■ これからの都立高校の在り方について(答申) 平成9年1月25日 都立高校長期構想懇談会
これからの都立高校の在り方について(答申)
平成9年1月25日
都立高校長期構想懇談会
都立高校長期構想懇談会の答申にあたって
(座長談話) 平成9年1月25日
都立高校長期構想懇談会は、昨年1月東京都教育委員会から諮問を受け、短
期間ではあったが、22回にわたる審議を重ね、本日答申のはこびとなった。
本懇談会の審議の過程においては、これからの都立高校のあるべき姿に向け
て、さまざまな角度から活発に意見が出されたが、諮問を受けた事項について、
大筋の方向性を示すよう答申をまとめたものである。
東京都教育委員会は、この答申の内容にそって速やかに具体化し、生徒や都
民にとって魅力ある都立高校を実現してもらいたい。
具体化にあたっては、次のことに留意されるよう要望する。
1 改革の具体的実施に当たっては、さまざまな形を工夫して、保護者、学校
関係者、地域の意見などを幅広く聞く機会をもち、関係者の理解のもとに施
策を展開するよう努めること。
また、各学校が創意工夫をこらし改革に主体的に取り組むことが必要であ
り、学校と東京都教育委員会が一体となって積極的に改革に取組むこと。
東京都教育委員会は各学校の取組みに対し、必要な支援に力を尽くすこと。
2 都立高校の個性化・特色化は、学校に対する序列意識を払拭することも大
きな目的として推進するものであり、この趣旨を広くPRし、都民の理解を
得るよう努めること。
3 都立高校が開かれた学校として、地域との関係をより深めて、学校から地
域へ、地域から学校へ、双方向で連携を深め、地域の生涯学習の拠点となる
よう一層努めること。
4 東京の高校教育が都立と私立ほぼ半々で行われていることは、全国的にも
特徴的なことであり、今後なお一層、公・私が協力しあって、都における高
校教育の充実・発展に努めること。
5 本懇談会における審議の過程で出された意見や要望の中には、貴重な問題
提起や教育の本質に触れる意見等があったが、諮問された内容との関係や時
間の関係などから、踏み込んだ検討が行えなかった部分もある。
これらの意見や要望については、議事要旨に記録してあるので、今後の検
討にあたって十分に活かしていくこと。
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目 次
はじめに
1 検討の経過
2 検討の基本的姿勢
第1 都立高校の現状と課題
1 都立高校の現状等
2 「生徒の多様化」
3 「少子化による生徒数の減少」
4 「社会経済の進展」
5 「生涯学習社会」
第2 対応の方向
1 対応の基本的姿勢
2 課題への対応
1)生徒の多様化への対応
2)少子化による生徒数の減少への対応
3)社会経済の進展への対応
4)生涯学習社会への対応
第3 「都立高校の個性化・特色化」の推進について
1 「都立高校の個性化・特色化」の意義
2 特色ある学校づくり
1)特色ある学校づくりの推進
2)特色ある学校づくりの方策
ア 普通高校の改善
イ 専門高校の改善
ウ 定時制・通信制の改善
エ 新しいタイプの学校の設置
A)総合学科高校
B)単位制高校
C)科学技術高校
D)中高一貫6年制、体育高校など検討を進めることが望ましい高校
3 開かれた学校
1)開かれた学校の意義
2)地域・社会に開かれた学校
3)生徒に開かれた学校
4 学校における主体的な取組みと支援
第4 教育諸条件の整備について
1 基本的な考え方
2 学級定員等について
1)学級定員
2)弾力的な授業の展開と多様な学習集団
3 教職員について
1)教職員の配置
2)長期的な展望に立った計画的な教員採用
3)教員採用方法の改善
4)社会人講師の任用
5)教員の資質・能力の向上と研修のあり方
4 施設設備について
1)校地
2)校舎
3)これからの望ましい学校施設
5 学校運営予算
第5 都立高校の規模及び配置の適正化について
1 基本的な考え方
2 学級減の将来予測
3 全日制課程の規模及び配置の適正化
1)学校の規模及び配置の現状
2)全日制課程の望ましい規模
3)全日制課程の配置
4 定時制課程、通信制課程の規模及び配置の適正化
1)定時制課程
2)通信制課程
5 対応にあたっての留意点
第6 関連する諸課題への対応について
1 入学者選抜について
2 学区について
第7 改革推進のために
1 学校における主体的取組みと教職員の意識改革
2 保護者・都民の理解と協力
3 大学、企業など社会への要望
4 財政上の措置
おわりに
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はじめに
1 検討の経過
1)都立高校長期構想懇談会は、平成8年1月、東京都教育委員会から、来
るべき21世紀に向けて、将来の都立高校のあるべき姿について、以下の
4点について諮問を受けた。
a)都立高校の個性化・特色化に関すること
b)教職員配置、施設設備など教育諸条件の整備に関すること
c)都立高校の規模及び配置の適正化に関すること
d)その他上記に関連する都立高校の改革に関すること
2)本懇談会は、先ず都立高校の現状と課題について共通認識を深めるため
の審議を行い、その上で諮問事項について順次検討を行った。平成8年1
月から平成9年1月にかけて22回にわたる審議を進めた。
この間、東京私立中学高等学校協会から意見を聴く場を設けたほか、都
立高校7校の視察を行い、できるだけ広い視野から現状を把握するよう努
めた。
平成8年9月には、それまでに審議した内容を整理した「審議経過の中
間まとめ」を行い、10月4日に東京都教育委員会に報告した。
2 検討の基本的姿勢
本懇談会は、次のような基本的な姿勢をもって、諮問事項の検討にあたっ
た。
1)教育においては、基礎・基本や時代を超えて変わることのない価値のあ
るものを身に付けさせることが大切である。
また、一方で、国際化・情報化の進展、科学技術の発展、産業構造の変
化、高齢化・少子化、生涯学習社会の到来など、社会は急激に変化してい
る。このような社会の変化に教育が的確かつ迅速に対応し、改めるべきは
勇気をもって速やかに改め、新しい時代の要請に応えうる高校教育を求め
ていくことが重要である。
このように、教育における「不易」と「流行」を十分に見極めつつ、今
後、社会の変化にしなやかに対応してたくましく生き、社会の様々な分野
で21世紀を担って活躍できる子どもたちを育成していくことが必要であ
る。
そのためにも、子どもたちが自ら学び、自ら考え、主体的に判断し行動
できる力を育んでいくことが重要である。
2)高校がいわば国民的教育機関となり、また、社会経済の進展、社会の成
熟化を背景とした価値観の多様化等にともなって、都立高校に学ぶ生徒の
能力・適性、興味・関心、進路希望等が多様化している。これら一人ひと
りの生徒が個性を伸ばしながら生涯を通じて学ぶ力を培い、社会の変化に
主体的に対応できる能力を身に付けられるよう、よりよい教育環境を実現
することが重要である。
3)少子化によって、今後も長期的に続く生徒減少期を、生徒にゆとりをも
たらし、教育の質の充実を図る好機としてとらえ、改革を進めていくこと
が必要である。
4)検討にあたっては、これまでの固定観念を改めて、発想の転換による次
のような新しい視点からの改革が必要であると考えた。
a)どこで学んだかではなく、何を身に付けているかを評価する、「学歴
社会」から「学習社会」への転換
b)学力に偏った「偏差値重視」の教育から個を生かす「個性重視・人間
性重視」の教育への転換
c)さまざまな特性をもつ生徒に対応するため、「一律的に与える教育」
から「生徒が選ぶ選択幅の広い教育」への転換
5)さらに、これまで都立高校が果たしてきた次のような積極的役割を踏ま
えるとともに、都立高校に対する生徒、保護者、都民の期待に応えるため
に、諮問された都立高校の将来のあるべき姿に向けて、都立高校の抱える
課題を明らかにし、それへの対応という視点から検討した。
a)都立高校は、これまで都内の子どもたちに広く教育の機会を提供し、
多くの生徒を受け入れてきた。また、比較的少ない学費負担で高校教育
を充実するよう努めてきた。
b)都立高校は、交通至便な地域の高校として伝統や校風を培い、生徒一
人ひとりの自己実現を目指し、ゆとりのある学校教育を行って、多くの
有為な人材を社会の各分野に送り出してきている。
c)都立高校は、これまでも新しいタイプの高校の設置、専門(職業)高
校における学科改善、多様な選択科目の開設、弾力的な教育課程の編成
などの個性化・特色化を図るよう努めてきた。
d)都立高校は、公開講座の実施、体育施設の開放など、地域の生涯学習
に貢献する学校運営を図ってきた。
第1 都立高校の現状と課題
1 都立高校の現状等
高校は、我が国の社会経済の発展を背景に、一部の選ばれた者が学ぶ教育
機関から、中学校卒業者のほとんどを受け入れるいわば国民的教育機関へと、
その性格・役割を変えてきた。
東京都においても、都内公立中学校卒業生の高等学校等への進学率は、昭
和30年3月の66.1%から、昭和43年3月には90%を超え、平成8
年3月においては96.1%となっている。
都立高校は、現在(平成8年5月)、214校3分校、在学者16万7千
人(全日制15万2千人、定時制1万4千人、通信制は除く。)の規模とな
っている。これは、昭和30年当時と比較すると、学校数で74校、在学者
数で2万5千人の増加となっている。
なお、東京都においては、これまで都立高校と私立高校が分担しながら高
等学校教育を担ってきた。都内私立高校の現状(平成8年5月)は、学校数
238校、在学者22万8千人である。
このような高校への進学率の上昇と相まって、複雑・多様化した社会の変
化による影響が、生徒一人ひとりのもつ考え方や生き方をさまざまなものに
している。
一方、少子化の進行による生徒数の減少が今後も見込まれるなど、都立高
校の在り方が問われている。
2 「生徒の多様化」
1)生徒の多様化の現状
ア 社会経済の進展、国民生活全般における社会の成熟化などを背景に、
都民の価値観の多様化が進んでいる。特に青少年層はこうした社会の変
化に敏感で影響を受けやすく、高校に入学してくる生徒においては、能
力・適性、興味・関心、進路希望などが一層多様化している。
イ 多くの生徒は自己実現を目指し、意義のある高校生活を送っているが、
一部には目的意識が明確でない生徒や不本意入学の生徒が増えており、
また、学習意欲に欠ける生徒や入学した学校の学校生活になじめない生
徒も出てきている。これらのことが中途退学の増加となって現れている。
一部の生徒には、基本的な生活習慣の欠落、自立意識の遅れなどもみ
られる。
ウ 各学校においては、教育課程や指導内容・方法の改善などの努力が払
われているが、生徒の特性を十分に伸ばせないいわゆる足踏み状態があ
ったり、授業についていけない生徒への対応が十分でなかったりする実
態がある。
エ 生徒の卒業後の進路については、普通科でも進学だけでなく就職する
者も多く、専門学科でも就職だけでなく進学を希望する者が増加してい
る。また、卒業後も進路が定まらない生徒が増加している。
2)多様化に対する高校教育の課題
ア 多様な生徒の幅広いニーズに応え、それぞれの生徒の自己実現に寄与
していくためには、現在の高校の教育をさらに多様で柔軟性に富んだも
のに改めていくとともに、生徒の主体的な学習を促すような改善・工夫
を図り、教育環境を整えていく必要がある。
イ 国際化、情報化、高齢化などの社会の変化に対応した、多様な人材を
育成する教育を充実していく必要がある。
ウ 社会の急速な変化に伴う影響により、生き方や考え方は極めて多様化
している。その中で自己の進路への自覚を深めさせ、将来の生き方に向
けての意欲を育てることが課題である。キャリア教育の充実など、一人
ひとりの個性に応じた人間としての在り方生き方に関する教育を推進し
ていく必要がある。
3 「少子化による生徒数の減少」
1)生徒数減少の現状と今後の見込み
ア 公立中学校卒業生は、ベビーブームによる第一次ピーク(昭和37年)
は、18万8千人、進学率81.4%で、第二次ピーク(昭和61年)
は、15万7千人、進学率93.5%であった。
現在(平成8年)は、公立中学卒業生9万2千人、進学率96.1%
である。これは、第一次ピークから9万5千人減、二次ピークから
6万5千人減である。
イ 今後も長期的に減少傾向が続き、平成21年には、公立中学卒業生は
7万1千人となる見込み(現在から2万1千人減)である。
ウ 都立高校は生徒数の減少に伴い、学級数も全日制の場合、昭和63年
の4,929学級(208校2分校)をピークに、その後漸減し、平成
8年には3,956学級(210校1分校)と、1,000学級余減少
している。この間、平成3年から平成8年まで45人学級から40人学
級への改善が行われている。
1校あたりクラス数は23.5学級から18.7学級へと減少し、学
校の小規模化が進んでいる。
2)都立高校は、生徒急増期においては量的拡大に追われてきたが、今後の
生徒減少期においては、都立高校の望ましい規模や配置の在り方について
都立高校全体の地域バランスも考慮しながら検討することが求められてい
る。
3)検討にあたっては、単に生徒減に伴う量的規模を考えるだけでなく、こ
れを契機に都立高校の全般的な質的充実に取り組むことが重要である。
4 「社会経済の進展」
社会経済の進展に的確に対応できるように、生徒自ら考えて判断し、問題
意識をもって自分の意見を表明でき、主体的に行動できる力を身に付けさせ
る教育が求められている。
そのために必要な教育課程の改善・工夫や人的・物的条件整備などが求め
られている。
5 「生涯学習社会」
生涯学習社会の実現に向けて、学校教育の場において生涯を通じて学ぶ基
礎を培う教育を行うことや、学校と地域・社会の相互交流を進め、地域・社
会に「開かれた学校」となっていくことが高校に期待されている。
また、「開かれた学校」は、地域の連帯感や教育力が低下している状況の
中で、特に強調されてよいことである。
(その1からの続き)
第2 対応の方向
1 対応の基本的姿勢
1)高校時代は生涯における成長過程の中でも、とりわけ人格形成上、重要
な時期であることを踏まえ、多様な特性をもつ生徒一人ひとりが希望に応
じて自分の進路を選択できるよう、生徒の側に立って考え、将来の日本を
担う若者を育てあげていくという認識が大切である。
2)また、前述のように、生徒減少期を、生徒にゆとりをもたらし、教育の
質の充実を図る好機としてとらえ、改革を進めていくことが重要である。
3)都立高校をこれまで以上に活力ある、生徒や保護者にとって魅力ある学
校とし、これからの時代の進展に適合したものとしていく必要がある。
4)このような考え方に立って、都立高校全体をトータルなシステムとして
とらえ、大枠の改善方策を作成し、それをガイドラインとしつつ取り組ん
でいく必要がある。
2 課題への対応
1)生徒の多様化への対応
ア 現在の都立高校は、基本的には、普通科では大学進学を意識した教育
を、専門学科(職業に関する学科)では就職を意識した教育を行ってい
るが、生徒の進路の実態や多様な能力・適性等に必ずしも十分対応しき
れていない。このため、画一的な教育を改め、生徒一人ひとりに応じた
多様で弾力的な教育を、これまで以上に進めることが必要である。
イ 都立高校においては、中学校における教育の上に、基礎・基本を重視
し、確実に身に付けられるようにするとともに、さまざまな教育内容を
用意して自己に適した内容を自己に適した方法で選択できるように特色
ある学校づくりを推進する必要がある。
また、これまでの高校とは異なる新しいタイプの高校を設置して、個
性化・特色化を推進することも必要である。
ウ 生徒一人ひとりの個性を伸ばし、自己実現が図れるような対応、また、
進路希望を実現できるようにきめ細かな進路指導などの対応も必要であ
る。
2)少子化による生徒数の減少への対応
ア 都立高校は、生徒急増期には、高校進学を希望する生徒をできるだけ
受入れるため、量的な拡大を図ってきた。
今後の生徒減少期は、質の充実に向けて都立高校の改革を進める好機
であり、都立高校の抱えるさまざまな課題にも対応できるように、教職
員の配置や施設設備など教育諸条件を整備していく必要がある。
イ これまでの生徒数の減少により、過大規模は解消され、小規模化が進
んできたが、今後もさらに小規模化が進むことが見込まれる。
学校においては、生徒の多様化に対応した弾力的な教育活動を行い、
学校全体の活力を維持していくことが重要であり、そのためには、一定
の規模が必要である。
ウ このような観点から生徒数の減少に合わせて各学校の規模の確保を図
るとともに、全都的視野から、地域のバランスを考慮して、都立高校の
改編整備や統合なども含めて、適正な配置を考える必要がある。
また、これまで生徒増に対応するために学校を増設してきたが、その
際、都の土地事情等から、必ずしも適地に適切な規模の学校が作られて
きたわけではない。今後、校地など教育条件が悪く現地改築が困難な学
校等は、適正配置を考える中で、教育環境を確保する観点から移転、統
合などを検討する必要がある。
3)社会経済の進展への対応
ア 高齢化、国際化、情報化などの社会経済の進展に合わせて、社会の変
化に的確に対応しうる能力を育成する教育を実現することが重要である。
また、国際社会で活躍できる人材の育成や科学技術離れへの対応と理工
系の人材育成などを検討することも必要である。
社会の変化に対応した新しい学科の設置なども検討する必要がある。
イ 社会の変化に対応した、学校の個性化・特色化を進め、いろいろな観
点からの学校への評価を可能とすることにより、いわゆる「偏差値」と
いう単一な尺度による学校・学科間の序列意識を払拭していく必要があ
る。
4)生涯学習社会への対応
ア これからの時代は、学校だけで学習するのでなく、生涯を通じて学習
する時代である。その中で高校では、一人ひとりの生徒に生涯を通じて
学び続けるための基礎を培い、変化の激しい時代に主体的に生きていく
ために必要な資質や能力を育てる教育を行う必要がある。
イ 地域の教育力を学校に導入し、また学校の機能・施設を地域に開放す
るとともに、聴講生や再入学などを容易にし、生涯のいつでも自由に学
ぶことができる「開かれた学校」を一層推進する必要がある。
ウ 家庭や地域の教育力の低下に対して、開かれた学校の観点から、学校
と家庭、地域の相互交流・連携を進めることが必要であり、また、家庭
や地域における教育の充実を図っていくことが求められる。
エ 生涯学習社会への対応の検討の中で、公開講座の推進等が「高校教育
本来の役割に影響するのではないか」と懸念する意見もあるが、「生涯
学習」と「高校教育」を対立させるのではなく、生涯学習社会の中で高
校がどうあるべきかという観点から検討することが必要である。その際、
条件整備についても留意する必要がある。
第3 「都立高校の個性化・特色化」の推進について
1「都立高校の個性化・特色化」の意義
1)都立高校には、能力・適性、興味・関心、進路希望など多様な生徒が入
学してきている。
このような状況に対し、これからの都立高校は、生徒一人ひとりの個性
を生かした教育を進めるため、各高校が生徒や地域の実態を踏まえつつ、
教育内容・方法等について特色ある学校づくりを進めるとともに、生徒が
学びやすいように多様で弾力的な教育課程を編成するなどして、個性化・
特色化を推進する必要がある。
2)一般に高校に対しては、ややもすると偏差値などによる序列意識があっ
て、生徒は無用な優越感や劣等感を抱くことがある。都立高校の個性化・
特色化は、このような序列意識の払拭を進め、いわゆる学校間格差の解消
や学歴社会からの転換を目指すものである。
3)個性化・特色化の推進のためには、各都立高校が自主的な創意・工夫に
よって、特色ある学校づくりを進めることが基本であり、高校同士が互い
に切磋琢磨しあうことが大切である。
同時に、こうした学校の主体的努力に対して、東京都教育委員会が積極
的に支援する仕組みを整えることが重要である。
また、学校運営にあたり、閉鎖的となりがちな都立高校を改善し、「開
かれた学校」を進めることも重要である。
2 特色ある学校づくり
1)特色ある学校づくりの推進
ア 都立高校においては、これまで多様な生徒に対応するため、教育課程
の改善、コース・類型や新しい学科の設置、新しいタイプの高校の設置、
入学者選抜制度の改善などにより、特色ある学校づくりが行われてきた。
今後も、多様な生徒に対応するための柔軟で特色ある学校づくりを一
層進めていく必要がある。
イ 柔軟で特色ある学校づくりにあたっては、都立高校全体をシステムと
してとらえ、特色ある学校が東京都全体の中でバランスよく適切に配置
されるよう考えていく必要がある。
ウ そのためには、今後計画的に、これまでの普通高校、専門高校、定時
制・通信制高校の改善を進めるとともに、パイロットスクールとして単
位制高校や総合学科高校など、新しいタイプの学校を設置していくこと
が必要である。
エ 各学校においては、多様な生徒の学習希望をかなえることができるよ
う、指導内容・方法の改善や単位制の趣旨を踏まえた弾力的な教育課程
の運用を図るとともに、学科・コース・類型などの設置や改善を一層推
進して特色化を図り、生徒から選ばれる学校を目指していく必要がある。
また、専門高校の活性化などを図る観点から専攻科の設置を進めてい
く必要がある。
オ 以上のほか、特色ある学校づくりをより一層進めるため、次の事項に
十分留意する必要がある。
a)基礎・基本を重視するとともに、生徒の実態に即した柔軟で弾力的
な教育課程の編成
b)教科学習のみならず、学校行事やクラブ・部活動にも特色をもつ選
択幅の広い教育課程の編成
c)単位制の活用と単位認定範囲の拡大
d)習熟度別指導やティーム・ティーチングなど、多様な指導形態の導
入
e)国際化・情報化など社会の進展に対応できるコンピュータ等の教育
機器の活用
f)人間としての在り方生き方についての理解と思索を深める教育
g)キャリア教育の充実と多様な進路希望の達成
h)ガイダンスやカウンセリングの充実など、進路指導や生徒指導の徹
底
i)中途退学の防止等のための少人数指導の拡充
j)校長の学校経営上のリーダーシップの発揮
k)全教職員の研修の充実
2)特色ある学校づくりの方策
ア 普通高校の改善
普通高校は、中学卒業者の多数が希望し学んでいる普通教育を主とす
る学校として、その役割を果しているが、高校への進学率の上昇等に伴
い、生徒の多様化が一層進んでいる。生徒一人ひとりの個性や能力を生
かし伸長する教育を進めるためには、生徒の個性、進路希望等を踏まえ
た指導内容・方法の改善工夫が必要である。
A)生徒の学習希望や能力・適性、興味・関心、進路希望等に対応した
方策
a)大学進学希望に応えうる高校づくり及び進学指導、就職指導等の
進路指導の充実
b)職業科目の設置や体験学習等を通した望ましい勤労観・職業観を
育成する職業教育の充実
B)多種多様な選択科目の設置
生徒の多様な興味・関心や進路希望に応じた多種多様な選択科目を
設置し選択幅を拡大する。
C)コース・類型の設置
生徒の進路希望等を実現する特色あるコースや類型を拡充する。
D)新しい学科の設置
普通高校等にも、都民の要望や生徒の学習希望に応えうる、福祉学
科や体育学科等を設置する。
イ 専門高校(職業に関する学科)の改善
専門高校は、我が国の産業界に有為な人材を送り出し、重要な役割を
果してきている。
現在は、必ずしも自己の進路希望にそって入学してくる生徒ばかりで
はない実態がある。今後、専門高校の活性化を図るため、科学技術の進
展、産業構造の変化などの社会の変化に、より適合した教育を展開し、
生徒から自己の進路として真に選ばれる学校づくりを進めていくことが
求められている。また、就職や進学など生徒の卒業後の進路希望が達成
できるような教育を一層進めていくことが大切である。
そのためには、専門高校の整備・充実と指導内容・方法の改善が必要
である。
A)学科改善
a)社会の変化や技術革新、都民や生徒の学習希望等に応じた学科の
設置
b)多様な生徒の実態に即した弾力的な教育課程の編成が可能となる
新たな学科の設置
B)専攻科の設置
a)時代の進展と社会的な要請に応えるため、より高度な専門知識や
技術の修得ができる専攻科の設置
なお、高等専門学校との関連にも留意する必要がある。
b)職業に有用な、より上位の資格の取得による地域産業への就職促
進と専門高校の活性化
C)専門高校における進学教育の充実
a)専門高校卒業後もさらに継続して専門性を高めていけるような大
学進学等にも対応した学科の改編
b)教育課程編成の工夫、指導内容・方法の改善・充実、進路指導の
充実
c)大学、短大、高等専門学校への進路を拡大する方策
D)地域・社会、企業との連携
a)科学技術の進展等に対応するため、専門学科・科目の枠を越えた
実践的な学習や産業現場等での体験的学習
b)社会人講師の活用や教員の企業への派遣など、地域・社会、企業
との連携・協力の推進
E)総合技術教育センターの活用
高度な専門教育が可能な総合技術教育センターを活用した、科学技
術の進展等に対応する生徒の専門教育や教員の専門性を高める研修の
実施
ウ 定時制・通信制の改善
定時制・通信制には、現在、勤労青少年だけでなく、一般社会人や全
日制高校の中途退学者など、さまざまな生徒が在学している。それらの
生徒の学習歴・学力・学習希望等は、全日制の生徒以上に多様化が進ん
でいる。
また、生徒の減少と学校及び学級の小規模化が進み、きめ細かな指導
が可能となる反面、クラブ・部活動、生徒会活動、文化祭・体育祭等の
活動が低調となるなど、集団活動を通して得られる教育効果が薄れ、学
校全体の沈滞化が懸念される状況にある。今後は、生徒の実態に即した
学校づくりを推進し、活性化を図っていくことが必要である。
A)昼間定時制独立校の必要性
現在の定時制課程には、仕事をもたない生徒や就業時間が昼間とは
限らないさまざまな生徒が在籍しており、夜間よりも昼間の時間帯の
学習の方が都合のよい生徒も多くいる。このため、昼間に授業を行う
定時制独立校の設置が必要である。
単位制の普及等により、将来的には、全日制と昼間定時制の実態や
位置づけの違いが少なくなることも考えられるが、現在、全日制と昼
間定時制には、修業年限、学級定員、実務代替、生徒の年齢幅、授業
料等に違いがあるので、昼間に定時制で学習を希望するさまざまな生
徒のために、設置を進める必要がある。
B)単位制の活用
単位制を活用し、生徒の生活実態や学習の進展にあわせた柔軟で弾
力的な学びやすい学習環境を整える必要がある。
C)多様な教育活動の展開と学級規模等
a)生徒の特性や進路希望等に応じた多様な選択科目の設置
b)多様な科目の設置や特別活動の教育効果のための一定規模の生徒
数と学級数の確保
D)修業年限の弾力化等
a)生徒の勤労形態の変化や学習希望の多様化に対応する、3年間で
卒業を可能にする教育課程編成の工夫
b)学習の目的意識の高揚と意欲を喚起する指導内容・方法の改善
E)社会人受入れの推進
生涯学習の観点から、高等学校教育を希望する社会人の受入れを推
進する。
F)通信制課程の増設
生徒が都合のよい場所や時間に、自主的に自由に学習できる都立の
通信制高校は、現在2校とも区部に設置されている。そのため、多摩
地域の生徒のスクーリングの利便、入学希望者の増加、定時制高校と
の併修の拡大等を考慮し、新たな通信制課程を多摩地域に設置する必
要がある。
エ 新しいタイプの学校の設置
東京都は、生徒の多様化や社会の変化に対応するとともに、都立高校
の活性化を図るためのパイロットスクールとして、これまで、国際高校、
単位制の新宿山吹高校、晴海総合高校(総合学科)、飛鳥高校(全日制・
定時制併置の単位制)を開設してきた。
これらの高校においては、生徒が意欲的に学んでおり、入学志望者も
多いこと及び他の高校の活性化にも資することから、今後も都立高校の
個性化・特色化の一環として、新しいタイプの高校の設置を進めていく
必要がある。
なお、設置にあたっては、生徒の通学条件、卒業後の進路、都立高校
の適正な配置などとともに受験競争に拍車をかけることのないよう留意
する必要がある。
A)総合学科高校
総合学科は普通科目から職業科目まで幅広い選択科目を用意し、キ
ャリア教育を重視することから、生徒は入学後の学校生活の中で、自
己の進路を定め、その進路希望に応じて系統的な学習を行っていくこ
とができる。晴海総合高校に続き、第2の総合学科高校が計画されて
いるが、生徒が通学できる範囲に、増設していく必要がある。
なお、開設にあたっては、ホームルームの役割やガイダンスの充実
などに留意した教育課程の編成が必要である。
B)単位制高校
a)単位制高校は、多様な科目の開設、柔軟で弾力的な履修、生徒の
自主的な学習などの特色をもち、大学進学を目指す生徒、中退した
生徒の再入学などさまざまな生徒の多様な学習希望に応えうる学校
である。
都には、飛鳥高校(全日制・定時制併置)、新宿山吹高校(定時
制・通信制併置)がそれぞれの特色を持って設置されているが、今
後、こうしたタイプの高校を地域バランスを考慮して、設置してい
く必要がある。
b)今までの教育の中で、自己の能力や適性を生かしきれていない生
徒などを対象に、既設校の条件整備をしてきめ細かい対応をすると
ともに、日々充実した高校生活が送れるような学校を、単位制の特
性を生かした新しいタイプの学校(自分にチャレンジする学校)と
して設置していく必要がある。
自分にチャレンジする学校は、生徒の元気や意欲が湧いてくるよ
うな教育、生きる力をはぐくめるような教育のほかに、人間として
の在り方生き方に関する教育なども重視する。全日制と定時制の両
方のよさを生かせるような学校として、また入学選抜方法や多様な
生徒に適する学習形態等を工夫し、指導内容・方法や評価の研究開
発も行う学校として、生徒が通学できる範囲に、設置していく必要
がある。
なお、開設にあたっては、ホームルームの役割やガイダンスの充
実などに留意した教育課程の編成が必要である。
C)科学技術高校
技術者として生涯にわたり専門性を高めていくために必要な意欲・
態度や知識・技術を身に付けさせ、技術革新に主体的に対応できる人
材を育成するため、大学等に進学し、継続して学習することを前提と
した新しいタイプの工業高校(科学技術高校)をパイロットスクール
として設置する必要がある。
また、工業高校等の卒業生が継続して学習するために、科学技術高
校に修業年限2年の専攻科を置いて、より高度な専門的知識・技術の
習得や上級資格の取得を可能とし、実践的技術者として必要な資質の
育成を図る必要がある。
D)中高一貫6年制、体育高校など検討を進めることが望ましい高校
中高一貫6年制の学校については、長所、短所があげられているが、
そのもつ意義は大きい。今後、中央教育審議会の動向も踏まえながら、
検討していく必要がある。
また、体育に興味・関心等をもつ生徒に対応するために、体育教育
に力点をおく学校が必要である。優秀な指導教員の確保を図るととも
に、敷地の広い都立高校を活用するなどして、体育高校、体育学科・
コース・系列などについて、全都的なバランスを考慮して検討する必
要がある。
国際高校については、その実績が評価され、入学希望者も多いので、
地域バランスを考慮し、増設について検討することが望ましい。
現在、芸術高校(美術科、音楽科)が設置されているが、新たな芸
術学科を設置し、さまざまな「芸術」の学習に興味・関心をもつ生徒
への対応を図ることを検討することが望ましい。
3 開かれた学校
1)開かれた学校の意義
都立高校は生涯学習の観点から、これまで公開講座、施設開放、社会人
入学など「開かれた学校」を推進してきた。
今後は、さらに、地域・社会との連携を深めることにより、学校活動の
活性化を図っていく必要がある。また、同時に、都立高校には、学ぶ側に
立った柔軟で弾力的な対応が求められており、生徒に対しても「開かれた
学校」を進めていく必要がある。
さらに、学校はこれからの時代を生きる人材を育成するという意味で時
代の変化に鋭敏な「未来に開かれた学校」であることが望まれる。
2)地域・社会に開かれた学校
都立高校は、生涯学習の場として、その果す役割がますます期待されて
いる。学校がもつ人的、物的な教育機能を開放するとともに、同時に地域・
社会がもつ人材・教育力を学校教育に活用することにより、今まで以上に
学校と地域・社会の相互交流を進め、都立高校の活性化、生徒の学習活動
の充実を図っていく必要がある。
また、授業の公開や学校における教育の現状を家庭、地域に伝えること
ともに、学校の運営等についての家庭、地域の声を十分聞き、学校と家庭、
地域の相互交流・連携を進めることが大切である。
地域・社会等との連携を深めるためには、次のような取組みが必要であ
る。
ア 中学校、大学、企業との連携
中学校、大学、企業との連携を進めるための例として、次のようなこ
とが、考えられる。
a)情報交換・意見交換
b)生徒の体験入学、現場実習
c)クラブ・部活動の交流
d)教員の交流
なお、進路指導の充実に向けて中学校との連携を深めることや中学生
が自ら進路を選択する力を高めるための条件づくりを進めることが必要
である。
イ 地域・社会の教育力の導入・活用等
a)地域・社会の人材や専門家などの社会人講師の活用、高校教員の地
域・社会での研修
b)地域施設を利用した生徒の体験学習、ボランティア活動
c)「開かれた学校」として、家庭や地域に対して積極的にはたらきか
けを行い、家庭や地域とともに生徒を育てていくという視点に立った
学校運営の推進
d)PTA、地域などの学校運営への参加の推進
ウ 学校の教育機能の地域・社会への提供
a)公開講座、施設開放の推進
b)社会人の受入れ(一部科目履修生、聴講生)
エ 海外交流等の推進
a)高校生や教員の海外派遣、研修、及び留学の推進
b)海外からの留学生や在京外国人の受入れ
3)生徒に開かれた学校
都立高校においては、生徒の多様な学習希望に対して、その声を十分聞
くとともに、柔軟で弾力的に対応することにより、学びやすい環境を整え
ることが求められている。
このため、次のような取組みが必要である。
ア 多様で弾力的な教育課程の編成
a)生徒の興味・関心や、地域の実態に応じた科目の設置
b)国際化、情報化、高齢化、地球環境、エネルギー問題など、未来を
見つめた授業の展開
c)単位制の活用
イ 学校間の連携
a)専門高校と普通高校間の単位互換
b)特色ある科目をもつ学校や、体育施設の整った学校等での単位取得
ウ 学校・学科間の移動の容易化
住所移動、志望変更などによる転学・転科を円滑化する。
a)異なる学科・コースへの転学時の取得単位の読み替え
b)都立高校間の転学
c)転学者のための特別枠の設定
エ 再入学制度
中途退学した生徒の再入学を容易にする。(学科試験の免除等)
4 学校における主体的な取組みと支援
都立高校の改革を着実に進めていくためには、東京都教育委員会と各学校
が、高校教育改革の必要性を十分認識し、緊密な信頼関係のもとに連携して、
それぞれに課せられた役割を確実に果していくことが重要である。
各学校においては、生徒の能力・適性、進路等に適した教育課程の編成や、
生徒の興味・関心が高まるような指導内容・方法の改善・工夫など学校自ら
が主体的に取組むことが不可欠である。このため、教職員の意識改革を進め
るとともに、校長のリーダーシップのもとに全教職員が一致協力して学校づ
くりを進めることができる校内態勢を整備する必要がある。
東京都教育委員会は、こうした各学校の自主的・主体的な取組みを支援す
る観点から、各種の情報提供、相談・助言を行うとともに、可能なかぎりの
条件整備を行い、改革を進める学校を支援していく必要がある。現在、「全
日制における中途退学対応のための少人数指導」や「都立高校IC(個性化・
特色化)推進事業」など学校の努力をバックアップする施策を実施し成果を
上げているが、これらの試みを、今後さらに充実・発展させていくことが大
切である。支援の内容を例示すれば、次のとおりである。
a)都立高校の今後の展望を明らかにするため、改革の総合的な計画を策定
する。
b)各学校の自主的な取組みを促進する観点からの予算、定数、施設・設備
等の改善及び特色ある教育を行う学校に対する予算の重点的な配分を行う。
c)習熟度別学習指導や少人数指導などに対する教員配置の充実を図る。
d)教員の研修体制の一層の充実を図る。
e)地域・社会に開かれた学校づくりを推進する。
f)他の学校の取組みや国、他府県の高校改革の推進状況等について、積極
的な情報提供を行う。
g)中学校の進路指導に寄与するため、都立高校の改革状況について中学校
へ情報提供を行う。
第4 教育諸条件の整備について
1 基本的な考え方
1)生徒数が減少するこれからの時期を、都立高校の量的拡大から質的充実
への転換を図る好機としてとらえ、そのために必要な教育諸条件を整備し
ていく必要がある。
2)都立高校において、学校の個性化・特色化を推進するともに、生徒の興
味・関心、適性等にきめ細かく対応するために、第3の中で提言した教育
条件の改善のほか、学級定員、教職員の配置、施設設備の整備、学校運営
予算などの教育諸条件の整備が必要である。
2 学級定員等について
1)学級定員
ア 現在、都における学級編制基準は、全日制は全学科40人、定時制は
全学科30人となっている。(ただし、小笠原高校は20人で学級編成
している。)
なお、全日制にあっては、普通科・商業科は従前の45人学級につい
て平成3年度から改善を始め、平成6年度の第1学年からすべての学校
が40人学級となった。農業科・工業科・家庭科等は従前から40人学
級であつた。
定時制は、従前の40人学級が昭和48年度の第1学年から30人学
級となっている。
イ 将来的には、学級定員を段階的に少なくしていくことが望ましいと考
えられる。当面、都立高校の個性化・特色化を進める観点から、各学校
の教育の内容や生徒の実態に応じた弾力的な学級編成について検討する
必要がある。
2)弾力的な授業の展開と多様な学習集団
生徒の興味・関心、適性等に応じた教育を進めるために、現在、少人数
指導・習熟度別学習等を実施し教員の加配を行っているが、今後、これを
充実するとともに、教科・科目の選択幅の拡大を図るなど、多様な学習集
団による弾力的な授業の展開をさらに進める必要がある。
このために、教育課程編成の弾力化、必要な教員の加配や施設設備の一
層の充実が必要である。
3 教職員について
1)教職員の配置
ア 教職員の配置については、これまで国の第5次改善計画に沿って、習
熟度別学習等に対応する教員定数を配当するなど、改善が進められてき
た。
しかし、最近の学級減及び選択科目の拡大などに伴い、ここ数年は、
各教科ごとの教員の現員数と需要数の関係が不均衡の状況にある。学級
減に伴い教科によっては教員が過員状態にあったり、逆に、不足状態が
生じたりしている。
イ 都立高校の個性化・特色化の推進と生徒の実態に即した少人数指導や
一人ひとりに対応した教育を行うために、多様な授業の形態に応じて、
教員を配置できるようにする必要がある。
新しいタイプの高校における学校のねらいを実現するために、既成の
教科にとらわれず、必要な教職員を配置する必要がある。
また、スポーツ・文化活動等で優れた実績・指導力をもつ教員を把握
し、学校の個性化・特色化に応じて教員を配置できるようにする必要が
ある。
2)長期的な展望に立った計画的な教員採用
教員の年齢構成は、ここ数年、生徒数の減少に伴う教員定数減により新
規採用数が減少していることから、30代、40代がそれぞれ教員構成の
約1/3を占めているのに比べ、20代の教員が約3%と極端に少ないア
ンバランスな状況となっている。
教員の年齢構成のアンバランスは、学校の活力の低下を招き、生徒指導
上に大きな影響を及ぼすとともに、将来の中堅・幹部教員の確保も困難と
なり、学校管理面でも支障がでることも想定される。
一方、教科によっては、新規採用が極端に抑制されている現状もある。
このような教員の年齢構成及び教科ごとの教員構成のアンバランスによ
る問題を防ぐためにも、長期的展望に立った高校教育充実等の視点を踏ま
え、生徒数の増減の見通しのもとに、社会人講師の任用や年齢構成等を配
慮して、教員を計画的に採用していくことが必要である。
3)教員採用方法の改善
ア 個性重視の教育の推進など、学校教育の質的変化に対応するため、知
識の量に偏ることなく、知・徳・体のバランスのとれた人材や一芸に秀
でた人材など個性豊かで多様な人材の確保に努める必要がある。
イ 現行の採用選考においては、第1次選考で筆記試験を、第2次選考で
論文及び面接を、また一部の教科についてはさらに実技試験を実施して
いる。面接については、個人面接に加え、集団討論や模擬授業を実施し
たり、面接委員に教員系のほか行政系職員を加えるなど、一人の受験者
に対して多様な視点から観察を行い、教員としてふさわしい人物を的確
に評価するよう努めている。
ウ 今後、教員の採用時に、筆記試験の成績ばかりでなく、子どもに対す
る愛情や教育に対する熱意、社会的常識や経験、さらには実践的指導力
などを的確に見極めることができるよう、その比重をさらに高めていく
必要がある。
4)社会人講師の任用
ア 社会人講師については、広く一般社会から、教育に熱意をもち、学校
教育に有用な知識、技能、経験等を有している人材を教育の場へ招き、
教育内容の多様化や専門化に対応するとともに、特色ある学校づくりの
推進を図るために制度化されている。
専門教育を主とする学科やコースを設置する高等学校などに、平成7
年度では26校87人が任用され、特に専門性が要求される科目を担当
している。
イ 今後、都立高校の個性化・特色化に対応するとともに、異なる分野の
経験をもつ者の交流による触発が期待されるので、普通科など未だ実施
していない学校への導入など、社会人講師制度の一層の拡充が望まれる。
ウ また、大学教員や民間人の知識や経験に直接触れることは、生徒にと
り大きな教育効果をもたらすものであり、従来の教科、免許などの枠に
とらわれない講座など担当分野の一層の拡大について、規制緩和の動向
等を踏まえながら検討する必要がある。
5)教員の資質・能力の向上と研修のあり方
現在、各方面から「教育は人なり」と、教員の資質・能力の向上が求め
られている。
都立高校が都民から信頼され、充実・発展するためには、教員の意識改
革と社会の変化に対応した教員の資質・能力の向上が急務である。
教員は、複雑で絶えず変化し、しかも予測困難な時代を見据えながら、
教科や特別活動等に関するより実践的な指導力を身に付けることが求めら
れる。
さまざまな教育課題を解決し、生徒・保護者の願いに十分応えるために
は、教員ー人ひとりが日頃から自主的な研修に努めるとともに、教育委員
会が広い視野から、計画的で系統的な研修体制を整備し、実施する必要が
ある。
このため、教員の意識改革と資質・能力の向上にあたっては、研修の条
件整備とともに、次のような充実策が必要である。
ア 教員及び学校の主体的研修の一層の充実
(例) 教員の研修意識の向上、校内研修の充実など
イ 教育委員会の現状の研修の一層の充実
(例) 教育課題に対応した研修、生徒理解に関する研修、
教科等の指導内容・方法の研修、初任者研修の充実など
ウ 教育委員会の新たな研修の推進
(例) 小・中学校及び大学との連携、民間企業等との連携、
現職研修の体系化など
4 施設設備について
教育内容や方法の多様化・弾力化に対応するため、生徒減少期を好機とし
て、これまで国の基準や全国平均に比べて不足していた都立高校の施設設備
の改善向上を図るとともに、これからの望ましい学校施設のあり方を検討し、
その実現に努めていく必要がある。
1)校 地
ア 都立高校の校地及び運動場の面積は、国基準に比べ著しく狭隘で、全
国平均の約半分程度となっている。校地面積が15,000平方m以下
の学校が37校、運動場面積が5,000平方m以下の学校が31校あ
る。
また、校地狭隘のため、日常的な教育活動が十分に行えない学校や将
来の改築に困難な問題が生じることが予想される学校もある。
さらに、都市計画道路が校地を通ることが予定されている学校も40
校あり道路整備の進捗状況に応じて、校地割愛、分断、移転等の対応を
求められている。
こうした校地狭隘校については、これまでの校地拡張の努力にもかか
わらず、大都市東京の土地事情により狭隘のまま今日に至っているもの
である。今後も、校地の拡張が困難な状況は続くと考えられ、施設面で
の最大の課題である。
イ 校地狭隘校や改築困難校について、適正配置を考える中で、より良い
場所への移転や校地の広い学校との統合等も視野に入れて、今後のあり
方を検討する必要がある。
2)校 舎
ア 校舎面積は、国基準を若干上回るものの、全国平均を大きく下回って
いる。校舎の現況は、建築後50年以上経過した学校が4校、40年以
上が2校あり、30年以上は64校と、校舎の老朽化が進行していると
ともに、新しい教育内容に対応できなくなっている施設もある。耐震診
断の結果、改築・補強を要する学校が50校あり、耐震性の確保は重要
な課題となっている。
また、今後、相当数の余裕教室の発生が見込まれ、この有効な活用方
法を検討する必要がある。
イ 耐震性の確保、良好な教育環境の整備のために計画的に改築・補強を
進める必要がある。
また、多様な教育活動や生徒の学校生活上のニーズに対応するため、
余裕教室の活用計画を策定し、有効な活用を図っていく必要がある。
3)これからの望ましい学校施設
ア 教育内容・方法の多様化に対応できる施設の整備
従来の発想を改め、多様な授業展開が可能となるような教室の整備を
図る必要がある。
(例) 小教室や分割使用可能な教室、多目的スペースなど
イ 学びの場であると同時に、ゆとりやうるおいのある生活の場としての
環境の整備従来の学校施設は、快適でゆとりの感じられる空間の設置と
いう配慮が不足していた。これからの学校施設は生徒の人間形成の場に
ふさわしいものにする必要がある。また、生活の場として、安全や衛生
の面からの整備も必要である。
(例) ロビー、ラウンジ、ランチルーム、樹木や緑の空間など
ウ これからのマルチメディアに対応できる施設の整備
(例) LL教室・視聴覚教室の充実、校内LAN・インターネットへ
の対応など
エ 地域の学習拠点として市民も使いやすく、学校側も管理しやすい施設
の整備
(例) 広い体育館、文化ホール、開放ゾーンと非開放ゾーンの区画化
など
オ 災害に強く、災害時に一時避難所として機能する施設の整備
(例) 改築・補強の計画的推進、応急給水槽、備蓄倉庫など
5 学校運営予算
1)都立高校の管理運営に関する平成8年度の予算総額は、1,773億円
となっている。
内訳は、人件費1,340億円、建物維持管理費107億円、学校運営
費326億円となっている。
人件費、建物維持管理費を除いた学校運営費を1校あたりにすると全日制
149,767千円、定時制8,538千円である。
なお、各高校が個性化・特色化を図り、多様な教育活動を展開して都民
にとって魅力ある学校にする契機とするため「都立学校IC(個性化・特
色化)推進事業」を平成7年度から3か年の時限措置として毎年度1億円
の予算で実施している。
2)学校運営費については、多様化する教育活動や課題に対応するため、よ
り一層の充実を図るとともに、学校において主体的に個性化・特色化を推
進できるように、学校運営費の重点的な予算配分などについて検討してい
く必要がある。
例えば、特色ある学校づくりに取り組んでいる学校に対する支援、進学
や就職に向けた進路指導、情報化の進展への対応等について、予算面で充
実・発展させていくことが必要である。
改善・充実にあたっては、今後とも、限られた予算を有効に活用し、創
意工夫をこらしていくことが求められている。
第5 都立高校の規模及び配置の適正化について
1 基本的な考え方
1)規模の考え方
都立高校の規模を考える場合には、多様な選択科目の開設や多様な学習
形態の導入を可能にしたり、生徒が集団の中で切磋琢磨しながら学校行事、
生徒会活動、部活動等を活発に行うために、学級数や生徒数について、一
定の規模を考える必要がある。
2)配置の考え方
都立高校の適正な配置を考える場合には、魅力的で特色ある都立高校が
通学できる範囲に設置されていることを基本に考える必要がある。
3)生徒減少期における規模及び配置の考え方
これからの生徒減少期にあたっては、上記の規模の考え方を踏まえなが
ら、学級減による対応や学級定員の減などの検討も必要であるが、現在、
既に大規模校が解消され、小規模化が進んでいること及び今後も生徒減少
期が長期的に続く状況を考えると、各学校の規模を確保するため、統合も
含め適正な配置を検討する必要がある。
その際、学校の特色、多様な特性をもつ生徒のニーズにあった教育内容
の充実、学校の活性化など教育的視点から検討するとともに地域の実情等
にも配慮することが望まれる。
2 学級減の将来予測
1)都における公立中学校卒業者の数は、平成8年に比べて、平成22年に
は約2万1千人(約23%)減少すると予想される。
これは、平成9年度の就学計画による数値(高校進学率96%及び公私
比率59.3対40.7)と40人学級で単純計算すると、都立高校の生
徒数の減少は270学級分にあたる。
2)ただし、学級減の数については、今後の人口動態による社会的増減、高
校進学率の動向、公私分担の比率、学級編制基準の改善等により、変化す
ることがありうる。
a)高校進学率について
ア 平成8年度の入学者選抜における公立中学校3年生の全日制高校へ
の進学希望率は95.7%であり、これに対し、高校就学計画の計画
進学率は95.5%、実績進学率は92.0%であった。
平成9年度は、進学希望率は95.6%で、計画進学率は96.0
%に引き上げられている。
イ 今後、高校進学率については、生徒減少期であることを考慮し、生
徒をできるだけ受け入れていく方向で検討することが望ましい。
そのような中で都立高校にあっては、多様な生徒に充実した教育を
行うため、多様な特色ある学校づくりを進める必要がある。
b)公私分担の比率について
ア 都においては、これまでの生徒の急増期に公私が協力して高校への
受入れを図ってきた経過を考慮し、今後とも、公私の協力によって受
入れを図ることが必要である。
イ 今後の公私比率については、生徒数の減少の推移、生徒の志望動向
等を踏まえ、公私が協力して適切な受入れを図っていくことを、公私
の場で検討していくことが望ましい。
ウ 高校就学計画の策定にあたっては、公私の協力のもとに、実効性の
ある計画とその確実な実施が求められる。
3 全日制課程の規模及び配置の適正化
1)学校の規模及び配置の現状
ア 都立高校(全日制)の規模の現状(平成8年5月現在)
+--+--+
|表|表| 以下に、左のような表が1つあります。
|A|B| 表は、一行の文字数が規定を超えるため、
+--+--+ 表A、表Bの順に2分割して掲載してあります。
表A
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−
| 学級数|9未満|9〜 |12〜|15〜|18〜|21〜|24
| | | 11| 14| 17| 20| 23| 以上
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−
|上記の |360 人|360 〜|480 〜|600 〜|720 〜|840 〜|960 人
|生徒定員| 未満| 440| 560| 680| 800| 920| 以上
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−
| 学校数| 12| 1| 15| 37| 62| 44| 40
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−
表B
+−−−+
|合 計|
| |
+−−−+
| |
| |
+−−−+
|211|
+−−−+
イ 都立高校(全日制)の配置の現状(平成8年5月現在)
+--+--+
|表|表| 以下に、左のような表が1つあります。
|A|B| 表は、一行の文字数が規定を超えるため、
+--+--+ 表A、表Bの順に2分割して掲載してあります。
表A
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
| 学区|1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|12|13|14
|学科 | | | | | | | | | | | | | |
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
|普通科 |15|14|16|14|13|16|17|16|15|12| 4| 1| 1| 1
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
|専門学科| 4| 9| 7| 6| 7|11| 3| 3| 2| 3| | | |
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
|総合学科| | | | | 1| | | | | | | | |
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
|合 計|19|23|23|20|21|27|20|19|17|15| 4| 1| 1| 1
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−
表B
+−−+
|合計|
| |
+−−+
| 155|
+−−+
| 55|
+−−+
| 1|
+−−+
| 211|
+−−+
(注)専門学科、総合学科及びコース制の学区は、都内全域であるが、便
宜的に普通科の学区で表示した。普通科と専門学科の併設の場合は普
通科で計上。分校1校を含む。
2)全日制課程の望ましい規模
ア 学校の規模については、一人ひとりに対応した教育を行うために、多
様な選択を可能とする規模、活力ある学校行事や部活動等が可能な規模、
教職員の配置が確保される規模、必要な施設を確保できる規模、などの
観点及び学校の規模の現状、今後の生徒数の減少等から考える必要があ
る。
イ 適正な学校規模については、学校の実態によって一律に決めることは
難しいが、上記の考え方や学校運営の経験的見地から、全日制課程の望
ましい規模は、現在の学級定員を前提にすれば、18学級を標準とし、
最大を24学級規模程度、最小を12学級規模程度とすることが望まし
い。
なお、島しょ地域等の高校については、地域の実情を考慮する必要が
ある。
3)全日制課程の配置
生徒減少期における都立高校の適正配置については、前述のように、生
徒の多様化や社会の変化に対応した教育内容の改善を図りながら、生徒の
減少に合わせて各学校の規模の確保を図るとともに地域のバランスを考慮
して進めていく必要がある。
ア 基本的考え方
1校あたりの望ましい規模を確保するとともに、次の学科ごとに進学
の機会の平等を図る観点から学校を配置する。その際、学科を超えた都
立高校全体としての地域配置も考慮する必要がある。
また、従来の普通科と専門学科(職業に関する学科)の枠組みを超え
た新しい視点からの対応も必要である。
a)普通科
b)専門学科(職業学科)
c)総合学科及びその他特色ある学校、学科
イ 対応の方向
上記の基本的考え方に基づき、次のような方向で対応する。
a)全日制普通科を学区ごとに適正に配置する。
b)専門高校を各地域からの通学の便や各地域の特性を考慮して、適正
に配置する。
c)総合学科高校を、おおむね学区を単位として設置する。
d)単位制、科学技術高校などの新しいタイプの高校を、生徒が通学で
きる範囲に地域のバランスを考慮して設置する。
e)上記の学校の設置にあたっては、普通科と専門学科等の発展的統合
や既設校の改編を含め工夫をこらして推進する。
ウ 良好な教育環境の確保を図る観点からの学校の配置について
校地など教育条件の悪い学校で現地改築が困難な場合などについては、
良好な教育環境の確保を図る観点から、学校の移転、統合等を検討する。
エ なお、適正配置の検討の中で、生徒数の減少に応じて、学級定員を減
らすことによって学級数を維持できるので、学校の生徒数が少なくなっ
ても、統合などによる再配置は考えなくてもよいのではないかとの意見
もあった。
4 定時制課程、通信制課程の規模及び配置の適正化
1)定時制課程
ア 定時制課程の学級数及び生徒数(平成8年5月現在、単位制を除く。)
+−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−−+
|学級数| 生徒定員 | 在籍生徒数|左の充足率|1学級平均生徒数|
+−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−−+
|748|22,440|13,260|59.1%| 17.7人|
+−−−+−−−−−−+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−−+
イ 定時制課程の規模の現状(平成8年5月現在、単位制を除く。)
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+
| 学級数|4未満|4〜 |8〜 |12〜|16〜|20 |合 計|
| | | 7| 11| 15| 19| | |
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+
|上記の |120 人|120 〜|240 〜|360 〜|480 〜|600 人| |
|生徒定員| 未満| 210| 330| 450| 570| | |
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+
| 学校数| 4| 41| 40| 14| 2| 1|102|
+−−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+−−−+
ウ 定時制課程の配置の現状(平成8年5月現在)
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−−+
| 学区|1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|12|13|14|合計|
|学科 | | | | | | | | | | | | | | | |
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−−+
|普通科 |11| 9| 6| 8| 5| 9| 3| 6| 2| 2| 1| | 1| | 63|
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−−+
|専門学科| 4| 5| 4| 6| 5| 8| 2| 2| 1| 2| | | | | 39|
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−−+
|単位制 | | 1| | 1| | | | | | | | | | | 2|
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−−+
|合 計|15|15|10|15|10|17| 5| 8| 3| 4| 1| | 1| | 104|
+−−−−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−−+
(注)定時制課程の学区は、都内全域であるが、便宜的に普通科の学区で
表示した。普・専併設の場合は主たる学科で計上。分校2校(所在地
の学区に計上)を含む。
エ 現在、定時制課程においては、1校あたり130人、単学級校約30
%と小規模化が進んでいる。そのため、さまざまな生徒に対してきめ細
かな指導が可能となる側面はあるが、選択科目の設定や特別活動などに
おいて、生徒の多様なニーズに十分対応することが困難となり、学校全
体の沈滞化が懸念される状況にある。
今後の生徒減少期にあっては、生徒数の減少が一層進むことは避けら
れないと考えられる。
また、規模や配置の検討にあたっては、現在の定時制には、昼間に学
ぶことを希望する者も多いことや全日制との併置による課題について考
慮する必要がある。
オ 対応の方向
A)単学級の場合には課題が多く、多様な生徒の実態に応じた多様な選
択科目の設置や特別活動の教育効果のために、一定の規模が必要であ
り、1学年複数の学級規模を確保することが望ましい。
そのため、入学者の動向や在籍生徒数などを考慮して、適正な配置
を進める必要がある。
B)定時制が勤労青少年をはじめ、さまざまな生徒に対して就学機会を
提供していることから、規模、配置の検討にあたっては、生徒が少人
数集団の中で成長していくよい面や学校の特色、学校間の距離、交通
状況などに配慮する必要がある。
c)前述した昼間に授業を行う定時制独立校(昼夜開講)を、全日制と
の関連も考慮しながら、交通の便や地域のバランスを考えて通学可能
な範囲に設置する。
その際、近隣の定時制に与える影響を考慮して再編成なども検討す
る必要がある。
d)なお、現在行われている定時制教育の良さを大事にして、検討すべ
きではないかとの意見もあった。
2)通信制課程
ア 通信制課程の規模及び配置の現状(平成8年5月現在)
+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−+−−−−−−−−+
| 学校名 | 所在地 | 生徒定員 | 在籍生徒数 |
+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−+−−−−−−−−+
| 上野高校 | 台東区 |1,150人 | 1,369人 |
+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−+−−−−−−−−+
|新宿山吹高校| 新宿区 | 360人 | 384人 |
+−−−−−−+−−−−−+−−−−−−−+−−−−−−−−+
イ 対応の方向
生徒が自主的に自由に学習できる通信制課程は、その意義が積極的に
評価されてきている。都立高校の通信制課程への応募者が多い現状から、
現在、設置されていない多摩地域に通信制課程を増設する必要がある。
5 対応にあたっての留意点
1)各学校が個性化・特色化を推進し、特色ある学校づくりに向けて、主体
的に取り組む中で、教育条件の整備や適正規模、適正配置についても、現
状維持の観念にとらわれることなく、主体的、積極的に検討されることが
望ましい。
また、各学校と東京都教育委員会が一体となって、適正規模、適正配置
に対応することが期待される。
2)学校は、いわば「地域の財産」でもあり、東京都においては学校用地の
再確保が困難であるので、生徒数の動向とともに地域の意見・要望等も配
慮して、教育条件の整備や規模・配置の適正化を進める必要がある。
3)統合等を行った場合の学校施設等については、その立地条件や施設の現
況等を勘案して、生涯学習機関への転換など地域の振興に役立つように、
その活用について検討する必要がある。
第6 関連する諸課題への対応について
1 入学者選抜について
1)都立高校の入学者選抜については、「都立高等学校入学者選抜制度検討
委員会」の報告を受け、平成6年から現行の単独選抜制度に改正し、平成
7年から推薦入学制度を全学科に導入し、現在、その定着が図られている
ところである。
2)今後とも、受験競争の緩和などに留意し、継続的にその在り方を考えて
いくことが必要である。当面、それぞれの学校、特に新しいタイプの学校
等において、特色化を推進できるような選抜方法の改善や、推薦入学制度
の改善などについて検討する必要がある。
2 学区について
現在、都立高校の全日制・普通科の通学区域として、区部に6の学区、多
摩地域に4の学区、島しょ地域に4の学区、合計14の学区が設けられてい
る。また、全日制の専門学科、総合学科等及び定時制、通信制の通学区域は、
都内全域となっている。
今後の人口動態や交通機関等を考慮しながら、通学区域の在り方の検討や
隣接学区からの受験の機会の拡大などが望まれる。
第7 改革推進のために
都立高校は、目前に迫った21世紀を担う子どもたちの教育の場として、
また、都民の期待に応え、生徒にとって魅力ある都立高校として、教育活
動の充実や教育環境の整備などの課題に総合的に対応しながら、都立高校
の改革を推進していかなければならない。
このため、制度面の改革に留まらず、物心両面から改革を推進する必要
がある。
特に、本懇談会の提言を実現させるためには、すべての教育関係者が、
これまでの高校教育の在り方について認識を新たにし、意識の改革を図
っていくことが大切である。
また、この改革は学校の内だけに留まるものではなく、社会全体の高校
教育に対する意識の変革なくしては高校改革の実を上げることは困難であ
ると考える。関係各方面の理解と協力を切に願うものである。
1 学校における主体的取組みと教職員の意識改革
改革の実施にあたっては、何よりも各学校が主体的に取組み、新たに生ま
れ変わることが必要である。そのためには、教職員一人ひとりの意識改革が
不可欠であり、これまでの枠にとらわれない伸びやかな発想が求められる。
改革に向けて、校長のリーダーシップのもとに、教職員が積極的な参加意
識をもって、一体となった取組みを行い、より魅力ある学校づくりに努める
ことが期待される。
2 保護者・都民の理解と協力
1)改革を進めるにあたっては、学校の取組みだけでは困難で、保護者・都
民の一層の理解と協力が必要である。
教育関係者だけでなく、都民一人ひとりが、子どもの教育に関心を寄せ、
子どもの健全な成長・育成などについて考える必要があるといえる。
その際、子どもを「偏差値」などの単一の尺度で見る見方を排し、子ど
もの進路選択にあたっては、その個性、適性の理解のうえに希望を生かす
ことが望まれる。
また、生涯学習社会の中で、一旦、就職した後に学習する機会の増大な
ど、多様な選択が可能となりつつある社会状況を理解して進路選択にあた
ることも望まれる。
2)とりわけ、中学校への広報活動を一層充実させ、生徒、保護者の十分な
理解と中学校における適切な進路指導を進める必要がある。
3 大学、企業など社会への要望
1)現在の高校のあり方は、大学入学試験に対する社会一般の考え方により、
かなり規制されている面がある。高校だけで「偏差値」重視の教育からの
脱却を進めることは極めて難しい。
専門高校からの推薦入学の改善など、大学の入試制度を改善することが
求められる。大学入試の改善については、大学の適切な取組みに待つとこ
ろが大きい。特に都立の大学、短期大学などが自ら、その姿勢を示すこと
が望まれる。
2)学歴にこだわらず、意欲と能力のある者が適切に評価されるような採用
や昇進の機会、あるいは生涯学習社会の中で就職後の学習についてもその
成果を十分評価するなど、企業や官公庁等の積極的な姿勢に期待すること
も大きい。
4 財政上の措置
1)本懇談会の提言内容を具体化し、改革を進めるためには、教職員配置、
施設設備など教育諸条件のより一層の改善・充実を図っていくことが必要
であり、そのための財政的な裏付けが不可欠である。
改革の実現に向けて、学校用地の確保や改築の費用など、必要な財政上
の措置が、長期的な視野に立って、安定的かつ着実に措置されることが望
まれる。
2)都立高校の経費は、ほとんどが税金で賄われていることから、その改善・
充実にあたっても、限られた財源を有効に活用し、創意工夫をこらしてい
くことが求められているところである。
おわりに
1 現在、時代の変化や青少年の意識の変化等を背景として、教育制度全体に
わたる見直しが求められ、明治、戦後の改革に続く「第3の教育改革」の時
と言われている。
国においては、中央教育審議会から、高等学校教育の改革について、既に
答申されており、現在も教育改革の主要課題の一つとして具体化が検討され
ているところである。
このような中で、各道府県においても、高校教育の改革が大きな課題とな
っている。
本懇談会においては、東京都教育委員会から諮問を受け、東京都の特性や
実態を踏まえて、都立高校の在り方や改革をどう進めるべきかを検討し、こ
れからの都立高校の在り方をまとめて、答申を行ったものである。
2 東京都教育委員会には、本懇談会の答申を踏まえて、関係各方面の理解と
協力を得ながら、改革実現のための具体的な計画を策定し、速やかに施策を
推進することを望む。
高校教育の改革を推進していくためには、改革のための施策の方針や趣旨
について保護者や都民の理解と協力を求めることが大切である。
また、東京都教育委員会は、さまざまな形で保護者や都民の声を聞く機会
をもつとともに、改革の趣旨を十分に理解してもらうよう努める必要がある。
都民に対して都立高校の真の姿を知ってもらうPR活動をさらに充実させ
ることも必要である。
3 東京都の場合は、都立高校と私立高校が相半ばしていることなどから、都
民の都立高校に対する期待や要望のなかには、私立高校との関係におけるも
のもある。
都立高校と私立高校の連携を深めながら、共にその特色を生かすとともに、
都立高校の独自の良さも発揮して、都民にとって魅力ある高校を創造してい
くことが望まれる。
4 高校教育の改革は、高校の中だけで完結するものでなく、学校教育のトー
タルなシステムとして、大学教育の在り方や小・中学校教育の在り方との関
連があり、さらに、学歴社会からの転換など、社会全体の理解と協力を求め
ていくことも必要である。
こうした観点から、東京都が、国や社会に広く働きかけていく姿勢が必要
である。
5 これからの教育改革は、学ぶ側の立場に立って、改革を進めることが重要
であり、次代を担う子ども達を育成する高校教育を一層充実させることが必
要である。
本答申を機に、関係者は勿論のこと広く都民の間に、高校教育の改革の論
議が一層深まることを期待する。
Copyright© 執筆者,大阪教育法研究会