■ 池田・ロバートソン会談覚書 1953年10月25日 朝日新聞

-------------------------------------------------------------------------------


会談成果を要約 草案要旨

【ワシントン=篠原、木谷両特派員24日発】
日本側議事録草案の要旨次の通り。
この文書は議題の順序に従って今日までに得られた成果を要約し同時に
まだ意見の一致をみていない分野を明らかにするためのものである。


(一) 日本の防衛と米国の援助

(A) 日本側代表団は十分な防衛努力を完全に実現する上で次の四つの制約があることを強調した。
(イ) 法律的制約  憲法第九条の規定のほか憲法改正手続きは非常に困難なものであり、たとえ国の指導者が憲法改正の措置を採ることがよいと信じたとしても、予見し得る将来の改正は可能とはみえない。
(ロ) 政治的、社会的制約  これは憲法起草にあたって占領軍当局がとった政策に源を発する。占領八年にわたって、日本人はいかなることが起っても武器をとるべきではないとの教育を最も強く受けたのは、防衛の任に先ずつかなければならない青少年であった。
(ハ) 経済的制約  国民所得に対する防衛費の比率あるいは国民一人当りの防衛費負担額などによって他の国と比較することは、日本での生活水準がそれらの国のそれと似ている場合のみ意味がある。旧軍人や遺家族などの保護は防衛努力に先立って行われなければならぬ問題であり、これはまだ糸口についたばかりであるのにもかかわらず、大きい費用を必要としている。また日本は自然の災害に侵されやすく、今会計年度で災害によるその額はすでに千五百億円に上っている。
(ニ) 実際的制約  教育の問題、共産主義の浸透の問題などから多数の青年を短期間に補充することは不可能であるかあるいは極めて危険である。

(B) 会談当事者はこれらの制約を認めた上で
(イ) 十分とまではいえないにしてもともかく日本で防衛力といったものを作るだけではなく、これを維持するためにも今後数年間にわたり相当額の軍事援助が必要であることに同意した。
 米国側は日本側が考えている数およびその前提は低きに失することを指摘し、またこれらのものは重大な困難なしに発展向上させ得ると信じると述べた。日本側代表団は米政府が考慮中の軍事援助の種類および金額を知りたいと希望している。また日本側代表は提示した計画の基本的前提を変えることなしに向上させ得る方法について示唆を受けることを歓迎する。
(ロ) 米政府は、米国駐留軍のための日本の支出額は、日本自身の防衛計画のための支出が増大するにつれて減少すべきものであることを認めかつ同意した。
(ハ) 会談当事者は日本国民の防衛に対する責任感を増大させるような日本の空気を助長することが最も重要であることに同意した。日本政府は教育および広報によって日本に愛国心と自衛のための自発的精神が成長するような空気を助長することに第一の責任をもつものである。

(C) しかし外国の援助もまたこのような空気の助長に役立つ。貧しいが自尊心の強い国民にとって外国からの援助のうち最も効果的なものは、寛大な友情が示されることである。
(イ) 防衛支持援助の問題が取上げられたのは、これに関連してであった。この援助を日本に供与することの実現性について情報の交換が行われた。日米両国が現在米国と欧州諸国との間のそれと同様な二国間協定を締結すれば、法律上に関する限り日本もこのような援助を受ける資格があることが日本側代表団に対し説明された。そのような協定に必要な諸種の条件は目下東京で交渉中のMSA協定によって満されるものである。米政府の現行予算には日本に対するこの種の援助に割当てられたものはないことが指摘された。しかし法律上可能なこととしては、米政府は同じ『地域』内で『経済援助』および『軍事援助』のそれぞれの項目中で、あるいは『経済援助』と『軍事援助』の両項目にまたがって現行予算額の10%に至るまではこれをほかに流用する権限をもつことが明らかにされた。これに関連して日本側代表団は米政府に対しこの法律上の可能性を現実に移すことを要請する。日本側代表団は米政府が日本政府と二国間協定に加入し、これによってこの種の援助が可能になるようにすることを要請する。欧州諸国に対するECA(経済協力局)援助は本来軍事的性質のものでなかったにもかかわらず、今日これらの諸国にみるような大きな軍事力をつくることに寄与し非常な成功を収めたものと一般に認められている。日本側代表団はこの種の援助は減少しつつあることを十分知っているが、しかし日本の現状はECAの初期における欧州諸国と全く同様であり、従ってこの種の援助はこれをなんと呼ぶにせよ日本に対して供与される場合、欧州で達成された成果と同じ、あるいはむしろそれ以上の成果を挙げ得るものと信ずる十分な理由がある。
(ロ) 会談当事者は、より多くの海外買付を行うことは、これが適宜な調整のもとに行われれば日本経済にとって極めて有益であることに同意した。米側代表団はすすんでその実行につとめる意向を示した。日本側はできればそのような買付の規模をより具体的に知りたいと希望する。
(ハ) 会談当事者は相互安全保障(MSA)第五百五十条につき討議した。日本側は日本政府が円売上げ高を防衛生産の援助などのために使用し得るとの期待のもとに余剰の産物をできるだけ多く購入する用意をもつものと信ずる。

(二)東南アジア貿易と賠償

日本側代表団は東南アジアの市場を拡大することが日本経済の将来のため緊要であることを指摘した。岡崎外相は関係国の意向を打診するためこの地域に派遣されている日本外務省は最近日本側代表団に対して岡崎外相がこれら関係国のすべてにおいて強硬な態度に出会ったと報告してきた。これら各国と米国との関係は国によって異なるものがある。日本側代表団はこれらの国のあるものについては米国の影響力が役立つものと確信する。日本側代表団は米国のあっせんにより日本がこれらの諸国と賠償に関して意見の一致に到達し、これによってこれら諸国がすでに調印した平和条約を批准するようになることを希望する。交渉の進行に従って日本は批准と賠償問題の解決に役立つならば対日平和条約第十四条の規定をいく分越えることも必要とすることがあろう。この交渉の時期判定および交渉運営の仕方について、米国が常に日本側に勧告し援助することを希望する。米国の援助は賠償の支払いとこれら諸国の資源開発を結びつける計画の場合もまた望ましいものである。現在ではまだ明確な提案は行われないが、日本政府は引続きこの問題を検討するので将来示唆が行われれば幸いとするところである。他の諸国における情勢はさらに複雑のようである。日本側代表団はこれらの国の一国との間で解決をみれば他の諸国の場合もこれにならうことになろうと期待している。

(三) 中共貿易

米国側は日本政府のこの問題に関する政策と行政措置を称賛した。日本側代表団は英連邦およびフランスと平等に待遇して欲しいとの希望を延べ、米国はこれに原則として厚意的配慮を払うことに同意した。

(四) ガリオアの処理

日本側代表団はこの問題はこれだけをとり上げて早く解決することの出来ないものであることを強調した。日本側代表団の見解によれば、この問題は日本が防衛をも含めて対外的、あるいは国内的に処理しなければならない現在、あるいは将来予想される債務および臨時的出費の内の一つであり、従ってこの問題の解決はその他の債務と平行してのみ行い得るものである、しかし日本側代表団は日本政府に対し関連ある他の諸問題の早期かつ同時的解決を期待しつつ、この問題の解決のため米政府と同問題を討議する時期および場所に関して同意に達するよう勧告することに同意した。

(五) 外国資本の投資(借款を含む)

日本側代表団は六千万ドルの綿花借款が米国側によって考慮されており、代表団の離米前にさらにこれに関する情報を得られるであろうとの通告を受けた。米国側は外資に関する日本の法規を幾分緩和すればさらに多くの外資を招来することになるであろうと示唆した。日本側代表団は同様に考えており、ニューヨークで実業界から直接この点に関する勧告を聞く予定である旨を表明した。米国側はこのような投資に対する保証の措置を折衝中であること、および米政府は今後も原則としてそのような投資または借款を奨励することを明らかにした。

(六) 日本の国内政策

米国側は日本経済がインフレ的傾向をたどっており、あるいはたどろうとしているとみえるとの懸念を表明した。日本側代表団は国家財政においてはこれは事実でないことを説明したが、それにもかかわらず金融制度には危険の存在することを認めた。この点に関し日本側代表団は金融機構および貸出政策を正常化するため具体的な提案を行った。


(朝日新聞1953年10月25日)



Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会