■ 大阪府立高等学校生徒指導資料[新訂] 平成2年3月 大阪府教育委員会
府立高等学校
生 徒 指 導 資 料
[新訂]
平成2年3月
大阪府教育委員会
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目 次
まえがき
第1章 府立高等学校(全日制の課程)における退学の状況
第2章 学習指導
第3章 卒業・進級に関する規定
第1節 単位の修得の認定について
第2節 各学年の課程の修了(進級)の認定について
第3節 高等学校の全課程の修了(卒業)の認定について
第4章 問題行動に対する対応
第1節 懲戒について
第2節 学校における教育相談機能の充実について
第3節 カウンセリングマインドを生かした生徒指導について
第4節 不登校について
第5節 アルバイトについて
第6節 生徒指導体制について(略)
第5章 進路指導
第1節 退学の未然防止を図る進路指導について
第2節 原級留置と進路指導について
第6章 保護者、中学校、地域との連携
(図、表、指導事例略)
まえがき
人口の都市集中、第二次ベビーブーム、進学率の上昇などの時代の流れの中で、高等学校がいわゆる国民教育機関としての性格を持つようになって久しい。高等学校の量的拡大は必然的に生徒の多様化をもたらし、それに伴って退学者が漸増し、社会問題となっていることは周知のとおりである。府立高等学校全日制の課程においても、昭和63年度の退学率は在籍比の2%、人数にして4,949人にものぼり、誠に憂慮すべき状況となっている。生徒の減少期を迎え、学校は様々な面で変革を迫られているが、生徒の多様化の傾向は今後ますます顕著になっていくものと予想されており、退学等の防止について一層の努力が必要となっている。
原級留置者、退学者が比較的多い学校においては、学習指導の充実を図るため、基礎学力を重視した授業内容、授業方法の工夫、補充指導等に努めるとともに、きめ細かな生徒指導、保護者との密接な連携等日常的に多大の努力をはらってきた。また、教育委員会もこれらの学校の指導を援助する観点から、学習指導や生徒指導に関する各種施策を実施し、原級留置、退学の防止に努めてきたところである。
しかしながら、このような学校の努力にもかかわらず、入学後の早い時期においてさえ、学校生活に喜びや楽しさを見いだせず、学習意欲を失い、学校生活から脱落し始める者、あるいは種々の問題を自分で解決できずに問題行動に走って、学業を放棄する者などが絶えない。
このような状況の中で、今日、教師に求められているのは、生徒を多面的に観察することによって生徒理解を深め、一人一人の生徒が直面している問題に共感することから適切に助言、援助する姿勢である。
本資料は、平成元年度に設置した「退学防止プロジェクトチーム」における、原級留置、退学の防止に関する多方面からの検討結果を集約したものである。特に、実際の指導の参考となるよう「指導事例」を数多く取り入れており、各学校において広く活用されることを期待している。
終わりに、本資料の作成に当たって、終始積極的に御協力下さったプロジェクトチームの委員の方々に、心から感謝の意を表する次第である。
平成2年3月
大阪府教育委員会
指導第一課長 篠 原 陽
第1章 府立高等学校(全日制の課程)における退学の状況
1 大阪府内公立中学校の府内公立高等学校の全日制課程(含高専)への進学者数は52年度には約58,500人であったが、年々漸増し、昭和61年度には約90,000人(約1.5倍)に達した。また、この間、生徒の増加に伴って、府立高等学校48校が新しく設置された。(図1)
府立高等学校における退学率(在籍者に対する退学者の割合)は、昭和52年度の1.2%から昭和58年度には2.1%へと大きく増加したが、昭和60年度以降2.0%で推移しており、減少する傾向をみせていない。(図2)
府内公立中学校卒業者数は、昭和63年度以降急減期に入り、平成7年度には昭和63年度の約3分の2になると予測され教育条件は好転するが、この数年間の退学者の状況について分析した結果からすれば、各学校の相当の努力がなければ退学率は容易に低下しない。
2 退学をめぐる最近の特徴として、次のような傾向を指摘することができる。
・100人以上の退学者を出す学校数が増加し、昭和63年度は12校にのぼった。(表1)
・原級留置決定後、退学する者が増加しており、昭和63年度は1,869人(全退学者数の37.8%)に達している。(表2)
・1年生の退学率が高い。(表3)
・学習上の問題及び進路変更によって退学する者が増加しており、昭和63年度は3,721人、退学者全体の75.2%を占めている。(表3)
・昭和63年度、普通科における退学率は1.8%であるが、職業科における退学率は4.6%であり、職業科における退学率が高い。
・退学後の動向についてみると、退学後アルバイトをする者が増加している。(表4)
3 昭和63年度及び平成元年度に、府立高等学校からそれぞれ約50校を抽出して行った退学者の追跡調査から、次のような特徴を読みとることができる。
(1)高校在学中の生活について
ア 62.2%の者が原級留置の経験がある。
イ 66.1%の者が「授業がむずかしかった」、「授業が少しむずかしかった」と答えている。
ウ 68.9%の者が部活動には加入していなかった。
エ 61.7%の者が「かなり休んだ」、「ほとんど休んだ」と答えている。
オ 45.0%の者が学校の規則・きまりが「きびしかった」、「ややきびしかった」と答えている。
(2) 退学の状況について
ア 「高校生活が合わない」と思っていた者が57.7%おり、そのうち24.3%の者が「入学前に描いていた高校生活でなかった」と答え、23.5%の者が「高校の雰囲気になじめなかった」と答えている。
イ 「高校の勉強が嫌いだ」と思っていた者が58.2%おり、そのうち37.6%の者が「面白くない」、19.9%の者が「ついていけない」と答えている。
ウ 「進路変更をしたい」と思っていた者が57.3%おり、そのうち41.3%の者が就職し、19.0%の者が専門学校・各種学校を選んでいる。
エ 「授業についていけない」と思っていた者が40.5 %おり、そのうち39.3%の者が「成績がよくなる可能性がない」と思っている。
オ 退学後の気持ちについて、「悲しかった、不安だった」という者が35.5%、「やめなければよかった」という者が38.2%いる。
第2章 学習指導
生徒指導の意義は、本来、「すべての生徒のそれぞれの人格のより良き発達を目指すとともに、学校生活が、生徒の一人一人にとっても、また学級や学年、更に学校全体といった様々な集団にとっても、有意義にかつ興味深く、充実したものになるようにすることを目指すところにある。」(文部省「生徒指導の手引」(改訂版)平成元年)
したがって、長い目でみれば、学校における教育活動の中心である学習指導の充実こそがその要諦であり、毎日の授業を大切にし、生徒一人一人の知的欲求を充足させることが生徒指導の根本であると考えられる。
そのため、教材研究を十分に行い、学習メニュー方式や課題学習的な形態を取り入れるなど、魅力ある授業展開を工夫し、常に基礎・基本にかえりながら知識を体系的に修得させるよう努めることが肝要である。
また、一人一人の生徒の意欲をくみ上げるとともに、学習意欲の強い生徒が一層学習を深め得るよう配慮するなど、多様な生徒の実態及び生徒の特性・進路希望・学習経験などに応じた学習指導の在り方について研究を深める必要がある。
1 原級留置・退学の防止と学習指導について
退学したり原級留置になったりする生徒の実態について、学習指導の観点からみると、次のようなことが指摘できる。
(1)基本的生活習慣、学習習慣が十分身についていない生徒については、学習意欲が乏しい場合が多く、生活の乱れや学校生活への不適応から、欠席がちになり、退学していく者が多くみられる。
(2)アルファベット、分数、漢字などの基礎・基本が十分身についていない生徒が入学してきており、これらの生徒は、高等学校の授業内容が十分理解できないことから、学習意欲を失い、退学する場合が多くみられる。
(3) 目的意識を持つことができなかったり、進路に展望を見い出すことができない生徒は、成績や欠課時数などについて注意を与えても、そのことによって危機感を抱いたり、これを契機に発憤し、がんばるケースが少ない。
このような状況にある生徒が府立高校に多数在籍している現実を十分認識し、多様な生徒の実態に応じた多様な教育課程の編成について研究を深めるとともに、生徒の意欲・態度を向上させる視点から、指導内容の精選、指導方法の工夫、補充指導の在り方、評価の在り方等について十分検討する必要がある。
その際、次のような事項に留意する必要がある。
○ 教育計画の作成に当たっては、生徒の学力の向上を最重点の指導目標として位置づけること。
○ 教育課程の編成に当たっては、生徒の特性と進路希望等に配慮した多様な類型を設置するなど、学校の実態に応じて創意工夫に努めること。
○ 各教科において、生徒の実態に応じた副教材の開発や学級編制によらない可変的な集団による指導の在り方などについて研究に努めること。
○ 日常的な小テストや宿題などについても工夫に努め、生徒の学習意欲を高めるとともに、学習習慣の涵養に努めること。
○ 教科・科目の実質的な授業日数・時数を十分確保するため、期末考査終了後終業式までの間にも学習指導を計画すること。その際、学校行事の精選や休講の補充にも留意すること。
○ 生徒の実態に応じて、放課後や長期休業日に個人指導、補習などを行い、学力の向上に努めること。
2 評価の在り方について
生徒が、自ら学ぶ意欲を高め、自学自習の習慣を身につける上でも、また、教師が指導方法の改善を図り、個に応じた指導の充実を図っていく上でも、評価の在り方は極めて重要である。
定期考査や実力テストに現れる成果のみによる生徒の順位づけは、成績の下位の者の劣等感とあきらめとを生じさせることから、学習意欲の喪失、学校嫌い、非行への逃避などの原因となり、それらの生徒を原級留置、退学へと追い込んでいく場合もみられる。
評価は、本来、他の生徒との比較で生徒をとらえるのではなく、生徒個々の学習活動状況の診断をねらいとしたもので、教師にとっては自分の授業の在り方を反省し工夫・改善する資料となるものである。
したがって、生徒の実態を十分分析した上で、適切な指導の目標を設定し、指導の過程や成果を絶えず評価し、そのつど集団指導や個別指導などを通じて補充学習や発展・深化学習を行い、設定目標に到達させていくことが大切である。
そのためには、学習メニューによる指導、習熟度別指導、グループ別指導、個別指導、プログラム学習、チームティーチング、完全習得学習、課題学習など様々な学習指導方法について研修を深め、多様化している生徒の実態に応じて、一人一人の生徒の個性と能力の伸長を図るよう努めることが大切である。
第3章 卒業・進級に関する規定
単位の修得や卒業・進級の認定は、生徒の成績を評価して、最終的には校長が行うものであるが、通常の場合、教師の指導の指針として校長が生徒の実態に応じた認定の基準に関する内規を定めている。しかし、この内規はその内容や運用方法によっては、生徒の在学関係や学校生活全般にわたって大きな影響を及ぼすものであり、高等学校教育の現状を踏まえた合理性のあるものでなければならない。
この章においては、各高等学校が定めている内規とその運用の実態を踏まえて、府立高等学校相互間の共通性を目指し、高等学校学習指導要領の趣旨に沿った望ましい内規の在り方を示すこととした。
第1節 単位の修得の認定について
単位の修得の認定に当たっては、定期的に実施する考査の成績のみではなく、平素の学習態度や出席状況についての観察結果などの諸資料を活用することが大切である。単位の修得の認定について、特に留意する事項は、次のとおりである。
1 評価・評定
(1) 各教科・科目の評価・評定に当たって用いる資料として、定期考査や実技テストの成績、平素の小テスト等の成績、レポート・ノート・作品等の提出物、出席状況、学習態度に関する資料などが考えられる。これらの資料の取扱いについては、各教科において一定の規準を設け、担当教員の恣意にわたらないように配慮しなければならない。客観化が困難な資料の取扱いについては、特に注意しなければならない。
(2) 学年未の5段階評定については、いわゆる絶対評価の考え方に基づき、通常、評定の規準の基礎となる成績(素点)に一定の規準(例えば、素点100点満点で、5…85点以上、4…84点〜70点等)を設ける場合が多い。その際、各教科・科目相互間に大きな差異が生じないよう、素点の平均点について一定の基準を定めておくことが望ましい。特に、同一学年の同一教科・科目について担当教員の間に大きな差を生じないよう、平素から授業の進度や内容について十分調整するとともに、資料や素点の取扱いが公正なものとなるよう配慮する必要がある。
2 欠課時数の取扱い
(1) 欠課時数の取扱いについては、多くの学校が「生徒が年間授業時数の3分の1を超えて欠課した場合には、当該教科・科目の単位の修得を認めない」と定めている。
ア この場合、1単位について35単位時間の授業を確保することが求められている趣旨からすれば、欠課時数を問題にする場合にも、1単位について35単位時間の授業を行うことを基礎として検討しなければならない。
イ また、欠課時数が内規に照らして超過している場合であっても、わずかな時数の不足を理由に機械的に単位不認定とすることは望ましくない。
このような場合には、生徒や保護者から十分に事情を聴取し、病気や家庭事情など真にやむを得ない理由によると認められるときは、可能な限り補充指導やレポート提出等によって補うなど、実情に即して弾力的に運用することが大切である。
(2) 遅刻や早退の回数を一定の方式によって換算して、欠課時数に算入する方式を採用している学校がみられるが、生徒の遅刻・早退の実態が極端な場合はともかく、一般には、特に慎重に取り扱う必要がある。
(3) 次のそれぞれの場合は、欠課時数として扱わないこと。
ア 学校教育法第11条による懲戒
イ 忌引の場合
ウ 非常変災等、生徒の責任に帰することのできない事由による欠席、あるいは伝染病の予防上、保護者の判断による欠席について校長が出席しなくてもよいと認めた場合
エ その他、校長が出席しなくてもよいと認めた場合
第2節 各学年の課程の修了(進級)の認定について
各学年の課程の修了(進級)を認定するに当たっては、一人一人の生徒について各教科・科目の単位の修得状況や特別活動の成果等を内規に照らして検討し、総合的に判定するものであるが、次の各項について、特に留意する必要がある。
1 原級留置について
原級留置の措置を講ずるに際しては、「学校においては、各学年の課程の修了の認定については、単位制が併用されていることを踏まえ、弾力的に行うよう配慮するものとする」「卒業までに修得させる単位数は、80単位以上とする」という高等学校学習指導要領の規定の趣旨を踏まえなければならない。
単学年における不認定単位がある程度以上になれば、結果として、定められた修業年限では卒業が不能になることが予想されるので、そのような場合には、通常、進級を認めず、原級に留め置く措置をとっている。したがって、原級留置は単学年で履修する教科・科目の総単位数の3分の1以上も修得が不能になった生徒について行うことはやむを得ない措置であるといえるが、多少の単位数の不足等を理由に原級留置の措置を講じることは妥当ではない。
(1)原級に留め置く措置は、このようなことからやむを得ずとることに留意し、不認定単位数の状況によっては、同一年度内に追試験や補講等の機会を設け、可能な限り進級を認定するよう努めること。
(2)特定の科目について追試験を認めなかったり、極端に点数の低い科目が1科目でもある場合には進級を認めなかったりすることは望ましくない。
(3)科目数と単位数を併せて進級の判定を行っている場合が多くみられるが、例えば、1単位の科目と5単位の科目を機械的に同列に取り扱うことは望ましくなく、単位数の相違を勘案して、科目数については弾力的に取り扱うよう努めること。
(4)同一学年において二度以上原級に留め置かれた生徒について、そのことのみで退学させる措置をとってはならない。
(5)単位制の原則からすれば、いったん認定された単位は進級の可否にかかわらず有効である。したがって、原級留置になった生徒に、次年度において改めて全教科・科目を再履修させるのは、学習指導全体の観点からとられる指導上の措置であることについて理解を深めなければならない。
(6)やむを得ず原級に留め置くこととなった生徒に対しては、学業の継続について適切に指導をするとともに、保護者及び本人が進路変更を希望する場合以外は、いわゆる自主退学を勧奨しないこと。
2 進級を認定した生徒の不認定単位の取扱いについて
不認定科目を持ったまま進級を認めた生徒の不認定単位については、必要な指導措置を講じた上、できるだけ早期に追認定する機会を設けること。
特に、出席時数不足で不認定となった科目については、必ず追認定の機会を設けること。
3 欠席日数の取扱いについて
欠席日数の取扱いについては、多くの学校が「生徒が年間授業日数の3分の1を超えて欠席した場合には、進級を認めない」と規定している。この3分の1については法令上の根拠があるわけでなく、過去の経験から慣例的に行われているものであると思われる。このようなことから考えれば、「総授業日数の半分以上も欠席した生徒について進級や卒業を認定することは問題であろう」(昭和28年文部省初中局長回答)が、欠席日数が3分の1を若干超える程度の生徒については、内規の定めを機械的に適用することなく、生徒の実情に即して弾力的に運用することが大切である。
なお、欠席日数の取扱いについては、「第1節 単位の修得の認定について」の「2 欠課時数の取扱い」に準じて適切に行うこと。
4 原級留置者に対する成績の取扱いについて
原級留置者の保護者に対しては、原級留置に至った成績等について十分説明しなければならない。その際、不認定の科目についても明らかにする必要がある。
第3節 高等学校の全課程の修了(卒業)の認定について
学校においては、卒業までに修得させる単位数を定め、校長は当該単位数を修得した者で、特別活動の成果がその目標からみて満足できると認められる者について、高等学校の全課程の修了を認定することとなっているが、その際、次の各項について留意すること。
1 卒業認定に必要な各教科・科目の単位数について
生徒に履修させる各教科・科目の全単位を修得させるよう指導することは大切なことであるが、卒業の認定に必要な単位数については、一定の幅をもたせることも必要である。
学校教育法施行規則第63条の2の規定は、卒業に必要な単位数を80単位以上としており、したがって、80単位以上何単位に定めるかは、校長の裁量の範師内の事柄であるが、最近の生徒の実態を考慮するとき、卒業までに履修させる教科・科目の総単位数と卒業までに修得させる単位数との間に多少の余裕をみておくことが合理的であると考えられる。
2 学年末までの指導の継続について
内規に照らして高等学校の全課程の修了を認め難い生徒のうち、その成績等が比較的認定基準に近い者については、卒業式終了後も追試験、課題、補講等による指導を継続し、学年未(3月31日)には可能な限り卒業を認定し得るよう配慮すること。
第4章 問題行動に対する対応
青少年を健全に育てるためには、学校、家庭、地域社会などの関係者が各々の役割分担を自覚しつつ、お互いが力を合わせて努力すべきであるが、社会の実情からすれば、組織的教育を担当する学校が果たすべき役割には大きいものがある。
問題行動についての指導に当たっては、その要因・背景の分析を踏まえ、次々に発生する諸問題に対する対策的な後追い指導に終始することなく、今後起こり得る問題行動を予測し、事前にその対応策を検討するとともに、生徒指導の本来の趣旨に立ち帰り、多少迂遠であっても、問題の根元に触れるような、学校教育の基本を踏まえた指導の充実を図ることが大切である。
特に、指導に当たる教員が消極的な姿勢に終始し、十分な指導を行わないままに指導の限界であるとしたり、学校の体面や他の生徒への影響を過大視して、生徒が学校をやめざるを得ない立場に追い込むなどのことがないよう留意する必要がある。
第1節 懲戒について
問題行動についての指導に当たっては、教育愛に根ざした綿密で的確な指導と受容的な態度を持った指導とによって、一人一人の生徒が自らの心を開き、自律的で積極的な生活態度を身に付けていくようねばり強く指導していくことが大切である。校長訓告や停学処分等の懲戒を行うに当たっては、このような観点を踏まえ、次の事項に留意しなければならない。
(1)問題行動の事実関係を正確に把握し、保護者に確実に伝えること。
(2)事情聴取に当たっては、生徒の言い分に十分耳を傾け、圧力をかけるような態度をとらないよう留意するなど、生徒の人権にも十分配慮すること。
(3)問題行動の発生した要因、背景等を細部にわたって把握し、分析すること。
(4)懲戒を決定する権限は校長にあるが、指導措置のねらい、方法及び見通しなど指導の要点について全教職員の共通理解を図り、指導体制を確立すること。
(5)懲戒の程度、種類や指導方針については、当該生徒をめぐるあらゆる事情を勘案し、いたずらに前例や規定にとらわれることなく、その生徒にとって必要な教育的配慮を十分に加えた上で決定すること。
(6)懲戒を問題行動の抑止力と考えたり、他の生徒への見せしめとしたりしないこと。
(7)例えば、1か月にも及ぶような長期にわたる停学処分を行わないこと。
(8)停学処分を行う場合、機械的に家庭で謹慎させるよりも、家庭の事情によっては、学校で謹慎させる方が効果的な場合もあることに留意すること。
(9)停学中の生徒に対しては、学習指導にも配慮し、例えば、定期考査の期間と停学の期間とが重なる場合には、別室で受験させるなど、本人にとって不利にならないように留意すること。
(10)停学中に退学願の用紙を保護者や本人に手渡すなど、自主退学を強制しないこと。
(11)停学期間中は重点的に家庭訪問を行い、保護者と協力し合いながら指導を行うこと。
(12)退学処分はそれを受ける生徒にとって、生涯にわたり重大な不利益を被る可能性が大きい措置であるので、客観的にも真にやむを得ない場合を除いて行わないこと。(事前に教育委員会と協議すること。)
(13)問題行動により退学した生徒についても、一定の期間を経て十分な反省と学習意欲が認められ、真面目な態度で学校生活を送ることが期待できる者については、編入学の措置をとることの適否について積極的に検討すること。
(14)単位の認定、各学年の課程の修了(進級)などに際し、当該生徒が懲戒を受けたことをもって不利な取扱いをしないこと。
第2節 学校における教育相談機能の充実について
現実に問題に直面している生徒への対応として、教育相談の果たす役割が極めて重要である。問題解決の方途を見出し得ないでいる生徒や保護者に対して、相談相手になることによって、問題の深刻化、複雑化を未然に防止することができる。
各学校においては、教育相談機能の充実を図り、生徒の心身の健康について気軽に相談できる体制づくりに努める必要がある。その際、教育相談担当者が、ホームルーム担任や養護教諭などと円滑に連携できるよう配慮するとともに、学校における教育相談の範囲を超えている事実については、専門機関に相談するなど、関係諸機関との連携を図ることが肝要である。
第3節 カウンセリングマインドを生かした生徒指導について
1 カウンセリングマインドについて
生徒一人一人は、自らの存在を認められたいという欲求を持ち、それぞれ努力をしているものである。したがって、教師が生徒の欲求と努力を把握・受容することに努め、さらには、積極的に生徒を認めることによって、生徒は容易に心を開き、教師の教育力がその生徒に及ぶことになる。
こうした観点を基本に踏まえながら、指導に際しては、次のような点に留意する必要がある。
○ 生徒の立場に立って考え、思いやるゆとりを持つ。
○ 生徒が自分で考え、変容するよう援助し、生徒の自己解決力を育てる。
○ 生徒をせきたてることなく、生徒のペースに配慮し、待つ姿勢を持つ。
○ 生徒の問題行動の背景・要因と、そうせざるを得なかった生徒の心情を見抜く力を養う。
○ 生徒の良くなろうとする心を信じる。
2 様々な場面における教育相談
(1) ホームルーム担任の役割
ホームルーム担任は、自らの力量や生徒の実態に応じて、可能な範囲で可能な方法を選択して教育相談を行わなくてはならない。問題傾向のみられる生徒を抽出して個人的に話し合ったり(呼び出し相談)、全員を対象として学期に1回程度教育相談を実施したり(定期相談)、教室や廊下で会ったとき、幾分意図的に立ち話をしたり(チャンス相談)しながら生徒理解を深め、生徒との間に好ましい人間関係をつくる必要がある
その際、初めての出会いを大切にすること、いわゆる「ショート・ホームルーム」の時間を単なる伝達の場としないこと、ホームルーム日誌に担任印を押すだけで済ませないことなどに心掛けるとともに、「ショート・ホームルーム」の活動を活用して、生徒に3分間スピーチをさせるなど、生徒相互が各自の深い部分を知り、お互いに親しくなり、ホームルームが一つにまとまるよう配慮する必要がある。
また、生徒に対する話し方に注意することも大切であり、生徒が教師に対して、心を開くような言葉づかいの工夫等に努めなくてはならない。
(2) 教科担当者の役割
学習指導にカウンセリングマインドを生かすことによって、生徒の学習意欲、集中力を喚起することができる。
生徒に公平に接する、感情の入った評価をしない、誤答を笑わない、生徒の発言をさえぎらない、ほめたり激励したりすることに心掛ける、自己を飾らず常に自分のあるがままの姿で指導する、ユーモアを忘れないなどのことについて、授業中、十分留意する必要がある。
また、教室の2、3人の私語のため授業を進めにくいとき、「このクラスの者は、最近、勉強に真剣に取り組もうとする意欲がみられない」と全員を叱責する場合もあるかもしれないが、叱るべきときにはきびしく叱らねばならないものの、個人的な問題と全体の問題とを混同したり、感情的な怒りを生徒に投げつけたりしないよう心掛ける必要がある。
(3) 養護教諭の役割
生徒は、心理的な理由から保健室へ来ることがよくある。生徒の心の健康を増進する観点から、保健室の機能を充実させることにより、不登校から退学にいたるケースなどの未然防止を図ることも可能である。このため、利用しやすい保健室の雰囲気づくりに努めるとともに、研修会などに積極的に参加し、相談技術、洞察力等の素養を高める必要がある。
生徒と接している際、積極的な生徒指導が必要であると感じた内容については、速やかに担任などと連絡をとり、共通理解のもとで一貫した指導、援助に努めることが大切である。
また、専門機関(教育相談機関、病院、精神衛生センター、保健所、教育研究所等)や、学校医、学校歯科医と十分連携しつつ、適切な指導に努める必要がある。
第4節 不登校について
5頁の表6にみられるように、長期にわたって欠席する生徒のうち、登校拒否の占める割合が多い。
また、表5にみられるように、長期欠席が退学に結び付く可能性は高い。病気やけが、家庭事情などにより欠席を余儀なくされている場合は、欠席理由が明らかなので対策は立てやすい。怠学による場合や登校拒否による場合は、手遅れにならないうちに、関係諸機関とも連携しつつ、きめ細かい個別指導に努め、退学の未然防止を図る必要がある。
(1) 登校拒否に対する指導についての留意点
○ 欠席がちになる、急に無口になる、不安げな様子をみせるなどの兆候がみられたら、直ちに保護者と話し合うこと。
○ 本人が会おうとしない場合でも、心を病んだ本人の苦しみを見舞うつもりで家庭訪問を行い、保護者と十分話し合うこと。
○ いたずらに登校を強要しないよう配慮すること。
○ 自らの力量を超えていると感じたときには、機を逸することなく専門機関に相談すること。
(2) 怠学に対する指導についての留意点
「学校へ行きたい」と思っていても登校できないのが登校拒否であるが、怠学の場合は「学校へ行きたくない」と考えているので、両者には大きな相違がある。怠学には、学校の枠組みに入れなくて家庭に逃避する場合、家庭に対しても抵抗し、非行グループ等に逃避する場合などがある。
○ 登校拒否に対しては、心理的療法を基盤とした指導を行うが、怠学に対しては、担任を中心として、積極的な生徒指導を行うこと。
○ 場合によっては、本人の心の奥にある劣等感や疎外感を十分に感じ取りながら、本人の立ち直りを援助する姿勢が大切である。
○ また、無気力傾向を示す怠学については、自我が弱い場合が多くみられるので、自我の強化を目標とした指導について工夫すること。
第5節 アルバイトについて
1 アルバイトの実態
高校に入学すると、アルバイトをする生徒が急増する。特に、1年生の夏休みにアルバイトを始める生徒が多い。夏休み中にアルバイトを経験した生徒のうち相当数の生徒が、その後もアルバイトを継続する傾向がみられる。アルバイトによって得た賃金はこづかいとして使われたり、バイクや衣服などの購入に充てられている。
アルバイトによる疲れや交遊関係から、遅刻や欠席が増え、授業に集中できなくなり、やがて退学していくケースもみられる。
2 アルバイトに対する指導
アルバイトは、学校生活や授業に大きな影響を与え、原級留置や退学の潜在的な原因となっている。各学校においては、アルバイトについて多様な角度から調査、分析を行い、生徒の実態に応じて適切な指導を行う必要がある。
その際、たてまえによる「禁止」「届け出制」に関する指導にとどまることなく、アルバイトの日数、時間、職種等に関する実態把握に基づいて、生徒の自己管理能力を高める観点から指導することが大切である。
特に、1年生に対する指導を入学当初から計画的に行うとともに、保護者に対しても適切な情報を提供し、アルバイトにかかわる各種の問題について啓発に努める必要がある。
なお、家庭の事情等からアルバイトをせざるを得ない生徒については、適切な労働条件のもとで就業するよう、個別に指導すること。
第6節 生徒指導体制について(略)
第5章 進路指導
高校進学率が93%を超え、ほとんどの者が進学する時代にあっては、生徒の個性、能力、適性、進路希望等が極めて多様化し、かつての「適格者主義」がもはや通用しなくなっているということを改めて認識する必要がある。
高校進学率がそれほど高くなかった時代は、卒業時における進学の指導や、就職の斡旋などのいわゆる「出口の指導」が進路指導のすべてであると考えられがちであった。
しかし、進路指導は元来、「社会において果さなければならない使命の自覚に基づき、個性に応じて将来の進路を決定させ」(学校教育法第42条第2号)るものであり、単に卒業時の進学や就職の斡旋ではなく、在学期間を通して生徒の主体的な進路選択や適応に関する能力・態度の伸長を図るものであることから、学校に適応せずに退学していく生徒に対しては、一層適切な指導が必要であると考えられる。
退学する生徒のなかには、目的意識が希薄なまま入学し、入学後2〜3か月で挫折する生徒も多くみられるが、そうした生徒を「進学したのが誤りだった」として、「中退生」という形で社会に送り出して済ませてよいものだろうか。入学早々、そのような状況に陥ったり、危機に直面したりしている生徒に対して相談の手を差し伸べることは、進路指導の在り方として大切なことではないだろうか。
こうした生徒の指導に当たっては、生徒一人一人をかけがえのない存在としてとらえ、その一人一人がどの様に生きようとするのか、自らの生き方に気付かせるとともに、やむを得ず進路変更をする場合には、関係諸機関と連携を隣りつつ、親身に世話をするなど、生徒の立場に立った指導が大切である。
第1節 退学の未然防止を図る進路指導について
退学の背景には、学校教育の在り方のほか、家庭や社会の状況、価値観や意識の変化などが複雑にからみ合っているが、退学者の多い学校においては、退学の防止が学校経営の根幹にかかわる事柄であることについて、共通認識を深める必要がある。その際、特に、進路指導の充実によって、退学防止の実効をあげ得ることを十分認識し、進路指導の在り方について見直しを図る必要がある。
1 入学後の早い時期における進路指導
生徒の中には、不本意入学からくる閉塞感や高校に入学できたことに対する安堵感から、高校生活の意義や進路について深く考えようとしない状況もみられるので、合格者登校オリエンテーション、新入生宿泊オリエンテーションやホームルーム活動などにおける進路指導を通じ、学校生活と自らの進路について自覚を深めさせ、目的意識を持たせることが大切である。
その際、次のような点に留意する必要がある。
○ 生徒の生活意識の実態の十分な把握の上に立って指導のポイントを定めること。
○ 学校生活・学業に適応できていない生徒に対しては、機を失することなく個別指導を行うこと。
○ 好ましい人間関係づくりを基盤として、高校生活に展望を持たせること。
○ 学校の特色ある教育活動(教育方針、学科・教科の内容、類型の選択など)について理解させること。
○ 部活動、アルバイト、単車などの問題について、生徒指導の視点だけでなく進路指導の視点ともかかわらせて、具体的な材料を用いて指導すること。
2 退学を考え始めた生徒に対する進路相談
アルバイト等に流され、怠学傾向から退学を考え始めた生徒に対しては、機会をとらえて、個別の進路相談を適宜に行う必要がある。
生徒が目的意識を持って学習を行うためには、適切な進路情報を得て、自らの興味・関心・能力・適性に合った明確な進路目標を持つことが大切である。しかも、それぞれの進路目標を達成するためには、その基本となる学力が充実していなければならない。将来の生き方と進路の適切な選択決定に関して、生徒が自らの課題を自覚するよう援助に努めることによって、安易な退学を未然に防ぐことができると考えられる。
第2節 原級留置と進路指導について
成績が振るわず原級留置になる可能性のある生徒に対しては、学力に関する問題点とその指導について教員間で共通理解を図りつつ、保護者とも連携して指導を進める必要がある。特に、1年生の場合、夏季休業日前後の時期から、@学業について A生活習慣について B将来の自己実現についてなどの側面から自己理解を深めさせるとともに、高校を卒業することの意味について考えさせる必要がある。
1 原級留置になった生徒の退学率は非常に高い。原級留置が決まった生徒は、学習を継続する意欲や学校や教師に対する信頼感をすでに喪失している場合が多い。
文部省の追跡調査によると、退学者のうち79.6%の者が「自ら進んでやめた」「学校からやめた方がよいと勧められた」としている。また、退学して「うれしかった」「さっぱりした」と答えている者が64.5%にのぼる。
しかし、退学を考え始めた生徒の胸中では、強がりの反面、不安や悲しさ、残念な気持ちなどが複雑に交錯していると思われる。このようなとき、退学願と再履修願の2枚の用紙を手渡し、選択を迫るなどのことがあってはならない。一人一人の生徒を大切にするという観点に立ち、原級留置の原因について更に一歩踏み込んで分析し、進路と学業に関する悩みや不安について、親身な相談が望まれる。
2 退学を申し出た生徒に対して、親身になって進路指導を行うことにより、学校生活の意味、勤労の意義などに目覚めさせ、安易な気持ちから退学を考えている場合には、思いとどまらせることができる。
就職する場合には、アルバイトを含めて、就業先等を確認するとともに、当該生徒に対して特別な支援が必要な場合には、教育委員会を通して関係諸機関との連携を図るなどの方策を講じる必要がある。
別の高校への編・転入学、専修・各種学校などへの進路変更については、正確かつ適切なデータを用意して相談にのる必要がある。
常に生徒の立場に立って、新しい生き方を求めている生徒の気持ちを保護者に伝えることも、場合によっては極めて大切なことである。
第6章 保護者、中学校、地域との連携
社会の仕組みが複雑になり、大きく変化していること、また、進学率の上昇に伴い、生徒の特性・進路希望等が多様化していることなどから、退学防止についても、学校における指導だけでは十分対応できなくなってきた。学校が積極的に保護者、地域、中学校との連携に努め、各種の教育力を結合することによって退学の防止を図る必要がある。
1 保護者・地域との密接な連携指導
○ 学習到達度の低い生徒に対しては、学力のみにとらわれず、進路指導の観点を踏まえた学習指導を行うこと。
○ 生徒の意識、生活・学習環境などの実態を、幅広く把捉する姿勢を持つこと。
○ 様々な困難な条件を有する生徒については、学校(学年)全体として情報交換に努め、必要に応じて特別指導の体制をつくること。
○ 家庭の実態の把握に基づき、必要な場合には授業料減免や奨学金制度の説明を行うなど、保護者との連携に努めること。
2 計画的な中高連携
○ 平素から、関係中学校との連携に努めること。
○ 入学後間もない新入生にかかわる問題行動の背景や要因についての分析に際しては、関係者との十分な情報交換、協議に努め、一面的な評価に陥ることがないよう留意すること。
○ 身体に関する問題やいじめ等の問題については、人権尊重の観点に十分配慮しつつ、中学校から適切な情報提供を受けること。
3 中学校から高校への積極的な働きかけ
中学校が公立高等学校に希望する事項
○ 成績が振るわない生徒について、1学期未に出身中学校に連絡し、中学校に協力させてほしい。
○ 中退者が出れば、その理由、経過を出身中学校に連絡し、中学校の進路指導に生かさせてほしい。
○ 中退者を出さないという心構えで指導してほしい。「高校教育は義務教育でない」という考え方の生徒指導になっていないだろうか。
○ 新入生に対して「君は来るところをまちがっている」などの言葉を言わないでほしい。
○ 新入生に対するオリエンテーションを十分行ってほしい。
○ 生徒が選択できる学習メニューによる指導を、進学した生徒の実態に合わせて実施してほしい。
○ 成績だけで留年や退学に追い込まず、救済する方法を考えてほしい。
○ 学習到達度の低い生徒は高校教育を受ける資格はないと考えないでほしい。高校進学率が高い現実と高校教師の考えとの間にギャップがあるのではないだろうか。
○ 安易に切り捨てないで、きめ細かい指導をしてほしい。
○ 生徒指導面ではもっと厳格にしてほしいこともある。中学校にも相談してほしい。
○ いろいろと困難な状況はあろうが、「面倒見のよい学校」であってはしい。ただし、これは、甘やかすということではない。
(大阪府公立中学校長会、進路第一委員会のアンケートから)
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