理規程として生徒に規制はできないと思われる。なお蛇足ながら、プールや体育館でも指定した服装及び服制(例えば、「スクール水着」「体操服」など)でなければならないと規制することは、公立プールや公立体育館が同様の指定をしていない点からすれば、施設管理において必要なものではないと考えられる。このように規制できない事項である制服規則違反を理由にして、学校が生徒の意に反して帰宅するよう命じ、学校という施設の利用を拒否することは、とうてい施設管理のための正当な理由とはいえず、地方自治法の規定に違反していると思う。
現在、生徒に対して、学校が服装違反による帰宅改善命令という処分について、一般に教育に関する不服の申し立ては、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第4条第1項ただし書第8号の規定により、不服審査請求ができないとされている。しかし、公の施設を利用する権利を制限する処分であり不服があるとするならば、地方自治法第244条の4第1項及び第2項に都道府県知事のした処分については自治大臣、市町村長がした処分については都道府県知事に、教育委員会の処分については当該地方公共団体の長のした処分と同様にして審査請求をし、又は処分をした機関に異議申立てができるとする規定があり、これにより行政不服審査法第1条第2項にいうその他法律の定という例外規定となるので裁判に訴える以前の救済の途となり得ると思われる。
また、現在までの服装、頭髪といった「みなり」に関する校則裁判では、教育享受権の侵害として争われたことはあるが、施設利用権の侵害として争われたことはないように思う。それならば生徒指導を施設管理権行使とする以上、法律により施設管理権は制限されているとして、施設利用権侵害を争うことは、裁判の重要な争点となり得ると考える。
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