■ 「歴史教科書」についての内閣官房長官談話 1982年8月26日 宮沢喜一内閣官房長官
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「歴史教科書」についての内閣官房長官談話
1982年8月26日 宮沢喜一内閣官房長官
一 日本政府及び日本国民は、過去において、わが国の行為が韓国・中国を含むアジアの国々の国民に多大の苦痛と損害を与えたことを深く自覚し、このようなことを二度と繰り返してはならないとの反省と決意の上に立って平和国家としての道を歩んで来た。わが国は、韓国については、昭和四十年の日韓共同コミュニケの中において「過去の関係は遺憾であって深く反省している」との認識を、中国については日中共同声明において「過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことの責任を痛感し、深く反省する」との認識を述べたが、これも前述のわが国の反省と決意を確認したものであり、現在においてもこの認識にはいささかの変化もない。
二 このような日韓共同コミュニケ、日中共同声明の精神はわが国の学校教育、教科書の検定にあたっても、当然、尊重されるべきものであるが、今日、韓国。中国等より、こうした点に関するわが国教科書の記述について批判が寄せられている。わが国としては、アジアの近隣諸国との友好、親善を進める上でこれらの批判に十分に耳を傾け、政府の責任において是正する。
三 このため、今後の教科書検定に際しては、教科用図書検定調査審議会の議を経て検定基準を改め、前記の趣旨が十分実現するよう配意する。すでに検定の行われたものについては、今後すみやかに同様の趣旨が実現されるよう措置するが、それまでの間の措置として文部大臣が所見を明らかにして、前記二の趣旨を教育の場において十分反映せしめるものとする。
四 わが国としては、今後とも、近隣諸国との相互理解の促進と友好協力関係の発展に努め、アジアひいては世界の平和と安定に寄与していく考えである。
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(参考資料)
文部省 『学制百二十年史』1992年9月30日
一 教科書検定制度の改善
中国、韓国による教科書問題
昭和五十六年度の高等学校用教科書の検定に関し、教科書検定が外交問題となった。いわゆる中国、韓国による教科書問題である。五十七年六月に前年度の検定結果の新聞報道に端を発し、中国、韓国両国から我が国の歴史教科書の記述の一部について、史実の改ざんや歪(わい)曲が行われたなどとして批判が寄せられた。政府はこれらの批判について検討をした結果、同年八月「歴史教科書」についての官房長官談話を発表した。同談話では、近隣のアジア諸国との友好、親善を進める上で教科書の記述をより適切なものにするために、政府の責任において、検定制度の枠内で是正する旨が述べられた。
文部大臣はこれを受けて教科書検定審議会に諮った上で、我が国と韓国、中国をはじめとする近隣のアジア諸国との過去における不幸な関係にかんがみ、これらの諸国の国民感情等にも今後一層配慮する必要があるとする同審議会の答申を得て、教科用図書検定基準に「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。」の一項を加えた。この新たな検定基準による検定をできる限り早く行うため、次期改訂検定を一年繰り上げて実施した。
その後、六十一年六月に、検定中の高等学校用教科書「新編日本史」の内容が新聞報道されたことから、再度、中国、韓国から批判や懸念が表明された。文部省は五十七年の官房長官談話等を踏まえ、再度教科書検定審議会に諮るなどの措置をとって、同年七月に検定合格とした。
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